ぽん。ぽん。と小気味良い音でボールが蹴り転がされる音が続く夕闇迫る、とある私立高校のグラウンド。 休日に行われたサッカー部の練習試合から、だいぶ後とあって、人気は殆どない。 しばらくたった後、ぽんぽぽぽ……ぽん。とボールは止まってしまった。 「おい、どうした」 パスが一向に来ないので、国見遊馬は相手である桐尾利雄へ声をかけた。 桐尾は口を尖らせ、足で止めているボールを見下ろしながらボソボソと言う。 「そりゃあさ、超格下相手に俺とお前のミスで負けかけてさ、主将のゴールで逆転勝ちしたぜ? でもよ、だからって俺らだけ打ち上げ返上で、居残り練習しないといけないとか、いじめじゃね?」 「……まぁな……。あいつら俺らをネタに騒いでるんだろうな」 国見が見やるのは、駐車場を隔てているものの目と鼻の先にあるファミリーレストランだ。 今まさにチームメイト達とマネージャーが祝勝会をあげている会場である。 「窓から俺らがパス練習してるのを見て、笑ってんだよ……むかつく」 桐尾は鬱々とした口調で言い続ける。 「……だろうな」 国見の胸に、どす黒いものが広がった。 そのときだ。 「少しお時間とかいただけるのよろしいですか?」 変な日本語が二人の背中から聞こえた。 振り返れば、スーツの男が、パステルカラーの携帯電話めいたものを二つ持って佇んでいる。 夕日を背にしている彼の顔立ちは全く分からない。 「な、なんすか」 警戒心をあらわに国見が尋ねる。 「私と盟約を交わし、キュアキュアのプリティになってくださいませんか」 「え?」 「は?」 二人の男子高校生は、意味不明すぎる話に固まるものの、そんなことは全く気にせず、男はまくしたてた。 「簡単です。この素晴らしいアーティファクト『トラジェディヴィクティムアルファ』と『トラジェディヴィクティムベータ』で、世界の闇と戦っていただく。問題ないです」 「あ、いや、え?」 と言っている間に、男は『トラジェディヴィクティムアルファ』と『トラジェディヴィクティムベータ』と名前がついているらしき携帯電話めいた物体を二人に投げてよこした。 とっさに受け取ってしまう二人は、操られるようにそのままフラップを開いた。 瞬間、中から飛び出した虹色に輝くリボン状の光線に体を包まれてしまう。 「熱砂の光、プリティリオ!」 黄色のヒラヒラ愛らしい戦闘服に身を包んだ桐尾が叫んで、ファンシーなポーズをとる。 「涼風の雫、プリティユマ!」 水色のヒラヒラ愛らしい戦闘服に身を包んだ国見が叫んで、ファンシーなポーズをとる。 そして手を握り合い、身を寄せあった桐尾と国見は、同時にシメのセリフを述べた。 「「二人そろってキュアプリティ!」」 キュアプリティはそのまま、超人的なスピードと跳躍でファミリーレストランへ特攻。 すぐさまファミリーレストランから阿鼻叫喚が聞こえてくる。 「頑張ってください、私のために……」 その様子を満足に見た男は、悠々とグラウンドの前にある国道に出ると、個人タクシーを拾って去っていった――。 「トラジェディヴィクティムとかいうアーティファクトで、一般人を変な格好にさせては人を襲わせるアザーバイドがまた動くぞ」 『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)が、ため息混じりにリベリスタたちに告げた。 「なかなか勤勉に働く奴だ。今度は二人も犠牲になる。しかも戦闘系魔法少女なキャラにされるのは、男子高校生だ」 哀れみ満載で闇璃は、冒頭のような事件の概要を告げ、イライラと憤懣を吐き出す。 「何故毎度毎度、似合わない相手にやらせるんだろうな!」 と。 熱砂の光のキュアプリティは、一発が重いパワー型。気迫を放って不運を付与する範囲攻撃もできる。 涼風の雫のキュアプリティは、命中回避に優れるスピード型。回復の術も持ち、また全体攻撃は魅了の力がある。 男子高校生のキラキラきゃるるんな女装に魅了されるというのは、たとえ相手がイケメンでも複雑だが……。 「隣のファミレスにつっこまれたら、収拾がつかん。なんとかグラウンドの中……いや、国道沿いの駐車場に面している上に、ファミレスの窓から見える人目が多い場所だ。人目の無い場所へ移動する必要があるかもな。例えば……グラウンド横の体育館の中とか」 校舎の中も、休日の夕方とあってほぼ人は居ない。だが完全に無人ではないと闇璃は言う。 あまり騒げば、不審に思った人がやってくるのは、どこへ移動しても同じだろう。 「お前たちは、アザーバイド登場よりも一足先に現場へ到着できるが……今までの動きからしてかなり慎重な奴だ。