● ――それは決して、常人の耳には届かざる声だった。 始まりは何時だったのかも定かではなく、彼の声は徐々に、そして気がつけば誰の耳にも届かないものとなっていた。 神に祝福された者。 聴く者を引き込み、魅了した彼のことを、人々はそう称し、讃えた。 その名がそのもの、彼の身に降りかかるとは露知らず。 神に――運命に祝福された彼の声は、神のためにのみ歌われるようになる。 その歌声は神にしか届かず、誰の心にも残ることはなくなった。 その名は次第に忘れ去られ、誰よりも歌を愛した彼の絶叫は誰にも届かない。 その絶望を。張り裂けんばかりの声を――事実血反吐を吐きながら張り上げた声を聞き届ける者が現れたならば。 その歌声を理解してくれる者。称賛してくれる者が現れたならば。 その『楽団』に身を委ねたとして、誰がそれを責められようか。 たとえその選択肢が道を踏み外すものだったとしても。 そこにしか救いはなかったのだから。 『さぁ、』 今もまた誰にも届かない声が響く。――いや、今はもう届くのだと嘲笑を浮かべる。 この声に魅了された数多の屍が彼の背後にはいる。 ならばと。声高らかに、天まで届けと歌い上げる。 『諸君、喝采せよ!』 こんな運命を背負わせた神を、天を仰ぎ唾を吐きかけて。 『一つの喜劇の終幕だ!』 ただ一人、真に届けるべき者のために彼は歌う。 ● 「先日の『楽団』の件からまだ混乱も傷も癒しきれていない中で、……いえ、むしろだからこそ、再び『楽団』に新しい動きが観測されています」 アシュレイさんが予測された事態について、既に周知の方もいらっしゃるかとは思います。そう言いながら『あさきゆめみし』日向・咲桜(nBNE000236) が続ける。 「――ケイオス及び『楽団』による三高平市の制圧。アシュレイさんの読みは、大方のところで合っているようです。現在、フォーチュナ総員含めその精査に当たっていますが、幸いにも……と言っていいのかどうか。アシュレイさんのご助力の下、その初撃は水際――本当に瀬戸際のところで食い止めることが出来ています」 その防衛のために、『使い捨て』の駒になることも厭わぬ三高平市の住民達が命を賭して『楽団』を食い止めている。 「彼らの目的は、本命……精査された情報とアークの本戦力であるあなた達が揃うまでの時間稼ぎ。無茶は、決してしないようにとは言い含めてはいます。生き延びられるならばそれを優先してくださいとも。ですが……」 しかし相手は数の暴力。市全体が包囲され、匿うべき人々は本部へと避難をし、撤退が許される状況は既に過ぎ去っている。 それでも。彼らはこうなることがわかった上で、『使い捨て』になることを志願したのだ。 ならばそれを命じた自身も強くあろうと、咲桜が前を向く。 「今回皆さんにお願いしたいのは、前回も私が予報した……『家族』を弄び、嘲笑った『奏者』の討伐です」 今回は前回よりも万華鏡に近く、そして何より前回の情報もあり、『奏者』についてより多くの情報を得ることが出来た。 「彼はどうやらアオイデ、と名乗っているようです」 アオイデ。男性でありながら歌の女神の名を称するように、フェイトを得るまでは高音の声楽で名を馳せていた『奏者』。 フェイトを得てしまったが故に進化してしまった声帯は、常人に聞き取れる音域を逸脱してしまい、彼の人生は大きく歪んだ。 そして誰の耳にも聞き届けられることがなくなった彼の『音』はケイオスに見初められ、人ならざる死者を魅了する音楽へと昇華された。 「彼は現在、150体ほどのゾンビと……前回の騒動で亡くなった『家族』の体を継ぎ接ぎしたゾンビを引き連れて第二防衛ラインへと侵攻中です」 十人いた『家族』のリベリスタ、そして非革醒者達。それぞれの使える部分を継ぎ接ぎして作られたちぐはぐな体。その数は全体の半分ほどまでに減り、能力も十全の状態には劣る。だがそれでも通常のゾンビよりも脅威であることに変わりはない。 「今回はおそらく、アオイデ自身も戦闘に参加するはずです。……彼自身の戦闘能力はそれほど高くないはずですが、彼は自身の歌によって自分自身をも操ります」 それはアオイデの『演奏』が楽器ではなく声であるからこそできる芸当。 決して止むことのない歌声。もしかしたら彼自身、既に自らの歌の操り人形と化しているのかもしれない。 