●そういうのやめろ その男の周りでは、吹雪などという概念はない。吹き付けるのは、ただの風雨に近い。 その男に、雪中行脚という概念は全く持ってない。雪を踏みしだくことなど、ありえない。 一歩歩くごとにその先の雪が溶け、地面が晒され、しかし彼が去れば再び雪に覆われる。 徐々に生まれるその段差は次第に歪と化すが、それはまだ可愛い方だ。彼がこれから行うひとつの『行為』に比べれば、ずっとマシだ。 「うむ、ここからなら秘湯まで一直線だな」 全身(というか腰のタオル)から巻き上げられた蒸気と熱波が外気に触れ、雪を溶かし凍りついて光を反射。 あたかもダイヤモンドダストのようにすら見える。 っていうか秘湯ってどういうことだ。視界の端に確かに水源があるが、お前は何を 「さあ溶かそうではないか! 秘湯で! いやむしろ地熱で! この雪を!」 その理屈は可笑しい。 ●それでどうなるんです? 「言うまでもないですが、『秘湯』とか何とか言いつつそこそこ栄えてます。斜面に添って雪が溶け、崩落し、真っ直ぐ突き進めば……」 「被害量は考えたくないな」 背面のディスプレイに表示された雪崩の予想軌道を軽く指で示し、首を振った『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の様子に、リベリスタは色々と理解した。 どうやら、直下にある『秘湯』、ないしその周辺の水源や熱によって当該地域の雪を少しずつ溶かしてしまおう……という腹づもりなのだろうが、その『秘湯』を軸に栄える人々のことを一切考えない辺りが流石にどうかと思う。 仮に溶けるとして、局地的に雪崩起こしたらだるま落としめいて周囲の雪がとんでもないことになり、結局は遥か遠方にまで被害が出る可能性というのを全く考えていない気がする。 また、これが川に流れ込んだとしよう。仮に解けたとして、増水は免れないのではないか? つまりは、そういうことだ。 「ところで、何こいつ。なんで雪山でタオル一枚なの? 半裸とか死ぬ気なの?」 ご尤もなツッコミです。ポイント倍点な。 「説明に窮するのですが……彼の識別名称は『灼熱魔神』。本名不明。所属なし。熱波を噴出するアーティファクト『籠龍・改弐』と、機動力を強化するアーティファクト『ファントムタオル』……どちらもタオルですが。それらを装備したタオル一枚姿のド変態です。一応、『気合があれば大丈夫』畑の人間で、昨夏はビル街どまんなかに出現。熱波を噴出させ多量の脱水症状患者を出し、アークとの交戦も二度。ただ、人死には好まない性質だったのか、説得されるチョロさはあったようで」 チョロいとか言うなよ。優しいだけだろ。可哀想だろ。 「今回は明らかに人的被害出るじゃねえか。春先の一番ヤバい時期にこれとか、考えたくもねえ」 リベリスタは訝しんだ。報告書が正しければ、『灼熱魔神』なるフィクサードは変態だが、非道になりきれない愛嬌があったように思える……飽くまで、報告書の中では。今更になって残虐ともとれる行為に走ったのは、なにか心境の変化でもあったのか? 「まあ、それも含めて調べてきて頂けるといいなあ、とは。ただ、見た感じ彼のテンションが今までと然程変わらないので……アーティファクトに精神持っていかれてる、ってワケじゃないようですが」 「現実的な所では?」 「取り敢えず雪崩の阻止を」 ●ところで タオルを振るい、男は仁王立ちのまま空を見上げた。 視界の端に写った光が、自らの臨んだものであることは考えるまでもなかった。 「……希望、か」 独りごちる。 そんなものを齎すのが、男にとって毒だったろうに。それでも縋ったのは、きっと気づいていたからか。 何事も、目を逸らせば楽だった事実を。 囁きが、止まないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月11日(木)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雪原炎上 「フィクサードって皆裸のおにーさんなんでしょうか?」 