● 「おい、これで良いのん?」 「おう、後は発動を待つだけじゃん。何もしなくても後は勝手に、こいつが動いてくれんよ」 深夜の街並み、とある廃ビルの一室。 暗闇の中で蠢くのは、5人の若者達だ。いかにもこういうビルで溜まっているのが似合いそうな手合いで、鉄パイプだの釘バットだの、他にも凶器の類を持っている。彼らは、その一室で一冊の本を囲んで座っている。その本は彼らが離れるや燐光を放ち、1ページ、1ページとゆっくり、ひとりでに捲れて行く。 「えー、ってもさぁ、マジ俺らぶっちゃけヤバくね? んな、いくら5人いるからってさぁ。ぶっちゃけ俺ら弱ぇしぃ?」 「そーッスよー。大体ー、親分こーゆーの嫌いじゃねッスかぁ。もしこれほっといてさぁ、エリューションとかぁ、もしかしたらアザーバイドなんて出てきちゃうかもしれねーわけだしぃ」 「馬鹿野郎共が。何度も説明しただろうが」 若者達が不安そうに顔を見合わせあう。まるでその顔には似つかわしくないうろたえ様だが、最後に重低音の声を放った男だけは違った。 「いいか。確かに親っさんは、何もしてない女子供に手を出すような真似は嫌う。だがな、忘れてねぇか、お前ら。『あいつら』にはカレイド・システムがあるんだ」 男は煙草に火をつけ紫煙を吐き出すと、腰を上げて後ろを向いた。どうやら少年達のリーダー格のようだ。 「あれがあるかぎり、アークの連中はこのアーティファクトに必ず気付く。そして気付いた以上、その発動を止めに来る」 「でもよ兄ー、俺らが奴らを倒しちまったら、アーティファクトはどうするんよ」 「したら俺らが止めりゃいい話だろぉが。馬鹿か。こりゃただの餌だって言ってるだろうが」 「でもーでも兄貴、ぶっちゃけよー、この会話だってもしかしたらヤツらにバレてるかも知んねぇんだろ? したら、ぶっちゃけ俺ら、先に罠ぁ張られて計画全部おじゃんなんてことになったり……」 「本当にカボチャ頭だな、お前……いいか、罠を張って、そんな動きを事前に見せてみろよ。俺らは河岸を移しちまうだろ。そしたら、どこで俺らがこのアーティファクトを発動させるか判ったもんじゃねぇ。きちんと俺らを現場に入れちまって、それから襲った方が確実なのさ……」 どうだ、ブルったか? と片方の唇を上げて男は笑う。オールバックで口の端に傷があるその男が笑うと、そこが引き攣れてなんとも言えない恐ろしい顔になるのだった。 「そ、そ、そりゃ怖ぇじゃんよ兄ぃ。つっても、ヤツらにビビってるわけじゃねぇぜ?」 「おう、判ってるよ。蝮原の親っさんの役に立てねぇ、それが怖ぇんだ」 不意に真顔になって言うと、若者達の全員も真顔になって頷いた。 「そ、そーッスよ。こんな、俺の秘蔵のアーティファクト引っ張り出してまで、やるんスから。ただでさえ役立たずの俺らが、こんな時くらい男見せねぇでどうするんスか!」 「そうだ。大して使えねぇお前ぇらが、親っさんに義理立てっとしたらここだろう」 空気が引き締まる。 彼らは全員、蝮原 咬兵に多少なりとも恩を受けた身だ。フィクサードではあるものの、能力の使い方がヘタクソで、仲間達からいつでも馬鹿にされていた。そんな自分たちだが、蝮原の為なら命だって捨てる。覚醒する前から孤独で、覚醒してからもへっぴり腰同士の傷の舐め合いで、そんな彼らと、彼らよりはマシな程度のリーダー格の男がこれまでこの世界にしがみついて来られたのは、蝮原から受けた恩を返すというその一念だった。 「いいか。カレイド・システムなんざ、親っさんにとっちゃ屁でもねぇ。親っさんがやるって言うからにゃ、絶対だ。そんな親っさんの手伝いをするには、こうして少しでもアークを掻き乱して、人数割かせて、ロクな対応も出来ねぇようにすりゃいい。あわよくばブッ殺してやりゃいい。シカトなんか出来ねぇさ。だって奴らは『正義の味方』サマだからな」 男が檄を飛ばすにつれ、若者達は決死の覚悟を固めて行く。弱い者の意地を見せてやらんとばかりに、手に手に凶器を握る。 「前回の騒動とは違ぇ。今度は本気だ……どうせこれも聞かれてたりすんだろうな。おい、リベリスタ共! 早く来いよ! 来ねぇとD・ホールが開いちまうぜ!!」 