● 昔、其処には何かが在った。 ねぇ、昔ってどのくらい昔? わからない。 ねぇ、其処って何処? 覚えてない。だって…………。 だって? だってだってだってだってだってだってだってだって、黄泉ヶ辻糾未がみぃんなたべちゃった。 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。でも此処が何処で何時であっても、俺等がやる事に変わりなんかねえよ!」 「良いね良いねアザミちゃん。最高じゃねえか。でもよ、何かさ、もうナニ突っ込んだらナニだけ喰われそうでひゅんってするぜ!」 「でもアザミちゃんを一突きしたらマガツヒが一つ♪ だぜ」 「此れお前の時のかよ。クソウケル。もう腕とかで良いんじゃね?」 彼等の哂いは血と共に。 ● 「さて諸君、任務の依頼だ。……それも恐らく非常に厄介な」 集まったリベリスタ達を見回し、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が溜息の様な言葉を吐く。 逆貫の傍らの『paradox』陰座・外(nBNE000253)が僅かに眉を顰めた。 何時もの台詞に付け加えられた一言は、其の案件の特殊性を物語っている。 「……とは言え何から語ったものか。ふむ、うむ。とある場所に何かが存在する。其れが何かははっきりしない」 しかし流石に其れでは何が何なのかさっぱりだ。 「予知では其処に村らしき物を私は見た。……けれど、あらゆる記録を調べてみても其処に何が在ったのかは記されていなかった。そして人の記憶にも」 神秘の絡む事件である事は疑うべくも無い。 記録、記憶、そして恐らく概念をも失っているのなら、それは存在の喪失と同義である。 「この件に絡むのは、黄泉ヶ辻だ」 資料 フィクサード1:『臓物屋』モツ兵衛 黄泉ヶ辻に所属する男性フィクサード。人間の解体作業に非常に長けている。 所持EXスキルは『モツ抜き』。所持アーティファクトは『カオマニー』。パートナーの特別製ハッピードールは『ラブドール・彩』。 フィクサード2:『肉屋』肉助 黄泉ヶ辻に所属する男性フィクサード。人間の解体作業に非常に長けている。 所持EXはスキルは『The・肉』。所持アーティファクトは『カオマニー』。パートナーの特別製ハッピードールは『ラブドール・アリス』。 特別製ハッピードール1:ラブドール・彩 OL風の美女。ただし全裸でノーフェイス。ハッピードールの中から見目の良い物をモツ兵衛が好みで見繕い、特別な術式を組み込み更に強化した。フェーズは2。 特別製ハッピードール2:ラブドール・アリス 金髪美少女。ただし全裸でノーフェイス。ハッピードールの中から見目の良い物をモツ兵衛が好みで見繕い、特別な術式を組み込み更に強化した。フェーズは2。 その他のハッピードール×3 脳味噌に魔導式を書き込まれ、能力を高められたノーフェイス。完全に狂気に陥っている。フェーズは2。 ・ブレインキラー:近単、物防無、虚弱 ・ブレインバインド:遠単、ショック、麻痺 ・ブレインショック改:遠2複、混乱 アーティファクト:カオマニー 小さな宝石の様なアーティファクト。ハッピードールを使役するコントローラーであり、且つカオマニーとハッピードールが揃う事で周囲の人間の革醒する確率を高めるノーフェイス化の儀式を発動できる。 「初期段階の敵は此れだけだが、彼等は50名ほどの一般人を村の北側に集めている。……敵の増加の可能性は大いにあるだろう。ちなみに村の南側でも神秘反応を確認しているが、此れには別チームがあたる。諸君等は北側のみに専念して欲しい」 恐らく集められた一般人は村民だったのだろう。……彼等が其れを認識出来ているかどうかは怪しいけれど。 黄泉ヶ辻の一派が相手であるならば、今回の事象にはある推測が可能である。背後に透けて見える『黄泉ヶ辻・糾未』の存在が引き起こしたのだろうと言う推測が。 アザーバイド『禍ツ妃』、アレの存在を考えれば全てに一応の説明が可能だ。 「…………全ては推測に過ぎぬ事。諸君には敵の撃退と一般人の救出を頼みたい。