「はっはっは! 裸とは異なことを! ちゃんと! 巻いているじゃないか!」 「聞く耳もってくださいよ!貴方話せる人って聞いてきたんですから!」 「どの証言だったのか? 知らんな! 私には! 私の矜持がある!」 初めての任務に挑み、小柄な体で吹雪に耐えるキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)。彼女の胸は豊満であった。どうでもいい。 他方、その何か我道邁進にも程がある態度を見て、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は僅かな焦りを顔に貼り付けた。そう言えば彼女も豊満で、いやどうでもいい。 聞く耳を、まるで、持たない。それは本当に僅かな違和感だ。ちりと焦げるような気配に眉を寄せるのは何も彼女一人ではない。僅かなり神秘に携われば、そこに立つだけで違和感を感じないわけもなし。 「そんなはしたない格好で熱気を振りまくだなんて迷惑極まるわ!」 ――わたしの声を聞きなさい、と同時に意識を叩き付ける『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)の表情は、実際のところ強い意思力に支えられていた。 時間が差し迫っている。一刻でも早くこの男――『灼熱魔神』を退けなければ、待っているのは明確な大被害である。 春が来るまで後わずかのこの期に及んで凶行に及んだこの男が願うものがなんなのか、思うこととは何なのか。理解できなければ是非もなし。 「……アーサーさん! 破壊を!」 「任された」 魔力を滾らせ、しかし冷静な視線で分析を続けた『闇夜の老魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(ID:BNE004096)の灰の瞳が見開かれ、それに応じたアーサー・レオンハート(BNE004077)がレイディアント・レクイエムを構え、照準し始めた。 「破壊と言うよりは……あれは、恐らくでありますが……!」 「早く教えて下さいよ! さもないとチラリしますよ!(生命保険の契約書を)」 「――――!」 海依音のビッチアピール(?)はさて置き、それをまともに受け止めるレオポルトは言葉を進めた。このままだとマジでヤバイ。 その、正体は―― ● 「これが、極東のフィクサードか……」 アークに足を踏み入れて日も浅い『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)の勘違いはとどまるところを知らないが、ごくごく一部のフィクサードなんて大抵こんなもんだし、大体間違ってないのかもしれなかった。 未だ視界に捉えるには遠いが、しかしその逸話を聞くだに嫌な予感しかしないものである。 「折角の秘湯、雪崩で潰すなんざ勿体ないだろ?」 「当然だ、臆することなどあるものか」 背後からゆるりと声をかけてきた『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)の気遣いはトーンとして軽い。だが、それに意固地になったように応じるフィリスとてそれが上辺であることは知っていよう。 その証拠とも言えないだろうが、十分な対策を講じてきている彼が甘い覚悟でいるワケではないのは明らかだった。眼前に残る僅かな雪解けの跡などから、そう遠くない位置にあろう、というのはわかるが……雪は音を吸収することもあってか、本人の存在を感じ取ることはできないで居る。 「名前返上して湯上り魔神とかに改名すべき、そうすべき」 一方、その名前にいち早く異を唱えたのは『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)。