● 「……つまり此れは、またもや想定外って奴かよ」 「またも譜面を乱されて、さぞやケイオス様もご立腹だろうね。……全く、箱舟は面白いリズムを刻んでくれる」 空間転移により三高平の中枢を直接叩かんとする楽団側の目論見は、アシュレイ提案による大規模結界によって外周部への転移と言う結果に掏り返られた。 とはいえ大量……、もはや軍団規模と言って良い数の死者を引き連れての転移である。 出るポイントが外周部にずれたとは言え、多少の抵抗等問題にはならぬ戦力を楽団は三高平に出現させた。 普通に考えれば、多少の手間が増えたとは言えど、結果にさしたる違いが出よう筈も無い。 ……相手がアークでさえないのなら。 「どうにもキナ臭い感じだな」 「本気で言ってるのかよ。シアー様、バレット様、モーゼス様、3枚看板に加えてケイオス様、それに他の楽団メンバーだって今回は本気だ。死体の総数も万は行くぜ?」 双子の蝙蝠、『官能』エリオ、『煽情』エルモは他に聞こえぬ様に囁き合う。 「勿論、この戦いは楽団が勝つと思ってるさ。……9割方な」 「1割か。……そうだな。万一の事は考えても良い確率か」 二人が行なうのは万に一つの逃走経路の相談だ。 もし仮にケイオスが崩れ、楽団と言う枠が崩壊すれば……、この国で好き勝手に暴れて来た楽団メンバー達は、リベリスタか、或いは地元のフィクサード組織等に徹底的に狩られる事になるだろう。 本来其れは在り得ない想定である。厳かなる歪夜、バロックナイツが一人、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが破れる事等在ろう筈が無い。 けれどその在ろう筈の無いバロックナイツを破ると言う難業を、伝説ですらあったジャック・ザ・リッパーを打ち倒すと言う奇跡を、アークは一度成し遂げているのだ。 ならば此の転移は、寧ろ逆に堅牢な相手のホームに誘い込まれたとも言えてしまうのでは無いだろうか? 「偶然ってのはそう何度も起きねえよ。偶然にしか思えない事でも、何度も起きてるなら、其れは奴等の実力なのさ」 「万一の際には北陸に抜けるコースが一番割に合うんじゃねえかな。あすこは露行きの船が多いらしいぜ」 双子の師であるロマーニや、同じ木管パートであるゼベディ、自らの不死身を信じて疑わなかった楽団メンバー達にも少なからぬ欠員が出ている。 双子の視線の先には、彼等の弟である『オルガニスト』エンツォ。弟だけは失う訳にはいかない。 双子が蝙蝠として動くのも、そもそも楽団に所属したのでさえも、弟の為なのだから。 「ねぇ、兄さん達。つまらない相談やめて見て。凄いよ。此れが皆が住んでる町なんだね」 もっとも当の弟は、非常に戦意が高いのだけれど。 元々気分屋なエンツォではあったが、死んだロマーニへの弔いや、慕うバレットと同じ戦場に立てる等、士気が上がる要素が充分以上に揃ってしまっている。 「此処を壊したらきっと皆は悲しむよね。……ごめんね。でも、組曲はもう最終章だよ。もうすぐ全部おわっちゃうんだ。だから、せめて、ねぇ、僕の物になってよ。先生みたいに居なくならないように……」 パイプオルガン『嘆きの聖者』を鳴らしたエンツォの言葉に、死者が進軍を開始した。 肩を竦める蝙蝠達。まあけれど要するに、順当に譜面通りに勝利してしまえば何の問題も無いのだ。 聖者の嘆きに、戦いの火蓋は切って落とされる。 ● 「さて諸君、戦争だ」 瞳を開き、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が告げる。 普段は眼帯の奥に隠された黒曜石の様な右目が光を放つ。 「敵はケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる楽団だ。彼奴等の空間転移を用いてのアーク中枢への奇襲は、アシュレイ君が提案した大規模結界によって外周部にまで出現ポイントをずらした」 ケイオスが其の身に宿す脅威を、バロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンより借り受けたソロモン七十二柱が一『ビフロンス』であると推測したアシュレイからの提案により、アークは三高平市に大規模な結界を張り、ケイオス側の空間転移の座標を『外周部』まで後退させた。 「防衛能力の高い三高平市での決戦は大きなリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。……三高平市に住む一般リベリスタ達も既に交戦準備に入ったようだ」 配布されるのは、受け持ち地区に攻める楽団、死者、そして援軍となる一般リベリスタ達の資料。 「諸君等ならばこれ以上の言葉は不要だろう。