●次は微笑ましいニュースです 『……では次のニュースです。中国よりやってきたパンダのデンデンが今日も来客に愛想を振りまいております』 とある事務所のテレビより、日常のニュースが流れる。ケイオスの脅威が過ぎ去り、ただの日常が戻ってきたことを証明するかのような、変哲もないニュースである。 その画面を事務所内で食い入るように見ている男がいた。 二メートル近い巨体を事務所のソファに沈め、前のめり気味にニュースを凝視する男。剣林所属の男、諏訪 源四郎である。 そこは彼の一派の溜まり場である。仕事のない時は彼ら源四郎一派はこの事務所で時間潰し……もとい、待機をしているのだ。 当然源四郎以外の者もそこにいるわけで。そのうちの一人、猪熊 連理もまた暇を持て余していた。尤も彼の場合は暇な時間も情報収集に余念なく、パソコンや雑誌を開きシノギの元を探しているのだが。 「……連理」 「なんだよ?」 その時、源四郎がおもむろに連理へと声をかける。連理の対応はぞんざいである。こういう暇な時に源四郎が声をかけてくる時は大体ロクなことがない、用があってもまともに相手をするのが面倒くさい、といった事情がある為だ。 そのような連理に対し、続けて源四郎が告げた内容は―― 「ちょっとパンダ捕まえてくる」 ……間髪入れず源四郎の顔面に、テーブルを踏み台にした連理のフライングニーが突き刺さった。 「……で、だ。なんでいきなりそんなトンチキなこと言い出した、あん?」 数刻後、二人の大喧嘩によって荒れに荒れた事務所の中で連理は源四郎を問い詰める。 「話せば長くなるんだがな」 「おう」 先ほどまで殴り合っていた二人は差し向かいで会話を続ける。長くなる、そう切り出した源四郎に対し、正面から会話を聞く体制の連理。 「この間、キャバクラでよ」 「わかった! もうわかった! それ以上言わなくていい!」 語り始めた源四郎の言葉をぶったぎるように連理が止める。彼にとってその後の会話は予想がつくものであった。つまり、それぐらい頻繁に行われるやり取りということだ。 「まだ話し始めたばかりだぞ!?」 「どうせキャバ嬢がパンダ可愛いとか言ってたんだろ!?」 「お前……エスパーか?」 「ちげーよ! 革醒はしてるけどな!」 つまり、キャバ嬢がパンダ可愛いと言っていたのでプレゼントにパンダ捕まえてくる、源四郎はそう言い出したのだ。 至極単純な理由にして至極阿呆らしい理由ではあるが。この男は大マジである。いつも勢いで行動するのだ、真剣に。 「で、どうせ動物園に行ってフェンス乗り越えてパンダ担いで帰ろう、とか考えてたんだろ?」 「駄目なのか?」 「当たり前だ!」 至って真っ当な制止の言葉。に見えたが……続けて飛び出した言葉は、彼らが一般からははみ出した者達であることを決定的に明らかにする言葉であった。 「やるならちゃんと計画立ててやれ!」 ●ブリーフィングルーム 「……というわけで、剣林の諏訪さんが企んでるみたいですよ?」 「おい、今なんか映っちゃいけない場所映ってなかったか」 フィクサード個人の隠れ家がモロバレである。そんな事実は置いておいて『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)は飄々とした調子で依頼を読み上げ始めた。 「まずはお手元の資料を御確認下さい。今回の予知に関する大筋はそれに書いてあります。え、じゃあ私の説明いらない? まあそういわずに聞いてくださいよ」 資料だけ貰ってそそくさと去ろうとするリベリスタ達を引きとめ、一方的に説明を始める四郎。 「さて、映像をご覧のとおり今回の彼らの目的は動物園のパンダの入手です。非常に馬鹿げてますが、パンダは貴重な生き物。日本にそれほど多くない現実を考えると結構な面倒になる可能性が高いです。