決断的な言動はどうやらボトムに毒されてのようだが、しかしその意思の頑健さは彼女本人が持つ本質の一側面なのだろう。 ……彼女にそんな言動を教えた知識源を早急に解析すべきだと思うが、気にしないことにする。 禍々しさすら飲み込んだグラニートソードを佩いた姿に迷いはないので、色々間違っていても迷ってはならないのだ。 「お仕事頑張ります!」 ときに、キンバレイはこの任務が初めてだった。……うん。初めて遭うフィクサードがこいつってケースは何回かあったけどこの子にぶつけるにはちょっとアレなんじゃねえかなこいつ。 色々不健全な気もするが、彼女自身は兎に角健全の権化みたいな子なのでそっとしておきましょう。そうしましょう。 ところで。 リベリスタ達の防寒対策は優秀にも程があった。下手をすれば吹雪で視界すら奪われ、身動きもなかなかに難しい初春の吹雪の中で、しかしその意気込みは些かも失われる気配がない。 あと海依音、何で中空飛ぶのにかんじきなんて履いてきた。いやすげえ偉いと思うよそういうとこ?! 『――――! ッ――――!』 「え、今誰か」 「戦おうかリベリスタ! 心いくまで! 私は! 阻まれないがな!」 「やだイケメン……こんな寒い中でいい胸筋……!」 「おいィ? いきなりの不意打ちとは流石変態汚い」 驚愕すら覚えるタイミングで、千里眼を以てしてもにわかに信じられなかったが。灼熱魔神は、既に臨戦態勢だった。やる気だ。 ティエが踏み込んで彼の胴へと一撃をお見舞いしようとするが、タオルで弾かれ、返す刀で蒸気とともに叩きつけられる。冗談のような外見ではあれどその意気は軒昂。その一撃の破壊力は、彼女をたじろがせるには十分に過ぎた。 「初めまして。貴方の凶行を止めにアークから参りましたリベリスタ……にございます」 「無理をするものではないぞご老体! 私は! それでもやるがな!」 静かに一歩前へ進み、恭しく一礼を向けるレオポルトに対し、灼熱魔神は飽くまで紳士で真摯だった。挑んでくるなら覚悟はあろう。 その覚悟を敢えて奪うようなことはしたくない。真正面から砕くならばそれは常に行なっている行為と大差ない。 ……何より、灼熱魔神は戦いと覚悟に対して何処までも真っ直ぐであることを望むのだ。是非もなし。彼の覚悟とは、常道を乗り越えてこそのものだから。 ● 「生憎と、雪を溶かせて雪崩などを起こさせる訳にはいかぬ。尤も、そちらはそれが目的では無い様に思うが?」 「私の意思を! 私以外が定義するというのは! 至極ナンセンスであるとは思わないかね、少女よ!」 何かすげえ哲学的なことを言ったぞこの変態。フィリスの問いかけに対し、しかし灼熱魔神は些かの痛痒も感じては居ないようだった。元よりそれが目的でここに立っている。それによる影響を鑑みて、それを求めて立っている。それが目的ではないと言われれば、何ら躊躇せず違う、と言い切っても差し支えない――そんな、反応だった。 そんなシャウトに合わせるようにして現れた陽炎も、数こそ少ないがその意図を酌んでかやや攻撃的な布陣を展開してきていた。 「力試ししたいなら受けて立つから、俺達が勝ったら引いてくれ」 「私を退かせる程に、君達が私をやり込められるというなら! それも一興――出来るならなァ!」 魔書を掲げ、琥珀が魔の月を顕現する。それを止めんと陽炎が動くも、遅きに失した感は否めず、あっさりと消失。辛うじて直撃を避けた一体は、一気呵成と進行するティエの刃の露と消える。 「なかなかやるが……それで! 私を止めるつもりかァ!」 「あまり調子に乗ってると雪崩で一般人生活がひっそり幕を閉じるぞ!?」 「構うまい! 然るべき流れにて淘汰される命ならそれも已む無し、ということだ!」 