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球体世界の失陥における火葬現場の一撃必殺

●汝その名は
 走る。走っている。雨の中をカッパ着て走っている。
 なに、追われているわけじゃない。日課のジョギングだ。この数年間、欠かしたことのない自己鍛錬。
 空想の相手と拳を交えながら公園を駆ける。打つ、打つ、抉りこむように。
 ざあざあ、ざあざあ。
 寝起きには喧しい雨も、夜まで続けば無音も同義だ。防雨衣越しに伝わる極小の落下衝撃は心地よくすら感じる。
 降っている。降り続いている。だから、それの異様さは一目で知れた。
「なぁアンタ、強いのかい?」
 少女である。否、それを少女としていいのだろうか。人間に使う呼称を当てはめていいのだろうか。
 背は標準的。露出の高い服装だが、性的興奮よりも活発性への感心が上回る。
 異形は関節部から始まり、両手足首がなく、代わりに星を思わせる球体が浮かんでいた。末端部位は接合されず、宙に浮いている。
 少女の周りだけ雨が止んでいる。否、蒸発しているのか。触れた側から気化する程の熱量をその身に帯びている。常人ならばとうに体組織が凝固しきっているだろう。
 少女が構えた。ごくありきたりなファイティングポーズ。妙な威圧にあてられ、半歩下がると同時に彼女が打ち込んできた。
 頬を裂く拳。速い。この距離で放たれたテレフォンパンチを紙一重でしかよけられない。
 続く右のボディ。防ぐことも叶わず、腹に風穴が空いた。後方の花壇が血と細切れの臓物で汚く染まる。
 どちゃりと、仰向けに倒れた。間違いなく自分は死ぬ、そう悟ったが何故か涙も出ない。
 何時の間にか、彼女が自分の上に乗っていた。馬乗りだ、酷く軽い。この体重であの一撃、素晴らしいの一言で感動が埋まる。恨み辛みなど吐くものか。
 彼女は泣いていた。自分の上で泣いていた。馬鹿だな、通り魔が泣いてどうする。
「畜生、なんでアンタ弱いんだよ。強くあってくれりゃあ満足できたんだ。アンタ死ななくてよかったんだ。なんで強くないんだよ。もう時間がないんだ。こんな世界の底まで落ちてきて、潰されないまま着弾なんてあんまりじゃないか。立ってくれよ、まだ骨と肉が少し欠けた程度じゃないか」
 無茶苦茶だ。一方的に虐殺して、一方的に難題を押しつける。だが、だからこそ彼女に共感できた。だからこそ済まないと思えてしまった。あまつさえ感謝の念まで抱いてしまった。
 戦って死にたい。狂戦士の果てに生まれる捻れて曲った心象風景。そのためならば何人殺そうが構わない。そのためならば何人死のうが知ったことではない。最低のエゴイズム。自覚した人格破綻。
 彼女の頭を撫でる。高熱が肉を焼き、骨を溶かす激痛。構うものか。
 少女は余計に泣きじゃくる。困ったな、泣き止んでくれないと礼も言えないじゃないか。
 腹を見る。空洞になった自分の身体。なんと素晴らしい。
 自分は闘いで死ねたのだ。彼女に殺して貰えたのだ。烈火のメテオストライク。極大の攻撃者。ああ、自分は幸せだ。彼女は不幸だ。それだけが心残りでならない。どうかこの先の誰かよ、彼女を打ち負かしてはくれないか。
 撫でる腕は尽きて消えた。最後の力で、彼女に思いを伝えよう。

 最早人間の形をやめた彼は、微笑みと掠れた声で彼女を褒め称える。耳を触れさせなければ届かない程の小さなそれを、彼女は確かに受け取った。

「――流星アタッカー」

 今月に入って五件目の惨殺事件。それを世間が知り、リベリスタが預言者に招集されたのは、その翌日のことである。
 昨日から続く雨が、滂沱の涙にも思えた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月29日(水)23:50
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
流星アタッカーと呼ばれるアザーバイド現れました。
彼女は毎夜、罪もない一般人を惨殺している非常に危険な敵性生物です。
次の出現位置が真白イヴによって予言されましたので、被害者が増える前に打倒してください。
それでは、降り続ける雨に風邪をひかれませぬよう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
桐生 千歳(BNE000090)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
マグメイガス
間宵火・香雅李(BNE002096)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
デュランダル
宵咲 美散(BNE002324)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
インヤンマスター
一任 想重(BNE002516)

