●果てた居城と春の庭 古びた白壁に無造作に絡みつく蔦。 十年以上も前に住む人の居なくなったその館は長い時を経ても尚、絢爛さを保ったままでいた。誰が呼びはじめたかは定かではないが、門塔のある豪奢な造りの其処は『古城』と呼ばれるようになった。 かつて其処にはエリューションが巣食ったこともあったが、リベリスタ達の活躍によって元の姿に戻った。そうして、古城と呼ばれた洋館はアークの管轄となり、今に続いている。 季節が巡り、春が訪れた現在――古城の庭には様々な花が咲き誇りはじめていた。 或る日、アークの一角。 「そんなに素敵な場所があるのに、どうしてまだ手付かずのままなのかしら!」 フォーチュナから古城の事を聞き、『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)は実に勿体無いと語気を強くした。綺麗にすれば美しくなるはずの外装の洋館。その内部には豪奢な調度品もしっかりと残っているらしい。 既にエリューションも居ないのだから、手入れをすれば絶対に素敵になる、と少女は豪語した。 「……清掃にまで手を回せないんじゃないかな。面倒だし」 その隣では、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)が本のページを捲っている。更にその横には暇すぎて机に突っ伏している『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)の姿もあった。 「んー。特に洋館を何かに使う予定もないんなら仕方ないんじゃねーかな」 尻尾をやや高くゆっくり振り、「腹減った」と呟いた耕太郎は興味もそぞろ。 そんな男性陣二人をじろりと見遣り、ロザリンドは更に言葉を強くする。 「面倒? 使わない? いいえ、そんな事はないわ。だって、私がその古城でのんびりと過ごしてみたいんだものっ! だからお掃除しに行くわよ、お掃除!」 驚いて微妙な反応を返した少年達の腕を掴み、娘は決意する。 あの古びた洋館――『古城』を素敵な場所にしよう、と。 ●お掃除と探索の日 「――ということで、みんな。私達と一緒に古城ツアーに行きましょ」 モップに箒にチリトリ、ハタキに雑巾、手拭などを引っ提げたロザリンドはリベリスタ達を誘う。 ツアー、とは言ってもその実態は掃除ボランティアである。娘の背後には三角巾を無理矢理装備させられた耕太郎とタスクが居り、複雑な表情を浮かべている。 「まぁ、まだ埃だらけな事を除けば悪い場所ではないんだよね」 タスクは古城と呼ばれる洋館の簡易地図を取り出し、内部の造りを説明してゆく。 鉄門から正面の扉を潜れば広いエントランス。 その正面には二階へ続く大階段があり、左右には食堂だった場所や応接室に繋がる廊下が伸びている。一階の一番奥にはダンスホールにもなりそうな大広間。 そして、二階は長い廊下と小部屋が配置されており、かつての主が集めた人形コレクションの名残や、豪奢なベッドやソファなどが置かれた客室。そして古びた本が並ぶ書斎がある。 地図を覗き込んだ耕太郎はやっと興味を覚えたらしく、明るく笑む。 「結構広いんだな。走り回っても誰も怒らねーし、サボって遊んでも……いてっ」 しかし、サボりという言葉に反応したロザリンドにぺちりと叩かれてしまった。 痛くはしてなかったのに、と耕太郎の頭を撫でた娘は咳払いをして、更なる洋館のことを説明した。 何でも、ロザリンドが気になっているのは洋館の裏庭らしい。 「少し調べたら割と広いお庭みたいなの。お手入れはされていないけれど、自然に咲いた花や薔薇園だった場所もあるみたいで野薔薇が蕾をつけていたわ」 庭には背の高さ程の生垣も建てられており、ちょっとした迷路になっているのも面白そうだ。 「何だか"秘密の花園”のようで素敵よね。私もお掃除が終わったら探検しようかしら」 掃除とは銘打ってあるが、其処で何をして過ごすかは其々の自由。そういうロザリンド自身も一段落したら裏庭で過ごす心算なのだと告げる。 古城で過ごす時間はどんなものになるだろうか。少女は思いを馳せ、小さく微笑んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月07日(火)22:34 |
