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<黄泉ヶ辻>喪失存在

●存在確率
 森羅万象。
 全ての事象は確認する者がいるからこそ存在する――そんな話がある。
“何か”があったとして。
 確認する者がいないのならば“ソレ”の存在を一体どこの誰が保証する?
 どのような形でも良い。
“観測者”がいてこそ万象須らく存在を許されるのだ。

 では。

 一つの“村”の話をしよう。
 どこかにあった。確かにあった。
 観測されていた筈の、存在していた筈の村の話だ。

 どれだけの人がいただろうか?
 さぁ分からない。
 どれだけの歴史があったのだろうか?
 さぁ知らないな。
 どれだけの規模があったのだろうか――
 ――さぁ覚えて無いな。

 村は確かにあったのだ。
 しかして誰も覚えていない。記録は無い。証言すら残っていない。
 そこが“村”であった事を、
 誰も覚えていないのだ。

「ユニバァァァァスッ!! オゥ! この宇宙の果てすら辿っても! だーれも知りませーン! 分かりませーン! お・ぼ・え・て・ま・せ――ンッ! いぇあ!」
「やぁ元気だねトム! ところで村内の一般人集めてるんだけど、こいつらどうするんだっけ!?」
「ンッ? ン~? 何をするかですって? そんなの決まってまースッ!
 詰まる所……ユニバァァァァスッ!! デースッ!!」
「やぁ凄いテンションだねトム! ところでせめて会話して欲しいんだけど、そこんとこどうかな!?」
「ユニバァァァァスッ!!」
「おい聞けよ」

●ブリーフィング
「ちょっと不可解な予知が見えました。その、なんというか、説明が難しいんですが……」
 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達に『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)は、少しばかり表情を曇らせながら言葉を紡ぐ。
「ある地点において村――多分ですけど、とにかく村だと思われる場所に、何かが存在しているんです」
「何か、って随分と曖昧だな」
「そこが不可解な所でして……“分からない”んですよ。予知が、届かないんです」
 彼女の言によれば、黄泉ヶ辻のメンバーがとある場所で何か行動を起こそうとする予知が見えたそうだ。しかし具体的な事象は捉える事が出来ず、分かったのは黄泉ヶ辻フィクサードが現れる事と、いくつかの“神秘反応”。
「アザーバイド“禍ツ妃”――御存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、フォーチュナの予知を妨害する能力を持つアザーバイドです。この神秘反応が見えたと言う事は……」
 行動を起こしている者は、かのアザーバイドを利用する、フィクサード。

 黄泉ヶ辻・糾未。

 恐らくは彼女だろう。予知が妨害されている為、確定こそしないが彼女の配下が動いている可能性は高い。
「しかし一番妙なのは“予知した場所の情報”が見つからない事なんです。さっき、村だと思われる場所って言いましたけれど……全く、情報が無いんですよ。そこの地域に関する情報が」
 どういう事だろうか。意味が少し分かりにくいが。
「そのままの意味で、記録の類が一切見当たらないんです。そこの場所には確かに何か有った筈なのに、記録されていない。記録されている情報が無い。……覚えている人すら、いない」
 通常ではありえない現象。
 何がしかの神秘が関わっているのは間違いなく、更に黄泉ヶ辻の一派が行動を起こしているとなれば――碌でも無い事になりそうなのは想像に容易い。いや、既に起こっていると言うべきだろうか。
「現地の村、皆さんに担当して頂くのは南側ですが、そこには一般人が五十人ほど存在しています。もっとも、マトモな意識があるのかは怪しいですが……放っておく訳にはいきません。殺されたり、ノーフェイス化させられたりする可能性はありますし。
 だから、出来る限りの一般人の救出、並びにフィクサード達の撃退を行って下さい。宜しく、お願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:茶零四  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年04月24日(水)23:24
 誰も知らない。誰も分からない。
 それは果たして存在するのか。
 ともあれ敵の情報です。

■勝利条件
・敵の撃退。
・一般人の救出。

 一般人に関しては全員無事の救出でなくて良い。詰まる所、ある程度の犠牲は黙認される。
 ただし犠牲が出過ぎれば失敗と成る。

■フィクサード:トム・矢無(やむ)
 ジーニアスの覇界闘士。男性。武器は手甲。
 覇界闘士Rank3スキルまで使用出来るが、構成は不明。それなりの実力者ではある模様。
 なお、フルネームに「君」を付けるとマジギレする。理不尽。(フレーバー要素)

