● さかみちを、のぼる。 たった、それだけの行為を、私はしっかりと記憶に焼き付けていた。 眼前には見知った彼の姿。いつもは頼りないその背中が、今はほんの少しだけ大きく見える。 ――そろそろだね。 彼の言葉に、私は応えない。 彼も、その理由を解っているからだろう。振り返ることもなく、唯前を歩く。 ややあって、到着。私たちの住む町を見下ろせる小高い丘は、私たちに小さな達成感と、まるで空を飛んでいるかのような俯瞰を与えてくれる。 ――どうしても、最後にここに来たかったんだ。 無理言って、ごめん。そう言って苦笑する彼を、私は相変わらずの無表情で見返すだけ。 ……ああ、もう、これじゃあ私がワルモノみたいじゃないか。 別に良いよ、とでも、無駄な運動させて! とでも、言葉を返したい。 けれど、できない。こみ上げる涙と嗚咽をこらえるので、精一杯だ。 ――今日は別れの日。子供の頃から一緒にいた彼が、遠く遠くに行ってしまう日。 哀しい理由なんて、言葉だけで表せない。友情とか、恋愛とか、そういうものだけじゃないから。 今までずっと一緒に居た存在。いつの間にか自分と一つになっていた存在。 それが居なくなると、そう考えたら、私の心はぽっかりと穴が空いたかのような、空虚な感覚を作ってしまうのだ。 そんな、私の胸中などお構いなしに、彼は眼下の町を見下ろして、傍らの私に、笑顔で何かを言っている。 ……私と同じくらい、ううん、私以上の寂しさを、必死に紛らわそうとして。 「…………」 もうこの笑顔を見られない。 もうこの声を聞けない。 もうこの人が……隣にいない。 それが、どうしてもどうしても、苦しくて。 「……傍に」 ――え? 「……傍に、居てよ」 漸く。 漸く出た言葉は、イマドキ子供ですら言わないような、小さな小さな、私のワガママ。 叶うはずもないそんな願いを――けれど、 『……ああ。それが君の願いだね? なら、その時の記憶に――君をとどめてあげよう』 あの声は、ちょっとお菓子を買ってあげる程度の気軽さで、私にそう応じた。 ● 「傷を負わない生き物は居ない。それは彼女も知っていた。だからあの言葉は、本当に唯のワガママだった」 ――それを、条理の外に位置するモノが叶えてしまった。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は少し哀しそうな顔で、依頼の解説を続ける。 「……このアザーバイド自身に悪気はなかったんだと思う。唯、彼が……彼の世界が望む幸せのカタチと、私たちの世界が望む幸せのカタチは違ったものであった。それだけの話。彼には残念だけれども、此処でそのやり方を叶えさせるわけにはいかない」 其処まで言って、漸く踏ん切りを付けたのだろう。 イヴは何時も通りの事務的な表情に戻って、敵の説明を始める。 「敵は、一人のアザーバイド。容姿は30cm程度で、魔術師のような杖と、黒いローブを羽織った小人の老人。 その戦闘、非戦闘能力はかなり多岐に渡る上、彼が使用する能力<ココロノコシ>は、リベリスタにとっては特に致命的。一般人が対象なら聞くまでも無い」 言って、差し出された資料は――確かにどれもこれもが、リベリスタにとって気を重くさせる類のものばかりだ。 「制限時間つきの上、敵も手強い以上、難しい依頼になると思う。 けれど、あのアザーバイドがこの世界のルールを知って貰うためにも、この行動は必ず阻止しなければいけない」 気をつけて。そう言うフォーチュナの言葉に対し、リベリスタ達は緊張の面持ちで頷き、ブリーフィングルームを退室していった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月26日(金)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「変わった事件も存在するものだな……。アザーバイドは善意で動いたという訳か」 丘の頂上に着くまでの道程、少しばかり傾斜が急になってきた地点。 苦もなくそれを上りつつも、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は小さく言葉を漏らした。 ――加害者は誰もいない事件。 やるせないとは思う。