……あまり関係の無い話だが、つい先日コルトと銀の弾丸を手に入れてな。死者に銀は効くと言うらしいので、試したい気持ちがない訳でもない」 リベリスタ達の顔を見回しながら、老兵は笑う。 無論そんな事態になる時は、此の地の悉くは死者の群れに飲まれて潰えるのだろうけれど、戦友と共に逝くのなら其れもきっと悪くは無いと。 「まあつまりだ。気負わず戦って来ると良い。邪魔になるであろう私は本部から動けんが、心は諸君等と共に在る」 資料 楽団 楽団フィクサードA:『オルガニスト』エンツォ 天使の様に可愛らしい容姿をした、フライエンジェの少年。 ケイオス率いる楽団メンバーの一人。 日本は割と好き。特にゲームとかアニメーションとか漫画とかが好き。 死者を操り、不可思議な力を使う死霊術師。所持武器は持ち手のついたパイプオルガン『嘆きの聖者』。 楽団フィクサードB:『官能』エリオ 蝙蝠のビーストハーフの死霊術師。 アルトサックス『sexsax02』 半径数十m内の任意の対象(複数)に物理的な力を持つまでに至った濃い音を絡みつかせ、其の動きを縛る。 移動距離減、速度減、命中減、回避減、攻撃力減 を与える。 ペナルティを与える人数を一人に絞る事も出来、その際のペナルティは更に大きな物となる。 但しこのアーティファクトを演奏には他の能動的行動が一切取れないほどの集中力を必要とする。 楽団フィクサードC:『煽情』エルモ 蝙蝠のビーストハーフの死霊術師。 ソプラノサックス『sexsax01』 半径数十m内の任意の対象(複数)の動きを物理的な力を持つまでに至った濃い音で後押しする。 移動距離増、速度増、命中増、回避増加、攻撃力増 を与える。 ステータス増加を与える人数を一人に絞る事も出来、その際のステータス増加は更に大きな物となる。 但しこのアーティファクトを演奏には他の能動的行動が一切取れないほどの集中力を必要とする。 怨霊A:『メガロドン』鮫鬼・剛 裏野部フィクサードだった鮫鬼・剛が怨霊と化した物。 生前は非常にタフでしぶといパワーファイターだった。怨念を固めたハンマーでデュランダルとしての技を振るう。 物理攻撃が効き辛い。 怨霊B:『悪性』小南・座代 フィクサード、小南・座代が怨霊と化した物。 生前は戦闘経験の豊富なファイターだった。 デュランダルとしての力を持つ他、自らの身体の一部を用いて他者の傷口を塞ぎ、回復させる支援を行う。 物理攻撃が効き辛い。 怨霊C:『骨抜きカルビ』 黄泉ヶ辻のフィクサード、骨抜きカルビが怨霊と化した物。 防御力を無視する近接単体攻撃を行う。 物理攻撃が効き辛い。 怨霊D:『面倒見の良い鈴木さん』鈴木・蜂矢 裏野部フィクサード、鈴木・蜂矢が怨霊と化した物。 覇界闘士としての技を振るい、物理攻撃が効き辛い。 操られる一般人の死体×200 リベリスタ 一般リベリスタ×15 レベルは15前後、デュランダル×3、スターサジタリー×3、クロスイージス3、インヤンマスター3。マグメイガス3。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月14日(木)23:25 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 音が死を呼ぶ。 銃声、剣戟、爆発、怒号、悲鳴、……そして或いは絶叫。 音は連なって曲と化し、そして死者達を運ぶ。 時は満ちた。この暗夜に音色が響く。今宵こそは La Danza Macabra 死の舞踏。 行進する死者の群れに囲まれて、けれども異常に目立つパイプオルガン『嘆きの聖者』を担ぐ『オルガニスト』エンツォは、待ち受けるリベリスタの迎撃部隊、……アーク所属のリベリスタと、アークにこそ所属はせぬものの、この三高平に住み、この町を守る為に立ち上がったリベリスタ達の混成部隊、に向かって良く通る声で宣言する。 「―――Per favore,siediti」 エンツォの行なう、彼が懐くバレット・"パフォーマー"・バレンティーノの物真似に、エンツォの二人の兄、『煽情』エルモと『官能』エリオが顔を見合わせて肩を竦める。 とは言え其の言葉が、彼等楽団にとって相応しい宣戦布告である事も確かだ。 「精々足掻きな、扇情的にさ」 「派手に征くぜ、官能的によ」 二匹の蝙蝠は己が愛器『sexsax01』、『sexsax02』を唇に当て、 「È il tempo dello spettacolo!」 開演を告げる弟の言葉を合図に、肺の空気を注ぎ込む。 音が大気を支配した。 「来るぞ。指示を!」 間近に迫った死者の群れに、アークに所属せぬリベリスタ達が指示を仰ぐのは、アーク所属の『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。 