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【ラトニスの遺産】黒金の体のアレキサンダー


 ――――むかし、むかし、あるところに一人の錬金術師がおりました。
「ねぇ、パパ。……れんきんじゅつしって何?」
 あぁ、そうか。錬金術師じゃ分からんか。えーと、そうだな。じゃあ、むかしむかしあるところに一人の魔法使いがおりました。
 魔法使いといっても、火の玉を出すような魔法使いではなく、自分で勝手に踊り出す人形や、幾らでも水の出る魔法の如雨露なんかの、不思議な道具を作るのが好きな魔法使いでした。
 ある日、その魔法使いは一匹の黒猫と出会います。
「猫さん?」
 そう、猫さん。お前も好きだろう? その魔法使いも猫が好きになったんだ。
 猫と魔法使いは友となり、楽しい時を過ごします。
 肩に猫を乗せて旅をしてみたり、猫が喋れる様になる道具を作ってみたり。
 魔法使いにとって猫と過ごした時間はかけがえの無いものでした。
 けれど出会いがあれば別れも必ずやって来ます。人と猫では生きる時間の長さが対等ではありません。
 猫を失った魔法使いは哀しみに暮れ、その哀しみを埋める為に猫の彫像を作ります。
 新しい猫を飼う事は考えませんでした。哀しみを繰り返す事になるのを恐れたのです。
 魔法使いは決して朽ちぬ特殊な黒金の身体で猫を作り、そして命を吹き込みます。
「魔法使いって凄いね!」
 そうだな。凄いな。
 …………でもそれから更に時は流れ、魔法使いはその事を大きく後悔する日が来ました。
 別れが再びやって来ます。今回、相手を置いていってしまうのは、魔法使い。
 魔法使いは黒金の猫を抱き締め嘆きます。朽ちぬこの子に、自分は永遠の孤独を強いるのかと。
 しかし魔法使いには、自分の手で愛しい黒金の猫を壊す事も出来ません。
 唯、魔法使いは死の間際に黒金の猫を封印しました。
 永遠に朽ちぬ体を与えると言う、傲慢で残酷な仕打ちが己が生涯で最大の失敗であると悔いながら。
 まあ、それがお前のひいひいひいひい爺さん位のご先祖様の話だ。父さんのひい婆ちゃんから聞いた話だからな。
 うちも多くペットが居るけど、正太郎、あの子達の誰もお前より長生きをしてくれやしない。
「ねえ、パパ」
 ん、どうした?
「その黒金の猫さんはどうしたの?」
 ……そうか、お前は自分のご先祖の話より猫が気になるのか。まあお前はそうだよな。
 確かフローテ婆は屋根裏の物置にあるって言ってたから、ちょっと見に行ってみるか。
「うん!」

 嗚呼、もしフローテが正太郎を一目でも見ていたら其れを禁じていただろう。
 けれどフローテは、錬金術師ラトニスの孫は10年ほど前から其の消息を不明としており、正太郎の存在を知りはしない。
 その昔、黒金の猫にラトニスが付けた名は、矢張り『Alexander』。
 正太郎と黒金の猫は出会い、そしてラトニスの遺産、失敗作達の物語がはじまった。


「さて、御機嫌よう諸君」
 ブリーフィングルームに集うリベリスタ達を見回し、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。
 彼の腰掛ける車椅子がギシリと軋む音がする。
「諸君に集まって貰ったのは他でもない。諸君は以前行って貰った数度の猫探し、アレキサンダーと言う名の猫達と其の飼い主である正太郎君を覚えているだろうか?」
 ある付与術師『ラトニス』の遺産である失敗作のアーティファクトを着けた猫達とのやりとりを。
「そう、ある意味まただ。けれど、恐らく此れが最後だ」
 恐らくとは言いながらも、逆貫の言葉には確信が満ちている。
 リベリスタ達に手渡されるのは逆貫御手製の資料。
「今回のアーティファクトは此れまでのラトニスの遺産騒ぎの元凶であり、そして今回の猫でもある」


 資料
 アーティファクト:Alexander
 金属の身体を持つ黒猫のアーティファクト。
 朽ちぬ体と高い運動能力、人間並の思考能力、そして意思を持つ。
 人間や動物との意思疎通も可能。
 短時間ならば人間の姿への変身も行なえる。
 ラトニスが最も力を注いで作成した最高傑作であり、同時に彼の生涯で最大の失敗。
 他のラトニス製のアーティファクトの使用法を熟知しており、其の幾つかを所持している。
 戦闘能力も所持するが、其れは自衛の為か主を守る時にのみ使用可能。
 

