● その日、『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)がその場所を通りかかったのは、偶然だった。 「……オォオ!」 「は?」 なんか悲壮というか血でも吐いてるんじゃないかみたいな声に、そっちを振り向いた、振り向いてしまった。物陰からにじり寄るその姿。はあはあと荒い息を吐き、梅子に向けて、がば、と両腕を広げ―― 「きゃあああああ!!」 夜の街に、梅子の悲鳴が響き渡る――。 ● 見慣れない顔だが、『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)という女はフォーチュナらしい。 仕事着は占い師然とした(?)ローブ、なのだそうだが、今はジャージである。髪に寝ぐせついてる。 「梅子が変なわめき方してるって言うから、からかいに――こほん、様子見に来たんだが」 そのことは既に噂になっている。その話を耳にしたから、リベリスタもここに来たのだ。 ――もしかしたら、今自分たちを襲っている怪異について、対策が聞けるかもと考えて。 「ああ、やっぱそうか。梅子だけじゃなさそうな気がしたんで、さっき連絡を回したんだ」 自分たちのAFに届いた文字列に、目を落とす。『急募:チョコで困っている人』 そして菫の背後に目を向ける。 そこにはタオルで目隠し、猿轡をされながらも激しく唸り、暴れ喚く梅子の姿があった。 「ひょほおおおお!!(チョコおおおおお!!)」 頭を抱える。 街の中では、別のリベリスタが「チョコくれええ!」と喚く声も聞こえている。 「大量発生してるE・フォースなんだが、名前は……あれだ、『チョコクレ』でいいよな?」 投げやりな菫に、投げやりに頷くリベリスタ。 「革醒者にくっついて、操ってチョコを欲しがる。梅子の頭の上にも乗ってるな」 菫の言うとおり、梅子の頭の上には、手のひらサイズのなにかが乗っているのがわかる。 丸い頭、太い尻尾。目にして一瞬、リスか鼠かと思ったが――どうやら手足の間には皮膜がある。 ……見なかったことにしたい。 「放っておいても消えるけど、チョコ貰ったら気が済んですぐ消えるらしいから。これ拡散しといて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月24日(日)23:29 |
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■メイン参加者 32人■ | |||||
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● 「ぐわあああ!無敵のリベリスタなのにやられてしまったー! というわけで、チョコをくれ!」 突如発生した謎のエリューション、チョコクレが居ようと居まいとこの男の行動はきっと大差なかったに違いない。結城 竜一は紛れもない勝ち組のはずなのだが、 「うっひょおおおお! 俺は勝ち組になるんだああああ!」 この男、これ以上何を望むというのか……! 「欲しいって言うんならチョコあげようじゃない!」 ぴこぴこ、と。竜一の目の前で綺麗にラッピングをされたチョコを振って見せた片霧 焔。 「ほーら、コレが欲しいんでしょ?」 「チョコだ! チョコっとでいいから! チョコだけに!」 「……これが音に聞く『合縁奇縁』の正体、ってやつか?」 アーク所属のリベリスタたちの資料を幻想纏に映し出し、菫が唸る。――まだ名前を覚えきれていないんだ、とのこと。 「菫おねーさあああん! チョコちょうだいー!!! チョコだけじゃなく仲良くしよおお! チョコ食べさせて! あーんして! せくしいい!」 「あーん、ぐらいは構わんのだが……ああ、助かる」 きょろきょろと周囲を見回した菫に、焔がはい、とチョコを渡す。 「仕方ないしね! 『チョコクレ』がさせてるんだしね! うひょー!」 「量産したロシアンルーレットチョコの処理先が見つかって良かったわ。ええ、本当に」 「えっ」 焔の不穏な言葉に、竜一が一瞬停止する。 「気のせいよ。寧ろ聞こえないほうが幸せって事もあるでしょ」 「さて、あーんするんだろう? 結城竜一」 ロシアンルーレットの結果は――意地の悪い笑顔を浮かべたフォーチュナには、もしかしたら見えていたのかもしれない。 