グラウンドに不審な気配がすれば、さっさと逃げ、予測していない場所でキュアプリティを作り出してしまうだろう。そうなれば確実に後手に回り、惨事が起こるのは目に見えている」 前回同様、大体の流れが分かっている状態で戦闘に持ち込むべきだと、闇璃は主張した。 「ま、どうするかはお前らの勝手だが……、夕方で視界はよくないものの、人目は多い。誰が見ているとも分からんから、慎重にした方が身のためだと思うぞ。欲を言えばアザーバイドもそろそろ片付けたいが……」 とはいえ、今回は、止めるべき対象が二人に増えた。アザーバイドに関わる余力があるかどうか、難しいところだ。 「今までは一人、今回は二人……このまま増えていくと仮定すれば、ますますアザーバイドを片付ける余力はなくなっていく。さっさと、奴の情報だけでも手に入れたいところだな」 闇璃は、ふぅと息を吐いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月17日(日)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●パンピーレベルでした 夕暮れのグラウンド、影を長くした二人の男子高校生が、ボールを蹴り合いながら鬱屈した思いを述べる。 それを物陰から眺める者、居残っている風を装う女子高校生、すべてリベリスタである。 「……いつの間に?」 ずっと注視していたはずなのに、湧いて現れたように忽然とグラウンドに現れたスーツの男を見つけ、『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は驚く。 フォーチュナから聞かされた状況と全く同じように話は進み、スーツの男たるアザーバイドは、男子高校生に二つのアーティファクトを投げた。 「来よったな!」 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)はアザーバイドへとエネミースキャンを仕掛けた。 「……?」 そして首を傾げる。 一般人並の戦闘力しかない。 ただ、すべての力を回避に振ったような――。 「まぁ……倒せそうなんやったら……!」 ミッドナイトマッドカノン。 漆黒の影が疾駆、アザーバイドを飲み込もうとして。 「!?」 よけられた。 その間に、高校生はキュアプリティに変身。当初の目標であるファミリーレストランへと走り始める。 「出たわねキュアプリティ! あたしこそが世界に闇を振りまく組織、アークーの幹部よ! お前達の居残り練習は全力で笑わせてもらったわ! そして次はボコボコにされる様を笑ってあげるわよ!」 赤と黒のセクシーなボンテージ系ファッションに身を包み、悪の女幹部よろしく、『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)は高笑いとともに現れたのだが、一瞥もされなかった。 「ねえ、桐尾君に国見君。……黙ってて欲しかったら、あっちで勝負しましょう」 魔法少女は正体がバレてはいけないものだろう、と『』蔵守 さざみ(BNE004240)は体育館を指さし、キュアプリティに話しかける。 だが熱に浮かされたような目で走るキュアプリティ二人は、さざみの言葉に反応しなかった。 「魔法少女マジカル☆ふたば参上! 魔法少女としてあっちで一つ手合わせをお願いできるかな? 貴方達はポーズから何からなってないから教えてあげる!」 双葉も必死に名乗りをあげるのだが、空回り。 「うぅ、魔法少女ネタで攻めるべきじゃなかったのかなあ。なりたくてなったわけじゃないし、もしかして自分が魔法少女だってこと、自覚してない?」 あまりの無視っぷりに、双葉は困惑してしまう。 リベリスタ達は、体育館で戦闘すると決めていたので、グラウンドで戦闘を仕掛けるのに一瞬躊躇してしまった。 「まさか誘導がこんなに難しいなんて」 戦闘に入るまでの考えが甘かった、と言わざるを得ない結果に、セレアはがっかりしてしまった。 ノリノリで魔法少女の世界観に合わせる準備をしてきたのに、のってきてくれないのは悲しい。 「っとぉ、惨劇はお断りー!!」 思った通りにならない戦場に、リベリスタ達が困惑している間にも、キュアプリティは、フェンスを飛び越えファミリーレストランへ行こうとしてしまうので、『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)はとっさに彼らの前に飛び出した。 ホーリーメイガスとしては不本意な立ち位置だが、このまま一般人が虐殺されるのを指をくわえて見ている訳にはいかない。 マジックアローを発動、水色のキュアプリティに向けて放つ。 