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狂人演じし先の狂人

●激昂した力の矛先
 とある民家の一室にて。
 その部屋は、正に惨状といって良かった。
 一人の青年が立ち尽くし、肩を震わせ笑っている。
 彼の前に広がる光景、それは真っ赤に染まった部屋の壁、そしてかつては人間であったはずの、幾つかの肉片が散らばっていたのだ。
「は、はははははぁぁぁぁあ、ははは。いけないんだ、姉さんたちがいけないんだ! ボクは悪くない、姉さんたちが、みんなが悪いんだぁぁぁあああ!」
 息を整え、青年が叫びだす。
 そして、彼はまだ大きな肉切れだった残骸へその拳を振り下ろし……鈍い音と共に、再度部屋に血糊がぶちまけられていく。


 ………………
 …………
 ……

 時間を巻き戻し、事の発端を見てみれば。
 全ての責を他者に押し付け、自らを正当化する青年の横暴が元凶だった。

「ボクは悪くない、姉さんが悪いんだよ! 無理させちゃいけないって、理解してよ!」

「ボクは病気なんだよぉ! だから、健康な姉さんたちが、家族だから、助けてくれて当然だろ!? なんでだよ、なんてわからないんだよ!」

「なんだよ、なんでボクを心の病気とか言うんだよ! 勝手に人を病人扱いしやがって! あんな、わけもわからず人を殺したりする、狂った奴等と一緒にしないでよ!」

「ボクだって、好きで病気になったわけじゃないんだよ! なんでだよ、なんでそんなに責めるんだよ!」


 2人の姉が、色々と諭すよう言葉をかけ、彼の反論に対し、何らかの対処法を示す。
 だが、彼は提案を受け入れる事無く、別の理由をつけては自分を正当化し、無理難題を突きつける。
 親族、世間の目もあり、2人の姉は耐え続け、世話をしてきたが限界が訪れるのは自明の理。
 2人の姉は、気付いていたのだろう。
 彼が、病気を装い、逃げ続けていたことに。
 出される提案を拒否し、自分が安らげる事だけを求めていた事に。
 だが、彼女たちは気付いてしまったが故に、もう一つの事を見落としていた。
 それは、彼が病気を装い続けようとしたあまり、真に心を病んだ事に。
 彼の言い分は、殆どが演技だと思ってしまったが為に、見落としてはいけないサインを見落としてしまったのだから。


「いいのかよ!? 本当に、本当に首をつるぞ!? 今から自殺するぞ、後悔するぞ!」

「死なれたくないんだろ!? なんだよ、勝手にしろとか、家族なのにふざけるなよ!」

「お前らが、姉さんたちが悪いんだぞ! ボクの言う事を聞いて、ボクの考えが分かったら、こんな事にはなら……えっ?」


 2人の姉の前、あてつけで死んでやると宣言、ロープをくくり、輪を作る。
 そして、椅子に登り輪へと首を通し、彼は自らを脅しの道具として用いていた。
 だが、彼の病気は演技だ、と思っていた姉たちはそっけない態度、どうせ本当に吊らないだろうとタカをくくり、勝手にすればいい、と言い放つ。
 冷め切った態度の姉に苛立ち、口汚く罵る彼ではあったが、ふとした拍子にバランスを崩し、そしてそのまま首を吊る。

 だが、彼はその『死が見えた瞬間』覚醒した。

 全ての指が刃と化した右手を振るい、己を吊るすロープを断ち切る。
 一瞬の浮遊感、一拍置いて地に足付けば、間を置かず跳躍、突然の出来事を前にし、声も出せぬ姉へその右腕を振り下ろす。
 飛び散る鮮血を身に浴び、彼が狙うはもう1人の姉。
 悲鳴を上げる間も無く、飛び掛った凶刃に彼女は倒れ、冒頭の惨状へと繋がるのであった……


