●カウントダウン 高速道路。 それは基本として自動車のみの通行を目的とした道路だ。 一般道路よりも非常に速い速度を出せる為、連日連夜、多くの者らに渡って利用される。 『3……』 しかし一度事故が起きれば悲惨だ。 通常よりも速い速度が出せる為にこそ、壁や車に接触してしまえば衝撃も倍増する。 『2……』 特に昼間など利用者の多い時間帯に起こった場合。 巻き込みに巻き込みを起こし更なる被害をもたらすだろう。 ましてやソレが―― 『1……!』 “意図的”に引き起こされた物なら、尚更。 ●無機質ナ物 衝撃が走った。 一度では無い。立て続けに五度。一拍の間を開けて、連続的に爆発音が鳴り響く。 地を揺らす衝撃は各地に伝わり、異常事態を知らせるが―― 『爆発物というのは本来専門ではないのですが』 そんな異常事態を引き起こした“人影”は、ゆったりとした口調で言葉を紡いだ。 “ソレ”がいるのは爆発地点から僅かに離れた森の中。衝撃こそ伝われど、被害はこない安全地帯だ。 彼は言う。己が隣に居る、一回り体長の大きい、己が“同類”へと。 『ソウ言ウナ……我ラニ余裕ハ、余リ無イノダ。私ノ近クニ偶々居タ貴様ガ悪イ』 無機質な言葉が紡がれる。 話す言葉は意味ある言語なれど、酷く感情が籠っていない。 それもそうだろう。ソレは、人の形こそしているものの人では無い。 人の形を司った――異世界の機械なのだから。 『ま、別に構いませんがね……それでは私はこれで』 『ン? 貴様ハ来ナイノカ?』 『私は現場から逃げようとする連中の方を叩くとしますよ。そちらの方が楽ですし。 手伝った報酬として後でいくらかお零れはください。それで結構』 ソウカ。とこれまた無機質に問いを返す巨体。 その体長はおよそ二メートル後半だろうか。機械で出来たと見られる長い槍を片手に、見据えるは爆破地点。現場そのものは木に遮られ見えないが、黒い煙が複数立ち上っていれば被害が出ている事は想像に容易い。故に、 『デハ、ココカラハ――直接、弱キ有機物共の狩リヲ行ウトシヨウ』 往こうとする。被害が出たのだ。逃げ惑う“有機物”共が大勢いる事だろう。 それらを、狩る。 彼らの真意は分からないが、一般人を抹殺する事を主眼にしているのは明らかだった。 『そう言えば……フリューゲルらが遭遇した有機物の中には、 我らを超える力量を持った有機物がいると聞きましたが、ソイツらに出会ったらどうするつもりで?』 『アァ、ソンナ話モ有ッタナ。マ、ソンナ連中ニ会ッタラ、ソイツラモ狩レバイイサ』 区別無し。 有機物が、人が居るなら狩る。強いなら闘う。闘って、狩る。それだけだと。 『それでもし、連中の方が貴方より強かった場合は? あ、私は弱いんで速攻逃げますけど』 『貴様少シ正直スギルダロウ。 私モ別ニ、逃ゲテモ良イシ……ソレモ出来ナカッタ時ハ……』 マァ、ソウダナ…… 『ソノ時ハ、私ガ狩ラレルダケノ話ダ』 ●ブリーフィング 「高速道路をアザーバイド共が爆破するらしい――故、君達には至急現場へ向かって貰う」 『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)が語る言葉は早口だ。緊急の事態なのだろう。 「敵は二体。長い槍を装備した、識別名“ピーケ”と。小型の“ドラート”だ。 主に暴れているのはピーケの方でな。目的はよく分からんが、一般人を積極的に狙っている様だから、なるべく阻止してくれ。今回の目的は、コイツの討伐が最優先だ」 それからもう一体。こちらはあまり優先度は高くないが、 「ドラートの方は高速道路からは少し離れた所で逃げた一般人を狩っている様でな……君達が接触か、軽い戦闘でもしたら直ぐ逃げるとは思うのだが、放っておけば馬鹿にならん被害が出る。