● ――ぐしゃり、と濡れた音がした。 周囲に広まる赤色が、飛び出したモノがクランベリーパイの様に見える。 あんなにも鮮やかな赤が酸素に触れて黒くなってくなんて勿体なくも思うけれど。 別にクランベリーパイなんて好きじゃないし、お茶会なんて開く予定もないけれど。 何度も何度も金属バットを振り下ろして、動きを止めるヒトを見つめては少女は首を傾げるのみ。 簡単に、死んでしまうんだ。こうやって。 「本日のお茶会ってクランベリィパイなの? 利佳ちゃん」 「ええ、そうね、とっても美味しいのですよ、プリちゃん」 錆びた鉄の臭いが鼻につく。嗚呼、こんな場所に居たら頭が悪くなってしまいそう! 噎せ返る程の血の臭いに瞬いて、倒れた人間の顔を見つめた。見開いたままの瞳が『情けない』と思える程に恐怖を抱いているのだから。嗚呼、此れだ――とそう思った。 その心に宿るのは殺戮衝動じゃないのかもしれない、と幾度も考えさせられた。 破壊衝動か。一種のサディズムか。何れにしても自分を見つめ、怯えるその顔が『堪らない』と思ってしまうのは異常な性癖に他ならないのではないだろうか。 「……素敵だなァ」 くすくす。笑みを漏らして、もう一度振り被る。 怯えを孕んだ瞳で此方を見てくれるから、堪らなくて。 「クランベリーパイって美味しいんだってさ。……尤も、僕は嫌いだけどね?」 ● 「『偏屈少女のお茶会』って良く名乗っているみたいなんだけど」 唐突に、はっきりと言葉を発した『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)にブリーフィングに集まったリベリスタ達は首を傾げるしかない。 「ハッキリ言えばフィクサード主流七派のひとつ、裏野部ね。裏野部フィクサードである『偏屈少女』達が午後のティータイムと洒落こんで虐殺を行っているの」 其処まで紡いで、世恋はハッキリと「趣味が悪いわ」と続けた。大きな桃色の瞳に浮かんだのはあからさまなまでの嫌悪感であった。 「お茶会の主催はプリマヴェーラ・和宮さん。通称プリちゃんよ。もう一人、利佳子という裏野部フィクサード。どういう訳かアークにも『お茶会の正体』が来たと言う訳」 普通のお茶会では無い、彼女らの言うお茶会は『殺戮』の事だ。人間をお茶請けにし、昼下がりに殺して殺して、其れを見つめて紅茶を啜る。なんと、趣味の悪い光景であろうか。 「……彼女たちは私達の為に素敵なお茶会を開いてくれるそうで。 場所は廃園になってる果樹園よ。一般人が三十人ほど招かれてる。立食パーティーだとか何だとか言ってランダムに招いた様ね。――見事に彼女達にご招待いただいた一般人は、私達が向かわなければ全員そろって『お茶請け』でしょうね」 招待に乗らないという選択肢は無いのだろう。救える命を見捨てると言う事なのだから。 本当は乗りたくないけれど、と複雑そうに呟いた予見者は地図と資料を提示する。 「こちら、果樹園の地図よ。出入り口は二つ。周辺は山で、柵に覆われてる。広いけれど枯れた木等が障害物になるわね……。 プリマヴェーラも利佳子も遊んでいるだけよ。彼女達を果樹園から撃退する事が今回のお願いに為るわ。それと、一般人も出来る限り救って欲しいの」 過半数。其れが最低ラインになるわ、と資料を指先でとん、と叩く。 裏野部らしく『お茶会』と可愛い少女の皮を被って虐殺を行うと言うならば出来る限りを救うしかない。例え彼女たちが『遊び』だと笑っても殺人であることには違いないのだから。 「――遊び、何て言えば残虐性が薄れる訳でもないけれど。 趣味の悪いお茶会なんてブッ潰して来てくれないかしら? 宜しくお願いするわね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月23日(土)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『偏屈少女のお茶会』が開かれると言う廃園になった果樹園は見た目は其処まで荒れ果てては居なかった。ぎぃ、と重い扉を開いた先に『3つのルール』殖 ぐるぐ(BNE004311)の期待するお茶会は広がって居ない。 鼻につく血の臭いは『裏野部』の存在を印象付ける為の茶会の演出であろうか。