「救いの無い、後味の悪い事件よ。でも、このまま放ってはおけない」
 目を伏せ、真白イヴ(nBNE000001)が見た光景を語り出す。
 姉2人を持つ青年が、病気を装い自己正当化。
 世間の目を気にする姉へ無理難題を押し付け、病気であると演技し続けた結果、己自身の心を病み。
 そして、愛想をつかした姉に見放される事を阻止すべく、狂言自殺を企てた結果、不慮の事故にて死亡……する筈だった青年が、死を前にして覚醒したのだ。
「だけど彼はフェイトを持たない。得ることも出来ず、すぐにバケモノに成り下るわ。2人のお姉さんを助ける事は出来ないけど、街に出て暴れまわる前に倒す事はできる」
 顔を上げ、リベリスタを見据えるイヴ。
 誰一人救われる事はない、しかし放置は出来ない仕事である。
「まだ、人としての知性と感情は残っているわ。むしろ、感情が強烈過ぎてそれに縛られている感じね。だからこそ、強力であり、隙がある」
 感情の赴くまま、己が演じた、そして自ら陥ったその主張に酷く拘る彼。
 それ故、感情に任せた攻撃は現在のフェーズ以上の危険度を見せることもあれば、彼の主張を砕き、迷い、論破できればその威力は大きく減じるであろう。
「ただ、力任せに押さえ込むだけだと手痛いしっぺ返しがあるかも知れないわ。だから、その点だけ注意して。これ以上の犠牲者を出さない為にも」
 淡々と言葉を紡ぎ、イヴの説明は終了。
 狂人演じ、自ら狂気に陥り全てを失う青年を討伐する任務へと、一同を送り出すのであった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:プロスト  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月14日(火)22:56
 こんにちは、プロストです。
 今回は心情メイン、狂人を演じ自ら狂人へと成り果てた青年を倒していただく事となります。

 大雑把な情報を以下に。

青年
遠山・明(トオヤマ・アキラ)
刃の右手(近接単体:ダメージ特大~中まで変動)
喚き散らす(自己回復:回復大~小まで変動)
到着時点で、姉2人の遺体を損壊、リビングにて待機している模様

戦場
郊外の一軒家
近隣住宅との距離はそれなりに離れている
リビングの広さは10畳程度、隣接する和室やキッチンを含めれば18畳程度の広さはある
室内に踏み込むか、家の外に誘い出すかは自由

 戦闘力は高め、状況によってはとんでもない威力の攻撃が飛んでくる可能性があります。
 また、リベリスタが到着、交戦状態になれば、逃走の恐れは有りません。

 どういった態度で、言葉で臨むかは皆様の自由です。
 言葉紡がず、ただ力で押さえ込みに掛かるも道。
 主張を強く否定、そのまま圧倒するも良し。
 別方面からのアプローチにて、揺さぶりを仕掛ける事も可能でしょう。
 彼を救うことは不可能、姉の惨殺を止めることも出来ませんが、これ以上彼の凶刃に斃れる人を出さぬよう。
 更なる脅威に成り果てる前に、討伐を。

 皆様のご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
インヤンマスター
桜場・モレノ(BNE001915)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
マグメイガス
★MVP
コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)
ナイトクリーク
青島 沙希(BNE004419)
ミステラン
シェラザード・ミストール(BNE004427)

●役者揃えば幕開く
「いやー、この手の人って迷惑ですよね。自分を症状に当てはめようとするから、面倒なことこの上ないし」
「病は気から、とは言うし、気の毒は気の毒な部分もあるのだけど……」
「……此度の敵の思考、まったくもって理解できません」
 柔和な笑顔を浮かべつつ『飛刀三幻色』桜場・モレノ(BNE001915)が呟けば、彼に続く様に『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107) が哀れみ、シェラザード・ミストール(BNE004427) が種族の違いか、理解出来ぬと言葉を漏らす。
  今宵、一同が目指す先は一つの民家。
 止める事出来なかった惨劇を演じ上げ、此れよりまた、狂人を演じ己が狂人と成り果てた憐れな役者と一つの舞台を演ずるは、上記3名を加えて8名。
「ま、本人に何も言う事は無いわね。ノーフェイスだし、捨てておけって感じ」
「全くだ。更生の機会は何度もあった、だが、全部ヤツがダメにしたってだけだ」
 呆れ果てた様に顔を合わし、意見を交わすは『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)と『ジェネシスノート』 如月・達哉(BNE001662)
 そんな2人の会話を聞きつつ『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419) が静かに頷けば、目的地である民家周辺に結界が張り巡らされる。
「阿呆の巻き添えが増えても面倒だ。無価値な存在だが、殺す価値が認められたんだ、盛大に祝ってやるか」
「えぇ……姉さん達の思いを踏みにじって、なお己の醜悪な願望を垂れ流すこの男は……どうしても、許せない」
 結界を張り、標的たるノーフェイスへ侮蔑の感を示す『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086) と嫌悪感を露にする『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)
 無関係な一般人が巻き込まれる可能性を結界にて遮断、外部から攻勢を仕掛ける杏を外に残し、一向は舞台たる民家へと踏み入るのであった。