●落ちていく万花
 自分が星屑に堕ちたことを自覚した時、何よりも怒りが湧いた。この身が摩擦の炎に削られていくことにも、下へ下へと落ちて行く概念化した己にも。今は此処に居る。一番下、最下位層。瓶底の世界。有限世界の成れの果て。もう時間がない。燃え尽きて消えるか、着弾して欠片となるか。どちらにせよ耐えられない。絶望に身を沈めることを許さず、狂気に心を壊すことを認めず、私は正気の中で藻掻き足掻いた。

 夜の公園。耳障りな豪雨。合羽越しに打ち付けるギフトが見通しの効かない夜闇をなお深いものに落とし込めていた。そこで彼らは待っている。
「んふっ、流星アタッカーだなんてかっこいい名前ね」
 一音に錯覚するほどの連符が『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)の独白を閉じ込める。強者を求める意識、素晴らしい。かの異邦者からすれば確かに自分達はそのカテゴリに含まれることはないだろう。だが、リベリスタの強みはソロとしてのそれではない。集合、群体としてのステータスであれば遙か高みのカテゴリにも匹敵し得るだろう。早く来い。一緒に遊ぼう。泥水にくちづけたほうが負け。シンプルなゲームをしよう。
 流星。流れ星。シューティングスター。見えている内に望みを三度唱えれば、それが叶うのだったか。
「今回の流星は願いを叶える、じゃなくて願いを叶えて欲しいようですが」
『消失者』阿野 弐升(BNE001158)は仕事に私情を挟まない。敵は敵。打倒し、捕縛し、殲滅し。それらにおいてのみ通じる一方的なコミュニケーションの相手。理解せず、分かろうとせず、それが彼のスタイルであった。なにより、自分は戦闘狂ではない。今回のそれとも相容れやしないだろう。だというのに、心踊るとこの自認はなんだというのか。
 異界の来訪者。それがどこから来たのか知りはしない。要は雄々しく闘い、華々しく散りたいのだろう。戦って、闘って、斗って。そう在ってきたのだから、そう在って終わりたい。生きた証、存在したことの証明。それが欲しいと思うのに彼方も此方を関係はあるまい。ならばせめて自分にできることを、碑銘のどこかに刻むとしよう。
「流れ星は墜ちるもの。しかし落ちた場所は、他の怪異の縄張りなのデス。アハ」
『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の浮かべた異貌の笑顔も、雨粒は等しく覆い隠した。
 戦って死にたい。そういうもので終わりたい。『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)からすれば、その気持ちは分からなくもない。しかし、スタイルの違いは感じている。リザルトよりもプロセスの方が自分には大切なのだろう。強い敵と戦いたい。殴打すること、斬り合うこと、滅ぼしあうこと。その終着に生命を落とそうが、望んだ末の結果に落ち着いただけのことだ。否、同じことなのか。辿るものも、行き着く先も。
「女は泣かせるな――婆さんの遺言でな。お望み通り潰してやるよ」
 間宵火・香雅李(BNE002096)は、ふと疑問に感じた。来訪者。流れ星。流星アタッカー。戦って死にたいと、強い相手を求めて彷徨う孤高の闘士。ならば何故。何故此処に居るのだろう。最低世界。ボトム・チャンネル。弱者であるという定義であるからこその底の底。もっと上の世界であれば相手に事欠かなかったろうに。望まぬ番組であれば変えてしまえばよかったのに。どうして此処に居るのだろう。問いかけは響き渡ることもなく、雨音は無返答を決め込んだ。
 狂人の自己満足。戦闘信仰の成れの果て。そんな我侭が『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)には許せない。戦って死んだ人。戦わされて死んだ人。きっとその中には死にたくない人だって居たはずだ。否、そちらの方が多数を占めるだろう。願望のための殺戮。逆伝承。そんなものは許しがたい。生きたいと願えばいいものを、この世に執着すればいいものを。生存を切望し、死を恐怖しろ。その中でこそ打倒してやる。
 確かに、いきなり別世界に落とされて。それは同情に値すると言えよう。望むならば慣れ親しんだ十万億土の向こう側に居たかったろうに。しかし、殺戮を許容できるものではない。そちらの事情は知らないが、こちらを犯すのならば害悪である。行いは迷惑極まりない。『闇猫』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の赤い瞳に決意と意志が見て取れる。可哀想だとは思おう。されど潰させていただく。
「手執利剣 聞鍔鳴聲 十方一切 法界囲繞!!」
『バーンドアウト行者』一任 想重(BNE002516)により人払いの意が周囲に張り巡らされる。時刻は深夜。加えてこの酷い雨だ。誰も来ることはないだろうが、五人目の前例がないわけでもない。用心するに越したことはないだろう。術式の発動に伴い響かせる鍔鳴りのそれも、雑音に掻き消されては無音に等しかった。