 EX(P):不要矢(いらずのや):対象は自分のみ。近接範囲外で使われた遠距離攻撃に対して、回避判定で有利な判定を行う事が出来る。ただし自身が行う近接範囲外遠距離攻撃にも適用される。実際は手番消費無しで自在に能力オン・オフ可能な便利なスキルなのだが、何故か本人が遠距離戦闘を好まない為、余程の事態で無い限りはこの能力を使い続ける様だ。

■フィクサード:バイマ・作(つくる)
 フライエンジェ・マグメイガス。男性。トムの友人。
【針鼠】のスキルを所持している模様。他、シルバーバレッドなどを活性化している。
 実力に関してはトムに劣るものの、トムと違い遠距離攻撃をかなり得手とする。

■ノーフェイスフェーズ2『ハッピードール』×3
 脳味噌に魔導式を書き込まれ、能力を高められたノーフェイス。完全に狂気に陥っている。
・ブレインキラー:近単、物防無、虚弱
・ブレインバインド:遠単、ショック、麻痺
・ブレインショック改:遠2複、混乱

■アーティファクト『カオマニー』
 宝石型のアーティファクト。黄泉ヶ辻が所有するアーティファクト『ヘテロクロミア』の劣化版。その効力を発動させることで一般人をノーフェイス化させる事が可能。
 又、ハッピードールとヘブンズドールはカオマニー(ヘテロクロミア)に対応する術式を脳に刻み込まれている為に使役する事が可能となる。
 トムが所持している。

■アザーバイド『禍ツ妃』
 結界、強結界、及び陣地作成の様な構築するタイプのスキルを無効化。
 更に予知へのジャミングを持つアザーバイド。
 ただし今回は戦場に存在するのかは不明。

■その他
 村の北側を担当されるらるとSTの『<黄泉ヶ辻>空白』と場所を同じくしますが、判定等に連動性はありません。此方は村の南側のみが担当です。
 トム・矢無。バイマ・作。両名のフィクサードは拙作<咎花堕つる>こんにちは死ね にて登場しております。
 ハッピードール、カオマニー、禍ツ妃、黄泉ヶ辻・糾未に関しては麻子STの <咎花堕つる>愛盲イドラ <晦冥の道>裏表パラフィリア <晦冥の道>洗脳セミナー 等。

 上記のシナリオに関しましては読んで居なくとも全く問題ありません。

■Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
殖 ぐるぐ(BNE004311)

●不明
 ここは何処だろう。
 知らない。分からない。理解できない。
 己の意思はあると言うのに、場所の理解“だけ”が抜け落ちている。
 ここは何処だろう。
 知らない。分からない。理解できない――
「まるで虫食い穴だな……この薄気味悪い事象は、アーティファクトを試した結果か?」
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が流れる景色を横目に。“何処だか分からない場所”を見据える。
 彼女がいるのは車の中。『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)が運転する車の中だ。その車の窓からは何の変哲も無いただの村が見える。都会とは違い、自然の多い――だからこそ古臭い印象の、村。
 しかし、なんだろうか。この感覚は。
 目の前には村があるというのに、ソレを“村”だと認識出来ない――よく分からない、気持ちの悪い感覚は。
「有ったモノがなかった事にされたのか……それとも、なかったモノが有った事にされたのか。
 現時点では差がないも同然、か。全く、碌でも無い臭いがするものだ」
 有が無に。無が有に。
 どちらの状況でも有り得ると『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は言葉を紡ぐ。ただの隠蔽工作などとは比較に成らぬ概念工作。数多の人々の記憶に干渉するとは、なんたる規模か。
「まぁ黒歴史持ちにとっては垂涎の的だな。さぞや求める人間が多そうだ」
「何もかも“忘れる”ってのが良いとは限らないけどな――
 っと、そうちゃん、そろそろ目的地着きそうだけどなんか見える?」
 運転しつつの俊介が放った言葉は『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)へと。
 千里眼――本来目視が不可能な場所にすら届くその眼で見つめる先は、
「うーん……なんかノロノロ移動してるねぇ。なんかの意図が有るのとは違って、純粋に上手く進んでないみたいなー? ともあれ、攻撃仕掛けるなら今かな」
 無論の事、フィクサード達だ。より厳密に言えばフィクサードらが引き連れている一般人の方で。彼らがどこに行くのか掴みたかったのだ。
 しかし行き先を掴む所か、一般人達はどうやらゆったりと動いている様で目的地はよく分からない。迅速に動かれるよりは遥かに襲撃を掛けやすい状況で、リベリスタ達にとっては悪くない状態だが。
「よっし……それじゃあ一つ――救えるだけ救いに、行ってみっかッ!」
 瞬間。俊介は確かな意思と共にアクセルを強く踏む。
 ここが何処かは分からない。知らない。理解できない。
 だが確かにいるのだ。ここには、人が。罪の無い人々が。
 ならば救いに行くのに迷いは無い。
 己の力は、護る為にあるのだから。