コイツも何とかして欲しい」 ドラートを止めようとするなら、一人か二人かは送り出す必要があるだろう。 そこからピーケの現場。高速道路に向かうには、最速でもおよそ二十秒かかるかと思われるらしい。 「なお、高速道路はおよそ100mに渡って爆破の被害が出ている。 最初の爆破地点から後は20m間隔で爆発物は仕掛けられていたようでな。 その内、爆破中心付近は地形が悪くなっている様だからそこで闘うのは避けた方が無難だ」 「ピーケの初期位置は?」 「ほぼど真ん中の50m地点だ」 全力で移動しても幾らか時間はかかる。 その内に何人か一般人に被害は出るだろう――彼は、本気で人間を殺しに掛ってきているのだから。 「それでも現場に君達が行けば被害を少なくすることは出来る。 出来なかった事では無く、出来た事を見据えて貰いたい。……では、頼むぞ諸君」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月21日(木)23:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ワイヤー 悲鳴が走る。 高速道路から少し離れた地点。凄惨な事故現場から離れようとする一般人を狩る物が居た。 ドラートである。 逃げ惑う戦闘力の無い一般人は、彼にとっては狩りやすい“豚”だ。至極淡々と、己が目的を達する為に糸を張り巡らせ待ち構える。実に楽な、楽な作業であった―― しかし、 「モノマ――糸を切る! そこを抜けろッ!」 その楽な作業は『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の介入によって崩れ去る。 極小の糸。それらを彼は須らく“目”で逃さず捉え、切断するのだ。 剣を振るい、加速して。糸を切り、ドラートへと急速接近すれば。 『何、まさか件の有機物共か!? だが対応が速すぎる、何故だ?!』 「るせぇ。さっさと潰れやがれよ」 次いで。翔太が抉じ開けた糸のほつれを『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658)が突破する。 先行した翔太に一歩遅れて、されど流水の如き動作は糸をすり抜け、遠方から瞬時に間合いを詰めた。繰り出した右手がドラートの顔面を掴み、直後。 『――ゴッ?!』 地に叩きつける。 前進する力に重力と、己が体重すら全て利用し、ドラートのバランスを崩して一撃。押し潰さんとする超重の勢いをぶち込めば、機械の頭部に負担が掛り、亀裂が走った。 更に動く。モノマは再度距離を離し、翔太とも一定の間合いを開け、範囲攻撃の余波に巻き込まれぬ様に布陣するのだ。一般人へ危害が及ばぬようにブロックすれば、ドラートの自由をほぼ阻害出来て、 「これ以上工作も、犠牲も出させはしねぇよ――凍ってろ」 翔太が更に加速。 一歩の跳躍に全力を込めて。時すら置き去りにせんとする疾走は敵の認識を超える。 『――!』 無数の斬撃が時を刻んで吐き捨てた。 痛みを訴える声よりも早く。反応する行動よりも速く。 後に残るは固め凍った“時”のみで。 「お、ラアアアッ!」 そしてそこへ。駄目押しとばかりに再度モノマが突き進む。 放たれた針金を、ワイヤーを。己が纏った炎で打ち破り、目指し目指すはただ一点。 ――倒れろ無機物野郎。 思考を纏め、殴り飛ばす。炎が敵対者を包み込んで、 全てを固める氷と。全てを焼き尽くさんとする炎がドラートを襲えば。 『ヌ、グッッォオオ! おのれェ! この有機物如きがァァ!』 重なる攻撃に無機物は憤怒する。 されど駄目だ。目的を見失ってはならぬとなんとか冷静を務めれば、退却を選んだ。 邪魔が入った以上もはや無理だと判断したのだろう。