●観客無き舞台
「なんだ、誰だよ、おまえら? ぶっ殺すぞ?」
 刃と化した右手から不快な金属音を響かせながらノーフェイス、遠山・明は不躾な侵入者を睨みつける。
 が、その様な威嚇など意に介さず、7名は部屋へと展開、明を完膚なきまで叩き潰す行動を開始していた。
「私たちはリベリスタた。といっても君にとっては何のことかさっぱりだろうね。端的に言えば、君を殺しに来た者だ」
 コーディによる自己紹介、今から複数人の手で殺害します、勿論君の自業自得とばかりに、残る面々の表情も蔑み、怒り等、好意的なモノは一つも無い。
「なんだよ、なんなんだよ! 姉さんがボクを見捨てたら、今度は人殺しが来るのかよ、なんだよ、ふざけるなよぉ!」
「五月蝿い、囀るな。糞袋が中身撒き散らしに進化したのか?」
 心底見下した目でユーヌが呪印を結べば、明を縛り上げるべく文言の結界が生じる。
 だが、それを右手で強引に引き千切り、侮辱された事へむき出しの殺意で応えていた。
「嫌だ、ボクは悪くない、お前ら、やめろ、殺すぞ!」
「……本当に、かわいそうですね」
「えっ?」
 レイチェルがふと、同情の言葉をかければ、明の動きが一瞬止まる。
 だが、その言葉は彼にかけられたものではなかった。
「貴方が? 何の冗談ですか、かわいそうなのは、彼女達ですよ」
 向けていた視線が、肉切れとされてしまった姉達の骸へ向かう。
 ワガママに付き合わなければ。
 構っていなければ。
 好きなことをして、自分達の幸せを見つけられたのに。
 貴方(明)が我慢していれば。
 貴方(明)が死んでいれば。
 死なずに済んだのに、不幸にならずに済んだのに。
「貴方なんて居なければ、皆幸せだったのに。貴方なんて、死ねば良いのに」
「違う、違う、ボクは悪くない、病気だったんだ、しかたないだろぉ!」
 呪詛の如き言葉を受け、取り乱す明。
「なら、どうして病気を治そうと、病院へ行こうという言葉を跳ね除けたのですか?」
 何とか自分は悪くない、と言葉をひり出すが、それを良しとせずシェラザードが矛盾を突いて追い詰める。
「病気なんですよね? 病院へ行こう、と言われたんですよね? どうして、そこで病気じゃないと言ったんですか」
「そ、それは! 狂った様な連中とは違うのに、そいつ等と同じ扱いを……」
「違うというのなら、それを証明する為に病院にも行けましたよね?」
 まくし立てる様に矛盾を突き、シェラザードが追い詰める。
 言葉で否定しようとするも、上手く反論が浮かばない明は体を屈め、シェラザードを黙らせようと跳躍するが、その攻撃は届かない。
「はい、そこまでー。大体努力が足りないのよ、全体的に」
 窓ガラスをブチ破り、派手な音と同時に四色の光が明を襲う。
 その衝撃で地面へ叩きつけられ、視線を外へと見遣れば此方もまた、彼を侮蔑する顔で家の中を見遣る杏の姿があった。
 そのまま容赦なく、外部から注ぎ込む光で攻め立て、同時に冷淡に、明を突き放す言葉が流れ込む。
 歩み寄りがあったんでしょう? 自分からも歩み寄るべきだったわね。
 家族相手ですら、交渉できないなんて社会不適合者としか言いようが無いわよ、と。
「違う、違う、ボクはそんなんじゃ……ッ」
「へー、そんなんじゃないんですか、そーですかー。放り出されたらのたれ死ぬニート風情がいいご身分ですね」
 否定を許さず、モレノが更なる追い討ちを。
「で? あなたは病人として扱って欲しいのですか? それもと健常人? それだけ元気に動ければ、病人のはずないですよね~
 あなたのようなのがいるから普通の、本気で病気で苦しんでる人が迫害されるんですよ、さっさとこの世から退場したらいかかですか?」
「見苦しい。見た目はさておき、道化だな、仕草そのものが」
 小ばかにしたモレノ、完全に見下したユーヌ。
 地に伏せたままの明へ浴びせられる、容赦ない言葉が彼の平常心を奪っていく。
 屈辱、怒りに身を震わせ、ガチガチと歯を鳴り合わせた彼が立ち上がった時、信じがたい光景がそこにはあった。
「う、うそだろ……ねえ、さん?」

