● 「おはよう。僅かでも眠れたかね? では実験の続きを始めよう」 ……。 「ひとでなし、か。君は頻繁に其の言葉を口にするが、私は人だよ。君と違ってね」 …………。 「人体実験? とんでもない。君はニュルンベルク綱領やヘルシンキ宣言を知らないのかね? 我々は人の身体で危険な実験等しはしないさ。倫理があるからね」 ………………。 「此れ? 此れはそうだな。動物実験みたいなモノだよ。君は人では無い何かだ。化物と化しながらも、辛うじて人の形を保ってる何かだ」 ……………………。 「人の筋繊維はそんな出力を発揮しない。おっと、とは言え暴れても無駄だよ。其の拘束は君の同類の意見を参考に強度を非常に強靭にしてある」 …………………………。 「君の実年齢からすれば其の若さはありえない。何でも一度若返った後、全く年を取ってないらしいね。実に素晴らしい」 ………………………………。 「何故そんなに抵抗するのか理解に苦しむね。君は人々の為に戦っていたんだろう? 君の体の秘密が判れば、どれだけの数の人間の命が救え、どれだけの苦しみがなくなるか、想像するまでもないじゃないか」 ……………………………………。 余りに自分と違うから、其の研究員は彼女を人と見做さない。 響く悲鳴。自分と同種であると思わぬからこそ、似て非なるモノであるからこそ、其の実験は凄惨を極める。 「ありがとう。届けてくれた実験動物は非常に良好だ。代金は指定の口座に振り込んである筈だから確認してくれ」 とは言え折角の実験体を簡単に壊すわけにもいかず、彼女の体力を慮って実験は途切れ途切れに行われる。 休憩中の研究員は訪れたブローカー、実験体を捕まえて来てくれた2人組を、歓迎した。 「しかし、彼女は君等の同類じゃないのかい? 其れを売り飛ばすなんて心が痛まないのかな」 珈琲を啜り、まるで先ほどまでの彼女の扱いを忘れたかの様に、研究員は二人に問う。 研究員の非常に身勝手な物言いに、薄ら笑いを浮かべる二人。 「我等は六道。アレとは在り方が違いますから……、特に。其れに何より、『地獄の沙汰も金次第』ですからね」 ● 「さて諸君、今日の任務を説明しよう」 眉間に皺を寄せ、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は膝の上の人形を脇に置いて話し始めた。 少しばかり、不機嫌そうに。 「神秘は秘匿されるべき。……アークの誰かが言っていたが、まあそうなのだろうな。知らなくて良い事を知ってしまった人間は、碌な事をしない」 切り出し方を迷う様に、リベリスタ達の反応を探る様に、逆貫は言葉を選ぶ。 「ある大企業の、老いた会長に神秘の存在を明かした者が居る。革醒は若返りと不老を齎すと」 古今東西、金や権力を持った者達が最後に追い求めるのは若さであり、不老であった。 老いから、死から逃れる事を多くの人が望むのは、今でも変わらない。 「神秘を研究する為の研究所が密かに創られ、優秀な研究員達が集められた。……だが、其れでも普通ならば一般人の手は神秘に届かない」 優秀と言えど、一般の企業で働いていた、一般人としての話である。 アークの『研究開発室長』真白・智親(nBNE000501)の様な一般人は、それこそ奇跡の様な例外中の例外だ。 「しかし其処に六道が最下層地獄一派、金の為なら何でもするあの連中が、捕らえたリベリスタを其の研究所に売り渡したのだ」 逆貫の口から漏れる溜息。 「人間は自分と異なる者に対しては何処までも残酷になれる。其のリベリスタが受けた実験の数々は、……諸君等を煽る事になりかねないので多くは語らないが、非常に凄惨な物だったよ」 其の光景を、フォーチュナとしての力で目の当りにしたのであろう。 見る事を望んだ訳でも無いのだろうけれども。 「諸君にはこの研究を潰して貰いたい。施設中枢の破壊、資料の破棄、そして囚われたリベリスタの処理を頼む」 救出では無く、処理。 「無論助けられるなら助けるに越した事は無い。