● 透明なカップに八分目まで注がれたビターなホットチョコレートの上に、甘さを抑えた生クリーム。 型の上から降らされるのは、無糖タイプのストロベリーパウダー。 白にほんのり浮かび上がるピンクのハートに、銀と薄桃のアラザンが散る。 もう一つのカップには熱々のブラックコーヒー。 黒く澄んだそれと混ざり合う、とろりと濃い黒のホットチョコレート。 苦味と甘味の混ざった良い香りを、真っ白なミルクの泡で閉じ込める。 ココアパウダーで描くのは、楽しげなスマイルマークだ。 向かい合って座る二人の片方の鞄から見えるのは、箱に掛けられたリボン。 二人掛けのテーブル席にそっと飲み物を並べた店員が、ごゆっくり、と微笑んだ。 隣の席には、銀箔シュガーを散らしたホワイトショコラを片手にお喋りに興じる女の子が二人。 中から零れたラズベリーの赤が鮮やかなフォンダンショコラに、真っ白な生クリームを添えたブラウニー。 ハートのお皿に乗せられたそれを半分こ。 ほんのり頬を染めて話すのは、今日の『一大イベント』の成果か。 笑って一人がマグカップを突き出せば、はにかんだ彼女はかちん、と己のカップを触れ合わせる。 今日という日、甘い香りに浸りませんか。 ● 「はいはい、バレンタインですね。皆さんお暇ですか? ああ別に喧嘩売ってる訳じゃなくて、独り身の方でも恋人さん持ちでも少し暇があったらご一緒にカフェでもどうかな、というお誘いをしようと思っただけの皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです」 ピンクと白、ブラウン。 名刺サイズのカード、期間限定で開かれるチョコレート・カフェへの誘いを差し出しながら、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は軽く笑った。 何でも開催側に、イベントごとでちょくちょく顔を合わせる料理教室のスタッフがいるらしい。 「まあ、ビルの催事場を使ってのイベントなのであまり凝った料理とかは出ませんけれど。チョコレート系の飲み物やお菓子類、夜はお酒もあるそうです。窓の傍なので景色もいいですし、少人数用テーブルや衝立も沢山用意してあるので宜しければ、との事です」 落ち着いた木目の低いテーブルに、白とブラウンのソファ。 シックに纏めた空間で、提供するのはチョコレート。 「駅前のビルなので昼間は人も多いですし、お一人様や友人、家族同士とかでも気軽に入って欲しい、という事で。サクラじゃないですけどぼくも呼ばれてますんで、良ければどうでしょう」 言いながら、ギロチンは案内図代わりのカードを配る。 と、思い出した様に一言。 「あ、そうそう。折角のバレンタインだし、という事で……他のお客さんの迷惑にならない程度、という前提はつきますけど『誰かへの贈り物』であれば持ち込み可だし、店内で食べて貰っても大丈夫、だそうです」 道の途中で、或いは日常の最中に渡すのもいいけれど。 良ければゆっくりと語らいながら、今日と言う日を過ごして欲しい、と。 「ね。良かったら行きましょうよ。ほら、ぼく一人だけだと寂しいじゃないですか」 本気か嘘か。いつも通りにフォーチュナは、そう笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月04日(月)23:23 |
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● 甘く柔らかな蕩ける色。何処もかしこも甘い香りに包まれる日を製菓会社の陰謀と誰かは言うけれども、街中に溢れる甘い香りに背を押される気持ちはきっと、愛や恋だけではなくて。 「お姉様、もう決まりました?」 「ええ。でも急がなくていいわよ」 目を瞬かせて僅かに眉を寄せたリンシードは、唸り出しそうな様子で悩み始める。暫しの沈黙。表情には余り出さないものの、困り果てた瞳で糾華を見詰めたリンシードは、小さな声でお姉様、と問うた。 「……決められない?」 「はい……」 しょんぼりするリンシードに、糾華も少しだけ寂しそうにそっか、と相槌を打つ。彼女が選んで決められたのならば、良い事なのだけれども。 ケーキとミルクティーは、暖かな香り。少女たちは微かに微笑み合い、お茶会を開始した。 銀色が生地を割り、チョコクリームが溢れる。カップを手に持ったまま、自分をじっと見詰めるリンシードに微笑めば彼女も表情を和らげた。 「ちょっと食べてみる? ほら、あーん」 「あ、あー……ん……?」 