● 「だれか、だれかある!」 「はい、お嬢様」 「この間の次元の方々と、バレンタインがしたいの」 「お嬢様。残念ながら、いささか時期がずれております」 「ホワイトデーに間に合えばいいのよ」 「ご卓見でございます」 「駆け込み申請!」 「電光石火でございます」 「先日グループ交際をして、更に理解を深め合ったと思う」 「手順を踏んでおられます」 「だから今回は、Wデートしてみたい」 「それは、二組でのお付き合いということですか」 「互いをサポートしつつ、自分のお目当てを落とす!」 「友情パワーも必要ですな」 「ターゲットは分散させるのが大事!」 「三角関係+1は切ないですな」 「ストップ、一人ぼっち」 「しかし、お嬢様。こちらの数も向こう様に合わせねばなりませんが……」 「わたし。おまえ。サーヴァント」 「私もで、ございますか」 「それも、執事の役目と、お父様からうかがっている」 「きちんと先代様のお言葉を覚えてらっしゃる。さすがです、お嬢様」 「讃えなさい」 「聡明であらせられる」 「より情熱的に」 「お嬢、チョーCOOOOOL!」 「それは前にやめろと言った」 「申し訳ございません」 「――そういう訳だから、面子の選定をしなさい」 「ですが、お嬢様。ことこの場合の面子には、力量もさることながら属性も大事でございます」 「属性」 「ツーといえばカーな人選が必要でございます。偏りがあっても向こう様に失礼。先様のご希望をうかがった上でということで……」 「クールでホットでひねくれてて素直」 「複雑怪奇でございます」 「お待たせしても悪いわね」 「何、当お屋敷のサーヴァントは可変式でございます。いかような属性にも対応、可でございます」 「着脱可能」 「機能変更、随意でございます」 「フラクタルね」 ● 「――アザーバイドの接待。ここは一つWデートに勤しんでもらおうと思う」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、職務に忠実だった。 「……とはいえ、先様にそういう感情はない。そういう感情を催した場合の行動をしてみたいおりがあってもということ。いうなれば、ごっこ遊び」 左様でございますか。 「ちなみに、お嬢様……名前、人間には発音できない。まあ、ミドルティーン。お屋敷から出たこともないような深窓の令嬢と思ってくれれば……つまり、知識はあるけど、まったく経験を伴っていない。その知識も、とんちんかん」 早春、リベリスタ達が一対八の変則異種格闘組み手、初夏には陣取り合戦にかり出され、半数が重傷を負って帰ってきたのは記憶に新しい。 「恋愛とそれにまつわる行為を、殴りあうことと思っているのは、相変わらず」 ちょっと待てぃ。接待ってデートとかじゃないのか。 「燃える想いを拳にこめて、相手のハートに内角をえぐるようにして打つべし打つべし打つべし」 サンドバックに浮かんで消えるのは愛しいあの方なの。ぽ。 「お嬢様は、非情に頭脳明晰。更にケンポーをたしなまれている。更に、こちらの技を研究なさっているので、びっくりドッキリラブアタックして来る」 新技をお試しになりたいのですね、わかります。 「こちらは武器を使っても構わないし、回復飛ばしてもいい」 異文化コミュニケーション。 「とにかく、お嬢様は、限界まで戦えば満足なさるから。逆に言えば、お嬢様を倒さない限り、延々と続く。魔力をきらさないように」 モニターに、どこまでも続く長い廊下。 壁には桟敷席。 「今回は二対ニのタッグ戦。これをお嬢さまが満足なさるまで、延々と繰り返す。むこうはお嬢様と執事が参加確定。召使をこちらの面子に合わせて選抜するって。こちらの出来ることは向こうも出来ると思って」 ここまでで、なんとなく分かったと思うけど。。と、イヴはえらくまじめな顔をする。 「お嬢様に手加減とかいう概念はない。こちらが戦えなくなるまで交際を続けようとする。更に、あっちの方が実力は上。だから、五体満足で帰れると考えない方がいい。というか、そういう覚悟で望んでほしい」 お接待とは手加減して戦うことではなく、お嬢様の勘違いを追及せず、淑女に恥をかかせないよう気をつけるということだ。 「戦闘は、本気で当たるように。それが礼儀」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月05日(火)22:36 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「久しぶりだね、ボトム・チャンネルの諸君。また会えて、幸福の至り!」 本日のお嬢様は、メタルスカイのボディスーツにビターチョコレートカラーの白い羽根飾りのお帽子である。 マスクは無貌が正式な装いです。 背後には燕尾服に顔の半分を覆う仮面の執事。 更にその後ろに目元を覆う化面をつけた侍従、侍女、小姓が控えている。 身分が上がるごとに、生身度が減っていくらしい。 「ハッピーバレンタイン!」 かなりずれているが、こまけえことはいいんだよ。 というか、暦どおりに来られたら、ちょっと辛すぎたから、かえってアーク的には好都合。 