● 仮面、仮面、彼方も此方も仮面仮面仮面。 お偉いさんか、それとも富豪か、他国の王家か。身だしなみがあまりにもきっちりし過ぎている男女が大勢。一つの画面を見て両手を叩く。 「視聴者はどいつもこいつも、ド変態の性格捻じ曲がった糞ビッチに糞野郎共ですよ。手は汚したくない癖に血と肉が飛び散るのがだーい好き。いやあ、流石の俺でもドン引きですが、これも良い商売。いやはや世知辛い世の中ですね!」 「何怒ってるのか知らないけど、これっきりにしてよね」 画面の奥。 格段に煌びやかな服装をしていた『CrimsonMagician』クリム・メイディル(nBNE000612)は笑顔のまま、隣に居た娘にそう言った。 彼が居る場所はサーカス会場の内部、丸い舞台の上中央。未だ音声は入っていないマイクを指の上でクルクル廻していた。 さて、時間か―――前菜であるサーカスはもう終えた。メインディッシュは視聴者がお好みの血肉を添えて、投げ捨ててやるからよく見ておくと良い。 尤も、彼は美味しいものが目の前に在れば、全て自分で食べ尽くすタイプだ。隣に敬愛する三尋木凛子が居たとすれば例外はあるだろうが、何処の誰かも解らぬクライアントに料理を分けなくてはいけないのは非常に、心底、腹が立つ。ともあれ、此れは自分のミスを金にして修正するための必要事故。仕方ない、仕方ないと頭の中で廻る四文字に、されど手元でぎゅっと握ったマイクが彼の握力に耐え切れず潰れてバラバラ落ちる。 その時ようやく、二人のピエロが檻を台車に乗せて運んできた。檻の中身は般若の仮面を着けた男女。出入口奥より――。 「どうも皆さんこんにちは。 来て頂いた貴方達は本日とっても不幸ですねぇ。しかし、世界にとってはとても幸運なハズですよ、ね?もっと喜びましょうよ! 世界を護る正義諸君」 ● 「皆さんこんにちは、本日も依頼を宜しくお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達に一枚、一枚、紅色の封筒を渡した。中身は―――何かの招待状? 「私宛てに届いたサーカスチケットです。そんな、優しいものではありませんが……もっと、こう」 顔面蒼白、杏理は些かフラついていた。其れも仕方ない事なのかもしれない。彼女は昔、三尋木の男に囚われていた所を箱舟のリベリスタに救われた。其の、捕えていた男からの招待状なのだから。 「三尋木の幹部。クリム・メイディルより招待状です。彼はサーカスという一派を率いる団長であり、今までもアークと顔を合わせては面倒事を運んでくるフィクサードです。 今回の事件は簡単に言えば、彼等が催しているサーカス場に出演をして欲しい、内容はアザーバイドに憑りつかれたフィクサードの掃討です」 手紙の内容はこうだ。 『アークの皆さんどうもこんにちは!最近寒いですね、風邪はひかないようにした方が良いですよ!本題ですが、俺がちょっとしたルートで頂いたアザーバイドがうっかり暴走してしまって、その時に運んでいた名前とかよく解らないバイトのフィクサード達がアザーバイドに乗っ取られて最早殺すしか無いんです。 が、俺が手を下すのも面倒ですし、かと言って金になるものがおじゃんなのは嫌な訳ですよ。 だもんで、良ければ殺しに来てください。街に鎖無しで放たれるより、此方の方が穏健でしょう? では、お待ちしておりますよ』 つまり、三尋木の不祥事を金儲けへ転換するためにアークを利用するという事。行く場所の至る場所に設置されたカメラは、何処か遠くの遊び場へ繋がっている様で、リベリスタ含め舞台上全てが食い物にされている訳だ。 人質は近隣の街か、其処へ飼っているエリューションやら件のアザーバイドを放たれるのは非常に困る。 「なので、彼等の言う通りにフィクサードを倒して欲しいのです。