深夜の、とある駐車スペースと小さなトイレ、自販機程度しかない小規模なパーキングエリア。 淋しく自販機とトイレが明かりを闇へと漏らすその場所に、一台の長距離トラックが停まる。 「うおお、漏れる、漏れる……メルトするぅう~」 と運転手がトラックから鬼気迫る顔で走り降り、トイレへ駆け込んだ。 しばらくして晴れ晴れとした表情で戻ってきた彼が、寒さをしのぐべく暖かい珈琲でも買おうと自販機へ向かった時、ガサリと自販機の奥が揺れた。 「うわっ? なんだ? 猫か??」 思わず眼を凝らす運転手が、次の瞬間見たものは 四つん這いの枯れ木のような老婆だった。 そして老婆は次の瞬間、運転手へ飛びかかる。 「ぎゃああー!!」 大きな悲鳴をあげるも、ここは深夜の高速道路、気づいてくれる者などいない。 老婆はそのまま運転手にのしかかり、ガリゴリと生きたまま運転手の肩肉を喰らった。 「ぎゃああーっぎゃああーーーっ!」 絶叫しながら、必死に運転手は老婆を引き剥がそうとするが、老婆は怪力で敵わない。 そして自販機のライトで照らされた足元を見て、さらに運転手は錯乱する。 同じような老婆がもう一体、四つん這いでこちらを見上げている……。 「ぎゃああああああああああーーーーーーっ!!」 老婆は無言で、絶叫し続ける運転手の首をへし折った。 静かになったパーキングエリアで、老婆達が屍肉を喰らう音だけが幽かに聞こえている。 場所は伏す――。 今日の『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)の顔色はいつも以上に悪い。 「E・アンデッドが出るようだ。洒落にならん事件になる前に、止めてくれ」 場所は深夜のパーキングエリア。 「アンデッドの正体は、そのパーキングエリアの身障者用トイレをねぐらにしていた姉妹のホームレス、ウメとタネだ。連日の寒さで人知れず凍死し、エリューション化した後は、獲物が来るまで裏の藪に身を潜めているようだな」 深夜の人気のないパーキングエリアで、しわくちゃで痩せ細った老婆が、四つん這いで跳ね飛び、襲ってくる……。 想像するだにホラーである。 「生前飢えていたからなのかどうなのかは分からんが、人肉を喰らおうと襲ってくる。ババアの癖に、ゴリラ並に怪力だし、かなり素早いから気をつけろ。あれのフェーズは2だろうな」 どちらも同じような容姿のアンデッドで、能力も差異はない。 「どうするかはお前達の自由だ。ついでに、飛び交うババアという異常な状況を見て、驚いたドライバーが事故を起こさないように努めてくれると喜ばしい」 闇璃にしては珍しく、願望で説明を締めくくった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月23日(土)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●深夜に白い息 黒の世界に、ぽつぽつとオレンジの光。オレンジの合間にひときわ明るい白。 白を放つ自販機と公衆トイレ、そして十台ほどの駐車場。それがこのパーキングエリアの全てだった。 「し、深夜だとさすがに怖いね……」 と呟くと同時に吐き出される息が寒い世界で白に代わる。 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)はキョロキョロと周囲を見回した。 まだ、今回のエリューションの被害にあうと予想されている下痢気味のドライバーは来ていないらしい。 「人が来ないうちに早く済ませないとだけど……とりあえず結界はっておくね」 弱いものだが、保険にはなる。深夜にコンビニなどの飲食できる施設もないパーキングエリアにやってくるのは、下半身が切羽詰まった状態のドライバーくらいだろうが……。 「こっ。怖くないわ!」 とは『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)、ことさら大きな声で否定するも顔がひきつっている。 「こ、怖くないって言ったら怖くないわ、本当よ?」 誰も聞いていないが、懸命に言い募る焔である。 「穏便に収めたいところですもの、戦場はトイレから離れたほうがいいわね。