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<混沌組曲・急>したいしたいしたいしたい

●死色の音色
 ハーモニカを吹く。
 喜んでくれる人がいるから。
 死音を奏でる。
 誉めてくれる人がいるから。
 死人と歩く。
 死んでいない人がいるから。
 生者を殺す。
 生きているから。

 生きる。殺す。死ぬ。生きる。

●死に抗う
「――さぁ、皆々様。正念場ですぞ」
 緊急事態のアーク本部。『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は真剣な眼差しで集められたリベリスタ達を見渡した。
 緊急事態――その理由を知らぬ者は三高平には居ないだろう。
 あのバロックナイツが一員、『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる死操集団。つい先日に日本全国を恐怖に陥れた彼等が、今度は他でもない三高平へ攻めてきたのだから。
「我々特務機関アークには予備役的な戦力を加えればその数は数千にも及びます。それは如何に一筋縄ではいかぬ者で構成された楽団とはいえ厄介なものでしょう、嬲り合いの泥試合などきっとケイオス様は好まないでしょうな」
 芸術家ってのは例外なく『カッコツケマン』ですからねと彼には珍しく皮肉を一つ。それだけメルクリィとて彼等が許せぬのであろう。
「それに加え、ケイオス様にはバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモン様の助力が――即ちソロモン七十二柱が一『ビフロンス』、二十六の軍団を率いる序列四十六番の地獄の伯爵が『味方』になっております。
 そのビフロンスの空間転移めいた力によって『軍勢』がこちらへ攻め込んで来た……ここまではOKですな?」
 そしてケイオス達が三高平の侵略を成功してしまえばどうなるか――考えずとも分かる。悲劇だ、血と死で彩られた無残な悲劇が待つのみだ。
「アシュレイ様のご尽力によってケイオス様側の空間転移の座標は『外周部』まで後退しております。
 皆々様に課せられたオーダーはこの楽団勢力の撃退。
 えぇ、もう嫌というほど御存知でしょうが、彼等は怖ろしくしぶとい死体を大量に操り攻めてきます。また演奏者自体も中々どうしてしぶとい連中ですぞ、お気を付けて。
 特に今回皆々様に当たって頂く楽団員はどこぞの動物園より調達してきた死体を操っておりまして――はい、お察しの通り動物です」
 ライオン、トラ、ヒョウ、ゾウ、サイ、カバ、ワニ、シロクマ、オオカミ、ゴリラ、キリン、ワシ、ヒツジ、ネズミ、ウシ、シカ、ペンギン、トド、サル、etc……肉食獣から草食獣、猛禽類、小動物まで。
 人間の死体とは違って彼らには爪や牙や角があり、ゾウやサイなどは大きさや重さもまた武器になる。鳥類は空を飛び、ネコ科の動物はすばしこい。
 なんとも、胸糞悪い、嫌な、動物園だ。
「ですが、皆々様には仲間がおります」
 通常の8人に加え、他に10人のリベリスタ。目が合えば、しっかと頷いた。
 さて。一段落を終えたメルクリィが一同を見る。心配を押し殺し、励ます為の強い眼差し。
「厳しい厳しい戦いとなる事でしょう。ですが、負ける訳にはいきません。ほら、こういう言葉もあるじゃあないですか……『正義は勝つ』、と!」
 甘っちょろいだろうか。正義ほど揺らぎ易く定義できないものは無い。
 それでも、だとしても、いいじゃないか。最初から諦め悲観し希望を捨てれば、一体何が腕に残るのだ?
「どうかどうか、お気を付けて。必ず、帰って来て下さいね、私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月11日(月)23:26
●目標
 楽団勢力の撃退

●登場
『ハモニカ令嬢』ニコレッタ・ブランジーニ
 フライエンジェ×ネクロマンサー。
 アーティファクトであるハーモニカを携えた令嬢。
・EX彼岸の断頭台:遠、必殺
登場:拙作『<混沌組曲・序>したいしたい』

