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恋愛成就は伊達じゃない

●噂話は忍び寄る
「ねえねえ、あの噂知ってる?」「あれでしょー、本当なのかな?」
「やだ、ナイナイ。今時オカルトだって」「だよねー」
「でもさ、隣のクラスのともえ、それで上手く行ったって」
「え、マジで? ちょっとそれ詳しく」「えー何さっきと言ってる事違うしー」
 きゃいきゃいと、姦しくも騒がしい放課後。とある廃ビルの入り口で少女が祈る。

「きゅーぴっど様、きゅーぴっど様、どうかいらして下さい」
 その願いに光を帯びて舞い降りるのは白金色の髪の天使。
 青く澄んだ瞳は何処か神々しくさえあり、甘い声音で少年は囁く。
「僕の事を呼んだ? なら、願い事を言うと良い。君の恋、僕が叶えてあげる」
 優しげに微笑む仕草に邪気は無く、純白の翼が一度、ばさりと羽ばたいた。
 その願いは叶う。きっと叶う。きゅーぴっど様の力があれば。
 けれど――

「どうして、他の男と口を聞くんだ」
「……え?」
「嫌だって言っただろ、お前は俺とずっと一緒に居れば良いんだよ」
「え、でも、そんなの無理だって。私だって学校行かなきゃ」
「そんなのどうだって良いんだよ! 畜生、こんなに好きなのにどうして伝わら無いんだ!」
「え、え、待って、高志君何かおかし」
「死ぬしかないな」
 けれど、その恋は本当に、彼女の望んだ恋だろうか。

「……――え?」
「死ぬしかない。そうだよ、そうすればずっと一緒に居られる
 他の男を気にする事もない、二人は永遠に離れないで済むんだ!」
「じょ、冗談……だよね?」
「そうだよ何で思い浮かばなかったんだ。ごめん瞳、お前が死んだら俺も死ぬから!」
「ちょ、やだ、やめてよ高志君、ぐっ、がっ、が……ごほっ」
「愛してる、愛してるんだ! 瞳! 瞳いぃぃぃ!!」
 愛情と憎悪は表裏一体。突然生まれた愛情は、突然憎悪へと裏返る。
 噂話は決して告げない。その結末を。広がって行く。毀れて行く。溢れて行く。捻じ曲がって行く。
 悪意は忍び寄る、そっと当たり前の日常に。一滴落ちた毒の様に。

「きゅーぴっど様、きゅーぴっど様、どうかいらして下さい」

●恋に恋するお年頃
「最近、この辺で恋愛を成就させてくれる『きゅーぴっど様』って噂話が広がっているの」
 モニターに写るのはとある地方都市周辺の地図。その一部が赤くなっている。
 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はほんの僅かに眉を潜めそれを眺めると、
 改めてリベリスタ達へ向き直る。テーブルに置かれたプリントには、白金色の髪の美少年の顔写真。
「これが、きゅーぴっど様。フライエンジェのフィクサード……典型的な、愉快犯。
 厄介なアーティファクトを手に入れて、喜んで使ってる小物」
 普段にも増してイヴの発言は辛辣である。イヴとて恋に恋するお年頃。
 多少なりと共感する所もあれば、今回の犯行はどうもその逆鱗に触れた御様子。
「アーティファクトの名前は、偽心の眼。形状はコンタクトレンズ。攻撃能力は無いんだけど……
 人の心の内に特定の感情を強制的に植えつける、その感情はとても強くて暫くは行動を支配される位」
 イヴの声から何か段々抑揚が無くなって行く。どうも話している内にまた機嫌が悪くなって来た様で。