唐突に自分達の指揮をすると言い出したこの少女の事を……、中には快く思わぬ者も居た。 無論彼等は有名なこの少女、雷音の事を知っては居たが、其れと此れとは別である。彼女が此れまでにどれ程の戦果を挙げていようが、其れとは全く関係なく彼等にも自身の手で世界を守ってきたという自負があった。 他者に言われる事なく自らの意思で、他者の指示ではなく自ら考えで行動を行なってきたのだ。 「突出は禁止だ。逸る気持ちは抑え、分断の危険があれば塊になって」 しかし、今、彼等は雷音の言葉に素直に従い死者達を受け止める、分断されぬ密集型を築いていく。それどころか進んで彼女の指示を仰ぎさえする。 何故なら、一つは雷音が効率の良い戦闘指揮を心得ていたから。彼等は戦士なのだ。感情はどうあれ、其処に納得の行く理由と利があれば其れを拒絶しはしない。 「インヤンマスターのみなさんは交代で傷癒術で回復のサポートを頼む。クロスイージスのみなさんはこちらを庇い必要であればブレイクフィアーを」 そして二つは雷音の言葉が、真に彼等の命を考えて出た物である事を理解したから。リベリスタの持つ善性は伝わり響き、多少の反感は塗り潰した。 役割を伝えるだけの指示なら兎も角、密に細かく戦況の変化に応じた指揮を執るなら、雷音は彼等の中にあらねばならぬ。さもなくばこの圧倒的多数の敵が押し寄せる乱戦では、か細い声など届かない。 専門では無いとは言え、癒しの術を使う雷音を内包する事は彼等の、アークに所属せぬリベリスタ達の安全性を大きく向上させるだろう。 彼等に一般の死者を任せ、彼等に相手の出来ぬ大物、怨霊や楽団員達を狙うアーク所属リベリスタの危険と引き換えに。 敵軍の先頭に立つ難物を食い止める為に前に出たアーク所属リベリスタ達の姿が、死者の群れに飲まれて見えなくなった。 兎に角、敵の数が圧倒的過ぎるのだ。 「マグメイガスのみなさんはスターサジタリーの皆さんと兎に角攻撃を合わせてゾンビの群れを焼き払って欲しい」 宙に浮く雷音の指示にフレアバーストが、ハニーコムガトリングが、唸りを上げて敵陣を薙いで行く。 長い、長い戦いが始まった。 ● 「死んでからタイマンなんてな、お前のこと嫌いじゃなかったぜ」 圧倒的な死者の群れの中で、けれども『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は眼前の怨霊唯一人に、語り掛ける。 其の怨霊の生前の名は『面倒見の良い鈴木さん』鈴木・蜂矢。 嘗て夏栖斗が茶番の様なサシの勝負を望むも、自らの手下を守る為に其れを拒み、磨り潰されて死んでいったフィクサード。 『俺はお前が死ぬ程に嫌いだ』 怨霊が意味ある言葉を発しはし無い。だから其れは夏栖斗が望んだ罵倒なのだろう。 嗚呼、怨霊になるのも無理はない。あの時、夏栖斗等は彼を散々に踏み躙って殺したのだから。 確かに鈴木は裏野部、クズの一人であったけれど、夏栖斗は彼が大切にしたかった物には共感が持てた。そして何より同じ女に惹かれた。 シンパシー、そう、シンパシーだったのだろう。 あの終わりは、決して夏栖斗が望んだ物ではなかった。だけど最早やり直せよう筈も無い。夏栖斗はリベリスタのままだけど、鈴木は怨霊と化したのだから。 無理も無い。恨まれて当然だ。けど、矢張り譲る訳には行かない。今日は背負った物が大き過ぎるから。 だから感傷は此処までだ。茶番は繰り返さない。 周りの見えぬ死者の海の中、相対するリベリスタと怨霊の腕に宿るは炎。 奇しくもと言うべきか、矢張りと言うべきか、夏栖斗と鈴木が選ぶ技は共に同じ焔腕。 けれど最早心は揺るがず、ぶつかり合う炎が空気を焦がす。 彼は誰よりもブレぬ男であった。唯只管に骨を抜く。死の際に瀕してさえも、提示された生き永らえる道を振り払ってまでも、彼は骨を抜く為に生きた。 嘗て自身も彼に骨を、鎖骨を抜かれた事のある『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は、放った無数の気糸を掻い潜って近づく怨霊、『骨抜きカルビ』を見てあの戦いを思い出す。 他人に理解される事の無い、気持ち悪く、哀れな黄泉ヶ辻。紛う事無く骨抜きカルビは狂人の類だ。 自身を除けばたった六人、己を理解してくれた者とのみ歩んだ閉鎖主義者。 優秀な医者であった筈の彼が其処に堕ちるには、余人に計り知れぬ何かは確かにあったのだろう。 しかし同情の余地は欠片も無い。堕ちて堕ちて、行き着いた先は、同類と傷を舐め合う人食いの鬼。 嗚呼、怨霊となるには余りに相応しい。ならば彼を怨霊たらしめるのは、怨念ではなく執念。