死体群『血みどろ動物園』
 動物園にいた様々な動物の死体。その数はおよそ150。
 ゾウ、サイ、カバなどの大きくて重たい動物はブロックに2人必要。
 出血、流血、毒、猛毒のBSを使用。
 恐ろしくしぶとく、しつこい。部位欠損しても平気で活動する。
 その代わり知性は理性は残っていない。

アークリベリスタ×10
 モブリスタ。種族雑多。レベル10前後相当。
 デュランダル×2、クロスイージス、ソードミラージュ、覇界闘士、ダークナイト、クリミナルスタア、ホーリーメイガス、インヤンマスター×2

●場所
 三高平市内の大通り。広い。
 事前付与は一度だけ可能。

●STより
 こんにちはガンマです。
 もののけだんす。
 よろしくお願い致します。

●重要な備考
 このシナリオは『第二防衛ライン』担当です。
『第一防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第一防衛ライン』に大きな、『第二防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第二防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第二防衛ライン』に大きな、『第三防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第三防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第三防衛ライン』、『アーク本部』に大きな防衛値減少があります。
 それぞれの『防衛ライン』が壊滅した場合、その他の『防衛ライン』に悪影響を与えます。
 又、『アーク本部』が陥落した場合、リベリスタ側の敗北となります。
『<混沌組曲・急>』は上記のようにそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がありますので予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
宮代・紅葉(BNE002726)
クリミナルスタア
宮代・久嶺(BNE002940)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
デュランダル
芝原・花梨(BNE003998)
★MVP
マグメイガス
匂坂・羽衣(BNE004023)
ホーリーメイガス
門倉・鳴未(BNE004188)
マグメイガス
巴 とよ(BNE004221)
ホーリーメイガス
雛宮 ひより(BNE004270)

●町に動物園が来るよ
 獣の声が轟いた。
 視線の彼方に黒い群。ハーモニカの音色。死血を垂らしてマーチング。
「ほ、本気で、百五十匹も相手にすんの……!?」
 圧倒的な、途轍もない数の差に。芝原・花梨(BNE003998)の兎耳がふるりと震えた。長い耳にはよく聞こえる。大量のケダモノ達が呻り歩いてくる音が。自分達を喰い殺す為に。されど少女はううんと首を振った。弱音を吐いても始まらない。
「これ以上悪い連中に好き勝手されて黙ってるほどあたしはお人よしじゃないのよ!」
 この血に正義が流れる限り。
「俺、音楽好きなんスよ。クラシックなんかもよく聴くんスけどね」
 耳に刺したイヤホンからの音に紛れて聞こえてくるハーモニカに、門倉・鳴未(BNE004188)はされど顔を顰めた。こいつはダメだ。死を操る旋律はただ彼に吐き気を齎すのみ。
「まったく、愉快でゴキゲンな動物園だわ、ホント」
 少女が持つには些か武骨物騒な対神秘用グレネードランチャーを肩に担いだ『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)が溜息を漏らした。腐ったケダモノの仲間入りなど真っ平だ、見世物にされるのも以下同文。
「アタシのお姉様も渡す気はないわよ、全部あの世の檻に追い返してやるわ!」
 そう意気込む彼女の傍らには楽団へ静かな怒りを目に湛えた『旋律の魔女』宮代・紅葉(BNE002726)と、深呼吸をする巴 とよ(BNE004221)。
「宮代姉妹さんがご一緒で安心ですよっ」
 皆で頑張ろうと少女は背格好に見合わぬ大人を思わせる相好を年齢相応に綻ばせた。
 そんな彼女達を見、久嶺は仲間達へと振り返る。
「貴方達も頼りにしてるわ、頼んだわよ!」
 緊張と決意とが共生する表情で頷く彼等。『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は彼方を見据えつ、一歩前へ。
「うち等の背に守るべきものがある。戦う理由なんてソレだけで十分っすよね?」
 無表情。だけれども、その隻眼には決然とした意志が奥底に佇んでいた。
 抜き放つ剣。煌めく刃が、戦場を映した。
「あんた達の力をうち等に貸してくれ」

