● さよならさよならと、手を振って、君たちはもう戻っては来られない旅に出て行く。 『いつか、俺の星に遊びにきてくれ』 そう言って、旅立っていった最初の奴から着いたという知らせはない。 惑星探索船の中の冷凍冬眠装置という名の棺桶に誰を押し込むかを決めるのが俺の役目で、選抜に選抜を重ねたいずれ劣らぬ精鋭たちの命運を決めるのは、俺の託宣だ。 さよならさよなら。 どうして君達は、俺を託宣役に選んだのか。 数多の友の全てを新たな星に送り出さなければ、俺の番は回ってこない。 ああ、寂しい。 君たちがいなくなって、寂しい。 なのに、この『寂しい』は、本当に俺の回りから誰もいなくなるまで絶対に終わらないのだ。 星の彼方に往く友よ。 寂しい。 君たちがいなくなって、寂しい。 そのきっかけが自分なのが寂しい。 選ばれてしまったことが、寂しくて仕方がない。 ● 「死地に人を送り出す仕事。他人事ではない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情だ。 「アザーバイド。識別名『憂鬱ディヴァイン』 ストレスに耐えかね、休暇中の彼は『そうだ、京都行こう』な感じで底辺世界に来て、とあるE・フォースに憑かれちゃった」 モニターに、件のアザーバイドと言いつつ、映像を映し出す。 満天の星空。 野原にぽつんと立つ、どこか覇気のない何かを諦めたような、実年齢×0.7で世界標準年齢の日本人なら中年と名乗るもおこがましい――もっと元気だせよぉ!と檄を入れたくなるというか、母性本能くすぐるタイプというか、いっそあたしが面倒見てあげる。というか。 背中に黒い羽根、くたびれたぶら下がりのスーツ。 僕らの大事なフォーチュナの一人、さっきそこですれ違った自称・「どうしようもない男」じゃないですか。 「数史じゃない。アリバイはある」 いや、そんな刑事ドラマみたいな。 「他人の空似。同位体とか時間を超えてきた転生体とかそういうのじゃないから安心して」 そうなの? この人、ブリーフィングルームから出てくるたびに胃のあたり押さえてて、体を前傾させ、ため息つきながらフォーチュナ控え室に消えていくあの人そっくりですね。 なら、聞くけどさ。 「こいつ、頭になに載せてんの」 「件のE・フォース。識別名『サビシイトシヌ』」 誰だ、そんな識別名つけたの。 私じゃないと答えるイヴは、無表情。 「ウサギに見えんだけど」 イヴはこくりと頷いた。 ウサギとしては比較的短い耳。特筆すべきは、もっふもふの毛が密集し、目の位置どころか、長いはずの耳も埋没し確認するのも難しい、ハンディモップの様相を呈していることだ。 灰色のためか、薄汚れているような感じが、寂しさを寄りかもし出している。 「確かにイングリッシュアンゴラに酷似している」 もふもふ。と、付け加えるイヴ。 「このE・フォースにはもともと決まったカタチはない。とりついた相手の『寂しさ』を吸い上げ、実体化し、宿主から離れ、しばらくするところりと死ぬ。後に残るは『寂しさ』のカタチだけ」 「宿主の影響は?」 「寂しいという感情がなくなる。今後発生しなくなる。死んでしまうから」 イヴは、無表情だ。 「まあ、彼にはその方が楽かもね。今後、何も悩まず託宣が続けられる」 でも。と、イヴは付け加える。 「同じ事が私に起こったら、それはいやだと思う」 だから、皆を呼んだ。とイヴは言う。 「『寂しいと死ぬ』は、寂しくない限り死なない。存分に大事にしてあげると、死なずに消えていく。抜き取られた寂しさは宿主に還る」 ということは。 今回は、討伐とかじゃないんですね? 「今回は、E・フォース『寂しいと死ぬ』を慰撫し、アザーバイド『憂鬱ディヴァイン』のストレスを何とかしてあげる仕事」 喜んで行かせていただきますっ! 「――それと、この仕事は数史には絶対内緒。他人の空似とはいえ、同じような格好の人が同じような悩みを抱いた結果がイングリッシュアンゴラと知ったら――」 ストレスで胃痛がひどくなるかもしれない。 