● 揺らぐ色をじぃ、と見詰めるたびに息をのむ。 一面を埋め尽くす蒼いキャンパスは何度だって訪れたいと思うものだった。 落とされる影にも胸が躍るのだから。 「――魚類がみたいです!」 一言。端的に目的を告げた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)であった。 正に『\突然の魚類/』なのであるのだが。 キラキラと輝く瞳を向ける世恋(24) ←実年齢が信じられない。 「……えーと、ぎょ、魚類?」 「ええ、魚類。魚。あ、別に甲殻類もいいわ!」 思わず聞き返してしまうのは『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が元から少しばかり抜けている少年であるのはさて置いても、仕方がない事だろう。 手に取った広告を見詰めながらも蒐がええと、と周辺を見つめる。 「水族館って好きか? 去年、新しくなったばかりのトコらしーんだけどさ。 ほら、あの、世恋が行きたい行きたいと暴れてる事だから遊びに行こうかと思って、さ」 良ければどうかと何処か懇願する様な眼差しなのは一人で世恋の相手は厳しいとでも行った所だろうか。 何にせよ、蒐も楽しみで無いわけではない。魚を見たいし、何か、タカアシガニ凄い歴戦の勇者みたいだし。触れ合いスペースで撫でまわす事だってしてみたいのだ。 けれど、此処で素直になれないのが高校生男子なのであった。 「し、仕方ねーから俺も世恋と行くんだけど、お前らも暇ならこいよ。 ほら、あれだよ! 遊びに行くにもぼんやりするにもデートにも向いてると思うぞ。……暇なら皆と遊べるんじゃないかな、って思うし」 あーちゃん、遊びたいのね。と背後から聞こえる声に蒐が視線を逸らす。 折角の休日なのだから、どこかに出かけるのも良いだろう。 のんびりしよう、と笑いかけた蒐が世恋に「お出かけの用意しなきゃ」と声を掛けられ、慌てて席を立つ。 「あ、んじゃ、気が向いたら。どうぞ!」 机の上に残されたのは水族館のチケットであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月17日(金)22:45 |
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● 蒼を反射し魚たちが影を落とす。ジンベイザメが落とす大きな影に雷音は瞬いて、柔らかく目を細める。 その背後、唇が緩む虎鐡は幸せに浸っていた。大切な愛娘と『手を繋いで』歩き回れるだなんて何て幸せであろうか。暴走するなよ、と釘を刺した雷音に頷いて、想い出を残す為の写真をとろうとする時に虎鐡が任せろと胸を張った。――が、その被写体は愛娘。 「! 虎鐡、完全にボクが被写体になってるのだ! 違う! 海洋生物をとるのだ!」 ぷんすこ。気を抜けば雷音アルバムが増えてしまう。けれど、麗しい愛娘にシャッターを切ってしまうのは仕方がないことだ。きちんと取った大きなジンベイザメはこの日の想い出となるだろう。 「虎鐡、イヌザメとエイを触りに行こう!」 「ら、雷音! 危ないでござるよ……拙者、雷音が噛まれるかと思うと、もう……もう……!」 心臓が張り裂けそうだと慌てる虎鐡にイヌザメは大人しいぞ?と首を傾げながら撫でた。 「ふむ、これがサメ肌と言う奴か」 鮫を触っている愛娘も可愛い。思わず「ござふぅ」と溜め息を漏らす虎鐡の気分は言わずもがな。 「うむ、虎鐡。お土産を買いに行こう。ボクはジンベイザメのぬいぐるみが欲しいぞ!」 早くと手を引く娘の姿に心のシャッターを一つ、落とす。 「水族館ツアーですぅ! お魚美味しそうですねぇ。雷慈慟様はお魚は詳しくない?」 普段から海に接する機会が少ない彼が詳しくないとロッテに首を振ればやる気を漲らせたように大きな瞳で「わたしが説明するのですぅ!」と微笑んだ。 「ロッテ嬢は海産に明るいんだな。では、色々とご教授願うとしよう」 「任せろですぅ! 右手にございますのがハンマーヘッドさんですぅ! トンカチの代わりになるのです! だからその名の通りハンマーヘッド!」 水中でもハンマーを用いるのかと興味深そうな彼にロッテは胸を張った。タカアシガニの場所で「タカアシナガカニ」と悩ましげに告げるロッテになるほど、と頷いた。 蟹はあまり食べないという雷慈慟に今度食べに行こう、とロッテがぴょんと跳ねあがる。美味しいのを見分けるのは得意だと蟹の種類を語る彼女の眼に止まるのはぼんやりとしたマンボウだった。 「マンボウ! 寄生虫だらけで海面に身体を叩きつけて死ぬのです。瞼もあって気持ち悪い生物ですぅ……」 「どうやって生存するんだ。脆すぎる……」 のんびりと泳ぐマンボウにロッテは見てると楽しいですねぇ、と知っている事を語りながら告げる。 はしゃぐ彼女の言葉を聞きながら、ふと、水族館が楽しめる場所だと雷慈慟は再確認。 「水族館とは意外と落ち着くものだな。ロッテ嬢は色々な事を知っているのだな」 「わたし賢い! もっと褒めてもいいのですぅ!」 大きな掌をぎゅと握りしめ、次も説明するですとロッテが手を引いた。もう少しこの雰囲気に酔いしれて。 水槽にペタリと張り付く世恋へと海依音は歩みより小さく笑う。 「ご機嫌ですね。お魚、好きなんですか?」 「とても好きなのっ。海依音さんは?」 首を傾げた世恋に海依音は唇へと指を当て悩む様な仕草を作る。魚が見たいというよりは寧ろ他の理由の方が強い気がした。 「ワタシは魚と言うよりは海の色が好きなんですよね。蒼くて綺麗で」 赤色が嫌いだと。赤に身を包んだ海依音が言うものだから世恋が瞬いた。 