そうすれば、三尋木は潤いますが関係無い街は脅かされずに済む……宜しくお願いします」 杏理は深々と頭を下げた。 『サーカス』……基本的に群を嫌う彼等は個々が大道芸人として活動している。その利益は全て三尋木へと流れている訳であるが、定期的に『一部』向けに開催されている大規模なサーカスを行っていた。金が舞う其の劇場、つまりそれが今回の舞台だ。 敵は舞台場に居るアザーバイドを着けたフィクサードの多数だ。本来の己を忘れ、理性無き彼等は戦闘狂いの修羅に成り果てている。アザーバイドを取り外さんと仮面に力を入れれば顔の肉や脳まで一緒に分離してしまうだろう。救いは、無い。 三尋木を敵とするならば、劇場は敵の巣窟。周りを見れば不特定多数の敵だらけであろう。特にクリムは笑いながら見物しているが、不祥事が起きれば八人を無事で還す心算は無いと思える。 さあ、闇の招待状を手に取るか、否か。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月18日(水)22:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 白い布に包まれたクリムの手が伸ばされればほら、舞台奥から響く足音――メインディッシュ達に心が躍る。 「ね? もっと喜びましょうよ! 世界を護る正義諸君」 言葉に籠るのは元気付けか皮肉か……? 恐らく何方もであろう。 舞台の上では他派のフィクサードだろうが、敵だろうが、犬猫鳥だろうが、其れがエリューションであろうが、 楽しく、 怪しく、 優雅に、 陽気に、 踊ってもらわなくてはいけないのだから。 クリム娘である朱里が開けたのは舞台を囲む檻の唯一の出入り口だ。其処へ向かう途中『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)はクリムの隣で一度足を動かすのを止めた。 「簡単に言ってくれますよね」 亘の視界がクリムの足先から上へ登って、口に到達した。敵の笑った口は返事というものを紡がない。其れは勿論だ、当たり前だ、当然の故意の無視だ。 亘の心は現在ある状況を喜びというものに感じ取る事はできないのだが、対照的に嬉々と喜ぶ『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)という人間もいる。 ネオンの光を全身に浴びて妖しく唇を舐めた彼は、蒼い翼の少年と紅い奇術師を挟む位置に立ってクリムの肩を叩いた。 「メイディルちゃん、楽しく正義してあげるから、おひねり弾んでね」 これまた無視。ちぇ、と唇を今度は尖らせた葬識は亘と歩幅を合わせて舞台へと上がった。相反した弐種類の人間に一気に対応を迫られれば聖徳太子でも無いクリムは、皮肉を口走るマシーンと化していたはずだ。 舞台俳優の機嫌を損ねては映画が良いものにならぬ。 黙ったのは彼なりの気遣いでもあったのだろうが『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)を見かければ、其の『限り』も一気に解放されたか、我慢ができなかったか。 「俺は頑張ってくださいと言えば良かったですかねそれともすいませんと謝れば良かったですかね?」 「黙ってろ」 「はい」 「喋るな」 早口の長い文章相手に、僅か七文字で制圧した龍治はクリムの肩に己の肩をぶつけつつ舞台へ。其の後ろを軽くステップを踏みながら可愛らしく、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が辿っていた。 目線がクリムと交われば、ズキンと違和感が走った木蓮の首筋。咄嗟に、今では透明になった傷痕(キスマーク)を抑えた彼女は頬を膨らましクリムに威嚇して見せた。 