「……壊して」
 続いた言葉はその小さな体躯から良くぞここまで、と言う程に有無を言わせぬ迫力を秘めていた。
「目を合わせると、感情を付与される可能性があるから危険。でもこのまま放っておくとあちこちで被害が出る」
 偽心の眼の効果は凡そ二週間。時間が経つに連れその感情は強化されて行く。
 けれど強過ぎる感情は、その負の側面をも喚起する。不安、嫉妬、激昂、憎悪、そして殺意。
 バランスの取れない不自然な恋愛は須らく自然な結末を迎える。つまりは破局と崩壊である。
「他人の恋愛を嘲笑う酷いアーティファクト。許せない。必ず壊して来て」
 イヴは繰り返すと、リベリスタ達を送り出す……と、その最中にふと立ち止まる。
「偽心の眼はあくまで後付けの感情の付与。
 ……皆の中に同じ性質の強い気持ちがあれば、これを拒めるかもしれない」
 毀れた呟きは幼い彼女故の希望的観測か。いいや、それは誰もが胸に秘めたる希望である。
 恋に恋するお年頃、夢見る少女に理屈など通じない。それはアーテフィファクトにすら抗える筈。
 抗えないとおかしい。恋する想いは絶対無敵なのである。

 恋愛成就は、伊達じゃない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月05日(火)23:13
●16度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 6月なので恋愛をテーマにバトルです。なんでこうなった。

●依頼成功条件
偽心の眼の破壊、被害者2名の生存

●きゅーぴっど様
 本名不明。フライエンジェのホーリーメイガス。金髪碧眼の美少年。外見年齢は中学生ほど。
 一見した感じでは天使と言われても納得してしまう程の美貌と独特の雰囲気の持ち主。
 性格は酷く歪んでおり、殺す殺される斬った張ったより、人が悩み苦しみ苦痛に喘ぐ姿を見るのが好物。
 何より自分の身が大事。自分の為に他人を消費する事を当たり前と捉えており、
 自分が結び付けたカップルの破局の場面以外では保身の為身を晦ましている。
 能力的には神秘攻撃・回避特化型。耐久力は見た目通り。
 非戦スキル、気配遮断、透明化を所有。
 ホーリーメイガスのスキルは一通り使用可能。特殊なスキルは下記の2種類。

・偽りの恋:神遠単、偽心の眼の持つスキル。
 目を合わせた相手に恋愛感情と庇護欲を植えつけます。命中修正大【状態異常】[魅了]
・EX恋愛無制限:れんあいアンリミテッド。神遠全、偽心の眼の持つスキル。
 特定の恋愛対象を持たない全対象に強い恋愛感情と庇護欲を強制します。
 命中修正大【状態異常】[呪い][魅了]

●偽心の眼
 ぎしんのまなこ。コンタクトレンズ型のアーティファクト。
 強度はそれほど強く有りません。
 破壊されるとこのアーティファクトで植えつけた感情は消失します。
 また、装着したまま破損すると当然の様に装着者は失明します。

●被害者
 結城瞳(ゆうき ひとみ)15歳。女。被害者であり共犯。
 真面目で内気で臆病な少女。けれど決して純粋でも純真でもない今時の女子中学生。
 告げられぬ想いを『きゅーぴっど様』に叶えて貰った為、
 その想い人である河田高志に夕暮れの公園で絞殺される予定。

 河田高志(こうだ たかし)15歳。男。被害者。
 運動も出来るし勉強も出来ると言う、クラスの女生徒に密かに人気のある男子中学生。
 仄かに想っていた相手が居たが、偽心の眼によって偽りの恋愛感情を植えつけられ、
 その相手との関係は修復不可能な状態。夕暮れの公園にて結城瞳を絞殺予定。

●戦闘予定地点
 30m*30m程度の広さの夕暮れの公園。入口は一箇所。
 障害物は雑多に生えた木々と滑り台位。周囲は2m程のフェンスです。
 すぐに向かえば河田高志が結城瞳を呼び出した場面に遭遇します。
 その後数分ほど揉めた末、高志は瞳を絞殺します。
 この際きゅーぴっど様は透明化と気配遮断を使った上で公園の木陰に隠れています。
 2人が居るままの状態で戦闘が開始された場合きゅーぴっど様は適当に場を掻き回し、
 瞳と高志を盾に逃げようとします。瞳が居る限り高志は逃げようとはしません。
 2人を逃がそうとした場合、きゅーぴっど様は目一杯場を掻き回して逃げようとします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
クロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)
デュランダル
緋袴 雅(BNE001966)
デュランダル
アイシア・レヴィナス(BNE002307)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
ソードミラージュ
架凪 殊子(BNE002468)