敵が潜んでいる藪まで行くしか無いわ」 カラーボールを投げあげてはキャッチする手遊びをしながら、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は言う。 エリューションが潜んでいるのは藪であることは、フォーチュナから聞いているし、千里眼で見通した『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)によって確認も済んでいる。 「そうだな、一般のドライバーに説得(物理)が行われる前に! 前に! 片をつけねえと」 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)が、不安げに見ているのは、警官のコスプレをしている『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)その人である。 彼は、一般人がやってきたら、手帳を見せ、職務質問と見せかけて、スタンガンで昏倒させて黙らせる。つまりは物理での説得を行う気満々である。 しかし、警官の格好をして外に出るのは軽犯罪法第一条第十五項違反(称号詐称)だ。 その上で、一般人をスタンガンで強襲。これは確実に罪に問われてもおかしくはない。 スタンガンは命を奪う道具ではないから、ドライバーはいつか目が覚める。『警官に襲われた』と通報する可能性は無いとはいえない。 『任せるとは言ったが……』 一般人対応は猛に任せようと思っていたものの、この方法は、一緒にいる自分たちの立場さえ危ういのではないだろうか、と疾風は不安に駆られた。 普段からリベリスタは、一般から見れば普通の人を殺さざるを得ない状況が多いものの、わざわざ自ら災厄を持ち込むのも得策とはいえない。 『これは、やめさせておいたほうがいいのではないか……』 「まだ、ドライバーは来てないです。それより、先にE・アンデッドを協力して、やっつけたほうがいいです」 猛の袖を引き、『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が、手荒すぎる一般人対処を止めた。 「深夜のハイウェイにジャパニーズモンスター……。バット!! ニンジャにかかれば、妖怪だろうとエイリアンだろうとチャメシゴトよ!」 『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン、駐車場の真ん中、ライトの下でマッチョなポーズで自信の程を示す。 ちょっと膝が震えているのはご愛嬌。 「レッツゴウ!」 ジョニーは空元気のまま藪に飛び込み、 「マイガーーーッ!」 絶叫した。 しわしわのご老人が、四つん這いで恨めしそうにジョニーを見上げているではないか。 「べ、別に、別に怖がってなどないでゴザル! 拙者、ご老人を殴るのは気が引けるが、早く天に召されるよう尽力致すでゴザルよ」 ジョニーは、必死に自分を鼓舞するかのように言い、ファイティングポーズをとった。ジョニーの筋肉が柔軟さを保ちつつ、硬質化していく。 「ハイウェイの平和の為、拙者は今からお主を攻撃致す。すまぬでゴザル」 ●藪の中の二婆 ジョニーの悲鳴に反応し、リベリスタ全員が藪の中に走り集まった。 「デター!?」 焔が目をむく。暗視能力で、微に入り細に入りババアの姿が見えるのだ。 四つん這いのしわくちゃババア、想像以上にめっちゃ怖い。 「そんな、お亡くなりになったおばあさんなのですよ。哀悼の意をもって……って」 ニニギアは硬直した。 彼女も暗視のお陰で、おぞましいババアが詳しく見える。 しかも、ババアは蜘蛛のような動きで近寄ってくる。 「見、見た目もだけど、近寄り方も怖い!」 さて、姉たるウメからやっつけていくわけだが、どっちがウメやらイマイチ分からない。老人とは得てして、似通ってくるものである。 しかたがないので、適当な方へニニギアはカラーボールを投げつけた。蛍光ピンクがババアの白髪から顔へと滴り、妙な血糊に見える。 「ま、ますます怖く……。で、でも、頑張って戦闘開始だよ!」 アーリィが気を取り直し、糸を蛍光ピンクババアへ放った。 グガァッと吠えて、ウメと思しきババアが飛び上がる。続いてタネと思しきババアも対角線上を飛ぶ。 これぞフライングババア×2!! 