「なぁアンタら、強いのかい?」
 声は少女。相貌は美しく、姿は異形。流星と攻撃者の名を冠した少女は予定通りに、予言通りにそこに現れて、何も知らずに絶望と背中合わせの期待を口にした。相手は八名の戦士。彼女の願いに最も近い解答者。

●突き詰める徒花
 一人目は話にもならなかった。肩部の肉と骨が削げた程度で衝撃死したのを覚えている。なんと貧弱な。二人目も変わりはなかった。小突いた程度で絶命。やはり瓶底世界。求めることこそ酷なのやもと思い悩んだ。三人目。あれは利き腕を失っても胆力は失わなかった。素晴らしい、戦士とはかくあるべきだ。強弱の幅はともかくとして。希望が湧いてくる。此処にも強者はいるのだと。

 流星は感謝する。嗚呼素敵だ。なんて素晴らしい。それこそが闘争の本質だ。そうあることこそ正しいのだ。手首に位置する球体が異音を立て、罅を走らせる。痛みはない。これ以上増すほど痛みは揺れ幅を持っちゃいない。
 時間がないのだろう。きっと此れが最後の機会。嗚呼だからどうか。群体よ、軍集団よ。私を殺す劇毒であってくれ。
 感想は願いに等しく、願いは慟哭に等しかった。跳躍に地は爆ぜ、瞬速に風が断つ。赤い弾道。其は穿ち、流星が突き刺さった。

●叩き伏す鮮花
 四人目は見かけだけだった、暴力的だったから期待したのに。あんなにタールとカンナビノイドの匂いを振りまいて強固なわけもなかったのだけど。五人目は……今日も星は見えない。もう戻れないあの場所。彼処は私の故郷とは似て違うけれど、それでも郷愁の念にかられてしまう。目尻から溢れる汗を、知らないふりしてやり過ごした。