「本日も可愛らしいですね、食べてしまいたい程に」 「口説くならもっと言葉選ぶんだな!」 足早に消えた木蓮の姿を追ったクリムの眼が、定位置に振り向けば、 「お前たちの言いなりになるのは気に食わないが……。今回だけは煮え湯を飲んでやる」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が立っていた。 背の高い彼を見上げるクリムが差し出す灰皿、其処へ葉巻を擦りつけるゲルト。本当ならば紅い服にでも火を押し付けてやりたい所だが、周囲の『敵』の眼がゲルトの身体を串刺しにしている以上、身体が動くまい。 「お義理父さん。娘さんと左手を小生にください」 クリムとゲルトの間に割り込んで来た『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)はそう言ったまま朱里の元へと足を向かわせた。 「らぶりー、今日も昨日も、きっと明日も」 「いっ、いいから早く舞台上がりなさいよ。ていうか、ち、近い……!!」 今は抵抗できない朱里が、身を強張らせた。いりすの指が朱里の頬を弄ぶように、けれど卵でも触るかの様に優しくなぞったのだ。 嗚呼、此れを舐めまわしたい――と昂る感覚にいりすが酔う手前。ゲルトがいりすの腕を掴んで回収した。 其の頃クリムの眼前には真っ赤なチケットが一枚、ひらひらと舞っている。紅い紙を持っていた腕は伸ばされ、自己主張をする様。 「もうちょっと愉快なのがよかったなぁ……」 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)の不満気な顔。どうせサーカスなのであれば、表向きには種無し仕掛け無しのショウの方が彼女的には需要があっただろう。こんなにも血の香りがするチケットだ、気に入らない気持ちが手に取る様に判る。 脅しに負けて、蜘蛛の巣に自ら飛び込んだ蝶は其方(アーク)だ、なんて意地悪を言う事は簡単だ。 しかし還暦を目前にしたおっさんが、少女の愚図りそうな表情に弱いのは……ある意味最強の差別発動トリガー。 「考えておきます……」 『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)が其れを察してか、彼女の頭を一回撫でた後にキリっと――覚醒していない瞳をクリムへ向けた。 「よーするに、楽したい訳じゃないですか」 「楽して金稼ぎ。其れは現代を生きるリーマン紳士が仕事漬けで廻る毎日の中で、一度は追うであろう夢ですよ」 理由にもならない理由を述べたクリムは、思い出したように口を手で抑えた。龍治の鋭い目線が、背中に刺さっていたもので。そういえば喋るなって言われてた。 ● 檻の中には更に檻。其れに鍵がかかっている事は無く、少しずつ開いた扉から大量の腕が伸びてはショウの開幕を知らせていた。 得物を手に、亘は一瞬だけカメラを見る。奥に居る奇妙な閲覧者共へ、足掻き苦しむ血塊をお楽しみに……と胸中で呟きながら。しかし此の世の因果応報を信じ―― 「行きます!!」 ――最速で飛び出した蒼い翼は犠牲者の群の中心へ飛び込み、水面に落された石が作る波紋の様に薙ぎ倒した。 七色の証明に照らされて、いりすの足下にできた影の明暗は多種多彩。影を掴んで引き延ばし、漆黒の千本ナイフを両手指に挟んだいりすは、投擲。亘を追いかける様に走ったナイフが仮面を破壊して暴れ狂うついでに、フィクサードの顔を柘榴の如く弾けさせていく。 ギャラリーの需要は『此れ』だから。いりすは返り血に染めた頬を舐めた。 隣では、葬識が仕事をしない道化(三尋木)の代わりに役目を担う。両手を広げ、骨ばった指が不規則に曲がってカメラ目線。 「さあ、さあ、糞野郎の皆さん。 