差し出されたフォークにほんの少し胸をときめかせながら顔を前に出せば、吸い込まれたのは糾華の口。意地悪、とでも言うように拗ねた目で睨むリンシードの口に今度こそしっかり含ませれば、表情も笑みに変わる。 「ね、美味しいでしょ?」 「美味しいです」 微笑み合う少女達、パーテーションを挟んだ席ではテュルクがコートを脱いで座る所であった。 「まずは、お付き合いありがとうございます。一人では入り難いイベントでしたし」 「ほんと、君も物好きねぇ。まあ、誘われて悪い気はしないし。お誘いありがとね」 希望者が受けられる本部での講習の帰り、タイミング的に異世界から渡って来たフュリエの多い中で目が合ったのは偶然か運命か。大きなテュルクを見上げながら、躑躅は見た目も悪くないし? なんて年頃の少女らしい事を思ってみたりもする。 フォンダンショコラにブラウニー、チョコレートタルト。ホットチョコレートだけでは足りないから、ブラックコーヒーも一緒に。 「ふふ……君、こういうの好きなのね。というかどれも美味しそうよねー」 「はい。色々並べて楽しみましょうか。二人なら分けて倍の種類が味わえます」 ごくり。並んだお菓子に唾を飲み込んだ躑躅はおっとと口を押さえるが、ホットチョコレートのカップを上げて、テュルクは首を傾ぐ。 「互いの新生活に乾杯、とかどうでしょう。貴方に幸あれ」 「ありがと。この地の生活が、この出会いが二人にとって良き物になりますように……てね」 かちりと触れ合わせたカップ。躑躅は連絡先とか聞いて良いかしら? と悪戯っぽく微笑んだ。 「おされなカフェって入るの一瞬とまど……早っ」 「ドレスコードがある訳でもなし。何をとまどうって言うの」 店の前で一瞬足を止めた夏栖斗とは対照的に、こじりはさくさく足を進める。何ならスウェットで出直しても全然平気よ、と肩を竦めるこじりと夏栖斗が案内されたのは窓辺のペア席。 「私エスプレッソ」 「んー、ブラウニーとショコラと何にしようかな?」 「……ショコラ? ブラウニーって何? 妖精?」 メニューも見ずに即決したこじりに夏栖斗が問えば、甘いものが苦手な彼女は理解不能とでも言いたげに眉を寄せた。全くもって最近の横文字の氾濫は目に余る。 「久しぶりだよね、こんなにのんびりするのって」 「貴方と一緒にするのはね」 「いやほら、僕ワーカホリック高校生だし。こじりは?」 「最近寒いから、引き篭もってネトゲと釣りと動画で過ごしてるわ。後は歌ってみたとか」 「どうしたのこじりちゃんいきなりヒッキー!?」 エスプレッソの香りを喉に流しながらクールに告げたこじりに、カップをソーサーに置いて突っ込んでから夏栖斗はその表情を少し変える。 「いつもさ、心配させてごめんな。楽団の事もあるし、ちゃんと生きて帰って来るからさ」 リベリスタのワーカホリック。 危険に自ら突っ込んでいく彼を静かな目で見詰める彼女。 「来年もまた、バレンタインを一緒に迎えたいと思うよ」 「――当たり前の事を一々言わなくて良いから」 溜息さえも吐かずに瞬いたこじりに、夏栖斗は当たり前の事だから何度も言うんだよ、と首を振った。 ソファに腰掛けた雪佳が軽く淑子へと頭を下げる。 「今日は付いてきてくれて、本当に感謝する」 「ふふ、此方こそお誘いを有難う」 ある程度は見知った仲。嗜好も知っている淑子が、可愛いものだけじゃなくて甘いものも好きなのね、と問えば雪佳は頷いた。 特に予定らしい予定はないから大丈夫、淑子はそう笑うが、世間的にはイベントの日である。誘った身でもある事だし、食べたいものがあれば言ってくれ、とメニューを差し出す雪佳に彼女は少し考えて、お言葉に甘えましょうかと白い指先で受け取った。 「その代わり、今度うちの店にも遊びに来て頂戴ね? お持て成しさせて頂くわ」 淑子の言葉に雪佳が笑って頷く間に、フォンダンショコラが二人の前に。フォークを入れて中身が溢れるこの瞬間が好きだと言う淑子に、雪佳も首肯した。蕩ける甘さが口の中で生地に染み込んで行く食感に幸せそうな笑顔を浮かべた彼は、淑子の視線に照れ臭そうに目を逸らす。 「……に、似合わない事くらいは承知しているさ」 「あら、似合わないなんて事」 美味しいものを美味しいと思うのは普通じゃない? 不思議そうな顔の淑子の顔に、雪佳も笑みを零して頷いた。 カウンター席の隅で眺めるギロチンに、ゆきは軽く笑って声を掛ける。 「宜しければご一緒しても?」 ひとりで過ごすにはどうにも持て余してしまって。