● 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)には、ちょっとだけ大それた夢がある。 「俺、フォーチュナだし。非戦闘員だし。どっちかって言うと技術系めざしたい。こう、アーティファクトとか作る方――この未来予知の力を未知の技術へのひらめきに転用したい」 そのために、大学は工学部に入ったのだ。 そんな厨二心を口にしたら、それまで「もう、必殺技のポーズとかびしっと決められないとか、全然だめっすね!」とか言ってた覇界闘士君が「――未知の技術とか、かっけー! 先輩って呼んでもいいっすか!」と仲良くなってくれた。 三高平お友達第一号。 そういうことがあったので。 ● 「えっと、親睦会と自己紹介も兼ねて、新年度に当たって抱負披露大会――って、どうかな?」 緊張しているのか、お菓子が四門の口の中に消えていくスピードが速い。 「ラムちゃんと桃子さんのお母さんも来て、上位形態への進化も出来るようになったし、新年度だし、皆色々目標とかあるんじゃないかなーと思って」 なんとなく上目遣い。 「そういうの、お互いの参考になったり、お近づきになる切欠になったり、自分への叱咤激励になったりしない?」 どっかな? 「えっと、公園の広場借りたので、これで――」 取り出されたのは、メガホン。電池入れて使うピーガーうるさい方。 「マイクだと恥ずかしいし。あ、大声コンテストも兼ねて」 そうか。叫べというんだな。 よし、わかった。これは、戦争。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月30日(火)23:22 |
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■メイン参加者 22人■ | |||||
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● 三高平公園、天気快晴。 「ああ……公園は犠牲になってしまったのでござるな……」 某ツリーハウスの跡地を見つつ、虎鐵は呟く。 三月の楽団による三高平市襲撃の爪あとは浅くない。 性質上建物の倒壊等は少なかったものの、アスファルトは赤錆色に染まり、雨が降るたびあたりには流れきっていない鉄の臭いがしばらく充満した。 それでも、人は前に進む。 レジャーシートを敷き詰め、お弁当を広げ、和気藹々と木箱を重ねて作った即席ステージに、アーク印のメガホン一つ。 大声を出して喉がかれてはいけないと、シエルとルナは飲み物や軽食を配り始めたし、留吉は団子のおまけ付きだ。 これを機にと、名前は知っているが実際に口を聞いたことが少ない面子との自己紹介などが続き、持ってきたお菓子の交換等も和気藹々と進む。 「はじめまして、とらだよ!ねえ、モンちゃんって呼んでいいよね?」 「え? あ、うん」 「じゃあ、モンちゃん、よろしく! はい、あーん」 口の中に放り込まれる森に生えてるあれのお菓子。 「ねえ、どっち派? やっぱKINOKOだよねっ!」 にじり寄るとらに、四門はただならない気配を感じる。ちなみに、四門はノンポリである。 「お、俺は、多数派――」 「そんなんじゃだめ、KINOKOなら心の友っ! TAKENOKOなら駆逐する! 負けられないこの戦い」」「ひいぃぃぃぃんっ!?」 はいはい、ビビリを脅かさない。と、七緒がとらを強制排除。 「七緒ちゃん最近ちゃんとご飯って食べてるのかな? 噂で聞いてたから、お姉ちゃんちょっと心配なんだよね」 るながすすすと七緒によってきた。 片手でつまめるサンドイッチっぽいものが手の中にねじ込まれる。 こうして、曽田七緒生活向上委員会に新規加入者。 事前の準備をしていたものが、いそいそと胡坐をかいた頃。 翔護――本人希望表記・SHOGOは、メガホンを手にした。 