● 運命を食らうといわれるアザーバイド『セリエバ』。そしてそれを召喚しようとするフィクサードたち。 召喚場所を特定し、今船は魔方陣に向かって進む。 魔法陣を形成する幾多の船団。その船にある器具とアーティファクトがDホールを開く。 そして穴から枝葉を伸ばす樹木。運命を食らう破滅のアザーバイド。 さまざまな思いをこめて、革醒者たちは破界器を手に取った。 ● 『――やあ、お久しぶり。と言っても、一瞥程度の出会いだからねえ。覚えて貰っているかな? うん、まあ、今更ながら自己紹介しておこうか。六道第三召喚研究所所属のフィクサード、蜂竪と言う者だよ。短い間だけどよろしくね。 さて、あんまり長々と話すのも何だし、早速本題に移らせて貰おうか。 現在、僕達はセリエバ召喚に於ける最終段階、つまりは召喚そのもののフェーズに入り始めている。 で、それに於いて、僕達は彼のアザーバイド――セリエバの大規模な剪定を行う予定だ。 件の協力相手……十文字家の達磨さんも、相当命を張ってくれてるみたいだしねえ。僕としても可能な限り多くの手がかりを得て、彼の望むモノ、セリエバの毒に対する手段を手に入れたい、って気持ちは、理解して貰えるかな? さて、此処まで来たところで、君たちに頼みがあるんだけど――』 ● 「そういう、連絡」 一通りの音声をレコーダー越しに聞かせて、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、平時と変わらない表情で声を紡いでいる。 「つまり、ここ最近日本に於けるフィクサード三派が手を組んで行っていた実験……アザーバイド、『セリエバ』の召喚が、遂に始まろうとしている」 「……止められなかった、か」 返された声は、何処までも無念に満ちていた。 ぎり、と拳を固く握るリベリスタ達に対して、それでもイヴは、ふるふると首を振るった。 「それでも、みんなの甲斐あって、呼び出される個体の能力は限りなくダウンしているし、召喚そのものも安定性が低い。これは未だ、みんなの行動によって巻き返しが十二分に可能となるレベル」 「………………」 言葉に対して、リベリスタ達は、せめて頷きだけでも返す。 ――セリエバ。それは革醒者達の運命の恩寵を食い荒らす、此の世界に於いては禍をもたらす、或いはその者とまで言わしめる、凶悪なアザーバイド。 崩壊の進行度が既に六割を超えている現在に於いて、最早それ以上の災害は、何があろうとも止めなければならない。 決意はじわりと熱に代わり、リベリスタ達への闘志に還元されていく。 それを――言葉には、態度には出さずとも、イヴもまた理解したのだろう。 返す言葉もなく、只自らの仕事をこなすため、資料を開き、モニターに映す。 「……話を続けるよ。今回の依頼は、当然セリエバの送還任務に於ける補助行為。 敵対象となるアザーバイドは、みんなの到着時点に於いてゆっくりと召喚を行い始めている。これを何としても止めるため、既にメインの攻略班は現地へ向かうと同時、ブリーフィングを行っている」 「つまり、俺達の役目は」 「セリエバの召喚を止める、仮に召喚されても、被害を出さない方法は一つだけ。 相手を弱らせて、倒す。みんなには前者である『弱らせる』の部分に徹底して貰うことになった」 イヴは其処で一旦言葉を切り、再度手元の資料を確認し――若干、難しそうな顔をした。 「……これについて、言っておくべき事がある。 先ず、今回みんなが戦場となる魔法陣の構成部分には、二人のフィクサードが存在する」 蜂竪乎一、そして、弓削瑞霞。 何れも彼のセリエバの召喚具に関するアーティファクトの回収依頼で、アークのリベリスタと一戦を交えたフィクサードの二人である。 「次に、先のレコーダーを聞いて貰って解るとおり、彼らは今回、みんなに自衛を除く敵対行動を取らない。 彼らの目的は、あくまでセリエバに対する剪定……彼のアザーバイドの素材を多く回収し、自らの協力者に対する対価……の、素材にする予定」 「……つまり、共闘が可能、って事か?」 「判断はみんなに任せるよ。 利用するだけしても良い。相手を信じ切って、完全に共闘に徹するでも良い。それとも、最初から彼らと敵対しても良い」 ――難しいラインである。 