● 世の中に蔓延る感情を制御しなければ、上手い事遣って行けないと身を以って理解した。 無感動無関心はどれ程楽なものであるか。ハイハイ、そうですね、その通りですね、よかったですね、だなんて曖昧な返事を返し続ける退社前。 「――ってなわけでですネ、誰花サンは思うんですヨ。感情をセーブしちゃえば人を操れるんじゃないかって」 「てか、先パイ、ンな上手くいくッスかね……。第一、代償も分かんねえッスよ」 危ない、とぼんやりした灰色の瞳で見上げた先、赤いルージュを引いた唇が歪んで楽しげに笑う。 「道具は上手に有効活用するからこそ新の力を発揮するわけですヨ。ふふっ」 誰かを操る為のアーティファクトがあると言う。 その力を最大限に利用して、何かに役立てろと目の前の女は微笑んだ。 凡てを含むこの澱は時折、不安に苛まれる事がある。例えば彼女の様に誰かを利用することこそが正義だと考える女。出世には大事な人を蹴落とすスキルに特化した女は僕を、楸ヒイロを利用する為に微笑んでいるのだから。 「お任せしますヨ? 楸サン。上げる花火は大きい方が良い。火薬は沢山用意すべきですからネ! アーティファクト『ニルアドミラリ』。楽しい玩具になりますよ? ワタシ達も、プリンスにとっても、ネ!」 ● 「無感動と無関心ってどれ程に辛い物なのかしら」 首を傾げた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回して「お願いしたい事がある」と告げた。 「透き通った水晶玉を護り切って欲しいの。この水晶玉はアーティファクト、識別名は『ニルアドミラリ』。代償は不明だけれど、効果は『強い幻覚作用を施す事で他者を操る事ができる』。……効果が大きい以上、代償もそれなりだと想定されているわ」 先にアーティファクトについての説明を済ませ、嫌な代物でしょうと小さく苦笑を漏らす。 『何』を守るのかは分かれど、『誰から』なのかは分からない。首を傾げるリベリスタの前で世恋は資料を捲くり「食中りよ」と囁いた。彼女が食中りと称すのは大概の場合で『フィクサード主流七派』であるのだが、今回は何処か不安げである。 「主流七派最大手……『逆凪』のフィクサードよ。名前は楸ヒイロ。彼とその部下がニルアドミラリを手に入れる為にその水晶を狙っているのだけど――何をするかは不明なのよね」 逆凪である事は確かだ、と彼女は告げる。だが、強い幻覚作用を使用した『逆凪』らしい使い方が世恋には視る事が出来なかったようだ。 「誰かを操って戦力にする。楽団みたいな感じかしら……、それか自身を讃えろという? これは子供っぽい理由ね。私なら前者だと判断するわ。 例えば、そう……未だ微力である戦力を増強する為にアーティファクトを使用しようとする……とか」 ぽつり、と零した言葉にリベリスタが息を呑む。最大手たる逆凪が戦力を増強する必要があるとは思えない。何か、小規模に『新しい事』をしようとしていると言うならばまた別の話なのだが―― 「理由は解らないけれど、奪われては困る事は必然よ。此れを奪われることで『逆凪』が人間を使って悪い事を――フィクサードである以上悪党であるのはある意味での必然なんだけれど――する可能性だって無いとは言い切れない、いえ、あるでしょうね」 代償が判らない以上下手な手には出ないであろうが、其れを上手く制御できる方法を考える事も彼らには可能だろう。何にせよ手に入れさせてはいけないのだ。 「彼等が訪れる前に現場に到着できるわ。そこで、3分間護り切って欲しい。3分で良いの」 「3分? 奪いに来るなら時間なんて気にせずに――」 「楸達は3分間をリミットに行動しているわ。此方が作戦を立てる様にあちらも作戦を立てる。 だからこその3分間。ニルアドミラリを死守して欲しい。現場の地図はこちら。確認しておいてね?」 其処まで言い切って、彼等から情報収集をする事も可能だろうとリベリスタを見回した。強い幻覚作用を孕むソレが『何に使われるか』は不明であれど、誰かに使われるとなれば危険を伴うのだから。 「無感動と無関心が生み出す幻覚ってどんなものかしらね。 さあ、人間の感情を――夢を食べちゃう悪い獏にはサヨナラして貰いましょう?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月12日(金)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ぴちゃん、と水の滴る音が反響する暗い洞窟の中を見回して赤い頭巾で隠した表情を歪めた『足らずの』晦 烏(BNE002858)が背後を振り仰ぐ。