「『サビシイトシヌ』を探して、自分の頭部に猫のアンゴラを発生させて、束の間もふるのを目論むかもしれない」 いや、まさか。 そんなことは。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月08日(金)23:28 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● コンビニエンスストアは、陸の灯台のようだ。 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)と『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)待ち。 終はコーヒー、侠治は酒を買いに行った。 アザーバイド「憂鬱デヴァイン」とお近づきになるためのアイテムだ。 (愛別離苦か) 『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)は、四苦八苦の中の八苦を呟いてみる。 息子に等しく思っていた男が死んで以来、伊吹はこれにとり憑かれている。彼が残した記憶は重い。 (どの世界も人の苦悩は変わらないものだな。個人的に兎と黒羽という符号に思う所が――) 黒い羽根を持つ人と、ウサギ。 もちろん、姿かたちは似ていない。 うさぎのほうは、白ウサギだし、兎因子は3割の人間だ。 「おじさんとあんごら、もふもふするの」 憂鬱デヴァインがおじさんで、サビシイトシヌがあんごらだ。 『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)は、年より幼げな物言いだが、受肉した妖精だから仕方がない。本人がそう言ってるんだからそういうことだ。 じきに、年相応の言葉遣いも思い出――覚えるだろうから、温かく見守ってほしい。 「犬とか猫とかウサギとか頭にのっけると程よく重くて温かそう。乗せてみたいなあ」 なあぁ、と笑う『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)も記憶がない。 アークの裏方さんから戦闘班に飛び込んだ19歳(推定)男子(これは絶対)は、明るい雰囲気作りを心がけている。 だから、現場に向かう車中は、乗っているのがおっさんが多い割には和やかで明るい。 (兎と聞いて飛んできたけれど、サビシイトシヌ、か…悲しい存在やね…) 『かたなしうさぎ』柊暮・日鍼(BNE004000)は、こんなん用意したと野菜や果物を持ってきている。 「少量やったらパイナップルもかな。兎さんにとっては珍しい味やろうから、興味示してくれるとええんやけれど……」 ――うん、なんかお花畑。 「それにしても、まるでハンディモップのようなもふもふウサギとはなんとけしからん!」 アーサー・レオンハート(BNE004077) が、ふんぬぬぬとうなっている。 「これはもはや、もふリスタである俺にもふれと言っているようなもの!! 全身全霊でもふもふさせていただくとしよう!」 背後で波濤が砕けそうな勢いだ。 それも、冬の日本海がいいんじゃないかと思う。 ――さよなら、お花畑。 「イヴさんからの情報はあるとはいえ、私たちはディバインさんという人柄については何も知りません。だから、まずは彼の話を聴きます。辛いことも、誰かに話せば楽になることもありますから――」 それは、革醒の衝撃で発作的に自分を虐待する父親を半殺しにし、今も胸に巣食う破壊衝動をと向き合おうとしている、『この力は他が為に』今井 燈(BNE004292)が言うと重い。 「おまたせ~。皆にも色々買ってきたよ。女の子は温かい紅茶とかがいいかなと思って。ジュースもあったかいのあるよ。あ、アルコールは大人だけ☆」 終と侠治が戻ってきた。 現場まで、もうすぐだ。 ● 「おにーさんこんばんは☆ 隣いい?」 冬の空は、空気が澄んで、この世界の星は、冴え冴えとよく見える。 