誘いを掛けた相手に告げれば、いつも通りに笑って頷いた。話題に出すのは先に受けた依頼の話。 「心許りですけれど、どうかお納め下さいませ」 差し出された浮き彫りの白椿の掛け紙を和紐で封じた木箱を掌に載せ、ギロチンは首を傾げた。 「開けてもいいですか?」 「勿論。お口に合えば良いのですけれど」 紐を解いた先には、甘い花と深い抹茶色で彩られた層。粉砂糖が優しく降ったそれを口に運んで、男は微笑んだ。 「ありがとうございます。すごくおいしいです」 「それは良かったですわ」 掌で包むショコラカフェ。 眺める季節はまだ冷たい風のままだけれど、華やぐ甘い空気にそれさえ忘れてしまいそう。 香るオレンジを吸い込んで、リコルはほっと一つ息を吐く。 深いショコラ色の並ぶショーケースは、見ているだけでも楽しいものだ。 甘さに混じる爽やかさ、この柑橘の香りはジャムのペーストだろうか。こくりと一口。 「むむ……後味にほんの少しぴりっとしたアクセント……黒胡椒が隠し味のようでございますね!」 黒に混じる黒は、目では見つけ難いけれど、舌先は確かに存在を伝えてくる。 「お嬢様にお出しするなら、もう少し甘いものがよろしいでしょうね」 金髪の少女を思い出しながら、リコルは思案。それで笑顔が見られるならば、とリコルは思い付いたレシピをせっせとメモに取った。 ● 向かい合ったカルナと悠里は、テーブルに並べたお菓子を間に微笑み合う。 甘いものが好きなカルナが楽しんでくれるといい。悠里の思いが篭ったバレンタインデート。 自分の方が楽しむ事になりそうだ、と思っていたカルナであったけれど、レースペーパーの上に乗ったブラウニーを口に運べば、しっとりした甘さに顔を綻ばせた。 「む……悠里、何を見ているのですか……?」 「ううん。何かおかわり頼む? 遠慮なく食べるといいよ」 聖女然とした――と言えばカルナは複雑な顔をするのかも知れない、凛とした強さも魅力の彼女だけれど、日常を送る女の子の顔が好きな悠里はその表情が見られるだけで満足だ。濃いショコラの色をしたホットチョコレートはビターだけれど、彼女が幸せそうであればそれで至上の甘さに変わる。 カルナは甘さを、悠里は愛しさを。それぞれ一杯にした帰り際。 「あ、悠里」 立とうとした彼を引き止めて、彼女は箱を差し出した。 「その……ハッピーバレンタインです」 「ありがとう、カルナ。すごく嬉しいよ」 箱はそれが既製品だと伝えているが――持ち前の『創意工夫』が裏目に出るカルナのプレゼントとしては、喜ぶべきか残念がるべきか。 そんな複雑さは、悪いものではないのだけれど。 「依頼を頑張ってるみたいだし、労いを込めて奢っちゃうよ」 「あら、じゃあ今日はお言葉に甘えてあげますわ」 笑う琥珀に、氷花は眉を上げて薄く笑みを返した。本当は、バレンタインに誘ってくれるなんてとても嬉しい。でも、表情には出してあげない。琥珀はそんな氷花を心配しているのだけれど、近頃は友達も出来た様子だし、うまくやっているのだろう。 並ぶのはショコラ色。煩い作法にも関係なく、好きなお菓子を食べられるなんて。氷の仮面を溶かして幸せそうに口に運ぶ氷花を、琥珀はコーヒー片手に笑んで見守る。 「そうだ。……借りを作るのは嫌ですから、単なるお返しですの!」 ツンと横を向いた氷花が差し出したのは……なんだろう。 本人に決けばトリュフ。外見は自爆呪文を唱えてくる岩の如し。 「有り難くいただきます!」 口には出さず、両手を合わせて食べた琥珀は内心固まった。苦い。めっさ苦い。 当たり前だ。何しろカカオとコーヒー豆を磨り潰して混ぜたチョコレートとも言いがたい何かだ。イジメかと思う琥珀だが、氷花にとっては『甘さ控えめ』で精一杯作った気持ち。 少しすれ違いながら――けれど笑顔を崩さない琥珀に、氷花はほんの少し、頬を緩めた。 空を翔る最中に見つけた催事場。 「こんにちは、ギロチンさん。ハッピーバレンタイン!」 奇遇ですね。外は寒いですか? 問う彼に、亘は隣を指差しながら頷いた。 「店員さん、何か暖かい飲み物を貴方のオススメで」 手を上げながらそんな風にオーダーし、手招くギロチンの隣の席に。 亘が尋ねるのは、彼の今年のバレンタイン。 「ほら、熱烈アプローチとか、意中の子から貰えず悶々とか……」 「ないですねえ。あ、でもほら。響希さんに本部出る前にやって貰ったんですよ」 爪を彩るのはブラウンのチョコネイル。ギロチンは充分この日を楽しんでいるらしい。 去年のバレンタインにも会話を交わした。