●エセ外国人風 「ハァーイ! 皆サン、コッチデース! 順番ニ並ンデ進ンデ下サーイッ!」 山梨県某所――そこに彼らは、居た。 幸福そうに。嬉しそうに。楽しそうに。歩く多数の一般人がそこに居た。 あぁ実に楽しそうだ。嬉々としている。唾液を垂らし、目の焦点は合わぬ程に。 そうだ。 “誰の目から見ても正気を保っていない”程に。彼らは幸福に包まれていたのだ。 そして、そんな彼らを先導するは男“二人”で。 「やぁトム! もう少し、もう少しだね! お嬢の所に着くまでもう少しだよ!」 「オーウ我ガ友バイマ! 油断大敵ト言イマース! 成リマセーン! 油断シテハ、成リマセーンッ!」 騒がしい連中だ。 外国人風の喋り方をするのがトムで、外見を見ると翼の生えている方がバイマと言うらしい。名前の割に両方とも肌は黄色人種系に見える故、喋り方は恐らく作っているだけだろう。ともあれ、 「やぁその精神、素晴らしいねトム! 油断しないその精神正に辛いッ! 正に君のフルネーム通りトム矢無く――」 「HAHAHA――おい。撃ち落とすぞトリ野郎」 「やぁ怖いねトム! 冗談だから止めてよマジで……マジ、ちょ、止めッ! 痛い痛い痛い痛い! 嫌いな遠距離に攻撃するとかなんで君そんな本気で――ちょっとマジ止めてええ! ごめんってええええ!!」 彼らは往く。正気失いし一般人を引き連れて。馬鹿な話をしながら馬鹿に付き合うのだ。 どうせ皆、往く先終点逝く先だ。あぁ。どうせなら、楽しく楽しく行こうじゃないか。 ●ブリーフィング 「えーと、初めまして……ですかね? 今回の依頼の説明を担当させて頂きます、望月・S・グラスクラフトと申します! 宜しくお願いします!」 そんな一言から挨拶に入ったのは『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)である。実は、彼女自身はそれなりに前からアークに在籍していたフォーチュナだったのだが――色々あって今回が初と成るブリーフィング入りだ。まぁそれはさておき。 「今回はかなり緊急の依頼です。主流七派『黄泉ヶ辻』首領黄泉ヶ辻京介の妹、黄泉ヶ辻糾未……彼女について知っていますか? どうやら彼女が山梨県で動き始めたみたいなんです」 モニターを操作すれば、映るのは地図だ。 山梨県の某所。そこに陣取るは黄泉ヶ辻の者で。 「今回は、その、特に碌でも無い儀式を企んでいるらしく、かなり大規模な行動を行うみたいです。これを放っておくわけにはいきませんので、皆さんには儀式妨害をすべく現場に向かって貰います。担当する地域は――」 指し示す先は、地図の中心から少し離れた場所であり、 「ここですね。儀式のサポートを行うべく行動しているフィクサードらを撃退、およびノーフェイス達を殲滅してもらいます。やる事自体は名古屋さんの所と大体同じで、黄泉ヶ辻糾未自身については響希さん。儀式の中核を担う仇野縁破については世恋さん。それらを防衛すべくの外周防衛ラインに関しては数史さんが担当説明してくれています」 恐らく地図の中心がそのまま“儀式の中心”なのだろう。 複数に渡った作戦展開。その規模がそのままこの儀式の重要性を示していて。 「それで――皆さんにやってもらう具体的な事なんですが」 一息。 「ここのフィクサードは一般人から正気を奪って、儀式中心部へと誘導しています。まぁその洗脳自体はフィクサード、というよりも正確にはノーフェイスの能力なんですけどね」 一般人を洗脳する能力を持つノーフェイス。それは、 「ノーフェイス『ヘブンズドール』。非E能力者を自動で洗脳する能力を所持していて、一般人の方達はこのノーフェイスに操られています。幸い、ヘブンズドールさえ倒せばその時点で洗脳は解除されるんですが……問題は、これがフェーズ3と言う事です」 フェーズ3エリューション。 