この世界の人間に声を掛けられた。 この地域の人間は、比較的異邦人は遠巻きにする傾向があると聞いていたのだが。 ちょっと偽装がうまく行き過ぎていたのかもしれない。 「今日は寒いね」 そういわれて曖昧にうなづくと、円筒状の容器を差し出してきた。 「良かったらあったかい缶コーヒーでもどうですか? 甘いのと苦いのどっちがすき~?」 慌てて、感覚及び言語調整を行う。 礼を言うべきだろう。おっかなびっくり動作ルーティンを起動すると、その人間はこう言った。 「飲み方、分かる?」 どういう意味だろう。これは、この世界の缶コーヒーというものではないのだろうか? 気がつくと、わらわらと人が集まってきている。 なんだろう。この世界の人間とあまり相違のない外見だし、きちんと偽装もしたはずだが。 「君はこの世界の者ではないな、だが構わん、静かな夜だしな」 こっちは酒だ。と、別の缶が差し出される。 「休暇、楽しんでる?――お疲れみたい?」 「は?」 「――頭、重くない?」 ころころころ。 頭から何かが転がり落ちる。毛玉? いや、この次元の生物か? こんなものいつの間に……。 落ちてきたら、頭がすっきりしている。爽快だ。 「この世界のものとあなたの一部が混ざっちゃったんだよ。だから、様子見に来ました」 えへへ。と笑う、子供の女と大人の男が何人か。 「ボトムチャンネルへようこそ!」 ● E・フォース「サビシイトシヌ」によって実体化した動物は、ものの一分放置されると死ぬ。 だから、ひよりや日鍼やレオンが抱き上げて、すぐ近くで構っている。 自己紹介と簡単な事情の説明の後、リベリスタ達は憂鬱デヴァインの話を乞うた。 憂鬱デヴァイン本人の口から語られるそれは、仕事に対する責任感と、託宣という性質上、本人さえ正解がわからない不安感と、結果、沸きあがってくる罪悪感と、それを誰からも責められず、むしろ肯定され、誰にも相談できない孤独感が、いうなれば、旅の恥はかき捨てとばかりに、滔々と述べられた。 ずっと侠治と燈は聞いていた。 中学生の燈には、少し難しい話もあったが、いくつか質問をしながら、憂鬱デヴァインに寄り添おうとしていた。 侠治は、目顔で笑った。 「君は立派だな、苦しくてもそれを続けて来たんだ。今、少し位休憩をとった所でバチは当らないさ」 ここに来て、正解だ。と、うなずいて見せた。 「私は昔、平凡なままがいいと思い、選ばれた事から逃げたんだ。だがその後に後悔する事になった」 革醒者として力を得たあとも、その力を使わなかった。 結果、侠治は全てを失ってしまった。 破界器がもたらす事象に、抗うことが出来なかった。 力の使い方が、そもそも何が起こったのかさえ、よくわからなかったから。 往々にして、革醒は厄介事を引き寄せる。 革醒者が研鑽するのは、そうしなくては早晩生きていけなくなることに気がつくからだ。 侠治も、神秘探求の道に足を踏み入れたばかり。手にしている指南書も、初級の字が初々しい。 「――だからそうやって立ち続けた君が、私には眩しくも見えるよ」 苦しみながらも道をまっすぐ進んでいるのだから。 「折角来てくれたんだ、良かったら俺らと話し相手に、っというか友人になってよ。いきなり友人8人ゲット、新しい世界ってのも良いものだろ?」 琥珀は、にこやかに話しかける。 「えっと、ここは、底辺世界の地球という星の日本という国です――」 琥珀は、地球の人口や文化、歴史を語る。 小学生向けの、殺伐とした部分は伏せた、楽しい世界。 憂鬱デヴァインは、穏やかな目で彼を見る。 「新しい星に着いてしまえば、新しい発見も、新しい生命体とのふれあいもあるよ」 (ディヴァインさんの仕事にも希望があるんだということを間接的に伝えたい) 憂鬱デヴァインは、きちんと惑星探査船に乗るということがどういうことかわかっている。 それでも、この異世界の青年が、自分と仲間の目指す先を肯定しようとしているのは伝わった。 ● 「抱っこして心音を聴かせると、いいとあったの」 ひよりは、ブラッシングし、リボンを結ぶと、満足そうに頷いた。 