● 超難関コースだった。 木々の間をすり抜け、急斜面を滑り降り、華麗なターン、適切な判断、滑り降りてきた貴方は雪原の王者。 しかし、スキー人口が激減するに連れ、そこを利用できる者は去っていき、いつしかこのコースは廃れてしまった。 「ばかじゃね? 事故れっつってんの、ここ?」 「やっだー、そんなとこ滑ったら、雪だるまになっちゃうー」 自分たちの技量の低さを棚に上げ、茶化されてしまうコースに。 そして、いつしか念積体が発生する。 上級者コースから転げてくる雪玉。 ゲレンデに流れるトロイカのメロディ。 そんなものが混ざり合い、今ここに、E・フォース「雪玉コサック野郎」、爆誕! 『いぃぃぃやああああだあああっ!! こんなんいるっつったら、嘘つき呼ばわりされるううううううぅ!?』 とある新人フォーチュナの初仕事は、そんな風に始まってしまった。 ● 「ども」 ブリーフィングルームに入ると、口に棒状のスナック菓子をくわえたセーラー服男子がいた。 女装ではない。海士服。まじ、ものほんのセーラーマンの格好。 黒の字に白襟。裾の広い、黒いズボン。ご丁寧にセーラー帽までかぶっている。 セーラーマンというよりは、子供服着せられてるという感じだ。 「はじめまして。小館・シモン・四門(nBNE000248)、今日からアークで仕事することになったからよろしく」 その短い台詞の間に、口の中にスティック菓子が一定の速度で消失していく。 「嘘じゃないから――なんかこう、コサックダンス」 なんだって? 「毛皮の帽子かぶって、もふもふ手袋舌おっちゃんが胸の前で手を組んで、座った姿勢で前に足蹴り出しつつ、雪玉に乗って、閉鎖された上級者ゲレンデの上から転げてくるから、何とかしてくれ」 うっわ、きたよ、電波系。 一つ一つ、順番に言っていけ。5W1H、習ったな? 「坂の上に男が立ってるんだ。そいつが大きな雪玉を作ってんだよ。で、その上におもむろに乗ると、蹴るんだ。そうすると雪球が前に進む。蹴る進む。坂。転がる。男どんどん蹴る。雪球、どんどん大きくなる。ほっといたら、何もかも押しつぶす。下の方、大惨事。それだ。そんでどうにかするならここなんだ」 手が宙をさまよう。 かくかくと描かれる折れ線。 「上級コースと初心者コースの間、ちょっとだけ平らになってるから、そこでぼこるのがいいと思う。斜面で戦うと危ない。ブロックしないと下におっこっていくから、ブロックしてな。多分四人くらいですればいけると思うんだ」 今、まさにそれ見てますという定まらない視点。 それで、そのコサック野郎はなんなの。フィクサード? 「あ、違う。そういうんじゃない。えっと、こう、もやもやしたのが固まった――E・フォース? それだ」 で、それ、殴れんのか。魔法しかきかねえとかそういうんじゃないのか。後、弱点とかは。 「あ、えーと、コサック野郎は、雪玉に乗ってる限り無敵。すかっといく。だから、雪玉をまず叩き割るといいと思う。そうすれば、やっつけられるようになる」 雪玉は殴れるんだな? 「大丈夫。殴れる。物理っていうの? うん、大丈夫。魔法も効く。ただ、麻痺無効? というか、ひたすら転がってくるのをとめらんない」 「初心者コースには、人がいるからどうにかしてくれ」 なんか、この人何もないとこ見てる。口だけ休まず、お菓子食べてる。 「ノックバックとかいうのではじけば、ちょっと雪玉大きくなるかもしれないけど、おっこっていくまでの時間は稼げると思うんだ。コサック野郎ほっとくと、また雪玉の上で踊って、元の木阿弥だから、コサック野郎、倒してな。お願い」 わかった。と、頷き、相談に入ろうとするリベリスタを、四門は呼び止めた。 机の上にひっくり返すバック。 中からごろごろ落ちてくるスティック菓子の箱。 「貰って。何も言わずに持ってってくれ。――俺の話を信じてくれてありがとう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月03日(日)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 元々、日常会話が擬音多めの少年は、人に状況を説明するのがあまり得意ではなかった。 革醒によって、すっかり色が変わった髪と目の色。