だが運命に見放されつつある彼女は、助けが遅れれば人間への恨みを溜め込んだノーフェイスと化すだろう。」 故に、逆貫は処理と表現したのだ。万一の事態を想定して。 「研究所は3層の独立したセキュリティネットワークが構築されており、内側になるに従って其れは強固な物となる。更に研究の事等何も知らない警備員も大量に居るな。武装はスタン警棒あたりだ」 敷地外にも警備員と、警備用に訓練された犬が居るらしい。 異常に厳重な警備体制だと言えるだろう。……一般人を相手にするならば。 「恐らく諸君等にとっては大した障害にはならんだろう。研究所には地獄一派の二人も滞在しているが、襲撃者の撃退は契約外である為に動かない公算が高い」 彼等の契約は、実験体が壊れた時の再補充と、ノーフェイスと化して捕獲不可能な段階まで進行してしまった場合の処理のみである。 そして彼等は、恐らく何れリベリスタ達がこの研究を潰しに来るであろう事も承知している筈だ。 「研究員達も一般人だ。君達は彼等に対して圧倒的な強者となる。……後は諸君等の判断に委ねよう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 人畜無害:人間や人間と関わりの深い存在である家畜にとって無害であること。 万物の霊長は人間である。 食物連鎖の頂点であるから、宗教を持つから、etc。 人によって所以とする理屈に違いは在ろうが、多くの人間はそう認識しているだろう。 其の認識は人にとっての背骨である。 研究者達は人類にとっての未知未開の分野を、誰も踏み入った事の無い世界だと信じて研究してきた。 人類の為に、人類の更なる繁栄の為に。 だがある日、自ら達が万物の霊長であると信じてきた彼等は、それを否定する確固とした証拠を押し付けられてしまった。 E・能力者。それも自分達人類から分かれた、……劇的な進化としか言い様の無い優れた能力を保有した者達が。 其れが人類から分かれ生まれたモノでなければ、彼等もまだ冷静であれたかも知れない。其の優れたるに敬意を持って接する事が出来たかも知れない。 けれど其れは彼等と似て非なるモノ。例えるならば猿と人の様に。其れは人が猿を見る目で、人を見るのだろう。 其れは人の知らぬ世界の裏で、世界に我が物顔で食い込んでいる。 真実を知った研究者達は自覚も無く静かに絶望し、しかしそのまま絶望に潰されずに復讐を誓う。 其れの全てを暴き、人の物とする為に。 E・能力者に対する強い嫉妬、憎しみ、怒りを原動力にするとは言え、彼等の目的は人の為である。 捕えた実験動物、『彼岸花』赤白・沙華が毒を無効化するメカニズムを知る為にあらゆる劇物の投与を試みたのも、危機に対しての肉体の反応を見る為に開腹状態で内臓への刺激を与えたのも、全ては其の力を人へと還元せんが為。 故に其の行いが如何に醜くとも、彼等は愚かで哀れな、人畜無害の一般人に過ぎない。 力を持たぬ事が罪なのか、力に目覚めた事が罪なのか。 ● 「半端に金持った人間が考える事は何時も同じね」 吼えながら突進してきた警備犬をひらりと避け、『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は大きく跳ねる。 スカートを翻して宙を舞った……、少女の様にしか見えないけれど実は年経た男性、彼が居た空間をテーザー銃より放たれた電極が虚しく通過していく。 「人間同士だって他人には残酷に為れるモノよ。今更だわ」 呟く其の言葉には、口先だけでは無い、頭で知っているだけでは無い、何らかの実感が篭められている。 長い生と、常人とは違う経歴を持った彼は、その人生で一体何を目の当りにして来たのだろう。 「おぬしら邪魔でござるよ!」 しつこくエレオノーラに纏わり付く警備犬が、横合いから突き出された鞘入りの刀で叩き伏せられる。 哀れな鳴き声を一つあげ、『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)に打たれた警備犬は、ぐったりと倒れ伏す。 