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<黒い太陽>ウェヌスの嘲笑

●サガ
 影法師から逃れる事等出来はしない。


                        ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ

●争奪戦
「或るアーティファクトを取得した『リベリスタ』が居ます」
『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は集まったリベリスタに何時もの通り、何時ものテンションで仕事の話を持ち掛けてきた。
「勿論、アーティファクトを取得したのはリベリスタなのでそれだけならば特に問題はありません。御存知ありませんか? ええと、ほら。女優の――潮見セリカ様。いやぁ、私結構ドラマとか見るんですけどね。この間、何年か前の再放送を……」
「それはいいから。でも、そう言えばその女優……」
「はい。休業中ですね。一応表向きは『撮影中の事故で怪我をしたから』という事になっていますが。ええ、まぁ。お怪我をなさったのは事実ですけどね。重要なのはそれが『表に出ない話を理由にしていた』方でして。はい、ご想像の通り『お仕事』で顔に傷を負った彼女は表に出る事が出来なくなってしまった……」
 メディアの片隅でちょっとした事件として報じられたその情報をリベリスタが覚えていたのは偶然だった。芸能界は消費財の集まりだ。それなりの名声を得ていたとしても、時は全てを洗い流す。彼女が『それ以来』表舞台でスポットライトを浴びたという話は無かった筈である。
「……ま、気高い方ですから。『そういう不幸』があったとしても道を踏み外すような事はありませんでしたし、それ以後もリベリスタの活動は続けていらっしゃいました。唯ですね、最初に言った通り彼女は手に入れてしまったのですよ。彼女の望みを叶え得る特別なアーティファクトを」
「……勿体をつけるな。嫌な予感がしてきたぞ」
「はい。彼女が手に入れたのは『<ウェヌスの嘲笑(おんなのさが)>』。ヴェネチア・マスクにも似たこの仮面は顔に装着する事で持ち主と一体化し、持ち主が死亡するまで決して離れる事はありません。この仮面をつけた人間は『絶世の美貌』を手に入れる事になります。観る人間に不自然さを感じさせない形でです」
「それだけか?」
「いいえ」と首を振ったアシュレイは言葉を続けた。
「製作者は『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ。仮面をつけた人間は『最高の美貌』を得る代わりに『決して誰からも愛される事が無くなる』。当人の運命を捻じ曲げているのか、周囲の認識を弄っているのか――天才の仕事は私程度の凡才じゃ分かりませんけど。これを逃れる事は革醒者にも不可能。
 つまり――本当に誰からも、って事になりますかね」
 アシュレイの言葉にリベリスタは背筋を寒くした。ペリーシュという人物の作り上げる破滅は実に丹念に完璧である。そんな彼が用意した副作用が如何なる効果を及ぼすのか、結末は恐らく想像以上なのだろう。
「……問題はですね、この品物を『恐山』派が確保に動いている事です。
 ペリーシュ・シリーズは神秘界隈の好事家にモテモテでして。これを手に入れればかなりの利益が上がるのは分かっていますからね。『まだこれを使っていない』潮見セリカ様の所にエージェントと部隊が派遣されようとしているようです。皆さんの仕事はこの恐山派を阻み、彼等のアーティファクト獲得を防ぐ事です。まぁ、渡しても碌な結果になりませんからね」
「成程な」
 アシュレイはアーティファクトの確保自体は口にしていない。
 その辺りは任意でリベリスタ達の動きに任せようという事だろうか。
 意地の悪い彼女らしいと言えば彼女らしい話の動かし方ではある。
「一応話は分かったが、そのエージェントって……」
「はい、まぁ。皆さんには御馴染みの方なんですけどね……」
 アシュレイの顔は最後までニコニコとしたままだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月09日(木)23:39
 YAMIDEITEIっす。
 四月連打はじまるよ!
 以下詳細。

●任務達成条件
・アーティファクト『<ウェヌスの嘲笑(おんなのさが)>』を恐山派に渡さない

●夜の住宅街
 女優・潮見セリカの自宅がある閑静な住宅街。
 恐山派との会戦はその付近となるでしょう。
 襲撃計画は真夜中誰もが寝静まった頃に実行されます。
 人通り等は殆ど無いでしょうが、騒ぎを起こせば不測の事態は起こり得ます。又、住宅街なので道路の道幅は数メートル程度です。

