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【壇示・最終決戦】偉大なるイカタコクラゲウミウシ、最後の一匹


 作戦名・「壇示案件・流れる海産物・大山童掃討戦」――リベリスタ達の間では、イカタコでとおる作戦は中盤を越えていた。
 ここは壇示に設置されたアークの簡易陣地。
 幾度と無く現れたエリューション――識別名「空飛ぶ海産物」――の迎撃のために設置された場所だ。
 エリューション達の正体は「大山童」と呼ばれる神秘存在に呼ばれた「餌」だった。「大山童」は倒さなくてはいけない訳だが、真っ向から戦って勝てる相手とも言えない。
「餌」である全てのエリューションを倒して、エネルギー源を断つ必要がある。
 ここにいるリベリスタは、兵站を絶つのが任務だ。 
 天狗の鼻岩で開戦の報が入ってから二十分。
 現在のところ、予想を上回る戦況。
 拡散する海産物を複数チームにて撃退。
 海産物への最終対応班が担当する個体数は一。
 当初の予定の三分の一になっていた。 
 素晴らしい戦果だ。
 対象が、更なる巨大化を遂げていなければ。


 なぎ倒す。
 針葉樹。着地。草原、崩れた奇岩の跡。
 生え揃わない下生えは、去年の秋にうろこが射出されたあと。
 呼ばれている抗えない食欲の対象ただ食べられるという恍惚感ああ早く食べて聖餐となる革醒により一気に進化した神経細胞に強制的に流れ込む快感信号と交戦信号。
 リベリスタ達の放った獄炎がイカの体を燃やしているが、そんな者は意に介さない。

 そこをどけ。
 私は、最後のミサイルコウイカは、幾千の仲間のたった一つの願いを背負って、今から彼に食べられるべき存在なのだ。


「ど真ん中をつっきっていきた個体があと一体」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)からの通信は、簡潔だ。
「満身創痍。あと五分ともたない。だけど――」
 攻撃されたから死に掛け、死の恐怖が更なる変化を促した。
「大山童の腹の中に納まるにはそれで充分」
 突き出る腕。握り締められ、引き千切られ、噴出すイカの墨、顔を真っ黒に染められながら、大山童はイカを食べる。忘れかけていた海の味。塩の味。生きている。そして、力をつけて海に帰ろうとする。立ちはだかる者全てねじ伏せて。
「ここでとめなくちゃならない。幸い速度は空中にいる時よりは落ちてる。ブロックは可能。イカの大きさから、八名で押さえるのが最も効率的」
 つまり、今燃えているイカの炎に巻かれ、ここまで飛来してきたイカの推進力を相殺し、断末魔に悶えるイカの触手の打ち据えもものともせず、ただひたすらにイカを接地させないことに心を砕けと。
「攻撃に手を裂いてもいいけど、支えきれなければそこで終わる。そのあたりの兼ね合いはチームに任せる」
 回復やローテーションも考えなくてはならない。
「神秘は手順が大事。『地面に触れれば』 大山童がつかみとる。 『地面に触れなければ』 大山童との回路は開けず、炭となる」
 ひたすらに体を張るのが役目。
「イカが燃え尽きて炭になるまで」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月15日(水)23:15
 田奈です。
 最終戦の一つ前。
 これが最後のイカタコクラゲウミウシです。
 リベリスタのバランス感覚と我慢強さを見てみたい。
 
E・ビースト「最後のイカ」
*全長15メートルのコウイカ
*満身創痍。リベリスタと接触後3分以内に炭になる命です。
*攻撃すれば早く死にますが、支えきれなければ、そこで終わりです。
  テンタクル・ファイアー・バースト 物近域 獄炎 炎の触手に見境はない。
  テンタクル・ウィップ 物近域 ノックB ブレイク 寄らばぶつ。