「普通の兎やったらおでこや背中が撫でられて嬉しいポイントやけれど、この子もそうやろうか?」 今まで、触る順番を待っていた日鍼がそっと指を伸ばす。 うさぎビスハの言うことは聞いとくもんである。 「他の場所――耳や尻尾とかは嫌がりやすいから控えとくよ」 わかった。触んない。 さすがのモフリスタ・レオンのサビシイトシヌの扱いは見事だ。 強すぎず、弱すぎず。嫌がるポイントは触らず、太い指なのに絶妙ポイントはきちんとチェック。 全身全霊もふもふに注いでいるだけのことはある。 ただ、背後に日本海の荒波が見えるだけで。 「よしよーし、ふわふわだなー。おまえのことのこと思ってるぞ、覚えてるぞ。周りには皆がいる、あったかいだろ。俺もリボンもってきたんだー……」 琥珀も相好を崩した。 (寂しさを慰める方法か……正直俺がお前に聞きたいぐらいだ) そんな中、伊吹は、もっふ~んとした灰色兎を前に、クリスマスに気丈に笑っていた少女の顔を思い浮かべる。 今も胸に、あの指輪を下げているのだろうか。 「俺にはずっと心に引っかかっている孤独な少女がいる。彼女の幸せを願っているが、どうしたらいいのかわからない」 うさぎにまじで相談始まりました。 彼女は、今、伊吹に盛大に反抗期を全行動で表現している13歳娘と、そう年が変わらないのだ。 (健気に微笑む彼女に慰めの言葉一つかけられなかった) しょぼんとする伊吹の手の上で、サビシイトシヌは首を傾げる。 とりあえず、誰かの為に何かしてあげたいと悩めるということは、さびしくはないのだ。 「……こんな事をお前に言っても仕方ないな」 ふかふかした毛並みを撫でてみると、肩に入った力が抜けるようだ。 「今は何もできないが、せめて側にいようと思うのだ。お前も死んではいけないぞ」 サビシイトシヌの目がちょっと見開かれる。 「今、彼は寂しいのが死ぬほど辛くてお前を疎んじたのかもしれないが、寂しさはいつか懐かしさや思い出に変わる。寂しさを捨ててしまえば思い出もなくなってしまうのだ」 聖なる夜。寂しさと一緒に彼女は沢山の思い出を宝物を見せるように語ってくれたのを思い出す。 「彼をいつか救うはずの思い出も消えてしまう。お前はいつか思い出になって、彼の救いになれるだろう。それまで側にいてあげてくれ」 サビシイトシヌが、ほっておかれると死んでしまうのは、疎んじられたのが悲しいから。 必要なのだと抱きしめられて、それはようやく実体化し続ける。 「誰かのことを思うためには、きっと寂しさという感情が必要なのだな。それをなくせば、彼は本当に孤独になってしまう。彼のために戻ってくれないか」 ● 憂鬱デヴァインとサビシイトシヌ、ご対面。 「――それでは、この生き物をほって置いてしばらくすると、私はこの胸の苦しみをもう感じなくなるのですね」 憂鬱デヴァインの表情は、暗い衝動に耐えているようにも見えた。 「そうだな、いっそ寂しいと思う感情など失くなってしまえ。と、何度考えたことか――」 侠治は目を細める。 失った幸せ。柔らかな色彩の中に立つ人達。 「それでも……寂しいと思う事は暖かさを知っていたと言う証拠なんだ」 侠治の言葉に、燈は控えめに頷いた。 「寂しいと思うことは、相手のことを大切に思っている表れだと思います」 生意気言ってすみません。と、燈はぺこんと頭を下げる。 「寂しいことは、苦しいことです」 とつとつと、燈は言葉を紡ぐ。 「寂しさから逃げたくなることは、誰にだってあります。人には逃げ道だって必要です」 二人でいたのに、とてつもなく一人だった。 燈と一緒にいた人は、燈をさいなんだので。 あれは、寂しさだろうか。 「だけれど、もし寂しさが無くなってしまったら、そこには何もないと私は思うのです」 何もないより、寂しい方がましだ。 「大切だった者の顔も思い出せなくても何も感じないのは――私は悲しいよ」 寂しさを捨てた記憶は残るのだから。 だから、その寂しさを捨てようと思わないでほしい。 「おじさん」 ひよりが、サビシイトシヌを差し出した。 