●潮見セリカ
 数年前まで一線で活躍していた女優。現役のリベリスタ。
 年齢は三十五歳。『撮影中の事故』により女優業を引退状態となっていますが、実際の所は『リベリスタ業』で怪我を負った事が原因です。
 確かな演技力と美貌、抜群のスタイルを持っていました。
 強い精神力と揺らがないプライドを持っているのは現在も変わりません。
 覇界闘士。リベリスタとしての能力はそれ相応です。アークのトップクラスには及びませんが、上級スキルを一部扱う程度の力はあります。

●『バランス感覚の男』千堂遼一
 クリミナルスタア。腕は確かです。
 国内フィクサード主流七派『恐山』に属するエージェント。
 順調に出世を重ね、七派首領達にも一定に認められている存在です。
 バランス偏執狂でバランスの悪いものがトコトン嫌いです。日頃は比較的穏健で話せるタイプですがちゃんと悪党です。千堂についての詳細は拙作リプレイ『<相模の蝮>バランス感覚の男』『<恐山>アンバランス・バランサー』他、BNEのあらすじ等をご参照下さい。
 以下、攻撃能力等詳細。(分かっている範囲)

・ナイアガラバックスタブ
・暴れ大蛇
・ギルティドライブ
・EX サウザントバックスタブ

・EX ウルトラバランサー(非戦。死なない限り絶対にコケません。何があってもバランスです)
・EX バランススカウター(バランスがずれている所を一ミクロンでも看破出来ます)←修行した

●恐山会
 恐山会の兵隊で千堂の部下です。
 兵隊の戦闘力は数は20人。前衛が10、後衛が10。
 更に内訳は攻撃重視が10で、防御重視が10。回復役は10人居ます。アークの実働リベリスタの平均レベル程度の戦力を持っています。


 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
デュランダル
★MVP
源兵島 こじり(BNE000630)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
プロアデプト
ロッテ・バックハウス(BNE002454)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)