  特殊ルール・受け止める!
 *最大18ターン、受け止めてもらいます。
 *付与スキル・回復スキルの使用はありです。 
 *リベリスタ8人分の物理攻撃力とつりあうくらいの推進力です。
 *受け止められるのは、最大8人です。交代にペナルティはありません。
 *受け止めに参加した人の総ダメージ量とイカの推進力を比べ、リベリスタの方が多ければおしとどめられ、イカの方が多ければ地面に近づきます。
  お互い、真っ向からぶつかるので回避力は0として計算します。
  移動距離は、差分センチメートルです。
  (10なら10センチ。100なら1メートル)
 *イカが一メートル以上動いた場合は、誰かが脱落する場合があります。
  その場合、差分のダメージを脱落する人が受けます。複数のときは頭割りです。
 *イカが5メートル動くと、地面と接触します。失敗です。
   大山童の捕食に巻き込まれないため、即時撤退となります。

場所・丘陵。奇岩石室跡地
 *作戦決行は、夜間。人目なし、足元は草です。安定と判断します。
 *作戦時間は3分(18ターン)
 *成功条件、イカを地面に接触させない。(=以下の推進を5メートル以内に抑える)

●注意
 時系列上、【壇示・最終決戦】とタグがついている依頼とは同時に参加は出来ません。
 後日OP公開予定の神秘存在攻撃チームに引き続き参加も出来ません。
 PCは消耗し、回復する暇が無いためです。  
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
ダークナイト
小崎・岬(BNE002119)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
■サポート参加者 4人■
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)


 それは山の向こう。海の方から来る。

 イヴとの打ち合わせは、現場への移動のさなかに行われた。
「燃えている物体は暗いと良く目立ちますね……迷わず真下に動けそうで大助かりですね。吹き飛ばされた時も迷わず、全力疾走出来そうです」
『ワンミニッツ・ショー』ヘクス・ピヨン(BNE002689)は、火の玉を追いかける。
 先ほどから炭化した枝が飛んで来る。
「ふむ、良くわかりませんが、耐えればいいんですね?」
 狙撃作戦が主だった「案件・空飛ぶ海産物」は、防御がメイン戦術のクロスイージスには馴染みが薄い。
 今回も、万一に備えての待機だった。
 海産物の進行性革醒現象がここまで顕著でなければ出番はなかっただろう。
「わかりました。今回は3分ですか……ワンミニッツでは足りませんが……まぁ大丈夫でしょう。せいぜい攻撃して盛り上げて下さい。今から始まる長い長いショータイムの時間ですよ?」
 息するのも困難な熱風と共に火の玉が降って来る。
「すま……い、一体……がれて……」
 AFからノイズ交じりの通信。
 見上げれば、空は爆煙でかすむ。
 宙のあちこちに浮かぶ点は、健闘目覚しいリベリスタだ。
 それよりも圧倒的に大きくなる火の玉。
「イカでけー! ビデオにとってNHKで流したらアバターが全面降伏する視聴率になりそー」
『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が歓声を上げる。
「15mのコウイカ」
『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は、端的に火の玉の核について言及する。 
「……ダイオウイカってレベルじゃあないよなあ」
 ちなみに、ダイオウイカはヨーロッパ種では20メートルの個体もいるらしい。
 足の短いコウイカというのが問題なのだ。ほとんどが身だ。弾頭だ。
 ちら見えのあんよだけで、涼の身の丈を超える。
「空から海産物ってだけで十分シュールなのに、何このサイズ。デタラメなのもいい加減にして欲しいわ」
『薄明』東雲 未明(BNE000340)は、空を見上げて言った。
 さっきまでは数がでたらめだったが、最後の一匹は大きさがでたらめになってしまった。
「生きてるイカじゃなきゃ駄目だとは、足の下のこいつがグルメなおかげで助かったな」
 空飛ぶ海産物相手に俺の出番は無いと思ってたけど。と、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が呟く。
「………」
『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は、その単語を口にしていいものか少し悩んだが、言わずにはいられなかった。
「イカ焼き……」
 実際、じゅうじゅう音がする。
 表面の薄皮には水泡が生じ、おいしそうに焼ける匂いがする。
 コウイカは美味しいイカだ。イカスミの材料はコウイカだ。
 ぐー。
『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)の腹の虫がなる。 
「シーフードカレーが――」
 海産物に遭遇したリベリスタにはまれによくあることだ。
「適度な大きさならイカとか旨いんだけどもなあ。こんな大きかったら喰っても大味で硬そうだしなあ」
 涼はまだ食うことを考えている。
「何かと面倒かけてくれたイカもこいつが最後の1匹か……」
『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は、つい先ほどまで空にいた。
 イカの革醒速度が予知を上回った。人数をかき集めるために、比較的負担が軽度だったリベリスタが再召集されたのだ。
(しかしゆっくりそんなこと考えてる暇はないらしいな。やたらと大きいがここで止めるしかなさそうだ)
「さあ……覚悟しろ最後のイカ。親分に食われなくて無念かもしれないが、お前のことを全力で受け止めさせてもらうぜ!」