ほら、天然記念物ですし」 まがりなりにも借り受けるという形で日本に存在しているパンダである。そのへんの野良犬を拾って帰る、とは事情が異なってくる。 「問題のフィクサードは諏訪 源四郎とその一派。剣林のフィクサードにして脳筋です。今回の件も相当に衝動的なもののようで、面倒なことですねえ」 源四郎は以前、アークに挑戦状を送ってきた事もある人物である。実力は高く、厄介な相手である。ただしちょっと、いや凄く脳筋。 よりによってパンダを狙うという発想。困ったものである。 「今回の任務は動物園のパンダを守ることです。相手の撃破は問いません。とにかくパンダを守りきってください、はい」 作戦、パンダの防衛。字面だけではあまり緊張感がないが、事実なので仕方ない。 「また、相手はどのような手段でくるかはいまいちわかりません。そこはまあ、皆さんで臨機応変にどうか一つ」 多少雑めのミーティング。残る細かい点は資料を見てくれ、とのことなのだろう。ならば何故止めてまで説明をしたのか。したかったからなのだろう。 「ともかく、皆さんの安全は願いませんがパンダの無事は願っておきますね、ハハハ」 ……まあリベリスタとパンダ、どっちが貴重かという問題なのかもしれない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月22日(月)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●日光浴 その日は朝から陽気であった。 動物園。そこは飼育された動物達が檻の中にて客に愛想を振りまいたり、我関せずで生活したりする、日常から乖離した空間である。 のどかなその空間、家族連れに恋人達。中には一人で訪れる者。様々な人がその空間には訪れている。それを出迎えるのはまた、様々な動物達。 その中でも一際目立つのは、正面ゲートの前に存在するパンダである。 白黒のその生き物は愛らしさを感じさせながら、タイヤを転がし笹を齧る。その暢気な生き物を見つめるものは多数。 「パンダって凶暴なんだよねー」 暢気な声で、パンダの様子を眺めているのは『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)。 「二回ぐらい戦ったことあるー」 日常において、パンダと戦う事はない。彼女がリベリスタであるからこそ、パンダとの戦いなどという貴重な出来事に出会うのだろう。だがあまり関係ない気もする。 「凶暴とか置いておいたとしても、本物貰っても流石に困るでしょ……」 いくらパンダ可愛いって言っても、と『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)もぼやく。 「持ち帰っても餌の笹で足が付くのだけれど、どうするのかしら」 同様にパンダの様子を眺める『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)もまた、浮かぶ疑問を口にする。 三人はそれぞれ至って普通の私服でパンダを眺めている。だが、別段休日に白黒の生き物を見に来たとか、そういうわけではない。 彼女達がここにいるのは任務である。間違ってもそこにいる笹を齧ってる奴を眺める為などというわけではないのだ。多分。 このパンダを狙っているフィクサードがいるのだ、迷惑なことに。 彼らがいつ仕掛けてくるかわからない為、彼女達は仲間達と手分けして監視の任についているのだ。昼の部として。 ……だが。 「……暇なのだわ」 エナーシアがぼやく。スケッチブックを片手にパンダのほうを向いた彼女であるが、注意深く周囲への目配りは忘れない。 だが、彼女が探す気配は一向に見えない。この時間ではないのだろうか。のどかな空気と共に時間だけが過ぎていく。 