その時から然程変わってはいない様子だけど、と、思う亘に、ギロチンは問いを返す。 「天風さんは?」 「え?」 「意中の方から、貰えました?」 青翼の彼の視線の先は――割と有名らしい。 一方、なければ自給自足すればいいじゃない、という甘党男子の鑑、叶はその相好を甘く綻ばせていた。地味に尻尾が揺れている。 「すげぇ……パラダイスだ、ここ」 スタッフが聞けば最大の賛辞であろう。濃く甘いホイップクリームにピンクのハートチョコレートが載ったホットチョコレートをお供に、これまた生クリームとチョコソースを添えたチョコパウンドケーキを黙々と口に運ぶ。 次は何がいいだろう。やっぱり定番のフォンダンショコラか。ドリンクは何がいいだろう、ホワイトチョコレートに甘酸っぱい苺パウダーを散らしたものか? 財布の中身をフル活用できるプランを立てながら、叶はひたすら頬を緩めていた。 が、そんな悟った事が出来る者ばかりではない。 「よう。ぼっちです!」 「竜一さん。お一人ですか」 「べ、別にずっとぼっちって訳じゃなくて彼女いるもん!」 「知ってますよ」 「あ、誕生日おめでとう」 「ありがとうござ……」 何気なく差し出されたプレゼント。縞パンfeat.DT――この場合のDTは三高平一部で使用されている意味のDTではない様子だがまあそれはどうでもいい。 「穿くなり、嗅ぐなり、被るなり!」 「そういう趣味はないです」 「なんで! 俺たちは、ともだちじゃないか!」 心外だとでも言いたげに肩をばしばし叩く竜一に、ギロチンは頭を抑えた。 「趣味を暴露しろよ! 堂々と猥談して甘ったるい空気をピンク色にしてやるんだ!」 「竜一さん彼女いますよね」 「それとこれとは別! らぶらぶな空気なんかにしてやるか……、あ? ああああ」 アークの巡回の方、今日もお疲れ様です。 「はーい♪」 「はい? って、あ?」 引き摺られていく竜一から目を逸らし、振り向いた先にいたのはギロチン。鏡ではない。エーデルワイスである。 「逝くぞギロチン!」 「え、ちょっと大き、」 「あははっは、どうだ! おいしいか!」 押し込むフォンダンショコラ。 口を押さえて頷くギロチンに、尚も甘いスポンジを押し付ける。 「ならもっとくえー、うふふふっ!」 「……エーデルワイスさん」 「えー? そんな事ないですよー。ばきゅばきゅばきゅーん☆」 「そんなノリで悪戯仕掛けてくる人あんまいませんからね!」 「あ、そういえばお土産になりそうなものないかなぁ」 「今ぼくの口に押し込んだフォンダンショコラとか美味しいですよ!」 そんな光景を賑やかだなあ。と思いながら、チャノは少し離れた席に座る。 どうやら彼らがおいしそうに飲んでいるのは、ホットチョコレートというらしい。 「ホットチョコレート……を下さいますか」 慣れない調子の注文に、店員は微笑んで頷いて。 掌で包んだそれをふう、ふう、と冷まして口に運べば――チャノは背筋を伸ばして瞬いた。 なんだろう。これは。 「……おいしい」 脳内に広がるのは、チョコレートと同じ色の花畑。甘くて蕩ける飲み物は、一瞬でチャノを魅了した。とりあえずこの世界に来たのは大変良かったと上書きされる。 どこのお店でもこんなにおいしいのだろうか、このお店だからだろうか。ああ、それよりももう一杯同じものを頼んでも、この世界の作法には反しないのだろうか……。 大事なもののように少しずつ口に運びながら、思い描くのは『これから』の事。決して甘い時間だけではないのは、既に自身の世界で知ってはいるけれど。それでも、『大好き』を増やしていけたなら。 ● 授業が終わってからの待ち合わせ。 「そういえば、制服って初めてだっけ。……ちょっと恥ずかしいかも」 「ん、似合ってる。可愛らしいよ」 普段と違う格好にアリステアがはにかめば、涼も一つ笑って賛辞を送った。可愛らしいなんていう言葉は子供扱いに聞こえるだろうか。けれど本人としては純粋に褒め言葉のつもり。 「えっと。雪合戦の時の約束、覚えてくれてたんだね」 雪玉の行きかう公園で交わした約束。帰ったら一緒にココアでも飲もう。 イベントの中、流されてしまうささやかな約束だと思っていた。 ホットチョコレートを片手に思い返すのは真っ白な日。 「ありがとう。私を庇って雪まみれになっちゃって、ごめんなさいなの」 「可愛い女の子を雪まみれにするわけにも行かないだろ? 風邪とか引かなかったか?」 涼の気遣いに頷いて、ふと、アリステアは周囲へと目を走らせた。果たして自分たちはどう見えるのだろうか。