「彼、黒金の体のアレキサンダーが今も尚動けるのは、彼の身に宿るラトニスのフェイトの残滓が齎した奇跡だろう」
 強すぎる愛情はまるで呪いの様に奇跡を起こす。
 だが其れも恐らくは時間の問題なのだ。かの付与術師、ラトニスが生きた時代はもう100年以上昔の話なのだから。
「彼は長い時を孤独に震えながら眠っていた。けれど其の眠りの果てに、彼は正太郎君と出会ってしまった。ラトニスの末にして嘗ての主と同じ匂いのする少年と」
 懐かしさに目覚めたアレキサンダーは希う。少年が革醒し、己の新たな主とならん事を。
 アレキサンダーは少年が自らの存在を受け入れて貰えるよう、其の身の回りで不思議な事件を起こした。
 少年の飼い猫達の想いに協力して。或いは彼らに協力を乞うて。
「しかし彼に誤算が生じた。最初、ラトニスの遺産が起こす騒ぎの後始末は彼自身、黒金の体のアレキサンダーがする心算だったのだ。彼の目的は正太郎君に神秘や自分の存在を知らせる事で、正太郎君や其の飼い猫達を不幸にする事ではないのだから」
 けれど彼より先に現れたリベリスタ達は次々に騒ぎを解決していく。
 手持ちのアーティファクトは尽きてゆき、そして自らの残り時間も僅かとなった。
「故に彼は最後の賭けに出た。正太郎君に直接会い、革醒めて欲しい、主になって欲しい、抱き締めて欲しいと願い出ようとしている」
 神秘との接触が其れ即ち即座に革醒の引き金となるとは限らないが、この世界の運命は何を仕出かすか判らない。強い想いは何を引き起こすか判らない。
「正太郎君がフェイトを得る運命なのかどうかは私には判らない。ラトニスの末であるならば或いはとも思うが、……けれどどうあれ私が其れを望まない」
 強い口調で逆貫が首を振る。
「当たり前の子供としての生活を、未来を、歪める事を私は望まない。そう、諸君への依頼は私の我侭だ。諸君等に対して其れを歪みだと言い切る私だが、どうか頼む」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月15日(水)22:59
 ラトニスの遺産最終話です。
 ミッション目的は『Alexander』の回収or破壊。その他の条件はお察し下さい。

 正太郎君は風香ちゃん(【ラトニスの遺産】長靴を履いたアレキサンダー9世に登場)と篤志君(【ラトニスの遺産】尻尾の分かれたアレキサンダー4世に登場)と共に公園で遊んでいます。

【ラトニスの遺産】ぼくのアレキサンダー12世をさがしてください【ラトニスの遺産】長靴を履いたアレキサンダー9世、【ラトニスの遺産】尻尾の分かれたアレキサンダー4世、の続きなのでもし良ければそちらもご覧戴けると僕が喜びます。


 ラトニスの遺産も4話目です。最初から4話目が最終話になる事は決めていました。
 こんなお話です。
 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クロスイージス
ステイシー・スペイシー(BNE001776)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
プロアデプト
ロッテ・バックハウス(BNE002454)
ダークナイト
カイン・ブラッドストーン(BNE003445)
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)


