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猛禽の瞳と踊る黒猫

●黒猫
 暗い部屋。窓一つなく隙間もなく、明かりは一切存在しない。
 ――チリリィィン
 そこに小さくなる鈴の音。暗闇の中で音もなく気配もなく、だが何かが確かにそこにいる。
 ぽぅっと、暗闇の中で明かりが灯った。その小さな明かりで僅かに照らされた部屋は少しだけその姿を見せる。
 全面を黒い壁に覆われ、床も天井も黒。この部屋で数少ない家具であるテーブルも黒く、明かりを灯す為の蝋燭すらも真っ黒。この部屋で黒でないものは蝋燭に灯る赤い火だけ。
 照らし出された黒猫は軽く地面を蹴ると椅子の上に飛び乗った。そしてくるんと体を丸めゆっくりと目を閉じる。
 黒猫は動かない。それは何かを待つように。
 黒猫は鳴かない。それは何かを妨げないように。
 黒猫は触れない。それは何かを壊してしまわぬように。
 まどろむ様にしていた黒猫は片耳をぴくりと揺らすと、すぐに椅子を飛び降りて部屋の奥へと歩き出す。
 すると蝋燭の明かりは消え部屋はまた真っ暗に。そして黒猫の気配も一緒に消えた。

●空の狩人
 雲一つない大空。青く澄んだ空には染み一つなく、ただ輝く太陽のみがそこにある。
 そこはとある片田舎。家の周りには畑が広がり、四方は山に囲まれた陸の孤島のような場所。
 事件らしい事件など起こりようのない和やかな空気の流れる田舎であった。
「そんな田舎町で今、家畜の失踪事件が起こっていたわけだ」
 映像を映し出すモニターの前に立った『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がコンソールを叩きながら説明を開始する。
 データによると失踪した家畜は牛が三頭、馬が一頭。何れも野外で放牧している最中の失踪だったらしい。
 柵などを超え山などに逃げ込んだのではと捜索されたそうだが結局影も形も見つからなかった。
 村人達は異様なものを感じつつも何時も通りの生活を続けていた。
「だが、この事件の犯人はついに人にも手を出してしまった」
 家畜を外にださないようにとしていた為であろうか。山間に出かけていた老夫婦が襲撃に合い二人とも命を落としたのだ。
 その老夫婦のうち夫のほうの遺体が発見され、その特異性のある事件からアークに情報が入り調査が行われたところエリューションの存在が確認されたのだ。
「その夫の遺体の写真とかは?」
「そちらから取れる情報は今送る。そちらに目を通してくれ」
 伸暁は言外に見ないほうがいいとそう示した。
 送られてきた情報には鋭い裂傷に啄ばまれた痕、他にもサイコメトリーなどにより猛禽類のエリューション・ビーストが浮かび上がった。
「了解。それじゃあ行って――」
「少し待ってくれないか」
 リベリスタ達が席を立とうとしたところを伸暁はそれを呼び止める。そしてコンソールを操作すると一つの画像が表示された。
 そこに移るのは一匹の黒猫。それだけを見れば特に変哲もないただの黒猫なのだが……。
「知ってる奴もいるだろ。死体攫いの黒猫の噂だ」
 何人かは聞き覚えがあるのか、その話題が出たことの意味を察して伸暁の言葉を聞く。
「万華鏡を使った予知で僅かだが引っかかった。戦闘後にきっと現れるだろう」
 リベリスタ達の端末には黒猫の写真と分かっているその能力のデータが表示される。
 エリューションなのか、それとも何者かが使役しているのか。はたまた異界からの訪問者なのか。肝心なところは全て謎のまま。
「ついでだ。この黒猫の調査、出来れば捕まえてきて欲しい」
 一つの事件で二つの仕事。それでもリベリスタ達は一つ頷き、今度こそ席を立ちブリーフィングルームを後にした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:たくと  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月08日(金)22:23
【依頼内容】
・エリューションの撃破
・黒猫の調査