「うわぁ……これはひどいでござる……」 「正直放っておいたらどうなんだろうと思わないでもないけど……」 「ひょおおおおお、ほおおおおおおお」 未だチョコ、チョコと唸る梅子を前に鬼蔭 虎鐵はとりあえず写メを撮り始め、設楽 悠里はずれ落ちそうになった眼鏡をかけ直す。 ちなみに放置したら放置したで、頭の上のげっ歯類モドキは消えるのである。拗ねて。 ただ、それまでにそこそこの時間を要するだけの話で。 「折角の日にエリューションに取り憑かれっぱなしっていうのも可哀想……なのかな?」 「ううむ、とりあえずこれは止めないといけない気がするのでござる」 だいたいそういう判断である。 放っておいてもおもしろ――いや、害はないのも事実だが、ともかくうるさく鬱陶しい。 「はい、梅子ちゃんどーぞ。正気を取り戻したら改めてチョコを上げるよ。 梅子ちゃんからのチョコは……正直期待出来ないかな……」 転がされたままの梅子の、頭の上にちょこんと(チョコだけに?)おいてみる悠里。黒髪の上で、エリューションがオロオロし始める――こいつ、自分は裏方だとでも思っているらしい。あと梅子からのチョコとか欲しいのか。ヘタすると銀の狼だけでなく白い悪魔からもロボ大好きされてしまうぞ。 「うわああああ美味いでござるううううう!! このウィスキーボンボン美味いでござるうう!!」 虎鐵が、その目の前でこれみよがしに食べ始めたチョコに――しかし、梅子は反応を示さない。 まだ未成年ですから! 「ううむ。あとで普通のチョコを買ってきて、梅子を餌付けするでござるかな」 視界にちらつく危険な白い羽を、虎鐵は無視してみる。 地雷を踏んでる自覚はあっても気にしない。漢だ。 猿轡をブチブチと噛みちぎり始めたバーサク梅子を見て、那由多・エカテリーナ(山田・珍粘)が人差し指を顎に当てる。彼女の手元には、複数のチョコが入った箱がある。 「チョコを作っていたら、少し試作品を作り過ぎてしまいました」 人に渡すためのチョコだったらしいのだが――那由多は「あ、」と何かに気がついたように笑う。 「別に毒なんて入ってませんよ? おまじないとか、そういった類の物が混ざってるだけですから」 酷くて、未知の領域の味って位じゃないですかね、と。そう言いながらひとつを選び。 「梅子さんには、ちゃんと完成品の一つを上げますから安心してねー」 二人の間の、本名がアレな女性という共通項と親近感。 「野郎が焼いたのでも良ければ受け取れーい」 「えいやーえいやー!」 須賀 義衛郎の焼いたガトーショコラを、フランシスカ・バーナード・ヘリックスも一緒になってばら撒く。 「色々と一杯配って回るつもり。 みんな幸せになってしまうといいと思うよ。それならわたしも結構うれしいし」 決まった人にあげる予定もないし、と付け足して、フランシスカはガトーショコラをあっちにこっちにと配って回るわけである。 「既製品のチョコ菓子を配っておしまいというのも愛想がないんだよな。 ……配り切ったら、戻って仕事の続きだ。今日は定時に上がらないといけないんでね」 リア充が何か言っている(血涙)。 取り急ぎ自分のノルマ(?)を配り終えた義衛郎が、手元に残った最後の一つを菫に渡した。 「はじめまして揚羽さん。これから、よろしくどうぞ。ようこそ、三高平へ」 「これは自作なのか、器用だな。私も作っては見たが……」 ガトーショコラを受け取るなり、もしゃっと食べ始めてしまう菫である。 そこに、御厨・夏栖斗もやって来たが――彼の頭の上にも梅子と同じ何かが乗っているのである。 「ちょこくれー! っていうかさ梅子お前本人がチョコ色だからチョコじゃね?」 「チョコ色……いい表現ねそれ。ってあんたもチョコ欲しいの?」 「女の子からもらうのってなんかいいじゃん! 彼女はいるけど、でも欲しいじゃん!!」 すっかり落ち着いた梅子が投げかけた疑問に、夏栖斗の答えもチョコクレ関係無さそうである。 「――ちょうど、作ってみたのはあるんだが」 二人に声をかけた菫が、すこしだけ迷った様子を見せる。 「おねーさんみたいに綺麗な人がふえるのはうれしいからチョコ頂戴!」 渡してもらう、それだけでチョコクレは満足して消えてしまうわけではあるが。 「んじゃ、いっただきまーす! ……っ!」 目を白黒させ、顔色を青くした夏栖斗が慌てて飲み物を手にし、全部一気に飲み込んだ。 