● ――個人が為せる行動には限界があるのさ。 だからこそ、人は群れる。まあ、当然の話だと思うがね。 そう、逆を言うなら、人は個人になると、集団のソレより遙かに弱くなる。 今回の戦い、此方の狙いは、言うまでもなくソレだ。彼らは確かに強いが、その能力の高さはあくまでも連携によって成っている。 即ち……って、おいおい。話を最後まで聞いてくれよ。 何も別に今殺そうってんじゃない。あと数時間後の話さ。ゆっくりする暇はまだまだ十分あるんだぞ? 大体、未だ死ぬって決まってるわけじゃないだろう。俺も、君らも。 運が味方をしてくれれば、君たちだって助かるかも知れないんだ。先ずは落ち着こうぜ? な? ……ま、それを許さないのが俺達の役目なんだがね―― ● 「事件だ」 そう言う『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の言葉は、何時ものソレより数段鋭い。 元より依頼説明の際は、こう言った『道化た』物言いの中にも自分なりの真摯さを以て話す彼ではあるが――今回の態度は、リベリスタからでも解るほどの重々しさが伺える。 こうした彼の様子を、リベリスタ達は以前一度見たことがあった。 「……例のフィクサードか?」 「ああ。『相模の蝮』――蝮原咬兵を中心とするフィクサード連中が、再び行動を起こした。何故か今回、本人の動きは確認されてないがな」 ――その言葉に、リベリスタ達の緊張が高まる。 伸暁はそんな彼らの様子を僅かに観察した後、解説を続ける。 「今回の舞台は、三高平から離れた某街の廃ビル。其処に結構大勢の人間が囚われてるみたいだ。俺が確認したところだと、二十……三十人くらいかな」 彼曰く、人質はその廃ビル内の地下室に閉じこめられているらしい、とのことだ。 地下室の入り口である部分は一つしか無く、当然その場所にはフィクサード勢のほぼ全員が配置されている、とのことだ。 「地上部分である其処は良いんだ。周囲には目立った障害物もない。電機が通ってない分光源もないが、それはこっちで用意すれば何とかなる。 ――問題は、地下の方だ。階段を下りて一番奥の部屋に人質は一箇所に纏められているんだが、其処には連中のボスが居る。広さに問題はないから流れ弾が当たる危険はないが、そのボスってのが面倒な技を使ってきてね」 「面倒な技?」 「詠唱のようなものさ。聞いた者はほぼ高確率で自我を失って、辺り構わず攻撃を始める。それを聞いた人質は勿論、お前らもどうなるかは……考えるまでもないだろ?」 「……」 最悪、一般人だけの殺し合いに成る以上に、リベリスタが彼らを殺しかねない。 単純な分、確かに面倒な相手とも言える。 「言うまでもなく、耳栓なんてチャチな物でアイツの声を止められると思うなよ。 アイツの声は――認めたくはないが、俺と同じ程度には届くぜ?」 最後に聞けた『彼の言葉』に、厳しい状況でありながらも少しだけ苦笑するリベリスタ達。 予断の許されない状況、油断の許されない状況に於いて、伸暁のささやかな心遣いを胸に、彼らはブリーフィングルームを去っていった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――風が吹く。 荒涼とした世界。佇むのはたった一つの廃ビルのみ。 都会に置き去りにされたある種の遺物を前に、『贖罪の修道女』クライア・エクルース(BNE002407)は淡々と呟いた。 「目的は人質を救う事…まずは敵の思惑通りというところでございましょうか。 ですがその思惑は通しても、その筋書きは通させる訳には参りません」 巨盾と広刃剣を手に持ち、真白の翼を広げる彼女の姿は、さながら戦乙女のそれに似ている。 凛とした表情の内に潜む確たる決意は、この場にいる者なら誰しもが抱いているものであった。 「ま、綺麗事だけで生きてくにゃこの世界は辛すぎるがね。……けど、それを認めちゃなんねーよ」 彼女の言葉にそう答える『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)もまた、そう言って、手甲を巻いた両の拳をかちんと合わせる。 普段の快活な表情がなりを潜めたのは、そうした流儀に反する不快感が原因だろうか。 「主義主張は勝手だけど、関係ない人巻き込んじゃだめ、だよねー?」 「うん。人質のみんなは、俺達が絶対に助け出してみせるんだよ!」 