リベリスタらに背を向け退却しようとした――ドラートへ、 「おい。ちょっと待てよ」 モノマが声を掛ける。 「無機質たれ……あんたらがよく言う言葉だ。その割には個性や感情が垣間見える瞬間がある。 フリューゲルは逆恨みもあるって言ってたな。こいつはどういう事だ?」 更に言葉を続けるは、探りだ。 彼らの真意を知る為、彼は言葉を放ち続け、 「なぁ。お前ら本当は人間が羨ましいだけだろう? 生身の体を持ってるのが羨ましくてたまらねぇんだろ。 他人が持っているモノが、そんなに青く見えるのか?」 その問い掛けを無視する事は出来た。出来たのだ、が、しかし。 『――』 ドラートは答えた。己れらが有機物を敵視する理由はソレでは無いと言いたかった為に。 逆恨みの理由。それは―― ●長槍 同時刻。高速道路事故現場。 そこは、悲惨だった。 逃げ惑う男が。事故車から助けを求める男が。 家族を救おうとする女が。車の隅に隠れようとする女が。 須らく、狩られている。生きてさえいるのなら全てが殺戮対象だ。 狩人と牙無き獲物の関係に逆転は無い。運良く逃れたとして、それは一体何人に成る事か。 悪夢は終わらない。この場に居る有機物が散り果てるまで。 「たくよ……」 だがその時、声が聞こえた。 「高速道路で暴れてんじゃねぇよ。……俺のツーリングサイクル減らす気か? テメェは」 ピーケの独断たる狩り場であったソコに『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が乱入を果たす。数々の障害物と成り果てた車を文字通り“飛び超えて”。最短の道のりを突き進んだ彼は、斧を振るう。 全力の一撃だ。己が持てる全てをその一撃に込め、一閃。さすれば、 『チッ――』 ピーケが即座に反応する。機械式の槍の柄。そこでランディの攻撃を受け止めんとして、 交差。直後に、衝撃。 防御の上から突き破らんとする究極の砲弾がピーケの全身を襲った。そして、 「こっちは危ないからあちら側に避難して下さい! 大丈夫ですので! 落ち着いて、行動して下さい!」 ランディとは逆側。『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が警官に扮した格好で、ピーケから離れるよう避難誘導を行っていた。 良い策だ。この場において彼が“本物の警官”であるかどうかは、一般人にとってみれば関係無い。 生死の迫る極限状態下。 そこで重要なのは救いの手が伸びる事だ。更にその救いの手が、緊急時に頼りにする警察機構だと“思われる”存在なら、言葉に縋る者は大勢に上るだろう。 故に避難の声に従ってくれる一般人は増えた。その上で、未だ恐慌に囚われている者に対し、 「大丈夫だ! 助けはある! だから――」 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が軽快な口調で言葉を紡いだ。 大丈夫だと。なぜなら己らがいるから。狩人は倒すから、大丈夫だと。 絶対になんとかなる根拠は無い。 しかしそれでも。不安は人を殺すから。救助する側が失敗すると感じて行動するなど洒落にもならないから。 だから―― 「もうちょい頑張って、俺と一緒に生き残ってみようぜ!」 自信満々に、言い放つのだ。 不安も、安堵も、感情は伝播する。ならばせめて少しでも安心を与えようという、それは彼の気遣いで。 「ほら。ぼやぼやしてると死神が来るわよ。早く逃げなさい」 そして『死神狩り』棺ノ宮 緋色(BNE001100)の避難誘導も行われている。 彼女は持ち前の翼で飛行を行いながら安全なルートを指示。その姿に面食らう一般人もいるようだが、更に異形たる“無機質な敵”がいる所為か混乱はあまり無い様だ。損傷・炎上した車を避け、なるべく安全な地帯を通る様に誘導している。 