● 幸福の音は、思えばそこかしこから聞こえていた。 きゃあきゃあとはしゃぎながら、愛の言葉を伝える女声達の声。 少しぶっきらぼうに、それでも照れを交えてそれに是と応える男達の声。 その最中、私たちの見知った顔は、一人の同伴者を連れて、街の明かりにはしゃいでいる。 双方、共に十を越えるか否かの年頃だ。幼さが目立つカップルにしても、両者が浮かべる表情は唯の友人同士に向け会うものでないことは、何よりも親である私が理解できている。 「本当に申し訳ありません、うちの子が一緒に生きたいと言って聞かなくて……」 「気にしないでください。思えば家族でこうしてハイキングに出かけるのも、随分久方ぶりのことですし、良い機会でした」 親の心子知らずとはこのことだろうか。 ひたすら平謝りする私と妻を見ながら、相手方の夫妻は苦笑混じりで応えを帰す。 ――思えば、バレンタインデーも近くなってきたその頃に、うちの娘は様子が変だった。 元より隠し事を嫌う子である。唯好きな子にチョコを作るだけなら却って堂々と行うだろうし、第一娘に思い人が居ることはずいぶん前から私も妻も知っていた。 その怪しい挙動の理由がわかったのは、その状態が続いて凡そ三日、時期にしてバレンタインデーの丁度一週間前となった日のことだった。 「お父さん、わたし、ここ行きたい!」 「……はあ?」 娘がばっと開いた週刊誌には、『知られざる絶好のデートスポット!』と銘打たれた廃教会の記事が載せられていた。 ひとまず雑誌を受け取って、その記事をざっと見てみれば――成る程、場所は車も通らない山奥、その上にそのデートスポットの一番の特徴は夜景と来ている。 ここ数日、娘の挙動が怪しかったのもうなずけた。何しろ、未だ小学校高学年の少女が、このような場所、このような時間まで、助けも無しにデートには行けまい。 かといって、親同伴のデートなど、それはそれで雰囲気が壊れはしないかも心配だったのだろう。 「……夜景を見るにしても、あんまり遅くまで居るのは問題だしなあ」 「う」 「第一、お前のボーイフレンドの親御さんにはちゃんと許しを貰ってきたのか?」 「うう」 ……決意の程は理解できたが、これである。 直情的で、後先を考えない娘らしい行動だった。私は苦笑すると共に、自身の甘さを痛感してしまう。 「解った、解った。親御さんには私から言っておく」 「ほんと!?」 「但し、ボーイフレンドに聞くのはお前の役目だ。それでOKが貰えなかったら、潔く諦めること」 「……頑張る!」 急いで上着を着込み、家を出て行く娘。電話すらももどかしいと、相手の家に行ってしまったらしい。 やれやれと嘆息した私は、突然の事態に向こうが混乱しないよう、早速受話器を手に取った。 そうして、現在。 二人、楽しそうにはしゃぐ子供達と、それを見守る二組の夫妻。 夜は更け、街明かりが数を減らすより先に、私たちは彼らと共に下山し、家に帰るつもりだった。 その、つもりだったのだ。 ● 「神は弱者のためにのみ存在し、弱者は強者のためにのみ汗水を流し、強者は又、悪魔のためにのみ生存せるもの也」 唐突に、怜悧な声で淡々と述べたのは、『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)。 驚きました? と小さく笑んだ彼女は、それと同時にモニターに映像を展開する。 映ったのは――地図だ。三高平とは少し離れた場所に位置する、とある山間部の地図。 「依頼の説明を始めます。 今回の依頼は、ある山奥の廃教会、其処に突然発生するD・ホールの拡大阻止、並びにその周囲に存在する一般人から、革醒者が一定人数存在しないことになります」 「……廃教会に、一般人?」 「ええ。其処は元の教会としての機能はされておりませんが、ここ最近ちょっとしたデートスポットとして脚光を浴び始めておりまして」 困った表情の和泉は、次いで言葉を継げる。 件の教会は、先にも言ったとおりデートスポットとして人気の場所と成りつつある。 尚かつ、時期はバレンタインデー直前。これを機により関係を深めたいと思っているカップルなどは多く、本依頼にて教会付近に存在する一般人は数十名に至るという。 「……この時点でお解りでしょうが、私たちが介入しない場合、教会に存在する一般人の内、およそほぼ全員が突然発生するD・ホールの影響を受け、ノーフェイス化します。 そして、その情報を私たちと同様に掴んだ『リベリスタ』が、もう一グループ存在しました」 「……?」 奇妙に強調されたイントネーションに、リベリスタ達が訝しげな表情を浮かべる。 「……リベリスタ本来の使命は理解していると思います。