 落下予測地点。
 四条・理央(BNE000319)は、イカの推進力を測る。
 落下して来る。この空で爆散した何千の空飛ぶ海産物の願いを一身に背負って膨れ上がった妄執の受け皿。
 性は水。炎と風をはらんでやって来る。
「全力――」
 事前に頭の中に叩き込んだ全員の攻撃期待値。
 落下速度を殺さなくては押し負ける。まずは勢いを殺さなくては、熱烈な献身はとめられない。
「全員最大火力でお願いします――っ!! 出し惜しみ厳禁です!」
「了解――!」
「ヘクス君は今の内にパーフェクトガード! 後はずっと頼むからね!」
 時間的にさすがに無理かと思っていたヘクスは、頷くと体に光の鎧をまとう。 
 快が大盤振る舞い。身に宿る魔力の四分の一を場にぶちまけた。
「大人しく丸焦げになりなよ」
 綺沙羅が放つ閃光弾。のたうつイカ。この十秒がリベリスタのアドバンテージになる。
 第一次接触。
 近寄っただけで手足の皮が剥け、終末戦争を潜り抜けるための加護の効果で端から再生されるが、痛覚がなくなるわけではない。
 奥歯をかみ合わせて、喉からほとばしりそうになる悲鳴を押し殺すしかない。
「ったく、隕石じゃなくイカを受け止める日が来ようとはね」
 未明の肉体的限界は既に意志と神秘の力でねじ伏せられている。
「ったく、熱烈なこったなあ!? どうせなら可愛い女の子なら……、いや、15mは困るけどもさ」
 軽口を叩きながらも、涼はそれでも受け止めることは忘れないのだ。
「正々堂々正面からの全力の押し合い、てのはあまり得意ではないんだけれども。――あ。ぬるぬるしてない! よかった! こう、その! 俺のコート一張羅! って叫ばなくて済んだ! そんなこと言ってる場合じゃないか!」
 沸き起こる熱風でまともに目が開けない。
 だが聞えてくる軽口のおかげで、熱風の中に自分だけではないかという妄想とは無縁でいられる。
「香ばしく焼けちゃってー。大山童とかいう奴に独り占めにさせるなんて勿体無いだろー」
 どこまでも邪悪な見た目のハルバートはすっかり岬の手になじんでいる。
 見開いた単眼から溢れる涙のごとき暗黒が岬の体を包み込む。
(アンタレスから出る闇、防御に使うの初めてだけど目眩まし以外にも効果あんのかねー?)
「押して参るぜー、アンタレス! 」
 妖刀なら鍔鳴りに相当の鳴動するハルバート。
 刃がイカの腹に食い込み、宙に吊り上げんとしたからえぐりこむ。
「8人分の推進力ー? ボクとアンタレスで2人分だからこっちは9人分なー」
 慢心ではない。自信だ。
 アンタレスというハルバートを使うことのみに特化した武器の申し子。
 まさしく今、一番アンタレスを上手く使えるのは、岬だ。 
「そういや……今までこいつら海鮮物を何度も相手にしてきたが、こうしてイカと接触するのって初かもしれないな。……奇妙な感覚だぜ」 