攻撃を仕掛けられて、ようやく敵は停止した。 とはいえ、止まったのは攻撃された、涼風の雫プリティユマだけ。 「邪魔すんなっ!!」 ユマはタンッと軽やかに地面を蹴ると、ふわんっとコスチュームの腰の部分にある長いリボンをたなびかせた。 空中にキラキラした飛沫が大量に出現した。 「まずい!」 仁太が息を呑む。 「キラキラ魅惑。香りよ弾けて! キュアップリティッシャワー!!!」 魅了の力を秘めた微細な水滴が、リベリスタ達を飲み込む。 「魔法少女マジカル☆ふたば! キュアプリティのために頑張る!」 「わ、わし……、第三のキュアプリティ!! プリティジンジン!」 可愛いポーズを決める仁太に、 「何いってんだオッサン!!!」 忌避は愕然として叫ぶ。 「全然かわいくないから!!」 今の問題は、そっちじゃない。ともかく、キュアプリティシャワーによって、仁太と双葉が魅了されてしまった。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)はブレイクイービルを使おうか悩んだが、それよりも、止まらないプリティリオの足止めを選ぶ。 「出たな、キュアプリティ! ここで俺が引導を渡してやる! ついてこい!」 走り出て、挑発の言葉を投げるも、やはり意に介されない。 しかし行く手を遮った彼は面倒だったのか、プリティリオの鉄拳が侠気の盾にぶち当たる。 「仕方ないわ。ここで倒すしか無いのね」 さざみは、覚悟を決めた。 ●おしごとでした この混乱に乗じて、アザーバイドは国道側へと走ろうとするも、 「逃げるおつもりですか」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)と、 「蒼穹に輝く翡翠の月、正義の光が地上を照す! リベクリスタル参上!」 ニット帽の女子高生姿となった『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)に立ちはだかられた。 「逃げます」 アザーバイドは何を聞くんだと言わんばかりである。 瑛は呪印封縛をアザーバイドにかけた。アザーバイドはまんまと呪縛にかかり、困り果てたようにリベリスタを見た。 「貴方は誰ですか!? 目的はなんですか?」 瑛としては、キュアプリティのいない所で訊きたかったが、キュアプリティを移動させられない状況のため、致し方なくこの状況でアザーバイドに尋ねる。 「申し遅れです。ごめんなさい。私は、ザリテェです。目的は、業務です」 アザーバイド、ザリテェは素直に答えたが、やはり日本語があまりうまくはないようだ。 「業務?」 「仕事です。服務です」 瑛は、うーんと唸って頷いた。なかなか言葉のニュアンスが通じない。 「いや、わかりますけどね、それは。聞きたいのは、内容です」 「えぇとーどう申せばよろしいか」 アザーバイドは、困ったように頭を掻き回す。 自分が普段使わない言語で、説明をするというのはなかなか難しいものだ。 瑛には分からない発音でもごもごとアザーバイドは何事か言い、手を振り回す。とはいえ、仕事内容をボディランゲージで伝えるというのもなかなか難しい。 今までの勧誘文句は、マニュアルか何かで丸暗記していたのかもしれない。彼はこの世界の言葉が得意ではないようだ。 「彼自身に害は無さそうですね」 彩花は、まったくアザーバイドがこちらに攻撃してこないのを見て、構えを解く。 アザーバイドは、一生懸命片言で喋り出した。 「仕事は、集めます」 言いながら、指差すのはキュアプリティ。 「美味しい。あの感情」 今度はファミリーレストランを指す。 「感情。食べる。私達」 最後は自分を指さした。 瑛は困惑して、彩花の方を助けを求めるように見た。 アザーバイドもうまく伝えられなくて、困っているようだ。 「感情を食べる人たちということ……でしょうか。感情を集めるのがお仕事、ということなのでしょうね」 天才肌の彩花とて、それくらいの内容しかわからない。『あの感情』とは、どのようなものなのだろう。 「えぇと、こういうことは、やめていただけませんか」 瑛が、聞き取りやすいようにゆっくり話すと、ザリテェは言い返す。 「そちらも、こういうこと、やめていただく。よろしいか」 彼の言う『こういうこと』は、呪縛のことらしい。 「そういうわけにも」 「そういうわけにも」 お互い、譲れないことだけが認識された。 睨み合う両者。 アザーバイドは、呪縛のために動けない。 情報収集することしか決めていない彼女らには、このアザーバイドの処遇を決断できないのだ。 