『Scarface』真咲・菫(BNE002278)の間延びした問いに、『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)も生真面目に答える。 人間の道徳を是として戦うリベリスタにとって、やはりこうした『悪人』に対する悪感情は相当なものであり、それと共に救いたいと願う想いもまた、彼らにとっては強い。 ――そう、だからこそ。 「……人質にされた皆さんとの『会話』を終えてきました。 助けましょう。……絶対に」 粛々と、しかし決然と言う『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)の言葉に、リベリスタ達は是非も無しと頷いた。 ――戦いが、始まる。 ● 「回復は任せて。先ずは……!」 「ああ。地下の出入り口を確保する!」 スクーターのライトを付け、叫ぶ『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)に、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)が応える。 一群となって突撃してきたリベリスタ達にフィクサードは驚くものの、かと言って我を忘れるようなことはない。 寧ろ一方向から一塊になって襲いかかるという、範囲攻撃を撃つには絶好の機会に対し、フィクサード達もいつもより動作が早いくらいだ。 撃たれる爆光、氷の雨、更には稲妻と、次々に襲いかかる異能力の嵐を受けても、しかしリベリスタ達の歩みは止まることが無い。 「ははッ、これが正真正銘の悪党って奴か……!」 現実に敵を前にした『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)が、その怒りを武器に宿す。 「絶対に、この馬鹿げた計画を阻止してやる!」 言うと共に肉薄し、膂力を込めた鉄槌が振り抜かれれば、フィクサードの一人はそれをまともに喰らい、口腔から夥しい量の血を吐き出す。 次いで、クライアの轟撃と、菫による矢の雨。 同時に、動きの鈍った仲間達に対し、アウラールが援護することでその動作をフォローする。 敵の動きが個人に対する集中攻撃だと理解した部下達は、即座に狙われているマグメイガスに対してクロスイージスをカバーに送る。 リベリスタにとっても、それは予想していたことだ。 「一気に崩すんだよ……!」 玲が叫部と共に、クロスイージスに向けて大気の刃を飛ばす。 相手が構える盾を抜けての傷は微々たるものだ。しかしそれも、蓄積していけば何時かは大きなダメージとなる。 当然、フィクサード側もそれを見過ごすつもりはない。 庇われているマグメイガスの四色の光が回復役であるとらを貫き、その膝を地に付けさせれば、その隙を逃さぬとばかりに敵もまた集中攻撃を叩き込む。 「ったく、只の雑魚じゃあねえって事かよ……!」 苦々しく呟く猛は、それ以上の行動を許さぬ為、蒼炎を宿す拳を敵に叩きつける。 炎は意志を持つかのようにクロスイージスにまとわりつき、その身体を徐々に焼いていく。 戦闘は、今現在で言えば未だ拮抗だ。それを未だ八人で戦う内に崩しておきたかったのだが……しかし、これ以上時間をかけるわけにも行かない。 「突入するぞ!」 静の言葉に頷いたアウラール、凛麗の二人も、彼と同様に地下へ向かって駆け出す。 敵は一定時間をかける度に人質を殺すと、事前にフォーチュナから教わっている。故に彼らは戦闘開始から三十秒経った後、班を二つに分けての二面戦闘を行うことを選択したのである。 唯一、誤算があったとすれば――敵方のジョブにはほぼ必ず、行動を制限させるようなスキルが備わっていた部分であろう。 初手で地下への出入り口を抑えることは出来なかったが、順調にいけば彼らの決めた三十秒後までには敵の部下をはじき飛ばし、地下への路を開くことが出来た。 だが、リベリスタ達が地下へ向かおうとする動きを止めようとするフィクサード勢が、彼らの動きを止める事に専念した結果、静達が地下に下りることが出来た頃には、元の時間を更に数十秒超過した時点だったのだ。 「……急ぎましょう!」 地下の状況を念話による交信で確認しながらも、凛麗は誰よりも早く前を走り始めた。 同時に、アウラールもそれに続き、最後に静が一声をかけてから、往く。 「皆、地上は任せたぜ。玲に猛、ここは頼んだぞ!」 「任せてくださいよ、センパイ!」 言って、去っていく仲間達を見送った後――残った者達は再び敵を見据える。 