洞窟の入口に設置されたFiat500。ガソリンを抜いた車がバリケードの代わりを果たすだろうと見込んだソレの窓ガラスに反射して外の光がやや入る。 急行し、幻想纏いを手に『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)が此れからを思い溜め息を吐く。バランス感覚の良い焔は乙女の拳をぎゅと固めて息を吐く。 「演奏会が終ったら『コレ』って面倒な連中ね」 「そうだね、全く。面倒だと思うよ」 こてん、と首を傾げた『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)の虚空の様な瞳は光を閉ざしている。ころころ変わる口調は何処か苛立ちを覚える様に冷たささえも湛えていた。BanditとScarletを手にした影時の背後、祈る様に布陣していた『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が明るい茶色の瞳を細めて首を傾げた。 時間に余裕はない。暗視ゴーグルで包まれた視界で彼女は「直刃ですか」と小さく囁いたのだ。直刃。その言葉に反応を示したのはその名を名乗る集団と幾度か応戦した事がある烏だけではない、赤い縁の眼鏡の奥で澱んだ灰の瞳を細めた『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が何かを期待する様に鰐の牙を見せて笑う。 ざり、と砂を踏みしめる音に反応した『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が小型護身用拳銃を構えて笑う。 社の近く、頷いた『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が握りしめた偽の水晶。社の近くに置かれたソレにどちらが本物かをじ、と見詰めた影時がへらりと笑う。 音が近づく事にユーヌは気付き、仲間を見回した。いりすとユーヌの集音装置は逆凪のフィクサードが寄り近くに存在する事に気付いてしまっている。 車の元来の使い方は『バリケード』ではない。洞窟の入り口を防ぐソレをどかすならばリベリスタは如何行動するだろうか。己の神秘の力を以って壊すのではないか。伸びあがった生命を蝕む漆黒の光。深淵騎士の名を持つ技を得意とする青年のものだろう。 「さて、逆凪の新入社員ね……お手並み拝見と致しましょ?」 くす、と形の良い唇に笑みを浮かべた『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)の目の前で入口に置かれていた車が吹き飛ばされる。 その向こう、楽しげにへらへらと笑っていたのはその逆凪の新入社員とお目付け役であった。 ● ニルアドミラリ。無関心に無感動。それはユーヌ・プロメースという少女にとっては世に有り触れたものであった。恋人が存在する以上、常識と普通を重んじる以上彼女は無感情である訳ではない。だが、その表情には何も浮かばないのだ。黒い瞳がぼんやりと逆凪のフィクサードを見据えている。 「満ちても世は事も無し。何もかもぼんやりと見せるのか? 暗愚で愚鈍を増やされても邪魔なだけだ」 生み出された影人が社の中のニルアドミラリを庇う様に布陣する。その様子を見つめ、逆凪フィクサード、久慈クロムが視線を送る。明るい髪色に猫の様な大きな瞳をした青年がひらひらと手を振った。 「アークの皆さんッスよね! 楸と申しまーす。単刀直入ッスけど、どいてくんね?」 「正直、小生は破界器も君等の事も割とどうでも良いんだけど、目的を果たすまではお断りだな」 だん、と地面を踏みしめる。楸の目の前にずるりと現れたいりすの表情は彼らには分からない。表情をも覆い隠す赤と黒。視界対策のソレがまるで道化の様に鰐の言葉を彩った。 「如何でも良いならくれたっていいじゃないですか」 「破界器は大体は欲しいんだけど、あれは好みじゃない。それに小生の目的は君達しか果たせないんでね」 ある種の取引の様に聞こえるソレにクロムの警戒が強まった。だが、いりすの軽口は止まらない。へらへらと笑う鰐の隣、乙女の拳を固めていた焔に向けてクロムが放つフラッシュバン。 