「今日のWデート、それは楽しみで――」 色々想像しちゃってどきどきのポーズに、天井桟敷席に鈴なりの使用人一同から、憧憬のため息が漏れる。 「いつもより睡眠時間は267秒(ボトムチャンネル換算)足りない! ベストコンディションでないことをお詫びする」 「本日のお嬢様は、通常地より0.0000324%の出力低下が予想されておりますので、サーヴァントに補正をさせていただきました。どうぞ、ご安心くださいませ」 「執事、ナイスフォロー」 「勤めにございます」 お名前を人間の舌では物理的に発音できない、高貴にしてやんごとない、高位の異次元の淑女。 アザーバイド、識別名「お嬢様」 魔性の女である。 性的ではない意味で。 彼女と一度拳を交わせば、再びその眼前に進み出で、その名誉を再びと望まずにはいられない。 「「「「お久しぶりです、お嬢様」」」」 異口同音。 半数近くが、かつてお嬢さまの拳を浴した者である。 「わっはー。でーとなのだー」 『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)は、ミイラになってしまった。 「でーとって、たしか河原で殴りあって夕日をバックに、『オマエ強いな!』 『オマエもな!』 とかやる事だよな、たぶん、良く知らんけど」 「川原! 100枚割ると黒い帯!」 それは、瓦だ。でも、お嬢様なら、川原も割れるかもしれない。 「大体そんな感じだ!」 六花は素直なので、お嬢さまの言葉もそのまま信じ込んでしまい、へんな確信を持つに至ってしまった。 それもこれも、お嬢さまとのデートのせいなのだが、アーク当局は一切責任を持たないからそのつもりで。 カウンセリングの予約は、お早めに。 「愛が御所望なら応えてやるさ。あたしもぶつけたいもんがあるんでね、ちょーどいい」 『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)が見ている先には、執事がいる。 前回のグループ交際で、雅は執事の厚い守りを崩せなかったのだ。 (あたしは強くなるよ。絶対に) 目標を見据える瞳に、迷いはない。 「うん、またいつか殴り愛する事になる。そんな予感はあったよ」 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は、愛用のモノクルをかけなおす。 「しかもお嬢様、俺が知ってる時よりごった煮の中身増えてるしね」 「恋する乙女は、常にアップデートを重ねるもの!」 影で努力を怠らないお嬢様の勤勉さに、全使用人が胸熱。 「モデルチェンジもお済みでございます」 「びっくりドッキリラブアタックってなにさ」 「恋の切り札は最後まで取っておくもの!」 正解は、番組後半で! 「あんまりデート前に長々とおしゃべりするのも失礼ですね。でも、これはヘクスなりのルールなので言わせていただきますね」 「殺し文句は、大事なこと!」 お嬢様の苦しゅうないのポーズに全使用人が泣いた。 「砕いて見せて下さい。ねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」 ● そんな再選組とお嬢様のやり取りの独特の空気にちょっくらべっくりの、お初の御目文字組。 「――所謂一つの異文化コミュニケーショ言う奴やね」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は、今日、親友に、『今日、Wデートなんで。ちょっと全力で恋愛してきます』 と言って出て来た。 (……と言うか、これで嫉妬とかしてくれたらなあ……あっいえ、何でも無いです) ちょっと危うげな依頼に入って心配かけるのが、癖になったら大変よ? 妙に懐が深い親友は、今頃「うがああっ」とか絶叫しつつ、訳のわからない屁理屈をこいているに違いない。 うさぎの「親友」――一番いい席は自分のもんだとまったく根拠もなく信じて疑わず、自分のそれにうさぎを座らせ、それで充ちたりまくって幸せな馬鹿だ。 (うん、良いでしょう。コレが恋愛だと言うなら寧ろこれ幸い。全力で恋愛するとしましょう) うさぎの無表情とわきあがる情熱は反比例だ。 「でも、私の愛はちょーっとネチっこいですよ?」 「ピュアでミドルティーンな美少女が全身タイツでピッチピチですよ! それだけで俺は全てを許せる!」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)みたいな人が、「首なし美人」とかいい出すんですよ。 「お嬢様のわがままや非常識ぐらい、笑って受け入れてこそ男! すなわち、これは器量の勝負と見た!」 しゃべると八割残念なのに、時々いいことを言うので、始末が悪い。 「が、ミドルティーンなピチピチタイツなお嬢様が相手な時点で俺に精神的な敗北はない!」 見られるだけで、俺の勝利。 乙女の姿、しばしとどめむ。 「問題は物理的な方……」 ぶっちゃけ、お嬢様はバカみたいに強いらしい。 腹パン一発即ダウン、冗談抜きにありうる。 「くくくっ! だが、それも順番を最後になるように根回し事で完了している!」 汚いなさすがハンサム汚い。 