● モニターに映ったそれは、どこから見ても二段重ねのパンケーキだった。 表面は焼きムラのない狐色。厚めの生地は、ふかふかと柔らかそうで。 そして、中央には四角いバター。ここにシロップがあれば、完璧だろうか。 人によっては、それよりホイップクリームとフルーツを盛り付けたくなるかもしれない。 まあ、この手の食べ物が嫌いでなければ、『美味しそう』と思える見た目である。 問題があるとしたら、そのパンケーキが宙に浮いていて、しかも動いていることだった。 背景も、どこかの野原といった風情だが――スケールを考えると、このパンケーキはかなり大きい。 一体、何なんですか? このパンケーキって? ● 「――という訳で、こいつらが今回の撃破対象」 巨大パンケーキを映し出しているモニターを示し、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)が言う。 どういう訳だよ。 というか今、『こいつら』って言った? 複数形? そもそもこれって生き物? 生き物なの? 当然ながら疑問符を大量生産するリベリスタ達を眺め、「ですよねー」と数史。 「ええと、ホットケーキだかパンケーキだかに見えるこいつらはアザーバイドです。 識別名称は『パンケーキ・ダブル』、二枚重なってるから二体。 性別あるかどうか知らんけど、便宜上、下のやつを『兄』で、上のを『弟』と呼びます。OK?」 とりあえず生き物なのは確定らしい。上位チャンネルって奥が深いですね。 「……まあ、気持ちは分かるけど、一応これ真面目な任務だから。 こいつらさ、こう見えても獰猛で、放っておくと他の生き物襲っちゃうわけ。 しかも、Dホール閉じてるから倒すしかないし」 獰猛、ですか……。 「こっちの感覚だと、『血の臭いに敏感』っていうの? と言っても、こいつらの体液ってメープルシロップみたいな匂いらしいけど」 もう、どこから突っ込めばいいのか分からない。 「でもって、こいつらを誘き寄せるべく、現場の原っぱで別働隊がメープルシロップ撒いてる。 皆が辿り着く頃には来ると思うんで、速やかに倒してください」 敵の資料を一人一人に手渡した後、数史がそうそう、と顔を上げる。 「念のために言っとくけど、こいつら食えないから変な気は起こさないように。 というか、食っても不味いと思う。体液とかモロに毒だし」 その代わり――と言って、彼は束ねた資料の最後のページを示した。 そこだけ、何やら店の情報らしきものが書かれている。 「帰り道にカフェがあるらしいだから、ある程度なら経費で飲み食いしていいってさ。 俺はそういうの詳しくないけど、月鍵がここ行きたいーって雑誌ばしばし叩いてたから、 それなりに美味しいとこなんじゃないかな。たぶん」 少女の如き件のフォーチュナの顔を思い出して、何人かが納得の表情を浮かべた。 こういうの詳しそうですよね、彼女。 「ま、それもまずはアザーバイドをきっちり倒してからってことになるんで。 強そうにゃ見えないが、上位チャンネルの生き物には違いないから油断するなよ」 どうか気をつけてな――と言って、黒髪黒翼のフォーチュナはリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月23日(火)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● ブリーフィングルームで、リベリスタ達は相談を進めていた。 任務が終われば、『評判のカフェでパンケーキを堪能する』という追加報酬が待っている。 \パンケーキたべたい/ と、はしゃぐ声が今にも聞こえてきそうだ。 『ファッジコラージュ』館伝・永遠(BNE003920)が、傍らのフォーチュナを振り返る。 「よろしければ奥地様も……」 数史は一瞬考えた後、その誘いを丁重に断った。戦えないのに、事後のご褒美を目当てに同行は出来ない、という理由である。 ごめんな、と告げられ、永遠の兎耳が僅かにしおれた。 だが、乙女心はくじけない。 「――あ、甘いものはお好きですか?」 「? うん、割とね」 どさくさに紛れて、好物のリサーチ。 