【敵情報】
・鳶エリューション
 猛禽類の鳶の姿をしたエリューション。フェーズ1だが既にフェーズ2になりかけていると言っていい。
 大きさは普通のものではなく全長は3m近く。牛や馬をそのまま攫うことからその力は推して知るべし。
 非常に攻撃的であり獲物もしくは敵と認識したら執拗に襲い掛かる。逃げられる心配はないであろう。
 攻撃方法は嘴での啄ばみ、爪での切り裂き、捕まって空中に攫われると非常に危険である。またその鳴き声には対象を怯ませる(ショック状態にする)効果がある。

【戦域情報】
 時刻は夕暮れ前。天候は晴れ。
 とある田舎町の山の麓。木々の林の中に体育館ほどの広さの広場がある。
 普段は人も立ち入らない場所なので派手にことを起こしても大丈夫だが、森林火災など災害クラスは流石にご法度。

【黒猫】
 以前より度々に目撃情報があがっていた謎の黒猫。
 エリューションとの戦闘後に現れて死体を持ち去る行動を繰り返す。
 全ての五感を介して相手に幻覚見せ強い麻痺の状態異常を引き起こす。対抗手段はその術にかかる前から集中状態でいること。
 死体を攫うのは無生物を亜空間に収納する術を使っている模様(幻想纏いの格納機能のようなもの)
 首に掛けている鈴は破界器であるらしいが詳しい能力は未だに不明。



 夜分に失礼いたします。たくとです。
 噂の黒猫が再び現れました。まだ謎は多くそれを解明する術は皆様次第であります。
 黒猫については『暗い路地と初めの黒猫』のリプレイを読んで頂ければ幸いです。
 では皆様の参加をお待ちしています。物語における「承」を読み進めていきましょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
スターサジタリー
襲・ハル(BNE001977)
ホーリーメイガス
クロリス・フーベルタ(BNE002092)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)

●捕食者は獲物へ
 夕暮れの空は青から茜色に染まり行きそれはまるで刻限を告げるように思える。
 その中でリベリスタ達は人に仇なしたエリューションを狩り落とす。
「まずは下に落ちて貰うわよ!」
 二丁拳銃を空を仰ぐように構えた『ガンナーアイドル』襲・ハル(ID:BNE001977)は感覚が訴えるままに鳶の翼に狙いを定めトリガーを引き絞る。
 翼を赤色に染めた鳶はその痛みに鳴き、大きく翼をはためかせてさらに上空へと上がる。
「やっぱり飛んでる敵って厄介だね」
 射程外へと逃げて悠々と空を旋回する鳶に『食堂の看板娘』衛守 凪沙(ID:BNE001545)は手甲を打ち合わせてそう溢す。
 大地に引きずり降ろすためにもあの翼の力を削がなくてはいけない。
 と、鳶は一瞬空の上で停滞したかと思うと翼を伸ばし急速にリベリスタ達へと急降下を開始する。
「着たわね。迎撃するわ」
「手伝います」
 『運命狂』宵咲 氷璃(ID:BNE002401)はその内側で高めていた魔力で魔方陣を編みこみ青の光弾を連続で放つ。
 それに合わせるように『デモンスリンガー』劉・星龍(ID:BNE002481)は両手で構えた散弾銃で翼を狙う。
 鳶は二人の攻撃に傷つきはするもその勢いを衰えさせずその自重を武器に脚の鉤爪から相手を押しつぶそうとする。
「重い。だがそれだけだな」
 銃身で防ぐもそれを超えた鉤爪が『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(ID:BNE000680)の服を裂く。だが、その皮膚には僅かな引っ掻き傷程度しか見受けられない。
 ウラジミールは鳶が掴みあげようとする銃を引き剥がし、銃に備え付けられた刃に力を宿すとそのままに鉤爪の一本に痛打を食らわせる。
 罅割れる鉤爪。翼をはためかせ暴れる鳶に白い華が近づく。
「漸く降りてきてくれたわね。待っていたのよ」
 着物姿の『夢幻の住人』日下禰・真名(ID:BNE000050)はその袖口から見せる鉄爪を僅かに光らせると一つ跳躍し、その双爪を鳶の片翼に突き立てる。
 激しく暴れる鳶。大きく振るわれた翼に真名は弾かれて宙に投げ上げられるがバランスをとり無事に地に足を着ける。
「大丈夫? すぐ治すから」
 真名に駆け寄った『ごくふつうのオトコノコ』クロリス・フーベルタ(ID:BNE002092)が小さく言葉を紡ぐと燐光を纏う風が吹く。
 打ち身程度の痛みであったがそれ位だからこそ真名の体からは違和感無く完全に痛みが消え去っていた。
 地上に降りたまま暴れる鳶。振るう翼が風を起こし中々に近寄れない。しかし、遠距離への攻撃手段を揃えているリベリスタ達にはそれほどの問題ではなかった。
 その翼を穴だらけにしてズタズタにする。羽根もその多くを地に落とし空を駆けていた立派な翼はもう痛々しいだけの飾りと成れ果てた。
「そろそろ限界のはずよ!」
 鳶の横腹に燃える拳を叩き込んだ凪沙が頭の中に流れるデータから鳶の状態を見極めて合図を送る。
 その合図を受け取った『蛇巫の血統』三輪 大和(ID:BNE002273)は鳶の後ろに回りこみ大地を蹴って飛び上がった。そのまま鳶の頭上を押さえ大和は交差させた腕を解き放つように振り下ろす。
「空を支配したその翼、大地に縫い付けさせてもらいます」
 放たれた気糸は鳶の体と翼を突き破りそのまま大地に刺さる。収縮する気糸の力に抗えなかった鳶はその体を倒れこませ大地へと伏した。

