●その名を妄に口にあぐべからず 円三つを絶妙な配置で並べると、ソレは出現する。 「ハハッ、僕だよ! (甲高い声で)」 と言いながら『夢の国』より現れる、円三つを絶妙な配置で並べたような巨大なる闇。 ソレは『夢の国』によって認められた召喚者以外による召喚を許さない。 無許可で召喚陣を書いたものには、必ず死を与える。 ソレの名前は表記できない。 古文書にはこうある。 『その名を妄に口にあぐべからず。彼はおのれの名を妄にあぐる者を罰せではおかざるべし』 ソレの名を口にした瞬間、表記した瞬間、例外なく消されてしまうのだ。 しかしその召喚陣は容易に誤って描けてしまう。 幼稚園児が枝で砂場に書いた円三つ、そのせいで、幼稚園は消え去るのだ。ソレのせいで。 ●いろいろとギリギリです 説明する『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)の顔色は悪い。 「……ソレは、世界中に現れる可能性があるが、一体しか居ない。深く考えるな。神出鬼没だが一体しか居ないんだ!」 何を怯えているのか、闇璃の顔はどんどん血の気を失っていく。 「だから、幼稚園児がソレの召喚陣を書く時刻の前に、一般人に影響がない場所でこちらがソレを呼び出す。そして、向こう側の世界に押し戻せ」 ソレの故郷たる『夢の国』へ押しこみ返せば、当分は安全なはずだ。 召喚陣は、小円二つと大円一つで構成される。 小円の半径と大円の半径の対比は、2:3であり、円同士は点で重なる。なお、小円の中心と大円の中心を結ぶ二つの線は直角に交わっている。 「書いてみせる訳にはいかない。ここにアレを呼び出してしまえば、ヘタするとアークが消し飛ぶ可能性があるからな」 今のリベリスタの力では、倒せはしないだろう。だが、押し戻すことは出来るはずだ。 戦場として用意したのは、東京都圏内の個人所有の無人島である。 「……消されないようにな……」 もう温かい春の日なのに、闇璃の歯の根は合っていなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月13日(月)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●タイトロープです(描写が) ざざーん、ざざーん。 ここは、東京都に所属する潮騒が素敵な春の無人島。 ちょっとリゾートな雰囲気すら感じるその砂浜で、男は一人、円を書いていた。 『……地味に男一人ってのが辛いな。なんとなく居辛い気がする』 と、『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)は周囲で固唾を飲んで見守っているリベリスタ達を横目で見つつ、ため息を付いた。 とはいえ、無人島に七人の女と一人の男……場合が場合ならそれなんてエロゲという展開なのだが。今は、そう言っていられない状況である。 「えーと、召喚陣は、小円二つと大円一つで構成される。小円の半径と大円の半径の対比は、2:3であり、円同士は点で重なる。なお、小円の中心と大円の中心を結ぶ二つの線は直角に交わっている……だったな。意外に難しいもんだな、コレ……」 特に円の大きさの比率と配置が。 「ねぇ? 大丈夫なの? 本当に大丈夫なの? 存在抹消されたりしないわよね? そもそもアークが戦場に無人島を指定してくるあたり危なそうなのよね。私、まだ死にたくないんだけど」 女教師と書くと一気になんだかエロスな気がするが、どう見ても容姿は生徒より年下、『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は、自分が顧問を務める部活メンバーの横で不安を口にした。 ソラの教え子でゲーム研究会『Just Luck』の部員、『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)は、 「おいでませドリームランド! 手に持ったは銀の鍵! レッツ夢の探求!」 不安に震えるソラとは裏腹に、脳天気なものである。 「まぁ……群を抜いて危ない子がいるから私達は大丈夫よね」 ソラが教師としてあるまじき発言を向ける、危ない子とはゲーム研究会部長の『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)のことだ。 ハツカネズミのビーストハーフの少女が、どこがどう危ないのかはよくわからない。 「ハハッ! 僕美月!」 確かにちょっと声は甲高いが。