「数々の猛者相手に消耗したお嬢様にペロペロしてくれるわ! 俺は、このゲスい思考とクズい判断力をもって歴戦と呼ばれているのさ! フゥーハハー!」 謝れ。歴戦所持者全員に、その腹掻っ捌いて謝れ。 「俺に回ってこなくても、待っている間に召使さんにちょっかいだしときゃOK! 隙のない完璧な作戦だ!」 もう、この無限回廊走破の刑とかでいいんじゃないかな、こいつ。 「全力での戦いか……こういう試合形式で戦うと言うのも中々無いからな。楽しませて貰おう」 クリミナルスタア的にかっこいい台詞だ。 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は。ストイックなスタイリッシュで、結構いい男だ。 声変わりしていれば、完璧だ。 「え? Wデート? 一体どういう事なんだ……」 なにをするかはわかっていたが、それが何を意味するのかわかってなかったよ、小学生。 というか、別れという方が酷だよ、イッツ殴り合い。 出来るなら、30年後くらいにお会いしたい11歳児。早く青臭さが抜けて、成熟して、しぶい中年になぁれ。 さて、二年の歳月は大きい。 第二次性徴期真っ只中。色気づいてくるとこうなる。 「イカしたオンナだぜ、お嬢……」 『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)、13歳にささやくのは、大地母神と書いてガイヤではなく、愛の女神と書いてアフロディテだ。 「舐めるなよ? オレはマジだぜ! オレの惚れっぽさは、マッハだ!!」 恋愛落下度、加速中! 「オマエが望むなら、拳と拳でラヴを語り合うぜ」 飲み込み早いな、この場のノリにあっという間に同調している。 「愛ゆえに!」 あまりのアピールの見事さに、天井桟敷からスタンディングオーベーション。 「――開始前から、高鳴るこの胸。これが恋」 お嬢さまの戸惑う乙女のポーズに、天井桟敷から投げ込まれる紙ふぶき。 「可憐でございます、お嬢様」 「別の表現で」 「たおやかでございます」 「よりアグレッシヴに」 「小脇に抱えて頭をぐりぐりしたいかわいらしさでございます」 「小動物!」 お嬢様のかわいい子猫のポーズに、天井桟敷では失神者が続出した。 「――それでは、始めましょうか」 ● 第一回戦は、ヘクスと『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)。 11歳と13歳のちびっ子コンビは、お嬢様と執事の最強タッグを御所望だ。 「まぁ、ヘクスが恋の障害になるかはさておいて……お嬢様はWデートをどう考えているのでしょうか?」 シェリーの行動の邪魔にならないようにシェリーの前ではなく横から全力かばう一択のヘクスが疑問を口に出した。 「今回のWデートは、つまるところ相手の強さに負けない強靭さと相手を粉砕する武力を改めてペアに見せつけることにより、より深い絆を作る為にあるとヘクスは考えるわけですが……」 タッグパートナーは時として恋人より濃密な関係なりえるのだ。 「裏を返せば、相手のペアの1人の強靭さもしくは武力そのものを完全否定しまうと、ペアを解消されてしまうかもしれないと言うドキドキ感が潜んでいるわけです」 私のラブい相手からの熱い愛をよくもさえぎってくれたわね、バカバカ。あなたとは絶交よ状態になっちゃうかも。なっちゃうかも! 相手への攻撃=恋愛アプローチと定義付けられたこの戦いにおいて、仲間をかばうことに特化したヘクスは、いうなれば、目の前で自分宛のラブレターをゴミ箱につっこむ無粋者になりかねない。 懸念はもっともな話だ。 それでもヘクスは止めるといったら止めるのだが。 「恋愛は時として残酷なもの。きれいごとでは済まされないアリジゴク……」 お嬢様、大人の機微もわかり始めた少女の憂いのポーズ。 「他者からの愛を遮断し続けることで表現する愛も認めざるを得ない!」 つまり、ヘクスの立ち位置、イエスだね! 「それでは、お嬢様。今回の恋のお相手はこちらの令嬢を射止めた方が勝ちということでよろしいでしょうか」 「そうね。まずは、恋愛障壁を討ち果たすのが慣用!呉越同舟、船頭多くして船銀河にいたる!」 「広大でございます、お嬢様」 レギュレーションが確定するまで、シェリーはすでに魔法陣の展開を終了している。 「おめかしは、義務!」 お嬢様の気の抜ける勘違い発言に対抗すべく、シェリーも目には目を歯には歯を作戦に出たのだ。 (万全の敵を倒すため、妾達が一番目の対戦だ。新技を使わせて、後続の者達に見せる狙いもある) 頓珍漢なことばかりいっているが、戦闘能力だけは高いのだ。 (非戦を使って、技の分析、弱点等が分かったら仲間に解説しよう) 「グローバルにエンター、レッツネット恋愛。妾はシャイだから」 シェリーは、遠距離攻撃に終始する所存。 「“妾とヘクス”が勝ったらその仮面をもらうぞ。こちらが負けたらチョコをやろう」 ざわざわっっと、天井桟敷がどよめく。 『破廉恥なっ』 『神よ』 と叫んで、失神する者、続出。 この空気は、竜一にはなじんだ空気だ。 すなわち、「@@@ちゃん、ぺろぺろっ!」と言ったとき、女性リベリスタからかもし出される空気。 