●液状生命体……。 ドロリ、と蛇口から水が滴るようにして、それは落ちてきた。 屋内プールである。高い天井と広いプール。ウォータースライダーや流れるプール、波を発生させる装置にプールの端に植えられた椰子の木。かなり大きな施設であり、夏の間は連日数多くの客が押し寄せる場所でもある。 とはいえ、施設の整備点検などの都合で冬場は休園となっているので、今はほとんど人はいない。 そんな中に、姿を現したのは1人の少女だった。飛び込み台から落ちて来た奇妙な液体は、着水と同時に青い肌をした少女へと姿を変える。水のような質感の肌と長い髪。背中や腕にはヒレや水かきのようなものも付いている。 昔の映画に出て来た半魚人を、女性にして更に数倍、可愛らしくした感じの外見。彼女はどう見ても、この世界の人間ではなかった。 「水……気持ちいい」 ゴポゴポと泡をたてながら、彼女は水の底へと沈んでいく。目を閉じ、くつろいだ表情を浮かべていた。 薄い布を、水着のように纏った細い肢体が、少しずつ水に溶けて行く。体のほとんどが水のような液体で出来ているためだろう。 どうやらそれが、彼女の持つ特性らしい。水の中でしか人型を保てず、水から出ると、液状の姿になってしまうらしい。 「ここを拠点に……。もっと私達に適した場所を探しましょう」 彼女はそう呟いた。同時に、彼女の周囲の水がうねり、大きな蛇へと姿を変える。 するすると、青い大蛇は水中を進み四方八方へと散っていった。中には水から上がってプールサイドを這っていくものもいる。蛇の数は全部で5体。本体である少女の命で動いているようだ。 「それまで、少し眠るわ」 なんて、呟いて。 青い少女は、水の流れに身を任せプールの底をゆったりと移動していくのだった……。 ●彼女達のやり方 「彼女の名前は、アザ―バイド(リキッタ)。ある程度成長すると、故郷を離れて気に入った場所へ移動、そこで種族を増やす性質をもった種族みたい」 別世界でもお構いなしのようね、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を吐いた。モニターに映るのは、巨大な屋内プールの様子。ガラス貼りの天井からは、太陽の光が差し込んでいる。 「リキッタと、その分身である(水蛇)は、このプールを中心に活動しようとしているみたい。現在、リキッタはプールの何処かに沈んでいるわ。水蛇はプールのあちこちに散らばって色々と調べている様子」 とはいえ、いつまでもプール内にいるとは限らない。 特に水蛇は、リキッタの命でこの世界を探っている筈だ。プールを調べ終えたら、すぐにでも外へ出て行こうとするだろう。 「火炎系の攻撃と、物理攻撃が効きにくいことが特徴。氷系の攻撃を主に使用してくるから注意してね」 水蛇は恐らく、ずっと蛇の体を保ったままであろう。だが、リキッタは違う。自在に液状体と、人間体を切り替えることができる。 「リキッタを探し出し殲滅、或いは討伐すること。それから水蛇をプールの外に出さないことが条件。それでは、気を付けて行ってきて」 モニターに映るプールの水は、静かに揺れている。 「水、つめたそう……」 そう言うイヴの呟きは、誰の耳にも届かないほど、小さなものだった……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月23日(土)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●冷たい水にたゆたう少女 屋内プールと呼ばれる施設がある。とはいえ、使い続ける為には徹底した修繕、掃除、管理が必要となる。特に泳ぐもののいない冬場は、温水設備のないプールなどただの溜め池と大差ないではないか。 そんな、凍えそうなほど冷たい水の中で気持ちよさそうにたゆたう少女がいた。透明な水のような肌と、流れる青い髪、水底で目を閉じ気持ちよさそうな表情を浮かべている彼女は、この世界の住人ではない。アザ―バイドと呼ばれる存在である。 彼女の名は、リキッタと言う。 流れに身を任せ、施設のどこにいるのか分からない少女。そして、それを討伐する為にやってきた8人の男女。 