主催である『偏屈少女』達の笑い声が微かに聞えてくる事に『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)は目を細める。 「面白そうな『おねーさん』達だ」 それでも鰐はお茶会等と言う形式ばった集いは苦手だ。其れに付き纏う作法だってしっかりとこなせる気がしない。そもそも、行われると言う残虐な行いがお茶会である事からして理解の範疇を越えている『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)からしても『良いご趣味』である事には違いないのだが。 「招待状を送った意図についてはイマイチ読めない」 「遊びたかったんじゃないのー?」 そんな感じだと思うけれど、と幼いかんばせに花が綻ぶ様な笑顔を浮かべて楽しげにぐるぐは笑う。余りにも楽しそうなその笑顔はある種では別の狂気を感じられずには居られない。黄泉路が盗む者ならばぐるぐは獲る者だ。その両者の違いは欲の違いであろうか。 一方は学徒的に学び、其れを会得せんと努力し、もう一方は其れこそが自身のお遊戯(トリック)の為に必要だと貪欲なまでに追いかける。 「遊びたいでも良いが客を招く茶会にしてはお粗末と言う他ないな」 緑の長髪を揺らし、呆れの色を浮かべた『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)は薄刃の柄に指を這わす。薄いその刃が獲物を待ち侘びる様に朔の金の瞳と相対的に鈍く光る。 この場にいるリベリスタは誰もが何かを貪欲なまでに追い求めていた。知識欲、そして己の身に湧き上がる殺意。殺したがり――否、己の快楽に程近くなるだろう破壊衝動に身を焦がし薄らと笑みを浮かべた『黒魔女』霧島 深紅(BNE004297)にしたって初の戦いであれど、己の中にある衝動に駆られずには居られない。 「一般人を守るとか、素敵、正義のヒーロみたいっ!! ふふ、楽しいなぁ、楽しみだなあ!」 普通の少女の表面がコーディングした凶相。二つの表情をちらつかせ深紅は微笑む。 楽しむだけでは居られない。護る事を第一にする『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)は冷凍本マグロ片手に表情を歪めていた。別にマグロの手触りが悪いからという事が理由ではない。お茶会と聞けば鋭い味覚を所有する富江にとっては可愛らしい物を望まずには居られないが、それは料理を振る舞う物では無く、虐殺を『お茶請け』にした行為だ。 「しっかし、なんとも気分の悪くなる依頼だねぇ……」 双子の妹が所属していたと言うアーク。自分の脚でその場所に来る事を願った以上、この場に立つ事を後悔してはいない。しかし、戦いを未だ是と出来ない気持ちは双子の妹の笑顔を想いだす事で何とか昇華された。 (――アンタの痛みを少しでもこの身に感じる事ができるならね) この場に立って――仲間達と話して――大切で、頼もしい子だと実感した。其れが何故だか富江には判らないけれど、若く未来のある子供達を守るべきだと、彼女の心はそう告げていた。 「さぁ、行きましょうかあ」 くすりと笑みを漏らす『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は警官の服を纏い、黄泉路と朔を振り仰ぐ。その目は普段の感情豊かで明るい側面を隠す様に、笑わない。己の中で身体を焦がす其れに胸を抑えて息を吐いた。 (八つ当たりですよ。世のため人の為になりますし、問題は無いでしょうけれど) 黎子は裏野部が嫌いだった。唯の八つ当たりだった。裏野部は、『だいっきらい』だった。 ● 『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)にとって裏野部は理解できないものではないのだ。 彼等の破壊衝動はランディの抱く気性の荒さと合致する部分だってあった、彼等の親玉である裏野部一二三の意見にも同意を示す事ができる。だからこそ、其れがどれだけ傍迷惑なものであるのかは嫌でも理解していた。 グレイヴディガー・カミレで薙ぐのはフィクサードのみだ。前進するランディに続き、楽しげに鼻歌を歌う深紅は周辺を見回している。所謂戦闘班にあたる彼等は六道フィクサードを見つける事を目標としている。 