いや、甲高いからどう危ないのかはよくわからない。わかってなるものか。 「ほんのちょっとだけ、もう一個書いたらどうなるか気になるのだけど、我慢するわ」 ソラはうずうずする手を握りしめて自重した。まさかのリボンつけたソレが増えたりしたらコトである。 意志を持つ影がヤモリの形をとり、『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)の隣に寄り添う。 かわいいやもりさんを撫で、まおは目の力を緩ませた。 「これならもう怖くないってまおは思いました」 『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は、事前に調べてきた文献のメモを取り出し、今一度目を通す。 『ミッキ――は、意外と好戦的であり第二次世界大戦中は日本のゼロ戦を撃ち落とした』 文献にある『みっきだっしゅ』という物体が、今回のアザーバイドのことだと佐里は考えているらしい。 「打倒、ミッキ――! 気を引き締めて行きましょう」 ソレがミッキ――だという確証は全くないのだが。 「それにしても、その格好なに?」 『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が、隣の珍妙な格好を見て、呆れたように尋ねた。 隣の女は、全身を黄色に塗り、ツインテールの毛先だけ黒に染めている。そして頬は、おてもやんもかくやというレベルのレッドチークをまあるく刷いていた。 「敵の火力が高そうなので、耐久のあるわたしが挑発して攻撃を引き付けたいと思いまして」 黄色女こと『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は、至って真面目である。 「……確かに、目立つとは、思うけど……相手の攻撃、ランダムだぜ?」 瞑は深く尋ねないことにした。これについて深く知ることも、ソレと同じくらい危ない気がしたのだ。 そうこうしている間に、ようやく晃は召喚陣を描き終わる。 歪む空間、現れたるはディメンションホール、そして、その中から……。 「ハハッ、僕だよ! (甲高い声で)」 描いた陣と同じ配置と比率の三つの円の形をした深淵の塊が、現れた。 ●タイトロープです(発言が) 晃は、ぬぅんと現れた巨大なる闇を見上げ、叫び手招きした。 「……召喚者は俺だ。許可は得てない! やれるものならやってみるんだな!」 「ハハッ(甲高い声)」 闇は、晃に向かって笑った。なんとなくあざ笑いのニュアンスを感じるが、闇は『自動的』だ。ソレに特に感情はないのだろうから、受け手の気のせいであろう。 「ぐ、う……」 脳が痛くなる呪いだ。晃は目をぐっと閉じて耐える。 晃以外にも、複数人が呪いを受けてこめかみを押さえている。 たった一人の男として、そして鉄壁の守りを持つ騎士である不沈艦のクロスイージスとして、晃は前に立つことを選んだのだ。 この依頼に必要であろうスキルが手持ちにないことを、晃は少し悔やんでいる。 「これが終わったら、いろいろ考えないとな」 待機していたリベリスタ女子達が、闇を包囲するように陣形をとる。 「ハハッ。真似っていうかオマージュよ!」 甲高い声で笑いながら瞑が走る。砂浜を疾走しながらロリコンとショタコンを抜き放ち――ロリコンとショタコンはナイフの名前であり、決して幼児愛の性癖を持つ人間を抜きはなっているわけではない――瞑は、飛び上がるとソレに向かって両手の刃にて斬撃を存分に放った。 「ネズミの氷像になってもらいましょうか」 と言いながら、ソラが時を切り刻む。残像すら見えない高速の切り刻みにて細切れになった時が、世界を凍らせる。 「ネズミは消毒だッ!! 貴様の時代は終わったピカ! 世界的ネズミの座は、頂くですチュー!」 美月のようなネズミのビーストハーフではなくジーニアスのくせに舞姫は、そんな事を言いながら小脇差『黒曜』の黒き輝きを蒼天に晒した。 ソレの深い深い黒へ、黒刃にて優雅なまでの高速かつ無数の刺突が見舞われた。 「そのキャラ何だよ?」 「なんとなくです! 他意はありません」 瞑の問いに舞姫は『なんとなく』を貫く。賢明である。 円三つの闇が、リベリスタにはネズミに見えるらしい。 「美月部長とそっくり」 神の光を放ちつつ、ぼそりと明奈が闇を見て呟く。 「白石部員は何を言ってるの?!」 庇ってくれている部員の、とんでもない発言に部長が驚愕する。 丸三つと自分のどこが似ているというのか。ちょっと黒いだけじゃないか。 「見た目は全然違うんだけどさ、こう、魂が。