仲間の何人かが抜けたため、コレより先の戦闘は更に厳しくなることが予想されるだろうに、 彼らは――それを苦とも思わない。 とらはその容姿に合った、にっこりとした笑みを浮かべて、堂々と宣告する。 「さあ、早々と倒して、あっちの助けに行くよ!」 目的の部屋を見つけるまでに、そう時間はかからなかった。 既にリベリスタは、本来の突入時間である三十秒を超過している。これ以上敵を待たせるようなことが有れば、人質の命に何があっても不思議ではない。 移動には、十秒もかからず。 そうして見つけたドアを――開く。 「助けに……!」 来たぞ。 そう言いきる前に、ぱんっ、と言う銃声が、リベリスタの耳に入ってきた。 「……ああ、漸く来たのか。 遅いから、もう始めちまったよ」 まるでパーティーか何かのことを言ってるかのような気軽さで、男が言う。 その足下には、頭部を撃ち貫かれた人質が、何人も転がっていた。 ● 「うらぁぁぁぁぁッ!」 激昂。そう言うしかない。寧ろ他にどう呼べばいいのか。 前衛に立ち、幾度となく叩き込む静の鉄槌を、男は的確に見切り、動くことで、或いは避け、或いはそのダメージを最小限に抑える。 「いけないなあ、随分と狙いが曖昧じゃないか」 「許せねえ……悪党って奴はいつも、人の命をモノみたいに扱いやがるッ!」 「ああ、モノ、ねえ。良い例えするな、アンタ。まあ、流石に自分の命に関してはそう言えないがさ。 ……さて、戯言もここまでにしようじゃないか」 言うと同時に、男は朗々とした『声』を部屋中に拡散させる。 人間の精神を狂わせることに特化された『声』は、それを聞いた全員の理性を即座に消失させる。 だが、それはリベリスタとて承知のこと。 「あまり長く聴いていたい歌ではありませんね……!」 狂った精神をかき消す破邪の光が部屋を包むと共に、その場にいた者の殆どが失っていた自我を取り戻す。 「……面倒な能力だなあ。お陰でこっちの効果が殆ど無いじゃないか」 「人質とらないと怖くて俺たちとマトモにやり合えない程度の技なんだろ? 消されて当たり前だろうが。 何ならもう一発見せてみろよ。効かないだろうがな」 「はっは、コイツは手厳しいねえ」 挑発に対しても思った以上に冷静なフィクサードを見て、アウラールは軽く舌打ちをする。 ならばと彼は自身の幻影能力を放ち、未だ囚われている人質に向けて、亡者が襲ってくる幻覚を見せることに集中する。 「う、うわ、バケモノ……!?」 「ひ、ひぃっ!」 部屋の奥から続々と湧いてくる亡者達から逃げるべく、人質は部屋から出ていき、男もまた、それを追う気配はない。 「……? 止めないのですか?」 「止めたいが、アンタら妨害するだろう。力量はこっちが上だろうと、手数で上回れている以上たいしたことはできんさ。 どちらにせよ、上の戦闘が済むまでアイツらも動けないだろうしな。先ずはアンタらを倒してから取り戻させて貰う」 「誰がさせるか!」 返した言葉は、今一度鉄槌を叩き込む静のもの。 だが、短時間においても火力をひたすら叩き込んだはずのボスに、未だ焦燥は伺えない。 寧ろ、仲間の連携を取らずにリソースを注ぎ込んだ静の息の方が上がっているようにも見える。 「元気があるねえ? 良いことだが……それは勝利には繋がらんよ」 再度、男が狂乱の声を響かせる。 凜麗が再び<ブレイクフィアー>を拡散させることで、リベリスタ達は再び回復するが、それも確実ではない。 状態異常の回復が、どうあっても六割を超えない以上、ボスの討伐には迅速なる解決が求められるのだが、凜麗は人質のサポート、アウラールはその彼女のカバーリングに専念しているため、ボスへの戦闘行動を主体とする者が静一人である以上、どうしても倒しきることは出来ない。 個人としての行動が良くとも、チームとしての行動に精彩を欠いている以上、力量が遙かに上であるボスとの戦闘がどうなるかは自明の理である。 時間の経過と共に、静の傷は男と、混乱能力に侵された仲間によって少しずつ増やされていき、その男もまた、凛麗のトラップネストと、それに連携した静の攻撃によって多少の傷は増えていくものの、それより先にリベリスタ側の消耗が激しいのは確定的となっていく。 「っ……!」 そして、戦闘が始まってから二、三分が経った頃。 遂に男の銃弾が、静の急所を打ち抜いた。 くずおれる身体を、しかし武器を支えにすることでこらえる静に対しても――男は容赦することはない。 「く、そ……っ!」 敵が再度技を放つ直前、静は最後の力を以て、男に切りかかった。 