相手は曲がりなりにもフィクサードだ。仮に共闘して剪定に成功した場合、手に入れたセリエバの枝(これ単体でも強力なアーティファクトとなりうる)を介して良からぬ行動を取りはしないだろうか。 だが、仮に彼らの想いが真実であるとしたら、その結果は一人の少女の、否、少女を含めた者達全員の笑顔という形で取り戻せる可能性があるかも知れないし……何より、彼らと、フェイトを有する者に対して無軌道に暴れ回るセリエバを同時に相手をすることは、極めてリスクが高いと言わざるをえない。 「……悩んで良い。迷っても、良い」 思案を始めたリベリスタ達に、イヴが訥々と呟いた。 「それでも、忘れないでね」 それは、いつもの彼女には似合わない、少し寂しげな、微笑みで。 「世界を守ること。それが、私たちの役目だよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月11日(土)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 戦場の熱は留まる所を知らない。 五つの光輝、揺らぐ水面の最中に聞こえる叫声と爆炎、それは只の一つも紛い物などではなく、其れが故に此の場が死線そのものであると誰もに知らしめている。 「ついに本体、のお出まし、か……」 その中で、ぽつり。 水面に飛沫を上げる船。其処に在る幾人かの一人、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』 星川・天乃(BNE000016)が、震えた声音で言葉を紡ぐ。 少女同然の矮躯をした彼女を見れば、其れは恐れの証左と取るのが普通であろうが。 「枝、を持っただけの相手、の攻撃がアレだけ強化、されてた……って事は、本体なら期待できそう」 ぎり、と握った拳は、言い様の無い歓喜に満ちあふれている。 視線の先に在る存在――アザーバイド、『セリエバ』はその巨体を遅々として魔法陣より出だそうと、鈍重な拍動を異世界へ広げ続けている。 「何かヤバイモノが居る、と聞いてたが……予想以上ね……」 「鬱陶しいアザーバイドだ、剪定はともかく、放っておいたら喰われるなら刈り取るしかない」 狼狽する『虚実之車輪(おっぱいてんし)』 シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)、同時に、吐き捨てるように煙草を握りつぶした『燻る灰』 御津代 鉅(BNE001657)の 言葉は、正しくリベリスタ達の心境と、目的を如実に教えている。 「さて、彼らはこの辺りにいると聞きましたが……?」 眇めた瞳を共に、街多米 生佐目(BNE004013)が独り言を呟く。 事前にフォーチュナより教えられていた、『交渉相手』との合流地点。今現在は姿を見せなかった彼らに、一瞬訝しんだリベリスタではあるが―― 「……っと、早い到着だ」 「冗談。そっちが遅いんだよ」 果たして、幾許かのタイムラグの後に現れたフィクサード……蜂竪・乎一と弓削・瑞霞の両者に対して、四条・理央(BNE000319)は容赦ない一言を述べる。 「申し訳ない」と苦笑した彼には、その身に幾許かの傷と血の跡を残している。 「……既に交戦を?」 「情報収集だよ。こっちは君たちと違って『眼』が万能じゃない。直接ぶつからなきゃ確たる情報は得られなくてね」 さも当然のように述べる男へ、問うた『灼熱ビーチサイドバニーマニア』 如月・達哉(BNE001662)は歎息も隠さぬ侭に言葉を告げる。 「……例の娘さんの治療が終わったら、元の組織に戻ったほうがいい。 六道にしちゃ優しすぎるよ、お前はな」 「はは。生き延びたら、検討するだけしてみるよ」 笑顔は崩さない。崩されない。 其処に如何ほどの覚悟が隠されているかを知りながらも――今という事態に於いて楽観の外面を見せられるだけでも、『星の銀輪』 風宮 悠月(BNE001450)は、幾らかの苛立ちを隠せなかった。 「……蜂竪・乎一」 「ん?」 「セリエバは……完全な力を発揮した『これ』は、R-TYPEの悪夢と、如何違うというのですか」 ぎ、と睨んだ瞳は、違い無い殺意だ。 