自己の想いを、想い故の行為を害毒と教えられるアザーバイド。それを食い止めたとて、少年少女に至る離別が避けられないという事実。 だが。 (覚醒していない彼らを、事件に巻き込ませたくはない。人として人の未来を掴ませてやりたい。 俺が手にすることの出来ないであろう人としての真っ当な幸せを、彼女らが掴む手伝いをしてやりたいと願う) 右腕を見る。其処には自らの世界が変貌したことを示す証拠が在った。 あの二人は優希とは違う。親しい者と永遠の離別を余儀なくされた彼と、想いを交わす手段の残る彼らとは大きな違いがある。 今、迎えようとする結末。新たな『自分』が生まれてしまう可能性を無くすために。紅き少年は再び、足を踏み出す。 「国が違うだけで考え方も変わるんだ。世界が違えばそりゃもう同じもんを探す方が難しいのかもしれねぇ。 ……けど、それを理由に見逃すことは出来ねぇよな」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が苦笑いする。 世界という莫大な『違い』。故に当然起こる過ちもある。そして、そこに在る想いを理解できてしまう以上、それを唯無下に切り捨てる事も出来ない。 しかし、同時に。それが人にとって害となりうるものであるならば、決してそれを許容してはいけないとも彼は思う。 「……いずれにせよ」 『ナックルガイ』司馬 鷲祐(BNE000288)の言葉は、冷たい。 それを、人を癒す夏の清流と取るか、人を震わす冬の極寒と取るべきかは、解らないが。 「『俺は平等だ』。……この出会いが、僥倖であればいいがな」 世界を壊すアザーバイド。鷲祐が為すべきは、送還か、討伐。 だが、其処で終わってはいけないと。彼の中の何かが叫ぶ。介在する想いを、意図を、全て聞き出し理解した上で、それでも自らの役目を、務めを為すために、その者の想いに応えるべきなのだと。 「戦うのはきつい相手らしいが、逆を言えば戦わずどうにかなる依頼だ。面倒も少ないだろう」 「ええ。言葉が通じるのであれば、弁説以上の武器など無い。異世界の知、蒐集させて頂きましょう。」 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が言い、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が応える。 自称・人間嫌いと知識蒐集者。目的の不明瞭と明瞭。相対する敵未満に対して、彼らは何を語り、何を告げるのか。 それとて、しかし後の話。 「――――――。ふむ」 到着、する。 微風が芝を揺らし、陽光が降りる小高い丘の頂上。 其処にあるのは三つの姿。眠る少年。目覚めぬ少女。そして、それを見守る小人の老人。 髭を蓄えた顔が彼らに向く、と同時。 「初めまして、『ココロノコシ』様……で宜しいでしょうか」 「こんにちは、初めまして。翁殿。我々はアーク。どうぞ以後、お見知り置きを」 『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)、イスカリオテの挨拶から、言葉を交えた戦いは始まる。 ● 対するアザーバイド……ココロノコシと呼ばれるそれは、目を丸くして、構えた杖を下に降ろした。 「不思議な方々も居たものだ。其処まで闘う為の装備に身を包みながら、殺気や闘気を全く抱いてはいないとは」 「必要なら、武器も捨てるが」 何でもないと言った風に告げる鉅に、ますます驚かされるココロノコシ。 「私達はノコっち……ココロノコシさんと戦うんじゃなく、お友達になりに来ましたから。武器なんて必要ないですし」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が言って、ぱたぱたと背の翼をはためかせながら、ココロノコシへと接近する。 「世界が違うから、私達の言葉や、解釈に解らないこともあると思うけど、その時は言ってください。ぐるぐさんがフォローします」 にぱ、と彼女が浮かべる邪気のない笑顔に、ココロノコシも柔和な表情を見せるも、流石に今先刻会ったばかりの相手に対して、当のココロノコシとて一先ずの警戒を解くことは出来ない。 「……見ての通りだ。今現在、此方に戦闘の意思はない。