兄妹か、それとも。 「そうだ。これをおにぃちゃんに。バレンタインだし」 「え?」 涼は不意打ちのそれに瞬いて、けれど嫌な気がするはずもない。瞳に少し不安の色を交えた少女に微笑んで、恭しく受け取った。 「ありがとう。……喜んで受け取らせて貰うよ」 「……うん!」 不安が消えて、安堵と喜びに変わる瞳を見ながら、涼は先のお返しを考え始める。 年齢差を含んだ二人。リルと凛子は、メニューを間に顔をつき合せていた。凛子とのバレンタインデート。その事実に少年らしく鼓動を高くしながら、リルはメニューを眺める。 「この限定のショコララテを頼んでみませんか?」 「あ、いいッスね。限定って何スかねぇ」 楽しみッス、と微笑んで……運ばれてきたのは、生クリームにハートのストロベリーパウダーがあしらわれたショコララテ。但し、刺されているストローは二つ。 予想以上に恋人向けのそれに内心二人とも動揺すれど――凛子は顔には出さず、リルの隣へと席を移しその顔を見る。 「……飲みましょうか?」 紅い唇に含まれるストローをドキドキして見詰めながら、リルもストローに唇をつけた。 「凛子さんは平気ッスか?」 「……恥ずかしくてどきどきしていますよ」 囁かれたのは耳元で。頬が僅かに朱に染まっているのを見られない為のその仕草。確かめてみます? と問う声に、視線で合図を。 「確かめてみるッス」 触れ合ったのは、温度。鳴る鼓動は、とても近い。 甘い香りは、チョコレートだけではないから……もっとずっと、浸っていたい。 テーブルを抜けて歩くひよりは、おひとりさま。今日のお仕事は妖精のお仕事。 木漏れ日溢れる風景のようにマイナスイオンを振り撒いて、今日と言う日の後押しを。 自分も幸せならきっと効果も倍増。だから。 「こんにちはなの、ギロチンさん。ここ、座ってもだいじょうぶ?」 「あ、ひよりさん。どうぞどうぞ」 笑って頷くギロチンの隣に座り、ひよりは差し出されたメニューとにらめっこ。 「ホットチョコレートと……むむ。ギロチンさんは、どっちがおいしいとおもう?」 どっちもおいしそうで選べない、というひよりに、ギロチンは少し考える。 「じゃ、両方頼んでぼくと半分こしましょうか?」 それなら両方食べられますよ。届いたお菓子を最初に半分に切って違いの皿に。 「いただきます。……あまあまおいしいの」 にこにこと顔を笑みで彩る少女に、ギロチンも笑みを返した。 癒し溢れる少女が『お仕事』に戻るのを見送るギロチンの背を叩いたのは、ルナ。 「ねっ、ギロチンちゃん、お姉ちゃんとお話しようよ!」 「はーい、喜んで」 にこっと微笑むルナと直接顔を合わせるのは初めてだとしても、自分を知るアークの人員となれば、拒む理由は何もない。 「バレンタインって言うのはおいしくて甘いものが貰える素敵な日なんだよね!」 「そうそう、正解」 「でしょー。お姉ちゃん、コレでも勉強家なんだよ、ギロチンちゃん」 胸を張るルナにギロチンは小さな拍手。相好を崩したルナだが、そこは年上の威厳。きゅっと表情を変えて、首を傾げた。 「そ、そんな事は置いといて! ギロチンちゃん、おいしいものとかオススメのものを教えて貰えるかな?」 「じゃ、定番のホットチョコレートとブラウニーは如何でしょう」 指差されたものをやっぱり自信満々に告げたルナは、届いた甘さに笑う。 「うん、おいしい。……ギロチンちゃんも食べる?」 「いえいえ、一杯食べて下さいね」 甘い匂いに誘われたフュリエはルナ一人ではない。 「初めまして。人がいっぱいだね」 「ええ、これから宜しくお願いしますね」 先程自分と同じフュリエと会話していた彼に近付いて話しかければ、リリィに返ったのは笑み。 火急の事態に世界の壁を越える事を望んだ彼女らだけれども、多くはまだこの世界を知らない。だからこそ、色んな事を知りたいと願う。 物珍しげに店内を眺めるリリィに差し出されたのは、ホットチョコレート。 「おいしいですか?」 「うん。とってもおいしいよ。ボクが口にした中だと、一番」 けれどこれはなんだろう。一体どうやって作るんだろう? ギロチンは店の片隅に置かれたレシピカードを手に問いに答える。 「ばれんたいんって、おいしい物を食べる日なんだね」 「あはは、間違いないです!」 そんな会話を横に、エフェメラもチョコレート初体験。苦くて甘くておいしいもの……教えて貰った食べ物は、凄く不思議で楽しみだ。 「いただきまーす♪」 カップに入れて運ばれてきた飲み物を、甘い香りに誘われて一口。