そんな自身の生死さえあやふやなアオイデに、だからこそ前回の捜索網では引っかからなかったのだろうと咲桜が告げる。 「ですが今回はその姿を隠さずに現れています」 運命予報で見た彼の最後の言葉。終わるのはアオイデ自身の喜劇か、それともアークなのか。 「それを決めるのは、あなた達です」 こんなところで終わってなるものかと強く強く前を見据えて。 「私達の箱舟は、こんなことでは決して沈まないのだと――見せ付けてやりましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月14日(木)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――普段なら人の気配で賑わう市街地。 「咲桜様。まずは状況の確認を」 そんな姿を忘れてしまったかのように静まりかえる空気の中を駆け抜けながら、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が、通信状況の最終チェックも兼ねてアクセスファンタズムへと語りかける。 『敵の最前線、……斥候と思しき部隊までこの速度でおよそ三分後に衝突予測です。――皆様、通信感度は良好でしょうか』 それぞれからの応答を確認し、咲桜が「続けます」と現在の足止め班の状況を伝え始める。 『現在、足止め班からは計6名の死者が出ています。内訳はホリメ班2名、マグメ班から4名です。ホリメ班は翼の加護や自前の羽を使い、家屋の屋根や空中からの急撃を。マグメ班は地上から上へ向かおうとするモノ達の撃墜と足止めを担当。やはり役割上マグメ班の被害の方が大きいですね。――双子と通信リンク成功。まもなくそちらに合流します』 言って、直後に羽ばたきの音と足音が聞こえてくる。 「……キミ達が双子の指揮官?」 一瞬身を堅くさせて警戒しながら、『うろこひめ』ターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)が問う。 「ええ、その通りです」 そう翼を折って地上に降りる少女の姿と、 『こちらでも合流を確認。間違いないです』 咲桜の声に僅かに警戒を緩める。 「……まだ気を緩めるには少し早すぎるよ」 少女の隣に立つ気の強そうな少年が言い、咲桜の告げた現状により詳細なデータを付け加える。 「最初、あいつらは住民を『取り込もう』としてかばらばらに動いてたけど、住民が避難してることに気がついてからは斥候を先行させて纏まって行動するようになった。全くもって忌々しいことに僕らだけじゃヒットアンドアウェイを繰り返しながら斥候を蹴散らす程度が精々――それすら6人も犠牲を出してやっとだったけど、ようやく準備が整ったみたいだし、これから打って出るには結構いい条件かもね」 少なくとも、不意打ちを食らうことはなくなると笑う。 敵の陣形は斥候が20体ほど。その中に3体の元家族。 残りは円陣を組みながらゆっくりとこちらへと向かってきているという。 「元リーダーやサブリーダー……実力が比較的あった個体を中心に15体ほど自分の周囲に寄せて、残りは普通のゾンビの中に混ぜて『肉壁』の強化をさせている」 心底嫌そうに言う少年。何度も繰り返し接触し、攻撃し、その度に『使い捨てられる肉壁』にされたゾンビの姿を思い出しているのだろう。 「ともあれ、足止め感謝。一旦皆を集めて、再編成させて……アタシ達の後ろから援護を頼める?」 『ネメシスの熾火』高原・恵梨香(BNE000234)が言うと、少年は驚いたように目を見開く。 「何を驚いているんですか?」 その表情の中に引っかかるものを感じて、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が首を傾げる。 その様子を見ながら、今まで黙っていた少女がくすりと苦笑する。 「私達足止め班がそのまま囮になって突撃して穴を……少なくともアオイデを囲む元リベリスタ集団の元まではあなた方を送り届ける、と。少なくともこの子はそのつもりだったようです」 「……アタシや恵梨香なんかは特にそう感じるのかもだけど、――聴きたくないし、聴かせたくないでしょ。