●恋に恋するお年頃take2
 恋心を弄ぶ人間は許せない。
 それは男女を問わず、恋愛に一定の意味を見出す人間にとっては共通の見解であるらしかった。
「恋愛成就を願ったり、おまじないをする事が悪いとは言えませんが
 悪意で想いを捩じ曲げられてしまうのは酷すぎますわ」
 公園を望む物陰で『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)が不満そうに口火を切れば、
「恋っちゅうもんはな、幸せになるためにあるもんぜよ」
 打てば響く様に、坂東・仁太(BNE002354)が彼なりの恋愛観を静かに呟く。
「全くです。恋愛を弄ぶ存在とは、許し難い」
 それに大きく頷くのは『シャーマニックプリンセス』緋袴 雅(BNE001966)
 昨今想い人が出来たばかりの彼からすれば、件のきゅーぴっど様は冒涜的な存在である。
 手には銃剣を構え、公園を見やる眼差しには剣呑な物が宿る。
「好きって気持ちは、他人に強制されるものじゃない……!
 何があっても、あたしはそんなの許さない!」
 一方『らぶ・はんたー』中村 夢乃(BNE001189)は意気も荒く明快に怒りを燃やす。
 恋に恋する青春まっ只中。本物の恋愛を追い求めるからこそ、偽物の恋愛への嫌悪は尚更強い。
 怒りに燃える視線はきゅーぴっど様の出現を逃すまいと、公園内の虚空を泳ぐ。
 四者四様、恋愛観は様々であれど、その意見は一致する。恋愛を弄ぶ輩は是、須らく悪であると。

 その対岸では『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)が己の気配は殺しながら、
 瞳を細め気配を探っていた。表情はいつも通りの正体不明な微笑を称えるも、
 何処と無く機嫌が悪そうなのは、他の人々とは少々趣が異なる。曰く――
「ボクとキャラがちょっと被ってる感じなのがムカツクよね」
 一人称が僕、見た目中学生で中性的、そしてフライエンジェ。
 性格や口調も似ていると言われれば、似ていると言えなくもない。アイデンティティの危機。
 それは恋愛観とかそんな物より都斗にとっては遥かに大きな問題である。
「まあ、恋愛自体には私も余り興味が無いのだがな」
 そう口にしたのは『月刃』架凪 殊子(BNE002468)、サングラス越しに僅かな呆れが浮かぶ。
 彼女が愛するのはあくまで速さである。速いは正義。速ければ何でも出来る。スピード万歳。
 しかしそれは男女間の恋愛とは全く一切関係が無い。
 要する所、2人とも恋愛沙汰は縁遠い存在である。
 逆の岸との温度差が酷いが、それはそれ。目的が同じであれば特に問題など無い――筈である。

「ねえ、話って何かな?」
「ああ。あのさ――……あ、いや、」
 木陰では結城瞳と河田高志、お互いに被害者であり、加害者でもある2人が、
 今まさに修羅場直前……かと思いきや。
 公園に滑り込む影に高志の方が気付き、バツが悪そうに言葉を濁す。
 奇しくもその動きを抑制したのは『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)、
 そして『怪人Q』 百舌鳥 九十九(BNE001407)である。
 目立つスキンヘッドにサングラス、そして見たまま怪人のペア。
 視覚的に必要以上に訴える2人は恋愛に盲目的になっている高志ですら、
 言葉を続ける事を躊躇わせる程の存在感を以って、公園に君臨していた。
 気まずい雰囲気が暫し流れる。一度他人に気付くと重い話は切り出し難い。
「……ん、向こうだ」
「ふむ、確かに居るみたいですな」
 ぼしょぼしょと喋りながら蠢く2人にあっさりと我慢の緒が切れた高志が声をかける。
「……あのさあ」
「見え見えだ、そこっ!」
 取り込み中なんだけど、と続けようとした瞬間、フツの手から符が放たれる。
 思わず追った目線の先、ひらりと舞い降りるのは白い翼を持った天使の様な少年。
 つい先ほどまでその場所には何も居なかった筈。
 驚き焦る高志を他所に、後ろから瞳の声が上がる。
「え、きゅーぴっど……様?」