眇めた眼で見返す男は――それでも、次いで、ふ、と笑みを浮かべる。 「違うね。あんなものは脅威じゃない。R-TYPEなんてレベルじゃない。そこらの台風にも劣るレベルだ」 「何を――」 「だって、君たちが居る」 為した告白は、即ち絶大なる信頼の裏打ち。 虚を突かれた悠月に、乎一は淡々と言葉を続ける。 「バロックナイツを倒し、日の本の封印の受けた『鬼』を倒し、 更には――真偽ははっきりしないけど――上位世界一つと闘って勝利を収めたとすら噂される君たちが、たかが不完全な召喚で呼ばれたアザーバイド一匹倒せない筈がない」 そうだろう? と、悪戯気な視線で問われる。 それがどれほどの好意で在ろうとも、彼我の境界、敵同士と言う立ち位置は変わらない。 「――ええ。アークは、……私は、これらのようなモノを討つ為に戦ってきたのです」 それでも、 悠月は己の幻想纏いより銀の弓を喚び、彼の前へ立ち、『背を向ける』。 「あの悪夢を……繰り返させはしない。セリエバを此処で討つ……!」 「……威勢ばかりは本物のようですね」 遠方を睨む彼女に対して、乎一に並ぶフィクサード……弓削・瑞霞が声を上げる。 「力量が見合って居ることを願うばかりです。私達のために」 「……弓削くんはブレないねえ」 怜悧な面持ちの女性に、乎一は苦笑しきりだ。 それでも、その空気に絆される暇もなく、異界の香気は海上を覆い始めていく。 「これで弓と矢を作れたら、とふざけた所で人助けに一役買いたいところです」 言って、薄く笑んだ『弓引く者』 桐月院・七海(BNE001250)が、己の得物――『告別』の先を、ぴたりとセリエバに定めた。 「あ。そう言えば枝の件についてだけど……」 「其方は戦闘中に。マスターテレパスで此方の条件を伝えますので」 にべもなく言葉を返した生佐目もまた、自身の破界器足る大業物をするりと抜き放つ。 距離は遠くない。近づく船の速度を為せば一分は掛からぬだろう間合い。 「複数のフィクサード派閥が共同で動いたセリエバ騒動。この戦いで決着がつくんだね」 「うん。汗を、血を流し、命を削り、運命を燃やし、喰らい合い……闘うと、しよう」 理央の緊張を継ぐように、天乃が微かな瞑目と共に、言う。 「さあ、楽しい楽しい……闘争の、始まり」 ● 「勝手に召喚しておいて剪定する際にアークに頼み事とは、勝手な話だな……」 交戦開始ポイントに到着と同時、誰よりも先に動いたのは鉅であった。 双手に担う黒刀が、己が身の影に染まり、更なる闇を完成させる。 次いで、間断無き攻手。 剣の軌跡はそのまま黒の糸を形作り、視界に収まりきらぬ樹木の異形を一瞬だけ堅く縛り上げた。 「フィクサードが勝手なのは今に始まった事でもないが、虫のいい話だとは思わないか?」 「弓削くん、彼に支援お願い」 「日和らないでください駄上司」 ……戦闘は開始直後、早くも苛烈の様相を呈していた。 前線で闘う鉅達は言わずもがな。肩を竦める彼の遙か後方にて、射撃攻撃、神秘による支援能力に従ずるリベリスタ、フィクサード達も、現れた新たな獲物へ向かい伸ばされた死毒の木の葉が次々と襲い来る。 「と、危ない危ない……っ」 早くも傷み始めた仲間に対して、即座に回復を飛ばすのは理央であった。 元よりそれほど高い回復効果を持っていない彼女のそれが戦線を維持させるためには、軽度の負傷でも即座に行動する柔軟性が重要である。 当の本人もそれを忘れていない。手番の消費を惜しまずにこまめな回復を飛ばす理央によって、今現在リベリスタらは少しばかりの小康状態を見せられている。 「………………ッ」 機を逃す愚は犯せない。 だと言うのに、彼のアザーバイドの『深淵を覗いて』しまえる悠月は、自らの身が僅かながらにも萎縮してしまう感覚を、心の何処かで感じていた。 「――臆したところで、何が得られるというのです……!」 叱咤。それと共に放った魔の一矢。 魔陣の精錬を為された矢は、鈍重なアザーバイドの外殻を易々と砕き、内部へ侵入した後、エネルギーの塊となって霧散する。 「やはり、状態異常の態勢は……」 流血の呪法が効く暇も無かった。 受けると同時に、幾許の体力を犠牲として総ゆる状態異常を賦活する能力。これによりリベリスタらは敵の足並みを崩した隙を突くという戦法を一切とることが出来なくなっている。 