●道化と役者の舞台の先は
 眼前には、今しがた引き裂き、その肉片をぶちまけたはずの姉が居た。
 いや、正確に言えば、他の面々が明を引きつける合間に姉の死体を観察。
 かろうじて形状が判別できた顔をベースに、姉へと化けた沙希が立っていた、という事だろう。
「………………」
 言葉を出さず、また嘘なのでしょう、と諦めきった顔で明を見る沙希。
 平静を失い、散らばる死体と沙希を交互に見遣り明が困惑する合間に次なる揺さぶりの布石は放たれていた。
「死に損ないが動くんだ。なら、死んだはずの人間が蘇る事も、血溜まりから何かが動き出すこともあるだろう?」
 沙希の揺さぶりに便乗、ユーヌが骸を指差せば、其処から立ち上がるは影の人。
 注意が変装した沙希に向いた間に、ユーヌが符を骸へ投擲。
 混乱していた明へ追い討ちの言葉と共に、思念が影の人と化し、蘇ったかのように錯覚させていたのだから。
「いやいや、お姉さん達も納得いかなかったんでしょうね。頼れるだけ頼ってきて、最後は衝動のままに殺されちゃったんですから。ま、どーぶつ以下ですね」
 モレノの言葉に、何とかちがう、と聞き取ることすら困難な呟きで返そうとした明。
 そして、恐怖から逃走を思案した彼は窓の外を見遣るが、そこには延々と光を放つ杏の姿があり、逃げることなど叶わない。
「逃げようなんてことは許さない。少しでも罪悪感はあったのかい? 変えようという気持ちは無かったのかい?」
 コーディが一歩進み出れば、脅えるように下がる明。
 既に大勢は決したが、リベリスタ達は追及を緩めない。
「お前の姉とやらは献身的に行動した。それに対しお前は何をした? 罵倒し、もっと尽くせという。疲れて休みたいにもかかわらずだ」
 達也が怒りの篭った言葉を紡ぎ、さらに畳み掛けていく。
「お前はただ怠けて、彼女たちがくれる無償の愛とやらに胡坐をかいて座っていただけのどうしようもないクズだ。お前が彼女たちを限界まで追い込んだんだろう」
「ち、ちが……ボクは」
「違わないね、お前は被害者じゃなく加害者だ、自分が家族を滅茶苦茶にしたことを自覚しろ、この人殺しめ」
 既に他の面々から追い込まれ、気力の萎えた明にとって達也の言葉は重すぎた。
 自分自身が行ってきた事をそのまま返されたのだ、見たくない、認めたくない弱い自分である他者への罵倒が、自らを罵倒する言葉として。
「もっと分かりやすくはっきり言ってやろうか? 2人の姉は、お前を見捨てるべきだったんだよ、たとえ家族と言えども越えちゃいけないラインはある。
 お前がそこを越えた時点で精神病院にぶち込んで終わりさ、世間体とか気にせずに自分の人生を優先すればよかっただけの話しだ。同じ人の親としてこんなクズを育てた親の顔を見て見たいもんだよ」
 一気呵成にまくし立て、反論を許さない達也。
 だが、リベリスタの任務は言葉で明を屈服させる事にあらず。
 異形と化した彼の命をここで、確実に絶つ事なのだから。
「……私はね、君には全く同情できない。ここで一片も残さず消すことに戸惑いもない」
「そーね、アンタの為を思って色々言ってくれたお姉さん達の本当の優しさに、早く気付いてあげれたら良かったわね」
 今一歩、近づいたコーディと勝負は決したとばかりに言葉を紡いでいた杏。
 喚き散らそうにも、言葉にならぬ言葉を捻り出す明を道化とした舞台、その閉幕は刻一刻と近づいていく。
「私からも質問を。答えられるかわからないけど、狂った貴方と狂っていない貴方。貴方の理想はどっち?」
 変装を解き、沙希が舞台の終わりを前にして役者たる明へ問いかける。
 戦う前ならば、狂っていないと威勢良く返せたであろう彼ではあるが、今はもう、真っ当な答えなど返せないだろう。
「狂った自分が望みならば、今の貴方は本当に素適な役者さん、と賞賛を送りたいわ。でも、今となってはもう、貴方の舞台のお客さんだったお姉さん達は居ないの。舞台がはねたのに、役を演じ続ける必要はないじゃない?」
 真っ当な言葉なく。
 ただ、呻きながら涙を流す明が抱くは恐怖か、それとも後悔か。
 それを推し量る事は、狂人となった彼以外には出来ないのだろう。
「さて、幕は終わりだね。何の反省も無く君が死んだのでは、お姉さん方が報われぬだろう?」
 今まで、明が思う以上に気を使っていたのだろう。苦しくても『家族故に』接してきた、そんな姉達に、あの世で顔向けできるのか、とコーディが問いかける。
 だが、もう返される言葉は無い。
 心折れ、反論する気概を無くした明はただ『シニタクナイ』と呟き攻撃を。
「とと!? さっさとこの世から退場して欲しいので、じっとしててくれませんかね?」
 モレノの肩を爪の一撃が掠め、言葉無くし反抗を試みる明にリベリスタの攻勢が突き刺さる。
 猛攻を凌げず、無理に突破を図った刃の威力は既に無く。
「これで終わりにしましょう。これ以上、苦しむ必要もないでしょう」
 ボロボロの体で跳躍し、包囲から逃れようとした明の胸部へ一筋の光が突き刺さる。
 狙い定めたその一撃、シェラザードの放つ魔弾はそのまま明の体を貫けば。
 おびただしい血液と共に、彼は自身が殺した姉達の、血糊の海へと沈んでいく。
 喝采されること無き喜劇の幕は、こうして下ろされていた……