その実力は驚異的だ。油断すればまず間違いなく敗れるだろう。更には、配下としてフェーズ2のエリューションが3体いる様だ。これらに加えてフィクサードが指示を取るとすれば、 「かなり厳しい状況であると思われます。フィクサードには特殊な技を持つ者も確認されているとの事で……もう一度言いますけれど、かなり厳しい状況です」 念を押す。本気で危険度が高いのだろう。 と言っても勝ちの目が皆無では無い。いやむしろ有るからこそ頼んでいるのだろう。 貴方達になら、出来ると。 「あぁそうだ。畜生共の好き勝手にさせては成らぬ」 声が聞こえた。それは、『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)の声である。 依頼の説明は望月が請け負っているのに何故居る。そんな視線の中で、 「厳しい状況なればこそ人手がいるだろう。今回は私も出よう。なに、サポート程度なら出来るともさ。……あとは、まぁ。もっと人出を出したいのだが、これ以上は割きにくくてな。故に、私が出る事に成った」 「そう言う訳で普段出ない人をも動員して行って貰います。 ……どうか、無事に帰ってきて下さいね。勝利を――願ってます」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月24日(日)23:46 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ハッピー 幸福とは多種多様である。詰まる所、“誰か”の幸せが別の“誰か”の幸せと成るには限らないのだ。 例えば親しい者と共に過ごす事を幸福と成す者らがいる。 ――しかしその光景を疎む者もいる。 例えば死者を操る事を幸福と成す者らがいる。 ――しかしそれを是とせぬ者らがいる。 例えばたった一人、“普通”の女性に従うのを幸福と成す者らがいる。 ――しかしそれの行動を認めぬ者らもいる。 その様に幸福は多種多様であり、時としてぶつかりあうものだ。実際、 「たく。楽団が一段落したと思ったら……どいつもこいつも元気なもんだな。特に七派はよ」 彼、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は黄泉ヶ辻の狙いを、彼らにとっての幸福を阻止するつもりである。つい先日には日本全土を襲った楽団との死闘が有ったと言うのに、実に面倒な事だと彼は溜息を一つ。出来得るなら少しは休みたい所であるが、 「そう言う訳にもいかねぇよな。ま、実際? 仮に何も無かったとしてもそれはそれで肩すかしだしよ」 直後。言葉と共に地を駆ける。 愚痴に意味は無く。故に瞬時に気持ちを入れ替えて。 「飛ぶが如く、ってなぁ! さっさと蹴散らして終わらせて貰うぜ! 覚悟しなッ!」 雷撃と共に、襲撃する。 最も間近なハッピードールの顔面を蹴りで薙いで、そのままソコを足場としてもう一体へと。拳を握りしめて肩へと捻じ込めば一度の攻撃で二体への攻撃と成し。 「この様な邪悪な儀式を敢行するとは……目的もさることながら手段もえげつないですね」 更に『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が同じくハッピードールへ。 彼女は許さない。この様な行いを。一般人を洗脳し、利用する――そんな行いを。 そんなものは邪悪であると断ずる。己がリベリスタであるのならば見逃す事の出来ぬ邪悪だ。だから、 「ここで倒させてもらいます。放置など、出来ません! リベリスタの誇りに掛けて――必ず阻止しましょうッ!」 己が速度に身を任せて突撃。双のカトラスで繰り出すは、無数の刺突だ。 即座に撃破すべく一撃に全力を。