「……まあ、パンダを眺められるという役得はあるけど」 ウェスティアがぼそり、と呟いた。 何事もなくパンダは笹を食み、タイヤで遊ぶ。リベリスタ達はパンダを眺める。 かくして時は進んでいく。 ●夜に溶ける黒と白 ――その時は、夜の帳が下りてから訪れた。 夜闇の中、多数の人物がパンダの檻の周りにたむろしていた。 その様子は動物園の従業員にはとても見えない。そもそもそれぞれの個性をアピールした服装である彼らが夜間に飼育作業をしていたら動物達もびっくりである。 「しかし、パンダが欲しいらしいな……ぬいぐるみか何かで代用出来んのか」 人物の一人、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が呆れ気味に呟く。 よりによって生パンダを狙う、などという事を行うからこのような面倒が舞い降りることとなっているのだ。深夜に動物園に忍び込んでパンダを守るなどと。 昼とは入れ替わるように男衆が今は動物園の中へと忍び込んでいる。セキュリティや巡回等もいそうなものではあるが、その心配はない。電子系は沈黙し、警備や巡回のシフトも把握しているからだ。 それも『無銘』阿久津 甚内(BNE003567)がその技術を利用し、日中のうちにそれらの情報を抜き取り、システムを掌握している為。 「通報とかされても面倒だしー」 へらりと笑う甚内である。だが、その時『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が眉を顰めた。 「……ならばこの迫るエンジン音はなんだ?」 狼の耳が備えた鋭敏な聴覚が、異変を感じ取ったのだ。 甚内の情報が確かならば、警備や輸送等の車両が来る予定はない。だが。ならばこの、大型車両の立てる音は何か。 「――っ! 来るぞ、全員備えろ!」 龍治が手にしたAFへと叫ぶ。数刻の間の後、ゲートが轟音を上げて吹き飛んだ。 巻き上がる土埃と園内を照らす光。それが凄まじい勢いでゲートを打ち壊し、パンダの檻へと迫ろうとしていた。 フィクサード達の操る大型トラック。その物体の正体である。 このようなシンプルな打ち壊しは、盗難においてポピュラーな手段である。車両で突っ込む、重機で打ち壊す。そういった手法だ。 だが、パンダを奪う為にそのような事をする奴など聞いた事はない。そもそもパンダを奪うという行為が聞くことがないわけなのだが。 唸りをあげ、ゲートに続いてパンダの檻も打ち砕こうと迫るトラック。だが、それは果たされることはなかった。 「『暴力で解決するのが一番』と考えそうなタイプのやりそうな事ね」 トラックの前に立ち塞がったのは、エナーシアであった。龍治の連絡を受けた彼女は、誰よりも早く、正確に現状を把握したのだ。何故ならば、彼女はこれを予測していたのだから。 エナーシアの手にしたPDWが火閃を吐き出した。夜闇を裂く銃撃は、正確に目標を打ち抜く――車両のタイヤとフロント。鉄の塊の進行を阻害する射撃であった。 「おいおいおい、待ち伏せかよ!?」 「ったく、最近の動物園では武装が許可されてんのか!?」 火花を散らし、地面をボディでこすりあげるトラックから次々と乗員が飛び出してくる。転げ落ちるように出てきた男達。誰一人として堅気の雰囲気を持った者はいない。 その中でも特に目立つ二人。赤毛の巨体、諏訪源四郎とカジュアルスーツの切れ者風、猪熊連理。今回の襲撃の主犯であり、剣林の凄腕でもある。 「……って、おい連理。これ警備員じゃなくね?」 「ああ――こりゃあれだ、警備員よりタチの悪いアークだぞ、クソ」 「しかも何人か見た顔もいるしな――俺、パンダは欲しいけどリベリスタはいらねえぞ」 現状を即座に把握する源四郎達。完全にバレていた、雑な作戦。勢いで押し切ろうとしていた目論見は脆くも崩れ去り、パンダを運ぶ足も今完全に横転し、とても使えそうにない。 