この子も同行する心算だそうだ。何が起きるか判らん厄介な任務、無論全ての命を救う事は不可能だろうが……、諸君等の健闘を祈る」 逆貫の言葉に、外が小さく頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月23日(火)23:28 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「われわれはどこから来たのか。われわれは何者か。われわれはどこへ行くのか」 小さく呟く『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)。 彼等は実際に足を踏み入れても尚、此処が村だとの実感がどうしても持てないでいた。 水の流れは在る。放り出された自転車も在る。人が居た痕跡は確かに在るのに、余りに其れ等に現実味が無い。 元より今時、町でなく村と言うなら、外との交流も少なく少子高齢化が進み、手入れも行き届かずに荒れた印象を与えるのは仕方が無いだろう。 だがそう言うレベルですらなく、此処には人が住む地の匂いがしない。 此処に比べれば未だ大昔に放棄された廃墟の方が、まだ人の生活の名残を現実として感じ取れるだろう。 視覚情報と感覚の違いに奇妙な気持ち悪さすら感じる。 此れが記録や記憶等の情報だけでなく、概念すらをも食われる、存在を消失すると言う事なのだろうか。 「禍ツ妃に興味があるそうだが、綺麗な物が好きか?」 そもそも何故黄泉ヶ辻の連中は此の場所を狙ったのか。どうにも引っ掛かりを感じ、『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)は『paradox』陰座・外(nBNE000253)に水を向ける。 結界か、それとも化物の封印か、其れが何で在るにせよ、陰陽師である外なら自分よりも其の類には鋭いと思ったのだろう。 それに何故か外はアザーバイドである禍ツ妃に興味を持っていたから。 「先輩、ボクは虫は好きじゃないよ。唯単に誰の記憶からも消えて、存在した証さえ失うなら、其れは究極の自由じゃないかなって思っただけさ」 全てを1からやり直せる、寂しくとも究極の自由。 現実味の無い家屋の壁を指でなぞり、外は唇を歪めた。 「でも此れはきっと違うよね。じゃあ今、此れをしてしまった人はどんな気持ちなんだろう?」 愚かな黄泉ヶ辻糾未は今も後戻りの出来ない孤独に震えるのだろうか。 ● 「此処はどこだろう?」「私は何をしてたの?」「ねえ、何なの?」 寄る辺を奪われれば、人はこうも脆いのだろうか。 人々は訳もわからず、見覚えの在る顔に寄り添い震える。 此処が何処か判らない。自分が何をしていたのか判らない。 自分の過ごしていた『場所』が自分の中から失われた事により、今まで自分を構成してきた情報に欠けが生じているのだ。 耕していた『田畑』の情報や、学んでいた『学校』が消えた結果、行動の記憶が狂っている。 行動の記憶だけでは無い。例えば訳もわからず寄り添う見覚えのある顔が、『隣人』である事も判らなくなってしまっていた。 どう行った繋がりかも判らぬ相手は、怖い。でも他に縋るものも無く、恐怖に震えながら手を握り合う。 其れは『我が家』を失った『家族』でさえも例外ではなかった。 「思った以上に面倒臭いな。こいつ等全く周りが見えてねえ」 「何でこんな面倒臭い発動条件を選んだよ?」 寄り添い震える中の1人を、襟首を掴んで無理矢理引きずり出した『臓物屋』モツ兵衛が、哀れな犠牲者の腹部から臓物を引き抜く。 カオマニーとハッピードールが揃う事で発動する今回の儀式を完成させる為の最後のピースは『深い絶望』。 深い絶望に塗り潰された心が、人を革醒へと導くのだけれど……。 「だってさ。俺的には大人しくて純朴そうな田舎の美少女をねっとりたっぷり絶望させたかったんだよ」 欲望に塗れた『肉屋』肉助の言い訳を掻き消すほどに響いた絶叫に、人々はより深く抱き合い寄り添い、身体を震わせる。 絶望を与える一番の方法は、希望を奪う事だ。