『オノレ、逃ガスカ……!』 しかしそれらをそのまま見逃す程ピーケも甘く無い。 手首内部に搭載されている小型の投げ槍。それを吐き出す様に手中へと複数取り出し、瞬時に放つのだ。さすれば、一般人の血肉など容易く穿たれ、その命を奪われていく。 簡単に散る。命が。その光景を見て、 「たく――相変わらず気に食わねぇ事ばっかりしやがるな、テメェらは」 『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が漏らす声は、侮蔑の色だ。 「はいはいドーモコンニチハってな。えーと……なんだったけ。クリンゲとか言ってたか? 前の奴は。 ともかく、アイツと同じくスクラップにしてやんよキチロボット野郎」 『ホウ……“クリンゲ”ヲ仕留メタ有機物ノ一人カ』 「あぁ。だからさ」 言う。己が右手に装着した、ガントレットから砲身を剥き出しにして―― 「弱い物苛めに夢中に成ってると、そのままおっ死ぬぜ?」 『ヤッテミロ有機物如キガ』 射撃した。 轟音を鳴り響かせ、瀬恋の一撃はピーケの顔面へと向かい、直撃。その銃弾と槍の射撃の中を、 「そちらの流儀が虐殺なら~こちらも相応の御出迎えをさせて頂きますね~」 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が突き進んだ。 武器として取りだす物はチャクラム。指で回し、一定の遠心力をソレに満たせば。 「行っきますよぉ~!」 チャクラムを前方へと流し飛ばした。 緩やかな、それでいて確かな攻撃意思を内包したその一撃は、金属の身を削り飛ばし、砕かんとせん威力で。 『ヌ、成程。確カニ私ノ同胞ヲ屠ル事ダケハアル連中ダ』 ダガ、 『狩レバ良イ事ニ変ワリ無シ。朽チロ有機物』 「言ってろ。どっちが狩られる側なのか……教えてやるよ」 ランディが短く受け答え、再び機械とリベリスタは激突する。 高速道路の上で、死闘が本格的に始まろうとしていた。 ●死力 「舐めた真似してくれた代償は払ってもらうぜ――行くぞッ!」 黒と銀。二つのナックルダスターを拳に構えて、隆明は地を駆ける。 狙うは行動の麻痺だ。跳躍し、両の拳に力を込めて、 「ッ、オラァアアア――!」 殴りつける。 ただ眼前の敵を滅さんとばかりに殴打を繰り返す。周囲の味方前衛。その役割を担っている者には当たらぬ様、注意を払いながらピーケへと攻撃を重ね続ければ。 『図ニ乗ルナ小僧』 槍が来た。隆明から見て左。横から大振りの形で、長大な槍が振るわれる。 アスファルトで出来た足場ごと抉って、勢いをそのままに。ピーケ周辺に展開したリベリスタらを纏めて薙ぎ払うのだ。一部の者らはその衝撃に身を吹き飛ばされる、が、 「強敵相手に燃えるとか~私、そういう性格じゃないんですけどね~」 吹き飛ばされた先から一歩でユーフォリアは跳躍し、再度ピーケとの距離を詰める。 「でも~貴方を自由にさせる訳にはいきませんので~暫くの間御相手願いますよ~?」 そして間伸びする口調と共にチャクラムを放った。二対のチャクラムはそれぞれ別の軌道を描き、ピーケに迫る。 真正面からでは無い。一つは上から。もう一つは下から回り込んでの攻撃だ。角度をそれぞれ別個とした多角的な斬撃は金属の身を抉り、傷を付け、 「よぉ、こっちにも居るからな?」 直後にランディが斬り込む。ピーケにとっての死角から斧をぶち込めば、体が揺らいだ。 吹き飛ばされ、倒れそうになるその体に。 「テメェら人間殺しまくって何がしてぇんだ? インベーダーよろしく地球征服でもしてぇのか?」 刻んだ掟を力とし。追撃とばかりに瀬恋が拳を叩き込む。 左脚を踏み込ませ、右拳を体の奥から射出する様にピーケの腹部へと。金属の身を軋ませる衝撃を炸裂させた。 