●舞台の後に
 静寂訪れた民家に、再び銃声が木霊する。
 退屈そうに明の亡骸、その頭部へ二度と復活できぬ様にとユーヌが銃弾を撃ち込んでいたのだ。
「あーあ、めんどくさい相手だったわね。結局、お姉さん達の気持ちとか知らずに死んでいったのかしら」
「わかりません。ですが、苦しみ、後悔だけはしたと思います」
 杏が伸びをしながら呟き、レイチェルがその亡骸を見つつ昂った感情を落ち着ける。
 嘘で塗り固めた青年の末路、あまりに救いのない結末を迎えた下手糞な嘘を見て、シェラザードは仲間の言葉を思い出していた。
『本当に嘘の上手い人は、嘘を極力つかないらしい』
 と。
 それを思えば、嘘を見抜かれても尚、同じ嘘に固執した彼はただ、哀れなだけだった、と。
 全てが終わった舞台、役者はこれ以上佇む必要は無く、一同は帰途につく。
 民家より立ち去り、夜闇へ溶け込む中、ふと沙希が立ち止まり民家へと振り返る。
「佯狂を続けているうちに本当に狂っちゃった、か」
 誰にも聞こえぬ小声で呟けば、彼女は自身が演じる姿である『表向きだけ性格良くて、裏では冷徹で性格悪い女優』へと、いずれ自らが成り果てるのでは、との思いが過ぎる。
 それは、彼と同じく演ずる事に徹するが故の危惧なのか、はたまた決められた結末か。
 誰にも甘えず、馬鹿みたいに意地を張っているが故、遠山明を笑えぬと自嘲しつつ、彼女は踵を返し仲間を追う。

 闇の幕下りた舞台、その幕は再び上がる事は無く。
 次なる舞台が如何なる劇か、そして喝采を受けるモノなのか。
 それを知る者は誰も無く、ただ静寂と闇だけが、そこには残される……

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 参加者の皆様、お疲れ様でした。

 心をへし折り、抉り取るプレイング。
 私の心にダイレクトアタック状態で、どう絡めて行こうか、と嬉しい悩みに悩まされる形となりました。

 MVPの選定も、相当悩みましたが、今回はこの方に、という事で。

 心情系シナリオ、如何だったでしょうか?
 ご満足いただければ幸いです。
 では、また、いずれか機会がありましたら、その際は宜しくお願いします。