端から何も持たぬ者や、混乱状態にある者は絶望に陥り難い。 今の村人達は状況の認識能力が著しく欠けるが故に、逆に絶望を与える事が難しかった。 元より肉助もモツ兵衛も、肉体を痛めつける事には秀でていても、人心を操る術に長ける訳では無い。 「まあ良いさ。どうせ俺等の目的はノーフェイスじゃなくて人の排除だ。それに……」 また1人、今度は肉助の手により肉を裂かれた犠牲者の絶叫が響く。 だが如何に状況認識が鈍かろうと、こうして外部から恐怖を与え続ければ、そのうち心は折れるだろう。 「あぁ、まあ1人堕ちれば後は連鎖しそうだしな。のんびりじっくり遊ぼうぜ」 広場に集められた人々は自主的に逃げようともしない。仮に逃げようとした所で、フィクサード2名にくわえてハッピードールが特製の物を加えれば5体もいるのだ。 彼等が人々を皆殺しにしようとすれば全ては一瞬で片がつく。ノーフェイス化を目論んだ所で、それも全ては時間の問題でしかない。 人々が助かる道は唯一つ。 「つーわけでこう見えても俺等は忙しい訳だよ」 「だから邪魔しないでくれよアークのリベリスタ共。てーかお前ら本当に毎度空気が読めねえな!」 現れたアークのリベリスタ達がこのフィクサード達より救い出す事のみ。 ● 余計な問答は必要なかった。 リベリスタとフィクサード、争いになる事の多い相反するカテゴリーではあれど、互いに人である以上分かり合える場合もあるだろう。 けれどこいつ等は違う。あらゆる主義主張信念の方向から見ても、確実にこいつ等は共感の余地など何処にも存在せぬ害悪でしかない。 ぶつかり合った異能の力の余波に揺らぐ空気、始めて耳にする剣戟の音に、哀れな人々は尚も震え上がる。 「ごきげんよう『臓物屋』。しばらくの間、オレに付き合ってもらうぞ」 「うぜえよイケメンボンボン。反吐の出る甘臭い面を晒しやがって」 牽制気味に繰り出された『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)の刃を、モツ兵衛はなんと素手で掴んで受け止める。 けれど直後に風斗の身体を覆うのは、破壊の神の如き戦気。 「ま、嫌がっても無理やり付き合わせるんだがな!」 止める事叶わぬ圧倒的な力、ヒンズー教の3柱の最高神が1つ、ヴィシュヌのアヴァターラであるクリシュナの異名を語源に持つジャガーノートの力に、風斗の刃が受け止めた筈のモツ兵衛の身体を押し込んで行く。 「んで、俺の相手はおっさんかよ。なー、そっちのイイ身体した姉ちゃんが相手してくれよ? 手加減しながらゆっくり濃厚に可愛がってやるからさ」 欲望塗れの言葉を小夜に向かって吐きながらも、その実的確に急所を狙って攻撃を繰り出した肉助の手を、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)のハンドグローブ、サルダート・ラドーニが捌き払う。 とは言え超近接の格闘戦距離は肉助の最も得意とする間合いである。 肉助は己の攻撃を捌いたウラジミールの其の左手の指を、其の刹那さかしまに圧し折っていた。 並の人間ならば見るだけで寒気を禁じえないだろう、明らかに人の指の稼動域を超えた方向まで捻じ曲がったウラジミールの左手中指。 けれどウラジミールは顔色一つ変える事無く右手のコンバットナイフ、КАРАТЕЛЬを口に咥え……、『ゴキリ』と曲がった己の指を無理矢理に正しい位置へと引っ張り戻す。 例え革醒者と言えど痛みが無くなる訳では無い。その時身を走った激痛は如何程だろうか。 「簡単にはやらせぬよ」 なのにウラジミールの声に震えは無い。再びコンバットナイフを構えた彼の姿に、肉助の瞳から遊びの色が少し薄れた。 彩にアリス。其れは彼女達の本名では無い。 或る意味に置いて、此の場で最も不幸な存在は彼女等である。 革醒現象によって人をやめさせられてしまったノーフェイスの中でも脳内に刻まれた術式により自由を奪われしハッピードール達。 彩とアリスは其の中から更に歪んだ欲望を持つフィクサード、肉助とモツ兵衛に見出された。