●千堂遼一
「夜分遅くにお勤めご苦労。回れ右して帰って良いぞ。手ぶらで帰れんのなら利益以上の損害をくれてやろう」
 傲然と言った『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)の小さなシルエットが街灯に照らされ暗いアスファルトに伸びていた。
「改めて言うまでも無いとは思うがの。押し入るならば唯では帰さぬぞ?
 精々『狂介』の代わりを務めて貰わねばならなくなる故な――」
「……知ってた。分かってた。どうせそうなるんだって確信もしてた。
 君達、本当に精度も感度も良過ぎるんだ。人のやる事為す事全部邪魔しようって姿勢はバランスが悪すぎて正直本当に心の底からたまに腸が煮えくり返ったり、逆に不本意に感心したりもする位」
 夜の住宅街でリベリスタの出会ったその男――フィクサード・千堂遼一は嘆き節混ざり、憤懣やるかたなく、逆に何処か愉快そうにも聞こえるような口調で実に複雑なその内面を吐露していた。
「敵は噂のバランスマン、相手にとって不足無しよ」
「勝率が五分位の相手って希望的観測をするなら僕も申し分ないけどね」
『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)としては恐山は『いざという時の再就職先』の一つに考えられなくもない位には『嫌いでは無い』組織である。そういう意味では(今の恐山にとってプラスかどうかはさて置いて)実力を見せるという意味でもやる気が出る相手ではあった。
「ちょっと痛かったらごめんなさいね」
「……出来ればちょっとにして欲しいけどね」
 運命は時に運命と引き合うものだ。光が存在するならばその裏には闇があり、悪が跋扈するならばそれを正す力もある。表裏一体、陰陽、表現は如何とも取れるがそれは――千堂がこよなく愛するバランス。『世界のバランスの一端』であるのだから彼の表情も理解出来なくは無いのだが。
「千堂、わたしに会いに来てくれたのですね……!
 と思ったら今回は敵! なんでえ! ヤダー!
 仕方ないのです……わたしはリベリスタ……正々堂々戦うのですぅ!
 ウェヌスの嘲笑、たとえ千堂が頂戴? って可愛く言っても絶対に渡さないですぅ!
 でもおねだりされる感じで言われたら、ちょっとウフ……良い……グフフ、じゃない! ダメー!」
「僕はね、基本的に敵キャラだからね。こないだのコンポートは美味しかったよ。
 君の髪型はバランスが良いし、優先参加とかついてないのにキッチリ引いてくるその執念は嫌いじゃないしね」
「ウフ!」
 どうしてかかれこれ二年は千堂に御執心である『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)がウィンクする。乙女心と任務の狭間で少なからぬ葛藤を抱く彼女の心理はさて置いて――状況が対決の様相を呈しているのだけは疑う余地もありはしない。
「イチャイチャは『終わってから』にしなさい」
「してるかな?」
「兎も角、お使いなら昼間の内にやりなさいな」
「大人の世界には色々あるのさ、『お嬢さん』」
「……分かって言っているでしょう、遼一ちゃん」
「勿論」
 外見は完全に可憐なる少女である――『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)の美貌にうんざりした、少し剣呑な調子が混ざっていた。
「全く、粗大ゴミのばらまきにも困ったものだな。
 有り難がる物好きにもうんざりする。いや、マニアらしく未使用新品で終まで死蔵するなら楽で良いが」
「需要と供給は商業論理の基本だろ?
 ゴミと芸術なんて紙一重だ。欲する者が多いなら、それにはきっと意味があるのさ。
 ……身をもって知ってるよ。あんなバランスの悪いビルを有り難がるとか理解出来ないし。
 いちいち君達が邪魔するから僕のへそくりが……」
 相変わらず口の悪い『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の一言に千堂が応えた。
 言葉の後半は些か私怨混じりで具体的には『<恐山>アンバランス・バランサー』辺りを御覧になるといいのだが、脱線余談。肩を竦めたユーヌはそれ以上の言葉を言わなかったが、ここで二人が言った『粗大ゴミ』ないしは『氏の作品』は勿論同じものを指し示している。二十人からなる部下を連れた千堂と七人のリベリスタ。千堂以下恐山一派は『或る品物』を入手する事を目的に動き出し、リベリスタ達はそれを所有する潮見セリカという女優(リベリスタ)とそれを守る為にこの場に赴いたのである。
 万華鏡の精密予測に予め周辺の移動ルートを洗ったユーヌやエレオノーラの高所からの策敵を加えれば、現地に及ばぬ早い段階での会敵は当然の結末と言えただろう。効力の程はどうとも言えないが問題を極力避ける為に『通行止め』の看板を立てる簡易工作も済んでいる。
 つまりその事実が示すのはこの場は『リベリスタ側が用意した戦いの場』であるという事実であった。
「貴方達の金儲けはどうでもいいけど、怖い玩具に手を出すのね」
「僕としてもね、氏の作品自体には大した興味は無いんだけど。何せ、彼のはバランスが悪いだろう?」
「ウィルモフ・ペリーシュは欲を持つ者に相応しい破滅を知っている」
 千堂はエレオノーラの台詞に満足そうに頷いていた。
 彼の言う『バランスの悪さ』はエレオノーラ(彼という代名詞は使わない)の言う『天才性』と同じ意味を示している。ウィルモフ・ペリーシュの作品は欲望なる罪業を最も正しく破滅へと昇華させる。