 ――生きて、明日を掴む為に。

 オォオオオオオオッ。地面を揺るがしたのは、ケダモノと生者の鬨の声。地面を踏み締め走り出す猛然とした音。
 牙を剥け。
 挑みかかれ。
 一心不乱に生き抗え。

●生死生死生々死屍
 エンチャントを終えたリベリスタ達は一丸となって進軍していた。外側には前衛戦闘に自身のある者、内側には回復手や後衛陣。迫る。死者へ。
 乾いた紙擦れの音が響いた。開かれた日記帳の名はl'endroit idéal、手にする者の名は『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)。マグメイガス――後衛と言われれば真っ先に思い当たる様な存在なのだが、彼女は『例外』だった。翼を翻し、前衛手であるフラウや花梨と共に先陣を切っていた。
 増幅させた魔力。翳す掌。展開されるのは夜色の魔法陣。呪文を紡いだ少女の唇。放たれた一直線の閃光は夜空を翔ける流星が如く、躍り掛かってきた屍達を貫き飲み込み薙ぎ払う。威力を突きつめた魔力砲撃。
 余波の風に帳の髪が揺らいだ。羽衣の双眸は真っ直ぐ、動物達の奥にてハーモニカを奏でるニコレッタへ。
「……御機嫌ようニコレッタ。今からそっちに行くから、少しだけ待っていて頂戴ね」
 目が合った。ケダモノの咆哮に掻き消されたその声は、確かに――『待っているわ』と紡ぎ詠った。
 嗚呼、きっと、彼女にも好きな人がいるのであろう。仲間へ翼を授けつつ『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)は思う。わたしもなの、と語りかけた。
「その人はね、とっても、とっても格好いいの。だから、あなたをこの先には進ませられないの」
 ごめんね? 言葉と視線のその先で。獣と人がぶつかった。交差するのは牙と爪と、刃と弾丸。
 真正面。陰陽師が降らせる氷の雨の中、飛び掛かってきた獅子の爪を鋭く回避たフラウの姿が二重三重にも揺らぐ。刹那、そう、たった刹那だ。閃いた刃が周囲にいた獣達を疾風の如く切り裂いた。
 着地。されどその額には一文字の赤い傷。空を飛ぶ隼の爪に斬られたか。垂れる血が、フラウの眼帯を赤く赤く染めてゆく。

 ――上等。

「アタシの名前は宮代久嶺、よーく覚えて黄泉まで持っていきなさい!」
 誇りを胸に見得を切り、久嶺はBHFで狙い定めた。ポンッという軽い音と共に放たれた不可視の弾丸は弧を描き――フラウが斬り退けた直後の獅子の頭部にて執拗なまでに炸裂する。
 死肉が飛び散る。命中、どんなもんだ――と得意になりたい所だが、そうはいかない事など既に分かっていた。頭部を失い、咆哮の代わりに腐液を垂らす獅子が花梨に前足を振り下ろした。毒を含んだ爪が少女の肌を深く切り裂き血を奔らせる。噛み締めた歯列から悲鳴。巡る毒が意識が揺らぐが、彼女は鉄槌を握り締める手に力を込めて。
「これ以上あたし達の街を、アークを……あんた達ワケのわからん奴等にめちゃくちゃにさせるわけにはいかないのよ!!」
 負けられない。負けじと声を張り上げて、生死を分かつ破壊的な一撃を叩き落とした。潰された獅子が血肉に還って沈黙する。
「光あれ! 穢れし命を焼き清め給え!」
 奮闘する仲間を激励する様に燦然と煌めくのは鳴未が放つ神気閃光。焼かれた動物達は或いは動きを止め、或いは侵攻をし続ける。
 数の差、死者の波、飲み込み潰さんと牙を剥く。それでも生者は抗った。死神の招き手を振り払い、血に塗れながら一歩。一歩。進軍し続ける。
 襲い掛かってきた死者は花梨率いるデュランダル達がその火力を以て押し留め、弾き返す。
 フラウとソードミラージュは高速の技で魅せ付ける。
 一直線に走った羽衣の魔力は文字通り『大砲』となって死者達を悉く薙ぎ払い、久嶺とクリミナルスタアが閃かせる弾丸が戦場を走る。
 360度の死者達へ降り注ぐのはインヤンマスターの氷雨と鳴未の閃光だ。紅葉ととよは繰り出す魔力で死者の纏めて千切り燃やす。
 そんな彼等の脚を強力に支えるのは死に対抗する最も強力な方法、『癒し』。ひよりとホーリーメイガスの清らかな詠唱。
 他の者も作戦通りに動き、リベリスタ達は奮闘する。傷付きながらも確実に。着実に。