これは、誰もいない屋内プールで起きた、ある冬の日の出来事だ……。 ●リキッタと水蛇、それからリベリスタ 「アザ―バイドとオレ達だけを陣地内に入れる、ってわけだ」 両手の平を合わせ合掌。目を閉じて『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)はそう言った。瞬間、自分達の周りが外界と切り離されるような奇妙な感覚を彼らは感じる。陣地作成、というスキルによるものだ。傍らの槍を手にとって、フツは溜め息を零す。 場所は売店エリア。この屋内プールのほぼ中央に位置するこの場所には、ほぼ全てのプールから直接来ることができる。 「排水や流水の制御は、できないのかな?」 売店エリアを見渡して『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)がそう呟いた。銃を手にしたまま重装備に包まれた頭を掻く。 その時……。 するり、と傍を流れていた水路から体調2メートルはあろうかと言う巨大な水の蛇が姿を現した。侵入者の気配を察して、様子を見に来たのだろうか。リキッタの放った、偵察隊とも呼ぶべき生き物である。 「生態系を乱す外来種は好きではないな。ようこそ檻の中へ。そして、さようならだな」 転がっていたバケツを蹴飛ばし『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が前へ。式符を取り出し、放り投げる。瞬間、式符は一羽の鴉へ姿を変える。 風を切り、まっすぐ水蛇へと襲い掛かる鴉。水蛇の体を構成する水が、うねうねと蠢く。あっという間に、水蛇の体が巨大な蛇の頭部に変わった。鋭い牙、巨大な顎、飛んでくる鴉を一口で飲み込んだ。 「っと。冬のプールってのもなかなかオツなもんだねぇ」 駆け出し、蛇の背後に回り込んだのは『道化師』斎藤・和人(BNE004070)だった。銃を構え、シールドを掲げ、水蛇の退路を塞ぐ。跳び込んできた水蛇をラージシールドで跳ね返す。勢いに押され、和人の体がプールへと落ちる。 それを引きとめたのは、『闇夜の老魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)だった。白い顎鬚を撫でつけながら、もう片方の手で和人の手を掴んでいる。 「ふむ……。プールの中にもう1匹、いるみたいですね」 どうやら水上に上がって来た水蛇は、単なる様子見、斥候のようなものだったらしい。その様子を観察しているもう1匹が傍に潜んでいるようだ。もっとも水で出来た蛇の姿をレオポルトが捉えたのは僅か一瞬。すでに何処にいるのか、見失っている。もしかしたら、リキッタの元へ侵入者の情報を伝えに帰ったのかもしれない。 「逃げ場を無くすことにするわ」 握った拳をプールの水に叩きつける榊・純鈴(BNE004272)。プールの水が、瞬時に凍りつく。陸に取り残された水蛇が、滑るように移動し『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)の体に巻きついた。侠治の体が、ギシ、と軋んだ音をたてる。 「っぐ……。今だ!」 水蛇に巻きつかれたままそう叫ぶ侠治。よろけながらも、プールから離れる。 「目標を視認。交戦する」 そう呟き、タンと地面を蹴って跳んだのはエレナ・エドゥアルドヴナ・トラヴニコフ(BNE004310)だった。ナイフを振りあげ、侠治の体に巻き付いた水蛇へ叩きつけるようにそれを振り下ろす。 エレナの攻撃に気付き、逃げようとした水蛇の尾を侠治が掴んだ。回避不能の状態で、頭部にナイフを受け、水蛇はただの水へと戻る。ばしゃり、とバケツをぶちまけたような水音。後に残ったのは、小さな水溜りだけだった。 水蛇の討伐を確認し、8人は2手に別れる。 それぞれ別のエリアを捜索するためだ。水底で眠るリキッタを探し、殲滅するために……。 所変わって、競技プールエリア。飛び込み台に、レーンの引かれた25メートルプール。ウォーキング用の浅いプールが並んでいる。 「いねぇな」 水中を眺めながらフツは言う。彼の後ろには、レオポルト、エレナ、純鈴の3人も並んでいる。 