「正太郎、えーと、……今日こそ決着をつけてやる!(大根役者)」
「イクラアツシクンガアイテデモフウカチャンハワタサナイ(死んだ魚の目)」
「2人とも、私の為に争わないでーっ!(ノリノリ)」
 公園で遊ぶ3人、篤志、正太郎、風香の姿。ちなみに遊びの内容は『三角関係ごっこ』(風香ちゃん提案)。
 正直何が楽しいのか判らないままに複数回繰り返す似た様なやりとりに完全に目が死んでいる正太郎に、気のある女の子の頼みゆえに張り切るが結局大根な篤志、そして1人活き活きと楽しそうな風香ちゃん、今日も三人は仲良しだ。
 正太郎の飼い猫であるアレキサンダー達を巡る事件の最中に、リベリスタ達の手助けもあって絆を結んだ幼稚園児達。
 そんな彼等をベンチに座る『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)は手の中の本から視線を上げて眺め、ほんの僅かに唇を緩ませた。内容はさて置き、無邪気に遊ぶ彼等は矢張り未来に満ち溢れている。
 彼等を眺める遠子が思うは、彼等の一人、正太郎と同じ名前を持つ自らの幼馴染。
 自分と同じく革醒者の彼には、何でも相談出来るし、とても頼れる。もし彼が革醒して居なければ今頃自分達の関係は秘密を抱えた、今とはまるで違う物だったに違いない。
 けれど……、遠子は子供等を見て思う。風香と篤志と、恐らくきっと幼馴染と呼ぶ事になるであろう彼等と遊ぶ正太郎。
 もし自分に彼と同じ名前の幼馴染の革醒を食い止める機会があったとするならば、遠子は例え己が孤独になると判っていてもそれを食い止めるだろう。
 無論この正太郎は遠子の幼馴染ではないし、眼前の彼を救った所で重ねる其れが救われる訳じゃあない。
 でもそれでも、革醒を食い止めたい、救いたいと願ってしまったから。
 遠子は3人の子供達に近付いていくもう一人のリベリスタ、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)と視線をかわして一つ頷く。
「こんにちはなのだ。久しぶりだな、今日は仲良しさんだな」
 そう、雷音は3人の子供達全てと顔見知りなのだ。そして今までの事件に出てきた3匹のアレキサンダーや、3つのラトニスの遺産の事も、彼女は其の瞳で見てきている。
 笑顔で駆け寄って来る子供達に、雷音も笑顔を返し、そしてこう申し出た。少しでも近くで彼等を守る為に。
「仲間にいれてもらっていいかな?」
 え、三角関係に混ざるの……?


「お断りします」
 柔和な笑顔から突き付けられたのは有無を言わせぬ強烈なNo。
 珍しくスーツに身を固めた『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)の表情が僅かに強張る。
「…………理由をお聞かせ願えませんか?」
 ほんの一瞬の沈黙の後、何とか喉奥から疑問の言葉を絞り出しはしたのだが……。
 正太郎の父親の昼休みにアポイントを取ったステイシー。時村財閥系の美術館の職員に成り済まし、社員証も臨時の物とは言え正規に発行して貰っている。
 慣れぬスーツ姿や、敬語も、違和感が無い程度にはこなせていた。
 ステイシーが持ちかけた話は客観的に見ても、特に悪くない話だった筈なのに。
 事前に電子の妖精で入手した父親の連絡先も正太郎から聞いた事にしたのだけれど……、一体何が拙かったのだろうか。
「うーん、息子に大人の知り合いが大勢出来、良くして頂いてる事は妻から聞いていたんですが」
 まだ若さを残すとは言え一家を支える父親である彼の雰囲気に、歴戦である筈のステイシーが僅かに気圧される。
「まだ幼稚園児の息子からの繋がりで仕事の話を持ってくる人間を信用する事は出来ません」
 其の言葉にはっきりとした不信を篭めて。
 ステイシーは突いてはいけない藪を突いてしまった事を悟る。
 だがステイシーの表情に父親も自分が言いすぎたと思ったのだろう。
「まあそれにあれ等は曾祖母の物なんで、私が勝手に決める訳にもいかないんです」
 表情を緩めて言葉を続けた。
 10年前位から行方不明だと言う正太郎の父親の曾祖母は、年齢を考えれるならば普通はとうの昔に死んでいるはずだ。何せ彼女は実際にラトニスが生きていた時代の人間なのだから。
 つまりは彼女も革醒者だったのだろう。神秘界隈で丁度10年ちょっと前頃に起きた大きな事件と言えばアレがある。
 要するにステイシーは最初のアプローチの仕方を大きく間違ったのだ。しかしそれに気付いたとしてももう遅い。
「其れではそろそろ時間なんで失礼します。息子の事、宜しくしてやって下さい」
 最後の言葉が社交辞令か、釘刺しか、それとも本当にそう思ってなのかは判らないけれど。
 嘘から切り込んでしまったステイシーに其の背を追う術は無い。