真っ青な顔の夏栖斗、遠くを見る菫。わけのわからないといった顔で首を傾げる梅子。 ――菫は料理を作らない。作れない。いわゆる『殺人料理』の使い手であるがゆえに。 「お、美味しかったよ?」 頑張る夏栖斗。男の子だからソレくらいはできるっ! ● 「へっ、バレンタイン? 何言ってんだ、あんなもん所詮は製菓会社の陰謀だろ? 大体チョコレートなんて甘いものは好みじゃないしリア充が騒ぎ立てるのもムカつくぜ。リア充どもめ、爆発しろ!!」 ↑Before After↓ 「チョコ置いてけ なぁ! お前チョコ持ってるんだろう チョコ!」 斜堂・影継くんの姿に何処かの武将がかぶって見えてもきっと気のせい。 「日本では二月にお菓子を与え合うという話を小耳に挟んだのでゴザイマスガ、オォ……コレハ……可哀想に……これでは…極東の空腹地帯でゴザイマス……」 濃い描線かつシルエット多用で描かれそうな影継に、アンドレイ・ポポフキンが大げさに首を振る――と言っても某北の連邦も解体消滅後にはバレンタインも知られてきていたりはする。男性でも女性でもプレゼントをする日として馴染みつつあるあたり、かつてその地域で恋人の日の祭りがあったりした土壌もあるのかもしれない。 「サ、どうぞ、この……そこのコンビヌエンストアーで購入した……」 一拍ためて。 「美味しい棒を……。 遠慮しなくていいのでゴザイマス。サ、この……チョコでコーチングされて黒々とした」 もう一拍ためて。 「美味しい棒を……」 ――アンドレイがそうやって情感たっぷりとためてる間に、妖怪チョコおいてけはふらふらと別のチョコの匂いにつられて足を動かしていた。その先にいたのは、悠木 そあら。 「恋人に恵まれた人もそうでない人もチョコクレに取り付かれた哀れに徘徊してる人もそあらさん特製どりんぽっぷちょこを進呈中なのです」 彼女が配っているのはいちごソース入りのトリュフチョコ。 ホワイトチョコでコーティングされたそのまるっこい形状に描かれているのは、(´・ω・`)。 ――なお、そあらが持っているかごの中には、ひときわ丁寧にラッピングされたチョコが混じっている。 彼女の想い人用のそれは、いちごリキュール入りのガナッシュに本場ベルギーチョコでコーティングした特別仕様――うう、美味しそうな! 割と悲惨な様相で、カイ・ル・リースがさすらっている。 「「「「ひょほおおオォー!」」」」 叫ぶ声は彼一人のものではない。呼応するかのように、チョコクレに憑かれた者達が彼とともにさまよっているのだ。さあ共に行こウ共にさすらおウ、そのチョコ欲を解き放つのダ。 「「「「ひょーホーオおオォー!!」」」」 涙と鼻水を流しながら、チョコを求めるインコ頭。――娘さんが見たら泣きそうだ。 「チョコ欲しそうな人、発見です!」 「大事に取っておくがいい、未来の大スターは値上がり間違いなしのお得物件だぜ!」 鳥達を見つけ、セラフィーナ・ハーシェルと白石 明奈は俄然テンションを上げた。 「チョコに飢えてる人がいると聞いて、私参上です! バレンタインは楽しくあるべきです。チョコを作って、プレゼントして。チョコを貰って、美味しく食べて。そんな幸せな日にしたいじゃないですか。義理チョコもしっかり頑張りました。手作りチョコです!」 天使だ。天使がいる。セラフィーナが配るチョコは、様々な動物の形。犬、猫、鳥、兎……。 「アイドルオブアイドルたるワタシは皆に夢と希望と愛をお届けするのがお仕事だからね。 今年もチョコを皆にお裾分けするため、たっくさん用意してやったぜ! おっと、大量に用意したから愛が足りないなんて思うなよ? きちんとひとつひとつにワタシのサイン入り生写真付きなのさ!」 当たりをひいたらもう一個! いやいやそう言わずもう二個三個! こっちは配りまくりの明奈である。きっと写真にも服装違いとかレアとかあったりするに違いない。 「リンちゃんのお手伝いに来ました! とりあえずチョコを配るんだよね」 「いいですか、よく聞いてください、アーリィ。 私がアッパーユアハートでたくさん人をひきつけます……そしてチョコをばら撒きます。 アーリィはインスタントチャージ(チョコ)をお願いします」 作戦を練ってきたアーリィ・フラン・ベルジュとリンシード・フラックスが目を向ける先には、コンビニやスーパーからうろうろと出てくる「チョコクレ憑き」の亡者どもの姿。 