「諏訪源四郎! どうやってパンダを盗み出すつもりかと思ったら、随分と雑な手段だな!」 パンダの檻の側に立つ立ち木の上より飛び降りてきたのは『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)。日常的に木の上に住む彼はやはり、木の上がよく似合う。ホームレス。 「チーッス、強奪阻止の為に集められた俺等、可哀想だと思いませんか!?」 出鼻を挫いた事に若干気分が晴れたのか、『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)がニヤニヤしながら声をかける。 「ぐぬぬ」 「ぐぬぬ、じゃねえよ。どうするよ?」 足は奪われ、前方にはリベリスタ。いきなり見事な計画倒れとなったフィクサードが取る行動は。 「っしゃ、じゃあ最初の予定通りで行くか」 「仕方ねえなあ……」 肩を回しゴキゴキと言わせ、源四郎が前へと踏み出す。最初の予定とはつまり。 ――パンダを担いで逃げる、である。 「いくぞお前らぁ!」 源四郎の叫びと共にフィクサード達が一斉に散開し、駆け出した。目指すは前方にて我関せずと優雅に笹を食むパンダの檻。 ――だが、その世界の色が塗り替えられた。 凛、とした静寂が響く。俊介が手にした刃――鬼より授かりし『花染』が、鞘より抜き放たれると同時に、世界から空間が切り離されたのだ。 この陣地に存在するのは、革醒者達のみ。他の余計なギャラリーも、動物たちも。当然目標たるパンダも存在していない。俊介の手によって、それらはこの領域に存在することを許されていない為に。 「……やってくれるじゃねえか」 大目標を達成する手段を絶たれ、源四郎が凶暴な笑みを浮かべる。 それは完全に、先ほどまでの彼とは違う。戦う事に完全に意識が切り替わった証拠。 「源四郎ちゃん、久しぶりー♪」 甚内が笑みを浮かべ、愛用の矛を手に前へと立ち塞がる。 「源四郎ちゃんがこの期間でどう変わったか楽しみー♪」 「はン、お互い様じゃねえの」 源四郎もそれに答える。 「こうしてまた出会ったも何かの縁――存分に拳を交わそうではないか」 葛葉も静かに拳を握り、構える。その目は連理を真っ直ぐと捉えていた。 「仕方ねえなあ……お前ら排除しないと目的果たせないし、やるか」 連理もまた、手袋を締めなおし。思考を戦闘用へと切り替えていく。 「行くよ、アンタレス」 檻の前へと立ち塞がっていた岬が、相棒たる『アンタレス』を構え…… 「ボクが、ボク達がハルバードマスターだ!」 高らかに叫び、相手に、そして自らに言い聞かせ、駆け出した。 それを号令とするかのように、戦いは始まった。切り取られた領域の中で、使命と、暴力と、そして少しのイカレた事情が交錯する事となったのだ。 ●暴力動物園 ――開戦した。そう思った時にはすでに戦いは行われていた。 岬の声が響くとほぼ同時に、剣林の構成員の一人が鮮血を噴き出したのだ。 「――――!?」 突然の事に、自らに何が起きたか判断が出来なかった。何故、自分が突然負傷したのか……そして、先ほどまで立ち木の側にいたはずの男が、何故か彼の側にいるのか。 今、この場にいる者達の中で誰よりも早いのは、鷲祐であった。開戦の合図と共に駆け、切り裂くなど彼にとって造作もないことである。 「……はン、すげえな!」 その圧倒的速度に、思わず源四郎が感嘆の声を上げる。実際、この場にいる者の中でも彼の速度は次元が違う。 「怯んでんじゃねえよ! こいつらブチ倒してさっさとパクって帰るぞ!」 連理が構成員達を一喝する。その怒声に、構成員達の目の色が変わった。より攻撃的に、眼前のリベリスタを排除しようという意志に満ちた目へと。 だが、構成員達へと次々とリベリスタ達が襲い掛かる。 「先にはいかせないんだから!」 