「夜空を飛び交うババアっ!! おぞましいというか、コミカルというか、いややっぱ恐ろしい! が……」 唖然と見上げていた涼だが、落下してくるウメの白い頭を目掛けて、闇とは異質な黒いオーラを放つ。 落下するウメには回避方法がない。もろに食らって、落下軌道が曲げられる。 「何にせよぶっ飛ばすしか無いわな」 ウメが落ちた先はジョニーである。覆いかぶさって噛み付いてくる。 思わず痛みと、状況のおぞましさにジョニーは再び絶叫した。 外人らしくオーバーリアクションなのである。 タネの落下先は焔だった。覆いかぶさろうとする老婆を、 「きゃーっ!!」 焔は反射的に炎の拳でぶん殴る。 「……な、慣れ親しんだ技はどんな時も裏切らないっ!」 ぐっと握った拳を突き出し、焔は叫ぶ。そして何度も、怖くないしと呟いた。 さて、ぶん殴られたタネは、嘘みたいな斥力が作用し、対角線上へと飛んでいく。 ジャキン。 己の頭上が、タネの落下地点であることを確認し、アークフォンを握った右手の甲を左肩につけ、疾風は勇ましく叫んだ。 「安息の眠りについてくれ、変身ッ!」 冷静の青を基調に、正義の白、確固たる意志の金をあしらった新型強化外骨格で全身を覆い、ヒーロー然と格好を固めた疾風は、フリップアップしていたゴーグルを押し下げ、瞳を覆う。 「目撃者が出る前に勝負を決めるぞ!」 疾風迅雷の体術で、落ちてきたタネに攻撃する疾風。 しかし敵もさるもの、怒涛の攻勢をひょいひょいと、ババアとは思えぬ身のこなしで回避。 「年寄りを殴るってのは良い絵面じゃねえが……。だが四の五の言ってたら、こっちがやられちまう。さすがにお年寄りは大切に、とは言えねえ状況よなぁ」 猛はため息をつく。 「悪いな、婆ちゃん。──こうなっちまった以上、俺に出来るのは止めてやる事だけだ」 炎をまとう拳を猛はウメにぶっつける。 軽い老婆の生ける死体は再び天上へと舞い上がる。そのまま昇天してくれる……とまではいかず、まだ歯をむき出しにした戦意高揚状態で落ちてきた。 「親方、空からご老人が! ……言っている場合ではないですね」 五月が足を振り上げ、かまいたちでウメを迎撃するもやはり回避された。 すたんっと手足全てで着地したウメは五月に跳びかかり、肩を食いちぎる。 ブチブチと嫌な音と共に肉ごと持っていかれ、骨すら見える……。 姉に続くように妹も、『食える』と判断したか倒れた五月の腹を食い破る。腹圧に負けて、臓物が飛び出す。 老婆とはいえ、おぞましい顎の力だ。一同は、少年の絶叫から目を背けた。 場の状況に戦慄を覚えつつも、伊達にホーリーメイガスとして場数は踏んでいないニニギアだ。冷静に五月へと天使の息吹を贈る。 彼女だけに任せておけず、アーリィも天使の歌を歌った。 ●哀れな屍 「ちっ、人を喰うなんて……止めてやらねえと」 猛は、苦々しげに吐き捨てる。 彼にとって老人は大事な存在だ。荒廃していた彼を救ってくれた老夫婦……エリューション事件で命を落としてしまった彼らだが、猛の心の支えは、確かに彼らとの温かい思い出なのだ。 「長い間生きてて、色んな事もあっただろう。最後は人喰いの化け物なんて。させたくねえ……!」 ぐうっと爪が刺さるほど手を握りしめ、猛は目を伏せた。 「真冬で寒さを凌げず、年齢も年齢なら仕方ないとは言え嫌な話よね。きっとお腹も空いたまま亡くなってしまって……命を失っても、癒えない飢えだなんて。今度こそ飢えぬ眠りにつかせてあげないと!」 恐怖心よりも義憤が勝った焔に、もう震えはない。 「人をいつまでももぐもぐさせるわけにはいかないわ。周りの人のために、そして彼女たちのためにも」 ニニギアも頷いた。疾風も同意を示す。 「そうだ。元がお年寄りと思うと気の毒だが、人を襲うのでは捨て置く訳にもいかない」 「オオゥ……」 ジョニーは、改めて哀れなるホームレスだったエリューションに、同情を寄せて涙ぐむ。 だが、メソメソしても仕方がない。涙一粒流して、ジョニーは足裏を天に掲げた。ぶんっと振り下ろせば、かまいたちがウメを襲う。よけきれずにババアの片腕が飛ぶ。 ババアは片腕だけで五月をぶん殴り、五月は完全に沈む。 アーリィがもう片腕を生糸で貫く。それでもウメは足の力だけで飛翔して、続く涼のオーラをかわした。 「ちっ、ちょこまかと!」 歯噛みする涼の前に、猛が飛び出す。 「早かろうが、なんだろうがそんなのは関係ねぇ。やるなら、当てる、それだけだろう、なあっ!?」 