「ッ、しま――」 った、と発音する前に笑った男の目の前でにまりと微笑むシエルが居た。バッドステータスを作戦に組み込む時或る程度の速度が必要になる。この場合、その役割を担っていた烏よりも久慈クロムと言うレイザータクトの男の方が早かったと言うだけの話だ。 「申し訳御座いませんが、私にできる事は此れだけですので。――直刃の皆さんで宜しいですか?」 「……君は、一度」 「ええ、直刃と言えば聖四郎様。何か関連があるのでしょうか? 久慈様」 優しげな笑み。余裕を浮かべるシエルは過度に意気込む事は無い。されど、己の力を卑下する事は無い。パーティにおける回復役とは尤も重要になり、尤も狙い目とされる『キーパーソン』だ。癒しの力を振るうシエルをじっと見据えたクロムの元へと反撃とばかりに烏の閃光弾が投擲される。彼を庇う様に布陣する逆凪フィクサードの動きを捕えた事にへらりと笑い、常ならば手にする煙草が今日は無い事に口寂しさを感じて笑った。 「やあ、楽団の演奏会には直刃の面々は見かけなかったんでさ、おじさん寂しかったぜ?」 「生憎、うちのプリンスは新しいパーティの準備をして居てね。寂しがりが居たって伝えておいてやろうか」 何かを皮肉る様に言う言葉に烏がクロムへと声を掛け続ける。その目が順番に逆凪のフィクサードを見据える中で、体の自由が利かなくなった逆凪側でもその呪縛を解き放つ。 「帰るならさっさと帰りなよ。アーティファクトはあげられないし、リベリスタがお相手するだけだよ」 言葉を投げかけながら、背中にシエルを隠していた影時がこの場で誰よりも動き易い体勢をとっていた。絶対者と言う禍を撥ね退けるある種の体質はこの場では有利に働いていたのだろう。 「良く分かんないけど、貴方達がプリンスの私兵って訳? 話には聞いてたけどどれ程の切れ味かしらね」 『直刃』。その言葉は日本刀の波紋を表す言葉だと知ってか知らずか告げる焔に楸が笑いながら踏み込んだ。漆黒の霧が痛みを内包している。前線をカヴァーしていたリリを包み込む箱にシスターは痛みを堪える様に青い瞳を伏せて――嗤った。 「さあ、お祈りを始めましょうか。私は『神の魔弾』。護るものがある以上、道具であっても構いません。 神が私を『道具』であると言うならばソレに従うのみ。この教えは私の矜持。痛みは試練ではないのです」 両の手に握りしめた矜持は敵を穿つ剣であり、仲間を守る盾だった。例え一歩たりとも背後には進ませないと決めた想いを支援する様に夜行遊女がひらりと揺れる。中性的なかんばせにゆるりと緩められたのは何処か色香を孕んだ笑み。仲間より浮上している嶺が真っ直ぐに飛ばす気糸にヒイロの脚がずり、と地面を擦る。 「如何ですか? 羽衣の舞、とくとご覧あれ!」 「キレーッスけど。ちょっとオイタが過ぎますよ、オネーサン? 僕には刺激が強過ぎるみたいだ!」 嗤った彼の目の前に逆凪フィクサードが躍り出る。狭い洞窟内では範囲攻撃が痛手となった。ナイトクリークが踏み込んだステップに翻弄されながら、痛みを癒すシエルの支援を受けていりすが踏み込んだ。 「うーん、ちょいとばかり頑張るんだけど、一つ聞いても?」 「何かしら……」 名も知れぬ逆凪フィクサードの唇が赤く色づき嗤う。目の前にいる女に、別の『だれか』について聞くのは野暮だろうか。嗚呼、興味があるから仕方ない。いりすが口を開く前に再度動き出すクロムが放ちだす不可視の刃。ナイトクリークをも巻き込んだソレに実に厄介だと烏が嗤う。 面識のあるクロムは兎も角、ルーキー――嶺が新入社員と称した楸ヒイロとは初対面となる。向けた視線は其の侭、弾きだされるフラッシュバンに背後に存在するホーリーメイガスが動きを止める。 「あぁ、楸くんも宜しくだ。また顔も合わすだろうしって、今日は誰花君、お休みかい?」 「誰花サンは久慈サンをパシッ――たっ」 クロムが地面に落ちていた小石をヒイロに投げる。一見して学生の様なやり取りを行う逆凪フィクサードのその隙をついて前線に立っていた焔がたん、と地面をけり上げる。ハイバランサーを使用し安定した足場から跳ね上がったその体を反転させるように放つ蹴撃が烏と同一対象を狙う。 無論、その行為は『相手』も同じなのだ。支援を行うのがシエルだと見抜かれている以上、彼らは彼女を狙い続ける。 「感情は時に人の判断を狂わせたり、狂わせる物なのですよ、楸様」 囁かれる声に、一度姿勢を崩すヒイロの暗黒がシエルを狙い撃つ。