「女として生まれたからには美しくありたい――
 それは抗えない業であり、女が女足り得る要素。『最高の美貌』を得たいと思うのは仕方の無い事よ」
『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は一呼吸を置いてその先を繋げた。
「彼女が『唯の女』なら、ね」
(そう。いつまでも誰よりも美しくありたい。
 それは理解出来ない話じゃない。あたしにとってはただの知識に過ぎないけど――)
 エレオノーラは内心だけで呟き、
「だれだって美しくありたいと思う。
 じゃが誰からも愛されない美貌に何の意味があろうか。
 彼女を救うためにお主等を撃退して『ウェヌスの嘲笑』を処分する!」
『デンジャラス・モブ』メアリ・ラングストン(BNE000075)は一方で力強く宣誓した。
 ウィルモフ・ペリーシュは必ず裏切る。塔の魔女ですら比して『己を凡才』と称する最高の才能を彼は最悪の創造以外に使わない。代価が恐ろしく釣り合わない事を『バランスの悪さ』と称するか、それでも誰かをその破滅に誘い込む巧妙さを『天才的なバランス感覚』と称するかは主観の違いで片付く話だ。
 今回問題になる『ウェヌスの嘲笑』が女のサガなる異名を持つのは――美貌(じんせい)を失った女優の元に『それを取り戻す事が出来るもの』が現れたのは造物主とそれそのものの悪魔的性格を表しているようではないか?
「ま、善悪の問題じゃないよね」
「まさしく正しく天才ね。『昔のあたしなら』見習いたいと思う位よ」
 皮肉気に唇の端を持ち上げた『ソビエトの妖精』は饒舌に軽口めいていた。されど身の丈に合わぬDolores(アタッシュケース)の存在感とHaze Rosaliaの煌きに油断の色は見られない。
「要するにこれってやり合うしかないって事だろう?」
 千堂の言葉にフィクサード達が臨戦態勢を取っていた。
 既に油断無く戦いの構えを取っているリベリスタパーティは無論退く心算は無い。
「たかがアーティファクト回収にその大人数。少しバランスが悪くないかぇ? つまり――」
 メアリはすぅと息を吸い込んで強く一声を発した。
「二十人はヒキョーでバランスがわるい! 十人帰らせろや!」
 挑発めいた彼女に千堂は「勿論。バランスは大切だ」と軽く頷いた。彼女がそう考えた通りに彼は最初からアークの介入を予期していたのである。つまる所、リベリスタ達の作戦は『千堂が馬鹿正直に自分達に付き合う』という面を期待しての所もあったのだからここには少し綻びが生じる事を止め切れない。
「予定通りだ。プランはA。十人残すから『僕達を』援護して」
 リベリスタ達が動き出し、フィクサード達も動き出す。アークが今回用意した正規部隊十人は比較的精鋭揃いだが、その内の三人を潮見セリカの方へ向かわせた以上、この場での数の差は三倍である。恐山構成員が二線級中心である以上、純戦闘能力ならば千堂の存在を加味した上でも困難に劣っているとは考え難いが、頭数が作り出す状況ばかりは如何ともし難いものはある。
「……ええい、面倒なッ!」
 高速で術式を組み上げ誰よりも早く玄武の圧力で敵陣を叩きに掛かった瑠琵の判断は正しかった。軽く飛び退いた千堂は一撃を掠める程度に留め、敵陣の幾らかはまともにこれを食らったが彼等のプランに変更は無かった。
「させないわ――」
 高速詠唱から呪力を炸裂させ、黒鎖の濁流を『檻』から放った氷璃の尽力は前に出掛かった数人のフィクサードを縛り上げたまでで防がれた。
「女の中に男が一人――このバランスは見過ごすの?」
 自身の纏うスピードを並の革醒者では手の届かぬ領域まで押し上げたエレオノーラが千堂を挑発する。
「いいや。君はどっちにも取れるから、僕の中では個人の中で完結したバランスとして気に入っている」
 彼は本気か冗談かそんな風に呟き、手数に劣るリベリスタ達の肉薄、ブロックを部下に任せる事で凌いでいく。リベリスタ達のプランは特にこの千堂をこの場に食い止め、少しでも潮見セリカの元へ敵戦力が及ぶ事を防がんとするものであったが、この場合その選択権利はどうしようもなく敵側にある。
「分かってると思うけど彼等は強いから、時間だけ稼げばオーケー。死にそうなら逃げちゃってもいい」
 跳躍し、ブロック塀から民家の屋根に飛び乗った千堂が部下に声を投げかけた。
 十全な回復体制を用意した恐山部隊は防戦をリベリスタと同様に防戦を意識していた。
「ムキィー! 部下邪魔!
 千堂見えないでしょ! どいて! 道を開けなさいよ! バカ!
 アッ! 千堂すごく遠いとこにいる! しぇんどー! おーい! まってー! 好きー!」
 ロッテの悲鳴虚しく千堂達は足止めのフィクサードに阻まれたリベリスタ達を嘲笑うように闇を走る。
 リベリスタ達の対応はそれでも兎に角早かった。
 状況が『レース』を思わせるならばスイッチを切り替えるまでである。
 プランの修正はお手の物。倒すだけならば何よりもシンプルなのだから。
「広域射撃は苦手じゃないわ。可能な限り多数の敵をターゲットロック&フルファイア、よ」
「ああ。ゴミは早く片付けるしかないな」
 エーデルワイスの魔力銃の吐き出す轟音が夜を震わせる。
 瑠琵と同じく玄武の高等術式を容易く操るユーヌとフィクサード達の技量差は余りに甚大で。
 冷たく半眼の視線を向けた『普通の少女』に彼等は肝が冷える思いがしていた。
 ユーヌたんのその目なんかぞくぞくして気持ちいいんですけど、どうでしょうか?

