● そもそも、いわゆる過剰装飾が大好きだった。 だから、カットソーのタンクトップでは満足できなかった。 服装倒錯でもない。ただ、ひらひらしたものが好きなだけだ。 ああ、生まれ変われるならロココ華やかな17世紀のフランス辺りの貴族になりたい。 だから、せめて、ひらひらがいっぱいついたそでなし下着で、汗をよく吸う木綿のものを選んだらこれになっただけだ。他意はない。 人には自分が好きなものを身にまとう権利がある。 それでも、本人が楽しみ、他人に死角の暴力を与えない限りはいいのだ。 大きなくくりで『似合わない服』を着ているだけなのだ。 実際、中に着ている分には問題なかった。 クルーカットのビジネススーツの下にそんなもんが装備されていると誰が思うだろうか。 もちろん本人も気を使っていた。 好みの下着は、薄着になる可能性のある晩春から初秋までは我慢しなくてはならないのはわかっていた。 しかし、最近の日本気候おかしい。昨日雪が降ったと思ったら、今日真夏日。 しかも日本列島長い。 極寒の東北から飛行機に乗って灼熱の九州にいきなり出張。 なれない満員電車にゆられる。 せめて上着ぬがなきゃやってられない。 そして。 吹き出る汗。シンプルなワイシャツの下にもーるどされるかわいらしいでこぼこ。 地下街。振り返っていく通行人。 同心円状に引いていく人。 ここで、男は気がついた。 アークのリベリスタ言うところの「社会的フェイト喪失」 凍る空気が男の存在を変えた。 変質した男を、それでも世界は愛した。 今、一人のなりたて革醒者が、フィクサードに堕ちるかどうかの瀬戸際を迎えていた。 「キャミソール最高ー!!」 破れかぶれで吠える、革醒がもたらす体型変化。胸囲普通のメジャーでは測定不能。 身につけていいのは、夢見がちな精々ハイティーンまで。 そんなレースとリボンとピンタック。 ゴスロリでもなく甘ロリでもなく、しいて言えばクラシカル且つナチュラル系。 大胸筋のみなぎりで、手に入る内では最大サイズのコットンキャミソールの貝ボタンは悲鳴を上げ、ピンタックはぎりぎりまで引き伸ばされ、すでにタックではなく、本来なら中で体が泳ぐくらいがキュートなデザインだと言うのに、コルセットあるいは大胸筋補整サポーターのような食い込み具合です、ストップ・ザ・ボンデージ。 というか、ストップ・ザ・フォーリング・トゥ・フィクサード! ● 「きゃ……きゃ……」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は口ごもっていた。 八分の三フランス人の白い頬に血が上ってピンクだ。 視線はおどおどとさまよい、スナック菓子は噛み砕かれることなく口の端に加えられたままだ。 もじもじと手指を組み合わせてはほどく様は、告白直前の女学生のようだ。 ぼちぼちリベリスタの目が「いい加減に何とかいわねえと、口の中に手え突っ込んで奥歯がたがたいわすぞコラ」的プレッシャーがかかる。 四門は意を決して一息に言い放った。 「ワイシャツの下にキャミソールを着込んでた男が自分の社会的フェイトの喪失の激しい感情の揺らぎを切欠に革醒。自暴自棄になって駅地下道で暴れる一歩手前だから、全力でとめてきて!」 うん、無理! 椅子を蹴倒し、扉に殺到。 しかし、この部屋は通称「要塞ブリーフィングルーム」 数々のリベリスタの悲痛なノックと脱出工作の結果、幾度も扉をより堅牢に付け替えられたイワク付きの呪われた部屋だ。 「――外からロックかけてもらったから。やるって言わなきゃ、俺もみんなも部屋から出られない。お願い。革醒直後なんて何もわかんないんだよ? 自分に何が起こったかわからないのに力は人外。この人、ほっといたら大量殺傷者として指名手配。そのまま身を落としちゃうんだよ? そしたらそれに付随する不幸がどれくらいになるのか仮計算しただけで、もう――」 ぐすっぐすっと洟をすするフォーチュナ。 「――どうぞ、ご着席下さい」 腹が据わったのか、咀嚼音がブリーフィングルームに響く。 「――という訳で、残念ながらこの人がキャミソールが原因で革醒して恩寵獲得するまでは確定事項です。後は、どれだけ自暴自棄になろうとしている彼を説得し、速やかに現場を離脱するかです」 四門は微妙に視線をそらした。 「――そんで、余りの状況にイヴちゃんに相談したら」 したのかよ。