その行動原理は、『世界の崩界を防ぐ』事が主。 で、あるならば……それが確実なる世界の害悪で有らずとも、その危険性を孕んだ存在ならば、殺すことも道理」 「おい」 咄嗟に――それこそ咄嗟に、リベリスタの一人が声を上げる。 漸く解った違和感、緊張感、それに和泉は、視線すら返すことなく是と頷いた。 「彼らリベリスタが現れた理由は、一般人全員の虐殺です」 「……っ」 「先に言っておきますが、彼ら一般人を連れて逃げることに対して、賛同することは出来ません。 先刻言ったとおり、場所は最低限の道しか出来ていない山奥、尚かつ――皆さんがこの場に到着した直ぐ後、戦場は或る存在によって周囲数十メートルを完全に囲まれることとなるからです」 「……或る、存在?」 「その前に、もう一つの勢力について、お話ししましょう」 淡々と、 それこそ、事務的な作業のように、ファイルを捲る和泉の表情は、しかし、どう見ても優れては居ない。 緊張が、彼女を纏っているのは、目に見えて明らかだった。 「……今回、戦場には彼女らリベリスタとは別に、もう一グループのフィクサードが存在します。 彼らの中に、正義の概念も、悪の概念も、存在はしません。唯自らの行動原理に従い続けるのみです」 「……その行動は?」 「一般人の、防衛」 ● 叫び声が聞こえたのは、何時からだろう。 血飛沫を見たのは、何時からだろう。 狂乱。そう形容するに相応しい状況に於いて、一人の少女が滂沱の涙を流し続ける。 「哀れなる子羊たちよ……! 救済はすでにこの地にないのです、あなたたちは地獄の戸を叩いてしまったのです!」 言葉と共に、手にした杖から炎を振るう少女。 それと共に、何人かの男達もまた、鉄槌のような形状の凶器を振るい、周囲の人々を次々と虐殺していく。 「……何、が」 声と共に、傍らの誰かが、焼死する。 数メートルもない距離。嗚呼、次は自分だろうか、なんて俯瞰視に陥りかけた思考で、 唯、それを留まったのは。 「――――――あ」 怯える子供。 足は竦んで、動いていない。 震える少女を守るように、 少年は、両手をぎゅっと握りしめ、彼らの前に立ちはだかる。 「っ!!」 動いた。 子を想う心が、大人としての矜恃が、少年の身を見て、揺り動かされた。 子らの眼前には、杖を構えた男。 振るわれる。 炎が、放たれる。 それより先、手を、伸ばして。 せめて、子供達を突き飛ばそうとした、瞬間。 「……いけない、ね。いけないよ」 諸手は、阻まれた。 黒衣の男が、私を止めた。 「何を……!」 「身代わり。身代わりは、駄目だ。みんな、助からなきゃ」 独り言のように、ぼそぼそと呟く男。 それと、共に――上がる業火。 悲鳴を上げかけた私が、けれど、それを止めたのは。 「……生廼さん、こっち、大丈夫ッス!」 手を阻んだ男同様、黒衣を着た青年が、子供達を抱えて、炎から逃れていたから。 生廼。そう呼ばれた男は、小さく首肯を返して、少しだけ、ほんの少しだけ、声を強めて、言う。 「みんな。みんなを、先ず教会に隠して。 そのあと、守ろう。もう、誰も死なせないように」 「……本気ッスか? こっち、数でかなり負けてるんスけど」 「守るよ」 とん。と、身体を押された。 先には、青年が腕から降ろした、二人の子供の姿。 青年の側も、私たちを見た後、視線で教会の側を示した。 浮かびかけた涙を堪えて、礼をした後、私は子供達と共に、教会へ向かう。 「あと少し」 刹那、最後に聞こえた、男の言葉。 「あと少しで、ぐるぐるがやって来るんだ。 みんな。みんな、きらきらのすてきなものに成れる。それを邪魔なんかさせない――させて堪るか」 要領を得ない、抽象的な言葉に、けれど青年は頬を掻いた。 「手前ら、生廼さんの命令だ! フリー(一般人)共は教会に押し込め! アークが察知してカバーに来るまで、イカレた奴らに殺させるな!」 彼らの言葉は、何一つ解らなかった。 けれど、それでも、ただ一つ、理解できたことは。 彼らは、私たちを守ってくれる、救いなのだと言うことだけ。 ● 「……正確には『革醒しうる対象の防衛』ですが」 嘆息と共に、視線を落とした和泉。 訝しげな目をしたリベリスタに対して、和泉は再度、ファイルに目を通す。 「フィクサード達の具体的な名称はありませんが、そのリーダー格と、主たる目的は判明しています。 リーダーの名は生廼浩爾(きの・こうじ)。人、物に限らず、『革醒した対象に対して須く愛を抱く』と言う……ある種のパラノイドですね」 「……つまり」 その言葉で、リベリスタ達は理解する。 「ソイツらが一般人を守る理由は、D・ホールの存在を察知して?」 「ご名答です。