ウェスティアが手にした黒い装丁の本を開き、白いページをめくり、魔力を練る。練り上げられた魔力は、紡がれていき――黒い鎖が、構築される。 今まで幾度となく紡がれたその鎖は、彼女の意のままにうねり――構成員達へと襲い掛かる。巻き付き、縛り上げられた構成員は動きを封じられ、その進軍を阻害される。 また、岬の振り被った斧――どこか禍々しいその刃に、漆黒のオーラがまとわりつく。酷くマッチしたその見た目。その禍々しいビジュアルは――その見た目に違わぬ、破壊を生み出す。 「くらえー!」 戦斧一閃。自らも蝕むその瘴気が構成員達へと津波の如く押し寄せ、その身を朽ちさせていく。 「応戦! 応戦しろ!」 構成員達が叫び、動ける者が銃撃を開始する。それぞれ手にした拳銃より銃弾を撒き散らす。いかに取り巻きとはいえ、彼らは武闘派の剣林の一員。よく訓練させたその射撃は、次々とリベリスタへと突き刺さり、鮮血を撒き散らす。 だが、その傷もすぐに塞がっていく。俊介が刃を構え、術を行使する。吹き付ける息吹は、リベリスタ達の傷を洗い流すように消し、癒していくのだ。 だが、それ故に癒し手は戦いにおいて無視されることは少ない。例え細かい事を考えぬ性格であろうとも、戦いに慣れたものであればあるほど癒し手の脅威は感覚で理解出来るのだ。 「っと、先にリタイアしておいて貰うか!」 源四郎とて、例外ではない。背中に背負った荷物入れの中より一本の鉄パイプを取り出した源四郎。そのパイプが……炎に包まれる。 「食らえ! イグニートジャベリンッ!」 絶叫。いい歳した大人による必殺技の絶叫である。叫ぶと同時に炎に包まれた鉄パイプが俊介へと投げつけられた。 ――名前はともかく、その一撃は馬鹿にならないものであった。宙を舞う間に、媒体とした鉄パイプが高熱で溶解していく。それはもはや、高温の炎と溶けた鉄の塊である。 「ちょっと洒落にならないわね、それは」 俊介との間に立ちはだかったのはエナーシア。高温の塊をその身で受け止め、肉の焼ける音と焦げる煙が辺りに満ちる。だが、その負傷を意に介さないかのように……否、意志で押さえ込み、彼女は銃を敵へと向ける。 多数の銃声が響き、構成員達へと叩き込まれる。銃弾は構成員達の手を、足を撃ち抜いた。 執拗なまでの構成員への攻撃。相手の目的を阻止するには物量の差をなんとかしなくてはいけない。だからこそ、構成員から打ち倒していく狙いであった。 当然源四郎達も手をこまねいているわけはない。故に、彼らに対しては。 「今度は鉄パイプの目でも見えるようになったかと思ったんだけど、仲間になった鉄パイプちゃん燃え尽きちゃったよね、友達を大事にしない悪い子ー♪」 源四郎を煽りつつ、甚内が襲い掛かる。彼が自由にならぬよう、立ち塞がる壁として。 手にした矛を突きつける甚内。ひたすらに研ぎ澄まされた刃は正確さを持って源四郎の肉を抉る。だが、それをものともしないかのように爆炎に包まれた鉄パイプが振り回される。 お互いの狙いは正確で、幾度とも手傷を負っていく。タフネスに差はあるが、リベリスタには優秀なバックアップがある。それによってようやく戦線を支えている状態であった。 一方連理もまた動きを抑止されていた。葛葉が張り付き、その拳を振るい続けているからだ。 冷気に包まれた拳が連理を打ち付ける。時に凍りつき、足が止まる。だが、葛葉の側も連理の仕掛けた『因縁絡み』によって絡め取られ、精彩を欠いた一撃を放つ羽目になっていた。 「猪熊、今更だが俺はもう少しお前が冷静なタイプだと思っていたぞ」 「ああ、馬鹿を動かすには馬鹿なりの理屈が必要なんでな、仕方ないだろうが!」 どこか雑談めいたやり取りをしつつ、お互いに技を繰り出し傷をつけていく。 お互いに全力で戦う最中――古風な銃声が鳴り響いた。 