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● 荘厳な鉄門の奥、蔦這う古びた白壁。 城のような造りをしたこの場所は古城と呼ばれる不思議な廃墟屋敷。 屋敷の壁によりかかったひよりは双眸を細め、朽ちかけた建物に思いを馳せる。 「ああ、こうして時に埋もれて朽ちていけたらしあわせね」 ぽつりと思いを零すひよりだったが、今日はみんなで大掃除をするのが目的。個人的にはこのままでも素敵だと思ったけれど、きっとこのお屋敷の時を過ごしたい人がたくさん居るのだ。 ならば、お屋敷もきっとそれを喜んでいるはず。 「だったら、わたしもお手伝いするの」 どんなことに役立てるかは分からないし、少し不安もある。それでも、今日という日に集まった皆と一緒に頑張れば、素敵な時間が巡るはず――。 ひよりは古城を再び見上げ、これからの時間を思って意気込んだ。 懐かしくも思える古城を眺めた後、総一郎は清掃へと向かう。 先ず向かったキッチンには様々なアンティーク品が手付かずで置かれていた。価値を知らぬ少年達が危うく壊しそうな場面を見つけ、総一郎は告げる。 「繊細なものに無理して手を出すな。大丈夫だ、オレが責任を持って教えてやるから」 アンティークの手入れをレクチャーした彼はその後、最重要項目である水周りと電気関係の点検に回った。この古城で過ごすならば、使えると使えないとでは大違い。的確に周囲を点検した彼は無事に使用できることを確認すると、安堵を覚える。 徐々に古城には掃除に励む者達が集って来ていた。 きっと、この屋敷は良くなっていくだろう。総一郎は周囲を見つめ、この先の古城の姿を想像した。 はたきで埃を取り、布で蛇口を拭き取り、虎鐵は一息吐く。 「ふむ、折角立派なキッチンなのでござるから少しは綺麗にしないとでござるな」 本気を出した虎鐵の頑張りにより、キッチンはみるみるうちに輝きを取り戻していく。そうして、他の場所でも掃除を行う仲間達を思った虎鐵は、綺麗になった台所でハーブティーを淹れた。 「掃除終わりだと疲れてるでござろうしな。これで少しでも癒せればいいのでござるが」 「良い香りがすると思ったら、虎鐵が居たのか!」 そこへ匂いを嗅ぎ付けた耕太郎や他のリベリスタが訪れ、辺りは和やかな空気に包まれていく。 ゆっくり、のんびり。虎鐵は静謐な空気に流れる穏やかさを感じ、自分もカップをそっと傾けた。 こんな素敵なお城で彼とハッピーエンドを迎えてみたい。 それが乙女であるそあらの想いであり、いつか叶えたい夢。だが、今はホコリまみれの古城はそんな雰囲気ではない。そあらは掃除道具を片手に未来を思い描き、決意を固める。 「まずは出来る所から頑張るのです! そして、デートなのです!」 気合いを入れてハタキをかけていくと、その先には大きな大きな蜘蛛の巣があった。 「虫がでたですぅ! ホコリで前が見えないですぅ」 ぐるぐると目を回しながらも、そあらは懸命に掃除を続ける。 頑張れそあら。負けるなそあら。夢はきっと、数々の試練を乗り越えた先に待っている――はず。 快が探索するのは酒蔵の中。 大きな屋敷ならば自前のワインセラーがあると判断した彼の予想は大当たりであり、地下には小さいながらも貯蔵庫が眠っていた。 酒屋としての力を発揮し、換気の度合いや温度と湿度を調整する。 酒の類は残ってはいなかったが、これでいつでもボトルや樽を寝かせて置けるだろう。 「そんな日が来るかどうかは判らないけど、いずれセラーにお酒が並ぶ日が来るかもしれないしね」 そして、快はちょっとした願いを込めてこの場にワインを置いた。 新たな仲間となった少女の生まれ年のワインが一本、セラーに寝かされる。いつか彼女が二十歳になった時、気づいてくれたら面白い。そんな事を思い、笑んだ快は満足気にその場から踵を返した。 古城に因み、古式ゆかしいメイド姿で現れたのはエナーシアだ。 コスプレとは違って機能的な服は掃除には最適。そんな彼女が戦うのは主に埃。そして、これはお城が古城と言われるに至った時間との戦い。 「此方の武器は経験とやる気と注意力なのだわ」 直感で思いを言葉にしたエナーシアは何でも屋としての誇りを抱き、客室をひとつずつ綺麗に整えていく。掃除を進める度、それぞれの歴史と時間を感じられるようで、エナーシアは満足感を覚える。 「さあ、時計を進めると致しませうか」 きっと、此処から古城の新たな時間がはじまる。 巡り来る刻が進んでいく先を想像し、エナーシアは小さな思いを馳せた。 ● 竜一こと”Dragon”、フツこと”Buddha”、雷慈慟こと”L”。 それが崩壊を防ぐ為に集った者達――【BoZ】。