口から溢れる電波的妄言に、割と少なめだった友達がますますいなくなり、アークにたどり着いたとき、少年は割りと人間不信気味。 「災難だったわねえ。初回から……」 うそつきといわれるのを覚悟していたら、いきなりねぎらわれた。 「そりゃ信じるわよ。コレまでだってもっと信じられないような、仕事紹介してくるフォーチュナだって居たわけだし、今更……ね?」 その子はけらけら笑った。 「まあ任せときなさい。アークでリベリスタやってるって事は、色物にも耐性があるってことよ。敵であれ味方であれ」 彼らは、あれはどうした、これはどうなってると、逆に質問攻めにして、少年が垂れ流す妄言を微にいり細にいり確かめると、ニコニコ笑いながら出て行った。 「大丈夫、私達に任せて。どんな相手でも、ぶっ飛ばしてあげるから!」 新米フォーチュナは待っている。 ちゃんと信じてくれた彼らが無事に帰ってくるのを。 何を伝えなければならないか、さっき聞かれたことを書きとめながら。 ● 閉鎖されたスキーコースにナイター照明があるわけがない。 除雪もされていない雪の中、リベリスタ達は雪中行軍+暗夜行路である。 とはいえ、歩いていくの大変なので、正確に言うと、智夫の翼の加護でちょっとだけ浮いて移動中。 「……わあ、本当に居る」 『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)の口から、素直な感想が漏れた。 (いや、疑ってた訳じゃないんだけど……何と言うかこう……実物を見ないと実感がさ……) 嘘じゃないんだって。と、新米フォーチュナが念押ししていたのもわかるでたらめさだ。 「…初仕事の相手がこれか。しかしなかなか興味深い、調べてみたいものだね」 スィン・アル・アサド(BNE004367)は、懐中電灯で前方を照らしながら、眠たげな三白眼をしばたかせる。 防寒着を着込んでいるが、夜の雪山では心もとない。 そもそも雪をほぼ初めて見た。 (さて、初仕事だし張り切らせてもらおうかな。しかしまあ、まさかこんな珍奇な相手とはね……) 他のリベリスタは、よくあるよくあると言ってはいるが。 ボトム・チャンネルは、ラ・ル・カーナとはかけ離れた世界だ。 (折角頂いたスナック菓子でも食べながら、相手をさせてもらおうじゃないか) 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)には、構成要素的にきちんとチェックしておかないといけないことがあった。 「おお……紛れもないコサック」 これで、おめめがつぶらな二頭身のゆるキャラだったりしたら話は別だが。 「……ぶさかわ系ではないわね。パス」 これで、心置きなく叩き潰せる。 「身長2m。しかもひげを蓄えたガチムチ大男。それが雪玉の上でコサックダンスとか――」 (ひ た す ら 怖 い よ) 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)が涙目なのはデフォルトだ。 (ミラクルナイチンゲールもまだダイエットが終わってないって出てきてくれないし。た、助けて、脱走王さん……っ) ミラクルナイチンゲールも脱走王も、所詮は智夫のごっこ遊びのひどいのなので、結局本人が無自覚に不要としているのだ。無問題。 (見た目シュールだけど止めないともっと酷い事になるのよね) 焔は、相対する事になるオジサンの姿に思わずゲンナリ。 「なんというか漫画みたいな光景だね。流石は神秘って感じだよ」 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は、ワークライトをしっかり固定した。 「でも、負けられないな。今回は、いつもより気合が入ってるんだから!」 足元の輪寒敷が気合の入り具合を物語っている。 これで、容易に雪に足をとられることはあるまい。 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は、かつて、人と自分を切り離すことで強くなろうとしていた。 前方の葛木を見る。奴は負けられぬライバルだ。 右に立つ焔を見る。妹分には常に強き姿を見せていたいもの。 左にたつ瑞樹を見る。大和の意を継ぐ彼女は今一番気になる存在だ。 そして、胸の奥に大和を。 (彼らに、見苦しい姿を晒すわけにはいかん) 「――一気呵成に討ち滅ぼしてくれる」 人を心の支えにして拳を振るえるように、いつの間にかなっていた。 「勿論だよ、優希さん。此処で一気に平らげるよ!」 与作は、大きくうなずいた。 子供ほども年が離れた者達の血気は盛んだ。 「では、状況を開始します」 かちりと切り替わる戦闘スイッチ。 それまでの柔らかな口調が、事務的な発声に変わる。 戦の火蓋は切って落とされた。 ● 「ところで、このコサックダンスというのは一体どういう意味があるのかな?」 スィンが首をかしげる。 すいません。ボトムチャンネルの人間ですが、我々も意味がわかりません。 単に杉が多く、本場ツンドラに見た目が似ていることから、ツンドラゲレンデ。 ロシアっぽいおもてなしを目指した結果、ジャム付き紅茶だのピロシキだのボルシチだのが売られ、BGMがロシア民謡が多かったり。 そんななんちゃってロシアっぽいものが混じった思念体。 裏づけとか細けえことはいいんだよ。両国国技館に勘違い力士モドキが発生するご時勢なんだから。 「相手がレスリングパンツ一丁の姿じゃなくてよかった気もするよ。離れた位置から吸い込んでパイルドライバーとか、そんなEフォースは想像するだけで嫌だ」 勝手に北海道の鶏唐揚みたいな名前のゲームキャラのことを考えて震えだす智夫だが、それとは別の、妙に冷静な思考回路が、(雪玉を後ろに逸らさない事を最優先、次に仲間が倒されぬ事を優先)と、作戦目標を設定する。 「一般人が見ちゃったりしたら、精神的ダメージも半端なさそうだし。とにかく、アレは食い止めないとおぉぉ」 ただ、それの出力が、ガクブル回路と直結しているから、あれなだけで。 震えながらも放たれる光は苛烈。 雪玉の白に浸透する光線は、その内部構造をゆさぶって余りあった。 「来やがったな。てめぇの雪玉なんざ速攻でブッ飛ばす! 焔――」 苗字が焔と、名前が焔が同時に振り返る。 「――は、二人居たか」 今までの会話は、文脈でどっちかわかったが、戦闘中はそうは行かない。 猛は、ここで人間関係の岐路を迎えた。 「――優希、あんな雪玉程度に押されんじゃねえぜ!」 優希は、目を丸くし、すぐにやりと笑った。 「――初めて名前で呼んだな葛木、いや猛よ」 嫌がるかと思ったが、優希はそれを存外すんなり受け止めた。 「この程度の雪玉など俺達の敵ではあるまい。即座に粉砕してくれる!」 射程に入った雪玉に、優希の一撃が炸裂した。 次代を許される技量を持つものの間合いに入ることは、決死を意味する。 打ち砕かれる雪玉。 上に乗ったコサック野郎がバランスを崩して慌てて雪玉を再生させる。タタロチカ。 優希の弐式鉄山の冴えに、猛は喜びを感じた。 大事なものをなくしたけれど、友は折れたりしなかった。 より強く、柔軟になって、ここに立っている。 「――今回も派手に暴れてやろうじゃねえか!」 前衛に立てるものは皆雪玉を押さえにかかるため、戦場全体を把握することはかなわない。 それは後ろに陣取る自分の役目だと、アンナは思う。 彼女はそうやって今までの戦場を駆け抜けてきた。 (後方から敵の挙動をはあ……く……) アンナは、刹那考え込んだ。 「雪玉の攻撃行動なんて、どうやって把握するのよ!?」 振り上げる腕もなく、振り下ろす足もなく。 吠えもしなければ、唸りもせず、ただただひたすら転がるだけの無生物。 (えーと、回転の方向とか重心の位置とかで何とか!) アンナに心配すんなと、前方から声が飛ぶ。 「こんなもん、只のでっけぇサッカーボールだと思えば問題ねぇ! ぶち抜く!」 猛の断言。 離れたところか対象を砕けんばかりに地面に叩き付ける技を零距離でぶっ放したらどうなるか。 雪玉を押さえた両手はそのままに、限界まで振り上げられた利き足が、パイルバンカーのごとく雪玉にめり込む。 ばらりと落ちる雪玉の表層。 コサック野郎が慌てて欠けた部分に雪が入るように雪玉を蹴る。コサックダンスで。走れトロイカ。 「どんな相手でも結局同じ、真正面からぶっ飛ばす!」 焔の咆哮。 (炎腕といきたいけど、このタイミングだと巻き込むか) 乙女の拳が紅蓮に燃える。 無限の可能性が、炎に変わる! 焔のひじまでの深さで融ける雪玉。ぐしゃりと潰れる雪の塊。 拳が去っても燃える炎が、雪を溶解させる。これこそ、神秘。 「雪には炎。どんなに冷たいものも、私の炎で溶かしてあげる」 考えるな。