我々の目的は、あくまでも其処の二人の救出だ」 『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)がそう言いはするものの、瞳に宿る剣呑な光は隠せそうもない。 自分を含め、リベリスタ達の面々が説得のための言葉を用意はしてきたものの、『自身の世界の常識』に異を挟まれたアザーバイドが彼らの説得に対して否定的な解答を示す可能性は少なくない。ともすれば戦闘になる、と言うことも……決して無い話ではないのだ。 取りあえずは非戦の意思を受け取ったココロノコシに対して、先ず前に出たイスカリオテは、自身の何分の一かの老人に対して丁重に礼をする。 「本日は翁殿へ一つ御願いをしたく参上致した次第です。……失礼ながら、翁殿はこの様な力を御存知でしょうか?」 『願いを叶える』と言うアザーバイドの習性をさりげなく言葉に交えつつ、イスカリオテは老人と交えた視線から――彼の思考を読み取る。 (……なるほど) 予想以上にココロノコシの心的抵抗は強く、その大部分を読み取ることは叶わなかったが――少なくとも、この老人が今行っている行為については、悪意は全くないらしい。 眇めた瞳をふっと緩めるイスカリオテ。対するココロノコシは、思考を読まれたという感覚に若干、呆れと苦笑を交えた、複雑な表情を浮かべている。 「非礼はお詫びします。ですが……この度貴方がこの力――リーディングと呼ばれるものですが――を用いず願いを叶えた、と言う事実が我々に観測されました。 申し訳有りませんが、それは“ルール違反”なのです」 その言葉を継ぐように、九狼が前に出て、自身の意見を述べる。 「我々の世界において、契約とは双方の合意に基づいて行われるが、報告を聞く限りでは、少女に対して適切な意思確認をしたとは見受けられない。故にこの契約は無効だ。 またココロノコシの効果は絶命か昏睡状態に陥るモノだと見受けられる。我々の常識で考えれば、そのような状態を望む者は比較的少数だ。よって一旦少女を解放し、再度少女に意思確認をすべきだ。 覚醒した少女が再び昏睡を望むなら、自身の明確な意思決定であるなら、俺は構わない。人生の幸福は自分で見い出すモノだ」 「……強いねえ。君は」 老人は強い意志を込めた意見に対して、しかしゆるりと微笑むのみ。 「そして、その言葉も正しい。若干の齟齬もあるが、私たちの世界での契約も、その方式が正しいとは思う。 かと言って、私がこの能力を解除した時点で、隠していた武器を向けられる、と言うことは避けたい」 「……聞き入れることは出来ないと?」 「君たちの意見を、もっと聞かせて欲しい。と言うことさ」 悪戯っぽく返す言葉に、九狼も若干眉をしかめたが、渋々とイスカリオテに役を譲った。 「しかし、私たちの願いも先の彼と相違ありません。ルールを守って頂けない以上、“翁殿がご自分の世界へ帰られること”。それが私の願いです。如何でしょう、叶えて頂けますか?」 「……それが真実であるのなら、聞き入れなくもないのだがね」 再度、苦笑するココロノコシ。 「幸か不幸か、私は人の大まかな感情は兎も角、内心までを正確に読み取ることは出来ない。しかし、君たちは私がこの世界で会う中で、初めて私の存在を理解する者達だ。 君たちを信じたい気持ちと同じくらい、警戒する気持ちも強い。その言葉が嘘である可能性が低くない以上、素直に応じるわけにはいかない」 「……成程」 イスカリオテもまた、それに苦笑しつつも、一礼して下がる。 次いで、出たのは優希。片膝を着いてココロノコシを見据えつつ、彼は自身の思いの丈を吐き出す。 「ココロノコシ氏。貴方の善意は理解した。だが、俺達が貴方の世界へ干渉ができないのと同様に、貴方の干渉では、彼女らの「ココロ」は救えないのだ。 俺達が彼女らを救うから、どうか見届けてはくれないか。 貴方にも、この少年少女にも、危害を加えないことを約束する。だから能力を解き、彼らを解放してくれないか?」 小人の老人に視線を合わせるべく、出来る限り頭を低くして願いを乞う優希。 それに対して、老人は小さく苦笑いを浮かべるのみ。 「其処が、間違いだろうねえ。私は別に、彼女を救おうというわけではない。唯、彼女の幸せを望んでいる。それだけのことだ」 「……? それは、一体」 「強いて言うならば、選択かな。