「拠点を構え、生存の為の種を増やす……ですか」 先ほど戦った水蛇と、その主であるリキッタを想いレオポルトはそう呟いた。 「砂漠で金を探す、という例えを昔聞いたが、それと似たようなものだな。水と同化する敵とは」 探しにくい、とエレナは言う。視線を純鈴に移した。マスターファイブで強化された五感を持つ純鈴が、今回の捜索の要となるだろう。もっとも、当の純鈴はいかいにもつめたそうなプールの水を見て、小さく悲鳴をあげているわけだが……。 「ちょ、あれ見るからに冷たいよ、絶対寒いよ、落ちたくないよっ」 あれ、と指さしたのはプールの縁に張った氷である。先ほど、純鈴自身が魔氷拳で凍らせたものだ。売店エリアと競技プールのエリアは、一部隣り合っている。 「……っ!?」 しかし。 純鈴の表情が、一瞬で引き締まった。プールの縁を蹴って、背後に跳び退る。そんな彼女を追うように、プールから飛び出して来た水蛇が1匹。体のほとんどを頭部にかえて、牙を剥く。 「わわっ」 身軽な動作だ。バックステップ。空中で軽く一転して着地する。水蛇の牙を受け流すものの、回避しきれずに肩が裂ける。飛び散る血液。床を汚す。 「逃がさん」 プールを背に立ちはだかるエレナ。陸に上がった水蛇の退路を断つつもりだ。ナイフとライフルを両手に構え、水蛇へと狙いを定める。 「後ろだ!」 そう叫んだのは、緋色の槍を構えたフツだ。陸に上がった水蛇目がけ槍を突き出しながら、フツの視線はエレナの背後へ。けれど、エレナがそれに気付いた時にはすでに手遅れ。水中から飛び出した水蛇に巻きつかれ、エレナはプールへと引き摺りこまれる。 エレナが落下した際、彼女の所持していた洗剤がぶちまけられたらしい。水が僅かに濁り、泡が出る。洗剤の泡か、それともエレナの吐き出した空気だろうか。 そんなエレナを助けに飛び出したのは、レオポルトである。杖を持ち上げ、水中へと向ける。正確に水蛇へ狙いを定め小さくつぶやく。 「我紡ぎしは秘匿の粋、エーテルの魔弾…喰らえい、Zauberkugel!!」 杖の先から放たれる魔弾。僅かに弧を描きながら、水中へ。水が蒸発し、周囲に蒸気がばら撒かれる。水蛇から解放されたのか、エレナが水面へ顔を出した。 「ぶっは……。このっ!」 水蛇へ向けて弾丸を放つエレナ。弾丸は寸分違わず水蛇を撃ち抜き、水面へと弾きだす。 「水中戦はなるたけ避けろよ!」 純鈴と共に、陸に上がった水蛇をブロック、槍での攻撃を加えるフツがエレナへと注意を促す。水蛇が大きく口を開け、自ら槍の先へと喰らい付いた。 ほぼ同時刻。競技用プールとは真逆に位置するウォータースライダーエリア。稼働していないウォータースライダーには、チロチロと僅かに水が流れている。そんなウォータースライダーを滑り降りてくるのは、ユーヌが式符で作りだした影人だった。滑り降りて、そのまま水中へと突っ込んで、盛大に水飛沫を巻き上げる。 「いないか……。ゴキブリ探してる気分だな」 やれやれと首を振って、その場を後にする4人。ユーヌ、あばた、侠治、和人である。次に向かったのは流れるプールだ。利用者がいないので、機能を停止しているらしく、流れていない。中央にある島を囲むようにプールが存在している。その中へ、ユーヌは影人を突き落した。 「リキッタは沈んでいるんだろう? 何か近づけば、動きがありそうだが」 どうだろうな? なんて言って、プールを漂う影人を眺める。 「……。流れ作るか? 電子の妖精で」 と、あばたが指さしたのはプールの制御室らしき場所だ。有事の際には、すぐに動作を停止させることができるように流れるプールのすぐ傍にそれは存在していた。 一応、網を用意してきているのだが、プールが広くあまり意味はなさそうなので、足元に降ろしたままだ。 「いないのか?」 と、ユーヌが呟いた。 「いや……。そうでもないみたいよ?」 改造銃を取り出す和人。銃口の向いた先には、水中の影人。いつの間にか、影人は水の底へと沈んでいた。僅かに見えるのは、水蛇の姿か。影人は式符に戻って消える。それと同時に、和人が引き金を引いた。放たれる弾丸。水飛沫を上げて、弾丸は水中へ。軽々とそれを避ける水蛇。そのまま、プールの壁面を這いあがりユーヌの元へ。 