感じろ。 前衛は脳筋だった。いい意味で脳筋だった。 「お前がどれだけ早く雪玉を転がして、でかくしようが。俺らの攻勢の前にゃ無力だってことを教えてやるぜ!」 彼らはやる気だ。 ならば、それに報いるのが後衛の役目。 (コサック爺さんのキックの方向。少なくとも移動方向については確実に認識して前衛に――!!) アンナは、前方を凝視した。 雪玉が、前に転がる。 圧倒的な質量。のし懸かってくる雪の壁。 空中に浮いている以上、踏みしめる地面がない。 自分の膂力以外に頼れるものはない。 雪玉がにじるごとに危機感が高まる。 瑞樹の上に転げようとする雪玉の一部分を与作のナイフが手早くスライスしていく。 それでも雪玉の勢いは止まらない。 浮いていたのに、雪玉の回転に巻き込まれる。 ひげ面で笑うコサック野郎。白い闇に塗りつぶされる視界。 腹の上を雪玉がにじるたび、体のどこかの骨が折れ、喉奥にまで雪が入り込む。 リベリスタの視界から完全に瑞樹が消えた。 見えなければ、神秘は瑞樹に届かない。 アンナの、智夫の、スィンの。癒し手の翼が羽ばたく。 どこでもいいのだ。瑞樹とわかる部分が見えれば神秘は届く。 対象を視界に入れて、いと高き存在に希う。 それが癒し手の役目だ。 アンナは前に出る。巨大化した雪玉を抑える人数が足りなくなる。 それもあったが、瑞樹を雪から引きずり出さなくては。 いち早く優希が瑞樹を探している。 雪の間からのぞく異物。丸い曲線。輪寒敷。 凝視すれば、雪からはみ出す長い髪。 雪の中に手をつきこみ、握ったものを引きずり出す。 青ざめた瑞樹は、まだ息をしている。 「よし上等! 鼻血吹くほど癒してあげるわよっ!」 アンナの詠唱に、福音が応える。 「じゃ、僕は不調回復で!」 智夫から凶事払いの光が放たれる。 「微力ながら、再賦活させてもらう!」 スィンのフィアキィが、瑞樹の中の体力と気力をかき立てた。 ぺっぺと、喉にたまった溶けかけの氷を吐き出しながら、瑞樹は立ち上がる。 おねんねするには早すぎた。 「回復の手は厚い、倒れなければ持ち直せる」 優希の言葉に頷いて、再び前線へ。 智夫が翼の加護を詠唱するまでの時間、輪寒敷は瑞樹の動きを確かにたすけた。 ● 智夫が完全に回復に従事しても、雪玉は削れる一方だった。 コサック野郎の雪玉ころがしも、スィンの光の球がじりじりと削って相殺していく。 「そろそろ第二段階、対象E・フォースの撃破作戦への移行準備を」 与作の指示は的確だった。 雪玉は身の丈2メートルのコサック野郎を載せ続けるには余りに心もとない大きさまで削れている。 コサック野郎は雪玉を後退させた。コサックダンスで。コロブチカ。 まっさらの雪で再び雪玉が大きくなろうとしている。 そして、一気に巨大化した雪玉で再びリベリスタを轢くつもりでいるのだ。 アンナは、ずっと考えていた。 炎腕を使えるタイミング。 全力全霊で雪玉に向かう前衛の為にできること。 それは、彼らの攻撃しやすいようにお膳立てすることだ! 「今なら、大丈夫。焔、そのまま前進! 炎腕いけるわよ!」 アンナから声と、進むべき先が照らし出すまばゆい光。 「雪玉と一緒に進行方向の雪も纏めて溶かしに掛かるわよ!」 「焔、その炎の威力を見せ付けてやれ。瑞樹、ここで抑えきるぞ。力を貸してくれ」 (これ以上先へと進ませはしない。如何に雪を溜めこもうともここで削り落としてくれる!) 実際に投げた回数よりずっと指に馴染んだ感じがする道化のカード。 受け継いだ記憶を載せて、瑞樹の指から放たれる。 走る焔を追い越してカードが雪玉を穿ち、見えざる道化の手が、コサックやロウをあざ笑うかのように、雪玉の回転を止める。 腕に炎を纏い、熱で周囲の雪を溶かしながら一気に距離を詰める焔は、仲間の援護に笑みを深くする。 (今度は私の炎で貴方を溶かしてあげる。、どんな理由で生まれたとしても、溶かしてしまえば皆一緒でしょ?) それに、焔にはコサック野郎を殴る理由がちゃんとある。 「――約束してきたのよ」 焔の拳から噴出す炎の量が、背後のリベリスタの視界から雪玉を奪うほどの勢いで吹き出す。 「どんな相手でも、ぶっ飛ばしてあげるって!」 世界が、朱赤から白に染まった。 大量の水蒸気がリベリスタの視界を奪う。 夜の雪山の冷気に一気に冷やされ、発生したダイヤモンドダスト。 