「虎鐵ちゃん、あたし思ったのだけど」 「何でござるかエレオノーラ」 けれど一匹を倒してみた所で、二人を取り囲むは大勢の犬と警備員。 入り口の警備員からトランシーバでの連絡を受けた外周部の部隊はほぼ全員が集まったと見て良いだろう。 「こっちに3人も要らなかったわね」 「どうやら警備員は何も知らんようでござるな」 数的には圧倒的不利なエレオノーラに虎鐵、しかし彼等の表情に焦りの色は欠片も無く、……寧ろ外周部の警備員を引き付ける為の陽動に人数を割き過ぎたとすら感じているのだ。 例え人数に圧倒的な差があろうとも、一般人である警備員等と、E能力者であるエレオノーラ達とではスペックに、生物としての格に、マリアナ海溝並に深い隔たりがあるのだから。 もし警備員達がE・能力者の存在を教えられていたならば、こんな無防備な包囲の仕方はしなかっただろうに。 「はい、ご苦労様です」 エレオノーラに虎鐵に労いの言葉を一つ掛け、杖を翳すは陽動に配置された3人目、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)。 彼女の声に、エレオノーラと虎鐵は咄嗟に腕で目を隠す。次の瞬間、世界を白く光が染めた。 神気閃光、厳然たる意志を秘めた聖なる光、殺しを決して行なわぬ、慈悲の非殺傷攻撃。……まあ無論、死なぬだけでE・能力者の攻撃威力を体に受ければトラウマになる事は請合いではあるけれど。 「ああ、一般人はこんなに脆いのですね。ジンガイになって長いので忘れていました」 ハートマークでもへばりついていそうな海依音の甘い哂いに、運良く、或いは運悪く、神気閃光の範囲外に居た警備員がテーザー銃を向ける。 未知の恐怖に対して、咄嗟に立ち向かうと言う選択肢を取れる度胸と錬度に僅かな驚きを感じながら、けれども警備員の動きよりも遥かに速く背中の翼を広げて飛んだエレオノーラは、迫り来る天使の姿に目を見開いた警備員にスタンガンを押し付けた。 「お仕事ご苦労様。でもあたし達も仕事だから。ごめんね?」 ● 「どうだ? 同志」 「そう急くな。…………あぁ、多分アークで間違いないじゃろ。八大の方々から伺った特徴と一致するのが混じっておる」 問う青年に、鷲頭の老人は目を細めて壁の遥か向こうを見透かしながら応じる。 外の警備員達から齎された不審者発見の報せは、二人の小地獄、火末虫処、髪火流処も知る所となっていた。 「全く面倒な……。大人しく死人と戦っていれば良いものを。では同志よ、どうする?」 「……お前さんは少し自分で考える癖を付けた方がええぞ。まあ、そうじゃな。無駄な危険を冒すのも馬鹿らしいが、金蔓を一つ潰されて素直に退くのも多少癪じゃの」 音を立てて閉まり掛けていた隔壁が止まる。 「……ま、気づかれずになんて行かねーとは思ってたすけど」 想像以上に警戒度の高い警備に苦笑いを浮かべながら、電子の妖精で外層部のセキュリティを掌握した八潮・蓮司(BNE004302)は呟く。 振るう小太刀が発射された電極を弾き、火花を散らした。彼が先輩と呼ぶアークの先達に比べるならば、比較的戦闘経験が少ない蓮司でも、実弾ですらないテーザー銃での攻撃を防ぐ事は余りに容易く、……驚きに表情を歪める警備員には哀れみすら感じてしまう。 「あー、少し拙いですね」 けれど其の警備員の動きの意味に最初に気付いたのは司令塔あるレイザータクトである葉月・綾乃(BNE003850)だった。 能天気そうに見えても意外と計算高い彼女は、警備員達の動きが侵入者の捕獲排除でなく、時間稼ぎを意図したものである事を見抜いたのだ。 電子の妖精を持つ蓮司が居たからこそ事なきを得たが、下ろされんとした隔壁や、スタン警棒での近接捕縛では無く距離を取ってのテーザー銃での射撃、それも簡易バリケードの向こう側から行なわれる其れは、明らかに時間稼ぎを目的としている。つまりは彼等にそう言う指示が出ているのだろう。 無論そんな指示を出す様にアドバイスを行なったのは、六道の2人組。