彼らは一般人が革醒するまで――革醒した後も、戦闘力が低ければ――守り続ける方針のようです。 要するに、彼らの思うとおりに行動させたとしても、一般人の『結果的な』死は免れません」 「………………」 酷い話だ、と、彼らは思う。 思惑に差は有れど、世界のカケラを守るフィクサードと、それを破壊するリベリスタ。 突き詰めた正義と悪は、こうも奇妙な入れ替わりすら、是と許容してしまうのか。 「……話を続けましょう。彼らは前述の通り、一般人達を防衛するため、教会内に人々を避難させ、リベリスタ達から守る方針です。 が、如何せん数の差が有ります。このまま私たちが傍観を決めれば、フィクサードが防衛し続けても、D・ホール出現までに大多数の被害が出ることは確実でしょう」 「……漁夫の利を得る方法は出来ない、と」 「リベリスタ達への対処は他班に任せてはいますが、その成功条件は『一般人の過剰な殺害阻止』です。 不可能とは言いませんが、針の穴を通すような仕事になるでしょうね」 ……思案を、巡らせる。 彼らを攻略する行動に於いて、のみではない。 その心理、或る意味、自らの存在意義を問う戦いに、自分達はどう挑むべきなのか。 小さく是の言葉を零して、ブリーフィングルームを退出するリベリスタ達に、けれど、和泉は吃と言う。 「最後に、大事な情報が」 ――ぴたり、と、足が止まる。 「フィクサードのリーダーである生廼浩爾は、ある強力なアーティファクトを所持しています。 これは指定した対象を堕落に誘うと同時に、強い誘因能力と召還能力を有した性能を持ち得ております。生廼は、この召還能力を介して、教会付近の一帯を召喚体で囲いました。くれぐれも、ご注意を」 そう言って、和泉は、最後に彼の破界器の名を語る。 「――アーティファクトの名は、『悪魔祈祷書・断章』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月04日(月)23:25 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 『質問です。貴方にとってセカイはどういうものですか?』 唐突な質問を仮定しよう。 誰のものかも解らぬ声、まっくらで、自分しか居ない空間の中で、すがりつけるものは其れ一つだけ。 『大切な人がいる、大切なものがある。 失いたくない記憶があって、信じるに足る未来(きぼう)がある。成る程、ならば貴方にとって、此のセカイは守るに足るものですね』 声は淡々と続いている。 返答する程のラグも無い。記録された音声を再生しているように、声は句読点の間を除き、止まることは一切無い。 『では、次の質問です。 貴方は、此のセカイを守るほどの力を有していますか?』 『掌で掬う水を守れないように、貴方一人の力で何もかもを解決できる力はあるのですか?』 『仲間と共に? それは異な事です。志を同じくする者は、貴方にとって失って構わないものですか?』 『自らに力が無く、ならば失うことを覚悟して仲間と共に困難に立ち向かうことは、貴方にとってセカイを守ると言う思いと矛盾しては居ませんか?』 声色は、変わらない。 嘲笑でもなく、侮蔑でもなく、憐憫でもなく、唯の問い掛け。 ――或いは、そのどれかであれば良かったのか。 『高すぎる望みと、其れに届かない両手』 『革醒を為して尚、弱いと定義されざるを得ない自身に、絶望を抱いたことはありますか?』 『――ああ、ならば、私を手に取りなさい』 『私は、力です』 『力とは、己が理想を為すに要するモノです』 『全て、全ての願いを叶えるには足らずとも』 『今の貴方が抱く思い一つは、その手に収めることが出来ましょう』 『さあ』 『さあ』 『さあ』 『さあ――――――』 ● 「世界を護る為に人を殺すリベリスタ、己の利益の為に人を殺すフィクサード。どちらが本当の善で、どちらが本当の悪か」 謳うような声と共に、『アウィスラパクス』 天城・櫻霞(BNE000469)が幻想纏いを手の中で弄ぶ。 向けられた先にいる存在――総計六名のフィクサード達は、それに対して驚くことも戦くこともせず、唯淡々と、当然の事実のように受け止めている。 「この問答に解なんてきっと永久に出ないんだろう。殺される側からすれば俺達の区別なんざ付く筈がないんだからな」 「………………」 皮肉げに語る二色の瞳にも、敵方は動じない。 ともすれば嘲弄。そう取られかねない発言に、僅か、肩を怒らせた配下も居たものの、其れを黙らせたのは、問うまでもない。 「……フィクサード、生廼浩爾か」 「うん」 『燻る灰』 御津代 鉅(BNE001657)が、吸い終わった煙草を彼らに放る。 