コサック野郎の姿は消えていた。 炎腕の効果範囲3メートル。 積雪3メートルに、業炎の余波。 焔は、仮初の翼の効果でかろうじて宙にとどまっていた。 宙。 足元はなくなっていた。溶けたのだ。雪玉もろとも、積もった雪が。ごっそりと半径3メートルの半球状に。 コサック野郎は、穴の底に落下していた。 ● 穴の中を覗き込むリベリスタ。 さすがにこれは想定していなかったが、逃げられないに越したことはない。 「散々好き勝手やって、タダで逃げれるとか甘いこと思っていないわよね?」 焔の笑顔が、キレッキレで怖い。 「誰からも使われなくなって、人が去っていくのは悲しいよね」 瑞樹は、雪壁を登ろうと悪戦苦闘しているコサック野郎に共感を見せた。 「でも、貴方が下まで行くと大変なことになっちゃうの。だから、ここで止めるよ」 だが、止めるということでリベリスタの心は一つだ。 「逃がさないよ。もうさっき逃げられてすごくショックだったんだから」 智夫の放った気糸の陣は、やけに念が入っている。 伊達に脱走王を名乗っていない。自分が逃げたい方向に糸を仕掛ければいいのだ。 猛は、わざわざ穴の中に滑り落ちていった。コサック野郎と相対する。 「作戦を第二段階へ完全移行。目標をE・フォースの撃破に変更」 与作は、穴の中に華麗に飛び込むとコサック兵に痛打を入れてまた軽やかに穴の外に戻って来る。 地味な外見とは裏腹に疲労された剣技は、まさに重さを感じさせない空気の妖精だ。 「お前が何の意識の集合体か知らねえが、相手が悪かったな」 こういう時使うのは、弐式鉄山という名のかかと落としと決まっている。 「お前をもう一度ゲレンデに戻す心算はねぇぜ……! 逝って来いやぁ、大霊界……!」 でたらめな念積体に安住できる大霊界はあるだろうか。 きっとあるに違いない。ここにそういうものがあるはずだと信じて疑わない者がいるのだから。 ● 「皆お疲れ様。カイロをどうぞ。風邪曳かない様に、暖かくしないとね」 汗が冷えたときの方が風邪を引きやすい。 与作の口調が戻ったことで、仕事が終わったのだとリベリスタ達の緊張がほぐれる。 「どうやら四門くんを嘘つきにはせずに済んだようだね」 と、スィンは菓子でも食べながら笑う。 「しかし寒いので、さっさと帰りたいところだよ」 (日本の寒暖の差に馴染むのは、戦闘より時間がかかりそうだ……) 楽園育ちのフュリエには、日本の気候はなかなか厳しそうだった。 「ね、折角のスキー場なんだし、皆で少し滑らない?」 瑞樹が言い出した。 「超難関コースへ挑むよ……スキー初心者だけどね」 あまりにも無謀だ。 皆、声には出さないが、顔を見合わせる。 「でもさ、誰からも滑られていないだなんてやっぱり悲しいよ」 それが原因でE・フォースが発生してしまったのだから。 「だから、挑戦するの」 「――わかった。お前が成し遂げるのを見届けよう」 優希がそう言って、後方につくことにした。 時間はかかった。 何度も雪に埋もれた。 そのたび、瑞樹は立ち上がり、超上級コースを制覇した。 「今日は、このくらいにしておいてやる」 かっこいいことを言った割に、結構転んだ優希は雪山を見上げる。 「――また遊びに来るから待っていろ」 ● アーク本部・エレベーターホール。 自動販売機コーナーで、新米フォーチュナが紙コップの山を築いていた。 エレベーターが下りてくるたび、頭を上げ、目当てを探す。 「おー、ちゃんと成功したぜー」 猛が、四門を見つけて、かかと笑った。 「――おかえりぃ」 ふらふらと立ち上がる。 「突拍子のねぇ奴らが出て来るのはよくあるからよ」 「いた?」 「いた」 「コサック?」 「おお。コサック野郎だったぜ」 自分の見るものはやはり存在するのだと言う安堵感と、そこに人の生死が関わる不安と。 戦闘能力のないフォーチュナの無力感と焦燥感を、アークのリベリスタ達はそっと受け止めて戦場に出て行く。 「今回に限らず、別件でも宜しく頼むぜ」 自らの手で送りだし、帰還したリベリスタと握手を交わしたとき、一人のフォーチュナが真に生まれた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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