「お集まりの皆さん、SHOGOだよ!開会前に、イベントを楽しく過ごす為の諸注意さ。過度の飲酒・過度の露出・過度の嘔吐・過度の求愛・過度のハーレム等々、過度に迷惑をかける行為は禁止だよ!録音と撮影は多分OKだけど自己責任で!」 もちろん、いうまでもなく、未成年の飲酒、飲酒強要は罰せられます。 「それでは軽ぅく準備運動がてら、皆さんお手を拝借。さあご一緒に!キャッシュからの――――」 みなさん、ご唱和下さい。 「「「「パニッシュ☆」」」」 びし。こういう場ではのりが大事である。自然発生で沸きあがる拍手。 「はじまるよ!」 手渡されるメガホン。 「そ、それではぁ、『三高平公園の中心で今年の抱負を絶叫するリベリスタの集い』を開催いたします。司会は、言いだしっぺの法則で、俺こと小館・シモン・四門と――」 「三高平のアイドル、白石明奈ちゃんだ! ラァーブ! イィィズ! うおおおおーっ!」 両手を挙げてシャウトの明奈の口元に律儀にメガホン支える四門。 (四門くん……じゃない、四門先輩めっちゃ緊張してるし、まだアーク慣れしてないと思うのさ。だから明奈ちゃん、司会のサポートしよっかな、って) 手伝おうか? と来てくれた明奈に、四門は二つ返事でよろしくお願いしますと頭を下げた。 大学のキャンパスでお話したことはあったので、資料はもとより初対面ではないのが効を奏した。 しっかり者のアイドルと、今にもへたり込みそうなフォーチュナに暖かな拍手。 「あ」 SHOGOは、自分のやったことが挨拶じゃなくって前説だってことに気がついた。 しかし、すでにあとの祭りであった。 ちかたないね。 多少のことで動じていては、三高平で路上生活など出来ない。 だがしかし。無言で撒き散らされるモニカの蜂の巣弾幕推定砲弾1000発の騒音及び地響きに理由もわからず耐えられる者がいるだろうか、いやいない。 「えぇいうるさいッ! 人が惰眠を貪っているところにッ!!」 司馬、廃車より絶叫。 「この騒ぎはなんだ一体!? 四門、貴様一体何……!」 コモドドラゴンにガンつけられて、突進されたら、待っているのは死あるのみである。 中身入りの靴のかたっぽだけが残るのだ。 「うひゃらひえええぇぇぇっ!?」 人に怒鳴られるの慣れていないゆとり世代・四門、逃走失敗。口から魂。 「四門先輩、しっかりしろ」 と、明奈さんに励まされ、ブリーフィングで培った、魂彼岸に飛ばしながらのかくかくしかじか。 「……成程。今年の抱負か、これ。カオス過ぎて何かと思ったぞ」 そんなことないもん。健全な親睦会だもん。 「自宅庭だと逃げられんしなぁ。フリップ持って点数とか感想書くか」 という訳で。押しかけコメンテーター、司馬さんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね。おうちのことは聞かないで上げて下さい。 「さあみんな……そうるふるな叫びを僕にきかへてくだひゃい!!」 機体でお耳ピルピルの留吉が思わず叫んだ。 勢い込みすぎてかんじゃった。大目に見て上げて下さい。 ● まずは、自分の目標について語る人から。 「ふむ……雷音愛してるは今更口に出さなくてもこう……雰囲気で伝わるでござろうし……脱ロリコンはやはり無理そうでござるしな……さて……どうしたものでござろうか……」 虎鐵の脳内だだ漏れ。つうか、諦めんなよ。 というか、少女の成長を指一本触れずに温かく見守る、現状ロリババアを攻撃しないだけのLKK団である。 メガホンを晴れたる青空に向け、高らかに叫ぶ。 「今年こそは!!! 虎鐵さんは常識があるねって言われるように頑張るでござるううううう!!! ダンディでステキなオジサマになれるように頑張るでござるよおおおお!!!」 留吉は、外野から「男前!」と快哉を叫ぶ。 「よし、中身のある叫びをしたでござる」 本人はご満悦だ。 