「――ま、テメェらの目的がなんだって構わねぇさ。 来りゃあぶっ潰すし、来なけりゃこっちから潰しに行ってやるよ」 『ハハ、潰シニ来ル? 安心シロ。ソノ必要ハ、無イ……!』 されどピーケは凌ぐ。脚部に力を込めて、強引に体勢を直せば槍を直線に。 『ォォ……!』 瞬間。長槍は空を突き破る勢いで瀬恋へと。 突きの形で反撃と成したソレは高速。意趣返しだろうか、腹部へと突きこめば直撃した箇所が抉れて―― だが。 「あら、そう上手くいくと思わない事ね?」 緋色だ。紡ぐ言葉は、癒しの詩。 リベリスタのみならず一般人をも対象にしたソレは、皆の傷を塞いで行く。負傷した部位を中心に。抉れた腹の痛みが徐々に薄まれば、まだまだ闘える。 緋色自身も距離を取っており、なおかつ隆明が壁の様に立ち回っている為、この癒しの歌もまだまだ続く事だろう。更に、 「お前達はどうして――」 悠里が往く。 燃え盛る道路。車と“肉”の焦げた臭いに憤怒の感情が渦巻いている。 何故だ。何故そうもお前は―― 「人を、そんなに無意味に殺せるんだ!!」 叫ぶ。 許せない。どうして人を殺す。何の恨みがあると言うのだ。自分達に。 『フン……仮ニ。ソノ問イニ答エガ、理由ガ有ッタトシタラ、ドウスル? 我ラノ狩リヲ、黙認シテクレルノカ?』 「いいや止めさせてもらうよ……!」 なぜなら、 「どんな目的があって、どんな理由があろうとも! こんな事は許されないッ! だから僕は――お前達を倒す! 人を、護ってみせるッ!」 『ナラバソノ覚悟、試サセテ貰オウカ……!』 取り出す。小型の投げ槍。再び複数本取り出したソレを、 『ォォォオオ――!』 雄叫びと共に、放つ。 その攻撃はリベリスタと、ギリギリ射程圏にいる一般人を目に付く限り殺害せんとするモノで…… だから、だろうか。 悠里が、緋色が。反射的に一般人を庇いに出たのは。 「ッ――! 言、ったろ……! 誰も犠牲になんてさせないってッ!!」 「全く……手間は、掛けさせないで欲しいもの……だけどね……!」 その傷は浅く無い。回避する訳でも無く、庇う為、真正面から受けた故に。 されど後悔などありはしない。 人を護る事に恥は無く、己は己の在り方を貫いているのだから。そして、 「悪いな……少し遅れたが、合流させてもらう!」 翔太の声がAF越しに届き、到達を知らせる。無論近くにはモノマも居て。 ドラートの場所から急いで駆け付けて来たのだろう。双方、邪魔な車は面接着で乗り越えて最短距離を進んでいく。道中にドラートの張った罠が無いかと警戒していたようだが――それは杞憂に終わった。 なぜなら爆発後に現場へ訪れたのは“ピーケだけ”である。ドラートはピーケに付いて行かず、離れた所へ行き人を狩っていたので、現場に再度罠を仕掛ける時間や意思は無かったからだ。 ともあれ到着した彼らは即座に攻撃を開始する。 逃がさぬと。逃がせば確実に面倒な事になると強く認識し、故に最初から全力で斬撃と打撃をぶち込めば、 『グッ、ォォオ! マダダ! マダ私ハ――』 「いいや諦めな。俺も狩人だが……」 ランディが斧を構えて。 「お前に次の機会は、ねぇんだよッ――!」 ――薙いだ。 凄まじい衝撃がピーケの全身を襲い、その身を強制的に後退させる。 「このまま野郎を吹っ飛ばし続ける! フォローを頼む!」 「今から狩りの獲物はテメェだッ! 二度と動けないぐらいスクラップにしてやんぜ!!」 次いで隆明が接近し、拳を叩きこんで逃げ場を無くす。 逃走。逃走は、考えた。だが無理だ。完全に囲まれている。 先の人数が少ない状態ならともかく、今と成っては至難だろう。故に、 『ナラバ勝ツマデ!』 長槍を振るう。再度放たれた高速の刺突は、中距離を保つべく動こうとしていたユーフォリアが狙いだ。 