 木蓮が銃を構える。
 いっそイカの記憶も撃ち抜いて、これから食われなくてはならないという強迫観念から開放出来たらいいのに。
 でも、E・ビーストは世界のために葬られる。数分以内に焼け崩れる。
 けして、地面の下で眠る海棲神秘存在の胃の腑を満たさせはしない。
 盛大に撒き散らされる弾丸がイカの地上との接吻を許さない。
「――イカごときが案外にしぶといな」
『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)ほどではない。
「言ったはずだ。この地には指……いや、触手一本触れさせぬと」
 煤に汚れた顔。体から炎と冷えた空気に匂いがする。彼も再召集された一人だ。
 ほんの数分前まで空にいた男が地面でイカを抑える。
「わたくし達とて人命とボトムの平穏を背負っているのでございますよ!」
『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260) が声を上げる。
 最大威力、持てる力の全てをぶつけて、リベリスタが稼いだ距離は1メートルに満たなかった。
 それはまるでポーカーのよう。
 持てる手札を入れ替えて、考えうる限りで最強の役を。
 チップは地面までの距離。
 プレイヤーは、理央だった。 
 全ての決定権は、彼女にゆだねられていた。
 綱渡りのような判断。何を以って最善とするのか。
 まずはイカを受け止めきること。
 余力があるなら、まだ天秤は傾けられる。
「未明君、岬君はイカを攻撃。シビリス君、ヘクス君入って!」
 火力を持つ者の代わりに防御力に長けた者を。
 稼いだアドバンテージを掛け金に、勝負の回数を減らす。
 勝ち逃げできれば、リベリスタの勝ちだ。 
「え? イカ斬っていいの?」
(ボクが動くとバランスが揺れるんで基本押える専任で行くよー) 
 そんな心積もりをしていた岬は、理央が大きく頷くのを見て、相棒を握りなおす。
「んじゃ、大技行くかー」
 長柄を取り回す僅かな手の動きが最大限の距離と音速を超える衝撃波を産む。
「実際長さはパワーなんだよー、テコの原理って名台詞を知らないのかよー」
 気の抜けた口調の底に、ハルバートマスターの自負がにじむ。
 斬り飛ばされるイカの足。生命力を失った途端に炭になる。
 ボロボロと崩れ、地面につく前に風に流れて四散した。
「じゃ、放すわよ。いい!?」
 交代要員が支えきったのを確認してから、未明は手を放す。
「ゲソの1本なりと潰してやる――!」
 未明が育ててきたバスタードソードにつけられた銘、「鶏鳴」。柄に朝を知らせる尾長鶏。
 朝の到来を知らせる斬撃が、夜を越えて来た最後のイカに生死を問う――!
 刃が触れた途端にはじけ飛ぶ足にもう再生はない。
 もう、治らない。死神の鎌から逃げられなければ、あとは死ぬだけだ。
 