唯、未だに骨を追い求めんが為に。 腹に向かって伸びる手を、けれども察した幸成の膝が弾く。彼の、骨抜きカルビの戦いは一度見ていた。欠片も揺るがぬ攻撃一辺倒の……、骨だけを狙った戦い方を。 知っていればこそ、相手がブレず変わらぬままであろう事を理解していればこそ、その攻撃は防げたのだ。 後は、さあ打ち滅ぼそう。同情などしない。彼はなるべくしてこうなった。 供養ではなく、再戦でもなく、単なる眼前の障害として祓おう。 「それが自分の忍務なれば、ただ成すのみ」 シノビに感慨は蛇足故に。 呪手甲から伸びる気糸が、大勢を崩した骨抜きカルビの影の様な体に絡み付く。 出来る事なら避けたかった個々の孤立に、『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)は思わず歯噛みする。 しかし個別に食い止めるべき難敵を定めるならば、その他有象無象の浸透を防ぐ事は到底叶わない。最早立ち居位置の問題ですらなく、圧倒的な数は大波の様に押し寄せ彼女達を千々に分断してしまった。波を前に抗う術は、固まり耐え忍ぶ事のみであっただろう。 けれど其れを悔やむ暇は壱也には与えられない。彼女の眼前に、彼女の望み通りに立つは、嘗て『悪性』を名乗った小南・座代の怨霊だ。 世界を守るリベリスタでありながら、絶望して世界を滅ぼすフィクサードへとなった彼。世界を愛し、裏切られ、世界を憎み、10年間の孤独に震えた魂は、尚も運命に弄ばれて怨霊として其処に在る。 「小南、わたしの事覚えてる? ……もうわたしの事はわからないかもだけど、今度こそきっちり眠らせてあげるからね」 壱也に過ぎたるを悔いる暇は無い。成すべきを成さねばならない。 世界は優しくないと、運命は悲劇を望むと、叫ぶ様に抗う様に、戦い続けてナレノハテへと行き着いた座代。 そう、あそこが彼のナレノハテだった筈なのだ。裁かれたいと願った、彼にとっての特別なあの日に、全てが終わった筈なのに。 「わたしがこの手で、貴方が愛して憎んだこの世界を守って見せるよ」 躊躇いの無い真っ直ぐな瞳で、壱也は座代に剣を向ける。 座代の死に救いがあったなんて思わない。けれど此れは、彼にとって余りに蛇足すぎるだろう。 死して尚も、憎んだ運命に嬲られるなんて。 今此れより悲劇の運命を断つは、はしばぶれーど。冗談でも何でも無く大真面目に、彼女自身の名を冠した、羽柴 壱也の心の刃。 一際大きな怨霊、『メガロドン』鮫鬼・剛が征く。其の姿は正に威容。 確かに彼は生前から大きかったが、今のメガロドンを形成すのは尽きる事の無い怨念だ。 彼を殺したのはリベリスタではなく、楽団員でもなく、メガロドンと所属を同じくする裏野部フィクサード。 楽団に死体を奪われぬ為にと、仲間達はあっさりと瀕死の彼を切り捨て、命ごと体を粉々に破壊した。 無論、自分が仲間の立場なら同じ事をしただろう。彼もまた同じ穴の狢でありクズなのだから。 けれどクズだからこそ、自分の其れまでの行いを棚上げにした恨みは強い。限りなく、果てしなく。 決して他の怨霊が弱い訳では無いけれど、生前の格が高く、更には怨念も強いメガロドンの怨霊の脅威は、矢張り頭一つ飛び抜けている。 しかしだからこそ、リベリスタ達がこの難敵に割り振ったのは3本の矢。1本ならば圧し折られるかも知れないが、3本束ねれば決して折れぬと信じた結束の壁。 一の矢の、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)がメガロドンの前に立つ。他のリベリスタの誰よりも殺伐とした空気を身に纏い、打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」を携えて。 「この素晴らしい演奏に御代をくれてやる」 余りに多い敵の数。もう視認できる仲間は共にローテーションを組んでメガロドンを抑えんとする仲間、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)と『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)、そして『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の三人のみ。 最早陣形も何も無く、数の暴力の前に陣形を維持しようとするリベリスタ達の努力は踏み躙られた。 リベリスタ達が決めた敵とのマッチアップを望んだ様に、敵はただ数の力で押し流さんとする。 望んだ敵と相対するか、兎に角固まり耐え凌ぐか、選べるのはどちらか一つ。 故に結果はこうなった。 暗い空に真紅の月が昇る。呪力で生み出されし其れは、とらのバッドムーンフォークロア。 