残像が見える程の瞬撃で、人形へと攻撃を行って。 「あーあ、本当にあの人形は醜悪だねぇ。気持ち悪いったらありゃしない。 こぉーんな人形、さっさと殲滅して地獄に送り届けようかぁ」 「全く同感だな。操り手に至っては狂気どころか痴呆の域に到達しているとは……迷惑な話だ」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)がその後を続く。 葬識は無数の闇を己が力とし、ユーヌは符を取り出して影なる人形を形成。そのまま後方で支援を成す八雲に影人の護衛を付ける。また、事前に遠方を視認できる“目”や音を逃さぬ“耳”で現場の状況を二人が窺った為か、位置取りに関して多少スムーズに行けた様だ。 「オーゥ! コレはリベリスタの皆さんコンバーンワッ! でも痴呆とは酷いデース……まだベリーベリー正気デース! イェア――!」 「ぬかすなよ、脳の代わりに腐ったスープの詰まってる畜生が。片割れに至っては葉っぱではないか」 「名前からしてホンット自由だよなぁテメエらは。TVでも見て大人しくしてられねぇのかよ」 トムの放つ正気なのか狂気なのか分からない言の葉。それに対し、ユーヌに次いで『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が悪態を。 「テレビでは駄目デース! あーんな小さな画面で何が感じ取れると言うのデースか! クソでーす! あんなのクッソでーす!! K・U・S・Oデースッ!」 「クソクソクソクソうるせえよ! マジでクソ迷惑なアウトドアスープだなテメェはッ!」 ああ、やはり駄目だ。眼前のスープフィクサードは大人しくするという発想すら浮かばないらしい。火車にとっては予想の範疇なので何の問題も無いが、さて。となるとやはり、 「根を潰してやるしかねぇよなぁ? もう二度と人様に迷惑かける為に生えてきたりしねぇ様によ。 ……オラッ、今回は回復。テメェの仕事だ。そっちも良い仕事しろよぉ――優男?」 「ぬ、ぬぉ! こら、背後からいきなり蹴るのは止めたまえ……!」 火車は八雲の尻を蹴り、送られる文句はさらりと流して殺気をフィクサードへ。すると、 「全く。ある男がこれを“ゲーム”と言っておったが……その集大成が、此度か」 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が言葉を紡ぐ。 ある男は以前言っていた。“これはゲーム”だと。ただ単に敵対者と戦闘を行うだけではない、別の、もっと別種の“ゲーム”だと。 そうして今。その意味がしかと分かった。これだったのだろう。“こう言う事”だったのだろう。なんとくだらない、愚劣な者らの行う“ゲーム”なのだろうか。 「打ち払わねばなるまいな――こんな儀式を完成させる訳にはいかぬ」 展開する複数の魔法陣。急速に高められる魔力は力と成り、彼女の能力を高めて行く。 準備は整った。後は己の全力を奴らに注ぎ込むだけだ。まず狙うは数の多いハッピードールであり、特に巨大なノーフェイス――識別名、ヘヴンズドールは後半に集中し、倒す作戦。 弱き点から崩すのは常道だ。強き点を誰かが抑え続ける必要はあるが、それは、 「大きな両手ですね。ええ、まるでスパンキング専用に作り出されたかの様な造形です。 自分で常時ハッピーになれるとは実に驚嘆に値しますね――凄まじいイカ臭さが鼻につきますが」 「こんにちはトムヤム君――!! 伊藤さんデースッ! サンじゃなくて伊藤だから間違えるなよ!」 『ハンパ者な』街多米 生佐目(BNE004013)と『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)の二人が対応するべく動きだす。