「風燭滅え易く良辰遇い難し、という……」
 流星の落ちる直前、鋼の験者は雨雲を見ていた。自分の星はどれであろうか、益体もないことを考える。栄えて、朽ちて、なお養い、興亡に酔い、天を掴み、奈落に落ちる。それは人という枠に収まらず、夢有の機差にも尊卑はない。生きたからには死ぬ、在るとはそういうことだ。
 目前の直星にして等価。されど、ゼロポイントは我ら。自惚れでなく、彼女にとってそれが良い星であるというのなら一世一代の大花火を打ち上げよう。
 正義に非ず、賢者は居らず、それをそれとしてそうしよう。
 小気味の良い金属音。空に波紋を広げ、護法の海に飛沫をあげる。死せる落星の願いを続けよう。想重は言を紐解いた。
 濡れた前髪が貼りつく不快感。雨粒を吸込み鈍重になった衣服。冷える身体、濡れる身体。まるでそちらの異人と逆しまのよう。
「流星流れてこの世界へ。ようこそ、流星アタッカー。都市伝説がお出迎え、デスヨ」
「落ちに落とされ彼の世界へ。こんにちは、都市レジェンド。流星の一撃に塗れろよ」
 突き刺さる右の豪腕を赤茶けた刃先で受け流す。突き刺す。手甲から肩までを乱れに裂いた。思い切り振り抜く。勢いを利用して風車を描き、対の刃でその背を狙う。その思惑は浮遊した右の手に摘まれ阻まれる。
 勢いを殺された隙間に捩じ込まれるフルスイング。勘だけでスウェーバック。当たらない手首……手首。
 予感だけを頼りにもう一つ後へと背を反らせた。通り過ぎる左の拳。一瞬遅れた必殺の殴打が飯綱だけで首皮を一枚裂いた。
「アハハハハハ、いいデスネ、素敵デスネ! もっともっと潰し合うデスヨ、ひたすらに!」
 無理をさせた体はまだ戻らない。振り落とされるハンマーパンチ。それを打ち上げの鉄槌が阻んだ。
「なぁ、お前さん――強いのか?」
 響く反響音。鼓膜を突き抜ける周波が雨音に潰されていく。
「それ知ってりゃこんなことしてねえよ!」
 美散が次打の為に振りかぶる。流星が腕だけを素早く交差させた。左右同時に襲い来る遅れた必殺。だがその攻撃は既に見た。
 槌を八双のまま前へ。走る、跳ぶ。後方で混じる両拳に目もくれず眼前のそれに振り下ろす。攻撃者はあろうことか額で受け止めた。
 頭骨が割れることはない。豪熱に鉄が明らむ。灼感が伝わる前に引こうとして拳のない腕に阻まれた。抱きつかれる姿勢。焼き付かれる姿勢。熱い。熱い熱い熱い熱い。喉まで焼ける猛火。それでも歯をむき出しにして笑う。お前も俺も笑っている。
「着弾まで後如何程だ――その前に潰してやる」
 口付ける程の距離で。
「そいつぁ嬉しいね――骨まで燃え尽きてろよ」
 愛より死を笑いあう。その横面を銃弾が叩いた。
 国子の鉛が飛ぶ。足を穿ち、脚を崩す。転んだ攻撃者に横向きの雨が降り注ぐ。それらがふと掻き消えた。弾切れ、リロード。その間に流星は立ち上がる。歯で挟み止めた数弾を吐き捨てると、強く咳き込んだ。
「えほっ――嗚呼、うえっ……二発奥に入った」
 喉をさすりながらクラウチングフォーム。縮地の烈拳はしかし大盾に阻まれた。それでも受け止めることはできない。僅かに逸らせたボムシュート。腕を伸ばし眉間に銃口を当てる。引き金を絞る瞬間、右足が勢い良く前に投げ出された。いつの間にか浮遊した拳に足首を掴まれている。
 回転する世界。一周半。脳天からアスファルトへのダイブ。直下の寸前地につけた左手で勢いを増やしもう半転。その間も火線は異界の少女を追い続けている。二度目の弾切れと同時に着地。装填の空白を狙う猛打は魔力のそれに引き止められた。
「んふっ、遊びましょ? 惨殺の夜は今日でやめられるほど楽しませてあげる」
「これ以上楽しいのかよ。そりゃ期待で胸が膨らむね。無いけどさっ」
 千歳の周囲空間に大小の魔方陣が多重展開する。角度を持って二次元的に施術された矛盾のそれ。それ故の魔導。飛び交う魔光をあるいは避け、あるいは打ち落とし、覆滅のネオンで流れ星が踊る。踊り狂う。星が舞う。曇天に顔を隠した星空に反旗を翻し、地上で此処で星が舞う。
 撃ち落とした祝福が十を数えた時、アタッカーは前へと飛び出した。展開した陣は消滅している。好機と見た異人は宙空に浮かぶ赤い天使の下で昇竜の構えを取る。甘い。飛び上がろうとした流星の真下。人工地のざらついた黒面に魔方陣が花開く。
「やべ――ッ」
 上へ向いたベクトルを反転。殺さず円を描いたそれを震脚に募り、繰り出される魔弾を消化する。完全防衛の一手。無論、誰がそれを見逃そう。雑音。異音。高音。暴音。破滅のカルテット。気構えの向いていなかった攻撃者は思わず耳を抑え、背骨に軋みを与えて仰け反り歪む。
「強い奴と戦って死にたい――戦士でもないボクにその気持ちはわからない」
 香雅李の声。死相を上乗せする冷たい宣告歌にも、どこか情熱の賛美が聴こえる。
「けど、半端な熱を抱えたまま消えるのを待つのは嫌だ。それはわかるよ」
 胸に尊る燈火が、触れずともなんと暖かい。
 掠れた呼吸音はたったの一度だけ。身も心もズタズタにする檻の中でさえ、少女は笑っていた。歯を剥き出しにして。心を丸裸にして。
「じゃあ燃やそうぜ。もっともっとだ。足ンねぇよ。薪を焼べろ、炭を増やせ。真っ白にしてくれよ」
 斬撃に笑う。魔弾に笑う。銃口に笑う。撲突に笑う。それらに等しく殴打で応えながら、楽しいだろうと笑っている。楽しいなと笑っている。はじめは心で。いつしか声で。呵々と呵々と大笑している。
 楽しげな様を、楽しげな楽しげな様を、聖の焼源が朽ち払う。目もくらむ閃光。続いて極細糸。撃って撃って刺して絡んで束んでつぐねて纏めて来す。
「今がチャンスです、狙ってください」
 レイチェルの声に弐升が跳んだ。閃光と猛攻による放心。一拍空いた意識の行間。それを斧槍が薙いだ。肩口から胸を裂いて、腰まで到達する。振り抜いてから阿音遅れての鮮花。金属臭はなく、酸味もない。ただ赤いだけの徒花。撒き散らされた万花。傷口からひび割れる皮膚が一過性の美を思わせる。
「一人勝手に果てないでくださいよ。此方も、存分に愉しみたいのですから」
「ハハっ……たりめぇだろ。まだまだ終わんねえよ」
 声は寒さに震えない。声は熱さに震えている。どうしようか、楽しいな。やけに遠く聴こえる雨粒と炭化水素の調べが観客の拍采に思えた。
 永遠に感じる一瞬。一瞬に感じる一幕。その中で本当に楽しそうだったから。きっと彼女は本当に楽しかったのだろう。