●潮見セリカ
「夜分遅くお邪魔するわね」
「いいえ、大したお構いも出来ないけれど」
 応接間に通された『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は部屋のあちこちに飾られたトロフィーや盾といった『記念品』の類をちらりと眺めて気付かぬ程の嘆息をした。
 机の上には華美絢爛なるヴェネチア・マスク――
 足止め部隊の一方で――敵との会敵よりも潮見セリカとのコンタクトを優先したこじり、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)、『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)の三人は然したる問題も無く潮見邸の訪問に成功し、リベリスタには好意的な――リベリスタである彼女に家の中に通されていた。
「ご存知とは思いますが、一応改めて。我々は『アーク』の職員です。
 貴方が手に入れた仮面について――危険な状況がありますのでお話をしに参りました。取り敢えず近く迫った危険の解決が先決です。国内七派『恐山』の強力なエージェントが多数の部下を引き連れてその仮面を狙っているのです」
 嶺の言葉にセリカは「ありがとう」と応じた。
 改めて言及する必要も無い位彼女は美人である。そして、改めて言及する必要が無い位に厚手のマスクで目元以外を隠した彼女の姿は痛々しいものがある。『こうなって』から何年経とうともそのプロポーションが画面の中で見た在りし日と比べてもまるで衰えていないのが逆に痛ましい。極力の節制と努力がそれを形にしている事は容易に予想がつくからだった。
「アークは危険なアーティファクトを回収しなければなりません。
 セリカさんには出来れば自発的な協力を望みます。可能な限りの対価は本部にかけあえると思いますから。
 貴方の身の安全を考えても……それを扱うのは大変危険だと思います」
『ド』がつく程に真面目な『秩序の維持者』である恵梨香の言葉は今夜も硬い調子ではあったが、その口調やニュアンスには脅迫や強制の意図は無かった。むしろボタンのかけ違いや不幸からフィクサードに身を落とすリベリスタも少なくない中で、現状でもリベリスタであり続ける彼女への敬意がそこに滲んでいた。顔は女の命である。ましてや女優にとってそれがどれ程大事なものかは言うに及ばぬ。外見が全てでは無いけれど、誰かの隣に堂々と自信をもって立つには不要なものではない。人生を前向きに過ごす為に小さな事ではない。『恋する乙女』の一人である所の彼女にとって――それが分からぬ筈は無い。