「お茶会だあ! んー、でもなんて楽しくなさそうなんだろうね!」 くすくす。赤い瞳を瞬かせて、深紅は笑う。生かしたがりの兄の顔がチラついて、それを振り払う様にメイジスタッフを握りしめる。 「正義のヒーローって楽しいなあ。でも、お茶会はみんな楽しくならないといやあ!」 賓客は我儘であればいい。羽を揺らして、へらりと笑った深紅の表情が暗く染まる。瞳の赤はその名の通り深い紅に染まった。 「混ぜなさいよ、遊びましょうよ。出てらっしゃい、最低最悪なお茶会なんてブチ壊してあげる」 「そうだね、アタシ達がブチ壊してやりゃあ良い。深紅、大丈夫かい?」 ランディ、いりす、ぐるぐに小さな翼を与えながら笑う富江に深紅は頷く。曲がりなりにも初対面。けれど、聞き及んだ、彼女の姉や彼女の兄のこと。何処か心配し合うのも仕方がないのだろう。 「お前ら、その辺の警官の指示に従って逃げな、死ぬぞ!」 木々をなぎ倒し、脅す様に一般人へと声をかけたランディ。その巨体も然ることながら手にした斧が一般人へ与えるイメージと言うのは言わずもがなだ。一言で言うなれば恐怖を植え付けるには容易い背格好である、其れに限る。ぎろり、と睨みつけた鋭い赫に怯む様に一般人はランディの指差す方向へと走る。 「――そっち行ったぞ」 『了解』 幻想纏いを通して聞えた声に黄泉路は頷いた。お役立ちグッズであるなりきり☆警官セットを身に纏って、折角の『ご招待』に美味しい茶菓子を持ちかえる事は忘れない。 「出口なら此方にある! 慌てるなとは言わないが、落ち着いて避難するんだ!」 何が起こっているのか一般人には判らなかった。警察官が避難せよと声を掛ける事がこの果樹園で突然始まった虐殺(ティ・パーティ)に関係あるのか。戸惑いを隠せない一般人の前で黄泉路は幻視をも駆使し一般人を誘導しようと声を掛ける。 「出口は無いかもしれないよ! 僕が出口も食べちゃった!」 「裏野部……」 黄泉路の背後、離れた位置から掛かる声は少女にしては少し低め。鮮やかな赤い瞳を細めた和風のゴシックロリィタの少女――否、性別は分からないが――は楽しげに微笑んでいる。 「クランベリィパイは美味しく頂いてくれている? 御機嫌よう、リベリスタ」 「とってもとっても美味しいよ? ボク達遊びにきたんだ! プリちゃんって君? 美味しそうな『お菓子』の匂いがするよー?」 体内のギアが音を立てる。お菓子――プリマヴェーラ・和宮が使うと言う技に誘われる様に、ランディの背から跳ね上がったぐるぐが大きな双鉄扇を手にプリマヴェーラへと歩み寄る。ぶわ、と扇を広げる事で、ぐるぐが『増えた』。 いや、それは増えた訳ではないのかもしれない。扇を模したダブルシールドを振るい、幻影を展開する。プリマヴェーラに向けて放つ神速の斬撃は鮮やかな桃色の扇に弾かれる。 「ねえ、ボク達と遊んでよ?」 「ボク達? 面白い一人称だね。僕はプリマヴェーラ。プリちゃんって呼んでね。君は?」 「ボク達はぐるぐさん。あしょんでー? 面白い芸するんでしょー? たのしみ!」 ぐるぐがプリマヴェーラの視線を奪った隙に黄泉路は一般人を誘導する。目の前で展開された風の如き戦闘に腰を抜かせた一般人を担ぎあげ、騒ぎを聞きつけた朔がその補佐にあたっている。 普通の婦警にしか見えない朔も幻視を纏い、黒髪黒目の『一般人』に為り切っている。果樹園の入り口出口辺りは敵に囲まれている。視線を送った先、ランディが放ったアルティメットキャノンが真っ直ぐに柵へと当たる。 「慌てずに逃げ給え。あの柵の間だ。殺人鬼共は我々が防ぐ」 「防げます? プリちゃんは喧嘩っ早いですけども、私はそんなことありませんよ?」 くすり。小さな笑みを浮かべ、ナイフを片手に真っ直ぐ走り込む和服の少女を鞘で受け止めて朔はゆるく笑みを浮かべる。正義を尊ぶ蜂須賀家で異端と呼ばれた女は戦いの気配にぞわりと背筋へと殺意を走らせる。婦警の姿でありながら帯刀する何処か時代を間違えたかの様なルックスであった朔の唇が楽しげに歪められた。 「どうだかな。――我流居合術、蜂須賀朔。推して参る」 「裏野部フィクサード。利佳子で御座いますわ」 踏み込んで、和服が揺れる、受け流しながら朔の視線を受け止めて、離れた位置で一般人を誘導していた黎子も襲撃に備える。 どうやら彼等は趣味が悪い。