彼は瞬時に理解した。 今のシェリーの発言は、お嬢さまに向かって「我々が勝ったら、あんたの脱ぎたてパンティーをよこせ!」と言ったに等しい大胆発言だったのだ。なんということでしょう。 ああ、まさに恐ろしい異文化コミュニケーション。 「異界のお客人。お嬢様の仮面はそんじょそこらの仮面とは訳が違います。そうまさしく神秘のベール、ウェディングベール、お嬢様の未来の伴侶以外その下を拝見すること一切罷りなりません! 私、ご当家の一大事と判断いたします。恐れながら、執事権限に基づき制御機構を解除させていただきます」 顔面の半分を仮面で覆った執事の仮面が一瞬発光する。 「これが、略奪愛」 お嬢様貞操のピンチのポーズ。 天井桟敷から、『執事さんファイト』の横断幕が急遽張られる。 「それでは、参ります。お嬢さまの伴侶になりたくば、私以下全ての使用人の屍を踏み越えてからにしていただきましょう!」 執事が動いた。 前回、動かざること山の如しだった執事が、無限回廊を疾走する。 燕尾服の裾を翻す、非常にほっそりとした美老人。 「恋愛に障害は付き物、IT'S起爆剤」 シェリーはそう言って詠唱を完成させる。 起爆どころか、大爆発。 更に執事をぶっ飛ばすため、中型魔方陣を複数展開。 収束される魔力砲撃は、中級呪文の域を超えて威力抜群だ。 駆け出し革醒者など、余裕で五、六回くらい死ねる。 「属性を超えた愛、IT'Sシャンバラ」 しかし、執事も、伊達に執事をやっていない。 「いや、恐ろしいですな。避け切れませなんだ」 燕尾服のすそが焦げて片側だけになっている。 「では。参ります」 完全計画! 執事の魔白い手袋がシェリーをかばう鉄の扉のごとき盾を叩く叩く叩く叩く。 「貴女様の心の扉を叩くのは私でございます!」 ごわんごわんと激しく振動する 「いやはや、通りませんな」 「バンホーテンとコーンフロスティ。妾とヘクス、最強タッグじゃ」 「さすが絶対鉄壁様でございます。私、まさか立っておられるとは思っておりませんでした」 ごしゃーん。 鉄の扉が開いた。 ヘクスの眼鏡がずれている。 垣間見えるおめめはぐるんぐるん。 「さすがの鉄壁具合でございますので、途中で方針を変えさせていただきました。お年頃のナイーブなお心の方にラヴアタックでございます」 「自分のヴァージンは自分で守る。そんなアイアン・メイデンになりたい今日この頃!」 お嬢様のモーションが始まっております。 「こういうときに言う台詞はこうと決まっている。美しき様式美」 大きく腕を開いて、鉄の処女のポーズ。 「『いやぁん、えっちーっ!!』」 お嬢様、いわゆる自分抱きのポーズ。 交差される腕のモーションで生まれた圧縮空気が、シェリーに向かって襲い掛かる。 豪! と、音がした。 ヘクスという絶対鉄壁が退いた後、か弱い魔女は、背中で無限回廊の床のすべらかさを味わうことになった。 「エラーだらけのマイプランじゃ!」 ● 第二回戦は、ドイツ貴族同士のタッグだ。 「俺達でドイツ流の恋愛を伝えるとしようか」 第一回戦中も、お嬢様の立ち居振る舞いを目に焼き付けていたクルトのエスコートで、『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は、銀の仮面を被り宮廷衣装を纏い、一礼する。 「ようこそ、紳士淑女の皆様方。私の名は、アーデルハイト・フォン・シュピーゲル。――さあ、踊りましょう。土となるまで、灰となるまで、塵となるまで」 (恋を囁き、愛を謳う――生きる事は、何時だって真剣勝負) 「こちらはご希望通り、侍従を用意した!」 「識別番号、ねー45号でございます。このたびは、旦那様、奥方様に御目文字かない恐悦至極に存じ上げます。精一杯努めさせていただきます」 小山のような大男。希望はマグメイガス。確かに手に爪楊枝に見えるワンドを持っている。 奥方様が、御夫君のごときガチムチマッチョがお好みだと、どこで知れたのであろうか。 「それは、秘密です」 「お嬢様。まずは俺からの少し早いホワイトデーのお返しと思って受け取ってくれ」 「ではバレンタインをお贈りする!」 クルトとお嬢様のモーションは違えども、お互い如何なる技を放たんとしているのは気配でわかる。 虚空より出でて、虚空を超える。 「赤く裂きます、恋の華!」 ぶっちぎれるメタルスカイのボディースーツ。 観覧席から身を乗り出し、かぶりつきになる竜一。 クルトのバトルスーツの装甲もぶっ飛び、空に咲く血の花火。 無限回廊に長く伸びるそれぞれの血の足が、あわよくば硬陣に控える魔法使いたちの血肉も咲こうとしていたことが知れる。 眼前で止まった弧に、しかし、奥方様の詠唱はよどみもない。 「まずは、『絡み合うご縁』 を」 滴り落ちる奥方様の血を媒介に黒い鎖が召喚される。 お嬢様と、ねー45号を射線に収め、赤い糸の代わりにご縁を結ばんと飛来する。 「人妻との危険な昼下がり!」 「ソープオペラでございます!」 場外の執事から相の手が入る。 「いっそ、小姓でも用意した方が背徳感だだ上がりだったかもしれない!」 「次回選定より、考慮いたします!」 あんのかよ、次回。 「――いけませんな。