●黒猫は月下に踊る
 鳶のエリューションを一時的に捕縛しリベリスタ達は準備を整える。
 しかし捕縛と言っても相手はエリューションであり一筋縄では行かない。何度も暴れだす鳶にリベリスタ達は余計に体力と時間を削られることとなった。時刻は夕暮れも過ぎ、太陽は沈み山間から三日月が顔を出している。
「黒猫か。本当にくるのかな?」
「万華鏡による予知なら外れることはないわ」
 ここにいるリベリスタと鳶以外は静けさを保つ森林の中でクロリスはポツリと言葉を溢す。
 それを聞いていた氷璃はそう答えると日傘を傾けて空に浮かぶ月を見る。特に変化は無い、ただいつも通りに柔らかい月明かりを降り注がせる。
 広場は大和の設置したライトで僅かばかりに人工の光で明るさを取り戻す。
「準備は完了ね。そろそろいいんじゃないかしら?」
 ハルは星龍に向けて目配せをする。それを受けた星龍は散弾銃を鳶の頭に押し付けると、躊躇わずにその引き金を引いた。山に響く一発の銃声。これで黒猫を誘き寄せるための餌はできた。リベリスタ達は精神を研ぎ澄ませ周囲の気配を伺う。
「……へえ」
 周囲の森林に視線を向けていた真名はその赤い瞳で木々の奥の奥。そこに居る黒猫を捉えた。その発見を伝える為に合図をしようとしたところで――黒猫と目が合う。
 突然に真名の体に走る痺れ。黒猫の能力に対する集中状態を保っていたがそれを破って体の動きを封じ込めてくる。
「……っ」
 声にだしたいが声帯すらも痺れ声がだせない。その間にその瞳に移っていた黒猫はいつの間にか姿を消す。
 真名の様子の異変に気づいたウラジミールがその肩に淡い光を放つ手を置く。するとスゥッと真名の体から痺れが抜けて行く。
「どうやら現れたようだな」
 周囲の空気が変わる。それは邪悪であったり危険を感じるようなものではない。ただ異様な何かが現れたことだけは皆が感じ取った。