 きゅーぴっどさま?その単語を唇に載せる暇も無く、
 フツと九十九、二人を一瞥した天使が、大仰に嘆きの息を吐く。
「全く――人の恋路を邪魔する奴は何とやら、って言葉を知らないのかい。
 ねえ、そうは思わない。瞳?」
 最初から――フツと九十九が近付いて来た時点からそのつもりだったのだろう。
 咄嗟に高志に駆け寄ったフツを他所に、きゅーぴっど様が佇む瞳に声をかける。
 驚きながらも重なる視線。不思議な虹彩が眼を覆い、少女の価値観を捻じ曲げる。
「その通りです、きゅーぴっど様をいじめないで!」
 その声を合図とするように、偽恋蔓延る公園へ、リベリスタ達が雪崩れ込む。

●偽りの恋
 しかし、事態は思いの外厄介な状況へと変転を重ねる。
「このっ! やめろっ! 瞳に何するんだ!」
「うるさいっ、暴れないでそこで見てろって!」
 暴れる高志を抑えつけ、悪戦苦闘しながらもロープで縛るフツ。
「やめてっ! やめてよっ! 何できゅーぴっど様が――」
「目を醒ませ! あれがそんな御大層な代物か!」
 他方やはり滅茶苦茶に抵抗する瞳を、傷付けずに抑え付けると言う苦行に殊子の手が奪われる。
 意識を奪っても良いならまだ容易かっただろう、
 一般人とは言え、動きだけを抑えるとあっては両者互いに身動きが取れない。
「危ないから目を瞑って伏せて!」
 雅が大仰なフォルムの銃剣を構えるも、瞳がきゅーぴっど様を庇おうとする為に撃つに撃てない。
 そうして空いた時間はそれほど長くは無い物の、隙と呼ぶには十分に過ぎた。
「やれやれ、騒がしいったらない。僕はもう少し静かなのが好きなんだけど」
 その様を見て余裕ありと見たか、羽ばたく翼より降り注ぐ純白の閃光。
 巻き込まれた何人かの動きが目に見えて悪くなる。
「フライエンジェでホーリーメイガスでフィクサードな天使さま。面白みがないなぁ」
 退路を封じる様に回りこんだ都斗が挑発交じりに天使の息で味方を癒すも、
 まるで映した様に、きゅーぴっど様が嘲笑う。
「何、似た様な格好に似た様な技、僕のファンか何か?」
 ぱちぱちと、視線と視線が交差し火花を散らし合う。確信する。こいつとは相容れないと。

 とは言え、リベリスタ達とてやられてばかりはいられない。
 殊子が瞳を組み伏せると先ずは九十九のショットガンが轟音と共に撃ち放たれる。
「そりゃあ他人の人生めちゃくちゃにするのは楽しいでしょう。
 私もあなたがどうなろうと知った事じゃないですし、人の事は言えません」
「わっしの目の黒い内は、こがな非道は許さんぜよ!」
 続くは仁太のヘビーボウ。狙いは互いにきゅーぴっど様の背中の双翼。
 時間差で放たれた精密射撃に、きゅーぴっど様の片翼が血出染まる。
「――っ、人の自慢の羽に……!」 
 だが、それでは飛行を封じるまでには至らない。
 自身が傷付く可能性が生まれた事で、きゅーぴっど様が苛立たしげに大きく退く。
「させないっ!」
「行かせませんわ!」
 これに追い縋るは夢乃とアイシア。偶然にも、迫る二人の少女に少年は笑みを描く。
 フツのみならず、この場を訪れたリベリスタ達の実に半数はサングラスを着けていた。
 これは偽心の眼を使うに当たり大きな障害となっている。
 視線が合っていのるかいないのか、きゅーぴっど様の側からは分からないからである。
 しかし当然例外も居る。視界に入っても目線を足元に固定しているアイシアは、
 彼にとっては格好の獲物以外の何物でもない。
 彼女は彼女なりに対策を講じていた。しかしこの場合、その不自然な目線の動きこそが――