夜にお住まいの貴婦人には、より艶やかな装いを!」 毒で変色した巌のごとき侍従の唇より、ことのほか柔らかなバリトンが響き、魔方陣から地獄の炎が召喚され、アーデルハイトはもとより、クルト、お嬢様まで焼き尽くす! 「侍従ごときの砲火でどうこうなされるお嬢様ではありませんので、指示はガンガン行こうぜでございます!」 「その意気やよし!」 お嬢さま、焦げてるけど、いいんだ。 「お嬢様、私、もはやこれまで。どうぞ、よき恋をなされますよう! ささやかながら私から餞別の恋の炎でございます」 サムズアップ。ばたっ。ねー45号、脱落。 「かよわっ!!」 お嬢様、驚愕のポーズ。 「ねー45号は勇猛果敢な武人でありましたが、膝に呪いの矢を受けて魔術師に転進したという設定にございます!」 「細かいわね」 「今回のキャストの裏設定は、「Wデートのしおり」をご参照下さいませ!」 全256ページの大作である。 「では、趣向を変えて。恋は雷のごとく!」 お嬢様は、すかさず移動攻撃。 アーデルハイトも巻き込んで、クルトと激しい撃ち合い。 「魔道士も体が資本なのですよ」 アーデルハイト様の豊満わがままバディで言われると、すごく説得力があります。 「私、男性になったら、漆黒の全身鎧とマントが似合う巨躯の魔道士になりたいのです」 来世も女性であることを心からお祈り申し上げます。 しかし、鍛え具合が違う。 奥方様のお体は、もはや限界。 「クルト様、後はお任せしましたよ!」 お嬢さまの怒涛の攻撃を身を投げ出してかばわれた。 倒れ伏す奥方様に、感銘を受けた侍従一同から、我先にとビロードの上着が次々と投げ込まれる。 「美貌の方にかばわれるなんて、あなたは殿方冥利に尽きる」 お嬢様、クルトにサムズアップ。 『よ、色男』 の、歓声も華々しい。 「――こっちの炎もくらってくれるかい?」 魔法炎の上書き、クルトから炎の腕のベアハッグ! 「ならば、こちらも怒涛の一手。私の全てを受け取って!」 お嬢さま、見かけによらずすごく重い! メタル? どのくらいメタルなの!? 「それは、秘密です」 動かざること山の如しが動いたら、すごく重いよ強烈怒涛のぶちかましからの押し倒しからのマウントポジション! 「お嬢様、肉食系女子でございます!」 「――愛は、幸福にするためにあるのではなく、悩みと忍耐においてどれほど強くあり得るかを示すためにある、か」 内蔵飛び出しそう。 「ヘッセの言葉だけど、この状況に似合いすぎだろ」 ここでダウンする訳には行かない。 「壁にぶつかっても届くと思えば恋愛の思いは壁の内側に届く、はず」 お嬢さまの分厚い恋愛障壁を無視して、クルトの下から突き上げる掌底!。 「ああ、脳天まで突き抜ける衝撃。これが恋――!」 いえ、BS「麻痺」です。 ● 「折角のお誘いだ、どうせなら一番イカしてる奴等を指名しようか」 もう、言うことがいちいちカッコイイな、この小学五年生。 三高平大付属小学校、男子制服は膝上半ズボンだぜ。着用が義務ではないのが残念だ。 「初めましてお嬢様、オレはクリミナルスタアの禍原と言う。僭越ながらお嬢様のお相手を務めさせて頂こう」 妖しい輝きを放つ黄金のダブルアクションリボルバー。 「犬束うさぎです。宜しく執事さん。一緒に楽しい時間を過ごしましょうね」 「ご使命ありがとうございます。改めまして、私、執事でございます。名前もございますが、妙齢な方に名前を呼ばれますと、心が震え、粗相をしてはいけません。どうぞ、執事とお呼び下さい」 (良いですね老紳士。世話になった大叔父を思い出します、別に紳士じゃなかったけど) 引き金に指がかかり、引き絞られる。 「早速だが……ハイなタンゴと洒落込もうじゃないか!」 吐き出される銃弾。 お嬢様の華麗なタンブリング。 間合いに入る白いマフラー。 どこまでもまっすぐ行ってぶっ放す極道の拳がお嬢様のボディーに襲い掛かる。 女の顔は殴らない。 別に、超究極ピンヒールのお嬢様のお顔まで手が届かないとか言うわけではない。 (お嬢様に対する、デスペラードミスタ(暗黒街の紳士)、そしてキングオブイリーガル(暗黒街の盟主)の嗜みとして――!) 「心と肝臓に染み入るわ」 お嬢様のうっとりしたお声。愛されている女のポーズに、天井桟敷の使用人から大歓声。 福松には、年若い侍女たちから、花が投げ入れられる。 今、この瞬間、君が主役。超ダンディ。 竜一は、福松の爪の垢を貰うといいんじゃないかな。 「済まんな、拙い踊りで。だが、決して退屈はさせん」 「少し愛して、長ぁく愛して」 急所をずらして、クリーンヒットを避ける作戦の福松の割り切った動きはお嬢様のお気に召したようだ。 「君はまるで自由なアゲハチョウ!!」 しかし、お嬢さまの精緻な攻撃をいつまでも避けきれるものではない。 「――俺にコレを出させるなんて、お嬢さまは罪深いな」 断罪するぜ、恋愛戦犯! 「ほら、禍原さん結構な紳士でしょ? 相手の為に優雅にと馴れぬステップを踏んで、甲斐性のある男だと思いません? お嬢様も冥利に尽きるでしょう」 お嬢様と福松の戦いが、ドラマティックにセンセイショナルなアルゼンチン・タンゴなら、うさぎと執事の戦いはえっさかほいさの羅漢さんを回しているようである。 