一方、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)はしきりに考え込んでいた。 「パンケーキとホットケーキって、何が違うのだろう……」 気になり出すとなかなか止まらないのが、この手の疑問である。 「同志奥地はご存知ですか?」 彼女の問いに、数史ばかりかその場の全員が顔を見合わせた。 ● 辿り着いた現場は、むせ返るような甘い匂いに満ちていた。 アザーバイドを誘き寄せるべく、別働班が“撒き餌”を行った結果である。 余ったメープルシロップを受け取った『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が、自らの手と防具にそれを塗りつけた。 敵にとって、この香りは血の臭いに等しいという。上手くいけば、攻撃を引き付けられるかもしれない。 野原の向こうから、件のアザーバイド『パンケーキ・ダブル』が姿を現す。 どう頑張っても二段重ねのパンケーキにしか見えない彼ら“兄弟”を認めて、シア・スニージー(BNE004369)が口を開いた。 「パンケーキが暴れている、というと、いわゆるE・ゴーレムかと思いましたが――」 あれが異界の生き物であるとは、ラ・ル・カーナ出身の彼女をしても俄かには信じ難い。 「不思議な話です。こちらの世界では、よくあることなのでしょうか」 続く『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)の言葉が、シアの問いをやんわりと否定した。 「神秘を知ってそれなりに経つが……常識では測れない異様さを、まざまざと見せつけられるな」 無数の階層(チャンネル)が積み重なるこの世界は、幾許かの皮肉を込めて『出来の悪いパンケーキ』のようだと云われている。 だが、まさかパンケーキ型の生物まで存在するとは思ってもみなかった。 「……見てるとお腹が空く敵ね」 次第に近付いてくる巨大パンケーキを眺め、『禍を斬る緋き剣』衣通姫・霧音(BNE004298)が呟く。 その言葉に答えるが如く、巴 とよ(BNE004221)の腹がくぅ、と鳴った。 「美味しそ……じゃなかった、ちゃんとお仕事しないと」 自分に言い聞かせるようにして、瑞樹が気を引き締める。外見がアレなのでどうにも緊張感に欠けるが、強力なアザーバイドであることに違いはない。 身の丈にも匹敵する巨大なハンマーを携え、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が頭頂部から飛び出した二房の髪をそよがせた。 「味にも興味がないこともないのですけど……」 流石に、毒を持っているらしい相手にかぶりつく気にはなれない。 食欲をそそる見た目だけに、些か残念ではあるが。 「終わったら絶対パンケーキ食べるです」 愛用のグリモアールを開いたとよが、幾つもの魔方陣を展開して己の力を高める。 「じゃ。美味しく食べる為に。しっかり運動しましょ?」 霧音がそう告げた直後、リベリスタ達は一斉に行動を開始した。 ● 彼我の距離は、ほぼ20メートル。 誰よりも速く地を蹴った『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の姿が、不意に掻き消えた。 一瞬のうちに距離を詰め、唖然とする(?)パンケーキ兄弟に鋭い斬撃を浴びせる。後に続いた雪佳が、その側面に回り込んだ。 「甘い物は……その、なんだ。嫌いじゃない」 実情よりかなり控えめに感想を述べつつ、二段重ねの巨大パンケーキを見やる。 ムラなく狐色の表面といい、ふかふかとした質感といい、実に魅力的だ――。 中間地点まで前進したベルカが、防御動作の共有で全員の守りを固める。攻撃面の強化は、事前に済ませた。暫くの間は、戦闘指揮と攻撃に徹することが出来るだろう。 立ち塞がった前衛たちを振り切り、パンケーキ兄弟が加速する。 彼らはベルカの後を抜けると、密集しているメンバーの中でもメープルシロップの匂いを強く漂わせる瑞樹に向かって真っ直ぐ突進した。 衝撃が、少女の全身を軋ませる。ほぼ同時、上段に位置する“弟”が体液を広範囲に撒き散らした。 それはパンケーキに良く合う楓の樹液ではなく、恐るべき猛毒。