ぽこり、と水泡が音を立てる様子に、海色はとても素敵だものね、と頷き視線は魚へと向けられる。 「もしかするとワタシの両親は海が好きだったのかもしれませんね。その想いを託してくれたのかも」 小さく、音にせず。唇がこんな時に気付くだなんてと囁いた事を世恋は見ない振りをした。 「海の色は空の色を映したものというお話しもあります。決して届く事の無い海と空、切ないですね」 「海と空は何時も見つめ合ってるのに、届かない。素敵な片想いね」 微笑む世恋に緩く笑みを浮かべた後、海依音は顔をあげる。その目は歩き往く男の背を見詰めて居た。 「今の人、カネもってそう。あー、結婚できないかなあ金持ちと」 ん、と伸びをして海依音は一人、好きな『色』に染まる世界を歩いていった。 「あれ? 雰囲気変わったかな?」 デートと意気込み、おめかしをした旭を見るなり髪の色が違うのか、とロアンは瞬いた。 「えへへ、デートだから」 「……君と居ると、いつも新鮮な驚きがある」 夏らしい白いワンピース。にこりと微笑む様に思わず胸が高鳴った。ペンギンに触ろうよと愛しい彼女が言うものだから高鳴る胸を抑えながら二人はペンギンのコーナーへと向かった。 「ふわ……! みて、てちてちしてる! か、かわわ……!」 「てちてち……! がんばって、こっちこっち!」 てちてち。ゆっくりと歩みよるペンギンが旭の腕の中にゴールイン。可愛いと旭の瞳が輝いた。 「僕も、もふもふ結構好きだよ?」 「ロアンさん、ぺんぎんさんはこっちだよう? これわたしなのー」 楽しそうにペンギンに触れるものだから、一寸した嫉妬に旭が可笑しそうにころころ笑う。長い髪をもふもふと触る彼に思いついたように手を打ち鳴らす。 「ロアンさん、写メとってー? ぺんぎんさんと一緒! あ、ロアンさんも入るのー」 「え、僕もっ?」 ねえ、笑って、と微笑んで、小さな画面に詰めた二人と一匹。掲げた携帯電話のボタンを押した。 「いちたすいちはー?」「に、にー……し、しまった。少し変な顔になってたかも」 慌てたロアンに小さく笑い、こっそりと携帯電話の待ち受けにする。ペンギンとロアン。『さいきょう』の取り合わせに微笑み、後で頂戴ねと笑うロアンに頷き返す。 その背後、ぎゅ、と雪佳にしがみつくひよりが大きな瞳でじっと彼を見つめていた。 「あるぱかかぴばらぺんぎんー! うさぎもいるの? 桃村さん、みてみてかわいいの! ね?」 「ああ、とても可愛いな。カピバラなど初めてみた。……触れ合うのはその、人目もあって……」 照れくさそうに視線を逸らす雪佳に「えっ」とひよりがしがみつく。「やだやだ」と駄々っ子を発動させしがみつくひよりに仕方がないと頬を掻く。 「わ、解った。……よ、よし。お前は何処がいいんだ? いっぱいマッサージしてやるぞ」 「かわいいね。もー、もっともふもふなの」 動物会話を使用して、動物のポイントを聞きだしてはその場所を丁寧にマッサージ。気持ちよさそうに鳴く動物にそうかと微笑んだ。けれど、やはり照れがあるのか何処かぎこちないその手に「もっと」と涙目でせがむひよりは退路を塞ぐ振りをして援護射撃。可愛いものは共有したい気持ちでいっぱいだ。 もふもふと絆を深める様子に微笑むひよりはおねだりを聞いて貰って上機嫌。けれど、内心ではもふもふを嬉しそうに笑って堪能する姿にかわいいなあと心が揺らぐ。 くい、と雪佳の袖を引けば、雪佳が我に返った様に「すまない」と慌てた様に見上げた。 「何だか俺らばかり楽しんでて……ひよりも、ほら。この子らと一緒に遊ぼう。撫でられたがってるぞ」 振り向く彼の耳元で「帰ったらわたしも撫でてね?」と小さなジェラシーを囁けばそうだなと微笑まれる。 小さく笑って頷いた彼に「一緒にもふもふするの」と意気込んで、ひよりの手はカピバラを撫でた。 ・ω・<可愛いのう 共に歩みながら義弘は水族館にも触れ合いコーナーがあるのだと驚きを隠せずに居た。 「ペンギンやカピバラは兎も角、アルパカまで居るしな……」 「そうね。でも、思う存分モフモフしましょう?」 やる気を漲らせる祥子はコーナーの動物たちに夢中だ。 「アルパカってほんとにもふもふね♪ ペンギンもかわいいけど……うーん。 あ、ウサギ! ウサギ可愛いわっ! なんかモグモグしてる、それにふわふわ……」 きらきらと瞳を輝かせ兎に寄っていく祥子が「ねえ、ひろさん」と振り返る。 常なら背後に立っている筈の義弘の姿はそこにない。首を傾げれば、カピバラの前でしゃがみ込み嬉しそうに語りかけている姿が其処にはある。手には何処からか貰って来たキャベツ。 「キャベツやろう、キャベツ」 かわいいなあ、と差し出すその様子に、デレだ、ときゅんとする祥子は近付きながら笑いかける。 「……何かひろさんもかわいい……」 「……に、にやけてたか? 俺」 は、と気付き視線を逸らす義弘に祥子は小さく笑う。帰ったら思う存分義弘をもふもふしよう。 「ほら、お食べ?」 差し出したキャベツをカピバラは咥え鼻をひくつかせた。 「去年も一緒に来たよね。 あの時お土産交換したしたいるかちゃんの大きなぬいぐるみ、何時も一緒に寝てるよぉ♪ ありがとー!」 「今年もまこにゃんと来ることができてうれしいわ」 にこりと微笑む杏の掌をぎゅ、と掴み走る真独楽は「鮫」と瞳を輝かせた。杏にとっては鮫は触れることが出来ない生物なのだが、真独楽が触りたいと言うなら仕方がない。 「鮫、いいけど、気をつけてね? 手なんて噛まれたりしたら大変だわ」 「だ、大丈夫。か、かじられないと思うよぅ……。あ、そぉだ! TVで見たんだけどね、鮫の鼻先をなでなですると大人しくなるんだってぇ! やってみよぉ♪」 そろそろと伸ばす指先がゆっくりと大人しい鮫の鼻先を撫でる。