彼我の距離は数十メートル。届くはずもないが、その行為自体が何を指すかは、誰にでも解ろうというもの。 「革醒したモノに須らく愛を、ね。偏ってるんだか偏ってないんだかややこしい連中だが……」 眇めた瞳は、サングラス越しに男を覗く。 フードの下の表情は、精々口元までしか見えはしない。恐らくは幾らか『外の連中』とやり合ってきただろう傷跡も見られない以上、その身に纏うローブも神秘によって編み込まれたものと想像がつくだろう。 秘密主義というわけでもないだろうが、早々自身の身を晒す程度の阿呆でもないらしい。 (……面倒くさい事だけは確かだな) 歎息。僅かに残る紫煙の残滓を吐き出して、次いで如何様にも動ける姿勢を、立ち位置を決して意識の外に置かぬように留意していた。 「外の連中もこっちの連中も面倒くさいなぁ。 一般人を守るのはボクたちの十八番なのにね」 たまにはこういう構図もいいんじゃないかと思うけど。そう言って、くすくすと笑いを浮かべているのは『偽りの天使』 兎登 都斗(BNE001673)である。 少年か少女か、何れにせよ傍目が純真な矮躯であればこそ、浮かべる笑顔の、放つ言葉の差異が、此の小さなリベリスタの狂気をありありと示していた。 「……そっちの状況は?」 「未だです。もう暫し、お待ち下さい」 唐突に問うた鉅。その背後に位置する『蒼き祈りの魔弾』 リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)と、『あるかも知れなかった可能性』 エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)は、今現在も恐慌状態に陥り続けている一般人に、魔眼でどうにか言うことを聞かせている最中だった。 リベリスタとフィクサード。相対した双方が今尚戦闘に入らないのは其れが理由だ。フィクサード側からすれば『もう直ぐ革醒しうる存在』に好きこのんで危害を加えるほど酔狂でもなく、リベリスタからしても一般人を巻き込むのは可能な限り避けたい。 それ故の停戦。当然、この間にもD・ホールの発生が迫ってきている以上、リベリスタが襲撃を行っても構わなかったが――生憎と手ずから外の脅威から救ったフィクサード達と、今突然この場に現れたリベリスタ達では信用の度合いが大きく違う。 自らを助けた相手に襲いかかるリベリスタ達を見れば、その時点で一般人の彼らに対する警戒は極致に達する。魔眼が効くか否か所の話ではない以上、少なくとも明確な戦闘行為は避けるべきだと彼らは判断した。 「ふざけた愛だ……反吐が出る」 未だ意識を残す一般人に漏れ聞こえぬよう、仮面の下でエルヴィンが吐き捨てる。 エルヴィンは神を信じない。正確に言えば、彼は神よりも大切な物――ヒトの温もりを、己の中に定義している。 革醒は、ただ一つの例外(フェイト)を除き、結果的にその温もりの多くを闇の中に葬り去る……正しく、彼にとっては悪鬼の所行に他ならない。 「さあ、私の目を見て下さい 貴方は事が終わるまで虚脱し動けなくなり、声も出ません」 対し、自らを神の使徒と定義するリリは、エルヴィン同様、恐慌する一般人を落ち着けることに尽力している。 ……怯える子供に、大人に、怖がらないで、と告げるその瞳に宿るのは、優しさだけではない。 (命は救い、神秘は退ける。 罪無き人の子を神秘に晒す等、あってはなりません) 自らが其に囚われた存在である以上、捧ぐ『お祈り』は何処までも身を賭したものに等しく。 最後の一人、幼い少年の首が、かくん、と落ちたのを気に、リリ達は立ち上がり、フィクサードへと視線を向けた。 「行き過ぎた秩序も、行き過ぎた混沌も害しか生まん」 ……開幕の合図を鳴らすのは、『糾える縄』 禍原 福松(BNE003517)。 「別に使命だ何だと高説を垂れる心算は無いが、越えちゃならない一線ってのはある。 お前等の目論見、オレが潰させて貰う」 「……は、は、」 生廼が、笑う。 それと共に――何処かにか隠れていたのだろう、幾体かの不定形の黒塊が、這いずるように両者の間を塞いでいく。 「良いよ。分からず屋には、お仕置きしなきゃ。 でも、でもね。ひとつだけ」 「……?」 リベリスタ達が、疑問を脳裏に浮かべる。 その、刹那に。 「……手を出さないことが、戦闘じゃないなんて事、ないよね?」 「っ!」 ユーヌの身が、ぐらりと傾いで、頽れる。 次いだ瞬間、彼女の脳裏は、一つの声を聞いて――。 ● 「……黙って、」 繊手に収めた指輪が、手にするナイフと微かに擦れる。 りいん、と鳴いた音粒は、即ち彼女の『回路』が鎌首を擡げた証。 