「じゃあ、君が僕を守ってよ」
 踏み込んだ際、夢乃の盾が叩き込まれるも、それはこの際承知の上。
 痛みに顔を顰めながら、掬い上げる様に目線を向ける。アイシアが慌てて顔を背けるも、遅い。
「あ――」
 心臓が高鳴る、価値観がほろほろと崩れて行く、彼女にとっての優先順位が切り替わる。
 見上げる目線に庇護欲が刺激され、息が出来ない程に苦しくなる。
 この人は自分が守ってあげないと駄目なのだと、そんな幻想が思考を覆う。
「――今の内に、逃げて下さいっ!」
 アイシアのデスサイズが振り下ろされる。直ぐ傍に佇む夢乃へ向けて。
 一度、二度、重ねられたオーララッシュは鎧と盾を携えた彼女をも容易く弾き飛ばす。
 それを一瞥し、少年が更に退く。高志へ猿轡を噛ませたフツが走り寄るも、
 攻撃に集中していたアイシアの連撃は夢乃の体力を大幅に削り取っていた。
 傷癒術によってこれを癒す分、どうしても行動が後手に回らざるを得ない。
「絶対に、逃がさない!」
 その間隙を縫って、雅が漸く射線を通す。
 気の弾丸を迸らせながら走り寄り、一気に彼我の距離を詰める。
 だが、アイシアがこの進路をブロックする。彼が得意とするのは近接距離。
 けれどその位置までが――遠い。

「さて、それじゃお言葉に甘えようかな」
 その様を見てきゅーぴっど様がほくそ笑む。翼を広げたのは逃げる準備か。
 九十九がこれを追いながらショットガンを構える。先の閃光による痺れが残る。
 銃身が定まらない。けれど――当てる。トリガーを引こうとしたその時。
「何もできないような一般人を能力使ってどうにかしてもねぇ。
 キミみたいなフィクサード騙したりするほうが面白いよ」
 回復も切って少年の後ろに回っていた、都斗が嘲る様に笑う。
 放たれた気糸が突き刺さる。癒し手であると、油断していたきゅーぴっど様の動きが止まる。
「お前、まさか――」
「騙される方が、馬鹿なんだよ」
 その囁きは密やかに。偽りの天使は敵すら騙す。築かれたその時間は――致命的だった。
「きゅーぴっど様、でしたかな?」
 呼ばれ、狼狽した少年はそちらを向く。向いてしまう。
 普段であれば無かっただろう大いなる失敗。それを九十九は、逃がさない。
「偽りの愛など、私のカレー愛には到底及びませんな」
 放たれた弾丸が、愛の天使を偽った、美しい少年の瞳に降り注ぐ。

●恋愛成就は伊達じゃない
「うわああああああっ! 目が! 僕の目がっ!」
 混乱の極地とも言える体で叫ぶその姿を見て、先ず瞳が正気を取り戻す。
「え、あれ、え?」
「あれが願いを叶えると嘯いたきゅーぴっどとやらの本性だ。
 天使などではない、醜い、ただの人間だよ」
 抑え付けていた殊子が呟き、ナイフを抜いて真っ直ぐに走り抜ける。
「あの男も必ず元に戻してやるから、どう謝るか考えておけ」
 目線を一瞬高志に向けたか、思考を一気に戦闘に切り替える。
 放たれるソニックエッジが飛行しかかった少年を撃ち落す。
「これも報いじゃけぇ、神妙にせんかい!」
 更に集中を経た仁太の精密射撃が今度こそ、白い翼を正確に射抜く。
 けれどきゅーぴっど様は癒し手である。油断は出来ない。ここで一気に畳み掛ける。