●落ちていく賛花
 悪くない生涯だった。

 いつから限界だったかな。楽しくて忘れていたよ。
 体中に広がった罅割れは筋繊維を壊し、骨を粉にしている。流石に立っているのがやっとだ。どうしようもなく負けている。そんなマイナスの事実が嬉しくてたまらない。
 この喜びを犯す残酷は誰も持ち得なかった。誰もがもう闘いは終わっていることを感じている。確信している。
「元の世界には帰れないの? この世界では何をしているの?」
 聴くならば今しかないだろう。灯が揺れる。揺れる。
「何って、何にもしてねぇさ……流星は落ちるものだろう?」
 ぴしりと、また罅が増えた。
「アナタは力の強さを求めてるようだけど、力が全てではないわ。自分達は個々がけして強いワケではないけれど、仲間がいたからこそ勝てたの。この意味がわかったらまた会いましょう?」
 ぴしり、ぴしりと。
「願うなら三回言えよ。もう消えちまうんだから」
 後ろに倒れていく、ゆっくりとゆっくりと倒れていく。
「一足先に伝説となったアナタ、素敵デシタヨ。さよなら、流星アタッカー」
 そして彼女は倒れ伏して、落ちた星屑は間違いなく此処に着弾した。

 雨、雨。
 アスファルトに穴が開いている。クレーター。小さなクレーター。
 あんなに遠かった雨音が、また隣に腰掛けた。
「へっくしょんっ……雨はやっぱ駄目ね……」
 それは多分半裸だからだろうけど、おいといて。
 星は落ちて、流星は消えた。確かに死んだのだろう。けれど楽しそうに死んでいった。悔しいくらいに、歯噛みするほどに。
 そうして帰路に着く。それぞれの胸中を語り合うには頁が足るまい。また別のお話と、筆を移してくれまいか。
 誰もいなくなったその場所。今もまだ雨が降るその場所。一輪の赤い花が咲いていて。誰かがそれを見つけるまで、雨傘は彼女の代わりに濡れていた。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
落ちた星屑とバトルハッピーのメルヘン。