「ここを放っておいて、キュアプリティにかかりましょうか」 「でも、せっかく今、捕まえてるのに……」 どうにも悪意が感じられず、そしてあまりにも一般人のサラリーマンにしか見えないアザーバイドに、瑛と彩花はこのままザリテェを殺していいのか迷う。 ザリテェが話せばわかってもらえそうな人物だという印象が、彼らの殺意を鈍らせる――。 ●想定外でした アザーバイドの処置について、瑛や彩花が相談したくても、キュアプリティに当たる面々にその余裕はなかった。 義弘以外、熱砂の光プリティリオに当たる者がおらず、さりとて義弘が目を離せばプリティリオは即座にファミリーレストランへ特攻してしまうのは目に見えていて、実際問題、魅了状態を解除できるのはセレアしかいない。 しかし、セレアのブレイクフィアーだけでは追いつかないことも事実。 魅了状態をすぐに解除できても、一回は味方への攻撃を許してしまわざるを得ず、また回復に手番をとられて、うまくプリティユマへダメージを与えられないのだ。 プリティユマは何度も何度もシャワーを発動し、リベリスタを魅了させる。 そして不意に、愛らしい踊りとともに、 「ふわふわ慰め。風よそよいで! キュアプリティパルフメ!!!」 と回復してしまう。 「ああ、もう! いい加減に攻撃させてよ!」 セレアはイライラと叫ぶ。 「わしがプリティジンジンやでー! 狙い撃つでぇー」 「うっさいのよ! 何回かかったら気が済むのよ」 巨銃を連射してくる仁太に、セレアは癇癪を起こしつつ、ブレイクフィアーの光を放った。 「魅了で殴り合いを邪魔するなんて、無粋ね」 さざみは眉をひそめ、ユマに四色の光伴う拳を向ける。 しかしユマの回避力は、さすが涼風の雫。なかなかクリーンヒットとはいかないのだ。 「うぅ、魔法少年かわいいよ! とか美少年の写真が! とか言ってられない状況? きぃが思ってたのとちがうー!!」 想定外の光景にうろたえつつも、天使の歌を歌う忌避。同士討ちで沈むなんて、馬鹿馬鹿しい状況にさせるのは、ホーリーメイガスとして許されない。 「あぁ、もうそんな格好の男の子とか変態だよ! どういう理由でそんな趣味に……?」 忌避はうまくいかない苛立ち紛れにぶつぶつ言うものの、彼らとてなりたくてこんな格好になっているわけではない。アーティファクトの力で、そんな格好を強制され、自我を失って戦っているのだ。 芳しくない戦況に、とうとう彩花は、踵を返した。 「私はこちらに加勢します!」 彩花がユマを地面にたたきつけた。 「げふっ」 血を吐く可憐な水色の魔法少年。 「肉弾戦が得意とあらば望むところです。私が本物の近接戦闘を教えて差し上げましょう」 ようやく正気に戻った双葉と仁太も銃口をユマに向ける。 「何度だってやってやるぜ! キュアプリティシャワー!」 と、ユマは、またシャワーを発動し、頼みの綱だったセレアが魅了されてしまった。 義弘は、背中から双葉の黒い鎖となった血液に飲まれ、苦しんだ。 「くそ、だが、離れる訳にはいかない。ここで抑えこまないと」 義弘は必死に輝くメイスをリオにぶつけた。 「さっさと沈めぇえ! キュアプリティアターック!!」 リオが叫び、思い切り炎を燃え盛らせた拳を義弘に打ち下ろした。 打撃力のリオの打撃は強大だ。全身燃やされ、義弘はたまらず崩れ落ちた。 「やったか?」 しかし、義弘は首を横に振って、グラウンドの砂を掴んだ。 「そう簡単に、沈むものか。……俺は何度だって立ち続けてやる!」 運命の力が彼を立ち上がらせる。 「ちっ、仕留め損ねたかよ……」 リオは舌を打ち、立ち上がった義弘を睨む。 しかし、彼は知っている。このアーティファクトで変身した一般人の強さは、一人で八人のリベリスタを相手にできるほどの力があることを。 なぜなら、彼はもう二度もこのアーティファクトの事件に関わってきたから。 だからこそ、彼だけは気づけたはずだ。 今まで成功してきたおとり作戦と今回の作戦の、決定的な違いについて。 ●惨劇でした 義弘がフェイトを使用せざるを得なくなった状況を見てしまい、瑛はとうとう、アザーバイドを諦めた。 瑛の強結界のお陰で人目こそないが、このまま泥仕合を眺めているわけには行かないのだ。 「命拾いしましたね。もうこんなこと、やめてくださいね!」 とザリテェへ言い放ち、ユマの魅了を食い止めようと瑛は走る。 「さあ、戦いましょうよ」 さざみの四色の拳が双葉を叩きのめし、 「ようやくぶっ放せるー!」 どこかスッキリした表情で、セレアは葬操曲・黒にて血液を黒に変え、瑛を含めたリベリスタ達を溺れさせる。 「くそ」 義弘は、見るに見かねて、神の光で邪気を払った。 「っしゃ!」 「!!」 