穿たれ、彼女の身に激痛が走る。思わず膝を付きそうになる、その一撃に。 「あやや~ピンチですね~……でも、そっちの方がもっとピンチみたいですよ~?」 ユーフォリアは耐える選択をした。 もう少しだ。機械の身には度重なる攻撃によって亀裂が走っており、限界が近い事が見受けられる。 「ねぇ、貴方は死ぬのが怖い? 私は死そのものが怖いわ」 その時だ。緋色が、無機質なる物へと、言葉を紡ぐ。 死が怖いのかと。死はそこで途切れてしまうから。 それは生物としては当然で、だから生物は死から足掻く。 だけれども、 「どうなのかしらね。貴方達……無機質な貴方達は。死を恐れるのかしら?」 私達と同じ様に。それとも…… 「恐れすら、知らないのかしら?」 『死……死ダト……?』 言った瞬間だ。ピーケの様子がおかしい。 『死ハ……怖クナイ……ダガ嫌ダ。“死を待ツ”のハ嫌だ。 何もセず、たダ朽ち果テて逝く己を見るのは嫌だ……!』 だから、 『だから死ね有機物! これは狩り故に! 貴様らの、命をォォオオ――!』 長槍を振りかぶり、周囲を薙ぐ。 必死に。人間を狩らんとして、槍を振るっていく。だが。 「させないよッ! お前は、ここで倒す! 倒れるべきなんだ!!」 悠里が電撃纏いし武を舞えば、ピーケの勢いを一瞬止める。 そして、止まった、そこへ、 「じゃあなエセ狩人――これで、終いだ」 ランディが止めとばかりに、ピーケを後方へ押しのける一撃を叩きこんだ。 『――!』 さすれば、もはや声も出ない。 亀裂が大きく。総身に広がって行き―― 直後。周囲を巻き込み、大爆発を引き起こした。 ●理由 結果から言うと、自爆の被害は軽微だった。後方へと押しのけたのがかなり幸いしたか。 少なくとも最大威力を受けることなく、戦闘を終わらせる事が出来た様で。 「おーい! 誰か逃げ遅れてる奴はいねぇか――!?」 故に、比較的傷が浅かった隆明は未だ負傷者がいないかの捜索に出ていた。 大分人は避難出来た筈だが、意識を失っている者がいないとは限らない故に。 一方で瀬恋はピーケの残骸を拾い集めていて、 「……あー、んだよこれ。ほとんどコナゴナになってんじゃねーか。チッ。 まぁいくつか持って帰って、真白のオッサンにでも見せてみっか」 重要そうな部位がほぼ残っていない。焼け散っているか、あるいは特に重要そうでない部品がちらほらと残っているだけだ。いずれにせよ自分では価値が分からない故、片っ端から回収している。そして、 「終わったか。あんまりピーケとは闘えなかったが……ま、とりあえず帰還してむっつりーに報告しとくか」 ドラートとの闘いが重点だった為か、翔太の傷は糸の様な切り傷が多数見られる形だった。 逆に言えばそれだけで、だからこそ軽傷でもあった。それは共に闘ったモノマも同じだが、 「……」 モノマは思いだす。ドラートが退く直前の問い。 それに答えた、ドラートの言葉を。 『私達は肉体を羨ましく思った事は無い。ただ、恨みがあるのだよ』 それは、 『私達を勝手に作り出し、そして勝手に“滅んで”いった有機物共に、な。 この世界の有機物に直接何か恨みがある訳ではない……だからこその、逆恨みだ』 有機物を恨む理由。それは殺す理由とは違うが、上位世界の生命体が原因の様だ。 未だ謎は多く、恐らくはまだまだ奴らは来るのだろう。悩みの種はまだまだ付き無さそうで。 ただ、今は。 「……ま、とりあえず救助でも手伝うかね」 目前の人達を助けようと。無機質らの行動の逆をする為に、彼は往く。 狩りは、悪夢は、終わったのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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