此の研究所の長から警備員達が受けた指令は『社に恨みを持つ強力な武装を持ったテロリストが侵入した。増援が来るまで持ちこたえろ』と言う物である。 突破口を求めた綾乃の視線を受け、頷いた『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)が取り出したCSガス銃、催涙剤を込めた弾頭を飛ばすガス銃の引き金を引く。狙い違わずバリケードの向こう側に転がった弾頭から噴出するCSガス。 目元口元を押さえ、バリケードを放棄して後退する警備員達に、けれども隙を逃さずリベリスタ達が追撃をかけた。スタンガン、腕時計型麻酔銃に倒れ伏す警備員達。 ……しかし、である。 頑強に抵抗する、あくまで引かない警備員達に焦れたのは一人のリベリスタ、『放浪天使』伊吹 千里(BNE004252)。 仲間達が止める暇もなく、翳された彼女の手から神秘の力が放たれ、…………ぐしゃり。一人の警備員が肉塊と化す。 其れは見せしめ。戦意を殺ぐ為の、哀れな生贄。 「私はアークでも最弱の部類に入る小娘ですが、その私でもこれぐらいのことはできるんですよ?」 千里の言葉は、だが其の言葉の意味を、アークと言う単語を、神秘の力を理解していない警備員達の、ヒステリックな攻撃を招く。 何が起きたか理解は出来ぬが、彼女の言葉に彼女が其れを成した事は判る。そして次は自分達に其れを向けようとしていると、誤解させたのだ。 千里に向かって振り下ろされたスタン警棒を、けれどもガッチリとナイフで受け止めたのはエレナ・エドゥアルドヴナ・トラヴニコフ(BNE004310)。 「道を空けろ! 邪魔するなら容赦はしない!」 少し詰まり気味の日本語で飛ばされたエレナの警告。言葉通りの最終警告。 蓮司は、ひよりは、殺したくないと考えていた。千里は、最終的に犠牲が減るなら一人は仕方ないと考えた。 けれどエレナは違う。幼い頃から内戦を経験し、兵士として生き、……アークに来てからの年月も短い彼女は、守る事より殺す事に慣れていた。 退く事なく、スタン警棒に力を篭めて押し込もうとする警備員に、殺意に支配される訳ではなく、冷静に仕事として、障害である彼等の排除をエレナは決意する。 エレナと言う銃の引き金を、千里の行為は引いてしまったのだ。 響く銃声。エレナはナイフでスタン警棒を受け止めたまま、逆手のライフルで警備員の腹を打ち抜き大穴を空けた。 蓮司は、ひよりは、仲間の思わぬ行動に、千里は、自分が誘発してしまった考えもしない惨劇に、凍り付く。 仲間内での意思統一は成されぬままに、通路は死に染まる。積極的な殺意は無くとも、殺しても別に構わないと放たれたリベリスタとしての力は、余りに容易く人の命を奪う。 其の行動を止めようとしたひよりは、けれども綾乃に腕を掴まれる。仲間内で相争う事、其れが一番憂慮される事態であるが故に。 ヘビースマッシュが人体を砕き、朱の花が咲く。 血に染まった女兵士による余りに早い警備員の壊滅は、誰にとっても計算外の事態であった。 ● 惨劇の後。ひよりが悲痛に顔を歪め、蓮司は血から目を逸らす。 合流した陽動隊のエレオノーラは血臭に僅かに顔を顰め、ナイフを振るって血を払うエレナを見詰めた。 何が起きたのか、何故そうしたのか、祖国を同じくするエレオノーラは理解する。しかし、掛ける言葉は見つからない。 そう在らねばこの場に立つまで生き残る事が出来なかったのであろうエレナに対して、エレオノーラは意思を押し付ける言葉を発する事無く沈黙を守った。 もし此の場にエレオノーラの知るもう一人のロシヤーネ、軍人でもある彼が居れば、果たしてどんな言葉をかけるのだろうか? 不意にパチパチと響いた拍手の音に、リベリスタ達が一斉に戦闘態勢に入る。 「また此れは随分と、派手にぶちまけたもんじゃ。外で殺さなかったのは油断させる為のフェイクかの?」 「流石は主流七派が八つ目、『鏖殺』のアーク。フィクサードも顔負けの殺しっぷりだ。