 と。

 地面を揺るがす様な咆哮。
 目を剥くリベリスタ達を蹴散らさんと吶喊してきたのは、巨象。押し留めんと前に出る二人のデュランダルだったが――一人は無惨にも踏み潰されて肉塊と化し、一人は割って入ったサイの突進に吹き飛ばされてしまった。
 ここに来て大型動物が雪崩の如く攻めてくる。それは楽団にかなり近づいた証でもあるが――あと少しの所で巨大な死体群にリベリスタの進軍速度が著しく低下してしまう。荒々しいケダモノ達がリベリスタ達を押しのけ、突き飛ばし、重量任せに踏み潰す。ブロックする者の奮闘で押し返されていないのが幸いか。しかしこのままでは。
 ――だが、そうはさせるか。
「……ああ、本当に耳障りな音。楽団などと大層に名乗って、死体を弄ぶ者共め……」
 翼で宙に浮きあがった紅葉が掲げる奏楽杖【呉葉】。高速で組み上げられてゆく魔法式。
「お前達が死を奏でるなどと嘯くなら、わたくしは命を奏でよう。
 ――さあ、細胞の一片まで聴きなさい、これがわたくしの命(うた)だ!」
 怒れる歌姫が奏でるは黒き呪いを孕んだ楽曲。音楽を汚す者、許すまじ。溢れる葬送曲は紅葉の血を代償に冷徹な怒りに任せて荒れ狂い、大型動物達を溺れさせる。
「動物さん達っ倒れて下さいっ」
 そこへ立て続けに放たれたのは集中によって意識を研ぎ澄ませたとよが展開した火柱だ。
 が、直後。
 不穏な気配――それは円陣の中央、後衛達の脚元からだった。何だ、そう思った刹那に吹き上がるのは呪詛の籠った死霊の絶叫。
 何だこれは。身を引き裂く衝撃に、されどリベリスタは理解する。これは、ネクロマンサーの――楽団の技。
 倒れる者、運命を削り立ち上がる者。或いは護られ、間一髪逃れた者。
「大丈夫、すぐになおすの!」
 クロスイージスに護られたひよりはすぐさま詠唱を開始した。この力は絶望からの解放を阻むもの。傷付き、藻掻き、苦悶せよと与える妖精の苛烈。
 けれど絶望に立ち向かう意志が在るのなら――その背を強く、強く、持てる力の全てを使って後押ししよう。
 これは――その為の力。

「わたしがうたってあげる、妖精の子守唄……さあ、立ち上がって」

 慰めに口にする善悪を超えて、それぞれが望む明日の為に勝利を。
 奇跡が、福音が、降り注ぐ。
 空中から強襲を仕掛けてきた大鷲を払い退け、鳴未は倒れた仲間を担ぎながらも攻撃する事を諦めない。血に汚れながら。先を削りながら。それでもきつく、歯を食い縛って。誰一人くれてやるものか。
「絶対負けられないんだろ……なら、勝つだけだ!」
 その意思に応えるが如く、瞬く閃光。
「正義のヒロイン花梨様が悪いヤツはここでまとめてボッコボコよ!」
 脚を振り上げた象へ、真一文字に轟と振るった鉄槌が叩き込まれてその肉ごと吹き飛ばす。花梨もまたケダモノ達に噛まれ裂かれ、肌は悉く赤い色。荒い息。疲労を痛みを全て無視して突き進む。死の海を掻き分けて。
 前へ。前へ。
「負、け、る、かぁああああッ!!」

 前へ!