「いろ――!」 『普通の少女』 ユーヌ・プロメース(BNE001086)が、微か、語調を強めて吐き出した言葉は、囚われ掛けた異能の甘言より自らを賦活した証。 「……驚いた。驚いた、よ」 その様子を見て。 言葉を返した男――フィクサード・生廼浩爾は、言葉に違わず瞠目を以て、ユーヌに賞賛の言葉を贈る。 「ヒトならば、容易く壊れる。 きらきらの人でも、曲がってしまうこの子のコトバを、全部、全部、跳ね返すなんて」 「幸不幸は知らんが、生憎そう言った方面には疎くてな。 欲しくなるファン心理のような物か? スキャンして青空文庫に寄贈したくなるな」 告げて、放たれたアッパーユアハート。 ナイフを起点として伸びた怒りの『回路』が、彼を含めた複数名の脳を穿たんと疾るも、狙われたフィクサードはそれらを容易く払いのける。 「――厄介な」 反応に言葉を零したのはユーヌではなく、鉅。 既に片一方の戦場を他班に任せることによってたどり着いたこの場所。戦闘を開始して十数秒の攻防の内にも、双方は相手方の実力を幾許か理解し始めていた。 「回避、防御、速度とWP。完全に受動能力に重きを置いた面子か」 「『一軍』はもうちょっとばかし強いッスけどね。 生憎、今回の件は俺らでもクリアできそうだと生廼さんが判断したんで」 「……舐められたものだな」 『無明』と名付けられた長刀を振るい、空間を裂く鉅。 その先に現れた深紅の月が、古びた教会を血の色に染め上げていく。 「こっちとしては余計な騒ぎは遠慮願いたいだけだ、とっととご退場願いたい」 「はっは! 暴徒に負ける警官に従うチンピラが何処に居るんスか!?」 返した配下の一人が叫ぶと同時、次いで戦場が紅から白に満たされた。 聖神の息吹――ではない。高威力による天使の歌。 自らに課せられた不運を気にもとめず、癒しの唄を奏でるフィクサードを……しかし、凶相を描いたカードが貫いた。 「あなたは愛するもののために戦う人? それとも欲望のために戦う人?」 死の気配が濃密に満ちた戦場に於いて、しかし、くすくすと笑みを浮かべる『ピンクの害獣』 ウーニャ・タランテラ(BNE000010)には、最早次のカードが握られている。 「私はどっちも嫌いじゃないけれど――私の敵じゃ、しょうがない」 二次行動、間髪入れずに二発叩き込まれたカードを、そのどれも直撃は避けたフィクサードに、生廼がウーニャ同様、くすりと笑った。 「なら。なら、君もこっちに来ればいい。 敵じゃなく、味方になれば、僕達はともだちだ」 「お生憎様。愛のない道具で口説く男に興味はないの」 にべもなく誘いを断った彼女の肌が――そのとき、凍りついた。 何時からであろうか。生白い蛇が幾重にも幾重にも彼女を囲み、まるで合図を待つかのように舌なめずりを繰り返している。 「――如月[生更木]に名を借りて」 言の葉を為したのは、インヤンマスター。 「草木が出ずる期を以て、どうぞおいでませ、異界の門」 呪印、封縛。 禍ツ印を施した式符により象られた蛇は、それと共にウーニャの身体をたちまちの内に埋め尽くす。 「ウーニャ……!」 「おっと、余所見とは酷いな、お兄サン?」 揺らぎ掛けたエルヴィンの視線を振り戻したのは、彼に接敵していた覇界闘士。 ぺたん、と胸元に当てられた掌が、収束されていた『氣』の爆裂によって空間を振るわせる。 ごば、と、仮面の下からこぼれ落ちる血液すら無視して、返す刀で振りかぶったナイフが、覇界闘士の腕をぶちぶちと切り裂いていく。 「……一つ聞かせてもらおう」 「ん?」 眩んだ身体に喝を入れて、 ゆっくりと態勢を取り戻した彼が、覇界闘士に問い掛ける。 「覚醒したものが愛しいものならば、俺たちに刃を向けることは、愛しいものを傷つけることになるのではないのか」 「おいおい、先刻まで反吐が出るとか何とか言ってた俺らの『愛』に、今度は縋り付く気かっての。 大体、愛してるから傷つけないとか何処の馬鹿だよ。親が躾けない餓鬼なんてそりゃもう酷いもんだぜ?」 手を出す気はないが、向かってくるなら容赦はしない。 要するに、そう言うこと。手を止める気は一切無い彼らに対して、返されたのは双つの声。 「運命に愛されなかった革醒者だなんて美しいわけないよ。命の煌きが失われちゃう☆」 「ある意味倒錯した愛、か。大した物だ、そこまで愛せるなんて」 『殺人鬼』 【伊遠征】熾喜多 葬識(BNE003492)、そして『狂奔する黒き風車は標となりて』 フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)。 靡く暗黒と、一房の白。