 ――えー!? セリカちゃん、アタシをそいつ等に渡しちゃうの!?

 甲高いキンキンとした女の声が一同の頭の中に響いてきた。
 応接間のガラスの机の上に置かれていた仮面がふわりと宙を泳いでケタケタ笑う。
「……貴女が仮面を着けることは否定しないし、覚悟があるなら着けるべきです。
 けども、麗しくありながら愛されることの無い女性の辿る道が……心配なのです」
 耳障りな声に応える事の無意味さを嶺は知っていた。
 視線を仮面とリベリスタに順に移したセリカに彼女は訥々と言った。
「それは、良くないものです」
「ウィルモフ・ペリーシュの名は私も知っています。
 その仮面は――『ウェヌスの嘲笑』は嬉々として能力も代価も語りましたから。
 それを良いものと思う人間は――リベリスタは居ないでしょうね」
「……私の母は歌劇団の女優でしたが夫は持てず、酷い男共に群がられた人生でした。
 結果は、表に出せない隠し子が一人だけ。
 私は母が好きで、母はそれを支えに生きていけたけれど、もしも貴女が母になってもその子は貴女を……」
「ええ」
 応接間のカーテンを引き、暗い街を眺めたセリカは嶺の言葉に頷いた。
「容姿よりも、大切な事はあります。高潔な魂を持ち続ける――貴方の美しさは損ねていません」
「ありがとう」
 彼女は嶺の、恵梨香の言葉を噛み締めている。己ならぬ誰に己の気持ちが分かるものか、等とは言わぬ。『美しい顔で美しい言葉を述べる』少女の言を否定しない。己が為に赴き、己を案じる少女達の優しさを無碍に引き裂けば自身の心までもが、忌々しい顔と同じように爛れてしまうのだという事を知っていた。大好きなLe Fantôme de l'Opéraをふと思い出して小さく笑う。
「他の皆の意見は知らないけれど、私が望むのはただ一つよ。その仮面を誰にも渡さない事」
 言葉を受けて小さく首を傾いだセリカにこじりは続けた。
「言葉通りの意味よ。誰にも。それを狙ってくる恐山にも、私達アークにも。
 任務がどうこうの話じゃないわ。私は――源兵島こじりはそうして欲しいと思っているの。
 だってそうでしょう? それは貴方のものであって、他の誰のものでもない」
 息を呑んだ恵梨香がこじりの言葉に何かを言いたそうにしたが彼女は毒舌家にして独説家。
「今回の私達の仕事は『厳密に言うなら』それを恐山に渡さない事が目的だから。
 貴方が持ち続ける事を否定するものではないし、貴方がそれを使う事を否定するものでもない。
 使っても影響があるのが貴方だけならば――なら良いじゃない、そう思う。だって、顔は女の命よね。
 私は――他の誰にもだと思う。他人は貴方の願い(じんせい)を奪えない」
 応えないセリカにこじりは続けた。
「その傷、見せてくれない?」
「……どうして?」
「きっと、綺麗だと思うから」
 何処か捻くれた毒舌家が素直な想いを吐露した理由は何処にあっただろうか。
 誇り高い彼女が認めたくなるプライドがそこにあったからだろうか。
「引くわよ、きっと」と苦笑したセリカがマスクを取ればそこには――目を覆いたくなる程の『現実』がある。改めて筆舌に尽くす事が彼女の気の毒になる程の悼みがそこに横たわっている。
 されど目を細めたこじりは「でも、まあ。やっぱり私は綺麗だと思うわよ。その傷」とだけ話を結んだ。
 少し降りた無言の時間。それを破ったのは窓の外に鋭い視線を向けた恵梨香であった。
「――来た。突破されたようです」
 彼女の千里眼は潮見邸に接近する敵影を確かに見定めていた。
 千堂を先頭にした九人は――予定の十一人に足りぬ二人は突破を阻む為のリベリスタの攻勢に脱落を余儀なくされたという事だ――冒頭の章でリベリスタ達が突破を許した恐山の本隊である。
「お話は後になりそうですね」
 恵梨香はそう呟いて手にしたグリモアールに力を込めた。
「ご安心下さい。必ず食い止めますから」
 嶺の意志は漲るように硬く、その凛然とした瞳に迷いは無い。
「期待していいわよ。考える時間位は稼いであげるから。それじゃあ――」
 後ろ手にひらひらと手を振ったこじりがそう言った所で――ジャキンと軽やかに響いた金属音が三人の意識をセリカの方へと引き戻した。
「言っておくけどね、私の方が先輩なんだから。守られるだけの女じゃないわ」
『現役のリベリスタ』は確かに――それ相応の覇界闘士。『恐山の一般兵隊』程度に怯む腕前ではないと聞いている。
 更にセリカは浮遊するマスクにも一喝する。
「貴方も私を選んで現れたなら――勝手に奪われるんじゃないわよ」

 ――やぁん、セリカちゃんおっとこまえー!