三つも年下の女の子に。確かにベテランだが。 「木を隠すなら森の中って――」 何言ってるの、マジエンジェル!? リベリスタ達の驚愕を黙殺する形で、四門は机の上にダンボールを出した。 中には、大小さまざまなサイズのキャミソールとこれまたサイズ様々なワイシャツ。 奥から引っ張ってきたのはビジネス・スーツ。 「もう、三高平からファッション・ムーヴメント。男子もビジネススーツとワイシャツの下にキャミソール。ハイヒール男子とかいるらしいからこれもありじゃね!? と、煙に巻いてくるのはどうかな!? あ、あくまで強制じゃないよ? 提案だからね!?」 フォーチュナ控え室でどうやら相談がへんな方向に盛り上がり、四門も否と言えなくなったらしい。 「て、提供は、三高平市商工会議所」 きちんと出所を言わせるためにメモを手渡しているイヴちゃん、マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月08日(水)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 冷や汗が背中を伝う。 この世の全てが自分を罵倒をしているように感じる。 地下道にこだまする声、足音、全てが自分を攻め立てる。 やめろ、笑うな。 皆口を閉じろ。息さえやめろ。 いっそ、俺が、その口をふさいでやろうか? そんな考えが結実するほんの直前、地下道のあちこちで歓声、悲鳴、嗚咽、快哉が沸いた。 ● 話は僅かにさかのぼる。 送迎の車は二台。男女に分かれてお着替えタイムである。 まずは、男車。 (アーク随一のサラリーマン風リベリスタを自付する俺です) 自負じゃないのか。自らにそうあれかしと課しているのですね、わかります。 そんな『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)さんのモノローグからお送りしております。 (24時間働けますし、人のために死ねる男でありたいと、そう思っています) ナイスリベリスタ。 (世界の秩序のため、一人の男の魂の安息のため!) 一肌脱ぐぜ、物理的意味で。 (レッツ・キャミソール! 死にたい!) あえて言う。生きろ! そしてカメラは女車。音声のみで失礼します。 「あははっ、これ動きづらいし、暑いよ」 ノースリーブシャツにホットパンツ、スポーツ仕様の下着が常の『無銘』佐藤 遥(BNE004487)は、ぶかぶかのビジネススーツとワイシャツ、その下に純白フリルのキャミソールとおそろいの下着上下を身につけ、爽やかに笑った。 めちゃくちゃ眩しい。 「リベリスタってこんなお仕事もするんだね。ボク知ってるよ、八面六臂の大活躍って言うのかな?」 新人独特のキラキラしさだ。 一番小さいサイズだけどやっぱり肩とかウエストとかあちこちぶかぶかなところが中性的な遥の女の子らしさを際立たせる。 スーツ女子も激しくプッシュします。 どうか、その瞳の曇ることのないように。 表地は黒、裏地はシルバーグレーの七分丈カジュアルジャケット。黒のジーンズにハードブーツ。きれいめイエローのストールをゆったり巻いて、白手袋に、白フリルのキャミソール。 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が狙っているのは、メンズゴシック風だ。 ポジティブにキャミソールというアイテムを組み込んでみましたというか――。 (仕事でなけりゃ誰が着るかよ顔から火を噴くぜだが今だけは下着ということは忘れる着こなし難易度の高いただのファッションアイテムさならば完璧に着こなせばいい!) という発想の転換です。そんな琥珀君に惜しみない拍手を! という訳で、様々なベクトルに特化したキャミソールな人々の競演。 (くどくど説明するより、それっぽい単語を入れといて、劇団員とか何かのモニター中とかドッキリとか、 勝手に連想をしてもらえると不自然じゃないかな) 遥の発想どおりに行けば大成功だ。 (嘘じゃないよ! 人種の坩堝アークに来てもらうための予行練習だよ!) うん、人種。ありとあらゆる意味で。 迷える誰かを載せるための箱舟だから。 世界を嫌いにならないで。 君を迎えに来たんだ。静岡南部の約束の土地から。 ● 爽やかな美少年――いやスーツ女子が寄ってきて、カメラを差し出しこう言った。 