戦力である事よりも、ラブドール……、彼等の性的な玩具である事を主目的に。 2体のラブドールには嘗ての人格は欠片も残らない。だがだとしても彼女達の境遇は余りにも……。 眼鏡のフレームを手で押さえ、彩の前に立ったのは『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)。忙しく巡る彼の頭脳は、状況から導き出されるありとあらゆる可能性を演算し、最適な戦闘プランを構築していく。 けれど彼の頭脳を持ってしても、導き出されるありとあらゆる可能性の中に彩にとって救いの有る其れは一つも無い事に、……オーウェンの唇がホンの少し皮肉気に歪む。 冷静な彼は自分が決して全てを救える万能の存在では無い事に気付いている。不可能は不可能だと悟っている。しかし強さを増せば増す程に、伸ばした手が長くなればなる程に、指の間から零れ落ちてしまう命が増えていくのは何故だろう。 彩の拳から放たれた衝撃波がオーウェンの身体を捉えて内部から脳を揺らす。ブレインキラー、ハッピードールの操る防御無視の衝撃波は、だが其の一撃の前にもオーウェンの頭脳は、思考は、殺せない。 繰り出されるのは機械の様に正確な、迷いを見せぬ反撃。 「この地にそなたらが頼みとする物があるとしても今は安全ではない」 決して小さくは無いのに落ち着いた、伊吹の良く透る声が響く。 けれど其の言葉に対する一般人達の反応は鈍い。恐怖から逃れる為の救いの糸が垂れた事を認識出来た者も居たのだが、再び響く剣戟の音が煽った恐怖に頭を抱えて蹲ってしまう。 状況の認識も出来ず、理解不能の恐怖に怯える彼等に『避難』を理解させる事は余りに困難に思えた。 しかし伊吹は頭を下げてしまった1人の傍へと駆け寄り、ぶつかる異能の力の余波から彼を庇う。 「時間は我らが稼ぐ故、逃げろ」 例え其れがどんなに手間であろうと彼等を守ろうとする伊吹の言葉に、1人、2人と訳の判らぬままにも人々は逃げ始める。 ● けれど崩壊はやって来た。原因となった其れは些細な食い違いだったけれど、歯車の回転を止めるには充分過ぎた。 彩、アリスを除いたノーマルなハッピードール達を食い止めるは後衛職の面々。 本来ならば癒し手、ホーリーメイガスである小夜や『デンジャラス・モブ』メアリ・ラングストン(BNE000075)等は前衛戦士達の壁に守られ、彼等を、前線を支える為の生命線として活躍する事で真価を発揮する。 だが敵の数は7体で味方の数も7人、人数は拮抗しており、1体の敵をフリーにすればそれだけ一般人への危険度が増す。既に伊吹が避難誘導に当たっている為、これ以上敵をフリーにする訳には行かないのだ。 出来うる限り適をブロックし、そしてラブドールの彩から順に火力集中して撃破していく。此れがリベリスタ達の選択した全体方針。 「敵を攻撃するのは滅多にないんですけどね、そうも言ってられません」 ハッピードールの一体をブロックしながら、小夜がセイクリッドアロー、聖なる属性を宿す魔力の矢を彩に向かって放つ。 しかし小夜に続いて外が敵の動きを抑えるべく動こうとしたその時である。 「下がってろ!」 外に向かってメアリから強い調子の叱咤が響いた。 其れは或いは実力に劣る外を心配しての事だったのかも知れない。危機となれば即座に庇える様にと、近くから離れさせまいとしての命令だったかも知れぬ。 「え、どっち……っ?!」 だが全体としての方針は外にもハッピードールの食い止めをさせると決まっていたし、伊吹やウラジミールからは特に念を押して頼まれていたのだ。 疑問の声を発した其の瞬間、戸惑いに動き鈍った外の顔にハッピードールの拳が突き刺さる。拳を通じて注ぎ込まれた衝撃波は脳を揺らし、外に防御を無視したダメージを与えた。 白眼を剥き、倒れかけた外の鼻から血が垂れる。意識のブラックアウトはほんの一瞬の出来事であったが、其れでも受けた衝撃は大きく、そして戦闘経験の浅い外の戦意を削るには充分過ぎた。 「全力防御して守ってろ!」 更に続くメアリの命令は作戦方針からは掛け離れており決して納得できる物ではなかったが、其れでも外は即座に従う。