 黒金の猫は行く。自分の知る其れとはすっかり変わってしまった地面を踏み、重い身体を引き摺って。
 嘗ての主と過ごしていた頃、大地は概ね土で出来ていた筈だ。変わったのは大地だけでは無い、家々も密集しているし、山の様に高い建物まである。空も風も違う。
 黒金の猫の身体が重いのは、其の身を動かすフェイトの残滓が尽き掛けている事だけが原因では無い。
 決して朽ちぬ様にと作られた黒金の身体は嘗てと変わらずとも、其処に宿る意思、魂は不変では無いのだ。
 長い孤独な眠りの時間は、意志を風化させ、魂の老いを招いていた。
 だが老いたるからこそ、尚寂しい。冷たい身体の黒金の猫が求めるは、懐かしい温もり。
 けれど……、
「フーッ!!!」
 それに気付いた黒金の猫は、逆立てる毛は持たずとも、地に姿勢を低く取り、警戒心を露わに構える。
 正太郎の居る公園へと至る道の向こう側から、こちらを目指して近付いて来るのは複数の神秘的存在。
 彼等の事は知っていた。彼等の目的も判っていた。
 此れまで他のラトニスの遺産、兄弟達をそうした様に、黒金の猫も捕獲する心算なのだろう。
 構えたままに、黒金の猫は一瞬迷う。強引に突破する心算なら、彼等が自分の戦闘能力を把握していないこのタイミングしかない。
 身体に残された僅かな力をフルに使えば戦闘機動で撹乱し、視界外から飛び上がって対象1人の首を刎ねる事位は恐らく出来るだろう。そうすれば恐らく彼等も驚き、一瞬だろうが突破のチャンスが生まれる筈だ。
 ……けれど、黒金の猫は戦意を解放し、踵を返して逃げ始めた。公園とは逆の方向へ。
 それを行なえば突破は出来るだろうが恐らく公園に辿り着くだけの力は残らないだろう。
 そして何より、遥か昔、黒金の猫が生まれ出でて直ぐに主と行なった大切な約束、自らと主の身を守る為以外では決して人を傷つけないと言う誓いに反してしまうから。
 例えこの道の先にしか自分の未来が存在しないと理解はしていても、妨害の排除を自衛だとの詭弁は行なえない。それは何より大事な、魂に刻まれた約束なのだ。