●不明確
「オゥ! チンタラ歩いてるんじゃアーリませーん! こんなんじゃ日が暮れますよファック!」
 ゆったりと歩く、状況が理解できていない人々に罵声を浴びせるはトムだ。
 一般人らは今の所特に危害を加えられている訳ではない。しかしながら彼らの判断能力は著しく低下していたと言っていいだろう――“必要な情報が欠損”しているからだ。
 馴染みの有る場所が分からない。
 視た事が有る筈なのに、地名を知っている筈なのに、言葉に、意識に出てこない。
 思い出したくても思い出せないその感覚は焦りと成り、胸の奥底で渦巻いて。
 やがて思考のほぼ全てを“思い出す”事に注ぎ上げる。無駄であったとしても。無駄と認識できぬなら尚更に。
 結果として物事を判断する力は失われ、言われるがままに歩を進めているのだ。何処かに。危険とも、知らずに。
「やぁ結構イラついてるねトム! そんな君に一つニュースがあるよ――敵だ」
 その時だ。トムの友人、バイマが己れらに接近してくるリベリスタ達の車を見つけた。
 相当な速度で距離を詰めてくる。戦闘可能な領域にまで一気にだ。さすれば、
「やっほ~~~~!! あ~~そ~~~~~~~~ぼっ!!」
『歪』殖 ぐるぐ(BNE004311)が真っ先に。停止しようと速度を落とした車から、飛び降りる形で一番槍と成す。
 踏み込んだ一歩は跳躍する様に。己が身体に施した強化の力はその一歩の距離をさらに伸ばして。ただひたすらに速度に身を包ませて、
 向かう先は一直線。
「エンジョイプレイ? ボク達とも、遊ぼうよ」
「――!」
 トムの元へ。至近距離へと到達すれば、そこから更にギアを上げる様に。もう一段階速度を跳ね上げる。
 地を踏み砕く如く。小さい身体で、武器と成り得る葉で一閃。虚を突く初撃とすれば、
「トム……! チッ! 存外早いじゃないかリベリスタ――」
「いやぁ、まだまだこれからだろ」
 駆ける。地を、ではない。“壁”をだ。
 周囲にあった木を。家の壁を。あまり高い所まではいけないが、それでも充分だと。垂直な壁すら地の如く移動できる能力を持つ『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)は思考する。即座にバイマとの距離を詰め、彼の胸倉を掴めば、
「何をしたいのか知らねぇが、お呼びじゃねぇんだ。失せな」
 地へと叩きつける。得意な遠方から攻撃させる訳にはいかないのだ。
 なるべく接近し、そのまま打ち倒さんと彼はさらに突っ込んで。
「やれやれ。村を丸ごと記憶から消してしまうとは……果たして、元に戻るのでしょうかね」
 そして『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)も戦場へと続く。
“消えた村”。それは己れらが事態を解決すれば元の村へと戻るのだろうか――そんな思いを馳せるも、即座に思考を戦闘へと切り替えて、
「まずは出鼻を挫かせてもらいましょうか――先手は頂きます」
「何をやりたいのかは知らないが、全て潰せば関係無いな。行くぞ」
 ここに至るまでの探索時間、その間に溜めておいた集中の威力を一点に。トムへとぶち込む。同時に杏樹も業火を纏った矢を放てば真っすぐに敵を飲みこまんとして。
 しかし初撃。それは届いたが故にこそ遠方からの攻撃だった。それはトムにとっての有る意味得意とも言える距離であって。
「オゥ! 急いてはなりませーん! 遠距離なんてクソ喰らえデースよ!」
 攻撃に対処される。慧架の伸ばされた腕を弾いて、矢の軌道を視切って、威力を減衰。
 躱された訳でこそ無いが大部分の威力を相殺された様だ。集中を挟んだソレは至近なら効果を見込めた筈だったが、遠方からではやはり分が悪く。