死人を操る歌なんかさ」 『Le blanc diable』恋宮寺・ゐろは(BNE003809)がそう言い、 「あれの仲間入りしたいと仰るのでしたら話は別ですがね」 モニカが皮肉げに続ける。 既に仲間を何人も失い、だからこそわかったことがある、と。――モニカは挑発的に少年を見つめる。 「……やっぱ、アンタらはアークのリベリスタなんだな」 少年は呟き、それから頷いた。 「部隊を一旦引き上げさせるには時間が掛かりすぎる。斥候がいる場所に集合させて撃破するのと同時に編成してみせよう」 力強く言うのを聞いて、 「フッ……なら早速暴れまわるとするか!」 『神速』司馬・鷲祐(BNE000288)のその一言で、状況は開始された。 ● 「来たか……ほぅ、沢山居るな……」 目視できるほどに接近する『楽団』本隊を見て、『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が薄く笑う。 斥候を蹴散らしてその勢いのまま、本来の性格は鳴りを潜ませ続け、今も戦いを望むように前を睨み続ける。 この抗争にはずっと傍観を決め込んでいたはずのシルフィア。だがそうも言っていられない事態にまで追い込まれた状況を楽しむようにして構える。 『斥候の数は20体丁度でした。その中に足止め班にいた者の姿は見受けられず……あの中に取り込まれているようです』 「……皆には、死ぬ時は全て出し切ってから死ぬようにと指示を出しています。殆ど休息も取らずに侵攻している現状、彼らはあまり驚異にはならないと思います」 だから、と。 「早く楽にさせてあげてください」 少女の声がすとんと落ちる。 『楽団、作戦開始位置まで到達しました。各位、構え』 咲桜の声が全員の耳元に届く。 『楽団』の目は確実にその前に立ちはだかるリベリスタ達の方を向いている。 全員で羽を広げて待ち構える姿は、実際よりも人数を多く見せるだろう。 あたかも、そこに全員が集結しているかのように思わせるには十分すぎる。 「……羽衣は躊躇わない」 『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)がその手に雷を宿しながら呟く。 『撃て!』 「――全部、壊すだけよ」 咲桜の号令と共に、目の前の光景は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。 ――リベリスタ達がアオイデ本陣を迎え撃つのに選んだ場所は商店街のど真ん中。 建物群が規則正しく左右に建ち並び、『楽団』がその数による展開力を生かせない場所。そして何より、左右のそれらが最高の隠れ場所になる戦場。 「使い所が難しいが、こういう時こそ真価を発揮するよなぁ……!」 シルフィアによって生み出された爆炎が『楽団』の前方にいるゾンビ達を、そして更にその後方や左右を、建物内に隠れていた低レベルのリベリスタ達が作り出す炎が挟撃する。 『あ゛ぁああああ゛……!』 ブレアバーストにより巻き起こる業炎の音を中心に、ハニーコムガトリングによる乱射音、神気閃光による光が一気にゾンビに襲いかかる! 「初撃による混乱は成功、両翼はアタシらの後ろまで待避! 死ぬんじゃないよ!」 ほぼ全域のゾンビが炎に包まれ、突然の事態にアオイデの指揮が追いつかずにゾンビが暴走を始める。 中には翼を羽ばたかせ、こちらへ後退するリベリスタを攻撃しようとするゾンビもいるが、後方に控えていたインヤンマスターの符が飛びそれを妨害する。 ゐろは、そしてターシャが主にその目を光らせ各リベリスタに指示を飛ばし、その被害を最小限へとおさえていく。 「咲桜、アオイデの現在位置は?」 無統率に突進してくるゾンビを切り払いながら鷲祐が確認を取る。 『アオイデ自体はまだだいぶ後方にいるようです。鷲祐さん達最前線から半径30メートル以内に接近したら追って連絡します』 「ならアオイデが近づいてくるまでに出来るだけ雑魚を落としていっちゃいましょ」 露払いはお任せあれと海依音が笑い、後衛陣とタイミングを合わせて攻撃を重ねていく。 「質の悪すぎるゾンビ映画と交響曲10番に呪いあれ!」 交響曲第10番を作曲する者には死が訪れる、というジンクス。それを破ることが出来るかと、今も歌い続けているだろうアオイデに向けて叫ぶ。 