擽ったいと身を捩る鮫に「カワイイッ」と瞳を輝かす。振り向いて、杏にも触ってと勧める真独楽に戸惑いながらもゆっくりと鼻先を撫でた。 「意外と、かわいいかもしれないわね……」 緊張を孕んだ指先はゆっくりとざりざりとした肌を撫でてた。 「あ、やっほー。今一人? だったらちょっと一緒に触れ合いスペース行こうよ!」 一人ぼっちは寂しいと告げる壱也に喜んでと頷いた蒐は二人揃ってカピバラのコーナーへと足を向ける。 ぼんやりとしたカピバラが訪れる客をじ、と見詰めていた。 「あ、桜庭君は触ったことある?」 「え、いや、こ、怖いじゃん」 触って良いのかな、とそろそろ伸ばす指先。その隣一気にもふもふとカピバラを触り始めた壱也が眠たげなカピバラの頭を撫で回す。しかし、微動だにしないカピバラ。 ・ω・<ねむいのです。 「ねね、この子桜庭君に似てないっ?」 「え!? 俺、眠そう!?」 わたわたする少年の肩でヘッドフォンが揺れる。笑い合いながら進む足は海洋動物コーナーへ向かっていた。 \ぼっちです!/ ――凄まじい宣言であった。 開口一番そう告げた竜一が向かうのは触れ合いコーナーだ。思う存分『もふもふ』出来る場所に胸が躍る。 「ぺんぎん! カピバラ! ……ア、アルパ、カ……?」 首を傾げたのは無理も無い、が、大丈夫。此処は水族館です。アルパカとか兎が居ても水族館です。 「可愛ければ細かい事はどうでもいい! もふもふするのだ!」 がしっ、とペンギンを抱きしめる――が、固い。どう考えてももふもふしていない。 そう、ペンギンの羽は意外と硬いのであった。そして臭いのであった。 「赤ちゃんペンギンは見るからにもふもふしてるのになァ……」 大人になるって、怖いのね? 謎のモノローグを胸になでなで。可愛いから硬くったって許そう。彼が次に向かうのはエイやサメだ。 そこでふるふると手を伸ばすフォーチュナの姿を見つけ、羽をモフモフ。 「世恋たん。サ、サメ、噛まないよね?」 「大人しいわよ?」 ねえ、と隣に居る少年へ声を掛けた時、竜一が「蒐ももふもふされたい? 仕方ないなあ」と蒐をモフモフ。ぎゃあ、と声をあげる彼の隣で壱也が笑う。 サメにゆっくりと手を伸ばす竜一の頭の中では『スプラッター! 恐怖、人喰い鮫の悲劇!』なのだが―― 「むぅ、大人しい……」 ざりざりする。エイに至ってはぬるぬるする。水槽が赤く染まる事も無く思う存分なでなでを楽しもう。 「竜一さん、次は人喰い鮫なでなでにチャレンジしましょうよ!」 輝く24歳の瞳は無限大であった。 一方、鮫のブースを通り過ぎ、兎のブースへ向かう壱也がぽん、と手を打った。 「あ、そだ。あとでお土産も一緒に見に行こうよ! カピバラの人形買ってあげるよ。 だって似て……拗ねないでよ。ごめんってー! 折角来たし、何か買っていきたいんだ」 くるりと身体を反転させて笑う壱也に頷いて、何処か拗ねたような表情をしながら後でなと呟いた。 「あと、お腹空いた! 注文多いとか言っちゃ駄目だぞ? 女の子はそーゆーもの、でしょ!」 「はいはい、お姫様の仰せのままに」 はしゃぐ壱也が「この子桜庭君に似てない?」と言うたびに、俺って小動物なのかなと複雑な気持ちになる高校生男子なのであった。 「イーシェ・ルーが『終生のライバル(笑)』月鍵世恋に無茶振りとか鬼振りとか空振りとかを駆使して! 決闘とか挑戦とかをしかける一大イベントのお時間ッス!」 かくれんぼや七面鳥との対戦、豆まきを経てイーシェは今日もこのコーナー! \月鍵チャレンジ!/ 「ふーはっはっは! 来たッスね、月鍵世恋(24)! 今日もアタシの挑戦を受けて貰うッス!」 「……!?」 衝撃的な場面が其処にはあった。アルパカに跨った鎧の戦士(笑)が其処に立っている。 そしてその右手には――なまこ。 「今日の勝負はNAMAKO!! こう見えても立派な海洋生物、ってアアアアッ! 駄目ッス! そんな見た目でも生き物ッスから! 乱暴にしちゃ駄目ッスよ! 握りしめたら死ぬ!!!」 無言でナマコを握りしめる世恋とアルパカに乗った状態のイーシェ。 「月鍵世恋、見るッス。ちいせぇタコっすよ! 可愛いッスよ! 勝負? まあ良いじゃねぇッスか」 その終始、世恋の手にはナマコが握りしめられていた。 「なんでナマコ……いや、今は関係ない! 諸君、私はもふもふが好きだ! 諸君! 私はもふもふが好きだ!」 うさぎを抱きもふもふしていたアメリアが突如立ち上がり始める演説はどこぞの鉄の獅子も驚きである。 「ペンギンが好きだ! アルパカが好きだ! カピバラが好きだ! この地上で行われるありとあらゆるもふもふが大好きだ! 諸君 私はもふもふを極楽の様なもふもふを望んでいる! 諸君 この場でもふもふ目当ての戦友諸君! 君達は一体何を望んでいる? 更なるもふもふを望むか? 情け容赦のない子供の様なもふもふを望むか? もふもふの限りを尽くし三千世界のふかふかを撫で尽くす嵐の様なもふもふを望むか?」 同意を求める様にアメリアの瞳が征一郎やアークのリベリスタへと向けられていた。 無論、答えは決まっている――! \もふもふ/\もふもふ/\もふもふ/ 「よろしい ならばもふもふだ」 お後が宜しい様で。 ● \突然のアルパカ!/ 瞳をキラキラさせたミリィは「ここに来るのは久しぶりですね」と世恋の手を引いた。 「お姉さま、お姉さまっ! ペンギンです! アルパカで……ア、アルパカァ! パ→カァ↓……!」 畑からアルパカが生えてる様子でも思い出したのか瞳を輝かせるトムソン少女。 何故か水族館に存在するアルパカ。