「っぐ」 蛇に巻きつかれたユーヌは、その場に倒れ込んだ。ユーヌの首筋に牙を突き立てようとする水蛇。しかし、次の瞬間水蛇の体は、横から割り込んできた一羽の鴉に貫かれ、宙を舞った。蛇が離れると同時に、ユーヌは瞬時に立ちあがる。彼女が式符を放ると同時に、それは鴉に変化する。宙を舞う蛇を、更に一羽の鴉が襲う。蛇は牙を剥き、鴉を一口に飲み込んだ。 だが……。 「露払いってやつです」 銃声が一発。空中を舞う蛇を、弾丸が貫く。あばたの放った弾丸だ。正確な射撃は、正確に蛇の頭部を貫いた。水蛇の体が爆散し、辺りに水が降り注ぐ。 恐らく、これで水蛇は討伐成功であろう。ほっと一息吐いた、次の瞬間……。 「あぶない!」 ダララとマシンガンのような轟音を響かせ4人を襲う水と氷の嵐。仲間を突き飛ばし、それを一身に受けたのは侠治だった。侠治の体を氷が切り裂き、水が打ちのめす。飛び散った血液も瞬時に凍結し、赤い雹となって地面に散った。 ギシり、と軋んだ音をたて侠治の体が凍りつく。 「任せろ……。私は君達が全力で戦えるよう計らうことが仕事さ」 侠治の全身が氷に包まれる。その直前、彼の懐から飛び出して一羽の鴉が、水中へ飛び込んだ。鴉に追い立てられるように水中から姿を現したのは水の体を持つ少女、リキッタだ。眠たそうに目を擦り、水面に立つ。 「……。邪魔されちゃった。なにしに来たわけ?」 面倒だ、と呟いて。 リキッタは両手を前に突き出した。瞬間、辺りの気温が急激に低下。水は氷に。更には空気中の水分さえも凍結し、氷柱となって降り注ぐ。 「いやぁ。一緒に踊ってもらおうかね、リキッタちゃんに」 盾で氷柱を防ぎながら、和人はそんなことを呟いたのだった……。 「ぐおっ……。袈裟が濡れて動きにくい」 槍を這い上ってきた水蛇が、フツの体に巻き付いた。ギリリ、と締め付ける力を増していく水蛇。フツの骨が軋んだ音をたてる。力が入らなくなって、次第に体が麻痺していく。フツの手から、朱塗りの槍が零れ落ちた。 カラン、と地面に転がる槍。続いて、身体が麻痺したフツも地面に倒れる。 「今、治す」 プールから上がったエレナが、水を滴らせながらフツへと駆け寄る。そんなエレナを追って、水中から顔を出す水蛇が1匹。水蛇は、背後からエレナに跳びかかる。 「おっと」 エレナを庇うように両手を広げ、水蛇の進路を阻んだのはレオポルトだった。杖を手に、細い目で水蛇を睨みつける。どうやら一気に決めるつもりのようだ。掲げた杖の先に、4色の光が集まっていく。 「治療、頼むよっ」 エレナを護衛するように並走するのは純鈴だ。握った拳を、水蛇へ叩きつける。水蛇は僅かに身をうねらせ、それを回避。水のような流動的な動きは、なかなか捉えにくいようだ。 純鈴は、水蛇を水辺へ逃がさないように進路を阻む。 その隙に、フツの元へ辿り着いたエレナ。武器を降ろし、治療を施す。淡い光がフツを包み込み、その身を苛むバッドステータスを治す。起き上がり、槍を拾い上げるフツ。体の動きに異常がないことを確認して、前へ出た。 バラバラと、袈裟の隙間から式符が零れる。零れた式符は、無数の鴉に姿を変えて水蛇へ纏わりつく。更に追加とばかりに、純鈴の放った真空の刃。床を削り、水蛇に迫る。 鴉の群と真空の刃が消えた時、そこにはすでに水蛇の姿はなかった。 仲間がやられたのを見て、残った1匹がくるりとその場で方向転換。プールへと逃げ帰る。背を向けた水蛇にレオポルトは杖を付き付けた。杖の先を旋回する4色の光が、水蛇へと放たれる。 「我紡ぎしは秘匿の粋、エーテルの四重奏…喰らえい、Walkürenritt!!」 光弾が4つ、空気を切り裂き水蛇を捉える。一瞬で水蛇は蒸発し、その場から消え去った。水蛇が消えた跡には、削れた床と焦げ跡が残るだけだった。 「帰れないみたいだから、仕方ないのよね。この子たちの為にも、引けないの」 凍りつき、床に倒れた侠治を眺めるリキッタと、その肩に乗った水蛇が1匹。 「ちょっと住みにくいけど、そのうち引っ越すから……」 水蛇の頭を撫で、片手を上げる。リキッタの手の平に、野球ボール大の水球が生まれた。次の瞬間、水球は凄まじい速度で射出された。弾丸のような速度だ。それを受け止めたのは盾を掲げた和人だった。 