「あははーそれにしてもトム・矢無君……だっけ? なーんか美味しそうな名前だよね~
 気のせいかな~? クスクス♪」
「アァッン!? 今なんつったそこのクソガキがぁああ!!」
 その時。『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が紡ぐ言の葉は敵のフルネーム。
 いや、より正確に言えば君付けか。どこぞのスープを彷彿させるかの如くの響きに、先の攻撃を捌いた際の余裕とは正反対にトムは即怒りを示す。内心では冷静を保ってこそいるが、怒り自体は本物だ。そんなにスープ呼びが嫌なのだろうか。挑発した陽菜も、苦手な名前呼びはあるが。
「チッ……結界張れれば楽だったんだけど、流石にそう簡単にはいかないよ、な」
 まぁスープフィクサードはさておき。陽菜の挑発の隙を突く形で俊介が試そうとしたのは、陣地結界。
 無事に構築する事が出来れば一般人達を戦場域から離す事も十二分に可能だったのだが――そんな彼の目に、映った存在があった。
 揺らめく、蝶の様なアザーバイド“禍ツ妃”。
 アレがいては駄目だ。全て喰われてしまう。幸いだったのは直ぐにその存在に気付けた事だっただろうか。結界構築を瞬時に取りやめ、己が体に魔力の循環作用強化を施せば、戦闘の姿勢を、取る。
 突如として始まった血生臭い戦闘。場所の情報を喪失した一般人達はどよめき、混乱するも、己から逃げようとはしない。低下した判断能力では的確な行動が取れず、そしてなにより――恐怖だけはそのままであるから。
 身が縮こまり、身体を上手く動かせないでいるのだ。代わりとばかりに動いたのは、トム達と、そして、
「来たな……誰かの言う分にしか動けない、人形が」
 ユーヌが言う先。リベリスタ達に立ちはだかるハッピードール達がいた。
 一呼吸の間すら無く、放たれる攻撃。脳髄を書きかえられ、狂気を追求したその個体達の殺意は膨大だ。故にこそ数多の“負”を撒き散らす。脳を犯し、混乱させる事もある一撃の、負を。しかし、
「どいつもこいつも頭蓋空っぽの痴呆共ばかりが――中身も無い癖に調子に乗るなよ」
 ユーヌは動じない。ダメージはともあれ、その“負”に対して彼女は耐性を持っている。つまり、
「私にそんなものは、効かん。あぁ脳内お花畑の愚図共には、理解できんかな?
 哀れな事だなぁ、おい」
 ハッピーの混乱攻撃の隙間を縫って、お返しとばかりに挑発を。
 それはただの言葉では無い。怒りの感情を思考の隙間に強制的に流し込む、技だ。彼らの目を引き付け、そのまま側面へと低空を飛び、回り込んで囮と成して。
「まぁーったく! “普通”のお姫様の普通のお遊戯会は毎回普通にたのしそうだね!
 いいなー、俺様ちゃんも混ぜてよー。ていうか、混ざりに行くから混ぜてよー。
 で・も☆ 今度のお遊戯はこんな記録されていない村でとか超根暗だねー☆」
 次いで、ユーヌの動きに合わせて、護り人となるべく葬識が駆ける。
 言葉を囃し立てて。ハッピーらの視線からユーヌを遮るべく。
 身体を麻痺させる攻撃が飛んで来れば彼は甘んじて受け止めて。
 それでも逸脱に滾る彼は己の身体から闇を生み出し、強化して――笑う。
「今回は、食事が出来ればいいんだけどなぁ」
 呟く様に洩らした言葉を拾った者はいたのかさてはて。瞬時に生み出した暗黒の波でハッピー達を薙げば、そのまま戦闘を続行する。
「オオゥ! なんて面倒な連中なんでショーカ! 仕方ありまセーン! こうなったら仕方ありませーん!」
 その時だ。トムが、大袈裟な口調で指を鳴らして、
「ちょっと殺して戦力ふやしマース。バイマ」
「はいはい」
 特になんの感情を込める事も無く――ただ効率の為に、幾人かの一般人を、
 殺害した。