穏やかな夢を見せ続け、やがて見る者が其処に停滞することを――それこそ『辛い現実が待っている』ことを理解した上でも――拒んだとき、私の夢は泡と消える。 そうでなければ、死ぬまでそのままだ。どの道無理に起こそうとしても、現実に耐えうる覚悟がなければ、その者は生きながらにして腐っていく。生きていく意味がない。 幸福な夢を砕き、現実に立ち向かう強さを得るか、はたまた過去の喜びにすがり続けるか。双方の行く先は、如何なるカタチでも幸福だ。彼女の命の介在する余地は、其処に必要など無いのさ」 「……しかし、それでは、少年の願いは叶わない」 静かに、鉅が言葉を返した。 一つ一つ、覚束ない意思を言葉に変えて、丁寧に老人へ伝えるその姿は、面倒くさがりに彼にしては、珍しく真剣な対応に見える。 「それに、お前……アザーバイドがこの地にとどまり続け世界が崩壊したり、少女が起きず緩やかな死を迎えたりしても、「一緒にいたい」という少女の願いは叶わん。願いを叶えるのがお前の目的ならば、このやり方は正解といえんな」 「……其処な少年にも、死ぬまで彼女と等しい夢を与える。そう言っては、いけないのかね?」 「ああ」 問う老人。答える男。 「……ならば、君たちの答えとは、何かね?」 返される答えなどは解っている癖に、それを聞く。 「どうか、彼の言葉を彼女へ伝えさせては下さいませんか? ……お願い致します、『ココロノコシ』様」 対し、返された言葉は雪奈のもの。 こくりと頷いたアザーバイドは、今一度、倒れる少年たちを見やって、言う。 「教えて貰おう。君たちの世界の理を。それが私の世界の理より、正しいのかを」 ● 「……、ん」 ざわざわ、と葉が擦れる音で、目が覚めた。 眠っていたのか。瞼を開けば、見えるのは満天の青空。 「……、そうだ。――――――は……」 傍らに立っていた少女。少年はその姿を探そうとして……その必要もなく、少女が未だ、自分の傍で寝ている事に気づいて、ほうと息をついた。 ――しかし。 「……駄目だ。そのままじゃ」 「っ!?」 唐突に、背後から聞こえた声。 振り返れば、其処には金髪の少年が立ち、上半身のみを起こした少年をじっと見ていた。 「その子は、そのままじゃ目覚めないんだ……呼びかけてやってくれよ」 「……何を、馬鹿な」 「本当だ」 向けられる瞳は、何処までも真摯で。 其処に滲む『真実』を感じ取った少年は、恐る恐る、少女の肩を揺らす。 反応は、無い。 「……そんな」 熟睡しているだけなのか。きっとそうだ。 思い直し、もっと強く揺さぶる。反応は無い。反応は、無い。 「……嘘、だ」 骨を軋ませる勢いで、より強く少女を揺さぶる少年の手を――しかし、先の少年が、止める。 そうじゃない。彼女にするべきは、そんな行為なんかじゃない、と。 「彼女の言葉に答えを出してやって欲しい。本当は分かってるはずなんだ、この子も……」 「言葉……」 ――傍に、居てよ。 意識を失う寸前、辛うじで聞き取れるほどの小さな願い。 漸く思い出した少年に、蒼髪の青年が現れる。 彼らが何なのか。何故二人のことを知っているのか。 理由など要らない。解らなくて良い。唯、少年が望むのは―― 「お前は立派な男だ。己の立ち位置を知って、どうなるかの覚悟と整理をつけて望んだんだろうな。……それなら、彼女の言葉へ答えを返してやれ」 「……っ」 「彼女の言葉と気持ちを受け止めて、お前なりの答えを。それが彼女のこれからを始める。――そして、お前もまた、進め」 ワケの解らない人たちの、ワケの解らない言葉。 それが、しかし。この混乱する状況の中で、少年の確たる支えとなっている。 必要なのは、言葉。 永遠の離別という不安。それを堪え、上ずった声で、少年は声を発する。 「……、僕は――!」 微睡みの中にいる、感覚。 傍には腐れ縁のアイツが居る。何時もと同じ柔和な笑顔で、人なつっこく語りかけてくる。 通学路を歩く、私とアイツ。何処かで見たような光景。追体験、のような。 否、そんなことはどうでも良い。今を見よう。コイツと一緒にいる今を―― 『彼を信じて心を開いてやれ』 ――何だろう。声がする。 微睡むような思考にするりと入る、少年の明瞭な声音。不快なノイズ。 『離れることになろうとも、生きてさえ居れば努力次第で再び寄り添えるものだ』 「……嘘」 不快な声に、言葉を返す。