疑問ではあるのだが、出逢ってしまったからには仕方がない。 「お姉さま、パカァではなく、もふもふしましょう! これもきっとアルパカキングのお導きなのです!」 存分にもふもふ、もふもふ。ちらりと世恋が視線を遣れば気が狂ったようにモフモフし続けるミリィ。 もふ。もふもふ。もふ……。 「ミ、ミリィさん?」 「はっ、す、すみません、お姉さま。アルパカさんを見たら……つい」 立ち上がりアルパカを撫でたミリィがさあ、と手を打ち鳴らす。パ→カァ↓……(切なげな吐息)モードから切り替えて、まだ見ぬ物を見る為に! 「気を取り直して、回りましょう、お姉さま!」 「ええ、素敵な物を見ましょうね?」 ぎゅ、と握りしめた掌。さあ、次は何処に行こう? 携帯電話を弄りながら髪を指で弄ぶ元フィクサードの少女にエルヴィンは柔らかく微笑んだ。 「覚えてるか? 以前に写真で送った水族館なんだけど」 頷き微笑む春めく灯篭に所属していた汀夏奈という少女はエルヴィンと手を繋ぎ水槽を見て回る。 様々な場所を巡り、何時も通り写真に収めるエルヴィンのカメラを夏奈が覗きこむ。 まるで宇宙人の様なカニの写真、その次の一枚はアザラシが大きな瞳をカメラ目線で向けて居る。 「愛敬とかマジあざといわ、アザラシだけに」 「アザラシだけに!」 ジョークに手をぱん、と叩いてはしゃぐ夏奈。箸が転がっても面白い年頃の少女はエルヴィンの一言一言に表情をころころと変えて居た。 「お、コレ、夏奈がサメ触ってる写真だな。……くくく、良いねぇ、この微妙な表情」 「だって……!」 頬を膨らます夏奈に小さく笑う。鮫に初めて触れた少女にとっては不思議な経験だったのだろう。 「お誘いに応えてくれてありがとな。それじゃあ、午後からも目一杯楽しむか!」 頭を撫でて、行こうかと手を伸ばす。幸せそうに笑った夏奈がうん、とその手を取った。 大水槽の前、両手を広げてはしゃぐエフェメラにヘンリエッタも瞳を輝かせた。ボトム文化に未だ詳しくない二人は「海を切り取った」風景に幸せそうに笑う。 「海の中から海を見るとこんな感じなのかなぁ? おっきいなー!」 「海の中はこんな風なんだ。ねえ、エフェメラ、すごいね……! あれはなんだろう?」 触れられるのかなとぺたりと硝子を触る。海、海と口にするたびにその凄さが伝わる様でヘンリエッタは瞳を輝かした。見詰める視線の先にはたこがふわふわと泳いでいる。イカやクラゲが存在し、知っていると手を打ち鳴らした。 「空から落ちてくるたことたこやき。あとは本の中だけしかオレは知らないけれど、面白いね」 「クラゲだ! 泳いでるのは初めて見た。おいしそうっ」 エフェメラ、と彼女の裾をついと掴み首を振る。「ちがう、くらげはたべない」と告げる言葉にエフェメラは違うのと小さく首を傾げた。 「エフェメラ、本で読んだけど、男女で申し合わせて出掛ける事を『デート』というらしいね」 「んー、『でーと?』」 首を傾げるエフェメラへヘンリエッタがそう、と笑う。これがデートなのだろうかと新しい言葉を確かめる様に言えばエフェメラは笑いながら頷いた。二人で出掛けて楽しいと思えるならデートなのだから。 「たのしいね?」 「うん。楽しいね! また一緒に何処か行こうねっ?」 其々が重い思いに泳ぐ魚達を見つめて頷き合った。緩やかな時間が流れる大きな水槽の前で、亀を見つめている羽衣が首を傾げる。 「亀って魚類なのかしらね……?」 爬虫類だと掛けられる声に振り返ったた羽衣は「御機嫌よう、蒐」と優しく微笑んだ。 「お暇なのかしら? もしそうなら羽衣と遊んでくれる?」 皆楽しそうだから、はぐれてしまわない様にお手を。ね、と首を傾げ差し出される掌に「え」と小さく声を漏らす高校生男子。彼にとって女の子と手を繋ぐなんてイベントは滅多にないからだ。 「う、うん……」 「ねえ、羽衣、ペンギンが見たいの。ペンギンってとーっても可愛いしね!」 ね、とペンギンを見詰める羽衣の隣で蒐が「あの子」と指差したのはまだ小さな子供の姿だ。 モフモフとしたその姿に「かわいい!」と笑う羽衣に小さく頷いた。ぬいぐるみなら持って帰りたい位だ。 他愛も無い話しをしながら瞳を輝かす蒐と共に水槽が見えるベンチに腰掛けてあれは、あれはと指をさす。 どれも素敵なものばかり。羽衣の『しあわせ』が降り積もっていく。ふと、蒐、と袖を引いた。 「あのね、蒐の所に今度、さくらを連れってもいい?」 「さくらを連れて来てくれんの? すげー楽しみ!」 羽衣が預かる事になった小さな子犬の姿を想いだし眼鏡の奥で蒼い瞳を輝かせる蒐に羽衣は本当に?と嬉しそうに微笑んだ。 「次の約束が出来ちゃうなんて、羽衣は今日、とってもとっても幸せだわ! 今日は有難う、蒐!」 立ち上がり、また今度遊びましょうねと手を振る羽衣を見送りながら蒐はふい、と水槽を見上げる。 「あーちゃん、触れ合いスペースに行こうよっ!」 長い髪を揺らし手を振るルナに頷いた蒐。彼女は少し寿司も食べたいなと悩んでたりしていた。 (世恋ちゃんだから夏にも魚類って言いだすよね……) 咳払い一つ、おいでおいでとルナは初めての水族館に胸を高鳴らす。 「あーちゃん、見て見てっ! ペンギンさんだよっ! 間近で見ると、とっても可愛いよね」 ペンギンを見詰めてルナが手をわきわきさせる。ヨチヨチと歩くペンギン達の愛らしさは堪らない。 「ねっねっ、あの子触っても良いの? 触ったらどんな感じなのかなっ!?」 「触ってみようぜ!」 なでなで。ペンギンが羽を広げる様子にさえもルナは瞳を輝かせる。子供のペンギンがルナのスカートをつまむ。振り返り撫でれば掌にすり寄る子供にルナは「きゃあ」と声をあげてより一層瞳を輝かせた。 