その中に混じっていた桐月院・七海は後に、二徹目で冷蔵庫に何もなかったからコンビニにでも行こうかと思って外出たんですよ、と述懐する。 「…………チョコクレチョコ、チョコくれ」 日付感覚もきっと曖昧だったろう七海が外出した、まさに今日。丁度甘いもの食べたかいと欲する脳に、何処も彼処も商品が並んでるから目に映るし香りが漂ってくる、いわばテロリズム。 「そりゃ食べたくなりますよ、ええ」 自分に言い聞かせる七海の、耳に飛び込んできた言葉。 「さぁ……チョコ一個すら貰えない愚民共……ありがたく思ってください。 私がチョコを差し上げます……跪き、這い蹲って受け取りなさい……!」 ――すさまじいアッパーユアハート。むしろハード。 「リンちゃん……流石にその言い方はかわいそうだよ……って、わわっ!? なんかすごい勢いで来たよ……!」 主に抗議と、少なくない数の力まかせな「チョコクレ憑き」の波が。 その様、まるで楽団の亡者さながらである。 「あはははー、そーれそーれ……」 飲み込まれそうになりながらもチョコを巻き続けるリンシード。りんしーどさんが壊れた! 「祝ってやる! 溶けろ融けろ別れろ! チョコくれ。」 弓を取り出し、いきいきとそれを射掛け始める七海。ななみちゃんが壊れた! ところでその亡者の群れ()なのだが。 「チョコよこすぇー! ……等と取り憑かれながらも交通整理をしてしまうのが悲しいサガ!」 犬吠埼 守がなんかすごい悔しそうな顔で混雑を的確にさばいていた。 「チョコくれ……チョコくれよおおお!!! あ。こんばんは。三高平のザ・昭和こと俺です」 第4の壁など知ったことか! 「一応俺は60年代生まれなんです……いえ60'Sではなくですね……だと言うのに! 嗚呼! この季節に貰う物と言えば、行きつけのおばあちゃん家で頂く塩昆布であるとか! しっとり甘いかるかんまんじゅうであるとか! 嫁の実家から送ってきたと言う鹿サブレであるとか!」 一瞬真剣に『お前嫁がいたのか』と思ったが、きっと近所のおばあちゃんの言う「うちの嫁」だろう。 「――いやそれはそれで非常にありがたいですし、楽しみではあるんですけど、もう少しその……若い味を楽しみたいです……」 そんな貴方に朗報! 「ちょこくれ退治なの。 ばれんたいん、お世話になったひとたちに渡したくて、チョコを買ったの。でも後から、やっぱりあの人には、これがいいなって思うものがあって。 まよいにまよってたら、結局あまっちゃったの」 見た目は眠そう、実際にも眠そうな雛宮 ひよりが差し出した、チョコレート。 「はぁ。チョコが貰えない方々の心の叫びですか。 たかがそれしきの事で発生するとは、なんて脆弱なエリューションでしょう。 ――貴様等は! 本命どころか友チョコ贈る相手すら存在しない侘びしさを理解していない!!」 ドーベルマンビスハの鎹・暁生は「かっこいいわたくし」を演出するも、二秒で崩壊した。 菫のチェーンメール()がなかったら、このチョコ祭りが終わるまでヒキコモリする予定だったらしい。 「欲しいんですか? そんなわたくしのチョコが欲しいんですね? わたくし衝動買いした可愛いチョコを前に、膝抱えて寂しさに咽び泣かなくてもいいんですね! ありがとう! 喜んでこの大役引き受けましょう! お受け取りくださいわたくしのチョコ!」 「じぶんで食べてもいいけど。もらってくれるひとが居るなら、そっちのほうが嬉しいの」 表情を輝かせてバラマキ回る暁生と、にこにこと笑うひよりに、チョコ亡者が並んでチョコを貰いだす。 「ああっ、最後尾はこちらですそしてチョコぉ!」 もちろん、その列形成の影には守の存在があるわけなのだが。 「無性にチョコが食いたくなったんだが、なんだこれ? 事務所に置いてあるわけでもなし。誰でもいいや、てか、街に出りゃ今日は誰かが配ってるだろ」 そんな考えでうろついていた刈屋 清人の頭をガン見するベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ。 頭の上の物体の、丸い頭、太い尻尾。どうやら手足の間には皮膜がある。 「こ、これは! ももんgむささびだー!!」 ベルカが戦慄してみたあたりで、リコル・ツァーネが、アークに来てすぐの頃戦ったE・ビーストを小さくしたようなそれにあら、と声を上げる。 