●遠き別れ 「これまで本当にありがとう。半生を、君と歩けて良かった」 最愛の人はそう言って、静かに逝った。けれど忙しない現代である。 喪に服する猶予も無く、葬儀に通夜にとめまぐるしく時間は流れる。気付けば彼が逝ってより早一週間。 その間何度も泣いた。喪失感に胸を抑え付けられる様な気持ちになって、夜中に目を醒ましたりした。 それでも社会はずっと待ってなどくれない。役所へ行って手続きなども取らなくてはならない。 幸い、彼の親族が何かと世話を焼き、肩代わりしてくれるお陰で随分助かっている。 何時かお礼をしに行かなくては、とは思うものの今はまだ、流石にそこまでの気力は沸かない。 何となくもゆっくりと、二人で過ごして来たマンションの整理をしていて、そう言えばとふと思い出す。 以前、もし彼に何かが有ったら開ける様に、と言われていた洋服箪笥の一番上の棚。 ラヴレターでも遺してあるのかと、そんな何処と無くくすぐったい気持ちを憶えたのを、彼女は憶えていた。 何かに導かれる様に、彼女はその棚を引っ張り出す。そこに置かれていたのは一通の手紙とリングケース。 “この指輪が、君を護ってくれる。どうか君は、幸せでいて” 悲劇はその翌日から始まった。 彼の叔父夫婦が共に高速道路にてハンドル操作を失敗しガードレールを突き破り転落し。 彼女に何くれとなく世話を焼いてくれた従兄弟は悪い友人達とトラブルを起こし撲殺された。 会社側での処理を請け負ってくれていた彼女と仲の良かった同僚はある日突然行方不明になる。 彼女の周囲から急激に人が消えて行った。彼女の周囲で僅かな期間に余りに多くの人間が死に過ぎた。 常に喪服を着ている彼女の姿に周囲は同情より奇異の眼を向けた。 彼女についての悪い噂を語っていた口さがない主婦が、居眠り運転のトラックに突っ込まれて事故死。 その結果彼女について調査せざるを得なくなった保険会社の調査員がある日消息を立つ。 消えていく。消えていく。死んで逝く。死んで逝く。 まるで何かが導く様に。誘蛾灯に集っては焼かれて落ちる虫達の様に…… ●運勢歪曲 死傷者五名、行方不明三名。モニターに表示されたのは無機質な文字。 これが僅か今後一週間の間に、何の力も無い女性によって引き起こされる被害の総量。 一日一人以上である。唯事ではない。しかもこれは彼女に関わる人間が増えるにつれ増加して行くという。 「問題なのはこの指輪。……歪曲輪って呼ばれるアーティファクト」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が綺麗にファイルされた資料を差し出す。 そこに記されているのは劣化万華鏡とも言うべき極めて危険度が高く、回収優先度も高いアーティファクトだった。 所有者へ向けられる悪意、人生へ持ち込まれるマイナスファクターを片っ端から自動で除外する。 そこに持ち主の意志は含まれない。オートであり、リアクティブである。 そしてその除外手段が秀逸……と言うべきか、証拠を残さないと言う点にかけてこれ以上の物は無い。 「歪曲輪の持ち主へ悪意を向けるか、悪意に類する物を向けられると……物凄く運が悪くなるの。 具体的には、人生の選択2回に1度は大失敗する位」 ただの失敗ではない、大失敗である。それは逆に言えばこう言い換える事も出来る。 “致命的な”不運であると。 「……勿論、人を呪わば穴二つ。下心を持って近付いたり、悪口言ったりする方が悪い。 でも、それは命を奪われる様な罪じゃない筈」 人は未知の生き物を恐れる。このままだと彼女の周囲で人が消え、死に過ぎる。 いずれは警察の出番となるだろう。そうなった場合、それは立派なマイナスファクターだ。 持ち主の意図に関わらず、日本の公安に致命的な被害が出かねない。 「本当はもっと早く回収したかったんだけど……所在が知れて無かったの。 歪曲輪は本当に危険なアーティファクト。