「お、乙女の純情をっ、何だと想ってますの!」
 平常心を取り戻したアイシアが激昂する。当然だろう、彼女とて恋想う乙女である。
 叩き込まれたオーララッシュにきゅーぴっど様の体躯が跳ねとぶ。
「ごほ、そんな、僕が、どうして」
 悪びれも無くそう言う様に、いっそ憐れみすら憶えフツは手元の符を握り締める。
「人の心を弄ぶ様な奴にはな、仏罰が落ちるって昔っから決まってんだよ」
 掌から羽ばたいた鴉が弧を描き、見るも無惨に成り果てた少年を射抜く。
 そうしてゆっくりと。崩れ落ちようとしたき彼の頭部へ押し当てられるのは銃剣の銃口。
 冷淡を通り越して非情に到った眼差しに、許しの色は欠片もない。
「討たせて貰うよ。君はノーフェイスよりも質が悪い」
 引かれるトリガー。止める者は誰も居ない。
 最後に何か言おうとした、彼の言葉は強制的に閉ざされる。
 銃声一過、骸一つ。弾丸の音はただ冷たく。高く。響き渡る。

「……もう話かけないでくれ」
 リベリスタ達の行動を目の当たりにし、完全に怯えてしまった瞳へ高志が言い放つ。
 ロープを解かれ、猿轡を解かれた彼は神秘を目にしてこそいない。
 けれど、大体の事情を察していた。彼の胸の内を満たしていた、偽りの恋の存在を。
 感情は消えても記憶は消えない。想いは戻っても、過ぎた時間は戻らない。
 瞳に感けていた間、自分の本来の想い人にどれだけつれなく当たったか。
 思い返せば思わず絶望したくもなる。八つ当たりかもしれない、けれど憤りを抑え切れない。
「……で、……でも、私」
「聞きたくない」
 未練ありげに、震えた声音で瞳が呟くも、それを聞く余裕など高志にはない。
 そのままに背を向け立ち去ろうとするその前に、立ちはだかる人影がある。
「なんだよ、あん」
 た――と、言うより前に響いたのは打撃音。手加減無しの張り手である。
「好きな人、居るんでしょ」
 やぶ睨みに夢乃が問う。余計なお世話である。高志もまた睨み返す。
「だったらどうなんだよ、ああそうだよ、そこの女の所為で――」
「修復不可能? ふざけないでよ、その程度にしか想ってなかったの?
 本気なら、一生かかってでも修復してみなさいよ!」
 涙混じりに夢乃が叫ぶ。本当の想いを信じればこそ、その慟哭に嘘は無く。
 高志が黙り、瞳もまた、何も言えない。
 恋を失い得る物もあれば、恋を失わぬ為に抗う道もある。
 それを一義的に語ることは出来ないけれど。

「これを機に本当の恋に目覚めてくれればええんじゃけどね」
 それを眺める仁太が呟き、静かにそっと眼を伏せる。
 恋愛模様は数あれど、恋の絶える事は無し。
 おかしな道具が割り込む余地など、ありはしないし、あってはならない。
「いずれにせよ、自暴自棄にさえならなければ良い。
 ……が、恋愛と言うのは、全く難しいな」
 殊子が静かに背を向ける。夢乃のお説教は当分終わりそうもない。
 ああ本当に――恋愛成就は、伊達ではとても、つとまらない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『恋愛成就は伊達じゃない』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

作戦に抜けは幾つか有った物の、恋愛神の逆鱗にでも触れたのか
ダイスが余りにも荒ぶった結果きゅーぴっど様はもれなくけちょんけちょんにされました。
運も実力の内と言う事でしょうか、お見事です。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。