「負けられないんだ」
 ポツリと、誰とはなしに呟いた。聳え立つ死の壁の上。血風がフラウの髪を靡かせる。
 そして――刹那すら超える速度が戦場を駆けた。

 瞬。

「……あら?」
 赤。ニコレッタの身体から走る色。これは何。血。どうして。痛い。振り返る。
「――ソレなら、うちも多少の無茶はやって当然っすよね?」
 返り血すら着かぬ速度で攻撃を繰り出したフラウが、ニコレッタのすぐ真後ろに。
 瞬撃殺。超越した加速の前には過程など意味をなさない。
「御機嫌よう、楽団の。散々好き勝手やった以上、当然覚悟は出来ているっすよね? まさか自分だけが無事で帰れるなんて甘いこと、考えてないっすよね?」
 立て続けに。同時に。閃かせる音速の刃。それを防ぎつニコレッタが指先を突き付ける。
「どん」
 どん。鈍い。衝撃。フラウの頭上から叩き落とされた断頭台の刃。紙一重で直撃こそしなかったものの、その背中を骨と中身ごと強烈に切り裂いた。ごぼっと血を吐き出す。でも、その手が剣を離す事はない。
 望み、望まれ続ける限り。この手は決して、離さない。
 運命を焼いて。捨てて。剣を構えて。
「大丈夫」
 柔らかな声が聞こえた。清らかな歌声がフラウを包む。
 羽衣がいるもの。裂けた頬から真っ赤な血を流し、少女の身をした女の声。翳した掌。展開された魔法陣から再度の魔力砲撃が唸りを上げて戦場を走り、ケダモノを圧倒し、ニコレッタをも巻き込んだ。
 マジックブラストに砕かれた死体の肉塊で塗装された抉れ地面が一直線、羽衣とニコレッタを繋ぐ。
「改めて御機嫌よう。羽衣貴女を邪魔しに来たの。ほら聞いて頂戴――」
 羽衣の歌は貴女のお気に召すかしら。翼の音が響く。死者で道が閉じる前に、羽衣は矢の如く飛び出した。
 さあ遊びましょう。楽しませてあげるから。

 数を減らした死した動物。されど相応にリベリスタにも倒れる者が居る。
 デュランダルは、花梨ともう一人だけ。もう一人は――象に踏み潰されて、操られる事もない程の肉塊となった。
 自分だって死ぬかもしれない。だが、死を回避したければ立ち向かう他にないのだ。
「ボッコボコよ!」
 振り上げた鉄槌を、猛然と向かってきた河馬へと叩き下ろす。
「まだ諦めちゃ駄目ですっ」
 とよの鼓舞する声が懸命に響く。ここで倒れる訳にはいかない。されど。真横で赤。喉笛をオオヤマネコに食い千切られたインヤンマスターが血の弧を引いて頽れる。