双方共に挑発を繰り出せば、一気にトムの顔は嫌悪の表情に染まり、意思無きヘヴンズドールはそのまま。とは言えトムも心中では冷静さを保っているだろう。 さりとてやる事は変わらない。ヘヴンズのブロックを行いつつ、己が集中を高める力を伊藤は施し。生佐目はその状態でハッピー達へと暗黒の塊を放って砕かんとして。 「あぁ、そうさ……」 恐怖を感じないと言うのは幸福なのだろう。 脚が動かなくなる。身体が震える。 そんな感覚が無くなるのだ。最高だろう――クソッタレな程に。 「――全力でブッ潰しに来ましたんで宜しく」 直後。伊藤は腕に備えられた五連砲を構え、狙いを定めて。 業火の銃弾を放ち――開戦の号砲と成した。 ●ハッピーハッピー 「オゥ! 痛いデース! とっても痛いデースッ! ――おいバイマこいつら潰すぞ」 「やぁトム本気だね! それじゃあ前衛は任せるよぉ!」 一方でトムらも反撃とばかりに行動を開始。バイマは後衛として、それ以外は数の不利を埋めるべくか前衛だ。列成す様に前衛は布陣してリベリスタらに対峙する。 そうしてくるは一斉の攻撃。数多のBSを付与せんと、目に付くリベリスタに襲いかかる。さすれば敵味方の区別を曖昧にする混乱が幾人かに染み込み、足並みを乱され――かけるが、 「くっ……混乱の影響ですかッ! 皆さんしっかりして下さい! リベリスタでしょう!」 黒乃が瞬時に動き、邪気を祓う光が戦場に満ちる。 このメンバーの中で最も早く動けるのが彼女だ。故に被害は最小。一喝する声に統制が取り戻される。勿論彼女自身が混乱する可能性もあるが、その時はその時だ。ユーヌも似た動きが出来る為に必ず駄目に成る訳ではない。 「やれやれ。この個体共もいい加減見飽きたな。インスタントの如く規格品なら実に楽で良い」 そしてそのユーヌはハッピー達を中心に、挑発を。 ただの挑発では無い。力を持った技と言うべき、言の葉の連続だ。木っ端の構成員なんぞより難敵なのは分かっているが、事実を口にする事も無い。注目を引き付けつつ彼女はそのまま側面へと。 己にだけ視線を集中させ、他者への攻撃を少しでも減らすつもりなのだ。 「で、あれば……妾も動かせてもらおうか」 刹那。ユーヌの動きに呼応する様にシェリーが移動を。 場所はユーヌの位置から見て反対。引き付けられているハッピー達の背後だ。ここまで移動しておけばまかり間違っても射線に巻き込まれる事は無い。故に、 「さぁ。紅蓮に呑み込まれよ。この中で息出来るは唯一無二――“死”だけだ」 そこから炎を発現させる。地より渦巻く形でハッピー達を炎が襲い、焼き払うのだ。酸素の代わりに喉へと吸い込まれるのが火の粉なれば、息は出来ぬ。だから“死”。死しか存在できないと。 「やぁ素晴らしい炎だね! だ・か・ら・こ・そ……倒させてもらおうか」 しかしそこへバイマの攻撃が届く。展開した魔法陣から射出された銀の弾丸とも言うべきソレは、シェリーの脇腹を穿ってなおも威力を落とさぬ勢い。 ユーヌが前衛展開する者らの“側面”に回り、そこから見て反対に回っている――と言う事は、今シェリーはほとんど前衛に近い位置にいる事に成る。彼女が後衛として後方にいるならまだしも、前線に近いのであれば攻撃が届くのは容易だった。 更にはバイマの攻撃自体が通常よりも更に距離を稼いで届かせる事の出来る攻撃なれば逃げる事は叶わない。ハッピー達の視線から逃れる事は出来たが、彼の目からはハッキリと、鮮明に彼女は映っていた。 「よぉ。酸っぺぇ世界三大スープたぁ、御大層な名前じゃねぇか。相手してやっから来いよHAPPY野郎」 もう一人のフィクサード、トムには火車が。逃さぬ様に横合いに移動しつつ、炎を纏う拳を繰り出し続けている。 しかし“逃さぬ様に”とは言うものの、積極的にブロックを行っている訳ではない。なぜならそれは、 「まぁテメェが逃げてぇなら好きに逃げろや。