 ウィルモフ・ペリーシュのアーティファクトは殆どの代物が知性と自律行動を獲得している。
 少なくとも『彼女』は強力な戦闘力を持つタイプではないが――敵に利する意味が無いのは朗報だ。

●交戦
「天女の羽衣、見とれていると怪我しますよ!」
 嶺の羽衣が闇に光の線を引く。
「邪魔です。今夜は――即刻、消えて下さい」
 恵梨香のハイ・グリモアールが朗々とした詠唱に応え敵陣を薙ぎ払う破壊の魔術を呼び起こす。
「夜の女性宅へ大勢で押掛けるだなんて、無粋。
 千堂くんはもう少し紳士かと思っていたけれど。良かったわ。ちゃんと悪党なら、戦う理由になるから」
 踏み込んだこじりの一撃は踊るように閃いた。
 彼女の美学主義を肯定するように連なり、閃く。
「私は、約束を違えない」
 軽くこれを見切った千堂を予期せぬ鋭さで叩き、敵陣に血を散らす。
 更に追撃したセリカの拳に飛び退いた彼は「だからアークは嫌なんだ」と小さく零した。
 多勢に無勢のリベリスタ達は恐山一派に苦戦を余儀なくされる事となった。たかが数十秒――数分に満たぬ戦いでも皆、傷付いていた。主力をかわされたリベリスタ側の不利は確かであり、状況は極めて厳しいものとなった。だが、この場に倒れたものがいなかったのも事実である。
 運命は青く咲き、無明の夜にその存在感を知らしめる。
「……これは……ううむ……」
 千堂自身に焦りの色が見え始めたのは――『あの程度の足止め』が長く機能するとは本人も思って居なかったからである。アークの任務部隊構成を良く知る彼はセリカ側の戦力が少数である事を見切っていた。しかして予想外の苦戦は――セリカ自身の参戦も含めて――今度は千堂側の計算が狂った事を意味している。
 果たして。
「こら、待て! 千堂! 今度は逃がさぬぞ!」
 彼の計算の『破綻』は響いたメアリの声をもって確実となった。
「……あーあ」
 振り返った彼の視線の先には大した被害も受けていないリベリスタ側の主力の姿がある。
 前門には手負いの虎、後門には狼の様相である。
「少しばかり借りるだけじゃ。直ぐに『返す』からのぅ♪」
 瑠琵の指先がフィクサードの一人から生命力を掠め取り、
「吹けば飛ぶ程度だが、吹いても飛ばない。今度は食い止める数も十分だぞ?
 影人のお代わり自由。返品の方は受け付けないがな」
 驚異的な身のこなしを有するユーヌを模した影の式神が彼我の数差を今度はリベリスタ優位にせんとしている。
「さっきのは訂正して貰うからね、遼一ちゃん!」
 少女めいたエレオノーラが放つ刃は冷たく切れる。
 宙空を泳ぐように繰り出された空中殺法にフィクサードの一人が混乱した。
「うふふふふふ、もう少しお相手願いますよ、恐山さん♪」
 道化めいたキャラクターとは裏腹に無慈悲なるエーデルワイスの『絶対絞首』がフィクサードの首をへし折った。
「千の分身による高速斬撃の嵐、その切り札、もう一度見せてみる?」
 ラーニングを得手とする氷璃が追い詰められた千堂に軽く微笑む。
 抜けるものならば抜いてみろと言う彼女に彼は、
「君には無理だ。何せステータスのバランスが最悪だからね!」
 至極真っ当な指摘をして、それから。
「しぇんどぅの血を吸うのですぅ!!!」
「――よし、逃げよう! 逃げるよ、諸君!」
 牙を剥いたロッテを見てではないが――戦場の離脱に掛かっていた。
「簡単に逃がしちゃ名前が廃るというもの!」
「やめてよ、怖いなあ!」
 エーデルワイスの声に千堂が悲鳴を上げた。
 実際の所、やり合えば勝敗は分からない。されど君子危うきに近寄らず。命のやり取りをする気が無いのは彼の常――

●女優
 セリカに何かを言いたい人間は多かった。
 メアリは言った。
「セリカよ。美貌とは種族保存のために必要なんじゃ! ひとを寄せつけぬ美など偽りのものよ!」
「一つの意見だわ」
 瞳を潤ませたロッテは言った。頭を優しく撫でたセリカに訴えた。
「へんてこりんな仮面に頼らなくてもセリカ様は気高く、とても美しく……
 どんな姿でもファンの人はセリカ様のこと大好きなのです。
 美しくても、愛されないのは寂しいですぅ……
 ファンとして、リベリスタ仲間として、これからも、ありのままのセリカ様の事!
 ずっと大ファンで、大好きなのです! だから……それ持って、一緒にアークへ帰りましょ~!」
 瑠琵は言った。
「『最高の美貌』の対価が誰からも愛されなくなる事とは……
 自己満足と同時に『最悪の醜さ』を手にするようなものではないかえ?
 顔の傷を誤魔化すだけなら超幻視や百面相で事足りる筈じゃ。
 女優潮見セリカの生涯を演じ切れるのはお主だけではないのかのぅ?」
「幻視で偽れるのは『人の目』だけ。百面相で得られるのは『別人の顔』。
 私がウェヌスに注文をつけるとするならば――欲するのは寸分違わぬ『私の顔』だわ」