息が詰まるほどの甘い香りが、リベリスタ達の鼻腔を強く刺激した。 まずは、敵を足止めして陣形を組み直さねばなるまい。変幻自在の影を従えた霧音と瑞樹が、相次いでパンケーキ兄弟の抑えに回る。後退したとよが、敵の背後に向けて魔力を放った。 「焼きが足りないですか?」 直後、炸裂した魔炎がパンケーキ兄弟を襲う。すかさず、ななせがブロックに加わった。 「先にはいかせませんよっ」 雪崩の如き勢いで“Feldwebel des Stahles(鋼の軍曹)”を振るい、敵を圧倒する。闇の衣を纏った永遠が、御機嫌よう――とスカートの裾を持ち上げた。 「甘い香りがお好きだなんて蜜蜂みたい。永遠は蜂様の好むお花になれるかしら?」 パンケーキ兄弟の前に立ち、暗黒衝動を秘めたオーラを放つ。『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の操る聖なる光が戦場を包み、リベリスタを蝕む毒を消し去った。 脳の伝達処理を高めたシアが、演算で最適な攻撃地点を割り出す。できれば魔力の活性化も行いたいが、自身に対する付与は上書きされてしまうため併用しても効果は薄い。ここは、命中精度を優先するのが得策だろう。 「どこまで効果があるかは分かりませんが……」 味方を巻き込まぬよう細心の注意を払い、神秘の閃光弾を投擲する。 音と光でパンケーキ兄弟が怯んだ隙に、先行していた三人が相次いで合流を果たした。 全力で走り込んだ雪佳が、ロフストランド杖に仕込んだ“百叢薙剣”を抜き放つ。流れるように繰り出された音速の連撃が、パンケーキを捉えた。 「まずは兄の方から叩く!」 全員に攻撃目標を告げつつ、ベルカが凍てつく視線で下段の“兄”を射抜く。 敵は、文字通りの合体攻撃を仕掛けてくる相手だ。 分離するメリットが乏しい以上、自発的に解除する可能性は低いと考えて良い。 漫然と叩くより、ここは火力を集中させるべきだろう。 体液の自浄作用で麻痺から回復した“兄”が、リベリスタ達を小馬鹿にするようにくるくると回る。 見た目の間抜けさに反してかなり癇に障る動きだが、雪佳はすんでのところで堪えた。 「食べられない怒りが既にあるんだ、貴様の挑発になど屈しない」 的確に急所を狙う“弟”の空気砲が、ガードを固める瑞樹の腕を抉る。攻撃を凌ぎながら、彼女は思わず口を開いた。 「なんだか、すっごい複雑な気分!」 外見に騙されては痛い目に遭うと、割とリアルタイムで実感はしているのだが。 それでも、眼前のパンケーキ兄弟と『獰猛なアザーバイド』という単語が微妙に結びつかない。 ともすれば脱力しそうになる己に喝を入れ、気を取り直して敵と向かい合う。 仲間達がパンケーキを囲むように動いたのを見て、シアは閃光弾の使用を中止した。 自浄作用で状態異常からの立ち直りが速いことも鑑みると、攻撃でダメージを重ねていくのが良いか。煌くオーラの糸を放ち、“兄”を狙い撃つ。 中衛にシフトした永遠が、パンケーキ兄弟に囁きかけた。 「――甘ったるいものは少女は大好きですよ。永遠も大好きです」 彼女にとって、神秘存在(世界の敵)とは等しく愛憎の対象である。だから、食べられないと知っていても、惜しみない愛を彼らに注ぐことが出来た。 「僕の闇を食べて下さいまし」 愛しきものに饗するべく、黒き衝動を呼び起こす。敵の射程外に出たとよが、詠唱を響かせた。 「わたしが、切り分けますっ」 「食べられないけれどね」 合いの手を入れつつ、霧音が“妖刀・櫻嵐”を構える。飛来した呪いの大鎌が“兄”を掠めた瞬間、荒れ狂う風の刃が追撃を見舞った。 二人のやりとりを聞いたななせが、ふと愛用のハンマーに視線を落とす。 「今日くらいは、ナイフとフォークの方が良かったでしょうか……?」 小首を傾げた後、彼女は破壊の連撃を繰り出した。 ● 中後衛の反対側に回った瑞樹が敵の注意を惹く間に、リベリスタ達は“兄”に火力を集中させていく。 「攻撃すればするほど美味しそう……」 二刀を駆使して傷を刻む終が、切り口から滴るシロップをじっと眺めて呟いた。 内心で同意しつつも、雪佳は決然とパンケーキ兄弟を睨む。 「――パンケーキというのはな。 