新曲『BOZWIN'』を引っ提げ、彼等この古城に訪れた目的はPVの撮影を行うためだ。Buddhaの提案によって、普段とは違った洋装を身に纏った三人は掃除を終え、古城を巡って撮影に勤しんでいた。 「ふっ、さすがBuddha。目の付けどころがluminescenceだぜ」 貴族服を着たDragonは応接室でソファに腰掛け、足を組んでギターを掻き鳴らす。 映った映像を確認したBuddhaも更なる良いシーンを撮るべく、仲間にアドバイスと希望を告げた。 「いいねえ。パンもお菓子もいらねえ、オレが酔うのはこの音楽だけだ! って感じで頼む」 「うむ、悪くないな」 Lも改めて自分達が着ている神官服を見下ろし、この古城によく似合っていると納得する。やがて、撮影は城の周りへと至り、幻想的なPVが徐々に形作られていく。 この活動が結果的に、崩界を食い止めること繋がる。dragonがそう言うのだから是非もあるまいと頷いたLもまた、BoZの活動を実に大切に思っているようだった。 そして撮影は大詰め。 大広間に集った三人は周囲の者達も巻き込み、PVのメインシーンを作り上げていく。 「そうだ。1番の歌詞はBOZWIN' BOZWIN' じゃん。2番の歌詞は、BUCKIN' BUCKIN'にしようぜ」 新メンバーの事を思い、Buddhaは提案を投げ掛ける。 「良いな、その曲の流れ。どでけえ大作になる予感だぜ……!」 dragonは胸に期待を馳せ、BoZを通して広がっていく輪を思った。 この企画が完成を迎えたとき、一体どのような感動が待っているのだろうか。きっと素晴らしいものになるのだと確信を抱きながら、三人はそれぞれに視線を交わしあった。 古城っぽい洋館はツァインにとって全力で歓迎すべきロケーションだった。 見ているだけでわくわくどきどきすると心を躍らせた彼は、屋敷に似合う儀礼用の装飾鎧を着込んで訪れている。 「わー、依頼の時は全然気になんねぇのにこういう時着ると無性に恥ずかしいな……!」 そう思い至るも、好きだからこそやり遂げるとツァインは決めた。館の近衛兵的な設定を付け、屋敷を練り歩いて雰囲気を出す彼の姿に、ふと通り掛かったロザリンドが感想を零す。 「こすぷれいやーさん?」 的確な突っ込みに慌て、ツァインは思わず言い訳をしてしまう。 「ち、ちちちち違うんだ! コレは少しでも雰囲気が出ればいいなと思っただけで!」 そんな彼の様子を微笑ましげに眺め、少女はくすくすと笑んだ。 ツァインもまた、例えこれが黒歴史になってもめげないと信念を貫き通し、つられて笑みを湛えた。 書斎の中、オーウェンは興味を抱いて辺りを見渡す。 「さて、ここの主はどう言う者だったのだろうか、な」 本の並びから元の主の人となりの推理を試みながら、彼は丁寧に掃除を始めた。何か見知らぬ物はあるだろうかと具体的に本の中身を調べたオーウェンは埃と歴史が詰まった書のページをひらく。 ――その頃。キッチンでは未明が掃除に励んでいた。 「台所が汚れてるとかありえないわ」 食器も含めて徹底的に磨くと決めた未明は窓を全開にし、埃を払ってブラシで磨く。人手が足りずにサボる男子達を引っ張り、何とか大まかな掃除を終えた彼女は仕上げとして食器を綺麗にしはじめた。 見れば、どの食器も実に高級そうな雰囲気がしており、未明は宝物を見つけた気分を感じる。 「うん、綺麗になった場所で一息吐くのはいいわねぇ」 折角だからとお茶を淹れた彼女は知り合いを探すべく、湯気の立つカップを持って屋敷の探索に向かった。そうして、未明が辿り着いたのはオーウェンの居る書斎だ。 「あら、こんな所に居たの?」 「丁度良い所に来たな。中々に興味深い物が発掘できた」 迎えに来た未明から飲み物を受け取ったオーウェンは発見した物を披露し始める。 そうして暫しの時間が流れ――埃臭かった書斎にはいつしか、柔らかな紅茶の香りが満ちていた。 客室は豪奢なレースの天蓋がついたベッドや、細かい細工の家具でいっぱいだった。 「うわー! 見て、お姫様のお部屋みたい!」 掃除を終え、綺麗になった部屋を見渡したアリステアは瞳を輝かせ、ベッドにちょこんと腰掛ける。すぐ隣に涼が腰を下ろすと、ふかふかのベッドはゆっくりと沈んだ。 「こんなにふかふかだと逆に気になって眠り難いかもね」 取り留めのないことを話しながら、二人は遠くから聞こえる声に耳を澄ませた。 廊下からは一緒にお屋敷に来た人たちの笑い声。けれど、扉一枚隔てた部屋の中は不思議に静かだ。