リーダーのドスの聞いた挑発の叫びが、若者達の鬨の声にかき消されて、暗いビルに鳴り響いた。 ● 「……だってさ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、映像を消すと、リベリスタ達に向き直った。 「敵は5人。正体不明のクラスが1人に、デュランダルが2人、覇界闘士とマグメイガスが1人ずつ。彼らがビル内に設置したのは、『D・ホールを発生させる』アーティファクト。設置から発動までは30分くらい余裕があるみたい。悔しいけど、彼らの言うとおり、放っておくわけには行かないわね」 膨れ面をして地面をかつん、と靴で蹴った。どうやら、彼らの思惑通りにことが進んでいることが気に食わないようだ。 「アーティファクトは魔道書。手で本を閉じれば、簡単に発動は止まるわ。ビルへの入り口は2つあって、それぞれに2人ずつフィクサードが張り込んでる。アーティファクトの置かれた部屋には、リーダー格が待ち構えているわ。それぞれのフィクサードはめちゃくちゃ強いってわけじゃないけど、命を捨てて喰らい付いてくるから、かなりしぶとい。なんとか、発動を止めてね」 それにしても、こういうの、何て言うんだっけ。とイヴが考え込む。何か、ことわざにあったような…… 「……あぁ、窮鼠の一念?」 何か混ざってはいるものの、それはなかなかに的を射た表現ではあった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月11日(月)23:48 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「そろそろ時間、ですね」 時計をちらりと見る。『魔眼』門真 螢衣(ID:BNE001036)は、この作戦自体が陽動と分かっていながらも動かざるを得なかった理由に思いを馳せつつ、じりじりと空を見上げていた。 月は霞み、雲の合間に顔を覗かせ。今夜は何か起こりそうな予感がする。そんな薄明りに身を晒さず、目標のビルを視界に捉えたまま、リベリスタ達は物陰にて静かに決行の時を待っていた。 「ワタシ達がここにいる時点で、目的は半ば達成なんでしょうね。後は、彼らの矜持の問題」 『境界の魔術師』コルネリア・ハッセルバッハ(ID:BNE002471)が、かつんと靴を鳴らしながら待機場所に戻る。周辺の簡単な下調べを終えた彼女は、外側から見た限りでは内部の布陣までは判らなかったことを仲間に告げる。 入り口が二つ、どちらから入るにしろ敵は待ち構えているはずだ。彼らの選んだ作戦は、確実な各個撃破。 「よし、最後に確認しよう。作戦は、上下方向からの挟み撃ち。まずは下っ端共を片付けて、それから上の奴だ」 つつ、と『侠気の盾』祭 義弘(ID:BNE000763)の指が紙上の侵入経路を辿った。その紙はアーク経由で手に入れた廃ビルの見取り図だ。薄ぼんやりとした暗闇の中で見づらそうにしながら、入り口、そして4階と順番に指差す。建物の構造自体はそう入り組んだものではないが、階段は二つ。どちらから入ろうと敵は布陣されているが、逆に言えば不意打ちの危険は減る。 「作戦開始から、D・ホールが開くまでの猶予は30分……残り時間には、気をつけないといけませんネ」 『audacia paula』ジュノ・アンダーソン(ID:BNE002533)が最後に最も大事なことの確認を行い、それなり正面突入班は口を閉ざす。時間を合わせての挟撃、タイミングが大事だ。緊張感と共に、身構える。 雲居の隙間に、月が覗いた。 「わあ! わあわあ! すご、それすごいっ、何それくっついてるっ!!」 「ぶっちゃけうっさいデスヨ」 するする壁を上がる4つの影は、姦しかった。 端から見れば不審者以外の何者でもなく、さらによく見れば人外の技を行使していることが丸判りの集団だった。もっとも、リベリスタならではの結界術により、露見する心配はないのだが。 ちなみに先程から大騒ぎしているのは『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(ID:BNE000090)だ。 