 ――チリィィィン

 鈴の音が鳴った。
 黒猫は木々の下、その藪からがさっと音を立てながら顔を出す。何の変哲も無い、首に銀色の鈴をつけた黒猫。
 前と変わらず何の変哲も無い登場。敵意も害意も感じさせずリベリスタ達の前に現れた。
 その登場に眉を潜める真名。先ほど黒猫を見つけたのは大分奥まった場所だった。その割には随分と早い登場に疑念が湧く。
 大和は懐中電灯の明かりを向けると、黒猫は歩みを止めてリベリスタ達を見渡すようにして眺める。
 そこで一歩前に出たのは凪沙だった。その手には先ほどまで装着していた手甲はなくプラスチックで出来た小さな箱。
「お弁当持ってきたんだけど食べない?」
 箱の蓋を開くとそこには仕切りが一つあって赤い血の滴る生肉と、赤身魚の刺身が入っていた。
 黒猫はかくんと一度首を傾げてから凪沙に近寄る。そして差し出される弁当箱に顔を近づけすんすんと鼻を鳴らす。しばしそのまま動かない黒猫。だが結局それには口を付けずに鳶のほうに視線を向ける。
 その視線を遮るようにして体を滑り込ませたのはハルだった。
「ねえ、黒猫。あなたの目的を聞かせて貰ってもいい?」
 しかし黒猫は答えない。ただ、またハルの顔を見つめて耳をぴくりと揺らす。
「えっと、迷いと決意?」
 黒猫に対して感情を読んでいたクロリスが感じ取ったモノを口に出す。ただ、それが何に対するものなのか分からない。相手は動物、人のそれとは違いそれ以上は理解しきれない。
 と、その瞬間にリベリスタ全員の体に異変が起こる。前回に黒猫と対峙していた者達はそれが黒猫からの金縛りだと気づけた。
「うぅっ」
「くっ……ちょっときつい、かも」
 その中で凪沙とハルは地面に膝を突く。体を縛る力が強く身動きが取れない。
 そして黒猫は歩みを始める。息絶えた鳶に向けてゆっくりと。と、その黒猫の真正面の地面が突然に小さく爆ぜる。
「止まりなさい。死体を集めて如何しようと言うの?」
 片手の手のひらに魔方陣を浮かべた氷璃はまたもう一発の魔弾を放つ。迫る魔弾を黒猫は僅かに下がって避け氷璃に視線を向けながらニャアと鳴いた。
 氷璃と黒猫の視線が交わる。氷璃の体に僅かな痺れが走るがその動きを束縛することはなかった。
 黒猫は尾を一つ揺らし鳶に向かって駆ける。それまで見せなかった素早い動き。黒い糸が縫うように地面を走り抜ける。
 だが、その接近も止められた。黒猫が横に飛ぶと今までいた場所に蜂の巣のように穴が開く。さらに宙に居る黒猫に大和の気糸がその体を包み込んで縛るが、黒猫は身を捻って瞬く間にその糸を千切ると地面に降りる。
 黒猫はまた鳶の死骸へと走るが、そこに割り込む白い影――真名の振りぬいた脚に弾かれ黒猫は大きく後ろへと飛ばされる。
「これは私達が狩った獲物なの、欲しければ誠意を見せなさいな?」
 鳶の羽根を一枚抜き取り、その羽根先をピンと弾いて黒猫へ向けて投げ飛ばす。
 黒猫の正面の地面に突き刺さった羽根。黒猫がそれを咥えると羽根は空気に溶けるようにして姿を消す。
 ――チリリィィン
 そして鈴の音は鳴る。リベリスタ達はまた何かが変わったのを感じた。