●行先
 極一瞬の事だった。
 怯える一般人をバイマが狙い撃ちし、殺して、ノーフェイス化の作業を始めたのは。
 身体が変質する。凶悪に。狂気に染まる様に、
 人がバケモノと化して行く。

 だから、

「ごめんね……!」
 陽菜は直ぐに動いた。
 己が弓を構え、今にも人外として動きだそうとしている者へ。
「アタシ達の力不足で覚醒させちゃって……許して!」
 業火の矢をもって、焼き払う。
 躊躇は逆に危険だ。己の手が届かずに犠牲者を出してしまった事に謝罪をしつつも、やらねばならない。近くに纏まっていたハッピー達をも巻き込んで、紅蓮の業火が人外を完全に焼き払わんとして。
「あーあ。命ってとってもとっても大切なのに勿体ないなぁ☆」
 でも、まぁ、
「仕方ないよねノーフェイスになっちゃったんだったら――殺さないと☆」
 陽菜の放った火矢の中を、葬識がどこか嬉々とした表情で、駆け抜ける。
 ユーヌの怒り誘発による引き付けから離れる事が出来たハッピーが迎撃にと攻撃を放つが、頓着すらせず。頭が混乱する様な痛みに襲われれば、己が脚を傷つけてでも止まらない。玩具に心乱されるなど、気に入らない事この上ないから。それよりもと、ノーフェイス化した者の息を止めるべく、暗黒の塊で薙いで。
「オゥ! 躊躇い無く殺すとは予想外デース! しっかし……テメェはうぜえええ!」
「こっち!」「あっち!」「そっち?」「どっちでしょーかッ!」
 さすれば折角の作った“駒”を躊躇なく潰されて驚くトムに、ぐるぐが往く。分裂し、幾重にも己が居る様に見せかけて。四方八方からトムの全身へと攻撃を仕掛けるのだ。それは全て、彼が所持するカオマニーを見つける為。どこだどこだと探して。
「ねぇ、遠距離攻撃って、好き?」
 そして同時。ぐるぐはトムに問いかけて、心の内に探りを入れる。
 どこにある。目の前の存在が持つ回避道の芯は。重要点は、なんだ。
 己の動きにもっと柔軟を。自由な動きを。自由な世界を作る為。彼女は問うのだ――が、
「ノンノンノン! 遠距離なんて嫌いデース! 嫌いだから使わせないし、なるべく使いまセーン! 矢だの銃だの、相手から離れて使う武器なんてのは、総じて臆病者の技……だから嫌いなんデース!」
 その回避道は遠方への嫌悪から構成されていた。
 特殊な、個人的事情。理解するには難しく、その心から発生した動作を真似するは更に難しい。
 直後。分裂する動きのぐるぐをトムが捉え、掌底を腹に叩き込めば小さい身体が浮いて吹き飛んで。
「誰一人欠ける事無く――勝利を」
 しかしトムの相手をしているのはぐるぐだけに非ず。彼女が復帰するまでの間を埋める様に、慧架が攻撃を繋ぐ。
 半端な集中は無駄と考え、火力で押す様に。トムを抑え、自由な動きをさせまいとすれば、同じくバイマに自由な動きをさせまいとしているモノマが。
「邪魔だ! 死にたくなけりゃあ失せてろ!」
 厳しい言葉を、恐れる一般人へと放つ。
 バイマの側面から執拗に攻撃を重ね、射線をなるべく味方に向けない様に奮戦している彼だが、先の様に攻撃を一般人に通してしまう事はどうしてもある。故にさっさと逃げろと。戦闘を見せる事で危機感を煽る。
 さすれば一人。二人と。少しずつあちこちに逃げる者達が出始めて。更に皆が近くの一般人を、乱暴ながらも投げ飛ばし、とにかく戦場から離そうと行動すれば。
「オゥ! そう簡単にはいきませんよ――バイマ!」
 それでも逃さないとする。逃げるぐらいならば人外に化せと。トムの指示でバイマとハッピーは狙いを定める。
 死ねば成るのだ。無論、何も無条件に成る訳ではない。ハッピーとカオマニーの“両方”が戦場内に存在している必要はあるが。あれば、成る。ノーフェイスに、人外に。
「脳髄をぶちまけろ。貴様らの頭では、不要だろう?」
 されどその瞬間。ユーヌの引き付けが尚も彼らを襲った。
 その効果は僅かなれど意識を一般人から、そして、トムから離した――その時。
「ヘイ、トムヤムくーん! 愉快に美味しそうな名前しちゃってんな!!
 愛らしいぜ、食べちゃいたいぐらいになッ!」
 幾度となく癒しの力を味方全体に行き渡らせていた俊介が、トムに声を。
 憎悪の向いた目が向くが、俊介は構わない。己に内包された魔力が、底を突きそうなのだ。循環させればまた満ちるかもしれないが――待っている暇は無い。
 それよりもたった一瞬の“チャンス”を掴み取る為、彼は前に往く。回復手が前に出てくると言う不可解な状況にトムは怪しむも、前線を支えている存在を無視は出来ず、対応すれば、
 俊介は、トムに噛みついて動きを束縛した。
 何故その様な行動に出たのか――答えは、直ぐに分かって。
「術式書いてまで弄って、玩具じゃないんだ」
 ――杏樹だ。彼女は言葉と共に、己が拳銃を構え、
「前に突っ込めるサジは意外か?
 サジらしくないけどね、別にそんな存在がいても、構いはしないだろう?」
 狙う。トムの内側の胸ポケットに入っている“カオマニー”を。
 何故そこにあるのかを知っているのかと言えば――ぐるぐだ。先の攻撃時にカオマニーの在り処をギリギリ探れていた彼女が、吹き飛ばされた際に杏樹に秘密裏に告げていたのだ。故にこの一瞬に繋がる。
 カオマニーは相手にとって大事な物。だから、狙えるチャンスは一度のみだろう。しかし、それでも、トムの動きを止める俊介は、杏樹を信じている。いつでも、いつまでも。彼女ならやってくれるだろうと信じて、
「ぶっこっわっせぇッ――!!」
 トムに殴られ、血反吐吐きながらも――叫ぶ。
 そして直後。カオマニーを狙って、杏樹が、拳銃の引き金を絞り上げれば、