悪意ある誰かの手に渡ったら脅威」 特にフィクサード組織の手になど渡った日には最悪である。事態は思ったよりも切迫しているらしい。 「でも幸い、現在の持ち主は一般人。説得して回収する事も出来るかもしれない。 戦って奪い取るにしても比較的容易」 幾ら強力なアーティファクトとは言え、持ち主に殆ど戦闘能力が無いとなれば話しは異なる。 勿論、女性にとっては死んだ夫の形見である。そうそう容易く手放すとは思えないが…… ファイルを閉じて差し出すと、イヴは続けて静かに告げる。 「場合によっては強奪も辞さないつもりでお願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●幸せって何ですか 「この写真に出来るだけ似たデザインで同じサイズの指輪が欲しいのですが」 雪白 万葉(BNE000195)が赴いた貴金属店の店主はその変わった客の注文に数度瞬いた。 差し出された指輪のデザインが少々変り種である事もさる事ながら、 写真の指輪に“似た”指輪。と言う注文を受けることは実の所滅多にないからである。 「メーカーと型さえ分かればお調べ致しますが?」 一応定型通りの答えを返した物の、恐らくは訳有りなのだろう。 改めてデザインを確認し、店主はカウンターから指輪のカタログを引っ張り出す。 「似た物で構いません。それと指輪に10年分の小さな宝石を足して欲しいのですが。出来るだけ急いで」 その提言に店主は更に確信を強くする。が、そこは深く聞かないのが接客業の嗜み。 「少々お時間を頂きますが構いませんか?」 「はい。領収書は時村 沙織宛で切って下さい」 女性の幸せの為なら身銭を切る事も厭わない沙織さんマジ男前。と言うなかれ。 勿論万葉の独断である。三高平は今日も平和であった。 一方のその頃、都内某所、伏見家前。 「お話したい事があるのですが、この後所用なもので」 「いえ、満足にお構いも出来ず、ですが主人も喜んでいると……」 焼香を上げに訪問にして来た『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)を見送ると、 円は仏壇に戻り手を合わせ、小さく吐息を吐く。 彼と彼女の時間はあの瞬間に止まってしまったけれど、それでも時は止まらない。 仕事上の付き合いもあってだろう。伏見家への弔問客はそれなりの数に登っていた。 であればこそ、快の行動には一切不信を憶えなかった物の、別れ際の一言に小さく首を傾げる。 (そう言えば、お話って何だったんでしょう) 無意識に薬指に着けた指輪を撫でる。何か対応が必要な話であれば、また連絡なりが来るのだろうかと。 けれどこの日、彼女が物思いに耽って居られたのはそこまでであった。 高い音を立てて、玄関チャイムが響く。 はい、と取ったインターフォンには同時に玄関の映像が表示される。見た事も無い男性である。 また弔問にいらしたお客様かしら。その考えは次の言葉で払拭される。 「時村元総理の作った治安維持機構、アークの人間です。貴女にお節介を焼きにきました」 「……え?」 『そう、彼の名は』呉実 陣牙(BNE000393)波乱はここから始まった。 訪問客の語った事は、円にしてみれば完全に理解不能な内容であった。 「指輪のせいでこれから多くの人が死ぬ」 「貴女や旦那の愛とかは関係なくその指輪が原因」 「調査の為のその指輪を借り受けたい」 円は決して世間ずれしている方ではないし、処世術にも長けてはいない。 けれど10年間の夫婦生活で培った常識を総動員して、聞いた内容を解釈しようと努力した。 指輪の所為で人が死ぬ。そんな事が有り得るだろうか。彼女の世界における答えは、Noである。 そして大前提が成り立たない以上、それはお節介と言うより何らかの計算があると考えざるを得ない。 「申し訳ありませんが、お断り致します。これは主人に貰った大事な――」 「指輪だけが貴女と旦那さんを繋いでいるのか? 