 黒猫の変化は顕著だった。それまで鳶の死骸以外には行動を起こさなかったのが確実にリベリスタ達に狙いを変えている。
 そして、その中で鈴の能力が判明した。
 ――チリン
 鈴の音が鳴る。すると黒猫の姿が消え、気づけば別の場所にその姿を現す。
 星龍の目の前に突然現れた黒猫はその瞳を揺らし星龍の瞳を覗き込む。
「しま――っ!」
 構えた銃の引き金が引けない。黒猫は向けられそうになった散弾銃の銃身に乗ると、ニィと一つ鳴くと地に下りて走り出す。
 ウラジミールとハルの放つ弾丸が地面を走る黒猫を追うように地面に穴を穿ち、クロリスの放つ魔法矢が確かに黒猫の体を捉えるタイミングで放たれる。
 ――チリィン
 そしてまた鳴る鈴。確かに捉えていたはずの魔法矢は地面に刺さり、黒猫の姿は消えている。現れたのは氷璃の日傘の中の頭上、そのまま黒猫は氷璃の肩へと降りるとその乗られた肩から氷璃の体に痺れが広がる。
「やめて!」
 凪沙が氷璃へ駆け寄ると黒猫はすかさずその肩を蹴って距離を取る。凪沙は膝から崩れ落ちる氷璃の体を支えて黒猫に視線を送る。
「あたしは、あなたが敵だとは思いたくないっ」
 心からの叫び。凪沙の声に黒猫は振り向いてニャアと鳴く。そして体に走る痺れに凪沙は項垂れることも出来ない。
 黒猫は駆ける。銃弾をかいくぐり、鈴の音を鳴らしてその姿を別の場所へと映す。
「皆、黒猫と目を合わせるな」
「あと直接触れられても駄目みたいだね」
 ウラジミールの神聖な光が皆の金縛りを解除する。黒猫の力は思ったより強力で特に直接瞳を合わせる、接触されるという行為でより強い力を発揮するようだった。
 五感に作用する金縛り能力と、破界器の瞬間移動のような能力。この二つの組み合わせは非常に凶悪な性能を持っていた。
「どちらかを封じないといけませんね」
「やはりあの鈴でしょうか」
 大和の言葉に星龍は黒猫の首元で揺れる鈴を見る。リベリスタ達は互いに目配せをしてその意図を確かめ合う。
「ならまずは私が行くわ。あとはしっかり頼むわよ」
 真名は着崩れた着物の襟元を形だけ直して黒猫へと向かう。黒猫はまっすぐにこちらに向かう真名に正面から視線を向ける。が、真名は黒猫の姿をその瞳に捉えていない。その鉄爪に自身の力を流し込みその爪を肥大化させるようにエネルギーを纏わせる。
 振り下ろし――爆砕。地面に叩き付けた一撃は地面を抉り周辺に土塊をバラバラと飛ばす。それを避けていた黒猫だが、真名は視界に黒猫の尾を認識した瞬間にその方向に向けて同じく渾身の一撃で地面を抉る。
 ――チリン
 鈴の音が鳴った。真名の一撃を避ける為に黒猫は別の場所に姿を現す。
「そこだね!」
 揺れる感情を感じ取ったクロリスは自分の後ろに向けて魔法矢を三射。いずれも黒猫に当たりはしないがその身を宙へと逃げさせることに成功する。
 その宙にいる黒猫に星龍の散弾が襲う。面を制圧する攻撃では身を捩った程度で避けられるはずもない。
 ――チリリィン
 また鈴が鳴り黒猫の姿が消える。現れたのは大和の正面。大和はその瞳で体を縛られる前に影を使役しそこから放つ気糸を黒猫へと纏わせる。
「ここで、決めま、す――!」
 体が痺れだす。だが、それが完全になる前に気糸を操り黒猫を地面へと縫い付ける。
 黒猫は身を震わせてすぐさまその気糸の束縛から逃れる。すぐに体勢を立て直した黒猫、だがその頭上に光が点る。
 黒猫の背後へと回っていたウラジミールが頭上に上げていた腕を振り下ろす。それに合わせ青白い幻影の鉄槌が黒猫を捉えた。
 飛び退ろうとした黒猫だったが叶わず、鉄槌に打ち落とされ地面にぶつかりその身を大地に転がす。
 黒猫はすぐに震える脚で立ち上がる。
 ――チリ……
 鈴の音が鳴ろうとした時それは阻止された。小さく凝縮された青い魔弾が黒猫の首を捉えてそこにあったベルトを破壊したのだ。
 黒猫は魔弾の衝撃でまた倒れ、鈴は地面を転がっていく。
 ――チリィン
 鈴は音を鳴らすが、黒猫がその姿を別の場所に移すことは無かった。