暗黒と鈍色の鋏がエルヴィン達の間を駆けると同時、覇界闘士の側には見るも夥しい鮮血が場を染め上げていた。 「……ッ、ハァ!」 運命の消耗を耐え、呼吸と共に飛び退いた――が、 「……両の手に教義を、この胸に信仰を」 「!!」 戦場はおおよそ20m距離の範囲内。 で、あれば――リリの全体攻撃は、何処にいようとも違い無く、己が敵を穿ちうる。 「神罰執行、致します」 撃ち放たれた銃弾。インドラの矢と名付けられた異能は瞬く間に戦場を業火に焼き尽くし、最早多くのダメージを受けていた覇界闘士は、その時点で早くも運命消耗を強いられた。 其処へ、更に追いすがらんとする都斗の前に、ダークナイトが双剣を構え、彼の大鎌を速力でいなしていく。 「みんな一般人大好きだよね、殺したり守ったり。そっとしといてあげられないんだね」 言うと共に、視線を寄せた先には――此度、彼らが保護するべき一般人が纏めて眠らされている。 最も、この極限状態に於いての暗示だ。その掛かりは極めて薄く、ちょっとした切欠によって起こされてしまうだろう事は想像に難くない。 だからこそ、迅速たる決着が求められると、言うのに。 「……『一般人は』、好きでも嫌いでもない、なあ」 身の丈を超す大鎌を手足のように振るう都斗に対して、あくまで膂力を受け流す方向のダークナイト。 分はあくまでもリベリスタ達の側に在る。先にも鉅が言ったとおり、フィクサード達は生廼を除き、その殆どが受動方面に能力を選らせた面子で構成されている。 適度に回復を飛ばす、或いは自身の能力を持って回復するフィクサード達に対して、それを超える火力で少しずつ削るリベリスタをして、それでも予断が許される状況ではあり得ない。 「合間合間に、鬱陶しい奴らが……!」 理由の一は――福松がB-SSSを以て滅し続ける不定形のエネミー、『蒙昧の群』 その能力は木偶のそれと大差無いにしても……彼が為す[必殺]属性を有さない攻撃に於いてはほぼ確実に復活を為す彼らに、前衛陣が特に動きをかき乱されているのは想像の通り。 「……あ、」 そして、残るは一つ。 「……ッ、リリ!?」 ● 悪魔祈祷書。 この世の全ての悪徳を礼賛し、神を否定する偽聖書、その断章。 仮に其れが偽物であろうとも――それによって為される能力は、余りにも強力に過ぎた。 「それ、を――」 リリは、否、リベリスタ達は、其れを甘く見すぎていた。 仮にも人世に広く知れ渡る禍しきアーティファクトをして、自らの克己心のみで耐えうるなどと言うなど。 「――それを渡しなさい、生廼浩爾ッ!」 今この瞬間。 彼女に教義はなく、信仰はなく、捧ぐべき祈りもなく、 ……ならば彼女には、『神』も居なかった。 リリが『近づき』、銃を構える。 誰よりも早く、其れを奪い取らんと手を伸ばす。 「……ヒ」 それを、 それを、生廼は、笑って。 「ひ、ヒヒ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひはははははははははははははははははははああああああぁぁ!!!」 リリ・シュヴァイヤーはスターサジタリーだ。 その能力は後衛に於いて最たる価値をもたらすものであり、自らが的となりうる戦場に於いて十全たる機能が果たせることは、まず、あり得ない。 移動し、二次行動。インドラの矢により周囲は業火へと包み込まれた。 苦悶する敵の最中に於いて一人哄笑を続ける彼に、リリは―― 「はははははは、は、はは……ァ!」 ――リリは、『喰われた』。 潤沢たる生命。ヴァンパイア特有の牙が彼女の首筋を穿ち、其処から血と生気を奪い去る。 ……リベリスタ自身、これに対して何ら対策がなかったというわけではない。 生廼が甘言を為すタイミングを見て攻撃し、あわよくばアーティファクトの奪取を行えるならと、そうも考えてすら居た。 けれど、 それは、彼を守る者が居なければ。 そして、彼の有するアーティファクトの正確な位置が解っていればの、話だ。 狙う位置、タイミング、そしてその障害。 ユーヌの挑発が功を奏さなかったと言うことはない。単純に、敵がどの能力に重きを置いたかと言う部分においての認識の誤差が、この事態に対するファクターとなり得たと言うだけで。 「フィクサード風情が……!」 櫻霞が吐き捨てるように呟き、ハニーコムガトリング――夜鷹の千弾を戦場にバラまいた。 「有象無象が邪魔だ、さっさと沈め」 「生憎と、そう言うわけにも行かなくてッスね……!」 撃ち放たれた実弾に対抗するかのように、ホーリーメイガスが白羽の幻像を顕現させる。 瞬時に癒されたフィクサード勢が、そうして次に狙うのは、違い無い。 「……く」 剣が、拳が、術式が、 見る間に、少女の矮躯を血と傷跡で彩る。 