そのふわふわとした美味しさ、ほのかな甘さで人々を笑顔に、幸せにするものだ」 決して、他者に害をなす獰猛野蛮な存在であってはならない。 「そこに直れ。パンケーキの風上にも置けないお前達を、叩き斬ってくれる」 淀みなき音速の刃をもって、“兄”の動きを封じ込める。すかさず、ベルカが絶対零度の眼力で追い撃ちを加えた。 「同志纏向、7時の方向にぬかるみがある。警戒を!」 視野の広さを活かして仲間の足元に気を配り、注意を促す。頷いた瑞樹が、ここで攻撃に転じた。 そろそろ、匂いだけで敵を引き付けるのは限界になりつつある。仲間の損害を抑えるためにも、早めに勝負を決めた方が良い。 全身から呪力を解き放ち、極小の赤い月を生み出す。歪夜(バロックナイト)を再現するエネルギーの奔流に晒されながらも、パンケーキ兄弟は怯まず反撃に移った。 高速回転する“兄”が真空の刃で前衛を切り裂き、その上の“弟”が圧縮空気を乱射してリベリスタの急所を穿つ。 ダメージの反射を意に介さず攻撃を仕掛けてくる兄弟を眺めやり、霧音が微かに眉を寄せた。 「兄の上に弟が乗る……逆じゃないの、と思うけれど」 ここは、弟を持ち上げる兄の器量を称えるべきだろうか。それも何か違う気がするが。 傷ついた身を気力で支える永遠が、“Labyrinthos”を強く握り締めた。 「頑張ればご褒美が待っているのです――へこたれる訳には参りません!」 時と痛みを刻む時計を手に、呪いの槍で一撃を浴びせる。 魔的要素を己の身に取り込み続けるヘンリエッタが、その背に声をかけた。 「今、回復するよ」 蜻蛉の翅持つフィアキィ『シシィ』の力を借り、永遠の心身を癒す。回復スキルに乏しいこのチームにおいて、ヘンリエッタの存在は生命線と言えた。 一呼吸の集中を挟み、とよが魔力の大鎌を呼ぶ。地面が滑るため、しっかり狙いを定める方が確実だ。 収穫の呪いを孕んだ黒き刃が、“兄”を一閃する。シアがすかさず気糸を放ち、裂かれたばかりの傷口を正確に貫いた。 怒りに染まった“兄”に向かって、ななせが“鋼の軍曹”を大きく振り被る。 「――二枚重ねは、二枚目にバターが足りないのですよっ!」 魂の叫びとともに炸裂した一撃が、直径3メートルの巨大パンケーキを完膚無きまでに破壊した。 息絶え、地面に叩きつけられる“兄”の亡骸。 それを目の当たりにした“弟”は、激昂してリベリスタ達に襲い掛かった。 バターに似た四角い突起から、強力な毒液が吐き出される。直撃を受けた雪佳が、ぐらりと揺らいだ。 「……くっ」 頭の芯から指先に至るまで心身を蝕む甘き死毒が、体力を瞬く間に奪い去る。 彼は運命を燃やしてそれを焼き尽くすと、再び“百叢薙剣”を構えた。 「そんな美味そうな見た目に、惑わされなどしない」 呼吸法で自然と同調し、自らの傷を塞ぐ雪佳。追撃を防ぐべく、ベルカが氷の視線で敵を牽制した。 ダブルからシングルに格下げとなったパンケーキを真っ直ぐ見据え、とよがグリモアールを持つ両手に力を込める。 「切り分けやすくなっただけですっ」 風を切って唸る、黒き魔力の大鎌。魂すらも刈り取るその刃が“弟”を容赦なく抉った。 敵の外見、動き――あらゆる情報を収集し続けていたシアが、培ってきた戦闘理論に基づき次の攻撃に移る。 「何らかの効果があるかもしれませんし、バターの部分を狙ってみましょうか」 彼女が目をつけたのは、“兄”には存在しなかった正方形の突起。 ひときわ強力な毒液を射出するそこを潰せば、あるいは――。 シアの指先から紡がれたオーラの糸が、紛い物のバターを射抜く。刹那、“弟”は激しく身をよじって怒り狂った。 逆鱗に触れられた龍の如くと言えば聞こえは良いが、所詮はパンケーキなのでシュールな光景にしかならない。まあ、痛いかくすぐったいかはともかく、ある種の急所には違いないようだ。 「! ――体液に気をつけて!」 攻撃のモーションをいち早く察し、霧音が全員に警告を飛ばす。 しかし、それは僅かに遅かった。ひときわ甘い香りの粘液が、リベリスタ達の頭上に降り注ぐ。 必殺の猛毒に蝕まれ、永遠とシアが相次いで運命を削った。 体勢を立て直した永遠が、鍵と兎、そして茨の模様を蓋に描いた懐中時計を携えて微笑む。 