『前方に回復スキルを使用する元家族を発見。最優先で処理をお願いします』 そこで入る咲桜からの通信。 細長い通りは確実に戦闘可能範囲を狭め、さらにより効果的に範囲攻撃を行うことが可能だが、その分戦列が詰まり前衛はなかなかそこへ辿り着くことができない。 無理をすれば、切り開くことも出来るだろうが―― 「……アタシが狙うわ」 今はまだ前衛が無理をする時ではないと、恵梨香が前に出る。 「ここはアタシの住む町」 この先には自身が戦いの合間にわずかな日常を過ごす寮がある。 かつて奪われた記憶を二度と繰り返さない、と。 「今のアタシには力と果たすべき任務がある――!」 集中を乱さないため、ゾンビの攻撃はあえて受けていく。大丈夫、その傷は仲間がすぐに癒してくれる。 通信から聞こえる咲桜の声が、体を包むあたたかな光が仲間を実感させる。 ……前回の雪辱を、そして犠牲となった『家族』達に報いるために。何よりも仲間達のために、自分の全てを賭して魔法陣を展開させる。 魔法陣から放出される砲撃は太く尾を引いて前に伸び、周辺にいたゾンビもろとも飲み込んでいく。 既に傷ついていたゾンビ達は幾体も倒れ、しかし肝心の回復スキルを擁する元家族の体力を削りきるには至らない。だが、 「追撃お願い……!」 元家族までの射線が開け、他の遠距離攻撃も届くようになる。 「任せろ!」 シルフィアの電撃が地を這い、元家族の体を襲う。その体は二度、三度と痙攣を繰り返し……ぼろりと肩が、そして頭がもぎ落ちる。 ――元より破損のひどかった体を無理矢理継ぎ接ぎされて作られたゾンビは、その終わり方も無惨で。 その苦しみを思い、怒りがこみ上げてくる。 『こちらの攻撃でゾンビの数も大分削れています! それを見てか、アオイデが前に出てきて『歌』を強化してきています』 それはより近くにいる者を癒し、より強化する呪歌。今までの歌よりもさらに大きな強制力を働かせる代わりに…… 「つまり、チャンスということだな?」 リベリスタ達に、より近づかざるを得ないという諸刃の剣。 「皆さん今まで良く頑張ったね……」 ターシャが言う。言って、その手で生み出した炎でもって咲桜に示された方角を炎上させる。 「もう大丈夫。炎で送ってあげよう」 ターシャとタイミングを合わせた、恵梨香やシルフィア、その他のマグメイガスらが生み出す炎の海。それをかき割るようにモニカの自動砲銃が唸りを発する。 その弾幕が炎海に一筋の道を生み出し、 「どうぞ、ご存分に」 鷲祐と海依音を送り出す。 目指すアオイデまでは一直線。立ちはだかる障害は大鎌を持つゾンビと大剣を構えるゾンビの二体。 「カッコイイとこ見せ場ですよ! アレルヤv」 海依音がぐんと前に出て二体のゾンビを相手取る。 大鎌を持つゾンビの腕をセイクリッドアローで撃ち抜き、袈裟切りされる大剣を白翼天杖で受け止める。 衝撃を下へと受け流し、大きく振るわれる杖。その黒く塗りつぶされた先端から純白の光が生まれ、ゾンビの目を焼く。 咄嗟のことに距離を取るゾンビ。これで――鷲祐とアオイデを繋ぐ道は完全に拓かれた。 「その声で不幸を叫べ!」 機を伺い続け、最大の武器を隠し続けていた鷲祐の……その称号に恥じぬ『神速』が、正しく空間を引き裂く。 アオイデから見れば瞬間移動のようにも映ったかもしれない。だがその顔に驚愕が浮かぶよりもなお速く、鷲祐の剣技が閃く。 その様子を見ながら、羽衣は背後に立つリベリスタと共に天使の歌を紡ぐ。 ――ねぇ、フィクサード。 そうしながら、羽衣は心の中で呟く。 ――羽衣貴方の事が嫌いだわ。貴方の歌も大嫌い。 自分の耳には決して聞こえないアオイデの歌声。だけど今もそれが周囲に鳴り響いているのだと思うと不快で仕方ない。 羽衣は歌が歌えるだけで幸せだ。その歌が誰かを幸せにするならそれ以上の喜びはない。 羽衣が求めるものはそれだけ。だからそれを自らへの賞賛や欲望の為に使い……誰かの事を思えなかったアオイデが許せない。 絶対に負けたくないと思う。 「っ!」 こちらが用いる戦法と同じく、ゾンビ達……特に全体攻撃を有する元家族達が攻撃を合わせてこちらを狙い始める。 向こうとは違い、こちらは一人でも倒れればそこからゾンビ化が始まり、一気に形勢を覆されかねない。 