手も動くが、口も動く、舌戦まで盛り込まれている。 「そうですな。かの方は、お婿入りに興味はおありで? ただいまお嬢様のお婿様大募集第120回選考会の一次審査の受付期間中でございます。三食昼寝、永久就職・もしものときも年金付き。お嬢さまのお相手をなさるスリリングにしてやりがいのある仕事でございます」 三食昼寝つきなのに、簡単さの気配を感じない。 自分の仕事は自分で選ぶリベリスタの嗅覚が行っている。 志願しちゃいけない仕事だ。ベリハの気配がする。 「ところで」 うさぎの目がきらりと光る。 「やっぱり仕えてるお嬢様の傍から片時も離れないんですよね? 職業意識の高い人って素敵です」 「ほほほ。お客様は誘導がお上手でいらっしゃる。私めの最大の仕事は――」 執事は微笑む。 「お嬢さまにお遊びを最大限楽しんでいただくことにございます。多少転んですりむいて泣くようなお嬢様にお育てした覚えはございません」 「執事は、この間、記憶をコンパンクションしたから」 お嬢様から、いらぬ注釈。 「ございません」 「――わかりました」 うさぎは呼吸を整える。すでに恩寵は使っている。恋は焦らずじっくりとの精神でここまでやってきたが、気の長いこと、老人の方に一日の長がある。 「執事さんも負けずに、素敵なダンスで私を魅せて下さい。勿論、私も頑張りますから」 半円型のタンブリンを持って踊るうさぎは、かわいらしかろう。 (極力お嬢様ごと――) 胴につけられた小シンバルが刃だったりしなければ。 それが恐ろしく計算高い軌道を描いて、回廊に血煙を上げさせようとしていなければ。 いや、そうしても、眉一つ動かさず、大きな目を見開いたままのうさぎはかわいいかもしれない。 「いやいや、お若い二人のお邪魔はなさらず――」 執事の体から激しく血がふぶく。 高い高い回廊の天井に赤い血痕。 その自らの血霧に隠れるようにして、執事の戦闘計算がうさぎの戦闘体勢を根こそぎ消滅させた。 「――執事さんもどーぞ。一緒にサポートをする事で仲良くなる系ですよ。ええ。声援送るとかね。さあご一緒に」 これ以上の戦闘継続は、しゃれにならなくなる。 「お嬢、チョーCOOOOOL!」 「禍原チョーLOVELYYYY!」 ひゅーひゅーだよ。ひゅーひゅー。 「「それはない!」」 断罪の魔弾は、打ち出すごとに福松を痛める。 自分の中の「理」を凝縮させて打ち出すようなものだ。 おのずと限界がある。 「失礼お嬢様、あまりの魅力に迸る情熱が溢れてしまったみたいだ」 至近距離からの打ち合い、撃ち合い。 「有罪で構わないわ」 お嬢さまの胸に正中させ、そこで福松は力尽きた。 「どうしましょう、恋の魔法にかかってしまったわ」 いえ、BS「呪い」です。 「しかし、あなた様はなかなか見事なセクシーダイナマイト化けっぷりでございますな。さぞかし周りを翻弄なさっておいでなのでしょうな」 執事、うさぎにサムズアップ。 狸は化かす。七化け八化け。 ただ、一番化かしたい相手ほど、引っかからないのが世の常なのだ。 ● 「やっとオレたちの番かよ。早く回ってこねえか、うずうずしてたぜ!」 クリミナルスタアで、福松が極道なら、正太郎は不良。 「いくぜ、六花!」 「いくぞしょーたろー!」 「硬派、貴志正太郎! 恋も喧嘩も真っ向勝負だ!!」 硬派の意味も変わったよな。詳しくは、森鴎外で。 (目と目が合った瞬間、恋に落ちていた) 男性ファッション誌のコピーのようだ。 (語る言葉なんかいらねえ。回りくどいなあ、性に合わねえ) 色々ささやいたりする系男子になりそうな予感がする。 (ヒートでビートな想いを込めた一撃。まっすぐ行って無頼の拳をぶっ放す!) 超熟練の極道拳もいいけれど、先行き有望な無頼の拳もいいものですよね。 「オマエに惚れたぜ、お嬢ぉぉぉおおおおおおッ!!!」 「どうしよう、真正面から来られたら――」 お嬢様、「恥じらいは乙女のたしなみ」のポーズ。 「受けとめるのが、正しい対処法!」 まっすぐ来た拳に、お嬢様のまっすぐな拳。 それが二人の最初の触れ合いでした。 ごばきぃぃぃっとろくでもない音がしたが。 そういえば、今回、癒し手とか言う優しい存在がいなかった。 ひっくり返った人は、自力で回復して下さい。 「ダブルデートだ、召使いのスタサジ野郎も忘れちゃいねえぜ」 殴るモーションに入ったが、間合いにいませんよ? 「なに、後衛だと?」 サジタリー指名したの、そっちじゃん。理不尽。 「バカ野郎! 堂々と前に出てくるのが、男の甲斐性ってもんだろうが、ヘタレ眼鏡!」 仮面だもん。眼鏡じゃないもん。 「ふえっ!?」 涙、ぐんだ。だと? 「元気印のお二人さんとキャラかぶりを避けるため、子犬泣き虫だけど根性はある系にしてみた!」 お嬢様、なんかドヤ顔の気配がする。 「この間来た方、かわいかったですな!」 執事、意外と食いつきがいい。 常に使用人の属性バリエーションもアップデートを心がけております。 「他も人妻系に無頼系など先ごろいらっしゃったお客様のサンプリングをさせていただいておりましたが、お客様に人妻の方がいらっしゃったので、人妻系はお蔵入りでございます!」 ――ってことは、次があったら、ぱくられるってことですか。 肖像権を主張してもいいですか。 「――根性はあるって行ってたな。よっし、一発気合いを入れてやんよ。暴れ大蛇で荒ぶるハートを燃え上がらせるぜ!」 「情熱はいつでもサイドワインダー!!」 「ソイヤソイヤッ!!」 自分の関節稼働域の限界を無視して振り回す四肢は、まさしく大蛇の鎌首と化す。 ジンジンと熱を持つ関節の痛みも、自分との楽しんでいるお嬢さまの様子を見ればたいしたことではない。 「――まだ、立ってんのかよ。おめー意外と根性あるな」 けー59号は、かろうじて立っていた。 「よし、六花に当たって砕けてこい! 男の友情、応援してるぜ!」 お嬢様の帽子の羽根飾りがどこかに行ってしまった。 「――この熱烈な愛に報いるには、私にはこれしかない」 お嬢様の無貌の仮面が蛍火のように発光する。 「恋愛思考ルーチンを143から896まで並列処理。ときめきアクシデントの確率が3倍になるように因果律を計算。更なる恋心の表現に努める」 今まで、求愛したリベリスタのことごとくを打ち砕いてきた技だ。 チーンと、電子レンジみたいな音がした。 「心の壁を取り払うべく、『あなたのハートに直接アタック』開始」 お嬢さまの拳が光って唸る。 「恋する乙女たるもの、恋のお相手には誠心誠意!」 少年よ。その心の臓をえぐられる衝撃を覚えておくといい。 まさしく、それがお嬢さまがもたらした「ハートビート」。 「燃えさかるラヴは、運命すら焼き尽くす。オマエへのこの一瞬の愛を貫くためならば、灰になったってかまわない。何度だって立ち上がるさ、ドラマティックに」 今、全侍女のハートに正太郎がインプット。 「更なるチューンナップが必要。これがほんとにハートクエイク」 「でも、これが俺の最後の一発だ。だから、最後に一発づつでどうだ?」 ありったけの思いを込めて、全身全霊全愛で無頼の拳withバレンタインチョコ。 「愛してるぜ、お嬢」 君のハートを狙い撃ちしたかったけれど、そういえば一発づつって自分で言い出したんだからと、撃つ真似だけしてみた。 「ずきゅん」 お嬢様は、両手でハートを押さえて、「ときめきのポーズ」。 正太郎、やりきった男の顔で昏倒。 全回廊が啼いた。 「私、識別番号けー59号でございます。あの、よろしくお願いいたします」 「ちぇーんらいとにんぐー!」 問答無用の一発が、挨拶したけー59号に放たれた。 六花の魔法の特徴。当たらない。 舌が短いのと、詠唱の発音と、宙に書く魔方陣がよれてるのと、呪文の解釈が適当なので。 思った方向に、飛ばない。 それが、遠くから撃てば撃つほど目立つ。 本人は「近くから撃てば外れない」というこれまた気持ちいいほどの勘違いをしているので、前衛になって戦う、とりあえず開幕ぶっぱでチェインライトニングを乱打するけど、面白いほど避けられる、切ない結果に! (かっこいーと思うポーズと必殺技の名前の絶叫はひーろーの必須技能です) 絶叫するから精度が落ちるとか、そういうのは六花には関係ないのだー。 「らぶあんどぴーす!」 元気良く叫びましょう。 「らいくあらーぶ!」 意味など知らぬ。 「あいとからぶとかゆー!」 英語らしい言葉を羅列しているだけだと思われるが、それでいいのか中学一年生。もうすぐ二年生じゃないのか、13際。ちっとは勉強した方がいいんじゃないのか、高等部にエスカレーター出来なくなるぞ。 とにかく、愛と信じ込んで叫ぶ言葉に力は宿るのだ。うまい具合に当たらないが。 「えっと、あの、申し訳ないのですが、撃たせていただきます」 識別番号けー59号が持ってるのは、シングルアクションの豆鉄砲だ。 なのに、照準器とホルダーがでかい。 ぱん。 威力少なげなのに、すごく急所をえぐりこんでくる。 ぷしゅー。 六花の頭から血が吹いた、血ぃが。 こいつ、ピアッシングシュート撃ってる。 ぱん、ぱん。 Wアクション。 しかし、六花はヒーロー&ヒロイン! である。 このびっくりマークが大事なのだ。そこは発音できるのだ。 ちょっとやそっとではおねんねしないのだ。 (どらまてぃっくで何度でも立ち上がるのだー。ゾンビじゃねーヒーローだぞこんにゃろー) 「うえええええ」 けー59号は、涙目だ。 カートリッジ替えてるのに、六花はまだ起き上がってくるのだ。 「こ、怖いですぅ」 心が折れた方が負ける。恋愛では。 「ちぇーんらいとにんぐなのだー!」 気合の入った方に運命の天秤は傾く。 いいところに当たった。十本以上撃って、初めていいね! な所に当たった。 狙撃手というか紙装甲、おまけにすでに正太郎からボコボコにされていたこともあったが、六花、無限回廊で、初めてダウンを奪ったのだ! 「うちの小姓をこましたわね」 背後にお嬢様。 「なかなかやるな、こぉいつぅ」 お嬢様のでこピン。でこピンでこピン。更なるでこピン。 六花、フェイドアウト。 ● お嬢様にあわせて仮面も用意した竜一は、優雅に一礼した。 「お相手願いましょう、お嬢様。ありのままの貴女を、私はただ愛したく想います」 竜一は、黙って立っていれば美形。 かっこつければ、ダンディ。 実の妹に耽溺されても仕方ない奇跡の存在なのだ。中身が変態でなければ。 