……裏野部となら良い勝負になりそうだな」 可笑しそうに、笑い声をあげながら現れたのは、二人の六道。無論彼等は何が起きたかを全て判って、其の上でリベリスタ達をからかっている。 其の証拠に彼等は決して一定以上の距離を詰めようとはしない。 「ワタシたちとの戦いは料金外どころかマイナスでしょう。ここはひいていただけません?」 「悪いけど今回貴方達と遊ぶのは仕事じゃないの。邪魔しないで」 海依音が艶を含んで撤退を促し、そしてエレオノーラがバサリと挑発めいた哂いを切って捨てる。 「邪魔とは心外じゃな。ワシ等はメッセンジャーじゃよ。此の研究所の長はお前さん等の残酷さにすっかり怯えてしまっての」 「コングラチュレーション。此の施設は貴様等の手に落ちた。景品は奥だ。取りに行くと良い」 2人の言葉を証明するかの様に、通路の奥の扉が開く。 六道のフィクサードを警戒しながらも、一刻も早くと奥を目指すリベリスタ達。 千里が眼前を通り過ぎる際、口を開いたのは髪火流処。 「あぁ、お前さん。そう、そう、そこのお前さんじゃよ。お前さんのミスはな。仕方なしに殺した事じゃな。恐る恐る飛べば崖から落ちる。向こう岸に着きたければもっと思い切りが必要じゃ」 「何、貴様なら次はもっと思い切れるさ。直ぐに此方に辿り着ける。殺したがりの自分に気付く日を、期待して待っていよう」 髪火流処の言葉を、火末虫処が引き継ぐ。無論其れは励ましに見せかけた罵声だ。 千里の使命感が故の行いを、2人は突いて遊んでいるのだ。取り合わず、足早に過ぎ去る千里。応じれば、言葉は更に彼女を絡め取ろうとするだろう。 「……六道は随分と無駄が好きなのでござるな」 庇う様に千里の背を押し、間に割り込んだ虎鐵が2人の地獄に対して吐き捨てた。 ● 「守り守られるものがあって、ゆずれない想いをもって、頑張ってきたんだと思うの。それをふみにじられたことが、とてもとても悲しいの」 ひよりの其の言葉は、『彼岸花』赤白・沙華の気持ちを代弁すると共に、彼女自身の思いでもあったのだろう。 リベリスタ達が発見した時は目を背けたくなる程に無残だった沙華の状態も、ひよりの天使の息、神秘に拠る癒しに何とか動けるまでに回復していた。 けれど肉体の傷は癒せども、心が負った傷は如何な神秘の力と言えども癒せはしない。 開いた腹は閉じても、麻酔もなしに直接臓器を弄繰り回された痛みと恐怖と恨みは消えない。 束縛から解放された沙華は、身体が弱っていなければ、自分を助け出したのがリベリスタでなければ、震える研究員達を皆殺しにしただろう。 しかし如何して、自分を助けてくれたリベリスタの前で虐殺を行なえようか。 恨みと怒りの炎に身を焦がせど、そんな恥知らずな真似は出来よう筈が無い。沙華は未だ無神経な獣には堕ちていない。そんな彼女の様子に、蓮司は内心安堵する。 蓮司とて研究者達の事は殺してしまいたい位に、業腹だ。だが人を殺す覚悟を、彼は未だしたくない。余りにあっけなく一般人が殺される姿を、再び見たくもない。 そんな自分の弱さに、反吐が出る。 物思いに資料を処分する手を止めてしまった蓮司の姿に、同じ作業に従事していたエレナは僅かに首を傾げ、彼の手の中の資料を奪い、合理的に処分を再開する。 資料が燃え、小さな炎の花が咲く。 アークのリベリスタ達による身柄の保護を、けれども沙華は断った。 彼女の胸に巣食った黒い感情の根は深い。これを消化せずして、リベリスタを名乗る事は彼女には出来ない。 「次に会った時に私がフィクサードだったらさ……、貴方達は、私を助けた事を悔やむかしら」 冗談めかした問いが落とす不吉の影。 しかし彼女は恥を知っている。醜い行いを恥じる心がある。 人を恨む彼女は決して人畜無害ではないけれど、獣にはならぬと今は信じて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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