旦那さんと生きた日々はそんな安っぽいものなのか?」 続けて被せられた言葉に絶句する。胸の奥でもやもやとした感情が渦巻く。 どうでも良い言葉であったなら、きっとそんな感情は生まれない。抱いたのは強い反感である。 「貴方に、私と主人の何が分かるって言うんですか」 押し殺した様に呟き、インターフォンを切る。彼女なりに目一杯の拒絶。 彼は何と言ってただろう。時村元総理? アーク? 何かそんな様な事を言っていた気がする。 「理解できないのは仕方がないが、俺はそういう閉じた生き方での幸せはごめんだね。 やらしい言い方だが、旦那さんは貴女に笑って生きてほしいんじゃないか?」 窓の外から声が聞こえる。荒ぶった男性の声。耳を塞ぐ。蹲る。陣牙の言っている事は訳が分からない。 ただこの時点で一つ明らかであるとすれば、今の円にとってその指輪はとても大切な物で、 もし彼が彼女に笑って欲しいと願うなら、指輪を失うのはその対極であるだろうと言う、 そんなどうしようもない事実のみである。 ●不幸って何ですか 「私は時村財閥の使いの者で、御主人がお持ちのある物品の件でお伺い」 「お引き取り下さい」 にべもない。とはこの事である。時間は経過し午後3時。 訪れた源 カイ(BNE000446)に対し円の反応は酷く硬質的であった。 元より思い込んだら頑固な気質である。今の彼女に時村、アーク、と言う単語は敵対宣言に等しい。 夫の指輪を奪う相手。彼女はこの2つの単語をそう解釈した。 「あの、出来ればお話だけでも」 「ごめんなさい、聞きたくありません」 それだけ言ってインターフォンを切る。大きく嘆息し、握り締める薬指。 何でこんな物を誰も彼もが欲しがるのかは知れない。もしかするととても価値のある物だったのかも。 けれど、そんな事は関係無いのだ。彼が彼女を想って贈ってくれた物。 ただそれだけで、救われる。そこに繋がりを感じるのだ。 「僕も昔大事故で、両親と妹を一度に失いました」 と、玄関越しに声が聞こえる。聞かないよう離れようかと思った足が止まる。 「悲しくて悲しくて顔がくしゃくしゃになるほど泣いた日を幾度も送りました。 でもある日諭されたんです、そんな僕を両親達が見たら……きっと同じく悲しむのではないのかと」 その悲しみは、胸を衝く位良く分かる。けれど、だからこそ尚更分からない。 そこまで分かっていてどうして、彼女から指輪を奪おうとするのか。 「月並ですが、家族は常に僕の心の中で共にある……僕自身が家族への愛を失わない限り、 思い出と共に生き続ける。僕はそう思う事にしたんです」 それは、きっと言葉ほど簡単では無かったのだろうと、円は想う。 辛くて、痛くて、苦しくて。その果てにやっとその場所に辿り着けたのだろうと。 しかし彼女には、その結論を出すだけの時間すら与えられていないのだ。 愛情を縁に、思い出だけを道標に歩きだす以前に、彼女はまだ立ち上がれてすらいない。 「……亮一さん」 亡き夫を想って、ほろほろと泣く。いつかは、きっと。 けれど今をそのいつかにするには、今はまだ、余りにその思い出が、鮮やか過ぎて。 どんなに胸が一杯であっても、生きて行く為には必需品が多い。 食欲が無くともお茶請け位は無いと、誰かがやって来た時に恥を掻く。 自分は良い。けれど夫に恥は掻かせられない。その一念で買い物へと向かう、彼女を付ける影がある。 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)である。 何をしているのかと言えば要する所、露払いだと言えるだろうか。 仕事中に歪曲輪が事故を引き起こさない様、念の為監視に付いていた訳なのだが…… 買い物籠をぶら下げ歩く彼女、伏見円を注視する人は、実際問題それほど多くない。 通りすがりに悪意を持っている様な人間も、これまた皆無である。 