 幾度目かのリベリスタとアレキサンダーの鬼ごっこ。けれど正真正銘此れがラストだ。
 細い路地、壁を成すビルの壁を蹴り、背中の翼をはためかせて『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)が宙を舞う。
 路地の出口に現れた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の姿に黒金の猫は咄嗟に更に細い横道へと入る。
 けれど其れもリベリスタ達は計算ずくだ。アクセス・ファンタズムから響く声に頷くエレオノーラと旭。
 声の主は千里眼でこの一体全てを見通し、黒金の猫を行き止まりへと誘導すべく仲間達を動かす『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)。
「我が両眼に見抜けぬものなし!」
 豪語の通りに、彼はこの周辺の全てを把握している。
 其れは始めから結末の見えた鬼ごっこだった。
 黒金の猫に残された時間は少なく、何時か全てが潰えて溶けて消える。焦る一匹を、冷静に追い詰めれる複数のリベリスタ達が追い込めない筈がない。
「Alexander、少し話を聞いてくれないか?」
 僅かに乱れた息を整えながらツァイン・ウォーレス(BNE001520)が、
「にゃ~ん! あなたがAlexander様ですね? わたし、正太郎様のお友達なのです。黒金の猫さん、少しお時間お借りしてもいいですか?」
 腕の中に愛猫、Sleepyを抱き締めた『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)が、
「御機嫌ようアレキサンダー。少しあたし達とお話しましょう?」
 空の両手をひらひらと翳して敵意が無い事をアピールするエレオノーラが、黒金の猫に其の言葉を届かせる事が出来たのは、逃げ場の無い行き止まりに彼を追い込んだ後だった。
 追いかけっこに更に力を擦り減らした黒金の猫は、もう足掻く事すらせずにただ首を項垂れる。
 追い手であったリベリスタ達の、対話を求める口調は優しく、彼等に敵意が無い事は理解が出来た。けれどリベリスタ達と黒金の猫の目的が相反する事に変わりは無く、彼等の言葉は未来を諦めるように諭す、猫にとっては残酷な物。
 だがリベリスタ達の言葉には何一つとして間違いは無い。
「黒金の猫よ。正太郎の幸せとは、いかなるものか? 革醒すれば、正太郎の平穏は終わりを告げる」
 そう、カインの言葉通り、確かに正太郎が革醒すれば黒金の猫は幸せだろう。
 しかしそれが即ち正太郎の幸せであるとは限らない。
 今現在彼にある、幼馴染達と遊び優しい両親に守られた幸せは、確実に崩れ去るだろう。
 カインから言葉を引き継いだのは旭。自らの経験を振り返りながら語る彼女の言葉には、深い実感が篭っている。
「革醒者になったから出会えた楽しい事も沢山あるよ。でも、しんどい事の方がずっと多い」
 革醒者が誰かを理不尽に殺さなければならなくなる可能性は、一般人より遥かに高い。
 殺すだけじゃない。逆に殺されるパターンだって革醒者には付き纏う。
 家族や友達にだって言えない秘密が出来てしまう。どんなに仲が良くても、秘密は後ろ暗さを生む。
 血に手を浸した彼等は、綺麗なままの手を握る事に躊躇いを覚えるようになってしまうのだ。
 そして何よりも今眼前に迫る、正太郎を襲うかも知れない理不尽は、彼が運命の寵愛を得れぬ時にやって来る。
「もしフェイトを得られなかったら? その時は手を下さなきゃならないんだぞ……?」
 ツァインの訴えは叫びの様に。
 未来は何の保証も無い。運命は何時も意地が悪い。
「だけど君が100年ずっと願い、待ち続けてきた事も知ってる。なぁ、俺達じゃ正太郎君の代わりになれねぇかな? 一緒に遊ぼうAlexander!」
 それに次いだ彼の言葉は黒金の猫の頭の上を上滑りして行ったけれど、ツァインの言葉に猫は悟った。
 自分が見て、追い求めていた物は嘗ての主の面影だけで、正太郎自身を見ていなかった事に。
 眼前のリベリスタ達の姿が自分の中に入って来ない様に、正しい正太郎の姿は自分の中の何処にも無い。
 あれは運命の出会いじゃなく、互いに求め合った訳じゃなく、Alexanderが一方的に面影に縋っただけに過ぎないのだと、彼等の言葉に悟らされてしまった。
 自分がしようとしていた事は、1人の少年の未来を悪戯に乱し、或いは傷付ける行為だったのだと。
 猫が気まぐれで自分勝手なのは何時もの事だけど……、
「……人間って勝手ね」
 黒金の猫の内心を察したように、エレオノーラは呟いた。
 寂しさ故に黒金の猫を作り出し、愛情故にそれを破壊できなかったラトニスに対して。
 そして正太郎の為に残酷な正論を黒金の猫にぶつける自分達自身に対して。
「勝手だからこそ、同じ悲しみを子供に背負わせるなんてあたしは嫌」
 ああ、リベリスタ達は何一つ間違っちゃいない。
 そして黒金の猫は諦めた。
 彼は主との約束で、自衛か主を守るため以外には他人を傷つける行為を行なえないから。
 その主が居ないこの現代で、黒金の猫にはもう何の望みも一つとして残っちゃいない。
 諦めは黒金の猫の身体から、最後の力を奪い去る。もう何の必要も無い奇跡の最後の残滓を。
 けれどその時、黒金の猫の酷く冷たい金属の体に、暖かな手が触れる。
「ごめんね。本当はご主人様に抱きしめて欲しいですよね」 
 優しい謝罪は、瞳に涙を浮かべたロッテから。
 リベリスタ達の手が眠り行く猫に伸びる。少しでも暖かさを伝えようと、少しでも寂しさを紛らわせようと、撫で、抱き締める。


「……うん、そうか。…………判った」
 アクセス・ファンタズムを通しての旭からの連絡とごめんの言葉に、雷音の頬を熱い雫が伝う。
 彼女が其の姿を見る事も無く、黒金の猫はその機能を停止した。
「ねぇ、お姉ちゃんなんで泣いてるの?」
 不思議そうな、何も知らない子供達の声が、殊更に彼女の心をかき乱す。
 けれど雷音の背に触れる手。彼女の気持ちを察し、共有してくれるこの場の仲間、表情に悲痛さを滲ませる遠子が雷音の背を優しく撫でた。
「……ありがとう遠子。ボクは大丈夫。君達も心配をかけてごめん。このお姉ちゃんも一緒に遊んでもらって良いだろうか?」
 泣いても何も変わらない。全てが円満に終って皆で笑える結末を見つけるなんて、砂漠に落としてしまった一粒の真珠を探すような物だ。
 今眼前に選びとった未来が在る。不思議そうに顔を覗く正太郎が居る。
 涙を仕舞い、笑顔を浮かべ、そしてリベリスタ達は何も変わらぬ明日を目指す。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 優しい人は優しい結末を望むのでしょう。
 この一連の遺産のシリーズに参加してくださった皆さんとても優しい方たちでした。
 参加有難う御座いました。
 お終いです。