嗚呼、今なら望むがままに敵は巻き込み放題だ。月から放たれた赤光が死者達を、メガロドンを貫いて行く。 しかし死者達は怯めど、メガロドンは怯まない。意に介した風も無く進む怨霊に、次いで突き刺さったは気糸。 マクスウェル、ロングバレルのピストルの銃口から伸びたのは弾丸ではなく、あばたが忌み嫌う神秘の、気を練り上げて作られた攻性の糸、ピンポイント。其れは正確に、彼女の狙い通りに、メガロドンの武器持つ腕を貫いた。 けれども、嗚呼、確かに相手が人であれば其の一撃は攻撃の威を削ぐ役に立ったかも知れぬ。だが今彼等の眼前に立つは怨霊。人の理は通じない。 「――神罰執行、致します」 プロストライカーによるコマ送りの視界の中、視線の捉えし敵を次々にロックオンしていくリリ。 一つも洩らさず的確に、認識、弾道計算した敵には脳内で十字の印を施す。其れは彼女にとっては作業では無く祈りに等しい。なればこそ、彼女は莫大な集中力を必要とする処理を平然と、否、粛々と敬虔にこなせるのだろう。 周囲に降り注ぐ業火の雨、必殺のと枕詞をつけても差し支えない威力で放たれたインドラの矢。 だが其れさえも乗り越えて、メガロドンの持つ怨念を凝り固めたハンマーが、八つ当たりの様に喜平へと振り下ろされた。 ● あっという間に大混戦となった戦場でも、其の姿だけは良く目立つ。 当人は小さくとも、担いだ獲物は余りに長大。パイプオルガン、嘆きの聖者を携えたエンツォの前に、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が立つ。 陣形を維持しつつ狙った敵に向かう。普段の戦い、小規模同士の戦いであれば、相手をスイッチすれば成せる其れが、大規模な敵の数に相反する行為と化す。 けれども皮肉な事に、普段の敵に比べればタフではあれど動きの悪い死人の群れを、凌ぎ、耐えながら掻き分けて、目的の敵を目指す事は、たった一人の個人、熟練のリベリスタにとっては決して不可能な行為ではなかった。 此処に揃えられた死体は、全てが一般人の物であるが故に。 「やあ露助!」 以前相対した時と同じく陽気に、しかし何処かに翳りと不安定さを含んで、エンツォはウラジミールを歓迎する。 エンツォの周囲には、死人達も寄り付かない。彼の戦いは全てを巻き込み飲み込む暴力だから、寧ろ死人は邪魔である。 ウラジミールが入り込んだこの場所は、死人の嵐の……、そう、台風の目なのだ。 此処に辿り着けたらなら小細工は不要。ウラジミールは用意して来た、余りスマートとは言えない、慣れぬ挑発の言葉を胸に仕舞う。 「任務を開始する」 КАРАТЕЛЬ、コンバットナイフの刃をエンツォに向け、ウラジミールは開戦を宣言する。 此処が正しく全ての中心だ。エンツォを倒せば周囲の死人は確実に止まり、そして怨霊達を操る蝙蝠兄弟もエンツォの命を最優先して撤退するだろう。 「露助は硬いなぁ。でも其れが露助らしいね。心配したんだよ。焦ってるんじゃないかなって」 望まぬ形で分断され、死人の壁に戦況の把握も出来ず、戦闘音が互いの声すら届かせぬこの状況に。 間合いを踏み潰し、振るわれたウラジミールのコンバットナイフは、無造作に翳されたエンツォの腕を貫き止る。 赤い雫が、地に滴り落ちた。 「でもさ、どうして一人で来ちゃったの? 一人で僕を止めれる? 今まで見て来た中でも、露助は凄く硬いし割と強いとは思うよ。でもね……」 不意に、ウラジミールの身体に重く、重く、音が絡み付く。 逆に、突き刺さったナイフを振り払うエンツォの其の仕草は、ウラジミールが知る物よりも遥かに力強く……、そう、彼とは逆に音の後押しを受けていて。 「1対3なんだけど、判ってるのかな? ウラジミール・ヴォロシロフ!」 名乗った覚えの無い彼の名を、エンツォは確かに口にして。 パイプオルガンが地を叩き割る。 戦いは数の力で圧倒する楽団の有利に始まった。しかしリベリスタとてそう易々と砕けはしない。 この国は余りに多くの災いに晒されて来た。不幸と言う言葉では片付けられぬ程に、運命は悲劇を望み続けた。 けれどだからこそ、この国のリベリスタ達は、其の災いが舌をまく程にしぶといのだ。 リベリスタ達は常に、災いに対してやり過ごすのではなく立ち向かってきた。決して、諦める事無く。 今回の楽団の襲撃とて、その災いの一つに過ぎない。 リベリスタは諦めない。投げ出さない。くじけない。魂を折りはしない。 反撃の起点となったのは、雷音の指示に従い、固まって岩と化し、死者の大波に耐えた名も無きリベリスタ達と、彼等と共に在った『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)。 「そこだっ!」 