「ペンギンさんとあーちゃんと一緒に写真撮りたいな!」 「ちーっす、トンファー後輩」 背後から掛かった声に振り返る蒐が「とんふぁー先輩、ちーっす」と手を振った。 夏栖斗がシャッターを下ろし、写真が撮れた事にご満悦のルナの足は自然にフードコートへ。「最近どう?」だなんて他愛も無い会話をしながら残された夏栖斗と蒐は二人、進路に沿って進んでいく。 「こういうの青春って言うんだよな。あーあ、お互い相手が女の子だったらよかったのにな、なんてな」 「どーせ、彼女居ませんよ」 唇を尖らす蒐に笑いながら、二人揃って立ち止まるのは大水槽だ。青々とした空間を空を飛ぶように動くジンベイザメ。その姿に金の瞳を輝かせ「すげえ」と夏栖斗は零す。 「ジンベイザメでっけー! 嗚呼言う懐の大きい男になんないとな。コバンザメつけてても、物ともしないどっしりとした態度! かっけーよなあ」 すげえ、と目を輝かせる高校生男子二名。夏栖斗の言葉に微妙な表情を零す蒐に小さく笑う。 日常がどれ程尊いか夏栖斗は知っていた。リベリスタ稼業は日常が非日常に変わる。いつ、その尊さが喪われるか解らないのだから。どれほど大切かをしっかりと認識していた。 日常が大切だからこそ、どんな些細なことでも良い。日常を楽しみたいと、そう思う。 「さてと、、土産屋で『彼女』へのお土産買いに行くけど、どうする?」 「しっかたねーな、選ぶの手伝ってやるよ!」 訳・一緒に行きたいです。ジンベイザメ可愛かったな、と笑い合いながら向かう先はお土産屋。 さあ、ここからもうひと頑張りだ。 ● 「それじゃ、後で合流しましょう?」 思い思いに巡る黒蝶館の面々は現在自由行動中。アザラシを見詰めるフランシスカは「かわいい」ところころとした小さな海洋生物に夢中である。 「わあ、まんまる! 仕草も可愛いなあ!」 思う存分見詰めながら、次は何処に行こうかとパンフレットの頁をめくる。この先に在るのはジンベイザメの水槽だったか。エイもジンベイザメも未だ見たことが無い。楽しみだと足取りは軽い。 一方で、虫が大好きな輪に連れられたアーリィが訪れたのはダイオウグソクムシの居るコーナーだ。 「ダイオウグソクムシって、なんだろう……?」 ペンギンは居るかなとそわそわしてたアーリィは引き摺られ、ダイオウグソクムシの目の前に立っている。 「りんはねー、ダイオウグソクムシみたかったの! 英名をジャイアントアイソポッド! 見て? 大きなダンゴムシみたいな形状をしてるんだよー? ほらみてー、タカアシガニ!」 ペンギンが見たかったアーリィにとっては摩訶不思議な生物が目の前に居た。深海は奥が深い。 「ねえ、ねえ、アカザエビって糾華エビと間違えちゃいそう、うふふ♪」 その声に、何処かで黒蝶館の主の背筋がぞわり、とした。 「あ、り、輪ちゃん、ペンギン見に行こうよ!」 「触れ合いコーナー、ナマコとかイソギンチャクがいるなら……あ、居る気がする」 え、と小さく零したアーリィの受難はジンベイザメの水槽まで続く――!! アーリィが望んだペンギンの近くの水槽ではイルカが優雅に泳いでいた。 『最近はどうかしら――可笑しな子がいる? ああ、それは何時ものことよ』 動物会話でイルカと会話を楽しんでいた氷璃の視線はじっと水槽を見つめる世恋を見つけ、頷いた。 普段は人込みを避ける彼女で有るが、趣向を変えて海の散歩も悪くはないだろう。面白い子だとイルカが笑う『声』を聞き、氷璃は別れを告げてジンベイザメを見詰めに行く。 一面に広がる蒼に、その中で照らされて煌めく魚の群れ。幻想的なソレはまるで『檻』ではないか。 「……この箱庭は貴方達に窮屈かしら? それとも、満たされているのかしら? 広く自由な世界を夢見て苦しむ事も――ないわけではないでしょう?」 幻想的な人工の檻。隔離された偽りの世界は何時だって変わらない。 集合場所となったジンベイザメの居る巨大水槽の前でセラフィーナが息を飲む。 「あ、あれがジンベイザメかな? 話には聞いてたけど、本当にでかいねー……びっくりだよ」 「うわあ、大きいですね。迫力があります」 フランシスカの言葉に頷いて、凄いですねとセラフィーナは手を打ち合わせる。 ぼんやりと大水槽を見つめて居た糾華は悠然と泳ぐジンベイザメの姿に見惚れて居た。群れて回遊する小魚達は渦の様に水槽の中を彩り続ける。ほう、と息を吐くその横顔を見詰めリンシードは「凄いですね」とぼんやりと呟いた。 「すごいわね……大きい筈の水槽が狭く見えてしまうのに、泳ぐ姿は尚更に大きく見えるわ……」 「すごいです……! きっと私たちなんて人のみですよ……がおーって……!」 普段よりも瞳が輝くリンシードは大好きな水族館に心が躍っている。水族館に行こうと糾華が提案した時にリンシードはついハイテンションになってしまった。来るのは初めてである彼女にとっては大切な思いでなのだ。 「青の中を雄大に泳ぐんですよ……心、震えますよね……?」 「そうですね。エリューションの鮫と戦った時は怖かったですけど、じっくり見ると鮫さんも可愛いですね」 じ、と見詰めるセラフィーナが友人たちをカメラに収めていく。水槽を見つめる糾華とその隣、あれも可愛いこれも可愛いと語るリンシード。 「あの背中に乗ってみたいですねー……周りの魚も可愛いですよ。お姉さま、見て、へんてこな顔」 指差されるソレにそうねと微笑む糾華は周囲に集まった自身の友人らに気付き写真、と微笑んだ。 「よし、写真撮りますよ?」 「フラッシュは焚かない様に気をつけてね?」 カメラを手にしたセラフィーナに微笑んで、集合した黒蝶館の面々は背後のジンベイザメが近付く瞬間を心待ちにした。