「こんな事に付き合わされる構成員共は確かに不幸だろうが……」 その名の代名詞とも言える火縄銃が銃声を響かせ、放たれた銃弾が宙に舞う。 「――馬鹿の下に付いたのが、運の尽きという奴だ」 銃弾は戦場に降り注ぐ。一射多弾であるかのように、多数の弾が構成員を撃ち抜き、その身を傷つけ、地面に打ち据える。 ブロックと殲滅。それは適切に機能し、フィクサード達の戦力を削って行った。 お互いに傷を負い、戦いは続いていく。構成員が一人、また一人と倒れていき。もし今陣地が破られることがあろうとも、パンダの奪取には相応の困難があるであろうというその時――ある一言が、場の空気を塗り替えた。 「いい加減にしろよ、馬鹿馬鹿しい!」 俊介が、叫んだ。 「諏訪サンっての、聞け! 普通本物のパンダ貰っても女って喜ばねえからな!」 ……その一言で、諏訪の――そして戦場の動きが止まった。 ●生パンダ不要論 「――マジで?」 寝耳に水、といった風に源四郎が聞き返す。 「マジで?」 大事な事なので二度聞き返した。その視線はリベリスタ達の……特に女性陣へと向いている。 どうやら女性の意見が欲しかったらしいが…… 「本物貰ってもさすがに困るでしょ……」 今更すぎる言葉に、うんざりとした様子でウェスティアが答えた。 「パンダ可愛いって言ってたぞ?」 「本物はむしろ困る! いやこれマジで、本気で!」 天然記念物である。ましてや盗品である。一発でブタ箱なもの貰っても実際困る。間違いない。 「諦めて引いてくれたらキャバ嬢が一番喜ぶプレゼントの品教えてやるから!」 俊介の叫びに、源四郎が困った顔で頭を掻く。 「でもなあ……」 「おい源四郎」 その源四郎の様子に、連理が耳打ちする。 「それでイモ引いとけ」 連理は状況を適切に判断していた。実のところ、状況的にはそれなりに厳しいのである。ましてや構成員の無駄遣いであるこの作戦、連理としては過剰に消耗したくないのだ。 別に勝てないと思ってはいないが、アークを相手にこのまま続けるのは得策ではない。ましてや、帰っていいと言ってくれたのだから。 「でもパンダ……」 「いいか諏訪サン」 俊介が、そんな様子の源四郎に言葉を続けた。 「キャバ嬢が喜ぶのはブランド物のバックか金かアクセサリーだ!」 即物的すぎる。だが、事実でもある。客から貰うプレゼントとしては適切であろう。少なくとも生パンダよりは。 「……マジで?」 「マジで! あの娘欲しがってんのブランドバッグだからァッ!」 鷲祐が絶叫した。――昼間、見張りではない時間にわざわざ彼は調査に行ったのだ。欲しいものの聞き取り調査に。初対面で欲しいもの聞いてくる変な人、の謗りを受けながら。 「…………」 「…………」 結果から言うと。源四郎達はすごすごと、負傷した構成員達を連れてそのまま帰っていた。 プレゼントにならないのなら、別にパンダはなくてもいいのだ。ついでにいえば、手打ちという形であればお互いの名誉も傷つかない、と判断したのだろう。 ――源四郎個人の名誉は別に回復していないことに関しては、触れないほうがいいのだろう。 「守ってやったぞ、舐めんなよー!」 陣地の解けた動物園、いつものように動物達の鳴き声が響く場で岬がパンダに勝ち誇ったかのように宣言する。 一方パンダは暢気に笹を食んでいた。リベリスタが必死に戦っている間も、平常運転だったのだ。実際無関係だったわけだが。 「なんか……凄い疲れた気がする……」 ウェスティアのぼやきが、夜の更けた動物園に響いた。 ――大山鳴動してパンダ一匹。 結局この一件は両陣営に無駄な疲労感のみを残して、終結する事となったのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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