気紛れな運命(ドラマ)がそっぽを向くなら、大嫌いな運命(フェイト)を用いて振り向かせるまで。 「パンケーキ様、僕ともっと愛を語り合いませう」 反動を恐れず呪いの槍を撃つ永遠の後方で、ヘンリエッタがシアの元に『シシィ』を送って傷を塞いだ。 「あと、もう少しだ」 彼女の声援を受けつつ、霧音が前に踏み込む。 ここまで来たら、やられる前にやるだけだ。“緋桜”の袖を舞わせて敵の射線を遮り、白銀の妖刀を閃かせる。優れた再生力で己の傷を癒し続けるななせが、激しい追撃を見舞った。 傷だらけになった“弟”を眺め、瑞樹が呟く。 「……ちゃんと食べられたら良かったのにね」 まっとうなパンケーキがこの大きさであったなら、それはある意味で夢の光景だったかもしれない。 食べきれるかどうかは、ちょっと怪しいけれど。 手の中に魔力のカードを生み出し、パンケーキに向かって投じる。 破滅を運ぶ道化が、異界の“猛獣”に止めを刺した。 ● 「あぅ~……べたべたです……」 ななせが、髪や服に付着したシロップ状の液体に触れて眉を寄せる。 多くのメンバーはパンケーキの体液を浴びてかなり悲惨な有様だったが、そこは別働班がタオルや着替え類をしっかり用意してくれていた。 全員が軽く身支度を整えた頃、空腹に耐えかねた終が「早くパンケーキ食べに行こう!」と皆を促す。 だが、その前に。ベルカには、まだやる事が残っていた。 「やめとけと言われると、気になるのが人情……!」 倒されたパンケーキの傍に屈み、物は試しとかぶりつく。その結果―― 「~~~!!!」 フェイトが削れる寸前までダメージを喰らったらしく、涙目で悶絶するベルカ。 食えないから変な気は起こすなと、あれほど念を押されたでしょうに。 「ごめんなざい……」 フォーチュナの忠告はちゃんと聞いておこうと教訓を得つつ、口直しに件のカフェへ。 「パンケーキ、大盛りでお願いしますですっ!」 同業者として店内をさりげなく視察しつつ、ななせが真っ先に注文する。 薄桃色の翼持つ少女(※見た目)フォーチュナが勧めるだけあって、中々に雰囲気の良い店だ。 「なるほど、これが食べる方のパンケーキ。ですか」 届いたパンケーキを、シアがしげしげと眺める。 厚めに焼かれた、ふかふかの生地。見れば見るほど、先のアザーバイドにそっくりだ。 パンケーキを切り分け、フォークで口に運ぶ。程良い甘さが心地良い。 「……美味しいですね。少しカロリーが多すぎるようにも思えますが……」 添えられたバターやシロップに視線を走らせ、ぽつりと一言。 もともと小食なのもあって、一人で平らげるのは少々荷が重いかもしれない。 一方、霧音はバターを乗せた二段重ねのパンケーキにメープルシロップをたっぷりかけていた。 「甘いの好きなのよ。……意外かしら?」 仲間達の視線に気付いて顔を上げ、悪戯っぽく微笑む。 その隣では、とよがパンケーキを頬張っていた。飲み物も、霧音と同じ紅茶である。 「ん~♪」 時折、喉を詰まらせかけつつも嬉しそうに食べるとよ。その様子を見て、瑞樹が相好を崩した。 あれだけ頑張ったのだから、今日は少しくらい食べ過ぎてもご愛嬌だろう。 ゆったりとした時間が流れる中、永遠がコーヒーを味わう。 苦いのは得意ではないけれど、甘いパンケーキのお供と考えるとこれはこれで美味しい。 向かい側では、雪佳がトッピングをふんだんに盛り付けたパンケーキに舌鼓を打っていた。 何も、甘い物好きは女子ばかりの特権ではない。硬派で通っている彼も、好物を前にして思わず顔が緩んでしまう。 我に返るたび表情を引き締めようとするのが、何だか微笑ましい。 「……やっぱり、パンケーキはこうやって普通に食べられるものがいいよ」 先の激戦を思い起こした瑞樹が、しみじみと言った。 ――存分にお腹を満たしたら、最後に会計。 テイクアウトの品を受け取るメンバーを横目に、霧音が呟く。 「こういう店には普段入らないのだけど、悪くないわね」 また今度、誰かを誘おうか――などと思いながら、彼女は店を出た。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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