ふわ、と浮かび上がる蒼に掛かる影。 「コレで思い出がまた一つ、かな? あとでエイとかサメとか触れる所に皆で行こうよ!」 ピースをし、微笑むフランシスカに頷いて。 シャッターチャンスとセラフィーナの指先が動く。普段なら、表情が余り変わらないリンシードの笑顔が綻んだ。日傘で写真撮影から隠れる様にした氷璃の表情も何処か、明るいものであった。 フードコートに訪れた快は夏に訪れた時と変わらない店主が居る事に気付きふ、と微笑んだ。 「来ちゃいました」 「来ちゃいましたか、いらっしゃい」 「大変盛況でございますね! お邪魔いたします」 メイド服の裾を掴みゆるりと微笑んだリコルへと何にしましょ、と笑う店主は大勢の客にやや驚きながらも笑顔で対応してくれていた。共に訪れた友人たちの注文を取りまとめ、お勧めのメニューを伝え回った快は席に着いた刃紅郎に寿司に合う酒をセレクトし盛っていく。 「あ、世恋さん。おいでよ。ほら、貴女の大好きな魚類ですよー。大人扱いキャンペーン第二弾だよ!」 微笑む快に頷いて、彼の寿司知識に耳を傾ける。オススメは、と聞く声にそうだね、と続けるのは相変わらずの飯テロだ。本当に飯テロだった。 「この時期、外せないのは鰹だ。薬味たっぷりで戴きたいね。 春の魚なら、鰆、桜鯛も外せない。鰆は炙りで、桜鯛は霜降造りで。 こういう丁寧なプロの仕事が食材を引き立てるんだ」 「じゃあ、それを頂きましょうか」 再び訪れた慧架は職人芸と言う物でどれ程寿司の味が変わるのかと楽しみだと表情を綻ばせる。 紅茶が大好きな彼女は紅茶にあうお寿司は無いかしらと首を傾げるが、やはり日本人である職人は「普通のお茶で素材の風味を」と彼女へと進言した。残念そうに視線を落とすものの、緑茶も入れれますよと淹れられた茶は仲間達へと配られる。 そわそわとする世恋の隣に掛けたベルカは「うむ、今日も同士エストントンは通常運行であるな」と笑う。 「魚類は見るのも楽しいし食べても美味しいからな! 何を食うか……アナゴか……タマゴか……」 悩ましげなベルカへと壮大な雰囲気を纏っていた王様――こと刃紅郎が「そこの貴様もついでだ」と指差した。びしり、と指される共産趣味者。専制君主の施しを受ける事となるとベルカは考えては居なかった。 「代金は全部我が持つ、何でも好きなだけ喰らうがいい!」 「なに!? 奢り……だと、ぬおおおお……(そして5秒の苦悶)ゴチんなりやーす☆」 にまっと笑うそのやりとり、勿論ここで発する言葉はただ一つだ。 \寿司喰いねェ!/ 「勿論! 俺の腹、空いてますよ?」 ぐう、と蘭月の腹が鳴る。見て回るだけだった前回と違い今回はキチンと寿司を口にしよう。 そして蘭月による壮大な飯テロの時間であった。 「まずは手始めに烏賊、縞鯵、間八などから頂こうか。柚子〆真鯛はさっぱりとした味わいを楽しめる!」 「ええと……その次は?」 交流のきっかけになるだろうかと同席した恋は蘭月の食べる物に続き自身も頂きますと手を合わす。 彼女に蘭月が勧めたのは鯖だ。オーソドックスに酢で軽く〆たものをセレクトした次に鰈。縁側を軽く炙り、葱と一緒に食す。料理番組か!とツッコミを居れたくなる勢いで寿司ネタを解説する蘭月に成程、と恋は頷いた。 「鮭はトローサモン、ハラス、炙り。旬の季節を逃しても美味い」 もぐもぐと食べ続ける蘭月の頬に涙が流れる。 「あぁ、あぁ何を食っても美味い。姉さん、蘭月は今幸せです」 鯨・鹿の子は脂の甘みが良く、美味い。アン肝の軍艦。ポン酢で食べたい。 生牡蠣は好みが別れるだろうか。磯臭さが残っている方が好みだ。鮑はそのまま食すも良し、蒸し鮑や肝もたまらない。そのオーダーは全て、大将によって叶えられていたのであった。 「あ、サーモンとシーチキンマヨネーズのぐんかんを、ください……!」 赤面し、そわそわとしていたミミミルノが手をあげる。お寿司が大好きな彼女は「ライオンだから食べるの……です! ガオー!」と胸を高鳴らせる。 イクラも欲しいです、という言葉に「可愛いからサービスだ」と差し出され、ミミミルノは瞳を輝かせた。 「おねーちゃんのぶん……おみやげにできないかな……」 新鮮な方がおいしいと思うよ、と掛けられる声にミミミルノは小さく頷いた。 食べれるだけ食べてお土産はお話しにしよう。アークって大きい組織だから好きなだけ食べれるよね、ね! 「では、頂きます……。職人様の洗練された手付きはまるで魔法の様で美しゅうございます」 ぱく、と食べるリコルに礼を言う店主。味わいも流石と頬を抑える彼女の言葉は表情から見てとれる通り、寿司の魅力に魅了されている。 無論食べるだけでは無い。悠然と泳ぐジンベイザメも圧巻であったし、可愛らしい海洋生物も見た。 お腹が好いてしまうのも致し方ないでしょう、と微笑む彼女に頷いたのは猫、ではなくレイライン。 「お魚一杯じゃのう。格好良かったり、綺麗じゃったり、怖かったり……美味しそうじゃ」 「目一杯お食べになって! 今度は彼氏さんが一緒なら良いんだけど」 くす、と笑った世恋に視線を逸らし、春の握りセットを食すのじゃ、と意気込むレイライン。 猫の本能故か、つい美味しそうだと思ったら食べれたのだから、これは仕方がない。 「おおぅ、目移りするのぅ」 「でも、お魚です! お魚!」 きらきらと瞳を輝かす猫その2――ではなく留吉は同行する王様にそわそわとしていた。 (王様さんの、堂々とした姿に、僕はあこがれているのです) ――しかし、腹は減った。猫まっしぐら。自然と笑顔が浮かんだ彼はどれが良いだろうかと笑う。 「ふむ、我は松坂牛の握りにフォアグラ軍艦だな」 「あのね、あのね、王様さん。