耳に届く涼の声は優しくて、聞いているととても落ち着く。 (ううん。声だけじゃないね。いつも優しい) 穏やかな思いを抱き、アリステアはそっと涼の肩に頭を預けた。 「何だか、キミと二人でいられるのは嬉しいな、と……?」 「んん、あのね……ずっと……」 アリステアは何かを呟いて目を瞑り、そのまま小さな寝息を立てて眠りに落ちてしまう。 ――ずっと一緒にいてください、って。いつか言えたらいいな。 彼女がそんな事を考えている事は知らずに、涼は優しく微笑む。そして、彼は全ての音がどこか遠くに聞こえる部屋の中で静けさを噛み締める。起こさなぬようにそっと彼女の頭を撫でた涼は、胸に満ちる心地が幸せなのだと実感する。 小さな部屋にふたりきり。まるで、今だけこの場の時間が止まったかのように感じられた。 ● 犬とご主人様。二人の関係を敢えて違う言葉で表すなら、きっとそんな形。 夏栖斗は耕太郎に彼女を紹介した後、こじりを連れて裏庭の野薔薇が咲く場所へと向かった。手を引き、示す先には咲き始めた花の影が見える。 「野薔薇みたいに自由な君に、なんてね。花言葉はやさしい心だってね」 「やさしい心、ねえ」 夏栖斗の言葉にこじりは少し考え込み、ならばこれは貴方みたいな花だと告げた。 そのことを嬉しく感じ、彼は満面の笑みを湛える。もし夏栖斗が本当に犬科だったなら、きっと今は全力で尻尾を振っていることだろう。はしゃぐ彼と手を繋いだまま、こじりはふと問いかける。 「今日はやけに歯の浮いた様な台詞が出てくる様だけれど、どうしたの?」 甘いもの食べ過ぎて血糖値でも上がっているのではなくて、と冗談交じりに聞かれても、夏栖斗は胸を張って当然のように答えた。 「愛しのこじりと一緒だからに決まってんじゃん」 そして、彼は薔薇の蕾をひとつ手に取ると、こじりに手渡す。蕾の花言葉は――『愛の告白』。 「こじりすきだーーーー! 超すきだー」 全力で愛を叫ぶ夏栖斗の言葉は勿論、心からの本気。 しかし、こじり本人は何気なくさらりと流し、いつもと変わらぬ眼差しを向けた。 「御免なさいね、貴方がアレだから、目を逸らして居たわ」 言葉は素っ気なく聞こえても、本当の理由は彼の姿があまりにも眩しく思えたから。 なんちゃってね、とこじりが零した呟きを聞き、夏栖斗は再び明るい笑みを湛えるのだった。 普段は殺伐とした世界で過ごしている故、今日はちょっとした気分転換。 兄に誘われ、古城へと訪れたレイチェルは盛大に埃だらけの城を眺めて、素直な感想を零した。 「これはまた、なかなか凄い汚れだね……」 「歴史を感じるっつーか、趣のあるっつーか」 しかし、ちゃんと綺麗にすればとても素敵な場所になるはず。頑張ろうと意気込んだ妹の姿を見つめ、兄であるエルヴィンも準備を整える。 「よし、レイ、気合いを入れて頑張って行こうぜ」 ジャージに三角巾、マスク、手袋。汚れたならば帰りに銭湯にでも寄って行くつもりだと後々の予定も万端。そうして掃除を進める兄妹は他愛ない会話を交わしつつ清掃に励む。 「頑張れば頑張る分だけ、先行投資にもなるよね」 「ん? 先行投資ってなんだよ。いつかデートにでも使うってか?」 「……まあ、そんなトコです」 「はは、そんなら頑張って掃除してかないとな」 そんな談笑しながら、楽しく掃除を続けるエルヴィン達は実に仲良く、見事な連携で仕事を進めた。 きっといつか、綺麗になった古城でもっと素敵な時間が過ごせると信じて。巡り来る先のことを思いながら、レイチェルは微笑んだ。 「掃除ハマァ適度にやるが。チョッチ興味あるなこの書斎」 書斎の本をぱらぱらとめくり、リュミエールは興味の赴くままに掃除、もとい本探しを始める。 しかし、やはり本は日本語のものばかり。単語が多過ぎなのだと零したリュミエールは掃除しやすいようにと埃の積もった場所から本を下ろしていく。 「マッハデヤルゼーチョウヤルゼー」 その中でもめぼしい本を見つけ、積んだ彼女は意外ときっちりと掃除を行っている。 何かレアモノがないかと探すリュミエールは何となく楽しげな様子にも映った。 野薔薇の園、慧架は掃除に励む皆の為に菓子を用意していた。 花の香りの中に広がるひときわ優雅な香りは一緒に入れられたローズヒップの匂いだ。その香りに誘われて訪れた少女に気付き、慧架はそっと手招いてみる。 「あ、出来ればロザリンドさんも一緒に作ってみませんか?」 「まぁ、素敵ね! 良ければ手伝わせて頂戴」 ロザリンドも嬉しげに答え、二人は仲間の為に労いの菓子の準備を整えていった。 