「リリちゃん……っ!!」 ウーニャが飛ばす傷癒術によって、その命はつなぎ止められているが、それとて微力。 退がれと、そう叫ぶ仲間の声も聞かず、リリはひたすら業火の銃撃を止めず、また、手を伸ばすことも。 そうやって、動きを変えられた仲間の中に於いても、生廼の謀事は止み得ない。 「く、ふふ……!」 次いで、都斗までもが。 白面に覗く瞳に渇望の狂気を乗せて、生廼へ躍りかかっていく。 「あーあ、全く……」 拗ねたように唇を尖らせて、葬識が不満を零す。 ――後衛の突出によって敵方を一時混乱させ、その後は前衛を一枚ずつ剥がし、後衛への攻撃を可能とする。 生廼が狙っていたのは、要するにそう言う役割。 「欲しいと思わせるなんて、捻くれ者の俺様ちゃんとしては反吐がでちゃう☆」 自らがああなる可能性を予見して、殺人鬼は笑みを浮かべた。 次いで、剪断。 『逸脱者ノススメ』と名付けられた鋏は、そうして生廼を守るクロスイージスの片腕をねじ切った。 「――――――!!」 痛みで声を上げて、それでも絶対の鉄壁(パーフェクトガード)を有するクロスイージスは、只で沈むことだけは良しとしない。 返す刀の反撃。撃ち込まれた盾の殴打に血反吐を零しながら、けれど葬識は倒れない。 対し、クロスイージスは、倒れた。 これが、転機となるならば。 より一層意気を強めたリベリスタ達の身が、けれど。 その時、震えた。 「……来た」 転機は、確かに訪れた。 敵戦力の減退、等と些細なものではなく、 彼が――フィクサード、生廼浩爾が愛した、『ぐるぐる』の出現、と言うカタチによって。 ● 「……ユーヌ」 「ああ。言われるまでもない」 鉅が、ユーヌが、そう言って。 リベリスタの動きが、その時、大きく変化を迎えた。 現れたD・ホールは教会の中央から右端、壁際の中空に浮かんだ形となる。 滞空距離は2mから3m。地上からでも十二分に狙うことが可能な距離。 「まったく、無駄な仕事を増やしてくれたな?」 矮躯が走る、ナイフが、疾る。 ブレイクゲート。産み落とされたばかりの門を崩すがために、銀閃が過つことなくホールを切り裂き、消す―― 「……ハ」 「!?」 ――よりも、早く。 彼女のナイフを、敵方のダークナイトが、その身を以て受け止めた。 何のことはない。 敵は只、行うに足る行為を行っただけ。 ……ホールを『かばう』という、単純な行為を。 「邪魔を……」 フランシスカが、咆えるように黒剣を振りかぶる。 「するなあッ!!」 「……それ。それは、僕達の台詞、だよ」 ダークナイトの身から血が迸るのと、 フランシスカの瞳が精彩を欠いたのは、ほぼ、同時。 今現在に於いて、甘言を施し続ける生廼は、D・ホールとは反対方向……教会の左奥に位置して、『悪魔祈祷書』に侵されたリベリスタたちの攻撃を凌ぎ続けていた。 カバーとして回復を行うのはホーリーメイガス。対し、D・ホールをかばうダークナイトにはインヤンマスターが傷癒術を飛ばし続けている。 「く、そ……!」 声を上げたのは、誰だろうか。 敵方の能力はほぼ受動特化、その上、彼らは各々が何らかの形で最低でも自己回復の手段を有している。 狙うべき最高順位であるD・ホールは庇われ、其れを攻める面子も生廼の甘言によってその大半が攻撃目標を変えられている。 状況は、リベリスタ達の優勢。 優勢という、それだけ。 勝利は変わらない。それは如何ほどの時を経た未来かは解らないけれど。 遅々とした攻勢の中、ダークナイトの身が、傾いで。 故に、もう、遅かった。 「……ひ、あ」 教会内、比較的戦闘の影響が及ばずにいた範囲にて、聞こえた声。 二十か否かの女声が、鋼色に変質した繊手を見て、泣き声を上げていた。 「何? 何よコレ、手が、硬くなってき、て」 「……ちぃッ!」 福松の銃弾が、恐慌状態に陥りかけた女声の頭を吹き飛ばす。 飛び散る脳漿。一撃で殺害せしめた福松は、それでも苦いものを隠しきることが出来ない。 「恨まれることには慣れている」……嘯く彼にしても、其れがココロに僅かたりとて傷を付けないのかと言われれば、否と応えざるを得ない。 何よりも、此度のように一撃で死ぬようなノーフェイスが革醒しない保障もない。 頽れたダークナイトに代わり、インヤンマスターがD・ホールの庇い手に回る。 対するホーリーメイガスも、生廼とインヤンマスター、両者を自身の回復範囲に入るよう、位置取りを調整し始めた。 歯車は軋んでいく、異音を立てて、歯を削り、歪み、歪み。 「無理やり、この理不尽な戦いの世界へと投げ出すだと」 遅々とした変化は止まない。 少しずつ、変質した者達。