お肉も、おいしいけれど、お魚もいいものだよ?」 どうかな、と熱弁する留吉。魚には脂が乗っていてパクパクと食べられる。頭もよくなる。 どうかな、と言う彼から一つ、ぱくりと口に含んだ後、刃紅郎はふむ、と店主を見据えた。 「店主、これをもうもう一貫づつ、我とこやつに握れ」 「えっ」 「何を呆けておる? 我は気分が良いのだ。本物の寿司の美味さを説いたお前の熱弁、真に大義である」 頷く王様にきらきらと輝く瞳で頷く留吉。快の選んだ日本酒を口にしながら、それでね、あのねと語る声に耳を傾けた。 「いわしの大群が見たい! イルカのショーもみたい!」 「イルカのショー? ひとつ二人で乗り回しでもするか、ふははっ!」 その声に笑いながら、快は店主に礼を言う。 そして、彼の飯テロは再び。次はどれにしようかと迷う恋に提案を一つ。 「イカの中でも最も美味しいと言われるアオリイカも今が旬。藻塩を軽く載せて食べるのもいい。 あ、恋さんも一緒に如何かな? 今から、大将が握ってくれるよ?」 「ええ、恋さんもご一緒に食べましょう?」 快の声に続き微笑んだ世恋がこっちにいらっしゃいなと隣の空席をぽん、と叩く。 「水族館で寿司ってアレだな、牧場でジンギスカン喰うみてぇだな……」 愛でて食す。此れが生きる事かと寿司を堪能した火車は悠里が立ち上がった事に気付き顔をあげる。 「そう言えばね、団地の人にまた貰っちゃいました!」 Σ<●> <待たせたな! 「おお、ハモか。と言う事は、また?」 「……!」 世恋絶句。手にしたハモが何だかコミュニケーションをとってくる。見ない振り見ない振り。スルーだ。 それを知ってか知らずかそう言えばねと悠里は微笑んだ。バレンタインの出来事だ。リベリスタ達が可愛いイベントに心をバイブレーションさせて居る頃、何故だか世恋はハモを白目で握りしめていたのだ。 一応、「美少女(笑)」枠である筈なのに行動は芸人である。 「この間のハモ捌きは素晴らしかった! また見せて貰いたいと思っていたので嬉しいぞ」 「一流ってのは嗚呼言う事かと震えたね」 輝くレンの瞳。その目に世恋が視線を逸らす。火車が「いらっしゃい、包丁師」と世恋を呼んだ。 フォーチュナの瞳からハイライトが消える。何処で覚えたのだという手先でハモを捌く月鍵世恋(24)。 「あれ、顔が蒼いぞ、大丈夫か?」 だが、その手つきは素晴らしい。火車は感心する。体調不良でも結果を出す。プロとして素晴らしいじゃないか。実際は「私何してんの」という蒼さなのだが。 「おお、世恋のをみて勉強に……あれ? 悠里、それは?」 「ああ、世恋ちゃんだったらハモとかもう簡単かなって思って、アンコウを持ってきたよ!」 世恋絶句(再び)。 ガタンッと立ち上がる火車が仰け反った。レンは瞳を輝かせた。状況がカオスすぎる。 「でででで、出たー! いやぁー、まさか目の前でアンコウの解体が見れるとは思わなんだなぁ」 「ええええ、私いいい!?」 「世恋はアンコウも捌けるのか!? すごいな……! また一つ見直したぞっ」 少年の瞳に、何も言えずに包丁を握りしめる。見守る瞳に、(何故かできた)手つきで捌くフォーチュナ。 「大丈夫か!? 吊るしくらいなら手伝えるぞ!? えっ? 自分でやるのか! そうか!」 「――世界って、残酷ね?」 そういいながらレンは「アンコウ」って美味しいのか?と首を傾げて居た。勿論、捌いた魚は鍋にして頂こうと決めて居た。楽しみだとそわそわする火車とレンの隣、脱力した世恋は「残酷だわ」と呟いた。 皆、どうだった? 世恋ちゃんの魚捌き、凄いでしょう! ぐつぐつと煮立つ鍋を見つめながら白目を剥くフォーチュナに悠里はくすくすと笑っていた。 一方―― 「カピバラはでっかいのう。これでもネズミの仲間なんじゃよなあ。 このサイズなら窮鼠しなくても猫噛まれまくり! にゃんてのう♪」 じ、と見詰めるカピバラがゆっくりと近付きだす。 え、なんでこっち見て、ちょっとどうしたのじゃ、レイラインが其処まで紡ぐと同時。 \にゃぎゃーーーー!!?/ 叫び声だけが虚しく響き渡った。 ● 夕方から水族館はまた違う顔を見せた。 ライトアップされた空間で、唾を飲み込みシェリーは魚を見詰めながら小さく鳴く腹を摩った。 「目の前には美味しそう……いや、綺麗な魚たち。ふむ、今日の夕食は魚介類じゃな」 目の前の魚たちがびくっとした――そんな気がする。一人で訪れたシェリーは自分は一人で来ない方がいいのかと実感した。 どうにも腹が減っては目の前に食材が泳いで居る様にしか思えない。ハンターの目は鮫を見詰めた。 「はぁ……フカヒレか……」 ぽそり、呟かれた言葉に鮫が優雅に鰭を揺らしていた。 「最近一人デノンビリ観覧ナンテシテナカッタナー……」 ん、と伸びをしてライトアップされた水槽を見回した。リュミエールの産まれは泳ぐようなお国柄では無い。それ故に、日本に来て随分と経つが海が珍しく感じるのも仕方がない事だろう。 ぽこり、水泡が音を立てる事にリュミエールは「海の中に居る感じダナ」と頷く。 狐耳をぴこぴこと揺らし、何処に行こうかな、何が面白いだろうか、と目星を付ける。とん、とん、と地面を蹴って走り出す用意は万全だ。 「でっけーのと綺麗なのともふもふしてそーなのを見てみるカ」 俊足は水族館の中を駆け回る。 おっと、館内は暴走禁止ですよ! お嬢さん! 昼間のふれあいコーナーが気にならない訳ではならなかった。けれど、デートが目的である以上、こうしたロマンティックな空間に酔いしれる事も悪くはないだろう。 「どのような動物でも科学的な価値は見出せる。