彼女が自身の翼でふよふよ飛んでいるのに対し、『飛常識』歪崎 行方(ID:BNE001422)以下、上階から突入する他の面子は壁に貼り付き、壁を足場として駆け上がっている。初めて目にするその面接着の技術を目の当たりにして興奮する千歳に、行方は死んだ魚のようなジト目で吐き捨てる。テンション好対照な2人だが、一応声のトーンは抑え目に。 「タイミング合わせて、突入するよ……そろそろ、準備して」 戯れる2人に『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(ID:BNE000759)が呼びかける。懐中時計が月明かりに照らされる、ふっと翳る。 雲居の隙間に、月が覗く。 「それじゃ、カウントダウンするお。5、4、3……」 既に窓などないかのように、否、彼女の実体などなかったかのように内側に入っていた『ライアーディーヴァ』襲 ティト(ID:BNE001913)が手振りでカウント。するすると窓を開けると、2、1、とカウントし…… 「――ゼロッ」 スタートの合図は、ウィスパーボイスだった。 ● ビルのドアを蹴り開ける。リベリスタ達が雪崩れ込んだ。1階のエントランスホールではスカジャンをだらしなく着こなしたのと、ニット帽を目深に被ったのと、2人の青年が床にべったり座り込んで煙草をふかしていたのだが、慌てて立ち上がると臨戦態勢に入った。 「ッだオラァ! 来やがったなクソが!!」 「4人とかマジ舐められてんじゃん俺ら。ウケるわー」 言ってる場合か! とスカジャンが叫ぶと、ニット帽は電話を取り出してかけ始める。仲間に連絡しているようだ。 「元気な方々ですね……」 嘆息すると、螢衣が印を結ぶ。仲間に守護結界を張ると、背に負っていた1m程のドールを降ろした。合わせてコルネリアが式を打つ。鴉の式神が低空を飛翔し上昇し黒い影がスカジャンの顔を掠める。頬に血を滲ませたスカジャンはんだゴルァテメェ舐めやがってとかそんな趣旨の言葉を叫びながらがりがりと鉄パイプを引きずって向かって来る。怒号と共にコルネリアに振り下ろされた鉄パイプは義弘の盾によって受け止められる。人を超越した膂力が激突し、鉄パイプの空洞がビルに甲高く響いた。返す刀で義弘がメイスを振るい、これは頭を振ってかわす。そうして体勢を崩したところにジュノの足元から這い上がった黒い影が襲い掛かる。腹を裂かれたスカジャンはたまらず一度退がると床を鉄パイプで思い切り叩いた。大分熱くなっている様子だ。 「うは、やっぱ強えぇー! ちっとヤバいんじゃね?」 へらへらしているニットは、しかし動く様子はない。端目が利くようだが、それだけに今の状況の不利を感じてしまったようだ。 睨み合う両陣。僅かな均衡。触れば弾けそうな状態が、続く。 「ちょぉ、あっち来たらしッスよぉ? 一応俺ら援軍行った方が良くねッスかぁ」 「マジかー……つっても、こっちの扉のこともあるしー……」 一方のもう一方、リベリスタ達が選ばなかった裏口では、ピアスが目立つ青年と黒いジャケットを着た男があーだこーだと言い合っていた。合議をし、どこかに電話をかけ、頷く。結果援軍を送ることを決めたらしい彼らは、おっとり刀で駆け出し、ビルを駆け抜ける。程なく戦闘の起こっているホールに辿り着いた彼らだが、スカジャンが後ろを指差して何か叫んでいるのが見えた。あぁ? と訝しげに振り返る援軍の2人。 その、眼前に。 「はぁいこんにちは。アナタの後ろに都市伝説デス」 ふっと、さかさまの少女が見えた。のみならず、そのさかさまはくるりと空中で身体を丸めて天井を蹴ると、空中から肉切り包丁を2本並行に渾身の力で振り下ろす。 「う、うおぁぁ?!」 頭を腕で庇って後ずさるピアスをジャケットが突き飛ばし、金属バットでその斬撃を受けるも、全身のエネルギーが篭められたそれを受けるには体勢が悪く、肩を切り裂かれた。 「ちょ、マジッスか!!」 慌ててピアスが魔法陣の描かれた指抜きグローブを嵌めた手を前に突き出すが、ぎり、と不自然な形で動かないその身体からは、良く見れば僅かにきらきらと気糸が走っている。