「驚かせちゃってごめんなさい。ちょっと練習をしてまして、よければ写真を撮ってもらえますか?」 押し付けられたデジカメで訳も分からず写真を撮る。 「ありがとう」 ウィンク付きだ。 「商業利用権とか肖像権とかあるんで、携帯での写真はご遠慮くださ~い」 別働班の人がトイカメラを配りだす。 『なにこれ』 『カメラのイベント?』 『ゲリラパフォ』 『あとで動画でもあがんじゃね?』 煙に巻かれだす群集。 「ふっ、ストリートはマイステージだぜ、ボウイ?」 『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)は、最近視覚の暴力を振るうことを覚えた。 スーツを弾き飛ばす鋼の筋肉は、グレートにシェイプされた逆三角形。 魅惑のセクシーキャミソールをピッチピチに纏ったマッチョガイ。ブラックボディはワセリンでテカテカだぜ! まさか、オリエンタルな20歳明日から本気出す脱力形女子の変身した姿なんて、誰が思うだろう。 罪作りだぜ、スタイルチェンジ。 「KEITO? HAHAHA、誰のことだい? アイアム、ブラザー・キャミと呼んでくれマッソウ、HAHAHAHAHA!!!」 変身の快感が、彼女をちょっと小粋なブラック・ブラザーに変えてしまった。 思い出して、あなたは計都。計都なのよ。 世界は私のステージとばかり、リベリスタ達のパフォーマンスは続く。 ちょっと影のある美少年が上着のボタンに手をかけるのを見たことがあるか。思わずRECボタンをおしたくなるぞ。セレアでなくとも。 「スーツの下にキャミソール?」 おちる上着。 「はっ!スーツと言えばサラリーマンの仕事着。侍が合戦に臨む際の具足のような物――」 ベストにネクタイ。 「その下に女物のフリフリキャミソールを着込むとは言語道断!」 蹴るように脱ぎ捨てられる革靴アンド白ソックス。 「男たるもの一歩外に出れば七人の敵あり、その格好で死ねるのか?」 脱ぎ捨てたシャツの下にはキャミソール・ティーン仕様(はぁと) 「下着は人の最後の着衣!」 すっぱーん! と脱ぎ捨てたズボンの下は、緊褌一番、白六尺褌、ぶっちゃけ締め込みって奴だぜ、Tバック! 「己の心の様に輝く白褌であるべきだ!!」 ビーっと伸びるコットンローン地。びりびりと破かれるキャミソール。あ、乳首アップで撮るのやめてあげて下さい。 「僕が本当のますらおぶりといふ物を披露してやる!!!」 ますらおって言うか、未発達のショタのストリップご馳走様って言うか、多分『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)はこれで燃料なしで夏の大祭典までいけんじゃないかと思う今日この頃ですご馳走様でした。大事なことなのであえて二度お礼を言ってみました。 君は六尺褌一丁のショタに説教されたことがあるか。 「貴方が本当にキャミソールを愛しているなら、それはそれでいいけど、それを隠すっていうのはどういうことです!? 恥ずかしいっていうのはどういうことですか!?漢がこれと決めたなら最後まで貫き通してみせろ! 突き抜けてみろ!」 大人になるって言うのは、それと社会への視覚の暴力を振るわない境界線を見出すことができるようになるってことなんだよ、仁身君。 「だが現代日本社会ではキャミソールを着る度に社会的摩擦を引き起こす。それが面倒極まりないという気持も解る」 琥珀、仁身よりはちょっとオトナ。 リーマンの前で笑顔でストールを外しキャミアピール。衆目にはどういう反応を取られようと動じず爽やかスマイル。 え、なんかそれって新しいファッションアイコン。やだ、取り入れないと遅れちゃう!? 「キャミソールを愛し隊」と書いた名刺をビジネスマナーに則って渡し 「笑われたらからといって腹を立てるのはナンセンス。俺達の時代を超えたセンスに大衆が付いてこれないだけなんだ。審美眼に自信を持って、悠々と構えればいい」 即興演劇の様相を呈してきた。 キャミソールサラリーマンは、いつの間にかリベリスタの用意した舞台のキャストに一人にされていた。すでに主役は交代している。彼はモチーフのひとつの過ぎない立場に移動されたのだ。 よって、彼が通り魔化するルートのフラグはへし煽れてしまった。 鞭の後には、飴である。 