 ――まー、アタシが弄ればもっと綺麗にしてあげられるのにぃ。
   でもまぁ、セリカちゃんも割と綺麗だから妥協できる範囲かなぁ?

 銀幕に映るセリカの姿は傷付いたままだ。舞台で演技したとしてもどう接触を誤魔化せよう。ウェヌスとて『フェイク』であると言えばそうなのだろうがペリーシュ・シリーズの魔力は少なくとも唯の贋作以上の出来栄えを奇跡として起こす事は間違いない。
 氷璃は問う。
「貴女が何故、女優を志したのか教えて貰えるかしら?
 美貌を誇示する為?それとも、銀幕にその名を刻む為?」
「演技をする為よ」
「――――」
「唯、演じる為。それが理由にならないなら、私には最初から理由なんて無かった。
 それを無くしたこの何年か、実際何度死にたいと思ったか分からない。
 でも、私はもう一度演じたかった。唯の一度でも脚光を浴びて、『あの世界』に帰りたかった」
「美貌や外見は女優にとって武器の一つでしかない筈よ。
 貴女が女優である為に磨き続けたものには遠く及ばない!」
「それでもよ。人は美しさを求める。そういうもの」
 諦念にも似たその言葉に氷璃は薄い唇を軽く噛んだ。
「まぁ、道具は道具。曲がらず自己満足に浸れるなら――後は本人次第か」
 溜息を吐いたユーヌにセリカは「ええ、ありがとう」とだけ応えた。
 セリカはリベリスタの言葉を否定しない。されど彼女の気質は鋼の如しである。
「あたしは自分の美醜はどうでもいいけど、商売道具でなくても、女性なら顔に傷が付くのは嫌よね。
 ただ誰からも愛されない役者なんて、価値があるのかしら。
 本当に好きなら傷の一つや二つ、きっと気にならない筈よ」
 最後に「あたし貴女の出たドラマ、結構好きよ?」と告げたエレオノーラにセリカは、

「嬉しい。でも、私は女優」

 そうとだけ呟いて仮面をそっと持ち上げる――

●テレビジョン
 アークのラウンジに備え付けられた大型のモニターが女優・潮見セリカの奇跡の復活を告げるワイドショーを映し出している。レポーターがそれを待ち望んでいたファンにコメントを求めていた。スタジオのコメンテーターが当時と寸分変わらず美しい姿で現れた彼女に祝福のメッセージを告げている。
 しかし。
 しかし、その何れもが何処か冷めた作り物めいたお芝居に見えたのは気のせいでは無かっただろう。
 熱烈な筈のファンは彼女の復帰を口程に喜んでいない。かつて切磋琢磨したライバルも、競演した俳優も、浮名を流したその相手も。テレビ局も、彼女の才能を買っていた監督も。
 口々に奇跡の復活を喜びながら、熱は無く。空間は何処か空虚なままだった。
 芸能界という消費ばかりを求める世界はやがて潮見セリカという女が居た事を忘れ去ってしまうだろう。
 忘れ去ってしまうだろう、今度こそ完全に。
 傷付きながらも愛され続けた彼女はもうそこには居ない。
 世界を呪った傷を癒し『かつてよりも美しくさえ見える』笑顔で佇む女は恐らくは別物なのだ。
「だけど――」
 こじりはコーヒーカップを机に置き、静かに席を立った。
「――貴方は女優なのよね」
『大して興味を持てない』テレビ画面から視線を切った彼女は静かにその場を後にした。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 今回は基本的に良いです。
 後味? 関係ないです。大成功。
 MVPについてはまぁ、完璧ですね。

 心情依頼における花丸。素晴らしいプレイングです。

 シナリオお疲れ様でした。