 死。死だ。
 死の中をリベリスタ達は尚も前へと進んでいる。
 何故――それはただ勝利の為。護る為。大切な何かを。己の命を。

 地面を這いずってきた蛇の猛毒の一撃に倒れた姉を片手に抱きとめ、怒りに歯列を剥いた久嶺はBHFをぶっ放す。
「アタシのお姉様に何してんのよ、チクショウがぁ! 消し炭にしてやるわ! どいつも! こいつも!」
 死体を撃ち抜く猛射。脚に喰らい付いた狼を振り払うやその頭部を踏み潰し、久嶺は素早く狙いを定める。それは羽衣とフラウを相手取るニコレッタへ。
「死んで溜まるか……死者に殺されて溜まるか……アタシはお姉様の為にも生にしがみ付いてやる!
 死なんてくっだらないわ、見せ付けてやる! 生への執着ってヤツを――喰らいなさい、この日のためにチューンアップした取っておきよ!!」
 どんな辛い運命もぶち壊すという信念。積もった痛みを――生の証を――弾丸に変えて、放つのは断罪の魔弾。一直線に飛んだそれは確かに楽団を捉え喰らう。
 圧倒的な衝撃にニコレッタが後退した。
 状況は最早、殺すか殺されるか。
 ネクロマンサーがハーモニカを吹き、奏でる魔力を怨霊の魔弾に変えて打ち出した。
 それはフラウを庇った羽衣の身体に喰らい付く。翠帳紅閨が少女の血で染まる。

 ――未だ。

 倒れない。
 死者に囲まれた状態、あのケイオスの私兵である楽団に、後方支援はあるとはいえ二人で挑み、されどまだどちらも倒れていないのは――おそらく驚愕に値するものだろう。
 誰も彼も満身創痍。死体の様に血みどろで。
 それでも尚、尚。
 ひよりの詠唱に支えられ、フラウは鋭く間合いを詰める。
「とっととくたばりやがれっすよ!」
 執念で掴み取った二回行動。力の限り振るう音速。超えてみせる。もっと速く。
 羽衣は背中を獣の爪に裂かれながらも掌を翳した。白い掌。嗚呼。知っている。その手は死を超えられない事ぐらい。全てをしあわせになんて出来やしない。狂おしいほど焦がれても、届かない。
「でもね、それでも手を伸ばす事は止めないわ」
 不幸に屈する事勿れ。失いたくないから諦めない。『しあわせ』を一頁一頁隙間無く綴った日記帳が、繰り返すだけのしあわせな夢が、光を帯びる。
「羽衣は、わたしはその瞬間まで死に抗い続けるわ」
 誰一つ。何一つ。失うものか。掬ってみせる。
 撃ち放ったマジックブラスト。それはニコレッタの右腕を肩ごと吹き飛ばした。
 刹那、踏み込んだフラウが彼女の胸に刃を深く突き立てる。赤。目を剥いた奏者。されど死体の様なしぶとさで、皮肉にも縋り付くのは『生』。血を吐いた。フラウを突き飛ばして。蹌踉めいて。転んだ。顔を上げる。
 その目の前に在ったのは、掌だった。
「楽しかったでしょう。だから、」
 やさしいこえ。夜の帳の中で、煌めくのは三日月の簪。
 ニコレッタの目に映ったのは、瞳に夜を湛えて笑う――薄く微笑む――羽衣だった。

「――ご褒美に、貴女の最期を羽衣に頂戴ね」

 『どん』。

●閉園オワリ
 羽衣の魔力に焼き潰されたニコレッタは死体すらも残らなかった。
 奏者を失った死体達は直ちに物言わぬ本当の『骸』へと頽れていった。
 勝った。勝ったのだ。
 護り切ったのだ。
 安堵と疲労に誰も彼もが長吁する。
「なんとかなった、ですか……」
 酷い傷を押さえながらとよは地面に座り込む。
「お疲れ様、私達の勝利……これも皆で頑張ったお陰ですね」
「お疲れ様、お姉様……」
 久嶺は微笑んだ紅葉を抱えながら、ハイタッチで互いを労いあった。

 ――遠くから音が聞こえる。
 それは楽団が奏でるものか、死者の足音か、挑み抗う者の鬨の声か。
 命ある者は空を仰ぐ。


『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ
「お疲れ様ですぞ皆々様、よくぞご無事で……!」

 だそうです。お疲れ様でした。

 MVPはフラウさんか迷いましたが、グッドなサポートや死体殲滅において大きく線化に貢献した羽衣さんへ。
 素敵でした!

 ご参加ありがとうございました。