自身らとの戦いを望み、探し回るリベリスタではなく避難誘導に当たるリベリスタらの前でメインディッシュを味わう事こそが至高だったのだろう。 「警察です! 落ち着いて、走って早く外へ逃げて下さい! お連れの方も我々が誘導します!」 出来るだけ、早くと呼び掛ける声に惑う一般人に黎子は赤と黒の月を揺らめかせる。だん、と地面を踏みこんで柵に向かって舞う様に、攻撃を浴びせる。切り刻む。幾度だって。 ――怪しまれても、死ぬよりはいい。 「早く! ここから逃げて下さい!」 急いで、と掛けた声。それを邪魔する様に飛ぶ神気閃光。悶え苦しむ一般人をその背に隠しながら黎子の表情に浮かぶのは一種の焦りだ。だが、彼女は幻想纏いに対して小さな笑みを浮かべたのだった。 「見つけましたよう? ホーリーメイガス」 「小生の遊び相手だってね? でも機知よりも情熱を。小生は遊びも恋も激しいのが好みでね」 吸い込んだ息を吐き出す様に、己の欲を満たす様に声を出したいりすに対して、裏野部のフィクサードが鰐の方を向く。しかし、利佳子をその対象に含む事は叶っていない。 無銘の太刀を手にへらりと浮かべた笑みの裏には焦りが滲みだす。 「裏野部の名に繋がれて、牙を抜かれたか。吠えるな。群れるな。喰い殺されたくないならば」 「食べてくれるって? 情熱的。僕もそういうの好きだよ」 クランベリィパイよりも、もっとね。 笑ったプリマヴェーラがいりすへむけて走り寄る。鰐が浮かべた焦りは己の耐久力に対してだった。格好付けてみたけれど、それでも、自身が弱いと考えるいりすにとってはヘビィな状況だ。 「ちょいっとばかりへびぃだぜ」 「そのヘビィな状況を打破するのが俺だって知ってたか?」 「ああ、知ってたよ」 いりすの目の前を通り過ぎる赤い影。ランディが真っ直ぐに放つアルティメットキャノンがホーリーメイガス目掛けて飛んでいく、しかしそれを受け流すのは裏野部のフィクサードだ。回復役を潰すと言うのは人間誰しも考える事だ。癒しを歌う富江に対して攻撃が与えられていくのも理に叶う。 傷ついても、無駄なく回復を行う。富江にとって回復とは仲間が安心して前で戦えると言う事だ。己の妹がそうだったように、後ろで構え支えになる事こそが富江の存在意義だ。 「アタシはその為に今、ここにいるんだよっ! すぐ回復するからねっ」 「富江さんこそ、無理しないでよね」 掛けられる深紅の声に笑みを浮かべる。フィクサードの放つ暗闇が富江の体を覆っても彼女は意地でも立っているだろう。逆境に強いからと笑った幼いぐるぐへと気を配り、その足で踏ん張る。 「お菓子はあるー?」 利佳子へと近寄って、へらへらと笑ったぐるぐに利佳子はさあ、と周囲を見渡した。この避難の間にも逃げ遅れた一般人の死体があちらこちらに散らばっていたのだ。彼女らにとっての甘味は死。大きな耳を揺らしたぐるぐに利佳子は可愛らしいこと、と小さく笑みを浮かべた。 ● 周辺の一般人は粗方避難できただろう。幻視を解き、駆け付けた朔の薄刃がプリマヴェーラへと真っ直ぐに突き立て――その首筋を掠める。 「危ないなあ、お姉さんなあに?」 「お招きいただいた事自体に感謝の意を表したつもりだ。こちらも返礼として存分に殺してしんぜよう」 その対象が主催だと言う違いだけだ。朔の言葉に面倒で我儘な客人の襲来を殺し合いと言う尤も望む形に昇華できたプリマヴェーラが幸せそうに笑う。 「で、僕に手をあげるって何? 我儘な客人(リベリスタ)のオーダーは?」 「先ず、少々お茶請けが安物だな。我々を歓迎するならばもっと高級なものがいい」 プリマヴェーラの扇が朔の頬を掠める。血色の花を咲かせながらもそれを受け流し光の飛沫をあげた。己の体内のギアが音を立てる。動くたびにからからと、軋みだすソレにさえ朔は心地よさを覚えずには居られない。 「お紅茶の銘柄やお茶請けのご趣味は?」 「簡潔に言えば、お茶請けには君達の死。紅茶は君の血で楽しませて貰う。それが存分な闘争の果てならば尚良し」 プリマヴェーラ・和宮は『偏屈少女』だった。捻くれた性根はその言葉に幸せを隠さずには居られない。扇が受け流しながらも、もう一つの影に気付き、周囲を焼き払う様にと拳を打ち立てる。 「子犬さんも僕がいいって? さっきは利佳ちゃんに浮気してたのに」 「えー? 気のせいじゃないかなあ。