 死の恐怖は、生き物を瞬間的に賦活させる。
 まだ死ねない。食われるまでは。
 
 イカの足が火を噴いた。長く長く。コウイカがダイオウイカに思えるほど。
 訪れる浮遊感、そのあと激痛。
 イカの足に横薙ぎにされた。と、思考がついてくるのはさらにその数瞬後。
 足を踏ん張っていた全力で防御に徹していたヘクスまでもが、八人全員が、飛ばされる。
 断末魔。イカの火事場の馬鹿力。
 リベリスタは目をむいた。零距離での攻防で避けようがなかった。圧倒的な暴力の産物。
 木蓮がそれ以上後ろに吹き飛ばされないように置いていたトラックにしたたか叩きつけられる。
 涙が出るほど痛いが、はるか遠くまで吹き飛ばされて、戻ってこられませんでした。よりは、ずっとマシだ。
「――役に立ったじゃないか」
 腰の痛みを黙殺しつつ、木蓮は銃床を肩にあてる。
「ヘクスに休みは必要ありませんよ」
 はね飛ばされた屈辱が、はねかえるようにイカにヘクスを向かわせる。
 イカが獲得した束の間の自由。
 飛び掛る、綺沙羅が用意していた式神。
 しかし、その数二体。時間が足りない。
 式神から打ち出される腑のカラスのくちばしが硬化したイカをついばむ。
「流石にイカにやられるのはちょっと。プライドが……その……」
 口の中にこみ上げてきた血を吐き捨てながら、涼が立ち上がる。
 運命は、高い矜持も愛している。
 恩寵を賭しての見栄きりならば上等だ。
「……折角イカなんだから捌いてやりたいところだけどな。まあ、爆破させてもらおうか」
 涼の周囲に、運命を手玉に取るためのダイス。
「何、分の悪い賭けじゃあないさ。…イカしかいないし確実に当たるしな?」
 転がるダイスは、ダブルダウン、スプレッドと、手番を駆使するギャンブラーの思うまま。二度三度とイカの命運を削り、支払うのは、イカ自身の残り時間。炎華の下、爆ぜる白い身。
「――焼きイカかね――?」
 せっかくかっこついているのに、我知らず呟いた言葉が台無しにしていた。


 それでもイカは沈まない。
 考えているわけではない。本能。原生の共感。
 癒さなくてはならない。悠久の飢えを。悠久の孤独を。
 この地面の下に埋まっている存在の為に幾年も前から命を捧げ続けていた存在が確かにいたことを。
 イカは死なない。
 既に十本あった足は焼け落ち、耳も胴も穿たれ、斬り飛ばされているのに。
 十本の炎で出来た触手は、イカ自身を苛んでいる炎。
 リベリスタは知っている。
 海からの恵みを撃ち落し続けていたのは、アークのリベリスタなのだから。
 かつて落ちた、たった一匹のイカの味が「大山童」の絶えて久しかった欲望に火をつけたなら、これ以上は決して許さない。
「なーに。イカはアンタレスほどには熱くねー」
 アンタレスを握り締めた指はとっくに黒くなっている。火ぶくれで変色した手の甲。顔を煤だらけにして岬は笑う。
 「地面に到達する前にバラバラの燃えカスにしてやんぜー」


「任せろ」
 シビリスからリベリスタに供される最終戦争を生き抜くためのヴァルハラの美酒。 
 イカが地面に落ちれば、同じような効果が大山童にもたらされる。 
 海からの滋養が、母なるヒュドラを、父なるダゴンを、祈念させるだろう。
 郷愁とともにその腕に戻りたい。と、迷い子を駆り立てるだろう。
 便りは来ない。海からの贈り物には触れさせない。
「絶対に、ゴールラインは割らせない!」
 シビリスが肩代わりしてくれたおかげで、チームの底上げの任から解き放たれた快は一声吠えた。
 蹴り飛ばすように脱ぎ捨てる靴。
 手を放している余裕はない。愛用のナイフを指から地面にすべり落とし、上から踏みつけ固定し、エッジにかかとを当てて踏ん張る。
 ナイフエッジデスマッチ。一歩も退かずにステゴロ勝負。無茶極まりない意地を形にすることによって、更なる自分の底力を引き出す自己暗示の最たるものだ。
(たとえ踵に刃が食い込んでも、一歩たりとも退きはしない。アイツの言葉を借りるなら――)
 脳裏に白い制服に身を包んだ不退転の臆病者の顔が浮かんだ。
「ここが、俺達が境界線だ!」
 