上空から降り注ぐような矢の雨が皮膚を突き破り涙が滲み出る。 だけどどんなに痛くても、苦しくても。この手を伸ばすのを諦めない。生かす為に歌うのを止めない――! 「……えぇ、そうですね」 羽衣の歌に込められた想いを受け取ってか、モニカが頷く。 「私達は決して『つまらない人間』などではありません。……人間の心をまるで動かせない下らない存在に、負ける道理はありません」 人の心を動かせず、だからこそ心の無い死体を操る術なんかに長けているケイオスやその楽団。それは自身らが既に何の心も持たない、実に『つまらない人間』の集まりだ。 『既に通常のゾンビは10体程度。元家族らも半数を切っています。……そろそろ各個撃破へ移行してください』 咲桜の指示が飛び、右翼は通常ゾンビの殲滅を担当し、左翼は恵梨香やモニカと共にアオイデの周囲に集めなおされた元家族らのゾンビを狙っていく。 そして始めからアオイデの前を守っていた二体のゾンビは、未だに海依音と一進一退の攻防を繰り広げていた。 「汝が罪を悔い改めよ、ルーキーだからって舐められちゃ困ります!」 そこにターシャの援護が加わり、確実にゾンビの耐久力を削り始める。 「それじゃ、アタシも打って出るよ」 そう言って、ゐろはがゾンビの横を抜けてアオイデの前に出る。 既に退路は十分に確保できている。仲間の援護の為にほぼスキルを使い果たしてしまったが、それが何の問題になろうか。 ――これから彼女の行うことはひどくシンプルだ。 「約束を果たさせてもらうよ」 すなわち、一発でも多くアオイデをブン殴る。 その為にこの耳障りな音に耐え続けてきたのだから。 鷲祐の攻撃がアオイデの時を切り刻む神速なら、こちらはさながら重戦車の一撃か。アッパー気味に振り上げられた拳はアオイデの鳩尾に決まり、その体を数歩後ろへと退かせる。 何か言いたげにアオイデの口元が開くのを見て、ゐろはは嫌そうに顔をしかめる。 「何も喋んなくていいよ。アンタの声なんてこれ以上聞きたくないし」 さらにもう一発、顔面目掛けてブン殴る。 鼻骨の陥没する感触。それでも叫び声は上げないのは『楽団』としての意地なのか、それとももう自らの歌で自身の体さえも縛り付けているからか。 だが、そんなことはもう関係ないと。 その速さ故に光さえも纏うような蹴撃がアオイデの喉仏を捉える。 「どうせ失うなら最後まで。それがお前の選んだ道だ!」 フェイトに愛された時点で全てを失ったと錯覚したアオイデ。だが本当は何も失われてはいなかった。彼が本来愛すべきものはすぐ近くにあったのだ。その錯覚はただ、アオイデが勝手に思い込み、そして決めた道であるだけなのだ。 同じフェイトに愛されたものとして、その違いを――フェイトを受け入れた結果を、叩きつけてやる。 「さよならだ」 鷲祐のナイフが首元を深く抉り、ゐろはの拳がその頭をもぎ取る。 残った体は立ち尽くしたままいくつもの炎雷に焼かれて炭となり、その炭さえも徹底的に撃ち砕かれて粉々になる。 「……この地に土足で踏み込んだ代償は高くついたわね」 歪つな表情で笑ったまま事切れたアオイデの頭部を見つめながら、この男が何を求めていたのかをふと考えてしまい、そう呟く恵梨香。 「交響曲第10番のジンクス。……結局のところ、それが全てだったのかもしれませんね」 もしかしたら、立場が違えば友になれたかもしれないが……聞こえずとも常に耳障りな耳鳴りを響かせ続けた歌を振り返り、それは無いかと海依音は肩を竦める。 「商店街、ひどいことになっちゃったね」 所々に出来た焼け焦げた後をターシャが見つめながら苦笑する。 だが、被害は出たが守りきることが出来たこの地は、きっとすぐにでも復興を遂げるだろう。 その未来に想いを馳せながら、 『任務終了、です』 深く深く息をつきながら状況終了を告げる咲桜の声に、顔を見合わせて頷き合う。 『皆様、お疲れさまでした……!』 そしてリベリスタ達は一カ所に集まってはハイタッチを交わしあい――生の喜びを分かち合ったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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