居合いと呼ばれるその技を、確かに身に受け、体から朱を零しつつも、だが男は倒れなかった。 「……お疲れさん」 瞬間、男の姿が掻き消え、同時に首筋に銀光が疾る。 斬られた。静がそう理解したのは、彼の身体が地に横たわってからだった。 「静!」 アウラールが叫ぶ。 フェイトの加護……作為的な奇跡によって、その出血は命に関わるほど酷くはないものの、彼が重傷であることは誰の目に見ても明らかだ。 「さて、残るは其処の二人か?」 その殺気の対象を、静から自分たちに向けられたアウラールは、傍らの凛麗を庇いつつ問いかける。 「上の仲間たちは!?」 「待ってください、今<ハイテレパス>で……!」 言い終える前に、交信が繋がったのだろう。 凛麗はそれに僅かな安堵を得た後――即座に、絶望した。 「……撤退を」 「凛麗?」 「上階の皆さんは、既に敵によって壊滅状態です。皆さんが此処に来ることは有りません!」 「……!」 事実上の敗北宣告に対し、アウラールの身も若干強張る。 地下に残る者が防御役のアウラールと、状態異常を基点とするスキル構成の凛麗では、このまま戦っても勝ち目は無い。 故に、撤退。正しい判断である。 だが。 「させると思うか?」 二人の言葉に応えたのは、他でもないフィクサードの男。 彼は自身の銃を凛麗に向けて構え、軽い口ぶりで言う。 「人質を連れ、動けない仲間一人を抱えての逃走。追うのは楽すぎる相手だ。 やれるもんなら、精々最期まで足掻いてくれよ?」 ● 「くぅ……っ!」 言葉と共に、鴉を象った式符がクライアの肩を撃ちぬいた。 現状で立っているのは、彼女と猛のみ。対し敵方は集中攻撃を受けて倒れたクロスイージスを除き、ほぼ全員が多少傷つきつつも余力を残している。 「……畜生」 吐く言葉も覇気が無い。未だ戦うリベリスタとて、あくまで『倒れていない』だけの話、その体力はもはや三割を大きく下回っているのだ。 敵方の力量が自分たちの遥か上を行くことを理解しているために、短時間に賭けての全力、かつ集中攻撃。此処までは正に今回に適した作戦だったと言える。 だが、その実力差を理解していながら、取った作戦が純粋な正攻法では敵を倒すことはできない。 何より、回復役、更に妨害スキルを重視したフィクサード勢に対し、倒す順番の高位に防御役を置くのは余りにもリスクが高すぎる。 実際、リベリスタたちがそうした『微々たる攻勢』を仕掛けている間に、敵方はクロスイージスの回復と、リベリスタ達への攻撃に専念。消耗の度合いが早いのがどちらかは言うに及ばず、結果としてフィクサードが一人倒れるまでの間に、彼らと戦うリベリスタ達はその人数を半分以下にまで減らしてしまっていた。 撤退、現状においてはそれが最善だと解りはするが、かと言って彼らは未だ此処を離れるわけにはいかない。 地下に居る人質の救出班がまだ上がってきていないのだ。この状態で逃げれば、彼らがどうなるかは想像に難くない。 「喧嘩はよぉ……ビビッた奴の負けなんだよ……!」 劣勢に在りて不屈の精神を尚損なわない猛が、最早何の能力も纏わぬ拳を、敵に向けて突き出す。 鈍い音、肉を叩く感触、それを味わいつつも、だが敵がそれによって倒れる気配は僅かも無い。 クライアもまた、その力を使い切っている。敵を薙ぐ剣にも、最初ほどの気勢は無く、その威力はただ僅かに敵をよろめかせるのみ。 敵のホーリーメイガスがそれを瞬時に癒せば、先ほどまでの努力も露と消えた。 「お前ら……!」 敵の本格的な攻勢が起こる前にアウラール達が現れたのは、その状況における唯一の救いと言って良いだろう。 敵のボスが居た部屋から地下への出入り口までの短い距離に受けた被害は重く、人質もその半数以上を殺されながらも、リベリスタの中では未だ一人の死者も出していない。 「敵のボスがこちらに向かっています。早く逃げましょう!」 気糸の網を放って敵のマグメイガスを縛りながら、凛麗が叫ぶ。 追いすがるフィクサード達を必死であしらいながらも、リベリスタ達はどうにか敵の追撃を振り払い、廃ビルから逃亡した。 ――そうして。 リベリスタ達が撤退を完了しきるまでに失った人質の数は、そのおおよそ三分の一。 苦い敗北の味をかみ締めながらも、彼らは生き残った者たちの治療のため、アーク本部へと向かうのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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