「虎鐵さん、すでに常識あるダンディーなんじゃ――」 雷音との関係を仲いい親子としか認識して無い四門に向けて、明奈がカンペを出した。 四門の顔から血の気が引いた。 「えっと、が、がんばってください」 四門の目の角度が+30度からマイナス30度になったことで、その心中をお察し下さい。 快は、すーーーーーっっと息を吸って。吐き出しながら全力で、 「卒業するぞーーーーーーー!!!」 と、のたまった。 拍手していいものかどうか、悩む観衆。 司馬フリップ、【エロい!】 周りが何に対してなのか、本人との認識と深くて暗い溝があるのを察した快は慌てて補足にかかる。 「いや、DT的な意味じゃなくて大学の方だよ! ちゃんと卒業して就職しないと!」 四門は首をかしげた。 「新田さん、酒屋さんじゃなかったでしたっけ?」 一様に頷く人々。お前、自営業じゃん。跡取り息子じゃん。大切にしろよ、僕らの第三次産業。 「親父がバリバリ現役で、世襲で継がせるつもりがないし、そもそも俺の給料は出ないから、副業は兎も角本業は無理なんだよ。だから、卒業してきちんと就職しないと。ただでさえリベリスタ家業やりながら勤められる企業、限られてるし」 リベリスタ一本で食えるじゃないか。少なくともアークに在籍してれば。というか、そのまま正職員になっちゃえよ、アークの経理に。そして、経費を認めろ。 「あー、でも時村グループの採用基準「美少女」って噂だからなー! これが氷河期ってやつかー!?」 冗談めかした声に、くすくす笑いが漏れる。 もう一方もガンバレー。の声に、 「この辺は俺一人の話じゃないからな……」 と、呟く。 それ以上は、と、四門はスナック菓子を差し出した。 「アーシェまだあんまり強くないし、やりたいこともやらないといけないことも色々あるんだけど……」 大声出すのに慣れていないアルシェイラは、ぽそぽそメガホンにささやくようにしてしゃべる。 「果物とか野菜とかが主食なのだけど、親切な人にフュリエに有効かどうか分からないけど「蛋白質も取った方がいいよ」ってアドバイスを貰ったの」 確かに、ボトム・チャンネルの野菜や果物でたんぱく質たくさん摂るの難しいね。 「で、アーシェお肉とか食べられないし……、って言って示されたのがアレ」 一瞬何かに耐えるような表情を浮かべるアルシェイラ。 「納豆っ!」 茶色くて臭いのするねばねば糸ひくあれですね。 確かに、フュリエに似つかわしくない食品ではある。というか、フィアキィがねばねばに巻き込まれそうだ。 「――オトーフと同じ豆で出来てるとかホントウなのアレ」 とりあえずチャレンジはしてみたらしいアルシェイラに一体何があったのだろう。 「うん、今年中に苦手は克服しないといけないと思うの」 それでも食べるのかアルシェイラ、それでも食べるのさアルシェイラ、蛋白質摂りたいから。 「以上、アーシェでした!」 それと言わなかったけど、フュリエ以外の人ともお話したい! ● キャベツの名産地の例に違わず、愛を叫ぶのはいいことである。 (少々恥ずかしいが、わらわは恋人との想いでも叫ばせて貰おうかのう……) 冷凍系スキル持ちの彼が物理的に冷たいから、これからの暖かい季節は大歓迎! 熱い季節はもっと歓迎! のレイラインばあちゃんは、おもっきし惚気まくってくれるようだ。 (『大好きじゃー!』 『愛してるぞよー!』 ……うーん、ちと捻りが無さ過ぎるのう) どうせなら、いい事をいいたいではないか。 「――そんじゃ、次レイラインさん――え? ばあちゃんでとおるの?」 素直にカンペを読む四門の声に、レイラインは慌てて立ち上がって木箱に上がった途端にバランスを崩し四門に寄りかかり、四門がハイバランサーの片鱗を見せて転げ落ちずに踏みとどまったところにレイラインの尻尾があった。 「――ピャにゃギャああああああああァァァッー!!」 ハウリングめいた悲鳴が空にこだました。 タワーオブバベルを持ったものにはわかった。 