「お嬢様の為に作ったチョコレートでございますが……張り切って作りすぎたのでございます……。 せっかくでございますし、このチョコレートでアークの皆様と縁を繋いでみとうございますね! ……と思って参りましたら、何といいますか大層ユニークな事態でございますね。 アークではこれが普通なのでございましょうか?」 そんなことはないです。 ともかく、人の頭上で鳴くチョコクレに、ベルカはふむ、と唸った。 「チョコを欲しがるむささびとは面妖な。しかし、面白いぞ。 チョコにまつわる騒ぎも興味深いが、私はむしろこのむささび的なサムシングが気になるな……」 だってさー、なんか可愛くね? とか言いながら、チョコクレを指さしてみる。 チョコクレは皮膜を必死で広げて――威嚇のつもりらしい。 「そのチョコもらっていいか。帰っておやつ変わりにするから」 「ああ、貴方様もチョコくれ様に憑かれておいでなのでございますね。わたくしは新人のリコルと申します!」 リコルの手にしたチョコに気がついた清人が声をかけ、朗らかな笑顔でリコルがそれに応える。 「――私が敬愛する教官も常々言っておられたよ。『さすがにチョコは味噌汁に出来んわ』ってな……」 そのやり取りにも気が付かず、何やら怖い回想ににひたっているベルカ。やもめの教官に、さすがにこの季節は素直にチョコあげてたなあ、などという回想を、リコルが中断させた。 「はい、どうぞ。――皆様へのご挨拶が目的の1つでございますので、憑かれていないお方にもチョコを配りとうございます! 以後お見知りおきを!」 にこやかに一礼するリコル。人間関係の基本は挨拶から、というやつである。 「いやな。時期もんやし、うちも買いに行って準備くらいはしようかと思ってん。 もともと好きやし? 相手おらんでも自分用でええし? 限定もんとかもあるし、特有の賑わいはなんぞインスピレーション湧くかもやし」 桜咲・珠緒のそれは、『言い訳ちゃうもん 嘘ついてへんもん』ということらしい。 事実だと思う。 この時期のチョコレート商戦、限定品の種類の豊富さとか気合の入り方、特別すぎるものがある。 だが、そうして外に出た珠緒がチョコクレに憑かれたのは当然の帰結、と無理矢理言ってしまおう。 「うわーとりつかれてもうたー。チョコくれーチョコくれー。 ……はっ。うちはうちらしく訴えて求めるとええんやなかろか!?」 突然何かに気がつくと、珠緒はギターケースを取り出し、ごそごそと路上ライブの準備を始める。 「せや! うちには歌がある! ギターがある! イエェァ!! チョコォ! 求め訴えたりぃぃ!!」 エナーシア・ガトリングが軽く片目を閉じて考えこむ。 「何でも屋としてチョコを渡す仕事の経験は何度かあるしやって見ませうか」 チョコの渡し方は主に3パターンあると、彼女は考える。 正面から『渡す』、周囲に『配る』、机などに間接的に『託す』。 『配る』でも良いのだろうが……チョコクレはそれで本当に満足なのか? 「故に私が取るのは最も手間のかかる『渡す』。それでは参りませうか」 「応!」 それに応えるは、新田・快。 「俺は成人指定のこの品物を配るよ! ……変なモノじゃないよ!」 慌てて言葉を付け足しながら快が広げたのは、チョコレートリキュールである。 発注の際の紆余曲折の結果、仕入れた個数が一万近く。このままでは倉庫が大変だ。 「アルコール度数と甘さを控えめに仕上げた、上質なチョコレートリキュール。 そのまま飲んでも勿論美味しいけど、お勧めはミルクで割ってカクテルかな? ホットミルクで割って温かいカクテルっていうのもいいよね」 オススメの飲み方を紹介しつつ、配ったり渡したりしているエナーシアたちの、さらに後ろに立つのはウラジミール・ヴォロシロフ。 「チョコぉお!」 快の列やエナーシアの飛び掛るチョコクレ憑きを紳士な態度で軽くいなしている。 「慌てずともチョコレートはまだまだあるぞ。未成年には酒が入ったチョコは渡せぬが――」 言葉を聞くまでもなく、エナーシアの列に並ぶのは多くが未成年らしき姿。 「……サンタクロースのようなものだな」 配る姿、受け取る姿を見てウラジミールは呟いた。 ――ところで、珠緒なのだが。 「あ、おーきに おーきに って金やないぃ! 今日はちゃうんやぁぁ」 やがてチョコクレから開放された人がチョコをくれるまで、歌い続けていたという。 ● 「あーあー、あっさりEフォースにとりつかれちゃってまあ……」 騒ぎなどどこ吹く風と何時も通り飄々とした熾喜多 葬識が見る先にいるのは霧島 俊介だ。 「俺、チョコ嫌いだからバレンタインって嫌な日だし。チョコとかいらねえし! ああん、でもなんかいらないけどチョコくれ! 意味解らん!」 ――見事にとりつかれている俊介である。 「さっき誰かからもらったんだけど……まあ、俺様ちゃん甘いの嫌いだし」 チョコクレ憑きと思われたのか、それとも無差別砲撃が三高平各地で続いているのか。身元不明のチョコを手に、良い笑顔を浮かべて俊介(♂)に近付く葬識(♂)。 「はーい☆ ばれんたいーん☆」 「だからいらねえっつって……うわあああああ!!」 捻じ込まれて悲鳴を上げる俊介だが、相手が葬識だと気付けば事態は更に混迷を極めるのである。 「そうちゃんのはいるううう!!!! チョコくれチョコくれいや、もうむしろ、そうちゃんごとくれ! 俺は犬か!」 何言ってるのこの人。ホモなの? 「友チョコってやつか!友チョコってやつなのか!?」 あ、ノーマルだった。恋人いるしねこの人。 「なんかねー今は男が渡してもホモチョコなんだって~☆ じゃあたべて☆」 あれやっぱりホモ? 「ホモチョコとか無いわー怖いわー」 ホモとか腐ってるとか気にしない葬識と、気にするけどとりつかれてるせいなのか何時もこんなもんなのか錯乱気味の俊介。 「まず!! まずいな!! まずうまいな!! カオス!」 「不味そうな顔めちゃくちゃ可愛いよ☆ 愛してる☆」 「なんかよく解らんが助けてくれてありがとう、俺も愛して……あぶねえええ!! さらりと何言ってんだ!! 反応に困る!! そうちゃんハウス!!」 「はいはい☆ わんわん☆」 ――平和が一番。仲良き事は美しき哉。 一方、見詰め合う一組の男女の姿があった。少年の名は遊佐・司朗。そしてクールな表情に緊張と朱の色を帯びさせてチョコを渡した少女は宇佐見 深雪。 司朗の頭にはやはりチョコクレの姿。だというのにこの砂糖ゾーンな空気は何かというと。 (うわ、なにこの状況すげぇ恥ずいんだけど。 いや、確かに欲しかったけども、好きな子にチョコ要求とか……) ――そう、それは彼らがストレートなボーイミーツーガールにフォールンワールドインザスカイナウしているからだ(※コメント・三高平在住28歳男性) 「……ごほん。ああ、そうだ、いっつももらってばっかで悪いからさ。これ良かったら食べてくんない?」 少年が、しかしわざとらしい咳とともに取り出したのはやっぱりチョコ。 本当は告白のひとつでもしたかったが、この状況は余りに雰囲気がなさ過ぎるし、何よりその場のノリで告白となっては成り行きで嫁の貰い手になろうと言い出したあの時と変わらない。 (うん、ちゃんとするから、少しだけ待っててね?) (アレは――もっときっちり男らしく決めたいから忘れてくれって言われちゃったし……) 連れだって散歩する2人の心のなかは、正に正統派青春真っ只中。 「今の関係も悪くはないし、ね」 そう小さく呟いて、深雪は微笑む。 ● 「世の中すべての人がバレンタインを望んでいるわけじゃないわ。むしろ,この日を憎み,怨み,殺意さえ抱く戦士達もいるのよ」 そう言ってふっふっふ、と笑っていた烏頭森・ハガル・エーデルワイスだが――日もくれ、月が出始めるにいたってとうとう吠えた。 「どうして誰もわたしのチョコを受け取らないのですか!」 その姿は梅子に良く似ている――姿を変えて見せているのだ。しかし。 「……そりゃあ、なあ」 通りがかった誰かが、エーデルワイスに指摘する。 「あのまな板が、そんなに大きいわけがないんだから。何か裏があると思うんじゃないか?」 梅子に見せつけるつもりで増量していたバストサイズが、裏目に出たのだ。 「悲しい運命(さだめ)のDT戦士達にプレゼントするつもりだったのに……!」 偽梅子の手元には、非常にヤバゲなゲテモノチョコがいくつか。 「ええい、そこのあなたが食べなさい! がんばって気合で喰え!!」 エーデルワイスの八つ当たりが響き渡り――空では、皮膜を持ったアレが滑空して消えていった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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