思わず顔が綻んだ。深い甘さにボトムの好感度を上げながら、ガラスケースに並ぶショコラ色を眺めて幾つも頼んでみる。 色の違うトリュフの端、ダークブラウンを口に含んで……。 「うわっ、こっちのはすごく苦いよ~」 先程のホットチョコレートとは全く違う、舌に伝わる苦味にエフェメラは思わず目を閉じた。 少し警戒しながら選んだトリュフ、今度はナッツの香りと一緒に甘さが広がる。 「やっぱり甘いのが一番♪」 幸せそうに笑いながら、エフェメラは頬に手を当てた。 フュリエと違い、一般的な日本のバレンタインを知る焔としてはどうしても独り身の寂しさを思い知る。けれど甘いものは食べたいから――。 「お願いギロチン、ちょっとコッチ来て?」 「はいはい、お呼びですか」 呼べば彼は向かいに座る。これで見た目は二人である。寂しくない。けれども。 「今の時期はどこも可愛い外見のが多いですよねえ。本部近くのカフェとかも」 「うん、見た」 ギロチンに相槌を打ちながら、焔は内心唸っていた。来て貰ったのはいいが、男性と向かい合わせで二人で喋るという経験が少ない焔にとってはこの状況は緊張だ。何を喋ればいいのか。幸いは、この男が寡黙とは正反対だった事か。 コレから宜しく、と精一杯の言葉を告げれば、ギロチンは勿論、と笑って頷いた。 日が沈み始めて、店内も夕暮れに染まる。 「お外すっごく寒かったわね……!」 手を擦り合わせてマフラーを解きながら、ジャンは一緒に来た壱和を振り返った。 「温まりたいしホットチョコをお願いするわ。壱和ちゃんは何にする?」 「ええと、じゃあボクも同じものを」 来た事がない甘いカフェの空間に少し視線を彷徨わせて観察しながら、壱和もジャンとお揃いのホットチョコレートを注文。 「温まりますね。ほっとしました」 「追加でザッハトルテも頼んじゃいましょうか?」 カップを手に笑う壱和が可愛くて思わず頬に手を当てて微笑むジャンだが、携帯でその姿を保存しておこうか、と思った所に通り掛かるのは一人のフォーチュナ。 「あっ、ギロチンちゃんギロチンちゃん、記念撮影しない?」 「え、ぼくいていいんですか。何の記念で?」 「えーっと、バレンタイン記念、でしょうか?」 ハイチーズ、の言葉に合わせて写したのは、三つの笑顔。 笑って手を振ったギロチンの姿が消えてから、ジャンは指を立てる。 「うふふ、今日はプレゼントがあるのよ!」 彼が壱和の首に掛けたのは、きらきらと光る、解けない氷のチョコレート。 「すごく、嬉しいです。とっても綺麗……」 「ん、思った通り似合うわ……!」 お礼のお返しはホワイトデーでよいだろうか。問う壱和に、ジャンは笑って頷いた。 ● 日の光は闇に消え、店を照らすのは穏やかな間接照明。 窓から見える街はすっかり夜の姿へと色を直した。 「櫻霞様とバレンタインデート、素敵ですわ♪」 「毎日一緒に居るんだから、デートも何もない気もするがな?」 口ではデートも何も、とは言えど、可愛い恋人が願えば断る理由は櫻霞にはない。ましてや最近は情勢が情勢だ。こんな時間も悪くはあるまい。 「えっと……櫻霞様はお酒入りのが良いですか?」 「そうだな。まあ、この程度なら酔う事もないが、ブランデー入りで」 「櫻子はノンアルコールのホットチョコで~……あ、クリームは沢山入れて欲しいですにゃー」 カップを手に眺めるのは、無数の灯りに照らされた夜の街。 「今度、二人でどこか旅行に行きたいですわ」 「旅行……ね。時間ができたらそれもありだな」 あ、でも新婚旅行より先には。悩む櫻子に、まだ先の事だろうと櫻霞はその体を抱き上げる。 「これで我慢しておけ。今は……な?」 「にゃぅ……が、我慢しますですぅ……」 顔を赤らめて抱き付いた櫻子の頭を、櫻霞は優しく撫でた。 チョコレートは甘く苦く。 「……このチョコ、ちょっと苦い?」 「ん?」 眉を寄せた辜月が呟いた言葉に、シェリーは首を傾ぐ。洋酒の混じったチョコレートは、『お子様や苦手な方はご注意下さい』と簡素な注意書きが書かれる程度の香り付けにしか入っていないのだけれども……この雰囲気とその香りに、辜月は少々中てられてしまったらしい。 普段よりも甘えた口調の辜月に、シェリーは溜息一つ。 背筋を伸ばそうとして自らに倒れ込んできた辜月を抱きとめて、額を撫でる。 「ん~、シェリーさん、いつも以上にやさしいでふ……」 「今だけじゃ」 簡単に答えて肩を竦めながら、それでも眠そうに目を細める彼にシェリーは少し顔を近付けた。 触れた温度は、頬に一度。