レイラインさんの今年度の目標は、「うっかりやらかしてにゃぎゃらないようがんばる」だ。 惚気を叫ぶ者はまだいる。 「うおおおおおお!彼女がかわいいよおおお!好きだあああ! 結婚してくれええええ!うひょおおおお! くんかくんかぺろぺろもふもふすーはーすーはー! だっこしてその黒髪に顔をうずめてもふもふしたいよおお! いつでもかわいいよおお!最高だよおおお! そのぷにぷにほっぺたをつんつんしてから、ぺろぺろしたいよおおお! どこを舐めてもおいしいよおおおおお! 無表情なところがかわいいよおおお! そしてたまにそれが照れたり微妙に変化したりするところがいいよおお! 抱きしめたまま離したくないよおおおおお!」 ここら辺までは、四門も笑顔だった。 「ここでは言っちゃいけないこととかしたいよおおおお! ふがふが! やっ」 四門はバリバリっと小袋を開け、握れない程度の太さにすると、大口あけているその口にえいやっと突っ込んだ。 「そのへんで」 天原さんにリベリスタを止める頃合を聞いてきましたと、人に教えを請うことに躊躇しない真面目なフォーチュナは言う。 「あと、プロポーズはご本人に」 シェリーは壇上に上がると、ぐるぅりと聴衆を見回した。 (雪待が居ないか。居ても叫ぶ内容は変わらないが居るなら本人に向かって叫んでやろうと思ったのじゃが) あいにく今日はいらしてません。 『ゆぅぅぅぅぅぅぅきぃぃぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁちぃぃぃぃぃぃぃ!!』 マグメイガスの肺活量を馬鹿にしてはいけない。 戦闘中かき消されないだけの音量と、洒落にならない分量をまくし立てている連中が叫ぶとどうなるか。 『すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 ゲシュタルト崩壊しそうな叫びである。言われた本人様にビデオレターを送りつけてやりたくなるストレートさである。というか、この近所に住んでたら聞えてんじゃね? 「――えー。すごく好きなんだ?」 「たぶん、焼肉の次ぐらいに」 え。一瞬、四門が笑顔のまま固まった。 「男では一番じゃ」 すげえ、惚気た。 「そんじゃ、焼肉について叫ばせたらどうなんだろぉねぇ」 撮影担当、曽田七緒がぼそりと呟いた。 ● リベリスタは命をとして戦うものであるから、それに対する意気込みが正道と言えば正道だ。 「このガントレットの傷は……それは駆逐した敵性エリューションの数を記したものだ」 コートが激しく風になびくのが優希の理想だが、残念ながらうららかな公園に吹くのは心地よい春風だ。 「立ち塞がる敵はこれを討つ。血の惨劇を引き起こそうとする輩は完膚なきまでに破壊し尽くす。平和を壊す者へは、鉄拳制裁してくれる」 残念ながら、全身全霊を込めて高らかに頭上に突き上げられたガントレットには、ひらりとモンシロチョウが止まった。 なんと言うか、和やかな拍手。 「理不尽な破壊を滅する。故に我あり! 悪! 裂! 斬!」 羽根を休めるモンシロチョウを振り払えない辺りが、優希である。 「我が名は焔優希。全敵性エリューションを殲滅する者。敵を駆逐するハンターとして!今年もこの世界を駆けてくれる!」 よくやった。この和やかな雰囲気の中でそれだけの厨二台詞をはききるのは、並大抵の精神力ではない。君の前途に武運あれ! 「俺も精一杯応援するな――?」 優希は、雨の日に濡れそぼる子犬のような目で四門を見ている。 四門は無言で優希の手をとった。 赤毛の親交、樹立の瞬間だった。 「――絶対鉄壁のヘクスはついこの間、プライドずったぼろにされて砕かれ戻ってきました」 壇上で、ヘクスはちんまりしていた。まだ小学六年生なのである。 「抱負を言うのに必要な事なので言わせていただきましょう。ヘクスは叩きつけねばならいのです。