●黒猫は眠り、月は隠れて
 転がった鈴を凪沙が千切れたベルトを持って拾い上げる。揺らせば鳴る鈴、だがそれで何かの力が発動するような兆候はなかった。
「これで依頼は完了ですね」
 星龍が肩に担ぐようにして持っていた散弾銃が光の粒に変換されてその姿を消す。他のリベリスタ達も幻想纏いで亜空間へと各々の武器を収納した。
「それでこの黒猫どうやって運ぶ? 普通に抱いてたら目が覚めたときに危ないと思うのよ」
 ハクが黒猫を指してそう言った。言われてみればそうだった。しかし捕縛した際の輸送道具もないしとリベリスタ達は暫し思案してアークへと指示を仰ぐことにする。
 電波状況は悪いが幸いに通信は繋がりそうだ。ハクが携帯電話を取り出しアークへの番号をプッシュしたところで突然に周りが暗くなる。
 空の月が雲に隠れて月光が遮られたのだ。しかし、可笑しい。周りに用意していたはずの照明があるにも関わらずリベリスタの周囲以外が完全な闇に覆われている。
「何者だ?」
 ただ一人、愛用の銃を幻想纏いへ戻して居なかったウラジミールが銃口を向けてそう問うた。
 そこに居たのは一人の少年だった。黒髪黒目で黒の礼装をした十代前半であろう容姿。その少年がリベリスタ達が囲っていた黒猫のすぐ目の前に現れたのだ。
 リベリスタ達が再び武器を顕現する間に少年は黒猫を抱き上げた。そして愛しむ様にそっとその頭を撫でて安心したように笑みを浮かべる。
「ネロが失礼しました。皆さんに迷惑をかけてしまったようで」
 少年は黒猫をネロと呼びリベリスタ達に向けて頭を下げる。突然の乱入者が頭を下げてきてリベリスタ達も困惑する。交戦の意志や悪意はないと感じるが油断は出来ない。
「君がその黒猫の主人か」
 ウラジミールの言葉に少年は頷いた。
「ねえ、貴方の目的は何なのかしら?」
 氷のような瞳を氷璃は少年に向ける。少年はその瞳の力に気づいてこう答えた。
「帰るために」
 その声が聞こえた瞬間にリベリスタ達の視界が全て黒に変わる。視界を奪われたことにより一瞬の隙が生まれた。
 視界を奪うナニかを力を高めて破ると、そこには既に少年の姿はなかった。しかも土産とばかりに鳶の死体もいつの間にか持ち去っている。
「ネロ……」
 ――チリリィィン
 その声に応えるように凪沙の手にした鈴の音が鳴った。


■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
お疲れ様でした。今回の結果は大成功となります。
鳶の倒し方から黒猫の対応までお見事でした。私のシナリオの中で初めての大成功です。
黒猫は現れた少年に連れて行かれましたが、黒猫の鈴の回収と少年の存在が確認出来たことでアークの調査も捗ることでしょう。

黒猫の噂は暴かれ真実が顔を見せ始めました。
しかし謎はまだ残ります。それを解き明かすのはまた次の夜となるでしょう。
では、この物語は一度閉じます。また読み進める時にお会いできることを祈っています。