掠めるようなそれに瞬いた辜月に、シェリーはただ、気のせいだ、と笑った。 ホットチョコレートを口に運ぶエナーシアは、幻想纏いへ唇を寄せた。 「……こちらエナーシア、バレンタインデイへの潜入に成功した。大佐、指示を頼むのだわ」 誰だ大佐。とかそんな事を突っ込んではいけない。エナーシアのお仕事は何でも屋である。一般的な何でも屋である。 「オペレーション『へっちなのはいけないのです><。』?」 言葉に眉を寄せたエナーシアは、もう一度、と繰り返し切れそうになった通信を慌てて繋ぎ概要を得た。要するに、バレンタインという特別な日のテンション+アルコールでお子様には見せられない感じになるカップルを阻止せよ、という――いつもの警戒任務である。 そうだ。いつものお仕事だ。何でも屋のお仕事で来ているのだ。だから。 「私的に色恋沙汰に興味がある訳なんて、全然ないのですよ?」 それは誰に対する言い訳か。呟いて、エナーシアは横目で仲の良い恋人同士を窺い続ける。 反対側のカウンターに座るのは、エレオノーラとギロチン。 「おすすめのカクテルを作って貰える?」 「はい。では、定番のミルク割りで如何でしょう?」 「そうね。ギロチンちゃんも誕生日でしょ? 一杯くらいおごるわよ」 「やったー、ありがたく頂きます」 カウンターの中のバーテンダー、夜の部に現れた『彼』に、エレオノーラは笑う。 「流石に様になってるのね、快ちゃん」 「どーも。味の方も保証するから任せといてよ」 アマレットを少し零して、風味を足して。バレンタイン用に仕入れたチョコレートリキュールをメニューに組み込んで貰った快は、代わりにとバーテンダーを申し出た。 三高平の新田酒店の店主である快は、手馴れた様子でカクテルを作り、前へと。 「寒い冬の夜はホットミルクで割るのもいいんだけどね」 「他には何か?」 「そうだね、オレンジキュラソーで柑橘系の香りを加えてもいいかな」 自分で作ってみたかったらうちに来てよ、チョコレートリキュール一杯あるからさ。 そんな風に笑う快に、エレオノーラはもう沢山あるわ、と笑い返す。 「ギロチンちゃん、たくさんバレンタインチョコは貰ったんでしょう」 「そちらも一杯貰ったんじゃ?」 ギロチンの問いを、もてる男は大変だわね、と受け流し――エレオノーラは少し強めに作られたチョコレートカクテルを喉に流した。 「うむぅ、さすが『お口の恋人』!!」 店の前で妙な所に感心したベルカ。シックな店内、控えめな照明。実にアダルティ。大人っぽい。 相手? そんな物はいないが、予行演習だ。 「同志諸君、これは演習である! 繰り返す、これは演習であ……やめとこ」 昼に竜一を捕獲&フェードアウトさせたアーク巡回職員が来る前に思い直したベルカは一度咳払い。 今日は折角のバレンタイン。大人っぽく頼むのは、ブランデーが香るホットチョコレート。 「ふっ、自室で芋ジャージのまま飲むココアなどとは違うな……」 異国情緒を感じさせる立ち振る舞いのベルカだが、その辺の日常はよくいる干物OLと余り変わらなかった。 別に一人は悪い事ではないのだ。だが、今日はやはりそれが少し気になる。 カウンターに物憂げな様子で座りながら、御龍は何杯目かのグラスを空けた。 「まぁ先日の積荷は10tのチョコレートだったしぃ、あたしだって参加してもばちは当たらないよねぇ」 相手はいないけど。独り身だけど。思いながら、カクテルを煽る。独り身の利点はある。気楽だという事だ。 自分は一匹狼。狼は媚びないものだ。孤高で高貴な存在なのだ。 だから独り身でも何も問題はない。 「はぁ、酒がうまいやぁ」 けれど。何となく台詞が寂しそうなのは気のせいだろうか。 とは言え、思い切ってしまえば、結構何でもないものではある。 「こんばんは、お一人ですかー?」 「こんな日に一人でいるのに何か問題があるかね?」 薄っすらとした笑みで話しかけてきた男を、一海は一瞥。 「いえ、本部でつい最近見掛けた気がしまして」 「そうか。恋人も渡したいと思うような男もいないのでな、一人で楽しむ事にしたんだ」 男――ギロチンは、その言葉に首を傾げた。 「お邪魔でした?」 「いや、別に人と話したくないわけじゃない」 「じゃあちょっとぼくとお話して下さい」 ナンパじゃないですよ。笑うギロチンに、一海も小さく鼻を鳴らして笑う。 「ま、楽しく酒が飲めるなら、それでいいか」 宜しく、と触れ合わされたグラスが小さく音を立てた。 「何と言うか、……ここのバレンタインは、実に新鮮だな」 国が違えば慣習も違う。