とある人物とにね」 金のために戦っているヘクスと言えども、先ごろ受けた屈辱はすすぐべきものである。 「剣林百虎ぉ!!」 公園の広場を通り越し、剣林本拠に届けとばかりの大音声。 「貴様に絶対鉄壁を砕かれてから色々ありました。一歩先に進んだ深化……その力の中にはヘクスが死ぬほど求めても絶対に手に入らない力があった、絶対鉄壁を取り戻す事なく、このまま誰かがその先へ進んで行くんじゃないかと正直眠れない夜もありました」 桜子がもたらした情報が更にヘクスに進むべき道が更に遠いことを示す。 「これを抱負にしてやりましょう。剣林百虎!貴様の牙をぽっきりと折るまでは絶対鉄壁とはお別れです。しかし、今年中に取り戻してやりますよ!ヘクスのプライドを取り戻すのです」 二つ名を封印し、春の空に誓う。新春に再び封を切ることを自らに許せるようになることを。 「いつも、庇って頂いてばかりでごめんなさいっ! 打たれ弱くてごめんなさいっ! 回復力が足りなくて重傷者を出してごめんなさいっ!」 シエルは、灰色の翼を大きく開き、あえてメガホンではなく口の横に手を添えて。 癒し手が多かれ少なかれ抱いている前衛へ抱く感謝と申し訳なさだ。 誰かが大怪我をすればそれは自分が治しきれなかったからだと思ってしまう。 「でもっ!!!」 シエルは、声を張りなおす。 「もっと、もっと、もっと、回復力をあげてっ!!! 皆様の回復支援っ! 誠心誠意っ! 頑張らせて頂きますっ!!!」 沸き起こる拍手。というか、シエルさんはきちんと連続勤務時間を超過しないように体を休めつつ働いてほしいと思います。厚生課からのお願いです。 「未来永劫中身で勝負っきゃないだろ! 俺はもっと強くなる! そして世界の笑顔を守るんだ!」 檀上に上がり、気障に一礼した後、思いっきり元気よく、笑顔で叫ぶ琥珀の清々しさったらない。 「七緒ーっ!」 カメラを構えた七緒を指差し、目線が合うと、ぱちんとウィンクした。 「七緒! 今度は格好いいとこ見せてやるからな! 期待して待っててくれよ!」 『今度は』 四門は、覚えのある依頼を思い出しながら二人の顔を交互に見た。あの以来は、自分が担当だ。 混沌組曲・急。三高平空港駅付近、楽団員・ジューリオ・アンドレセン討伐。 必殺が売りのナイトクリークなのに、神秘を受け止める器が足りず、七緒に止めを頼まざるをえなかった。 止めをさせと言うことは、人を殺せと言うことだ。 琥珀は、戦場でも七緒にすまないと言っていた。 それはナイトクリーク――暗殺者の自分がするべき仕事だったと琥珀は思っている。 「んじゃ、楽しみにしてるからぁ。ルージュエノアールとか派手でいいよね」 忘れられてるかと思ったのに、七緒は覚えていた。 琥珀は笑った。 (俺は皆の笑顔を愛す。その為にナイクリ道をひた走るのだ) 問題は、七緒が覚えていると言うことは、どこかで被写体にされているということで。 できるだけ、まともなところを撮られていることを祈らざるをえない。 ● 本人は大真面目だが、拍手していいんだろうかという抱負も存在する。 「オレは敬愛するシェルン様のおわす高みに少しでも近づけるよう、勿論、三高平をまもるために全力で励むよいろんなものを見て、たくさんの人に触れて、最近ではオレ自身がこの街を、この世界に住む人を守りたいと思うようになったんだ。だから、ええと……これからも宜しくお願いしたいんだ。オレとともだちになってくれるとうれしい」 ヘンリエッタの抱負は、四門が涙ぐんでしまうほどの真摯な想いが詰まっていた。 暖かな拍手が送られる。 「あぁ、それから」 それが付け加えられるまでは。 「それと同様に、はやく一人前の男になりたいとも思っている。男たる者が持つべき心得を教えてくれるとうれしいよ」 ヘンリエッタヘンリエッタヘンリエッタ。 あいにく今日は冷静沈着に間違いを正してくれるエフェメラはうっかり熱射病でグロッキー。 