一人よりも二人で用意する方が楽しく、とても早く出来上がる。掃除が終わる頃に全員に配ろうと決め、気合いを入れた少女達は微笑みあった。 「きったない城ですね」 ド直球の感想を零したモニカは辺りを見回し、埃だらけの周囲に視線を巡らせた。 古いだけのものを欲しがるというアンティーク趣味を全力否定する彼女だったが、メイドゆえに掃除をするのは得手だ。その手の趣味の方の鑑賞に耐え得る程度には綺麗に掃除してみせると決め、モニカは信念を持って掃除に挑んだ。 「さて、ボロい城の掃除をはじめましょうか」 態度が良いかは別だが、その手腕は見事なものだ。 箒掃除に雑巾掛け、各種整理整頓。家具の手入れやベッドメイキング、ガーデニング、そして物理的な不用品の処分に至るまで。彼女の手によって、随分と掃除が進んでいったのだった。 明るい陽射しが射す庭の木陰にて、魅零はタスクと共に休憩していた。 「ありがと。何か形になるものを貰えるって、嬉しい」 十四歳の記念にと貰った音楽プレイヤーをとても気に入ったらしく、タスクは礼を告げる。そんな中、魅零は歳の差を思って溜息を吐いた。 「私と……六歳差かぁ」 己が十四の時を思い出し、魅零は更に落ち込んだ様子を見せる。其処に気付いた少年は首を傾げた。 「俺、魅零のことは結構好きだよ。歳なんて関係ないと思うんだけどな」 さらりと表された言葉はLikeの意味だっただろう。だが、少年が魅零に対して興味を持っていることには変わりない。僅かに戸惑う魅零は言葉を飲み込み、少年から向けられる眼差しを受け止める。 「ま、まあ! なんでもないよ。そうだ、今度もまた一緒にどこか行きたいな」 自分は戦い、彼は視る。 その使命から逃れられぬならば恋など出来ないかもしれない。それでも共に居ることが楽しいのは互いに同じはずで――。良いよ、と先の約束を了承する少年の傍、魅零は複雑な思いを抱いていた。 ● 野薔薇の園に咲く花々は自然のまま、好き放題に花を付けていた。 このままでも綺麗なことには変わらないが、手入れをすればこの庭はもっと素敵な場所になるだろう。 「皆、頑張りましょう!」 「はい、糾華お姉様」 呼び掛けにリンシードがこくりと頷き、優雅な薔薇が似合う糾華の姿を幸せそうに眺めた。 「うわぁ……聞いてた通りに、でっかいお屋敷だねー」 庭から見る屋敷の裏手も圧巻。アーリィは様々な場所に興味を示しつつ、見よう見真似で手伝いに回った。綺麗に出来たら気持ち良いのだとアーリィが実感する最中、輪は薔薇の枝を調べていく。 「りんはねー、虫さんを集めてきます」 無邪気な笑みを見せた輪は枝に付いた毛虫を心の赴くままに拾い上げていく。ぽいぽいと虫籠に放り込んで行く様はとても大胆。そこに頼もしさを覚えつつ、糾華は花の手入れを続ける。 だが、そのとき。 「野ばらの茎は棘が鋭いから怪我しないように気をつけて……ぃつっ」 「だ、大丈夫ですか、お姉様!」 糾華が棘に指を引っ掛け、赤い血が滲む。すぐさま気付いたリンシードは慌てふためき、自分が舐めて直すと言って彼女の指を甘く食んだ。 「あの、ちょっと……リンシードっ」 小さな痛み以上に触れた感触が柔らかく、糾華は赤面してしまう。とっさに包帯を取りに行ったアーリィが走って戻ってくるが、怪我自体は大したことはなかったようだ。 「持ってきたよー。って、意外と平気そう? 良かったー」 そんなトラブルがありながらも、アーリィ達は気を取り直して手入れの続きをはじめる。 「さすがに黒蝶館にはもっていけませんけど、この子達が蝶になったら連れて来ても良いかな?」 首を傾げる輪に頷きを返し、リンシードは見違えるほどになった園を見つめた。 落ちた野薔薇は持ち帰ってお風呂に浮かせて見ても良いかもしれない。帰った後の素敵な想像を巡らせながら、少女達は緑豊かな庭園と、花の景色を楽しんでいった。 悠里には綺麗でないと許せない場所がある。 そのひとつはトイレ、もうひとつは風呂。そして、最後のひとつはキッチンだ。信念を抱き、それぞれの掃除をきっちりと行った悠里は、すっかり綺麗になった台所を使って料理を用意しはじめる。掃除を頑張った皆の為に作るのはカレー。 その匂いに何人かが釣られて訪れ、悠里は少女達に声をかける。 「初めまして、ロザリンドちゃん。ちょっと手伝ってくれないかい」 「ええ、私で良ければ!」 そうして料理を始めた二人は、互いが同じ大学生なのだと知って話に花を咲かせた。 「ロザリンドちゃんは今年から大学生なんだってね。