「ひらひらのフリルやレースとか好きって、わかるわかる」 『エゴ・パワー』毒島・桃次郎(BNE004394)、ほっそりとした肢体にはキャミソールがよく似合う。 ひらひら感抜群のキャミとちょっと動くと首周りから中がチラ見できるようなゆったり目のワンピース。どさくさ紛れに新品を経費で落とした。 「人には自分が好きなものを身にまとう権利がある……って全くもってその通りだよね」 男の娘が言うと説得力が違うな。 「盗んだものや裸を晒しているわけじゃないのに、何で変な目で見られたりしなきゃいけないのかって、おかしいモンね」 桃次郎はぎゅっとこぶしを握り締めた。 女の子の服が隙だけで、女の子になりたい訳じゃないのだ。小学六年男子。 「頑張って悪の道に墜ちない様、がんばんないとね」 スーツの下にこっそりキャミは、罪じゃない。絶対。 ● セレアは、げたげた笑うサラリーマンの前に立ちはだかっていた。 いうまでもなく私物のエナメル素材の黒いボンテージ系キャミソールに黒い見せパンからすらりと伸びたあんよの終点は踏まれたら足の甲に穴が開きそうな黒ハイヒール。朝っぱらからありがとうございましたぁ! 「あんまり彼のことからかったりすると……」 なまめく唇。ぬめるような胸元。 「――徹底的に痛めつけるわよ?」 足をドンと踏み込んで床にヒビをいれるとか、ハイヒールに何仕込んでますか革醒者なら誰でも出来るほんとですかそうですか。 「なにごとー!?」 と一声叫んで写メを取り、ネットの海に投げようとしていた男子高校生の前に、守が立ちはだかった。 なんだよと毒づく前に、スーツがキャストオフされる。 (ぽかぽか陽気と任務への緊張感で、じっとり汗ばんだ純白ワイシャツに透けて見えるであろうキャミソールを大公開!) もうどーにでもな~あれ! (一般人への陽動と、後に続く説得の効果増大を兼ねた作戦です) キリッと仕様としたけど、羞恥心には勝てなかったよ。 「レッツパーリィぃええあああ!!!!」 守の絶叫と、PDAを放り出して逃走する男子高校生の悲鳴が辺りに響いた。 キャミソール着たサラリーマンにプークスクスしてたら、キャミソール着たブラックブラザーがいきなり膝裏にてぇ突っ込んで着たお姫様抱っこしてきた。 「OK、ベイベ、今夜も熱いステージの始まりだ!」 いえ、朝です。時差がある設定ですかそうですか。 ブラザーに抱き上げられたプークスクス女子、涙目。 訳も分からず、キャミソールサラリーマンは、ブラックブラザー・計都を見上げる。 (HEY、ブラザー! そこで見てな。奇異の視線が、あこがれの熱いまなざしに変わる瞬間を) 今、世界の視線は計都のもの! (そうさ、これがオレたちのレジェンドの第一歩さ) 後に「サンシャイン・キャミソール・ソウルトレイン」事件として、ほんとにレジェントになるのだがこの時点のリベリスタはそれを知るよしもない。 「歌って踊れるHIPでHOPなキャミソール、レッツミュージックスタート、Oh YEAAAAAAAA!!! ソウルフルにダンシンでマイクパフォーマンス、オオオウケェエエイ!!」 別働班が投げたスタンドマイクから、耳から崩れ落ちたくなるハスキーヴォイス(声帯変更済み)がスピーカーから流れて来る。 「――キャミソールが恥ずかしい? おいおい、トム聞いたかい。極東の島国は、こうも遅れてるなんてワイフもビックリさ!」 いきなりトム呼ばわりされたキャミソールサラリーマン、計都に吊られて肩をすくめるポーズ。 「HEY、ブラザー! 自分をトキハナツのさ。OK! レッツ、トゥギャザーでシャウトだ」 打ち合わせなどいらない。 「「キャミソール、最高ぉぉぉおおお!!!!」」 わっと辺りが沸いた。 「イエス、イエス! 今夜は、オレとオマエでキャミザイルだ!」 二人並んで、上半身をぐるぐる回す謎のダンスを満面の笑顔で計都は言う。 そして、全米が泣いた。(慣用句) 汗と涙にまみれたリベリスタの熱いパフォーマンスの陰に、人命保護の高邁な目的があったことにその場の一般人は誰も気がつきはしなかった。そう、助けられた本人でさえも。 かくしてうやむやになるキャミソールリーマンのインパクト。 こっそり張られる強結界の威力もあいまって、地下道はみるみる人が消え去って行ったのだ。 ● 「さあ、見ての通りです。同志よ! 俺は犬吠埼と言います。お名前をうかがっても?」 