ソウルが。うっかり間違う程似てるよね? ワタシの気のせいじゃないよね?」 「眼科に行くことをおすすめするよ?!」 天使の歌を伴奏に、ゲーム研究会は楽しそうだ。 「まおは、うさぎさんもねずみさんも好きです。でも、ソレ様はちょっとやりすぎです」 まおが、全身から気を糸状に練り、ソレへと向かわせる。 「刻印します!」 佐里が闇の側面へ飛び込み、左手に握りしめた閃赤敷設刻印を振るう。 『出来る事ならば倒したいところですが、あれが無残な姿で大地に横たわる事など、天の意思と大人の事情が許さないのでしょう?』 というか、闇は無残な姿になることやら横たわることやらが出来るのだろうか。といろいろ考えると面白くなってくる佐里である。 ●タイトロープです(戦闘が) ソレは、全周からの攻撃を受け、沈黙の末、すうっと掻き消える。 「きっ消えた?! 違法な事やってる時のモザイク的な何か!?」 驚く瞑に、 「違います、見えなくなったんですよ! 諸事情で!!」 プロアデプト佐里が叫ぶ。 『闇に足音は……あるわけありませんでしたね。振動があればいいのですが……よくわかりません』 戦闘論理者の佐里だが、ソレの場所を把握する方法が思いつかない。 舞姫も耳をそばだてているが、移動中にあの甲高い声は喋ってくれないらしい。 「まおは、暗くなって見えなくなると思っていました。透明になるのですね。まおは驚きました」 暗視で探そうとしていたまおは、うろたえて周囲を不安げに見回す。構えは全力防御。 「見えない間、美月を攻撃してしまいそうね。似てるから」 ソラは軽口を叩くものの、冷や汗が止まらない。十秒間でどこまでソレが移動するのか未知数だ。 「状況がリセットされたみたいなものだよ。ワタシはその程度で揺らがない!」 気丈に明奈はいうが、視線だけは油断なくあちらこちらへと向ける。 彼女が庇っていた美月は、天使の歌が届く範囲で動き出す。 「美月!」 晃が叫ぶ。 「えっ!? うわあ?!」 「さあ、僕と握手しようよ!」 朗らかな甲高い声とともに、美月にはりつくような位置で闇は顕現した。振り返る美月の顔が凍りつく。 「部長!」 明奈が焦る。あの位置では、間に割って庇いに入るのは無理だ。 とはいえ、遠くまで移動したソレは、すぐに攻撃には転じない。 「くっ、私の生徒じゃなければ供物としてさしだしてるところだわ。でも、私の生徒なのよね!!」 ソラが飛び出し、ソレへ襲いかかる。 「それに、美月は大事な回復役よ。潰されるわけにはいかないわ!」 美月は感動すら覚えつつも、安心してくれと言った。 「ソラ先生! だ、大丈夫だよ。僕だって一発くらいは耐えられると思うし!」 ソラに続いて、他のリベリスタも、包囲陣を組み直す。 美月よりもソレの動きは早い。しかし、ソレの握手はランダム攻撃だ。一縷の望みは残っている。 「まおと握手してください。でも、痛いだけの握手はまおは嫌です」 糸を投げかけつつまおが、闇に声をかける。闇がお願いを聞いてくれるかは未知数だが何もしないよりはマシだと信じて。 「召喚者は俺だぞ、そっちじゃない」 晃は無骨な手甲を輝かせ、闇に峻烈を与える。 「包囲を抜けられて、後衛まで移動された……もう少し、包囲は狭いほうがいいかもしれません!」 佐里は冷静に一同に声をかけ、再びソレへ刃を幾度も浴びせた。 「死すべき運命すら、歪曲させる果て無き強欲。世界の理を踏みにじる邪悪の権化め!」 舞姫の無数の泡沫を思わせるナイフの閃き。 「んー邪悪かなぁ。陣描いたらオートで殺すってのは問題だけど、彼の感情とは関係ないただのオートで殺すシステムだったりしないかな? 許可今とったら許してもらえたり?」 瞑は呟くが、さっきまでのやり取りでソレと会話が成り立ちそうにないことも、なんとなく分かっていた。 「やっぱ、押し戻すしかないかなー」 どす黒い緑のほうの目を閉じ、瞑はため息を吐いた。何度も高速でロリショタ(ナイフの名前)を闇に突き立て、薙ぎ、引っ掻き、切り上げる。 とうとう、闇が動き出す。にゅっと闇から現れる巨大な四本指の白い手が掴み、絞り上げたのは、晃だった。 「ぐ、がはっ」 ふわふわな手触りの手なのに、力が強い。肋骨を粉砕し、消化器の両端から内蔵が溢れ出そうだ。 生理的な涙すら流れる苦痛に、晃は無意識に悲鳴をあげていた。 「頑張って!」 ようやく美月の手番になり、美月は詠唱を始めようとしたが、ハタと晃が致命的な状況にあることに気づいた。 「白石部員!」 「オッケー。よーし、さくっとやっちゃうぞ!」 明奈の体から邪気を払う光がほとばしる。