其れを受け流す影時の皮膚が避け、血が溢れても影時は首を傾げて笑っていた。 「嗚呼、ところで楸様。お好きな食べ物ってございますか?」 ぴたり、と両陣営が固まった。 ● ふわりと舞い踊る様な嶺の攻撃に、其れを支援する様な烏の二四式・改が打ち出す弾丸。 攻防は続く中でも、彼等は攻勢を弱めない。生憎、車でのバリケードは早々と破壊されてしまっていたが、それでも前線は慌てることなくその形を綺麗に保てていた。 情報収集を欠かさぬ様に行おうとするリベリスタの想いを知ってか知らぬか逆凪のフィクサードは多くは語らない。 まだ、言葉数の多いヒイロから聞きだすのが手だろう。彼等が『直刃(すぐは)』――逆凪分家の凪聖四郎と言う男が率いる私兵達の幹部クラスである事はクロムやヒイロからの否定が来ない以上は確定だろう。 尤も、直刃であると名乗らない彼等は『まだ直刃が出る機会ではない』とでも言う様に逆凪であると自らを称し続ける。 「ところで『直刃』とは名乗らないのかい? おじさん、『直刃』と遣り合いたいんだけど」 「舞台は整ってからのが良いって何処かのお嬢さん――黄泉ヶ辻の所の妹だっていってたろ?」 「ふむ、だがお前らは直刃であると否定はしない、それから、何かをする事をご丁寧にも示唆してくれているという訳か。どうも有難う」 ユーヌの攻撃の威力は高い。無論、彼女が縛り付ける事が可能でも、彼等の中にはその災いを癒す者も存在していたのだろう。癒し手はホーリーメイガスだけでは無い。 「ふむ、クロスイージスか。しかし、幾度それを癒して居ても次第に力が尽きるだろう?」 「ご尤も、けれど此方も馬鹿じゃない」 クロムの言葉にユーヌが嗤う。馬鹿でなくとも、阿呆であるには違いない。じりじりと下がりつつある前線はそれでもなお崩れては居ないのだから。逆凪のフィクサードの焦りを感じとり焔が再度、ぞ面を蹴りあげる。 「使いッぱしりって大変ね。……で、アンタの上はアレを使ってどんな悪い事をする心算かしら?」 「『なんかパーティと洒落こもうか』とか言っ――いってェ!」 かつん。また小石が投げられる。口の軽い青年の言葉に反応する影時がは、と社へと駆け寄った。社へ向けて真っ直ぐに攻撃を放つフィクサードが居たからだ。天井ギリギリ、逆凪のフィクサードが放つ攻撃から庇う影人の影が崩れる。社が崩れ中身が見えてしまえば攻勢を強めてくるだろう。 ――尤もそこには二つの水晶玉があるのだが。 駆けよってそれを這い蹲ってでも庇う意思を露わにした影時のぼんやりとした瞳に一瞬であれど光が宿る。くす、と笑う逆凪フィクサードが一直線に影時を狙おうとした所へとユーヌの影人がその攻撃を受け止める。 「短絡的だな。庇い手が現れる事等定石だろう。恥を知れ」 「おっと、長い付き合いに為りそうな彼等も学ぶことだろうよ」 言葉に重なる言葉。烏の『長い付き合い』という言葉にシエルが微笑む。嗚呼、そうだ。似ている彼との付き合いも此れから幾度かある事だろう。 無関心も無感動も、誰かに従う事もヒイロは自分と似ているとシエルは思ったのだ。誰かを真似る事は正直楽なのだ。似ている気がする。けれど、それではいけないとその場に自らの意志で赴いたシエルには楸ヒイロが気がかりな存在だったのだろう。 「……されど私は癒し手です」 影時を、リリを、仲間達を癒すシエルに礼を言いながらクロムに向き合った烏が六道のお姫様とは如何だいとクロムへと声をかける。 彼等の『若大将』と烏が称する男――逆凪のフィクサードである凪聖四郎を差したそれにクロムはさあね、と笑った。彼の義兄が失恋のショックを受けたと言っていた。だが、凪は野心家だ。恋人が大切であれど、目的もまた大切だ。彼女を迎えに行くのは己の目的を果たした後で良い。 「本人に聞いてみてはどうかな」 ――準備は整いつつあるんだから。 含む様な言葉にリリが目の前に迫ったヒイロを撃ち抜いた。身体を反転させ、掌から一度離れる「十戒」が宙を舞う。ついで、「Dies irae」を持ち直し、両の手がクロスする。 「何れにせよ神にはなれませんよ――Amen!」 向けられる弾丸の数に逆凪が怯むのも無理はない。防衛戦は攻め込むよりも難しいが地形を生かした戦闘は良い方向に向けられていたのだ。 アークに就職して三年目の嶺とてその実践経験を生かす事に抜かりはない。何よりもオペレーターとして戦場を支え続けた彼女であるからこそ、仲間達の様子にはより敏感だ。 「支援致します!」 