「貴方も無駄に殺すことが……って聞いてませんね、同じ問答の繰り返しになりそうです」 陽炎の無い状況下、好機とばかりに海依音が黒く塗り潰された天使の杖を突き出し、魔矢を放つが……ウザくも狡猾に動きまわる灼熱魔神、その首筋の一点を狙うには余りに厳しい。 そんな乱雑な攻防を縫って、レオポルトの目が鋭く首筋へと向けられる。アーティファクト……であれば、魔術に拠る深淵に関わるとして、少なくとも彼の目を欺くには余りに心許ない遮蔽を施されていると言えるだろう。 ……そう。『魔術に拠るものであれば』、彼にも看破する目はあったろう。だが、どうやらその視線を察知したようにアーティファクトの存在感は薄れ、或いはより強く顕在し、その焦点を定めさせない。 だが、分かる。魔術に拠るものではない、存在が不明瞭になる、とくれば……あれがアーティファクトなどという生温い枠組みには程遠いものであることぐらいは、彼にだって分かる。 深淵を覗き、そして覗かれる。闇の底から這い出す何かをその身に覚えた彼の頬、刻まれた皺の間を伝う汗は緊張と呼ぶには余りに切迫した感情に裏打ちされたものだった。 アーサーに向けて叫ぶ。ここで止めなければ駄目だ。あのアーティファクトを、何らかの形で阻害しなければ塁が及ぶのはより多くの一般人だ。 年甲斐もなく? 言わせておけ、とも彼は思う。 そんなことを宣っているヒマもない程に、あれは。 タイミングを同じくして、淑子もその存在に近づきつつあった。アプローチこそ違えど、彼女は蒸気と熱波に塗れた戦場で戦う仲間を補佐する傍らで敵方の精神を把握しようと試みたのだ。 行動を伴うそれは決して即座に効果を発揮するものではない。思考の読み取りには時間を要したが――更に驚愕すべきは、その思考のノイズ量の多さ。 思わず目を剥き、顔を背けそうになる。『彼自身の意思』がノイズに塗れ、そうではない感情が泥のように這い出してくる。 『正しく為す』『均して慣らす』『均衡値を求める』『想像を創造する』――断片的な思考の羅列に灼熱魔神の感情が入り混じり、カオスの極みもいいところだ。 「ヨッド・ヘー・ヴァウ・へー……神聖四文字の下に我紡ぎしは秘匿の粋、禍つ曲の四重奏ッ!!!」 「ぬぅゥッ……! だが! この! 程度――」 「認めたくないが、私の魔力で作った炎より遥かに強力な熱気だ。……認めたくないが!」 解答を延ばし、しかし行動で示そうとレオポルトは魔曲を紡ぐ。一点を狙うことができないなら、魔術で強引に縛り上げ、引き剥がすことを要衝とする。 味方を巻き込まぬ座標を狙って、フィリスの炎が叩きつけられる。戦闘領域で強化された炎ですら、しかし灼熱魔神の熱波には遠く及ばない。 何たる屈辱。これをバネにするのもバカバカしくなるほどに、この男は変態なのだ。 「キンバレイ知ってます! 男の人と女の子が裸で抱き合うお仕事があるって!おとーさんが夜中にそーゆー動画見てました! ……で、あのおにーさんと抱き合わなきゃ駄目ですか?」 「何ィ!?」 「ちょっとティエ君は聞かなかったことにしてキンバレイ君もそういうことは知らなくていいんです! そういうのはワタシ」 「わかったからお前ら喋るな! 暑苦しい戦場が余計暑苦しくなるじゃねえか!」 なんということでしょう。回復役が前線で戦う皆の精神力を回復するどころかゴリゴリ削り取っています。大丈夫なんかこれ。マジ大丈夫なのかこれ。アク倫はよ。……はよ。 「増えすぎうっとおしいマシ゛でかなぐり捨てンぞ!」 「狙っていくとしようか……レオポルト、あのアーティファクトは」 「出来るだけ早急に、あれに痛撃を……あれは、アーティファクトなどではありませんぞ!」 「じゃあ、わたしが感じた違和感も説明がつくわね。あれは――」 「「意思を持ったアザーバイドです」わ!」 雪中に晒されたその正体がその耳に届くより早く、アーサーのオートマチックが吼える。 肩が抜けそうな反動は革醒者には痛痒も無い。集中を重ねて狙いは間違いなく、海依音が削りティエが叩き潰した陽炎達は射線には存在しない。