カッと瞳を開いた虎美の、AlcatrazzとRising Force、両の手の銃より光柱が、スターダストブレイカーが放たれ、死者の群れを切り開いていく。 「虎美に続いて!」 雷音の指示に、虎美が切り開いた穴に捻じ込む様に、スターサジタリーが、マグメイガスが己の技を放つ。其の先に、チラと見えるは座代と戦う壱也の姿。 視界も音も、全てが死者に埋もれた戦場で、しかし虎美はほんの僅かな剣戟の音を、壱也と座代が打ち合う僅かな音を、集音装置で其の耳に拾って見せた。 壱也だけでは無い、夏栖斗の炎が爆ぜる音も、幸成の気糸が風切る音も、喜平、リリ、とら、あばたの4人が掛け合う声も、全て虎美は拾っているのだ。 固まり、耐え凌ぎ、そして死者の群れを切り崩し始めたリベリスタ達。 こうなれば、孤立して怨霊と戦う精鋭は、寧ろ穿たれた楔として機能し始めた。其の周辺の敵は、激しい戦いの余波に少なからず被害を被っているだろうから。 音で戦場を知る虎美は楔の位置を攻撃で示し、雷音の指示に従うリベリスタ達が攻撃の厚みを加算する。 戦いの天秤が大きく揺らぐ。 ● 鈴木を貫き、其の背後の敵陣に一筋の切れ目を刻んだのは、夏栖斗が放った虚空仇花。達人級にまで辿り着けた者のみが放てる、必殺の一撃。 夏栖斗が鈴木に殺され掛け、鈴木が夏栖斗の恋人に殺されたあの日から、流れる月日の其の間に、近しかった筈の二人の実力には開きが出来た。 生者は成長を続けても、死者は停滞したまま、あの日のままだ。 拳を捌いて蹴りが飛び、蹴りは流され踏み込みからの肘が炸裂する。一連の遣り取りも、最後の一発を決めたのは夏栖斗。 鈴木が怨霊と化し、物理攻撃への耐性を身に付けていなければ、勝負はとっくについていただろう。 とは言え夏栖斗とて、死者の海に孤立した状態では無傷で済もう筈が無いのだけれど……。 迫る死者ごとカルビを切り裂く幸成のダンシングリッパーに、けれども怨霊と化した骨抜きカルビは意に介した風も無く手を伸ばし、幸成の上腕骨に罅を刻む。 痛みと、ほんの僅かでも身を捩るのが遅れれば腕の骨を抜かれていたであろう事実が、幸成の表情を歪める。 フェイク・イヴと言う木偶を使いはしたけれど、あの時骨抜きカルビは唯の一人で八人のリベリスタに挑んだ。そのカルビをたった一人で、それも有象無象の敵に囲まれながら相手取る事の厳しさ。 だが同時に、其れは幸成に己の成長をも実感させた。 あの当時なら先の攻撃は己の腕の骨を抜いていただろう。否、それ以前に其の前の攻撃に下顎を、其の前の攻撃には大腿の骨を、其々抜かれていた筈だ。 そうなれば今頃立っては居ない。トドメに背骨をずるりと抜かれ、物言わぬ骸に、……仲間を襲う死者の仲間入りを果たしていただろう。 其れを思えば今の状況の厳しさなど笑える程度に思えてくる。意識を向ければ取り囲む死者達の壁も幾分薄くなって来ていた。 希望は意外と近くに在る。 幸成とカルビ、二つの影が交わり弾けた。 雷光を纏ったはしばぶれーどが影を切り裂く。ツンと空気の焼ける匂いが鼻を突く。 けれど影は、怨霊、小南・座代は平然と、切り裂かれながらも返しの刃を振るう。 ダメージが無い訳ではないのだろう。最初と比べれば、影の密度は幾分薄い。 しかし物理攻撃に耐性を持つ怨霊を、其の剣一本で押し切るのは些か困難が過ぎる作業だ。 壱也の体にも幾つもの傷が刻まれた。怨霊と化してはいても、座代の豊富な戦闘経験に裏打ちされた剣技に翳りは無い。 壱也は大きく息を吸い、伸びる死者達の手を切り払って座代に向かう。 また一つ、剣と剣が互いの身体を傷付ける。既に互いが並の能力者であればとっくに戦闘能力を失う程の傷を与え合っただろう。 座代は怨霊であるが故に、壱也は持ち前の人並み外れた再生能力故に、未だに立って刃を振るう。 身体の傷は何れ消える。壱也ならば尚更だ。けれど彼女はその身に受けた一つ一つを、心に刻む。 彼女が生在る限り、其れを忘れずに居られる様に。 とは言え、其れも永遠には続かない。壱也の回復力を、座代の攻撃力は上回り、耐性が在るとは言え、傷付いた座代はそのままなのだから。 終わりは何時かやって来る。初めての終わりか、再びの終わりか、未だ其れは定まらねども。 ● 「露す……、ウラジミールは凄いね! 僕に3回も殴られて形保ってるなんてさ。普通の相手だと直ぐ潰れちゃうから本気で殴る事って滅多に無いんだけど、…………あはは、もう聞こえないか」 ほんの僅かに寂しげに、エンツォは倒れたウラジミールを片手で引き摺り起こす。 けれど正に其れは賞賛するべきしぶとさであった。並みの能力者であれば2撃を必要とせず肉塊に変えるパイプオルガンでの物理的な攻撃を、フェイトを使用しての踏み止まりを加えてとは言え、3度も受けて未だに命を保てている事は、エンツォにとって驚き以外の何物でもなかったのだ。 