「――有難うございます大いなる魔の力は癒しの研鑽を積んだが故の賜物。……体現してみせましょう」 嶺の支援に寄りシエルの癒しは途切れる事は無い。空中に浮き上がる仲間よりも頭一つ高い位置にいた嶺が攻撃を受け運命を代償に支払うが、それでも彼女は天女だ。柔らかな笑みを浮かべた天女は強かに宙を舞い、攻撃を繰り出し続ける。倒れていく逆凪フィクサードを支援するクロムの表情に浮かぶ若干の焦りはタイムリミットを感じてのことだろう。 「裁きの焔よ、流星の魔弾よ。全ての悪しき者に神罰を!」 「うおっと、可愛い顔して中々、痛い事するね」 蒼き炎が降り注ぐ。軌跡を残す蒼は正しく彼女の祈りを込めた魔弾だ。痛みを刻む様に繰り返される攻撃にヒイロの足元が後退する。ホーリーメイガスを失った逆凪陣営は後退するしか選択肢が無かったのだろう。 ● 戦線は平行線を辿っていた。じりじりと攻め立てていた逆凪を今度は此方の番であるとばかりに攻勢に映るリベリスタ。 拳を交える事でその実力を実感できるとしていた焔は彼等の実力をその『拳』――いや、『足』を以って感じていたであろう。 炎に焦がれる少女が放ちだす攻撃の間を掻い潜り、切り刻む様に前線で血を求める鰐が、たん、と地面を蹴り天井すれすれに身体を捻る。無銘の太刀がフィクサードの体に捻じ込まれ、血が滴り落ちる。 間に捻じ込まれる様に嶺の気糸が放たれて、背後に引くその足を止める様にユーヌが不吉を占い続ける。烏の弾丸がヒイロの肩口を撃ち抜いた時、タイムリミット間近、奥の手とばかりにクロムが身体を反転させる。 「ヒイロ!」 「残念だけど、やらせないわよ。足癖が悪くってどうぞ御免なさいね?」 ふ、と焔が視界から消える。その瞬間、横に回り込んだ彼女が地面を蹴り上げる。衝撃が青年を切り裂いた。「wow」などと茶化す様に声を出すヒイロの余力も少ないだろう。 痛みを堪えて、ヒイロが叫ぶように打ち出す砲弾が社に向けて放たれる。 切り裂く様に、炎を纏った葉がニルアドミラリを手にした影時を切り裂いていく。痛みを堪えて、その身を以って守るソレ。影時を癒すシエルが祈る様にその力を振るい続ける。庇い手が外れた彼女を狙う攻撃はもちろん多かったが未だ優しげな笑みのまま、仲間を見つめるのみ。 「もうそろそろ終わりに致しましょうか――?」 後退し、逃走ルートを確保しようとするクロムの背にねえ、といりすの声がかかる。欲を露わにした鰐が獲物を求める様に牙を光らせ、笑った。 「君等の仲間に継澤イナミって子が居るだろ。紹介してよ」 いりすの言葉にクロムが顔をあげた。クロムの記憶にいりすとイナミが対面した場面はなかった。聞き及んだのか、とじ、と見据える視線にいりすは唇を小さく歪めて嗤った。 「結構強そうだしさ。何よりも獲物の名前が良い。小生が、全部まとめて頂こうと思ってさ」 「アイツなら、何れまた――」 そこまで声を漏らし、背を向けるクロムに慌てて尽き従うヒイロ。何かを思い出したように振り仰ぎ、シエルを見つめる青年が興味深そう見詰め、言葉を吐きその場を後にする。 「ああ、オネーサン、好きな食べ物? そッスね。ナポリタン」 経過した時間に、辛うじて無事であったニルアドミラリを撫でつけて影時はほっと息を吐く。 感情は光だ。無感情等唯の闇ではなかろうか。無感動に無関心、影時にとっては鏡のように思えるソレ。溜め息をついて、ただ、じっと水晶玉を見つめていた。 「僕みたいなLostLayは僕だけで十分」 さあ、帰ろうか、とその場を後にする仲間の中で一度振り仰いだユーヌがAmor mundum fecit.を撫でる。周辺を見回す嶺が念のためにと行う巡回は徹底したものであった。 無感動と無関心。 他人の心を操って、己たちの私兵にするとして――其処から考え出されるのは今までよりも規模の大きい攻撃であろうか。 「何をしても止めるのみなんだけどね」 焔がぽそりと呟いた言葉に、イナミと戦えるかもしれないね、と牙を零すいりすが楽しげに唇を三日月に歪めて笑った。 静まりかえる洞窟の社がかた、と音を立てる。逃げ帰った逆凪フィクサードを思い出し烏がくつくつと笑った。 「何れまた――」 しん、と静まり返った洞窟で彼へ返ってくる言葉はなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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