血の祭典、仮面に呪われた哀れなヒトガタの、辿る先は正義の味方の虐殺劇。お気に召しましたら幸い☆」 言い終わり、影を力強く踏めば影から舞い上がった漆黒生成の刃。いりすの其れとはまた違う形をしたソレらが、葬識の指パッチンと共に弾丸雨。 ひそひそ。 『化け物……化け物』 『はは、化け物が、化け物を殺している』 『愉快、愉快』 はらはら、ひそひそ……。 敵フィクサードの攻撃か、投擲された剣のハニーコムガトリング。 降り注ぐ凶器に視界を遮られ、多すぎる敵の間を掻き分け、ルーメリアの目線はなんとか仲間の姿を確認しようと右往左往していた。 「亘さん、何処なのー!?」 「こ……此処でーす!!」 埋もれた彼の方向を見れば、微かに伸ばされた腕と蒼い翼。今こそ、回復の機会である。ルーメリアの両手に溢れた光が周囲を包み込んでいくとほぼ同時。 燃え上がった拳がルーメリア目掛けて飛んでいく――が、小梢の腕が掴んで止める。炎に小梢の腕が浸食されていくものの、彼女の身体は燃える事は無い。 しかしルーメリアの飛ぶ攻撃はそれだけでは無い。銃声ひとつすれば、小梢が回復手を抱き込んで背中に穴を空け、刃が降り注げば右腕で薙ぎ払う――休みは無い。 ありがとう。 ルーメリアの目線がそう言っていた。何時でも助けてくれる彼女へ――再びの癒しを乞う姿は神々しいものである。 「数が多くて、分断されたか……」 突っ込んで来たナイトクリークの気糸を引き千切る(元より彼に麻痺は効かない)。 カウンターに、其のナイトクリークの首を掴んで右に180度回転させ放る。未だ仮面が健在な体はまだ動けると主張するかのように蠢いていた。 さっきからこの繰り返し、狙われては反撃の廻る廻る戦場。ぶっちゃけ飽きて来たゲルトは、後ろの二人に声をかけた。 「おい、なんとかしろ」 「言われなくとも――」「――やってやんぜ!!」 龍治と木蓮が背中合わせに成った。互いの愛器を持ち、あとはトリガーを引くだけ。 「確認だぜ龍治!」 「ああ」 「狙うのは仮面だぜ!」 「そうだな」 「もし仮面が飛んだらそっち優先だぜ!」 「勿論だ」 「……間違ってもクリムを撃つなよ!」 「……善処しよう」 「――いくぜ!!」 手の甲に爪を仕込んだ敵が木蓮へ跳躍、されど銃声がした瞬間に敵は脳髄を飛散させながら格子にぶつかった。 他方、ブォンと一線を引く音が龍治の耳に入った。 大鎌を持った敵は周囲の人なんて見えていない様だ。ダンシングリッパーか? 一閃された大鎌に巻き込まれて敵の首が飛んでいく終着点には、葬識が居た。 仲間助けだ、万の中狙いは大鎌ナイトクリーク。龍治は集中しながらも弾丸一つ――大鎌の柄を弾き飛ばし大鎌が宙を舞う。弾丸二つ――大鎌の無い手を空ぶった敵の頭が弾けた。 楽しいね、死の舞台。葬識は首を鋏で切れば、仮面は靴で潰して念入りに砕く。命は丁寧に狩るが仮面は如何にも優しくしてやれない。正し演技は大切だ。俳優を気取る彼の顔は常に笑顔。行動が笑顔に似合わず不気味さを奏でているのに彼は気づく事は無いだろう。 ● 仮面の数は順調を言う言葉がよく似合う程に減っていく――。 ざわざわ……。 「久ぶりに見た顔があるかと」 「あー? あの伽凛て女を超助けに来た奴等じゃねーの? 雑賀龍治は団ちょの腕を超持ってったやつだろ。それより俺は草臥木蓮のボインちゃんきゃわゆ」 「天風亘もいて、よくもまあこんな遊びにアークが精鋭寄越したかと」 「ゲルト・フォン・ハルトマンと、紅涙いりすって何時でもいるなオイ、もう相手したくねー。熾喜多葬識って漢字の総画数何画だよ」 「春津見・小梢とルーメリア・ブラン・リュミエールもいるかとー仲イイかと」 「なんだ、いつもの顔か」 「HEY! リベリスタ、頑張るデース!!」 バニー衣装の女の子が投げキスを放った刹那、周囲のサーカス共は歓声に沸いていた。 