死体を操るエンツォにとって、身体の破損は成るべく少ないに越した事は無い。最期はパイプオルガンではなく手で、頚椎を圧し折る事を選んだエンツォ。 だが其の時、全くの不意打ちで、ウラジミールの首を掴んだエンツォの腕を、一発の銃弾が貫いた。 「させません!」 其れを放ったは、メガロドンの抑えとして死者の波に埋もれていた筈の、リリ。 喜平、とら、リリ、あばたと、破格の4人もの戦力をメガロドンに割り振ったが故に、喜平のB-SSをはじめとし、とらのバッドムーンフォークロアに、リリのインドラの矢と、範囲火力にも充実した彼等は周囲の死者を減らし、エンツォへの射線を得る事に成功したのだ。 しかし其れは余りにギリギリのタイミング。生き永らえたとは言え、ウラジミールには最早交戦能力は無いだろう。 驚きの表情で、弾丸に穿たれた己の手を見詰めるエンツォ。赤い雫が滴って行く。 「――Porca puttana!」 小さな唇が呟いたのは、リリに対する罵倒の言葉。 けれども吹き荒れる激昂を抑えるかの如く、エンツォは拳を強く握り締め、無理矢理に笑顔を作る。 情緒の不安定なエンツォも、激昂のままに暴れて欲した彼等の死体を粉々に叩き潰す事だけは避けたかったのだ。 強い執着故に、彼は己の感情を押さえ込む。 「……行き成り酷いね。綺麗な売女のお姉さん」 しかし日本語に言い直しても、言葉の内容は然程大きくは変わらない。 「汝、死者を冒涜する勿れ」 前半の意味はわからねど、後半の言葉ははっきりとした罵倒だった。 けれどリリは取り合わず、唯、祈る様に言葉を紡ぐ。 「チャオ、エンツォ☆せっかく遊びに来てやったのに、シケた顔ー!」 だがそんなエンツォに敢えて明るく呼びかけたのは、とら。此れまでも、そして今回も、最もエンツォの感情に触れようとした彼女。 掴み掛かる死者を受け流し、とらは一歩エンツォへと踏み出す。 「Ciao、……えーと、とら!」 ウラジミールに続き、矢張り知らない筈の彼女の名を呼ぶエンツォ。 恐らくエンツォは接触したリベリスタ達の名前を調べ上げたのだろう。この異国で、彼等の情報を集める苦労は想像に難くない。 其れは執着心の現れであり、好意。彼は一度、とら達をトモダチだと呼称した。其の言葉に嘘は無い。 「駄目だよ。傷だらけじゃないか。……ねぇ、抵抗はやめて僕の物になってよ。それ以上傷を増やさないで!」 だがエンツォの好意は歪んでいた。好意を持った相手の死体を自分の物とし、自分の下に繋ぎ止めたいと言う欲求。 踏み出したエンツォの足を、とらに向かった死体を蹴り飛ばして押し返したあばたの放つ1$シュートが貫き縫い止める。 「やーだよ♪ 死んじゃったら、こっちはエンツォと話したり出来ないじゃん。いくらイタリア男でも、力ずくで奪うとか強引すぎんじゃない?」 フォローに入ってくれたあばたと視線を交わし、とらは更に言葉を飛ばす。 確かに孤立し、回復支援から切り離されたとら達の身体は傷だらけだ。けれど彼女達は諦めていない。 生きたままの友達付き合いなど、とっくの昔に諦めてしまったエンツォとは対照的に。 「俺達は世界を瓦礫に変えるわけにはいかないんだよ。そんなに言うなら、そっちが俺のものになれ!」 笑顔のままに力強く、とらは覚悟を口にする。 昔々、と言ってもそれ程昔ではなく、両手に少し余る程度の年月の昔、イタリア、シチリア州のある家の3男としてエンツォは生まれた。兄等は勿論エルモとエリオの双子の兄弟。 エンツォが生まれる其の日まで、其の家族は至って平凡な一家であった。 家族皆が楽器を嗜んでは居たけれど、其の音色に死体が踊りだす事も勿論無い。 しかしエンツォを生み、身体を壊した母は亡くなった。父は、母を求めた赤ん坊が無意識に死霊術を行使する様を見て、家を飛び出し姿を消す。 二人の兄は、亡き母の遺言に従い、弟を愛し、弟と同じ道を歩む為に全てを投げ棄て、彼を育ててくれた。 エンツォは父も母も覚えていない。けれど其の出来事はエンツォの根源として彼の心に根を張っている。 人は変わり、人は死に、そして自分から離れて行く。 今までエンツォが生きて来た中で、不変を感じた物は唯の二つ。 一つは兄等の愛。彼の為ならどんな事をも厭わない、絶対の庇護。 もう一つは楽団。師のロマーニは死んでしまったけれど、それでも絶対だと確信できる存在、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ と バレット・”パフォーマー”・バレンティーノが居る楽団こそは、エンツォにとって不変の存在なのだ。 「あはは、……うん。格好良い! 