尚かつ、彼のアザーアイドはその防御性も並はずれて高い。強化まで果たした悠月のマグスメッシスにさしたる痛痒を受けた様子もなく、異形の枝葉は容赦なく遠方を―― 「さあ、運命喰らい……踊って、くれる?」 それよりも、早く。 振るう鉄甲、振るわれる激情。 天乃が嗤い、拳打の着弾点より出でる気糸が、その巨躯を縛り上げる。 当然、其れもまた雲散霧消。それでも確実に蓄積するダメージに、『死神』を称される彼女は未だ戦いを止めることはない。 『――――――』 逆接。 己が身を潰やす其の攻勢に、大樹は痛痒すらないかのように、尚も尚も魔法陣よりその姿を現していく。 「動かない的なのがせめてもの救い、か……。 では1つ、こんな植物風情にはお帰り願おうか!」 「これで弓と矢を作れたら、とふざけた所で――人助けに一役買いたいところです」 シルフィアが、七海が、奏でる魔曲を穿つ一矢を撃てど、未だ。 返す刀の如く振るわれた更なる葉々の雨は、触れた者全ての視界が傾ぐほど昏く、重い毒との合わせ技だ。 「うわ、そろそろ回復が居るかな?」 「簡単に言ってくれますが、此の香気、此方の消耗を予想以上に加速させています。後幾許かは――」 リベリスタ達同様、攻手と支援に回る六道二人の会話は、魂震わせる謳に因って遮られる。 視線は上方。仲間共々に理央の翼の加護を受けた悠月が、彼らも合わせての回復を行っていた。 「……君たちは、少しばかり優しすぎるよ」 「構いません。私は……」 二次行動、消耗を恐れず更なる一手を注ぐ彼女は、詠唱の合間に彼を見る。 蜂竪乎一。世界を守るために世界に仇為した狂人が一人。 ――それは、アークという組織が無ければ、彼女もまた歩んでいた道。 「私は、貴方を信じます」 傷んだ彼の怨敵から、終ぞ一つめの枝が弾け飛ぶ。 くるくると虚空を舞ったそれをつかみ取り、悠月は己の信念を口にした。 ● 「パティシエだ。状況を報告するぞ」 戦闘は少しばかりの時を跨ぐ。 最早後方を振り返る暇もない前衛陣に、幻想纏い越しに聞こえたのは達哉の声だ。 「今現在、後衛方の気力は3分の2を切り始めた。 フェイト使用者はシルフィアと七海。そっちは確認した限り天乃と鉅か?戦闘不能者もそろそろ出始める。此処が胸突き八丁って所か」 「取れた枝は?」 「三本。残りは取り損ねて魔法陣の向こうに落ちた」 「……そう」 文字通り敵に『張り付いた』天乃が返すと共に、幾度目かのディスアピアー・ギャロップが、セリエバを大きく撓み、軋ませる。 「なら、コレで四本目」 拍子に落ちた枝を取り、くすりと彼女は呟く。 やれやれと通信切った達哉が、一時的に気力切れに陥った理央の代わりに天使の歌を奏でる。 インスタントチャージが行えれば良かったが、生憎と此度の彼はそのストックを忘れていた。結果として消耗が殊に早い後衛陣の回復は戦場全てを癒しきれず、攻手のみに手を傾けるが故に樹液の反撃を受ける前衛陣にもその被害は及んでいる。 「やーれやれ、これで中々、こっちもギリギリなんですがね……!」 歎息と共に織り成したスケフィントンの娘を以て、敵に並々ならぬ被害を与えているのは生佐目である。 あくまで個人が与えるダメージの総量の中では、彼女は群を抜いてパーティに貢献していた。 敵は元よりの『鈍重』を覗いても、其の巨体故に回避性能が高くない。 その分、防御性能は他のステータスに対して圧倒的なものがあったのだが……その隙間を突くかのように、彼女は状態異常と其れに併せた呪殺、さらにはセリエバ自身による賦活能力の反動を以て、防御など無いかのように確実なダメージを与え続けている。 かといって、ならば彼女の先の言が嘘であるかと言えば、それもまた否だ。 戦闘が続くと共に、自らの生命力の減衰に漸く気付いたのか、セリエバは此処にいたって近接対象を主とした生命力の吸収に掛かったのである。 戦闘開始直後に降り注いだ死毒の葉もまた手痛いものとはなったが、範囲を限定した分此方の攻撃も手ぬるいものには成っていない。 「……余力がないのは向こうも同じだ」 虚勢で身の傷を繕って、退がるべき脚を更に前へ踏み出したのは、鉅。 突き立てた刃に黒気を流し込み、体内そのものを縛った彼が、其処で遂に倒れ臥す。 