獰猛な笑みを浮かべながら、猛が燃えるパンチをくりだす。彼の老婆を思う心が通じたか、メキリと何か折れるような音と共に老婆の顔面に炎拳がめり込む。 枯れ木に火を放てば、乾いているから大いに燃える。 枯れ木のようなウメの体も、同じ事。 まるで火柱の如く燃え行き、炭化していった。 「……お疲れ様だ、もう、休んで良いんだぜ」 猛はつらそうに呟いた。 次はタネだ。焔以外全員がウメへと攻撃をかけていたため、タネはさほど負傷していない。 タネは、その痩せぎすの体のどこにそんな力があるのか分からぬ怪力で、ニニギアを狙おうとし、行く手を遮ったジョニーに標的を移して、万力のような力で首を絞めた。 「うぐぐぅ……!!」 圧倒されるジョニー。首の骨が折れないのは、普段鍛えている筋肉の鎧のおかげである。 それでもなんとかタネの腹部に手のひらを当て、ジョニーはおびただしい気を送り込む。 ニニギアがこれ以上仲間を倒れさせまいと、ジョニーに癒しの微風をそよがせた。アーリィは気の糸をタネへ伸ばすものの、外してしまう。 ドウッと土砕掌の勢いで剥がれるアンデッドの頭部を、涼が今度こそ黒のオーラで包んだ。 悶えるエリューションを、疾風の虚空が襲う。 確かに蹴撃は貫通し、胸の中心に風穴を開けたというのにまだ動く生ける死体。 死体故に、動く元は心の臓ではないようだ。 「あんたも止まってくれよ!」 猛の拳は、今度は当たらなかった。 消耗したタネは、ジョニーの腹を食らおうとするが、ジョニーは間一髪その凶牙を避ける。 ニニギアはジョニーへ風を送ることを継続、アーリィは確実にフライングババアを射抜くために集中することに専念する。 「このダメージは伊達じゃないぞ……!」 涼はタネの前に立ちはだかり、魔力のダイスを投げつけた。 「火葬っつーには派手だけれども、……ま、爆殺してやるさ……!」 老婆の周囲を湯風するダイスは、突如破裂。 四方八方の爆発をよけきれず、ババアはついにバラバラに成った。 「……っし。ギリギリ間に合ったってとこだな……」 涼はふとパーキングエリアを振り向き、胸を撫で下ろす。 法定速度ギリギリで疾走してくるトラックが今まさに、パーキングエリアに入ろうとしているところだった。 ●おばあさん、安らかに 哀悼の意を込めて、ニニギアはお菓子を供えた。 片方は炭化、もう片方はバラバラになってしまって、綺麗な遺体とは言えないが、それでも出来る限りの供養はしたいと彼女は思うのだ。 「……どうか安らかに」 幼い頃修道院にいたニニギアは、己の信じる死後の世界の安寧を、彼女たちが受けられるよう祈る。 迅速に帰らなければならないとは分かっているものの、すぐに踵を返せない猛は、ニニギアの後ろで短く黙祷した。 「連絡して、お婆ちゃん達の遺体を回収しなくちゃね。このまま放っては置けないもの」 と、アークへ通信を始める焔は、エリューションの最後が両方共、火で決着がついたことにホッとしていた。 『もうこれで、寒くないでしょ。安らかにね』 疾風は、倒れた五月を背負い、帰還準備を整えた。 「よし、撤収だ」 と言った彼に、ジョニーが話しかける。 「ちょっとだけ待ってほしいでゴザル! 無事に天国へ召されんことを祈りたい。拙者、ちょっとしたことしか出来ぬが、温かいお茶でも備えたいでゴザルよ」 哀れな老婆を悼みたいという仲間をないがしろに出来るほど、疾風は冷血ではない。 「早くな」 とだけ答えた。 自販機へ駆け寄るジョニーは、ちょうど無事トイレを済ませて、晴れ晴れとコーヒーを買っているドライバーと鉢合わせした。 「あれ、外人さんじゃーん。どったの。あれ? なんか奥のほう結構人いるけど、外人さんの友達? こんなとこで何してんの?」 漏れそうだったところを間一髪間に合ったドライバーは、気分が高揚しているらしい。笑顔でジョニーに、矢継ぎ早の質問をしてきた。 ジョニーは、ちょっとだけうろたえたものの、冷静にホットのお茶を二本買ってから、爽やかに微笑んだ。 「拙者たち、ジャパニーズモンスター、YOKAIを見に来たでゴザルよ! でも、何も出なかったでゴザル!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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