その一瞬をプリティリオは逃さなかった。 超人的な跳躍で、ファミリーレストランに突進。 「待て!」 義弘が追う。 「ちょ、行かせないって言ってるでしょ!」 忌避も追う。 だが、リオの足の方が速かった。 「不幸に染まれ、キュアプリティジール!!」 リオに飛び込まれた店内から、老若男女の悲鳴に混じって、彼の技の発動セリフ、そして破壊音が二つ聞こえた。 アザーバイドが、それを見て喝采をあげる。 喝采の言葉の内容は、聞き取れない。彼の世界の言葉を聞き取れる能力がある者は、この場所にいないからだ。 だが、狂喜乱舞する彼を見れば、彼の目的が達成されたことは、誰しもが理解できた。 もうなりふりを構っている余地はない。双葉は渾身の力で 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 葬送曲・黒でグラウンドを飲み尽くす。 さすがにもう、プリティユマも限界だった。 ばったりと倒れ伏し、一介のサッカー少年へと姿を戻して気絶する。 「~~~~~!!」 言葉として聞き取れない絶叫がグラウンドの真ん中で響いた。 アザーバイドすら飲みこんだ双葉の血によって、ザリテェが断末魔をあげたのだ。 ひくひくとまだ動いて、死にぞこないとして苦しんでいるザリテェに、瑛は思い切って式符・鴉を向かわせる。 それがとどめだった。ザリテェは動かなくなってしまった。 彼の本当の目的が何か、知ることはできなかった。 とはいえ、もう、このトラジェディヴィクティムによる事件も起こらないということではあるが。 「これでよかったんでしょうか……」 瑛は悩んだ。 だが、立ち止まっているわけにも行かない。瑛は仲間を追って、ファミリーレストランへと走る。 「おい、やめろ!」 と叫びながら義弘と忌避は、ファミリーレストランに飛び込んだ。 が、眼の前に広がる惨状に唖然とするほかなかった。 壁や窓にへばりつく血と臓物で店内はデコレイトされ、食器の欠片と食材、ジュースだろう色とりどりの液体や固体に血が混じったものが床に広がる。 「……こんなに……」 忌避は口元を覆い、呟く。 ダブルアクションに成功したキュアプリティの範囲攻撃により、狭めの店内はほぼ全滅だった。 当然、国見たちのサッカー部のメンバーに生存者など、いない。 キュアプリティを止められなかった。ということになるだろう。 「そうだ、キュアプリティは?!」 義弘は周囲を見回し、そして。 「うあ、あ……あ……」 過呼吸を起こし、スプラッタの舞台となった店内の中心で、血が染みこむのも構わず座り込んでいる桐尾利雄を見つける。 そう、彼は既に変身が解けていた。隣には、トラジェディヴィクティムアルファが転がっている。 「どうなりましたか!?」 追いついた彩花は、叫んだものの、一瞬で状況を把握し、息を呑んだ。 続々と追いついてくるリベリスタも、言葉を失う。 鉄臭く生臭い世界のまんなかで、美少年は発狂寸前である。 「こ、こんなはずじゃ……」 双葉はおろおろしつつも、ずっと利雄をこの状態で放置しているわけにもいかないので、血だまりを踏み越えながら、彼に近づき、そっと抱き起こした。 正気に戻った途端に、血まみれの世界では、一般人の意識では、平静でいられるわけがないだろう。双葉は、利雄に同情する。 「わしが背負おうか」 仁太が双葉から利雄を受け取った。 「……」 さざみは、血だまりの中に浮かぶトラジェディヴィクティムアルファを拾い上げた。 二つ折り携帯電話のような形のそれをおもむろに開くと、ゲージのようなものが表示されていて、満タンなことが分かった。 「何かを、集めた……ということかしらね」 「感情だそうですが」 と、瑛は、アザーバイドから聞いた内容についてようやく全員に報告できた。 「なるほどな。確かに今までも人々の幸福を集めようとしていた……と類推できることが多かったように思う」 義弘が今までのトラジェディヴィクティム事件を思い返して頷く。 「ぐったりしてる美少年ってのは、素敵なはずなんだけど……これはちょっといただけないわね」 セレアは利雄から目をそらした。 「……グラウンドに放置しておりますが、もう一人の、国見さんはどうしましょう。勿論、神秘の秘匿のために黙秘をお願いすることになるでしょうが、……なんて説明すれば、いいでしょうね……」 途方に暮れた彩花の言葉に、リベリスタは一様に鬱々とした表情を浮かべた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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