 見事に、その中心点を撃ち抜いた。

「オ! オウ! なん、ですとぉ!? まさかカオマニーが!?」
 驚くトム。まさかカオマニーを直に狙ってくるとはそこまで思っていなかったのだろう。
「チィ! こうなっちまったら長居は無用! さっさと退きましょうーカ!
 ハッピー達は置いてきますけーどネッ――!!」
 カオマニーが破壊され、戦力を増やす事が出来なくなったトムが即効で選んだのは、撤退。
 制御の効かなくなったハッピーを囮に、逃げるのだ。何も無理をする必要は無い。バイマと共に、退く。
 飛行できる者と遠距離攻撃に強い者だ――生き残っているハッピーが無造作に暴れる以上、逃げるだけなら何とかなるだろう。初めから攻撃の優先順位が高いか、ハッピー達が全滅していれば話は別だったかもしれないが。
 ともあれ、消えた村での戦闘は、ハッピーの殲滅によって終わりを迎える。
 後に残ったのは、蝶だ。
 舞う様に飛ぶ蝶が――村のどこかへと、ゆっくりと向かって行っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。消えた村での御話は、一旦これで区切りと成ります。
 トムやバイマは生き残りましたが、カオマニーの破壊に成功し、
 増えたノーフェイスにも注意されていたのは良い流れでした。
 フィクサード達には一歩手が届きませんでしたが、成功です。おめでとうございます!
 今回の事件が一体どう繋がるのか。それは糾未さんに。
 では、改めてお疲れ様でした。