晃の呪いが解かれたことを確認し、美月は十分ソレから遠ざかった後、今度こそ天使の息をそよがせた。 「とにかくお帰り願わないとね! ワタシ達の世界で好き勝手させる訳にはいかないんだぜ?」 「そうだね。だからこそ此処で僕達がやっつけなきゃいけない、絶対に!」 見事な連携で晃の窮地を救ったゲーム研究会メンバーは、手を叩き合わせて互いの健闘を称える。 今度の包囲陣は狭い。もうソレは、不可視となろうとも後衛までは届かないだろう。 つまり、ソレにとっての移動とは包囲の中をウロウロするだけのムダな行動となるのだ。 ●タイトロープです(ソレが) ソレは強かったが、所詮は一体だけだ。複数人からの集中攻撃を受け、反撃の手番は一度だけ。命中力もさほどではないソレの呪いは、リベリスタの行動を制御できるほどの効果は挙げられない。仮に呪われても、明奈が癒す。 じわじわと体力は削られていくものの、美月の回復がこまめに効く。美月だけでは足りない場合は、ソラが天使の歌で補った。 投打ならぬ、攻守が噛み合った作戦は、ソレを確実に追い詰めていく。 「範囲が狭くなったから、もう範囲攻撃は危なくって出来ないけど……ポイズンシェルだってやれば出来る子だと言う事を見せてあげるわ!」 ソラの魔毒弾丸がソレに猛毒を与えるが、ソレは積極的に異常を治す術を持たない。 「百億万ボルトの魅了を叩き込んでやるチュー!」 舞姫の華麗なる剣戟はとうとうソレの思考を乱しきる。 自傷行為しか行わなくなってしまったソレは、もはや動けないも同然だ。 「ソレ様が動けませんか。じゃあ、まおはハイアンドロウをどっかんとぶつけますね」 まおが死の爆弾を、ソレにくっつけた。 爆弾が炸裂し、まおすら巻き込む。 爆煙が収まったかと思うなり、真っ青だった空がにわかにかき曇り、雷鳴すら轟き出し、スコールのような暴風雨が降りだした。 そしてずっとあったディメンションホールが、僅かに大きくなる。そして、螺旋状に変形していく。 「ゥアワァー(甲高い声で)」 ソレは、ブルブルと震えると、己が出てきた歪みへと吸い込まれていく。 「まだ、消せてないよー(甲高い声で)」 ソレは抵抗を見せたが、しかしディメンションホールの吸引力に負けて徐々に穴へと近づいていった。 「美月を守ってね、明奈!」 「え、なんで? 倒せたんじゃないの?」 ソレが吸い込まれようとする様子を見守りつつ、ソラはわくわくした口調で、怪訝な顔をする教え子に答えた。 「間違って美月が連れて行かれるかもしれないでしょ? ディメンションホールだって吸い込む対象を間違うことだってあるかもしれないわ! 間違うことだってあるかもしれないわ!」 「先生、期待してるよね!? っていうか、むしろ望んでるよね、その展開を!!」 美月が焦って叫んだが、ソラのわくわくした声は続く。 「大丈夫、ギリギリのトコでちゃんと助けるから!」 「助けるつもりが一緒に吸い込まれるかもしれないよね?! ありがちな展開だよね!? やめとこ? そういうギャンブルはやめよ?」 美月は心から願った。早くソレは吸い込まれきれ、と。 「まーたーねー(甲高い声で)」 ようやくソレは、ディメンションホールに吸い込まれきった。 さっきまでのスコールが嘘のように、島は青空を取り戻した。 「ブレイクゲートしなくては!」 我に返った佐里がディメンションホールに走り寄ると、ブレイクゲートの力を使えるメンバーもホールへと向かう。 完膚なきまでに穴を破壊して、ようやく一安心。 「アレの里帰りは完了だな。どっと疲れたぜ」 晃は、アークに任務成功を伝え、迎えを要請すべく、アクセスファンタズムを取り出した。 「あんな恐ろしい世界とはもう二度と繋がらせちゃいけないよ……」 美月は、ハァと息を吐いた。 「どうしてソレ様はこんなひどいことをするのでしょうか。なにか悲しいことがあったのかな、とまおは思いました」 まおがポツンと言うのを聞いて、瞑は首をかしげる。 「でもさ、今までの敵の言葉を素直に受け取ると、不器用なだけで敵に悪気無かったり、怒って無かったりするのかなとも思うんだよね」 「そうなのでしょうか。だったら仲良くしたかったのかな、ってまおは考えます」 「案外、ソッチの世界じゃあトップのマスコットかもしれないぜ」 そう言って、明奈は、首を傾げている蜘蛛少女に笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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