それが刈り取られる様を目にして、エルヴィンが、咆える。 「――そんなものが愛であってたまるか!」 意志を乗せた銀閃は、互い無くインヤンマスターの命を削り取った。 けれども、覚醒。 運命の恩寵を削ってでも尚立ち上がるその姿に、『異常』をこの上なく感じるウーニャが、吐き捨てるように言葉を織り成す。 「とどけ……っ!」 面接着。壁を、天井を自在に伝う彼女が、ホールをかばい続けるインヤンマスターの守護を抜けるのは難くとも、 ――ここはあなたの世界じゃないよ。 確率の差を超えてこそ、彼らは、己をリベリスタと称するのだ。 唯の、一撃。 それだけで、異界の門は呆気なく消失する。 瞠目するインヤンマスターの首が、それと共に鮮血を撒き散らしたのは、櫻霞の二丁拳銃が空けた風穴が故。 「さて、哀れな駒鳥になるのは誰からだ?」 「……嗚呼」 淡々と告げた彼に対し、歎息を吐き出したのは、問うまでもない。 生廼は、その『無惨な結末』に対して、これ以上もない無念を、痩身から滲み出していた。 「……みんな、酷い」 瞳からはぼろぼろと涙を零しつつ、彼は持っていた大降りのナイフを、拳銃へと持ち変える。 「きらきらのものに、すてきなものに、みんななれなくなった。 かわいそう。かわいそう。みんな、もう、変われない」 「――――――っ」 銃口が天を向く。 それが、何を意味するのかを本能的に察知したリベリスタ達が、一斉に彼へ殺到するが、 「……だから、さようなら」 『B-SS』。 そう名付けられた凶弾の雨が、教会内を埋め尽くした。 狙われたのは、リベリスタ達だけではなく、 エリューションと成り得なかった一般人、十数名。 「……き、さ」 誰かが、貴様、と言うより早く。 次いで、生廼は『断章』に侵されたリベリスタの一人に、自らのアーティファクトを放り投げた。 「――え?」 疑問と、安堵と。 受け取った側――フランシスカは、それに喜色を浮かべた顔をして。 ――それが、血に染まるのは、僅か十秒も経たぬ内。 リリが、都斗が、『断章』を受け取った彼女を狙い始めた。 「フランシスカ……!」 「……ああ、こういう使い方も、有るんだねえ」 鉅が、葬識が口々に告げて、同士打ちを始めた仲間の抑えに入る。 「アーティファクトを破壊しろ、そうすれば所有欲も行き場を無くす!」 ユーヌが語調を強めて、三名の仲間を抑え、或いはアーティファクトの破壊に動き出す。 そして、それを見逃すほど、敵方も動き出す。 ホーリーメイガスが言祝ぐ翼の加護を以て、両者は教会の窓を叩き割り、逃走する。 「彼奴ら……!」 「――待って」 逃すか、と銃を構えた福松に、ウーニャが制止をかける。 「悪いけど、これ以上の深追いは駄目」 「何故だ!?」 「熾竜くんからの連絡が入ったのよ。 教会外の戦闘は終了。敵リベリスタからの逃走は成功したけど、向こうはかなりの余力を残しているらしい。……こっちに乱入する可能性が高いわ」 「……!」 握る銃床ごと、近くの壁に拳を叩きつけ、福松が怨嗟を漏らす。 自分達の班も、フィクサード側が防御の態勢に回り続けていたために、体力の損耗や怪我の度合いは深くない。 それでも、彼のアーティファクトによって混乱状況にある今を突かれれば…… 「くそ……!」 動き出す方向は、混戦を続ける仲間達の元であった。 ● 「――――――行こうか」 訥、と呟いたのは、生廼だった。 残るホーリーメイガスは、え、とだけ呟いて、そうして直ぐに、うなずきを返す。 「火力。火力が、予想以上に上回られていた。『蒙昧』も……彼処までリソースを惜しまずに消されればね」 「井伏サンらには申し訳ないッスけど……」 「うん。遺体は、回収できない」 死した四名の仲間達に、胸中のみの黙祷を捧げながら、両者は教会から遠ざかっていく。 放り投げた『断章』により、一事の混乱が得られているものの、其れも直ぐに冷めやるだろう。 外の気狂いリベリスタ共も、此方になだれ込む可能性が高い。ほぼ余力を使い果たしたこの状況で、三つ巴などはまっぴら御免だった。 「……目覚めさせても、連れてこれなかったッスね」 「仕方がないよ。僕等の力が、足りなかった」 ――次は、もっと。 そう呟いた彼らは、夜の闇にゆるりと溶けていく。 幾許かの後、教会に入った『リベリスタ』達は、逃走するアークのリベリスタと若干の抗争をした後、生き残ったエリューション、助けきれなかった一般人の殲滅に移ることとなる。 二月十四日、愛しき人に想いを告げる日。 この日、総計三十余名の一般人が、『正義』と『悪』により、命を失った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|