『お姉ちゃん、何かを叫ぶ立場からは卒業したので皆の事を見守るねっ!』 とか言って、名残の桜を見ながらいっぱいやってたルナお姉ちゃんもさすがにこれはどうフォローしたらいいのかわからない。 誰か、ヘンリエッタに「フュリエは男になれない」と、教えてあげてください! たすけて、シェルン様! 「私はヴィヴィ・バッドホール。そして私の目標……」 魔術師の家に生まれ、自分の好きな魔術と毒薬の研究以外は何もしたくない、一日中寝ていたい系新人の抱負。 「今年から本気出さない」 空白。 「今年から本気出さない。はい、大事なことなので二回言いました」 何言ってんのこいつ。という空気にはならなかった。 ヴィヴィとしては、依頼のたびに働きたくないでござるというのはめんどくさいのでここで叫んどけばアーク全体にいきわたるんじゃないかーと思ってのことなんだけど。 何ゆえみんなの視線が暖かいのか。というか、「うぷぷ。わかってんだから、このぉ」的空気は何? ヴィヴィは知らない。 アークの「自称・怠け者」は、怠けたいがゆえに依頼では異様に働き者になる奴らばかりだということを。というか、ほんとに怠けた奴から死ぬんだけどね。 のそのそと香夏子が壇上に近づいてきた。働きたくないのに、立派なトップグループだ。大抵、こうなる。 ヴィヴィの手をとった。 「そのとおりです。とりあえず働きたくないのです」 二人は互いの瞳にどうしようもない共通点を見出した。 怠け者の星。 そういえば、順番も香夏子さんでした。 「香夏子の今年の抱負はルメ子さんに、カレーを食べさせること! それも毎日です! 毎日毎日せっせとカレーを用意して届けるのです! そして……ルメ子さんのえせカレー嫌いを直すのです!」 それ、逆じゃね? そんな毎日カレーだったら嫌いになるんじゃね? しかしカレーを愛している香夏子には、そんなことは思いもつかないのだトラジディ。 「きっと来年の今頃にはルメ子さんのカレー嫌いも治るはずです。ちなみに香夏子は料理とかしないので持っていくカレーもルメ子さんに作ってもらうことにしましょう。香夏子もただでカレーを食べれて一石二鳥です!!」 やめたげなよ。カレー嫌いな人にカレー作らせるとか。香夏子、毎日カレー曜日とか名乗ってる場合じゃないよ!? 「やもりさんは扉や窓に気をつけて下さいーー!」 まおは強ーく思いを込めて叫びたいと思います。 「――はい?」 四門は首をかしげた。 「えっとですね、前にトイレのドアにくっついてるやもりさんをまおは見つけました。やもりさんがビックリしないように、そーっとまおはドアを開けて……開けたら……」 ちょっと待って耳をふさぐからちょっと待って。 「しっぽが引っかかったやもりさんが、ぼとりってまおのまえで落ちてたまま動かなくて撫でたら軽くてしっぽがぽりって動かなくて動いてくれなくてまおはまおはああああああああああどうしてどうしてこんなことに」 まお、トラウマフラッシュバック。四門、顔面蒼白。たすけて、明奈っさん。 ● 入れ替わり立ち代り大声を出し、おやつを食べて、飲み物を注ぎ交わし。 アルシェイラは、納豆とカレーの相性について語られた。誰からとは言わないが。 気がつくと、辺りはすっかり暮れなずんでいた。 「お名残惜しいので、皆で打ち上げっ!」 すっかり楽しくなったルナが行く人ーっと声を上げる。 次々と上がる手。中には、四門と七緒も混じっていた。 「で、誰が一番?」 音量系は、とっぱじめのモニカの弾幕でぶっ壊れた。 内容派それぞれベクトルが違うし――。 「二次選考に移行。と、友達いっぱい作った人が勝ち!」 という訳で、打ち上げにゴ-! そして、皆友達になったので、皆が一番になった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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