死者や行方不明者が発生した後であればともかく、現時点での彼女は失意の未亡人その物である。 近所に住む人々も態々お節介を焼いたりはしないし、喪中とあれば殊更に話題にも出さない。 現代の近所関係は、子供でも居ない限り希薄なのである。 手際良く買い物を済ませ、円は帰路に着く。そうして辿り着いた自宅。 待ち構える2人の影。この時点で嫌な予感を憶えない程彼女とて楽観的ではない。 「……あの、当家に何か御用でしたでしょうか」 おずおずと、けれど不安の色を隠しきれず問いかける。けれど返って来た答えは正しく。 「時村家縁のアークという機関から来たものです」 何気なく返じた『素兎』天月・光(BNE000490)とそれについて来た『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455) 彼女も彼も、気付いていなかった。その返答がどう言う物であったのかを。 カチリ。リベリスタである2人にはその瞬間、何処かで何かが噛み合う音が、聞こえた。 「――っ! お引き取り下さいっ!」 アーティファクトは所有者に依る。歪曲輪もまたその例外ではない。 であれば時村とアーク。この2つはこの時点で、円の人生にとって立派なマイナスファクターである。 指輪は応える。所有者の想いに。それは運命を捻じ曲げる、不運と言う名の返答。 「あ、ちょっ」 取り付く島もなく光と猛の間を抜けようとする円を、光が押し留めようとする。 が、その瞬間、円の買い物中に彼女が庭に設置したボウガンが誤作動を起こす。 たん、と光の踝を正確に狙い、矢が飛ぶ。靴の踵を正確に射抜かれ光が転ぶ。 円はそれを一瞥もせず自宅へ駆け込む。追おうとした光と猛の前で玄関門がオートで閉まる。 これに猛が手を挟まれる。彩歌が見ていた前で行われた一連の出来事は、まるで冗談の様である。 「これはー……駄目かしらね」 「……ああ、駄目みたいだな」 見事挟まれた手をぶらぶらとする猛の眼前で、 再度誤作動を起こした別の罠に引っ掛かる光の姿が鮮やかに過ぎる。 ●運命ってなんですか そうして日も落ち、時節は夜。日も無いのに日傘を手放さない奇妙な影。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が夜空を見上げてぽつり呟く。 「どうもこれが、最後のチャンスになりそうね」 そこには快、猛、彩歌と言った面々が揃っている。これより最後の交渉を敢行しようと言うのだ。 聞いた限り、交渉と言う土壌に於いて状況は最悪と言って良い。これを覆す事は、酷く難しい。 「それでも、出来るだけの努力はしよう」 快が代表してチャイムを鳴らす。応対した円の反応は、けれど柔らかである。 彼が午前に弔問に訪れた事を憶えていたのだろう。 少々お待ち下さい、と言ってより玄関が開くまではそれほど間もなかった。 「夜分遅くにすみません。今日その指輪を巡って色々とありませんでしたか?」 けれど玄関を開けた瞬間、円の表情が強張るのが見えた。それもその筈。 女の一人暮らしの玄関口に4人である。半分は女性、一人は子供であっても威圧感は隠し切れない。 「あの……もしかして」 「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、あれは俺の仲間なんです」 瞬間、衝動的に扉を閉じる事を押し留めたのは、午前中に訪れた分の信用があればこそだろう。 けれど目に見えて反応は硬くなる。瞳に不審の色が強い。 「Bonsoir.夜分遅くに失礼。少し宜しいかしら?」 そこに割り込んだのは日傘の影、氷璃である。 外見はどう見ても子供と言うその姿に、警戒に彩られた円の眼差しが自然と和らぐ。 「……立ち話も何ですから、中へどうぞ」 「その指輪は“歪曲輪”と呼ばれる、とても危険な代物です」 出したお茶に唇を湿らせながら、快が語った事の大半は、陣牙が伝えた事とほぼ同じである。 