「うおっ!?」 勢いを殺しきれず地面を転がる和人。追い打ちをかけるように、更に数発、連続して放たれる水弾。地面を何度も転がって、それを避ける。完全には避けきれず、和人の肩が水弾に撃ち抜かれた。 「ぐ、お」 撃ち抜かれた肩が即座に凍結。和人が呻き声を上げる。 「あぁ……。薬品の臭いがする水は綺麗じゃないわね」 「残念。風土が合わないなら淘汰されていろ」 水弾を回避し、リキッタに迫るユーヌ。冷気を纏った拳を突き出す。拳がリキッタの頬に触れる直前、肩に乗っていた水蛇が間に割り込み阻む。瞬時に凍りつく水蛇。最後の力を振り絞って、ユーヌの胴に喰らい付いた。 「どのくらい壊していいかは知らないけど、ワイの武器は銃なので、弾痕残るで?」 銃声が1発。凍りついた水蛇を粉々に砕く。あばたによる正確な射撃だ。慌ててリキッタが、水中に飛び込む。だが、しかし間に合わない。咄嗟にユーヌが、水面に拳を叩きつけたのだ。水面が凍り、リキッタの体は水中へ潜れない。下半身を凍りつけにされたリキッタが僅かに呻く。 「ちょっと……。なんでそんなに邪魔するかなぁ?」 リキッタの周囲に白い靄が漂う。それは、急激に冷やされた空気が凍っているのだ。凍りつく空気とは反対に、足元の水は溶けていく。 周囲の水分のほとんどは、リキッタの支配下にあるらしい……。 ●水から生まれて、水へと還る 「うわ、っとと!?」 銃弾と水弾が空中で衝突。押し負けたのは銃弾だった。僅かに軌道の逸れた弾丸が、あばたの頬を掠めて行った。あばたの背後で、侠治がゆっくり起き上がる。彼の体から、パラパラと氷の破片が散った。 「やはり相容れないものなのだな」 仕方が無い、と首を振る侠治。侠治の放つ式符の鴉が、リキッタを襲う。水弾で鴉を撃ち抜き、消し去るリキッタ。だが、その直後、彼女の胴をあばたの放った弾丸が貫く。鴉に紛れるように撃った1発だ。リキッタの体が揺らぐ。 ただでさえ4対1で部が悪いのだ。リキッタは、周囲の水分を氷や水に変えて、旋回させる。先ほど侠治を凍結状態に追い込んだ攻撃だ。 「ちっ……」 小さな舌打ちを零す和人。彼の握った銃が、眩い光に包まれる。リーガルブレード。聖なる力を宿した一撃だ。氷や水に打ちのめされながらも、リキッタへと接近する。 「わりぃね」 これも仕事なんだ、とそう呟いて輝く弾丸をリキッタの胸へ。水が弾け、リキッタの体が崩れ始める。更に追撃、と銃を持ち上げた和人だが、瞬間、彼の体が凍りついた。周囲の温度が一気に下がって、範囲内のものを急速に冷凍していっているのだ。 和人の動きがとまったのを確認し、リキッタは逃げる。人型では的になるだけだと判断したのだろう。リキッタが地面に降り立つ。彼女の体が解け、スライム状に変化した。そのまま排水溝へと逃げこむリキッタ。 だが……。 「綺麗な場所で死ねて幸せだな?」 リキッタの前に、ユーヌが立ちはだかる。冷気を纏わせた拳を握り、リキッタへと踏み込むユーヌ。リキッタは瞬時に人型を取ると、掲げた手から水弾を放った。 リキッタの水弾が、ユーヌの腹を撃ち抜いた。血が飛び散って、地面を汚す。口の端から血を垂らし、ユーヌはその場に膝を付いた。 「………。弱肉強食なのは、どこも一緒ね」 血だまりの中に膝を付くユーヌを見降ろし、リキッタはそう呟いた。彼女の体は凍りつき、次の瞬間砕けて散った。砕け散る直前、リキッタは「残念」と呟く。 そんな彼女の声は、誰の耳にも届かなかった……。 「終わったか」 合掌の形に手を合わせ、フツが言う。リキッタが消えてすぐに、フツ、純鈴、、レオポルト、エレナの4人が合流したのだ。 「水に抱かれて眠る。気持ちよさそうで、ちょっと羨ましいよね」 と、純鈴が呟く。彼女の隣では、レオポルトが凍りついたリキッタの破片を、そっと拾い集めていた。 「これもリベリスタの仕事か……」 地面に散らばった薬莢を拾いながら、エレナは呟く。 戦場となったプールは、あちこちすっかりボロボロだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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