「――今、本当にフィクサード組織の中に居るのか不安になってきました」 「俺様も同じ事思ったぜ!?」 氷結を纏いし拳を見送った木蓮。かけられたラグナロクのベールが自動で反撃を行ってくれた。 追撃に亘が仮面を斬ろうとした刹那、苦しみの顔をした仮面がポロリと落ちた。フィクサードの女が其の侭力無く倒れれば、体受け止めたいりすは意識があるか確かめつつ、ハッと振り向いた。 苦しみの顔をした仮面がいりすの顔へ目掛けて飛んでいくのだ。しかし眼前で葬識の暗黒が仮面を破壊。更に彼の顔にも飛び込んで来た仮面を彼は掴み、怒りの籠った握力でそれを破壊した。 「俺様ちゃんの殺意は俺様ちゃんだけのものだ」 「う……」 抱いていた女が薄ら目を覚ました時だった。視界に入ったリベリスタ達に驚き、突き飛ばさんと抵抗した彼女だが、いりすは彼女の身体をぎゅっと抱きしめ離さず。 「死にたくなければ邪魔せず自身が生き残る事だけを考えて下さい!!」 大声で、突如亘が吼えたのであった。 「ひ!? ふぇ、は、はい!?」 此れには女も目を見開き大人しく、小さくなった。 周囲の状況――朽ち割れた仮面の群。 仮面からしてみれば其れは仲間の死体である事に他ならぬ。身体が弱いのであれば強いものに変えて生き残るしか無いと、仮面も仮面ながらに考え着いたのだろう。 最後の一体が焦りの顔をした仮面だったのは偶然だったのだろうか。逃がすまいと銃口を向けた龍治がトリガーを引けば呆気なく終わった。 「はい! クリムさん、これで終わったの。ちゃんとやったの!」 腰に手を当て胸を張って見せたルーメリアに、隣で今夜の献立はカレーにしようと考えていた小梢。しかし小梢から見るクリムの表情は――暗い。其れをルーメリアに伝えるか、否かほんの少しだけ考えて言わないようにしようと頷いた。 奪命剣の出血や、ギガクラッシュの感電を消す為にゲルトが指を鳴らした。 他愛無い程敵は弱かった。其れは良い事だ、良い事のはずだ。 リベリスタが従順にフィクサードの言う事を聞かねばならない、本来なら現状こそ笑い話だ、視聴者もお好みのはずだ。 だが、視聴者は一方的虐殺だけではお腹いっぱいにはならなかった。 ゲルトの瞳の中、偶然捉えていたクリムがすくっと立ち上がったのだった、紅の大鎌を持ちながら。 「来るのか?」 「はい!」 大鎌が横に振られれば、格子が幾つか切られへし折られ強制的過ぎる出入口が出来上がった。風圧がリベリスタ達の髪をなぞって、ふわりと舞わせた直後。 「べ、べべべ、別に三尋木のためだから仕方なくなんだから!!」 「おまえそろそろ素直になりなよぉ……お兄ちゃんツンデレは嫌だよぉ……」 朱里と朱螺が出入口をすり抜け得物を構えて仮面の死骸を薙ぎ払った。 ● 金属音一つ、朱螺のナイフと亘の刃が擦れて火花さえ発生。 「御機嫌よう、朱螺さん。ここで言うのもあれですが……ありがとうございました」 力の攻防、押し、押され、遂に片手では足りなくなり両手の刃がぶつかり合った。朱螺はなんのお礼か、初対面であった時の行動を一から十まで思い出して「ああ」と言った。 「ああ……殺さなければ傷つけていい話?」 相変わらずめんどくさそうに戦闘する朱螺。お礼に成るだろうか? 亘は戦闘をしているフリを仕掛けつつ、ノッてきた朱螺の耳にだけ聞こえる様に囁いた。 「鬼ごっこしません? 此方が鬼です」 「!! いいよ」 刹那、二色の閃光が檻の中を暴れ回る。 木蓮は声をあげた。 「朱里はまだ校門を使ってんのかよ!」 「何それちょっとー! 馬鹿にしないでよねばか! ちゃんと武器あるわよ!」 ゲルトが武器らしきものを探した。おそらく朱里が背中に背負っている長いケースが武器だろう――何時か三尋木のサーカスが槍のアーティファクトを回収していたらしいのでそれか。 