じゃあ僕の後輩だね。よろしくね!」 「それなら悠里先輩と呼んだ方がいいかしら。ふふ」 和気藹々と会話を交わし、悠里達は楽しい時間を過ごしていく。そうしてこの後、城中にカレーの香りが充満してしまい、或る意味で大変なことになるのはまた別の話――。 素敵な古城には、どんな人が住んでいたのだろう。 思いを巡らせ、掃除に励む淑子はキッチンに何か無いかと探しに来た耕太郎を手招いた。 「犬塚さん、少し此方を手伝って下さる?」 「うっ、サボりに来たのに見つかった。わ、分かったんだぜ」 渋々とだったが、耕太郎は高いところが届かないから椅子を押さえていて欲しいと願った淑子の頼みを素直に受け入れる。上から下、隅々まで綺麗にしましょ、と意気込む淑子は一年前までは掃除もしたことがなかった。 だが、今は少年に「手際が良いじゃん!」と褒められるほどに慣れている。 「喫茶を経営しているから、毎日していることだもの。そうだわ、もし良ければ遊びにいらしてね」 淑子はふと思い立ち、美味しいケーキをご馳走すると告げた。すると耕太郎はぱっと表情を輝かせ、現金にもやる気を出しはじめる。 「やった、じゃあ遊びに行くぜっ! 張り切って掃除しちまおうぜー!」 そんな彼の様子に微笑ましさを覚え、淑子はくすくすと笑みを零した。 床をピカピカにするつもりで大広間に入った祥子は、広がる光景に胸のときめきを感じていた。 「すごい! ステキ! あたしの好きな童話のお屋敷みたい!」 瞳を輝かせる彼女の様子の微笑ましさに、義弘は思わず双眸を緩めた。 「まあ、俺もその童話は見たことがあるが。ここで、ダンスをしたいのか?」 「主人公のお姫さまと魔法をかけられた王子様がこういう大広間でダンスをするのよ♪」 義弘が問いかけると、祥子はその手を取って腰に腕を回させる。言葉通り、ダンスの真似をはじめた彼女の姿は愛らしかった。義弘自身は生憎、優雅な踊りとは縁が無い。しかし、祥子と同様に踊るフリをした彼は暫しステップに付き合う。 「ありがとう。何だか本当に物語の中みたいだったわ」 「そうか。ならばここから先はおあずけだ。今日は掃除をしに来たんだからな」 「ええ、そうね」 掃除を促した義弘は、この先は機会があれば、と言って祥子の髪をなでてやった。 少しの間だったけれど、ロマンチックなダンスシーンが楽しめたことに彼女も嬉しげに目を細める。きっといつか、この場所で本当のダンスが踊れる日を夢見て――。 二人は仲良く掃除を始め、訪れるかもしれない未来へと想像を巡らせた。 ● 再び訪れることになった古城の一室、雪佳はかつてを思い起こす。 穏やかな眠りに包まれるのも良いが、これだけの立派な趣ある館があのまま人々に忘れ去られるのも偲びない。こうしてまた時を刻み始めたことは、個人的には嬉しく思えた。 そうして、雪佳は自室に大切に飾っていた猫のぬいぐるみを手にし、部屋を見渡す。 「もしかしたら、元いた家に帰してやった方が良いのかもと思ってな。君はどう思う?」 雪佳はロザリンドに問い、意見を求めた。 すると少女は少し考え、彼が手にしているぬいぐるみを眺めて、口を開く。 「うーん、一緒に居てあげるのが良いと思うわ。だって貴方はその子が好きなんでしょう?」 見ていれば分かると告げた少女の言葉に雪佳は照れ臭さを感じてしまった。それに、ぬいぐるみも貴方が好きなはずだと少女は言う。 「そうか。それならば……」 雪佳は少しの安堵を覚え、責任を果たすべきなのだと感じた。猫の家は既に此処ではなく――彼の部屋こそが、新たな家となったのだから。 シュスタイナと壱和。のんびりと掃除をする二人が交わすのはたくさんの話題。 「壱和さんのエプロン姿が可愛すぎてちょっと悔しいわね」 「シュスカさんのエプロン姿も可愛らしいです。似あってますよ」 花柄エプロンに三角巾を締めた壱和は、シュスタイナの纏う黒のシンプルなエプロンを褒める。そうかしら、と気恥ずかしくなった彼女が照れる様を眺め、壱和はくすりと笑った。 履き掃除や拭き掃除を重ね、二人は徐々にキッチンを綺麗にしていく。 綺麗になっていくと何だか嬉しくなる、と言いながらお喋りするシュスタイナ達は実に楽しげだ。 そんな中、食器を磨き始めた壱和はこうしていると、何だかお腹が空いてきてしまうと零す。 「シュスカさんは、何がお好きでしょう」 「そうね、和食が好きよ。ほっこり煮物とか」 「ボクはだし巻き卵とか好きなのです。