お前さんの好きにしていいぞ?」 「海獣とか、大きな魚類が見たいんだけれど……休んでる姿も見れるかしら?」 首を傾げる未明に如何だろう、とオーウェンもまた興味深そうに水槽を見詰めて居た。じっと見つめる鮫は昼の様子からするとその動きが鈍い。興味から海洋生物を観察するオーウェンにとっても有意義なものだ。 「全然こっち見てくれないわねぇ」 水槽に近付いて未明は動物の気を引こうと一生懸命だ。構って欲しい、と懸命に魚へとアピールする未明の首筋をつん、と突く指。 「っ……! 不意打ちで悪戯しないで」 擽る様な指先に驚いたように非難の声をあげた未明に「動物とて、今は寝て居る」と告げるオーウェン。集中していた事もあって、驚いた未明は「ああ、そういうことね」と邪魔をしてしまったのかと少し残念そうに身を引いた。 「動物達も寝て居るものが多い。誰も見て居ない……」 ぐい、と引かれる腕。暗闇に引き摺られたと気付いた時には唇が重なった。瞬いた未明が、けれど、とオーウェンの胸に手を当てる。 「誰に見られてなくても気になるものは気になるのよ? 『こういう事』はね」 その言葉に、違いあるまいと呟いて、小さく笑い合った。 今日も仕事を終えた義衛郎と嶺は二人揃ってクラゲを眺めて居た。久々に訪れた水族館は何時見ても変わりなく、心を落ち着かせるものだ。 ライトアップされて浮かび上がるクラゲ。「あ、ミズクラゲだ」と義衛郎が差したのは大きな水槽だ。おうかぷかと浮かぶ其れを眺めながら、嶺の視線に止まったのはベニクラゲである。添えられた解説を見ながら、二人揃ってクラゲの生態に感心した様に頷き合う。 「いいですねぇ、ふわふわと生きて居て、いつも気持ちよさそうで」 進行方向に沿ってゆっくり歩む足。揃って向かう深海魚コーナーには標本等が展示されている。ホウライエソの姿を見て嶺が「侵略者ですよね」と告げる言葉に深く頷いた。 「地球侵略しに来た宇宙生命体としか思えないフォルム。堪らん」 「機動兵器っぽいフォルムと言えばタカアシガニ、とか、ですか?」 のんびりとした短い休息を楽しむ二人の前で水泡がこぽり、と音を立てる。 海、そう聞くと義衛郎も嶺も『海の魔女』を想いださずには居られなかったのだ。 「壇ノ浦に沈んだ歌姫さんは、ちゃんと死ねたかしら。 海の底から這い出して来やしないかと、たまに心配になる」 「そんな縁起でもない事、言わないでくださいな。本当にそうなる気がしてくるではないですか!」 む、と唇を尖らす嶺に義衛郎派微笑む。鼓膜に張り付く歌声は今も、鮮明なままだった。 「黄昏時、て言うけれどもこれは随分と幻想的だね」 「綺麗で、なんだか不思議な世界に来たみたい!」 手を繋いだアリステアと涼の歩調はゆっくりだ。他愛も無い話しを繰り返しながら、昼間とまた違った顔を見せる水族館の景色に見とれている最中に、水槽に移りこむ自分の姿に小さく瞬いた。 髪を弄る指先で少しばかり拗ねた表情を隠した。大人びた涼に幼さの残る自分はどう見えるのであろうか。 (兄弟、はちょっと嫌かなあ……。でも、『何?』って聞かれると、よくわかんないなあ……) 「ね、ねえ、皆、平和そうに泳いでるね。私達も戦ってばかりじゃなくて平和に暮らせれば良いのになぁ」 痛い思いも、辛い思いもしなくなったらここに一緒に来て、『戦いばっかだったね』と想い出を語れたらなんと幸せなのだろうか。そんな事関係なく、またここに来れれば良いねと涼は小さく返した。 「ほら、これもまあデートみたいなもんでしょ。また一緒に遊びたいな、って思うもの? でもさ、そんな全部が終って戦いが過去になった時にも俺はキミの傍に居ても良いのかな……?」 顔をあげたアリステアが見降ろす涼をまじまじと見つめた。口を開く前に小さく笑って、「意地悪かな」と囁いた。それでも、隣に居たいとそう思うから。其れを伝えた時、キミはどんな顔をするだろうか。 ゆっくりと歩みながら、紫月は視線を落とす。 「……何故、貴方は正義を志したのです? ……一応、耳にしていますけど」 静けさだけが漂う水族館で、一度瞬いた拓真が小さく唇に笑みを乗せた。聞き及んでいた言葉があっても、本人の口から直接聞いた訳ではない。だから、気になったのだろう。 「憧れから、なのだろうな。そもそもの発端は」 其処まで紡ぎ、思い出す様な横顔に紫月は整った唇をきゅ、と閉じる。 拓真の脳裏に過ぎる祖父の笑み。その誇らしげな笑顔が、羨ましくて。 「……だが、救えば救うほど、俺が望む『正義』には届く事は無いのだとも、思い知らされた」 誰かを救う事は誰かを救わない。取捨選択を幾度行ったことで在るだろうか。 拓真一人で救える人間の量は知れて居たのだ。例え、世界に愛され様が、己を万全に受け止められるか―― 正義や悪の理念は人によって揺らぐものだった。故に紫月にはその概念を理想として求める拓真の事は理解できない。下げた視線のまま、「あまり楽しくない人生ですね」と呟いた。 「ああ、そうなのかもしれない。だが、後悔はしていない。救えるべきを救えた事もある」 生涯己を許せなくても。悪くはない人生だと緩やかに微笑むその横顔に嘆息し、行きましょうと前を向く。 「そんな風に笑えるなら、許してあげます」 笑えなくなることが無い様に、切に祈りながら。 埋め尽くそう、青で、蒼で。 キラキラと、輝く水面。穏やかな影に小さく微笑んで。 君の思い出の1ページに添える色になりますよう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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