 死に物狂いの巨大生物との攻防。
 稼いだ貯金は使い果たし、ジリ貧になりながらも、イカそのものを切り刻んでいる。
 時間は残り一分を切り、イカの大きさは既に当初の三分の一。
 後は、届いたか届かないか。
 神秘の世界はゼロワン。どれほど僅かでも地上にイカの身が届けば、ここまでのリベリスタ数十人の努力は水の泡。これから、大山童と戦う仲間に多大な負担となる。
 過去と未来に報いるために、リベリスタは今ここで死力を振り絞る。
 ほんの30秒を生き延びるための体力を回復させられるまで、繰り出され続けた綺沙羅の式神が、傷ついたリベリスタの代わりに幾度となく灰燼に帰した。
 作り出した一瞬の隙にイカにとりつきなおし、得物をかざして、押しとどめ続けた。
(ここまで来たら最後は根性だ)
 回のかかとに刃がめり込む。すぐに再生されるが、切り裂かれる痛みが全身を駆け巡る。
 快はさらに大きく前に踏み出した。
 不揃いに千切れた触腕の中に突っ込んで組み付き、身体全体使って押しとどめる。
「ラガーマン舐めるなよこの野郎!」
 ラグビーの為に人生一年費やして、瀕死の事故で覚醒したため、命と引き換えに競技人生が終わってしまった男は、それでもそのスポーツを愛している。
 公式競技に出られなくたって、生涯、この生き様がラガーマンだ。
 小さな体をイカと地面の下に潜り込ませて、上からのしかかってくる巨体を、ヘクスは下から盾を突き上げることで地面との接触を防いだ。
 数千の命が賭けた願いの成就を阻み続けるのが今日のヘクスの役目なのだ。
 その横に、未明がもぐりこんでくる。
 突き上げる刃の柄を覆う勢いで燃え盛るイカがのしかかって来る。
 息苦しい。ひたすら酸素が恋しかった。
「お互い最後の悪あがきといきましょう?」
 ヘクスに向かって未明は呟く。
「その一念は見事だけど――」
 イカの黒いまなこに知性はない。
 原初の一念。
(『本物のイカなら、ここを刺せば活け〆だ!』 とか、快が言ってたわね)
「――こっちも通すわけにはいかないのよ!」
 その眉間に深々と刃をつきこんで重力に逆らったほうに持ち上げた。
 どのくらいの時間が過ぎたかわからなくなっていた。
 
 イカの食欲を掻き立てる匂いが完全に炭の匂いに変わったとき、今までのかかっていた負荷が一切なくなり、イカを形作っていたすべてが灰になって、頼りなく夜の中に吸い込まれていった。
「食べられる為だけにわざわざこんな山奥まで飛んでくるとか酔狂な連中……」
 綺沙羅が小さく呟く。
 ああ、一つの命と心を救うべく費やされた数千の犠牲は全て灰に。
 世界のために。崩界を防ぐために。
 全て灰となった。


 細い糸が途切れた。
 悲しみが、絶望が、怒りが、慟哭が、せめて繋ぎとめていた理性を飲み込む。
 起き上がったら、もう体を保てないのはわかっているのに。
 それでも起き上がるのだ。
 もう、誰も来ないのだから。
 来てくれたことだけは伝わった。それに報いなくてはならない。せめて。
 せめて。


 足元が急に不安定になる。
「――お疲れ様です。当該区域は引き続き戦闘区域になります。速やかに撤収。撤収ラインは各AFに配信済み。繰り返します。当該区域は――」
 アラーム音に急き立てられるように、即時撤収。
 リベリスタ達は離脱に入る。
(大山童、一目くらい見たいな)
 綺沙羅は振り返る。
 競りあがる、奇岩石室の後。
 苔むした爪先が、岩の跡から突き出るのがかろうじて見えた。
 慌てて前を向き、走ることに集中する。
(イカ焼き食べたい……)
 出来るだけ楽しいことを考える。
 そうしなくては、垣間見えた目を、何もかもを諦めた目を夢に見てしまいそうだから。

 まだ、夜は明けない。
 最後の戦いのため、新たな戦士が戦場に送り込まれようとしていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 カッコイイな、君ら!
 そして、イカ焼きが大人気。どんだけ現場が香ばしかったのか。
 しょうゆが持ち込まれなかったのが不思議なくらいです。

 皆さんの尽力により、大山童のパワーアップなし。飢餓状態でのスタートが確定しました。
 ゆっくり休んで、帰りはイカ焼きで打ち上げでもして、次のお仕事がんばってくださいね。