お砂糖入れて、甘くふんわり仕上げると美味しいんですよ」 返ってきた答えに壱和はふわりと笑む。くるりと、と自然と尻尾振った壱和の愛らしさに、シュスタイナも微笑ましさを覚えた。 壱和の持つ空気のお陰だろうか、何故だか一緒にいると優しい気分になれる気がする。 「だし巻きも大好きだけれど……中々ふんわり作れないのよね」 そうやって食べ物の話を続けていると、不意に壱和のお腹が小さく鳴った。 「いい時間ですし、終わったら一緒に何か作りましょうか」 「そうね。後で、一緒に何か作りましょう。まだこうやって、お話していたいしね」 掃除の後の約束を交わした二人は綺麗になったキッチンを見渡す。もう少し、楽しい時間を一緒に過ごしたいから――。互いの気持ちはきっと同じ。 掃除準備万端で現場に向かったシビリズは今、孤独だった。 「何となく掃除をしに来てみたが……ハハハ! これはどうやら早速迷ってしまった様だな!」 誰も居ない生垣の通路の中、彼は迷子になっている。いやはや、全く持ってこの様な事態になるとは。もしこれが戦闘ならば致命の至りだと真面目に考えてしまうシビリズだったが、首を振って余計な思いを抱いてしまう悪い癖を排除する。 「まぁ、焦らずともいずれ誰かに遭遇は出来るだろうが……」 生垣の壁を壊して進む訳にはいかんし、と彼は思い悩みながらも先に進んでいった。 だが、暫く歩いても誰にも会える事はなく――。 「うおおお、出口は! 出口はどちらの方向だッ!!」 数十分後。悲痛な叫びが裏庭に響き渡り、それを聞き付けた仲間によって救出部隊が結成されたとか、されなかったとか。 今回の目的は魅惑溢れる宝の山、もとい書斎を徹底的にお掃除すること。 亘と旭とタスクのいつもの三人はハタキと雑巾を片手に、いざ掃除に挑む。やる気の満ちる二人に対してタスクは本の方に興味津々だが、旭が引っ張って行くことで何とか事無きを得た。 だが、トラップはそこかしこに待ち受けている。 二人が届かぬ場所を担う為、飛行で上の棚に向かった亘は、並ぶタイトルの中に興味深さを覚えた。 「おや、この本は」 本をつい開いてしまい、読みふける亘。其処に気付いた旭が彼へと声をかける。 「あれ? わーたーるさん♪」 「……はっ!?」 「ちょっと亘。真面目にやってよね」 恋物語に熱中していた亘に二人がサボリ発見とばかりに視線を向けた。だが、その眼差しは厳しいものなどではなく、しょうがないな、という何処か温かな物だった。 「でもね、わたしもこんなのみつけたの。ふるくて手書きで書き足してある地図なんだよね」 達筆すぎて読めないけれど、それは不思議とわくわくした気持ちを運んでくれる。 そうして、掃除終えて解読を進める少年達に、旭はとっておきの贈り物を取り出した。 「ふふー♪ じゃじゃーんっ! おねーさんからサプライズぷれぜんと!」 「わ、これは……」 二人がリボンの箱を開けると、中には石の色が違う揃いのピンブローチが入っていた。 亘が青、タスクが緑、旭は赤。まるでそれは互いの友情を示すかのように、きらきらと光っている。礼を告げた少年達が実に嬉しげにする姿を見つめ、旭もまた、満面の笑みを湛えた。 ● 野薔薇の園にて、ヘンリエッタは手入れを始める。 園芸の本と道具を駆使しながら、先ずは土づくりから。植えるのはさまざまな薔薇の苗木であり、いずれは可憐な花を咲かせてくれるだろうと期待が満ちる。 「此処の日当たりはどう? 居心地が悪くはないかな」 この世界のの植物との付き合いは浅いけれど、薔薇の声を聴きながら少しずつ槌のベッドを整えていく。大丈夫よ、と告げるように花が風に揺れ、ヘンリエッタは微笑みを湛えた。 「また明日も手入れに来るよ」 待っていて、と彼女が告げると花達も嬉しげな感情を返す。花ひらく時を楽しみに思い、ヘンリエッタは庭を見渡した。そうして、いつかまた皆で遊びに来られたら良い。 そんな風にして彼女が巡らせた想像の中では、色とりどりの薔薇が咲く美しい光景が広がっていた。 「コータローくーん! あーそーぼーっ!」 「よしきた、エフェメラ! じゃあ迷路で競争しに行こうぜっ!」 裏庭に響く元気な声はエフェメラと耕太郎のもの。駆け出した二人はそれぞれに出口を目指し、どちらが先にゴールに辿り着けるかを競い合うことにした。 「へっへーん、今日の俺は堅実に左手の法則を使うんだぜ」 「むむむ。それは確実に出れるけど、ボクは直感を信じてすすむっ!!」 珍しく知的(?)に進もうとする少年に対し、エフェメラは絶対にこっちだと信じて別方向を選んだ。 