アーク謹製「革醒直後ABC」のリーフレットを手渡しながら、守はキャミソールサラリーマンの背に上着を着せ掛ける。 「誰ですか、あの、何事ですか」 キャミソールサラリーマンも少なくともこの怪しい人達+黒子のように巧みに通行人を誘導している人達が自分のために何かしているのは分かった。 「いえ、ご心配なく。我々は専門家なんです。貴方の身に起こった事、この世界における立ち位置、その他諸々を全てご説明できます」 かくかくしかじか。 「おめでとう!今日から君はリベリスタだ!」 セレアは勝手に決めつけている。 「あたし達の組織は変態や奇人がいっぱい居るから! ほら、このメンツ見れば判るでしょ!」 違うとはいいがたい面子がかなり含まれている。 「アレな性癖でも胸を張って生きていける職場に、一緒に来ない?」 サラリーマンがどぎまぎするサキュバス的な笑顔だが、セレア、中身はヒトモドキと一緒なんだぜ? ここまで、ずっとビデオは録画になっているし、男子のキャミ姿は瞬間記憶に焼き付けてるし。 「これまで自分の趣向を抑えて、周りを気遣って生きてきた兄さんは、とっても素敵だよ♪ でもね、今日はお誘いに来たんだよ。好きでしょ、こういう服」 とらは、くるりんと回ってみせる。 キャミソールサラリーマンの視線が動くのを、どうかとがめないで上げてほしい。 ロココ調ドレス風キャミワンピをわざわざ選択してくる辺りに、あざといな、さすが手堅い主人格。あざとい。 「好きって気持ちは、誰に恥じなくてもいいんだよ。兄さん、服が好きなら、勉強してお店を出さない?その体格だと、気に入る服を探すのも大変でしょ? 俺も背中の開いた服に、気に入るのが滅多にないから、兄さんみたいに服が大好きな仲間が欲しかったんだよね♪」 具体的には男人格をキープしたまま、かわいい服を追及できる仲間だ。 「幸せな少女」をプロデュースしなくてはならないのだ。それが偶々自分の体だっただけだ。 「将来的には、おしゃれに改造した車でセレクトショップを開いて、お気に入りや、自作の服やアクセサリーを売るの。どうかな?」 とらの実益も兼ねているので、割と本気だ。 琥珀は、名刺を裏向け三高平市への地図を見せた。 ここ、九州。静岡、遠い。 「この街で暮らさないか?エンジェラー顔負けの羽を生やした奴らも居るし、獣顔ファッションを極めた猛者も沢山いる。好きな服を着て、自分らしい生き方を貫ける。アークって所で仕事をすれば生き甲斐も持てるかもしれない」 記憶がなくても何とかなると小さく呟いて笑って見せることが出来るくらいには、住みやすい街だ。 三高平市は、様々なライフプランを提示、生活のサポートをさせていただいております。 「あいさつが遅くなっちゃいました! ボク、佐藤遥です! 生まれも育ちも出羽米沢、所は駿河三高平だよ! 先月お稽古事が終わったら熱出して倒れて、起きたら超能力者になってました! おにいさんのことも教えてください! フェイト使いは引かれ合うんだよ!」 遥の目はきらっきらしている。 アークに入ったとたん、新たな仲間が迎えられるのは喜ばしい。 一気に、現実がラノベテイスト。 「さぁ、おじさんも一緒に着たい服を着ても文句言われない世界作る為にガンバロよ」 桃次郎も加わり、セカイ系。 「え? あ? はい?」 かわいい女の子かと思ったら、男の子だった。 「女装くらいじゃびくともしないARKの懐の広さを見せてあげる。大事なのは、世間の目より自分の趣味だよね」 キャミソールサラリーマン、いまだ混乱中。彼にはちょっとゆっくり休んで考える時間が必要っぽい。 「ねえ、一緒に行こうよ。ずっと我慢して生きるには、人生長すぎるっしょ?」 『幸せな少女』の仮面をかぶる『護る男』 のままでいるにも、人生は長すぎる。 いつかは、トラのばらばらのピースが揃う日が来るのだろうか。 「あの、とりあえず、会社と先様に電話かけさせてもらっていいですか?」 革醒者になったからって、社会とのしがらみが切れるわけではない。 社会はそんなにやわじゃない。 どうぞ電話なさってくださいと促し、リベリスタは新たな革醒者が三高平に転勤になってくるといいなと囁き合った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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