出来れば、いつもその言動でいてくれないもんだろうか。 「恋多き女だけれど、構わないかしら?」 すでに四戦、お嬢様のメタルスカイのボディスーツはいい感じにビリビリであるが、お嬢様は潔い女なので恋の遍歴を隠したりはしない。 「故に願わくば、この一時だけは、何者でもないただの俺とただの貴女であります事を」 いや、まじで。ほんとに。一ヶ月くらいでいいから。試しに。 竜一の体がオーラに包まれる。 へんなフェロモンではない、念のため。 闘気です、闘気。大事なことなので念を押させていただきますよ。 「こっちも何か出さないと申し訳ない気分」 お嬢様の全身から、気糸がほとばしった。 雅の符が刀とかわり、その周囲を威嚇するように配置される。 八卦、八卦の六十四卦。 「さて……お嬢様と愛をぶつけ合うのもいいんだが、あたしが今回用があんのはジイさんの方でな!」 先の戦い、陣中奥より動かなかった執事に、すでに満身創痍だったとはいえ、ほぼ一挙動で戦闘不能されたのだ。 更なる高みを目指す雅としては、どうしても雪辱を遂げたい相手であった。 「先日は素晴らしい求愛を頂戴いたしまして、私、年甲斐もなく胸キュンでございました。再びお会いできて焼けぼっくいに火がついております」 違約すれば、再戦上等、返り討ちにしてやんよ。である。 刃の鳥籠から出現する黒い鳥が、執事に向かって放たれる。 (その際、お嬢様を庇えない程度の位置まで引っ張れるとなお良し。ただし竜一をとっさにサポート出来る位置にはいたいので引き離しは無理しない) 雅の頭は冴えている。 怒りに我を忘れてもらうのは、執事の方だ。 「そっちのお嬢様じゃなくてこっちを見なよ! あたしはあんたに返さなきゃいけねえ愛があんだよ!」 愛と書いて借りと読む。 「なんでしょう。これは怒りでしょうか。いえ、どうしてもあなたのお相手をしなくてはならないという焦燥感は……」 「それは、恋!」 お嬢様は断言なされた。 「追い求めて、よし! 私が許す!」 もしもの時は竜一のフォローをしようと思っている雅を巻き込む技は使えない。 「貴女に俺を刻み込もう! 俺のことを忘れぬよう! 貴女の心にいつでも居られるように! さあ、受け入れておくれ!」 竜一の生死を問う技の気配に、お嬢様の無貌の仮面が発光する。 「悩むわ。一体どの技で貴女をねじ伏せたら、あなたのその想いに答えることが出来るのかしら」 お嬢様、シンキングタイム。 「考える女のポーズ」に、全使用人が身悶えた。 「――決めたわ」 お嬢さまの手が、麗しく弧を描いた。 千の鴉が執事を覆う。 「前にやりあった時たあ技が違ってるがよ。あたしはこっちの方が得意でね! 要はこれが本物の愛ってわけだ!」 執事の大凶を占い続けた結果、老人も無傷ではいられない。 しかしそのために雅が払った犠牲も大きい。 ノーガードで執事の攻撃を浴びている。 もはや魔力も削れ、恩寵さえ使い潰し、立っているのは意地の二文字だ。 「一皮向けたあなた様も素晴らしいですな」 しかし、執事も只者ではない。 ぼとぼとと鴉が床に落とされ、符に戻る。 「三千世界の鴉を殺し、あなた様と朝寝としゃれ込みたいところでございます」 踏み出す一歩に宿る闘気。 執事の技は、陰陽師の眼をもってしても捉えられない。 床に花が咲く。 雅から流れる赤い華。 もうもたない。 悟った雅は、最後の行動に出た。 「急がば回れ。人の愛をサポートするのも恋愛成就の一つの道だよなあ!」 お嬢さまの腕の終着点。 金色の飛沫を竜一の代わりに浴する。 「あなた、今、世界を独り占めよ」 お嬢様は、雅を賛美した。 カウンターならず。 「愛や恋は諦めるものじゃない、勝ち取るものだ!」 竜一の重たすぎる愛が、お嬢様のボディースーツを再起不能にした。 もちろん、使用人一同によるあらゆる妨害行動のため、リベリスタの誰一人お嬢さまのお肌を目にすることはできなかった。 ● 楽しかったひと時が、今はもう過ぎていく。 お嬢様のお色直しなどの休憩を挟みつつ、リベリスタはぼっこぼこになりながらも何とかお接待を成功させた。 シェリーから、ぜひともになりたいと、友チョコ献上。熱い握手を交わした。 「おじょー。お土産なのだ。あたしとおじょーは、ともとかいて強敵とかく感じなのだ」 だから、やる。 六花が差し出した袋の中には、リボンとしまぱん。 六花の『しまぱんは最後の武器だ』という信念と、勝負下着と聞いて戦うためのパンツだと勝手に思い込みから発生した悲劇。 自分の愛用の鎧を送るという、心温まる戦士のエピソードがどうしてこんなことに? 問い詰めたい。何でそんな勘違いをしたのか、小一時間問い詰めたい。 リボンはご存知みたいだが、しまパンをグイーんとひっぱって首を傾げられるお嬢様。 「これは――」 みょいーん。 「仮面?」 かおにかぶっちゃ、らめえ!? ちなみに、リベリスタが帰還予定時間を小一時間もオーバーして帰ってきたのは、どっかの美形ダンディのしまパン偏愛者が講釈垂れてたからだともいうが、本案件では全然重要な事項ではないので、内容は割愛する。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|