アンジェリカに四肢を束縛され舌打ちするピアス、ティトと千歳が呪文を詠唱し都合5つの魔法陣が空に描かれる。 「んふ、これでもくらっちゃいなさい!」 千歳の声と共に生み出された矢と四条の魔光は狙い違わずピアスを撃ち抜き、血を吐いて膝を折る。 だがしかし、そこまで。膝をがくがくと揺らしながらも、ピアスは死にかけとは思えない眼光でこちらを睨んでいた。 「……死ぬ気?」 コルネリアが首を傾げる。鼻からふん、血を抜きながらピアスが応える。 「死ぬ気じゃあなくて死ぬ覚悟ッスよ」 「そう。なら、私には殺す覚悟が必要ね。心しておくわ」 それと、殺される覚悟も、とコルネリアが呟く。わかってんじゃん、とニット帽が笑った。 「行くぞオラァ!!」 スカジャンがひとつ吼えると再び飛び掛る。ぶん回すように鉄パイプで螢衣を狙うも、義弘に阻まれる。前のめりの豪腕がびりびりと義弘の盾を震わせて辛い。振り払い飛び退るそれをアンジェリカが気糸で絡め取ろうとするも、払われる。締め痕を擦るが、1人痛めつけられ頭に血が昇った彼はあまりに突出していた。 呪印封縛。螢衣の封印にその身を締められ、必死にもがく。誰もがその轟沈を確信したその時だった。最も後ろで呪文を唱える準備をしていた千歳の上に、ふっと翳りが落ちる。 咄嗟に頭を静めた千歳。上空からの直撃は避けたものの、返す刀での横殴りの一撃に壁に叩き付けられる。骨が軋んで息が詰まった。 「……チッ。ちぃと遅かったか。ボロボロじゃねえかよお前ら」 首をこきり、と鳴らしていたのは傷が顔にある男。傷だらけの仲間を見て、それでも凄惨に凄む。 「ちょーマジ、ぶっちゃけ来るの遅っせぇ兄貴!! 電話したんだからすぐ来て下さいよ!!」 「言うなって。どっちにしろ、親っさんの為にゃあ大概動けた方だろぉ」 笑う。傷男の目には、少なくとも狂犬のような輝きはないとリベリスタ達は感じた。 ただ忠義の為。そういう目だ。 「君らは実に莫迦だぉ! ホールを開くってのがどういう事か判らないとは言わせない!」 それを判って尚、ティトは指を突きつけて叫ぶ。 「おう、知ってるさ。だから手前ぇらを呼んだんだ」 「世話になってる人の役に立ちたい、その気持ちはわかるが、やり方はいただけないな」 「こちとら、手前ぇらにいただかれる為に動いてるわけじゃねぇんだよ」 義弘の言葉にも、響かない。揺らがない。ただ顔を歪めて笑っている。聞いてやるものかと表情で語っていた。 「まァまァ皆さん、まずはこの聞かん坊達をやっつけてから、お話は聞きまショウ?」 ジュノの言葉に少し口の端を吊り上げて、傷男が踵を浮かせる。最早これ以上お喋りは必要ない、そういう目だ。 ダン!! と破裂音のような音が弾けた。 爆音の踏み込みと共に右に飛ぶ。壁を蹴って近づこうとする。 そんな傷男の目の中に、上から降ってくる金色が映った。 金色が肉切り包丁を振り下ろす、空中で独楽のように回った。包丁を受けた傷男の袖が弾けるが、中に仕込まれた手甲が火花を立てて止める。地面に落ちた金色、行方はそのまま弾けるように追い討ちをかけようとするが、これはどてっ腹を蹴り飛ばされて未遂に終わる。止まっていた時間が解けた。その隙にリーダーである傷男を攻撃したいコルネリアだったが、合間に敵が居る。スカジャンに再び呪縛封印。怒りで突出したこの男はほぼ為す術のないまま。義弘のメイスで頭を強打され、意識を失った。 その様子にも心動かないように見える傷男、着地した態勢にアンジェリカが駆け寄る。走らせた気糸が躱される。螢衣が再び印を結び、仲間全員に守護結界を張り直した。ようやく我に返ったようにニット帽がメリケンに包まれた冷気の拳を鋭く振り、ジュノに殴りかかる。ほんの少し、避ける間に顎を掠めてふらついた。その隙にB班の側に向けて、ピアスが改めて両手を広げ呪文を唱える。爆発のような炎の奔流が狭い通路に吹き荒れた。その即席の煙幕の間を潜り、傷男が襲い掛かる。先程から自分に向かってくる行方の襟首を炎に紛れて掴み、そのまま壁に床に顔から叩き付ける。赤いしぶきが空を舞って、床に蜘蛛の巣がびしぃと広がった。