尻尾巻いてマジモンのエビみたいに逃げる、無様な腰抜けエビを一々追いかける程暇じゃねぇしよ?」 挑発の為だ。“逃げれるなら逃げれるぞ”と、あえて道を用意する事によって相手のプライドを揺さぶる。多少なりでも己を舐められる事に、人は忌避感を持つ者だ。故に本来ならば有効的とも言える挑発だが―― 「オーゥ屈辱デース……! こんなクソガキに舐められるとか憤死モノデース! デース、が!」 一息、 「今はお嬢の事を優先デース! それに数でそっちが多いなら余裕ぶっこいてる暇ありまセーン! ですので逃がしてくれるなら他の援護に……オゥ!?」 トムは乗らない。理由は言った通りの事で、優先は儀式の成功だ。 挑発に乗る気は無い。通らせると言うなら通らせてもらおうではないか。何より、その行為が己に向けられた挑発に対する挑発返しとなる。一石二鳥だ――そう思い無視しようとしたトムの頭部に火車の拳が振るわれて。 「あぁ? モノ分かりの悪い野郎だな……テメェの道楽にノッてやるって言ってんだよッ! いいから四の五の言わずに死ねやオラァ――ッ!!」 「オーゥ! なんて血の気の多い奴なんデショーカ! テメェが死ねやオラアアアッ!」 殴り合い再勃発。火車も考え無しにノーブロックであった訳ではない。万が一挑発に乗らなかった場合に備え、警戒していたのが幸いしたか。ギリギリの所でトムを抑える事に成功した。とは言え、急にブロックした為か体勢が若干不安定にはなったが。 「いらっしゃ~い☆ こちら地獄への片道切符。特別に無料配布中で、ここが終点。 今なら美少女の特別リップサービスもあるよ☆ VIPだね☆」 禍々しい鋏を手に、葬識はハッピーへと闇の塊と共に攻撃を仕掛ける。 同時に彼は後衛への射線も区切るべく動こうとするが――そこは若干噛み合っていなかった。後衛として動くはシェリーと八雲だが、シェリーはハッピーの視界に映らぬ様に別側面から攻撃を行っている。その彼女への射線を区切るべく動こうとするといざと言う時庇おうと思っているユーヌから離れてしまう。 では八雲の方に動けばどうなるか。八雲は現在影人に庇われており、射線を区切る意味が薄い。影人も長く保つ様な耐久力は無いので効果がゼロでは無いが、この行動をしてもユーヌから若干離れてしまう事と成り、やはりどう動いても噛み合わぬ結果と成ってしまうのだ。 「ハッピーだの、ヘブンだの、どこぞの怪しい白い粉かっつーの。 とっとと検挙させて貰うぜ! 一つも逃がさねぇ。全部纏めてここで終わりだッ!」 そして猛は依然としてハッピーへと。まだ複数生き残っている為か、同時に狙える電撃の武舞で攻めの展開だ。特に弱っている個体へと集中的に攻撃を重ねれば、限界が訪れたのか一体倒れて。 ――だが。 「ぐッ――!」 ヘヴンズの相手をしている生佐目の口から苦悶の声が漏れるのを、誰かが聞いた。 ●happy doll 彼女は伊藤と共にヘヴンズを抑えていた。しかし、常に抑えにだけ回っていたのではない。 攻撃支援の為に暗黒を放ち、トムがキレた瞬間には見計らって心の内を読心もした。 何故“君”付けされただけで怒るのか、それを知りたかった訳だ。まぁ読まなくても大体予想は付く。大方料理のトムヤムクンと一括りにされるのが嫌なのだろう。なんとも単純な理由で止めて欲しいが、実際心中を読んでみればその通りだったので救いようが無い。 だが、その瞬間だ――トムの心を読む為に意識を別に傾け、行動を消費したその時。隙ありとみたヘヴンズが全力の一撃を放って来た。幸福そうに口の端を釣り上げて、 「――!!」 奇声を発して両名薙いで弾き飛ばす。 「ぐ、ぅッ――! こ、のスパンキングドールが……! トムヤムクンでも飲んでればいいものを!」 衝撃に、血反吐吐きながらも立ちあがる。 