中てるには今、千載一遇を逃せば次は無い! ビスッ、と鈍い貫通音が雪中に響く。破壊……打倒と呼ぶべきか。それには遠く及ばないとしても、痛覚を刺激された『それ』は不定形だった存在を際立たせ、姿をより顕在化させる。 「あ、が……っァ!! ああアあァ!」 伴って、灼熱魔神の叫びが轟く。重々しい声の中に、淑子は今度こそ、灼熱魔神の意思を聞き届けた、気がした。 ● 「怪我人を出さないのが私のお仕事なのです!」 熱波に頬を叩かれ、頬を歪めながらもキンバレイは気丈に叫ぶ。あと揺れる。気にしてはいけない。 「浅葱ッ……!」 「いやー、サウナみたいで気持ちいいぜ?」 キンバレイの意思は強いが、それでも能力と戦力の兼ね合いは存在する。 ふらりと体を傾けた琥珀の姿に焦りを含んだフィリスの声が響くが、しかし琥珀自身は退くなど一切考えていない。戦える。それに、倒れるなんてプライドが許さない、と。 「倒れてられにい、ヤツを殴り倒すべき対象なのは確定的に明らか!」 決断的にティエが闇を握り直す。白銀の鉄の塊が闇を握る。最強に見えるのであれば最強であろうとするのがその義務だろう。そこで倒れれば背後に累が及ぶ。 ……それに。最前線で戦っている彼女にとって、後方から届くリーディングの情報よりも明確に、相手の隙が見えつつあった。 肩口のアーティファクト、否、『アザーバイド』が活発化してからは、能力の勢いこそ増したが隙が増えた様に思う。 それが狂化を促しているのかは分からないが、しかしそうあるならば好都合。 「悪気がないっていうより騙されてるって感じじゃないですか! ヤダ年甲斐も無く騙されるとか胸キュンじゃないですか何とかしてくださいよ!」 「言っている場合ではありませんぞ神裂さん!?」 レオポルト、思わず声が上擦る。このビッチは本当にもう何処を向いて仕事してるんですかね! 「……アザーバイドを狙うべきか?」 「いえ、もう時間がありません、このまま押し切りましょうぞ! ……秘匿の粋を紡ぎ、更なる魔力を――」 こんな時、真摯に戦場を見据えるアーサーってほんと有能だなっておもいます(こなみかん 「アンタにとっての『希望』とは何なんだ?」 「ワタシ、の、希望……ォォオオォァァァ!」 渾身の力と魔力を拳に乗せ、琥珀が灼熱魔神の頬を殴りにかかる。 応じる彼の籠龍がそれを弾き飛ばし、しかし彼もまた大きくその身を傾ぐ。 一瞬ながら死力を尽くした互角。時間は、もう然程残されては居ない。 「隙が無いとかありえない。隙とは何時だ、今だな!」 鉄の塊よりむしろ塾講師っぽい気がするが気にしてはいけない。弾かれた両者の間に割り込むようにして闇を握ったティエの一撃が、その胴を大きく薙ぐ。 咆哮が響き、態勢を崩した彼は雪中を転がる……否、籠龍がそのカバーに回り背を覆い、急場凌ぎと現れた陽炎が彼を抱え上げる。 ある種のボブスレー……いや、スケルトンか。周囲の雪が溶けているのでどこまで再現されているかは定かではないが、取り敢えずそんな感じで。 「……逃げた?」 「逃げられましたな」 斯くも盛大な投げっぷりがあっただろうか。灼熱魔神が、懐柔されるでも無く納得するでも無く、遁走するというこの異常事態。 「あのおにーさん……夏になったらどうするんでしょう?冬でこれだけ暑いなら夏は凄いことになると思うんですが」 「大丈夫みたいですよ、あの人の本場って夏らしいので」 「それよりも温泉だ。秘湯というからには素晴らしいに違いない」 眼下に見えるは、豆のように小さくはあれど湯宿の影。 わずかに凍った汗も、流すことができるだろう……今は、それだけでもいいと、ティエは思うのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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