「やっぱりお前から殺すから覚悟しなさいよ、今日という今日は絶対絶対ぜーったい!」 「それは絶対武器じゃあない」 朱里は跳躍し、振り落した『多分槍が入っているケース』。両手で受け止めたゲルトは、両腕の骨が音を立てて砕けた感覚を感じた。ついでにケースが『熱い』。 「なんのアーティファクトだ……?」 「美味しそう香りよな」 横から飛んできたいりすが、朱里の身体を掴んだ。 「君を見てると小生の娘(仮)を思い出すのだ。不器用なところがそっくりでな」 「あんた何歳よぉ!!?」 格子に追い詰めた朱里の背と、両手で格子を掴んだいりす。 できれば降りてきてほしくなかった、戦闘はしたくなかった、朱里と。いりすの瞳が慌てている朱里の目線を捕まえ――。 さてどうしようか、成長を確かめるか、でも傷つけたくない殺したくもない。このまま頬を舐めて味確認もまた一興。あとアーティファクトも気に成って来た。 「いやーッ! 近いよおおお!!」 真っ赤に染まった朱里の顔。精一杯の一撃がいりすの横を空ぶった。 「あ、俺様ちゃん達不甲斐なかった? んー、わりとエンタメったつもりなんだけどなあ」 「いえいえ、頑張ってくれていましたよ。でもアレです、クレームはよくわからないものも多いものです」 笑顔だった。 葬識の右手には禍々しきドス黒い紫色のオーラ。其れが鋏の切っ先に到達した瞬間、クリムの右肩から左の脇腹まで一気に切り裂いたのだ。 違う。そうじゃない。今のはクリムならば避けられたはずだ。 「一回は、一回ですので」 振り切った葬識に回避行動は取れない。恐るべき速度で活性化していくクリムの腕は紅の袖を破って肥大。 「ずるいよ、メイディルちゃん」 だが葬識の目線は横にそれた。目線の先、木蓮が銃口を向けて、もはや数秒も無く攻撃を放つところだ。やり返しにやり返しを、ループは何方かの命が終った時だろう。廻る輪廻に思いを寄せ、いざ。 同じく龍治もそうだ。銃口はクリムの頭を狙っている。首くらい吹っ飛ばしてやりたいと何時も思っているが良い機会だ。今回の依頼の尻は彼の命で拭わせれば丸く収まるだろう、と。 刹那―― 「駄目なのーーーーーー!! 無駄な争いはしちゃ駄目なのーーーーーーーー!!」 突然のルーメリアの叫び声に、全員がなぎ飛ばされたのであった。 しばらくして。 ルーメリアの説教を受けるクリムは正座だ。なんだろうね、これ。クリムの頭の中にも「あれ?俺ってちょっとしたボスキャラなのにな」と疑問を持ち始めた。 「朱里ちゃんにもうちょっと優しくしてあげてね! ほんとはいい子なんだから……たぶん」 健気に友を思うルーメリアの心には、何故か勝てない。 ● 死体回収は三尋木の仕事。血臭臭い舞台から降り、帰路へつく手前。伸びたゲルトの手が朱里の腕を掴んで引き寄せた。 驚き、瞳を大きく見開いた朱里は吸い込まれてしまいそうな蒼い瞳にただ、自身の赤い瞳を重ねる。吐息が掛かる程近づいたのは、内緒の話を紡ぐため。 「お前とは出来ればもう会いたくなかった」 彼が見て来た少女のフィクサードは年齢相応の心を持ち、純粋無垢の中に不器用さがチラつく家族愛を持った『只の少女』だ。 ――戦いたくない。 率直な思いに他意は無い。 「恐らく、俺はお前の事が好きなんだろう」 「……え」 朱里の腕から離れたゲルトの手は其の侭、彼女の頭を撫でた。 乱れた髪を直そうとして手が止まった朱里はリベリスタ、否、一際大きい背中だけを見送った。 嗚呼、此の侭追い駆けるには何を犠牲にすればいいのですか。 神様。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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