まだ倒れる訳にはいかない。運命を消費してでも、抑えねばならないのだ。倒れたのは攻撃支援の為に身を削ったのが少しばかり響いたのだろうか。 そして倒れる訳にいかないのはもう一人いて、 「泣いてる、暇なんて、ありゃ、しないよね……!!」 伊藤だ。奥歯噛み締め、痛みと恐怖を押し殺して、命削ってそれでもヘヴンズへ。 脚が勝手にフラつくが、頬を勢いよく叩いて気合いを入れる。怖がっている場合では無いのだ。故に、 「根性出せや、伊藤ッ……!」 己を叱咤する。 彼はビビリだ。臆病者だ。 だが彼は、それ以前に、 “逃げない”男だ。 己で恐怖と向き合う者だ。恐怖があればボロ泣きするが、幸福があれば馬鹿笑い出来る者だ。そんな彼には意地がある。抑え続けていれば、必ず仲間が来てくれるだろうから、 「負けるもんか……意地があるんだ、僕には……! だから――」 駆けて、脚を天に蹴り上げて、渾身の一撃。 敵を滅さんとする至高の斬撃を作り上げる。 「勝つのは、僕達だッ――!!」 雄叫び一閃。恐らく現状、彼の出し得る最高峰の威力がソレに宿っている。 正に全力全開。これ以上は出せぬと言う文句なしの一撃。 それ、を、 「――ケラッ ケラッ ケラッ――」 天国人形は満面の笑顔と共に、砕いて潰した。 相殺などではない。ダメージはしっかりと受けている。 その上でヘヴンズは伊藤を攻撃諸共、同時に踏み砕いたのだ。直撃する威力は伊藤の余力はおろか意識すら奪って―― 「く、そ……ぉ……」 また、ほぼ同時に黒乃が倒れる。 BS解除として大きく役割を果たしていた為か、“だからこそ”狙われたのだ。バイマの放つ銀弾の一撃が彼女を穿ち、その身を地に舐めさせる。ただ、 「汝らの心に……勇気を……ッ!!」 直前に、最後の光を放てたのは彼女の、リベリスタとして意地か。 さりとて。もはや状況は悪い。 「おのれッ……お主らの罪、死で贖って貰うぞ……砕けよ!」 シェリーが四色の魔光を、それぞれ別軌道を描かせ放ち、バイマへと着弾させる。 動きを縛ろうという狙いだ。が、射程の距離を活かしてギリギリまで離れようとするバイマに、四重奏は少々分が悪かった。バイマを相手取る優先順位が低かったこともあり、彼はほぼ自由に動く事が出来た為である。 「トムヤムクンは嫌いじゃあ無いんだけどね。むしろあの酸っぱさは好きだよ。 同じ名前を共有する君の味はどう? ――美味しいのかな? その命の味は」 「HAHAHA! ――んな名前じゃあねぇっつってんだろ殺すぞ」 「しぇっぺえスープが粋がってんじゃねぇよ。余所見てる暇があんのかぁ?!」 舌を出す葬識が視るのはトムの命。 殺したい。命の味を舐めねば渇きを潤せない。ハッピーに一撃叩き込み、死骸とするがそれでは足りぬ。足りぬのだ。 火車はそんな視線の先でトムと殴打戦を繰り返すが、一人では押し切れなかった。肉体を硬質化させ、命が削れる程に強さを増すも、その輝きと炎は命の根元に届かない。 「どいつもこいつも過分な名前が好きな事だ。仲良く煮込んで、やりたかった所だがな……」 「ッ! 諦めねぇ、ぞ……!」 己の耐性で混乱を防ぎ、味方の邪気を祓うユーヌ。 猛は最後のハッピーの首を圧し折ってヘヴンズへと相対するも――限界の方が、近い。八雲の回復支援はあるが、所詮彼はサポート。ダメージがその支援を超えたのだ。 故に叫ぶ。血に塗れた身体の痛みすらどうでもいい程に、 「いつか! 絶対ッ! ――お前らを終わらせてやるッ!!」 幸福が満ちる。笑顔が輝く。 楽しい楽しい狂気の感情を引き連れて。彼らは往くのだ。 儀式中枢。仇野縁破の元へ。 漆黒の色を宿す蝶が、戦場飛んでいた。 陽炎の様にゆっくりと、ゆっくりと―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|