不快だから、もう聞きたくないから。 でも、返した言葉は苦し紛れじゃない、私の本心。 会えない。それは事実で、心はきっと、距離に応じて徐々に離れていく。そう思っている。 メール、電話。古風に、手紙。それで、それだけで繋がる心なんて、ドラマか本の世界だけだ。縒り合った糸は緩やかに解ける。それが私にとっての真実。 『未来を信じて、歩みだせ』 ああ、もう、五月蝿いな。 今のままじゃ、いけないの? 微睡み。これが夢だとしても、傍にアイツが居る夢なら、それを見続けられるなら、望む事なんて他にないのに。 視界がぶれる。薄く開いた視界に、何故か知りもしない赤髪の少年の顔が映った気がした。 止めて。嫌だよ。辛い未来なんて視たくないの。 このままにさせて。他には要らないから。唯、これだけの願いなんだから―― 『それは、彼がその願いを望まないで欲しいと、願っていたとしても?』 「……!!」 声が変わる。少年から、涼やかな少女の声に。 言葉を返せない私に、少女は唯、訥々とした言葉を私に届け続ける。 『……これから、あなたへの返答が彼から。 どうか、怖がらないで……と言っても難しいでしょうか。けれど……きっと彼はあなたへ純粋な気持ちを届けてくれる筈ですよ』 「……聞きたく、ない」 アイツが何を望んでいるかなんて、解らない私じゃない。でも、聞かなければそれに気づかずにいられると思って、だから気づかないふりをして。 だから、止めて。私を微睡みの中にいさせて。 『それは、出来ません。確かに彼の言葉は、貴女が望む答えじゃないかも知れない、けれど……今ここで聞かなかったきっと後悔してしまいます。あなたに言いたい事があった様に彼にだって……押し込めていた言葉は、有る筈ですから』 本当の気持ちを、今こそ交わして。 返す言葉もない正論に、ぽろぽろと涙がこぼれた。 我が儘な私を優しく諭す二つの声は、やがてもう一つの声を連れてきて、私を覚醒に導くだろう。 だからせめて、そうなる前に。 「……貴方達は、だれ?」 『……。聞いてください。彼の言葉を』 問いに答えは返されぬまま。 微睡みが、明ける。 ● 「……答えは、君たちの側、か」 舞台は、再び異能者達の側へと移る。 彼らの前には、再度眠る少年と少女。違うのは、それが唯の眠りであること。 「記憶は修正しておいた。この二人は、今までのことを何かの夢だと思っていることだろうね」 言って、アザーバイドはリベリスタ達から離れていく。 「待って。ノコっちはこれからどうするの?」 ココロノコシに対して、その背丈に合わせた小物などをお土産として差し出しつつ、ぐるぐは彼に問う。 「さて、どうしようかな。境界穴は閉じられ、私には最早帰る場所はない」 さらりと告げられた告白。リベリスタ達が瞠目するより早く、彼は笑って告げる。 「取りあえずは、君たちの答えを、他の者達がどれほど抱いているか、探してみよう。 それを私なりに見終えた後は――自らの手で、幕を引こうか」 「……アザーバイドも難儀なものだな」 些か皮肉った風体で、鷲祐が同情の意を示す。 「存在することそれ自体が否定される……もし自分がと思うと、薄ら寒い話だ」 「そうかね? 私は、そうは思わない」 しかし、対するアザーバイド当人は、寧ろ楽しそうな笑みを浮かべている。 「命と引き替えでも、それに値する発見がある。君たちは私が知らない答えを心に刻んでくれる。それは、私にとってこの命を賭ける意味があることだよ」 苦笑する鷲祐。年の功と言うべき意見に、小さく肩をすくめた。 「では、私が死ぬまでに、縁があれば――また」 そうして、異界の人間は去っていく。 徐々に消えていくその小さな身体が、完全に消えるまで、リベリスタ達は視線を外さなかった。 「……ぅ」 それと、同時。 少女が小さくうめき声を上げる。薄く開いた瞼の先に映るリベリスタらを寝惚け眼で覗く彼女に、ツァインは気さくな笑みを浮かべて、声をかけた。 「目、覚めたか? 倒れてたんでびっくりしたよ。気分悪くないか?」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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