「御津し……っ」 天乃も、同じく。 水上歩行を失した身が、大海に堕ちていくその様を助ける術は誰にもなく。 「申し訳ないけど」 だから、これは必定。 瑞霞によって翼の加護を得たいた乎一、並びにその瑞霞当人が彼らの身体を抱え、言う。 「離脱させて貰うよ。生命活動も危うい彼らに、此処の香気は拙過ぎる。 此方が求める最低数は四本。合流後に貰うから――」 「もう一本」 言葉を被せたのは天乃だった。 とぎれとぎれの言葉と共に、先ほど手に入れた一本を彼へと差し出し、屈託無い笑みを浮かべた。 「楽しい戦場、を用意してくれたお礼、だね」 「……どうも」 苦笑した彼は、それと共に彼方へと飛び去った。 「やれやれ、今度こそ後は無しか……!」 言葉とは裏腹に、何処か楽しそうな笑みさえ浮かべたシルフィアが、残る気力を絞り上げる。 四散したマジックミサイル。咆えるように軋みを上げた樹の異形は、最早形振り構わぬとダメージを無視し、唯運命を多く持つ者へ幾重もの葉を撒き散らした。 「――自分にだって」 シルフィアの耐久力は高くない。否、低いと言って過言ではない。 其れが、終盤に於ける今まで立ち残れていた理由が――七海が、此処に於いて、叫んだ。 「男にはなあ! 意地ってモノがあるんだよ!」 だが、彼もまた、其処で倒れる。 退がる事は無く、唯前のめりに。 小さく目礼をしたシルフィアに対し、彼の口元は笑っていて。 「後、一度!」 声高に叫ぶと共に、理央が天使の息を靡かせる。 一時的に持ち直した生佐目も、次いで苦笑を浮かばせた。 「次で倒れます。私に使うよりは、攻撃に」 「……っ」 敵がエル・バリアの効く物理攻撃を偏重してくれば良かったのだが、生憎と前衛にて行動する者は皆総じて運命の保有量が少なかった。 従って彼らへの攻撃が向いたのは敵が折れかけた終盤近辺。 ひたすら神秘攻撃によって傷み続けた仲間達への回復も、異界の香気によって気力を急激に損なう中ではその使用量も減っていき、だから、これがその結果。 「……必ず、掬い上げます」 「期待してますよ」 二次行動。穿つ鴉が敵の身を削ぐ。 当の生佐目もまた、最後の術技を以て枝葉を腐らせて行き、 「と、これは……」 更なる反撃。 樹液に続き、空を埋め尽くす毒葉を見上げる視線は、その中にある細枝を捉えていた。 「………………」 拾い上げ、胸元に挟んでおく。 隠すだけの肉がどうのと突っ込まれる前に、彼女はその意識を手放して。 「……コイツで最後だ!」 達哉もまた、残る気力を絞り上げ、天使の歌を言祝いだ。 満身創痍のリベリスタ達は、それでも立ち、己の技量を叩き続け、 「悪夢そのものを終わらせることが出来ないのは、歯がゆいですが」 だから、だろうか。 一手一手が、あわよくば全滅のカウントダウンたり得る状況に於いて、それでも悠月は表情を変えず。 「手助けだけでも、良しとしましょうか」 虎の子のマグスメッシスが、そうしてセリエバを撃ち抜いた。 上方の幹から何分の一かが折れ落ち、その大半が魔法陣の中に溺れていく。 それが彼らの目的の達成を意味することは、考えるまでもなく。 「……撤退だ!」 叫んだのは達哉。 頷く理央も生佐目を水中より引き上げ、即座にゴムボートを動かし始める。 最早唯の餌から怨敵足る存在となった彼らを、セリエバも逃がさんと言わんばかりに己の技を振るうが、それが全員を死に至らしめるにはならなかった。 斯くして。 幾許かの運命を代償に、リベリスタ達は敵の損耗に成功する。 蜂竪ら二人は、先にも言われた五本を受け取ると共に、仮に研究後の余剰分が出たら、それをリベリスタ達に返還すると言う約定を取り付け、その場を去っていった。 戦場の熱は、遠からず冷めるだろう。 其れが如何なる形であろうとも――否。 彼らは、その結果が如何なるものになるかを、信じていた。 そうして、響く端末のコール音。 手に取った幻想纏いの向こうから聞こえた、彼の作戦の結果は―――――― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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