ボク達とあそんでよー」 へらへらと笑って真っ直ぐに飛び込む様は正に犬だ。遊びを強請る小さな子犬。愛でられ、嬉しげにじゃれつくフレンドリーに接してくる子犬の如きぐるぐの様子にプリマヴェーラは笑みを浮かべる。裏野部に所属する以上にプリマヴェーラにとっての闘争は大好きなティータイムにぴったりなお茶請けであるのだから。 ぐるぐの大きな尻尾が揺れる。燃える様に広がるその痛みにも笑みを浮かべて、飛びかかる。 逃げ遅れた一般人の姿が深紅の視線に入る。攻撃が飛ぶ前に其れを身体を張って受け止めた深紅は痛みに眉を寄せた。 「ほら、早く逃げなよね。あっち、解る? 大丈夫、出たら安全だよ」 早く、と指差す方向へ走る一般人を黄泉路が補佐をする。一般人を庇うなんて深紅にとっては異例の行動だった。今はただリベリスタらしい事をしていたい。フィクサードとして、行動をしていた深紅は形から入ればリベリスタらしくなれると、そう信じているのだ。 真っ直ぐに飛ぶマグメッシス。魔力の大鎌がホーリーメイガスの首を刈り取る。深紅に対して飛び交う攻撃に庇い手の居ない深紅の体は簡単に運命を代償にしてしまうだろう。その痛みがあっても、彼女にとっては楽しみの一部分だ。 「楽しい? 虐殺なんて何も感じない、かわいくもない。ただの、無駄だね。無駄な事して、楽しい?」 「それが君の価値観ってだけでしょう?」 そうだね、と笑う深紅がメイジスタッフを振るう。荒れ狂う雷を落としながら深紅は笑う。彼女の背後、息を吸い込んだいりすが再度フィクサードを呼び寄せる。灰色の澱んだ瞳がぼんやりとした中に、映し出した強欲さ。誰よりも見て欲しい、誰よりも愛して欲しいとその目は語る。 「格好付けるなら、最後までってのが家訓でね。簡単に倒れる訳には行かないし、簡単に諦めもしない。 愛は惜しみなく奪うさ。尊厳さえも踏み躙り。ただ貪欲なままにね」 傷ついて、怪我をして、それでもいりすは貪欲だった。本性をむき出しにする様に鰐の牙を煌めかせる。傷ついたその体に利佳子の脚がじり、と撤退を思わせる様に背後へと後ずさる。フィールド上には無数の逃げる穴が開いていた。理由も明快だ。リベリスタが一般人を逃がす為に開けた穴だろう。 「逃がすとでも思いましたかあ?」 笑みを浮かべて、影を纏う。カードの嵐から掴みとるのは死の告知。黎子が双子の月を煌めかせる。赤と黒。死神はあくまで陰に潜み刈り取る様に利佳子へと接近する。 モーニングコートを纏った黄泉路の斬射刃弓「輪廻」が音を立てる。暗闇がフィクサードを包み込み、眼帯で覆われた瞳はゆっくりと細められる。 視線はプリマヴェーラに向けられる。彼女の独自の技。其れを学ぶ事ができるなら。ぐるぐも同じく、楽しげに瞳を瞬かせるのみだ。 「残念だが、茶会は終了だ」 終わらせないと牙を立てる裏野部に向けて己の傷を、己全てを真っ直ぐにぶつける。痛みは己の知識の為に必要な経験だ。そして、それをぶつける事も又、彼が編み出した『技』なのであろう。 避難誘導の際に傷ついたそれを富江が癒し続ける。その中で、黎子に対して突き立てたナイフを抜き、仲間達がプリマヴェーラへ構っている隙に利佳子は柵から飛び出した。首筋すれすれ、向けられた鎌へと怯えの色は隠さない。ただ、もう一度、今度もあの鎌の使い手と戦いたいと漏れ出る笑みを抑える事はできなかった。 「お前らの趣味趣向はどうだっていい。同じ人殺し。殺るか殺られるかだ」 接近し、斧を振るうその衝撃がプリマヴェーラを襲う。笑みが深くなる。フリルを揺らし、レェスが翻る。扇が周囲を薙ぎ払う様に、纏わせた甘い香り、それをもランディは受け流し真っ直ぐにグレイヴディガー・カミレを振り下ろす。プリマヴェーラの瞳が見開かれる、腹を抉るのは彼のエネルギーを詰め込んだ巨大な『弾丸』だ。 「強いな――お前の眼は嫌いじゃねぇが」 「有難う、僕も嫌いじゃない」 鮮やかな緋が赫と交錯する。満足しきれない瞳を受け流し、退屈な茶会を望むクランベリィ色に染める様にもっと面白く、もっと素敵な結末を与える様にと斧を降り上げた。 ぐしゃり、と濡れた音がする。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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