相反する命令故に好感度が下がり、その結果自身の安全を優先したのだ。 しかし一つの歯車が動く事を止めてしまえば、その影響は全てに及ぶ。 滞ったリベリスタ達の流れに2人のフィクサード、肉助とモツ兵衛の唇に笑みが浮かんだ。彼等の眼前の相手は強く、そして何よりも非常にしぶとい。 ウラジミールは絶対者としての力で、そして風斗はジャガーノートの闘気で抑え込み、肉助やモツ兵衛から受けるバッドステータスを無効化している。2人のフィクサードにとって眼前の相手は相性の悪い、面倒臭く崩し難い相手であった。 けれど眼前の敵が崩せぬのなら、崩し易い所から攻めるまでだ。 フィクサード達の持つカオマニーからの命令にハッピードール3体と、更にフリー状態にあったラブドールのアリスが狙うは小夜とメアリー。剥き出しとなったアキレス腱にして、リベリスタ達の生命線。 オーウェンから飛ぶピンポイントがその一体の進路を変えるが……。 ● ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ。フィクサード達の笑い声が響く。 「クソがっ!」 罵声と共に放たれた風斗の幾度か目の疾風居合い切りは、狙い違わずラブドール・彩へと命中し……そして遂に弄ばれ続けたその哀れな女を骸にする事で解放した。 けれど、なのに、フィクサード達の嗤いは止まない。貴重な戦力が、或いはお気に入りの玩具……、もっと有体に言えばセクサドールが破壊されても尚嘲笑う彼等。 小さく舌打ちし、再び気糸、ピンポイントを放つオーウェン。ブロックしていた眼前の敵、彩が倒れた事により余裕の出来た彼は更にもう一体の引き付けを試みるが……、もう焼け石に水である感は否め無い。 既にメアリは倒れ、小夜も運命を対価にしての復活のカードを切らされた。 メアリはヴァチカンの如く恐れられ、鬼畜どもの増長を抑える強いアークを目指していたが、今の状況は彼女の望みとは真逆となっている。 大暴れを続けるラブドール・アリスの前に、漸く一般人の大半を逃がし終えた伊吹が立ちはだかり、放たれた衝撃波を乾坤圏を回転させる事で散らしていなす。 更にウラジミールは肉助の攻撃に合わせ、半ば相打ち気味にコンバットナイフを相手の胸に突き立てた。 だが其れでもフィクサード側に傾いてしまった天秤は戻らない。 ハッピードール達が一斉に放つは複数を巻き込み混乱を齎す衝撃波、ブレインショック改。 流石に最後のホーリーメイガスが落ちる事は惨敗の決定を意味すると外が咄嗟に庇いに入るが……、所詮薄い壁では複数の束ねられた衝撃波の前には長い時間は到底持たない。 つまり、既に勝敗は決したのだ。後は単なる敗北で済ますか、取り返しの付かない惨敗を味わうかの差だけである。 そして不幸中の幸いではあろうけど、今回集った面子は比較的クレバーな者が多く揃っていた。 戦況を冷静に判断したオーウェンの合図に、集った面子の中で最もタフなウラジミール、そして最も余力を残す伊吹が殿に立つ。 仲間達の行動に其の意図を察した無念を隠さぬままに風斗がメアリを拾い、小夜が崩れ行く外に肩を貸して撤退を始める。 敵の追撃を防ぐ分厚い二枚の壁の後ろで、オーウェンがせめてもと行なったのは今回の事象の謎を探る為のリーディング。彼等の狙い、儀式の内容、空白の原因。 リーディングは思考を読まれた側にも、読まれている事は知れるスキルだ。 けれど表層思考を探られても尚、フィクサード肉助は嘲笑う。 隠す必要など何も無い。糾未は兎も角、彼等2人は全てがバレても困らない。 糾未は困れば困る程、彼等2人にも頼るだろう。嘆きを、苦しみを、そして艶姿を彼等に見せてくれるだろう。 さあ読み取れリベリスタ。愚かな黄泉ヶ辻糾未は今この村に居る。 逃げ行くリベリスタ達の遥か背後、村の中央に在る小学校から、蝶達が一斉に空へと舞い上がった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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