円の側の結論も勿論変わらない。そもそもその大前提が信じられない。 何か性質の悪いペテンにでもかけられている感覚である。そこには根底となる信用が欠落していた。 「早めに手放せば何も起こらずに済む、旦那さんだってあんたの幸せを願ったにせよ、 関係のない他人を不幸にしてまで…だなんて、考えてない筈だ」 猛が追従する。その眼差しに嘘の色は見られない。彼は彼なりに本気で自分を心配している。 少なくとも、円にはそう見える。けれどだからこそ分からない。 彼らが彼女から指輪を奪ったとして、そこに一体何のメリットがあるのだろう。 「死傷者五名、行方不明三名」 ぽつりと、氷璃が呟く。誰もが聞き流しそうになるほど自然と漏れたその言葉。 けれど改めて反芻して、その示された数字の意味に円の体が強張る。 「貴女のご主人の願いは貴女の幸せ、指輪はその為の手段。 けれど、それ自体が引き起こす不幸からは護れないわ」 お茶に口を付け、語るのは淡々とした事実。先ず明日、夫の叔父夫婦が事故死すると。 その言葉を聞いて、血の気が引いた。確かに彼の叔父は明日、伏見家を訪問する予定になっている。 けれど、そう。けれど、その位の予定は掴めるのではないだろうか。 そう考える自分も居る。自宅のセキュリティには気を使っている彼女であるが、 情報技術面はさっぱりである。例えばそう、叔父との会話を何処かで傍受するとか。 映画の様な話ではあるが、既に前に並んだ面々からして映画の住人の様な物である。現実味が、無い。 「では、例えばそれが本当であるとして……これを着けず、持っているだけなら良いんですよね」 結果、折衷案としての円側から提案が引き出される。 疑い半分とは言え、これがもしそんな危険な物であるなら、その万が一を否定しきれない。 一方で、彼らを信じきれない。楔の様に刺さった不信感は、誠実な説明にも不安を喚起される。 これが何らかの悪意に依る物であったとしたなら、亡き夫に申し訳が立たない。 それでも快は辛抱強く言葉を重ね、氷璃もまたギリギリまで粘った。 しかし、彼女の手元から指輪を引き離す必然性までは説明し切れず、 何より散発的に繰り返された対話と試行の悪影響は予期していた以上に重かった。平行線である。 せめてもう少し時間があれば。しかし言っても詮無い事。その様を眺めていた猛が目配せをする。 (……探知機は?) (大丈夫、切ってあるわ) 円と快、氷璃が交渉する隙に電子の妖精を用いていた彩歌が頷いて応じる。 そろそろ世も更ける。ここがタイムリミットである。 「新田サン、そろそろ」 言われて快が僅かに眉を顰める。仕方ない。仕方ない事だと分かっている。 手を尽くした先に残った選択肢を運命と呼ぶのであれば、これは、運命であったのだろう。 「それでは、そろそろお暇します。夜分遅くに――」 失礼しました、と続けられる筈だった語句は途切れる。一瞬で間合いを詰めての当て身。 一般人である円に避ける術など無い。かくん、と力の抜けた彼女を、快が抱き留める。 「誰かを守りたい、って想いが届かないのは、悲しいことだから」 唇を噛み、猛が指輪を抜き取るのを見つめる。 強硬手段に出るしか無かったとは言え、それが本意であった訳では決して無いのだ。 意気を落としながらも玄関を出る四人と、三高平から漸くやって来た万葉がすれ違う。 目線が交われば状況は知れる。瞳を伏せ、任務を達成した四人は歩み去る。 万葉の贈った指輪は、果たして彼女の無聊を少しでも慰めてくれたかもしれない。 けれどその未来を確認する事は、リベリスタ達には適わない。 それが幾多の試行錯誤の末、彼らの辿り着いた一つの結末なのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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