そして――数十分後。 勝負の結果はエフェメラの大圧勝。ぜぇぜぇと息を切らせた耕太郎の背を撫ぜ、娘はにこにことした笑顔を向けていた。 「あれ、耕太郎ちゃん?」 そんなとき、丁度出口辺りで休憩のお茶会を開こうとしていたのはルナだった。 野薔薇の園に用意されたテーブルには菓子とお茶の準備ががされており、ルナは出て来た耕太郎を誘って、頑張っている皆の分を用意するのだと意気込んでいた。 「うぐ。それなら俺も手伝わないわけにはいかねーじゃん」 よしよし、と彼をなだめたルナは一緒に大方の用意を終えると、お礼にケーキを差し出した。 「アリガトね、耕太郎ちゃん。私の我が儘に付き合ってくれて」 「気にするなってルナ。俺も丁度お茶が飲みたいと思っ……わ、何だこれ美味い!」 早速ケーキを頬張った少年が目を輝かせた事で、ルナの口許が綻ぶ。 頑張って作ったものが喜んでくれると自分まで嬉しくなる。和やかで賑やかな時間に、咲き始めた野薔薇。心地好い陽射しは、あたたかな季節の彩を宿していた。 「野薔薇の園か、これもまた趣があって良い物よな」 広がる花の景色に視線を巡らせ、フィリスは穏やかな笑みを浮かべる。 「そうよね。フィリスも同じように思ってくれて嬉しいわ!」 ロザリンドも良い所に目を付けた物だと彼女が告げれば、少女本人も自慢げに小さな胸を大きく張った。そんな二人の少し後方を歩きつつ、琥珀も庭園を見つめる。 秘密の花園も面白いが、手を加えたら立派に復元できそうと品定めをする琥珀は少女達を呼ぶ。 「どうかな、名物に出来るほどの薔薇の迷路を作り上げてみる?」 「庭師の真似事でもするのか? ……言っておくが、私は素人だぞ」 フィリスは首を傾げるが、興味はあるらしく、手袋などの器具を受け取った。ロザリンドも頑張るわ、と意気込み、琥珀も拳を握ってやる気を示した。 琥珀はてきぱきと雑草や枯枝、石や岩や腐食部を取り払い、伸びすぎた葉を利用してアーチを作ってゆく。その姿を横目で見遣りながら、フィリスとロザリンドは悪戦苦闘中。 「フィリスやれそう? 手伝おっか?」 「いや……此処で音をあげてはいられん。手出しは無用だぞ、浅葱!」 「そうよ、琥珀。私達はひとり……いえ、二人きりでもやり遂げて見せるんだから!」 これはそう、プライドの問題。 少女達の気迫に微笑ましさを覚え、琥珀はそっと見守ることにした。そうして三人は土まみれになりながら庭いじりを行ったのだが、その表情はとても快いものだった。 結局、最後まで綺麗には出来なかった気もする。 しかし、フィリスは楽しかったので良しとしようと、少し見違えた庭園を眺めた。 「また遊びに来ような、二人共」 琥珀は土を拭い、少女達に微笑みかける。 泥も汚れも名誉の勲章。何よりも、二人の花の様な笑顔が何よりの報酬だと感じられた。 古くて立派な屋敷を見つめ、リリスとリリィは薔薇の園の心地を楽しむ。 これだけ大きいと普段のお掃除が大変そうだと零すリリスは、今からの行動を思って目を眇めた。 「……うん、その大変そうなお掃除を、リリス達はするんだよねぇ~。お掃除しないとダメ……?」 彼女の言葉に頷きながら、リリィは落ち葉を拾い集める。リリスが頑張れるようにクッキーもいっぱい焼いてきたから、と告げる彼女は枝を整えて薔薇たちが元気に育つようにと心配りをしていた。 「一緒に頑張ろうね、お姉ちゃん」 「……リリィちゃんのクッキーの為にぃ……リリス頑張るよぉ~……」 やっとやる気を出したリリスもリリィに色々教わりながら荒れた庭を少しずつ整えていく。 そうして、何とか見れるまでに綺麗になった庭にて、二人は約束のクッキーを食べ始める。薔薇の声を聞きながら口に運ぶクッキーはチョコにバターと味は様々。 「色々頑張ったんだよ」 「わぁ……本当にリリィちゃんは料理が上手だよねぇ~……いただきまーす」 喜ぶリリスの姿を見れば、自分も胸が温かくなってくる。 やがて、クッキーを堪能した彼女がうとうととしはじめた事に気付き、リリィはそっと膝枕して眠りやすい場所を作ってあげた。 「お疲れ様、お姉ちゃん」 小さく微笑んだリリィは穏やかな気持ちでリリスに視線を向ける。 流れていく時間はとても心地好く、周囲の花や薔薇達もそんな二人を優しく見守っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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