女子供に手をかけるのに顔を歪めつつも、止めを刺そうとする傷男に視界に、しかし先程吹き飛ばした女の顔が入ってきた。 魔曲・四重奏。爆炎はリベリスタだけでなくフィクサード達の視界も奪っていた。傷男は四条の魔光を喰らい、思い切り下がる。どうにか踏ん張る。 しかし、ジュノに襲い掛かるニット帽を義弘が引き受け、その間に既に虫の息だったピアスの頭に、ジュノの足下から伸びる黒いオーラが覆いかぶさり力を加えた。辛うじて致命傷には至らずも、危険なところでピアスは今のところ、ぴくぴくと痙攣するだけのモノとなった。 「おいおい……お前ら、ぶっちゃけアーティファクトはいいのかよ」 ジャケットが冷や汗をかいて聞く。んふふ、などと笑ったせいで折れているらしい脇腹が痛んで顔をしかめながらも、ウィンクすると千歳は答えた。 「恩を返す為に死ぬ覚悟、そういうのも正義だと思うの。素敵。すごく好き。でも、こっちは世界を背負ってるのね」 お互いの大事なものの為に全力で潰しあいましょう、と赤い魔女は真顔で言ってのけた。 「……マァ、ボクにはどうでもいいデスヨ? だってまだ手足は付いてますしお腹だって零れちゃいませんし、ねェ? まだまだまだ時間はあるデスヨ?」 水を差されて、何を言っているんだこいつは、という顔で心底不思議そうに首を不思議な方向に傾けたのは行方だ。未だ顔面は血まみれだと言うのに、止めるという心持すら無い。 「……うわぁ」 ニット帽が引いていた。しかし同時に面白そうでもあった。 そしてもう1人。何故か建物の外から声が聞こえてきた。 「これは止めさせて貰ったぉ!」 そこに居たのはティトだ。1人だけ傷男の虚を突いての機能停止を狙っていた彼女は、物質透過で人知れず壁を抜けた後に、改めて上まで昇って目当てのアーティファクトを停止したのだ。その光景を見て、何故か、否、何故かとは言うまい。首謀者自身である傷男がほっとしたように溜息をついた。 「……この絵」 その光景を見て、アンジェリカが懐から何かを引っ張りだす。それは、イヴが自ら描いたクレヨン画。平和を祈って描かれたものだ。 「これ。心の優しい子が皆の幸せを願って、皆を応援しようと描いた物なんだよ……。あなたたち、作戦が失敗したら街で破壊活動をするつもりだったみたいだけど」 その力は、こんな優しいものを壊す為にあるの? と、諭すように語り掛けた。傷男は肩をすくめて煙草を咥えると、一つ紫煙を長ぁく吐いた。 「嬢ちゃんよ。確かに、俺たちがそういうモノを壊すのは本意じゃねえ。そんで、俺たちにゃあ力がある。それは判るさ。けどな、そいつらはイコールで結ばれるとは限らないぜ」 言うなり、構える。ただの自棄とも違う。彼なりの、正義ではない、為すべきことが、きっとそこにはあるのだ。 「まっとうな仕事は堅気(リベリスタ)に任せるさ。最後だ、来いよ……任侠(フィクサード)の生き様、とくと見さらせ」 もはや言葉は要らない。そういうことだ。それに呼応するように、ジャケットが雄叫びと共に走り寄る。振り回される釘バットが義弘の盾を掠め、振り下ろしの一撃が地面ごと盾を陥没させる。その動きが不意に止まる。アンジェリカ再三のギャロッププレイにより動きが止まった。その横をすり抜けて、螢衣が千歳へと傷癒術を施す。ティトもまた、天使の息を行方に施した。が、癒されたその直後に天井で戦っていた2人の動きが止まる。腹に膝、背に肘を叩き込まれて力なく地に落ちた行方だが、ゆらぁりと立ち上がってにぃと笑う。死力を尽くしているようにはとても見えない。2人の遣り取りを見て加勢しようとするニット帽を、コルネリアの呪縛封印が阻む。止まったニット帽は、千歳の魔力弾に撃ち貫かれ、倒れて動かなくなった。ジャケットもまた、ジュノの銃剣とシャドウサーヴァントに貫かれて動かなくなる。 傷男も、他の面子が手下達と同時に戦うことを想定していなかった中、唯一血塗れになりつつも彼に喰らいついて粘った行方に押さえられ、やがて8対1の中で最後まで戦い、捕縛されたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|