大好きだよ、月杜・とら」 リベリスタ達がどれ程粘り強く足掻こうと、ケイオスの譜面通りに事は終る。彼等は、如何足掻いても消えてしまう。 エンツォの其の考えは揺るがない。 兄等と違い、未だ子供であるエンツォにとって、楽団は余りに巨大な存在過ぎるから、其れの敗北を想像する事が出来よう筈も無いのだ。 エンツォの価値観を砕くには、楽団を砕いて見せるより他に無い。 ● 「――天の怒りを!」 再び炸裂するインドラの矢。天に放たれたリリの弾丸が、業火となって降り注ぐ。 リベリスタ達の攻勢に死体は急速にその数を減らしていく。打ち込まれた楔、精鋭達との道も繋がり始めた。 特筆するべきは、この激しい戦場に置いても、精鋭達に比べれば実力の劣る、アークに所属せぬ、名も語られぬリベリスタ達に、一人の損耗も出なかった事である。 雷音の指示に連携し、互いを支えあい、更には雷音からの回復を受け、虎美と共に死者を減らし続けた彼等。 死の覚悟は出来ていたけれど、ただ自分達に死ぬなと願う少女の前で、むざむざと死に様を晒せよう筈が無いではないか。 「お久しぶり。前回は大変だったみたいだけど……大丈夫だった? この間は見せれなかった新技、見せてあげるよ」 虎美とエンツォの邂逅。そして動く針の穴ですら貫き通すと名付けられた超精密射撃が放たれる。 ダブルアクションから放たれた、2丁の拳銃での射撃は、確かにエンツォを追い込んで見せた。 しかし、リベリスタ側も損耗激しく、彼等の定める撤退ラインは直ぐ間近となっていた。 最初に崩れたのは、メガロドンの相手をする面子の中では最もタフだった筈の喜平。それ故にローテーションのトップを務めた喜平ではあったけれど……、如何に面子の中ではタフさを誇れど、本職の前衛に比べればレイザータクトの彼は引けを取る。 メガロドンは、矢張り怨霊の中では頭一つ抜けて凶悪だったのだ。受けに使った喜平の巨銃を圧し曲げて、メガロドンのハンマーが喜平を地面に押し込み潰す。 そして次の犠牲者は、どうしても実力的に他の面子に一歩劣るあばた。 彼女がこの地獄の様な戦場で此処まで戦い抜けたのは、決して己を過信しない慎重さと動きの巧みさが故に。 大技は使えぬけれど、部位を狙った精密な射撃で、敵の威を殺ぎ、やり過ごし、じくじくと削り続けたあばたは、地味では在れど大きな働きを果たしていた。 だが、けれど、そんな彼女も圧倒的な暴力の象徴の様なハンマーに腹部を打たれ、咄嗟に受け止めたリリの腕の中で力尽きる。 怨霊、鈴木が倒れて霧の様に消えて行く。 死者達が数少なくなった事で可能となった座代の他者への回復も、 「また自分を削って他人を生かすの? もう、ゆっくり眠りなよ」 壱也の猛攻が許さない。 だが、リベリスタ達が最も落とすべきと考えたエンツォを沈める事が、叶わない。 確かにリベリスタ達は彼を追い詰めはしたのだ。しかしエンツォを不死たらしめる、霊を憑依する自己付与が、エンツォの膝を支え続けた。 とらのライアークラウンを、割って入ったメガロドンが阻害する。 そして勝敗を決定付けたのは、エンツォに必殺の一撃を、ハイアンドロウを入れんが為にカルビから離脱しようとし、けれども其れを果たせず肋骨を抜かれて倒れた幸成。 幸成が弱い訳では決して無い。けれど彼の本領を発揮出来ぬ、密集した戦場での削り合いは、他の前衛に比べてタフとは言えぬ幸成の大きな負担となったのだろう。 骨抜きカルビは骨を抜く。唯其れだけが彼の存在意義だから。最も愛した肋骨を手に入れて満足したのだろうか? 幸成の攻撃に傷付いていたカルビもまた、力を失い霧と化して消え去った。 ● リベリスタ達の定めた撤退ラインは満たされた。 力尽き、倒れて行くアークの精鋭達を救い、撤退を成させたのは、余力を充分に残した名も無きリベリスタ達。 追撃をかける、随分減ってしまった死者達を受け止め後詰を成したのが彼等だ。 「Cavolo!」 撤退するリベリスタに、けれどもあばたに足を撃ち抜かれて追えぬエンツォが毒づいた。 あばたの地道な作業の一つが、鎖となってエンツォの足に絡みついている。 欲しい物が去って行く。手が届かない。倒れはせずとも、撃ち抜かれた足では追いつけない。 少年の目に涙が滲む。余りに身勝手な涙が。 戦いはリベリスタ側が敗北を喫した。 けれどリベリスタ側は誰一人として犠牲を出さず、そして多くの死体と二体の怨霊を失ったエンツォ等の戦力は半減し、他の戦場へ向かう余力を残していない。 混沌組曲が最終楽章、急の模様は混迷の度合いを深め行く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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