知ってはいたが、シビリズにとっては実に不思議な光景であった。 何にせよ花を贈る相手もチョコレートをくれる相手もいない。とは言え、この雰囲気は悪くない。 カクテルに添えられたシャンパンのトリュフ。苦味の混じるそれを噛み砕く。 「大体だな。恋人のいない事の何が悪いというのだ」 漏れる言葉。煽るカクテル。 「そんな関係を作っている暇があったら、血生臭い闘争に身を投じた方が私としては楽しくて楽しくて……」 続けられる言葉には、酒気が混じっていた。悲しくなんてない。 夜の時間は大人の時間。 「チョコレートリキュールも中々洒落てるでござるな」 イベントごとには家族や仲間と参加する事が多いけれど、たまには一人の時間も必要だ。 思案した虎鐵は、ラムを垂らしたホットチョコレートではなく、リキュールを使ったカクテルを選ぶ。酒に弱くはないし、そこまで醜態を見せたこともない。 酔う姿は、家族には見せられないけれど――今日くらいは、きっと、大丈夫。 「マスターすまないでござる……思いっきり強い奴を頼むでござる」 泥酔して帰る訳にはいかないにしても、ホロ酔いなら許されよう。 「そうだ、雷音に素敵なチョコをお土産に持って帰るでござる」 甘くて苦い酒を含みながら、結局の所彼の思考は家族に行き着くのだから。 輝く街は、これから自分が住む街。 「貴方、アークのフォーチュナよね?」 「はいはい。お口の恋人断頭台ギロチンですよ」 通り掛かった黒い男、本部で見掛けたアークの人員。黒髪を揺らし、霧音は自己紹介。 「霧音よ。これからアークで働くの。貴方にもお世話になる事もあるだろうし、これからよろしくね」 「あはは、ぼくがお世話になる方だと思いますけれど、はい、どうぞ宜しくお願いします。お一人で?」 「……ええ。勿論相手なんていないわよ。来たばかりだし、今までいた事もないし」 「そうですか?」 「そうよ。ましてや寂しいなんて思った事もないんだからね?」 念押しするように告げた霧音に、ギロチンはまた笑い――。 「じゃあぼくが寂しいので、ちょっとお付き合い頂けますか?」 「……仕方ないわね」 溜息を一つ吐いて、霧音は蕩ける甘いホットチョコレートを口に運んだ。 甘味も苦味も含んだショコラ色。 「甘ったるいねぇ。まるでこの世界みたい。そうは思わない? 嘘吐きちゃん」 グラスを片手に近付いた葬識は、眉を上げてそう問うた。 世界は甘いですか、と問い返すギロチンに、葬識は甘いよ、と肩を竦める。 「俺様ちゃんさ、甘いのって大嫌いなんだ」 でもね。逆接が繋ぐのは、嫌悪ではなく愛しさで。 「これが仲間っていう感情なのかな?」 殺したくない、生かしたい。願う世界は余りに甘く。それを愛おしいと思うのは、殺意と狂気以外の何かだろうか。 「俺様ちゃんは、こんな獄甘いセカイに存在してもいいのかな?」 問い掛けは独白。求めているのは、他者からの回答ではなく自分の解答。 「愛以外の感情ってどんなのがあるんだろうね」 それでも吐き出された言葉に、ギロチンは小さく笑う。例えこの世に、愛しかないとしても。 「愛って感情だって、一つだけじゃないと思いますよ」 ぼくは嘘吐きだから、定かじゃないですけど。 夜に彩られた街を歩き、猫はそっと鷹に寄り添った。 レイは夜の街や空気に慣れてはいない。いつもよりそわそわとした様子で周りを眺める彼女の手を、夜鷹は笑って握った。普段は大人びた少女だけれど、こんな時はまだまだ可愛い。 頼むのはフォンダンショコラとビターチョコのタルト。 とろりと零れた赤に目を細めたレイは、夜鷹のタルトを指差す。 「ね、夜鷹さん。それひとくちもらっていい? 替わりに私のあげるからさ」 「ん? これかい? いいよ」 「じゃ、はい。ほら、あーん」 互いの口に運ぶ甘さに、顔を綻ばせて。おいしい、と笑うレイの姿が夜鷹は可愛いと思う。 「ねね、せっかくだし何かもう一品頼んじゃおうか?」 「じゃあチョコケーキを頼もうか」 上目遣いで尋ねる彼女の頭を撫でて、頬に触れた。 少しばかり赤で彩られた頬を見なかった振りをして、手を取った夜鷹は甲に口付ける。 「夜鷹さん?」 「……甘い」 その言葉は、チョコレートにではなく、彼女へと。近付き切れない距離を、今は少しだけ近く。 夜は甘く、溶けていく――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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