「もふもふしてあげて」 そうするべきだと、理由もなく思った。 寂しさが、そんな形をとるのは、誰かに触れてもらいたいからだ。 そうでなければ、霧にでも、光でも、触れられないものに変換されてしかるべきなのだから。 「おにーさん、もし、ほんの少しでも寂しさが晴れたならあの子の頭を撫でてあげて。あの子はおにーさんの寂しさを吸い上げて形になった子なんだ」 終がそう言う。 見上げてくる、サビシイトシヌ。 こんな眼をして、自分は旅立っていった彼らを見送ったのだろうか。 彼らは、そんな自分にまた会おうと手を振って行った。 「頭を撫でて、もう大丈夫だよって言ってあげて」 ひよりの目は真剣だ。 「そうだな、サビシイトシヌ。だが、それも感じなくなったら、終わりだと思うんだ」 だから、かえっておいで。 「ふかふかしてますね。逆に、いないと寂しくて死ぬかもしれない」 満たされたE・フォースは霧散し、憂鬱デヴァインの寂しさは本人に還る。 (あんごらが消えたら、きっと寂しくて泣いちゃうの) そう考えていたひよりは,我慢はしたが、やっぱり泣いてしまう。 「いなくなって、寂しいのかい?」 ひよりは、こくんと頷いた。 「おじさんも、いっしょに泣いたらいいの」 憂鬱デヴァインは、首を横に振って笑った。 「いなくなったんじゃないよ。おじさんのここに帰ってきたんだ」 だから、泣かないで。 ● 「オレのお世話になってる人もおにーさんによく似たお仕事してるんだ。大変な仕事を依頼する度に凄く辛そうにしてる。彼のせいじゃないのに気に病みすぎなんだよ……」 終の中で、いつも腹のあたりを押さえている姿が、憂鬱デヴァインとだぶる。 「でもね、送り出して貰う側からするとね、凄くありがたい。いつも思うよ。ありがとう、ありがとう。オレの身を案じて送り出してくれる人がいるから、オレは笑って行ってきますって言える。どんなに辛いお仕事でも頑張れる」 ひよりは涙をぬぐいながら言う。 「わたしね、運命のはしっこをにぎるのは、この人がいいときめて、導き手のところにいくの」 運命の端っこ。 ブリーフィングルームの扉の向こうでリベリスタを待ち受けているのは、大抵苦難だ。 「つらいかも。こわいかもしれない。でも、はしっこがあったかいとね。どんなことが起きても、運命を呪わずにいようって、思えるの」 燈は、大きく息を吸ってはいた。人見知りさんが気合をいれているのだ。 「その人達は、私達を信じてくれている。私達は、その人さん達を信じている。だからこそ戦える。私にはまだ戦闘経験が無いに等しいですが、嘘偽りのない私達への確かな信頼があります。きっとディバインさんのお友達も、ディバインさんを信じていたからこそ、旅立てたのではないでしょうか?」 ひよりは、うんうんと大きく頷いた。 「おじさんのお友達も、きっとそう。お空はこんなに広くて、こころが迷子になりそうだから、おじさんにはしっこ、にぎっててほしいんだと思うの」 あなたのお仕事は、そんなに悪いお仕事じゃないよ。 だから、胸を張って。 ● 「皆さんは、いつまでここに――。もう、脅威は去ったのでしょう?」 憂鬱デヴァインは、車の中からおやつだ飲み物だと運び出して、一向に帰る素振りを見せないリベリスタに首をかしげた。 「君が、君の世界で旅立つ時、見送る者は誰もいないのだろう? だからせめて、この世界にいる間だけは、見送る側ではなく見送られる側で居させてやりたい」 レオンは、そうさせてくれるなら。と、付け加えた。 「よかったら仲間の話を聞かせてくれないか」 伊吹が時間が許す限りと、草の上に腰を落ち着ける。 更にコーヒーだ紅茶だ酒だと勧めるリベリスタに、憂鬱デヴァインは笑った。 長い話だった。とても、長い長い話を、リベリスタ達は聞いていた。 それはありふれた日常のひとコマで、彼らが彼らの世界で普通に生きていることが如実に知れるほほえましい話だった。 いつか、フォーチュナ達がこんな風に自分たちの話をするのかもしれないと、少しだけ思った。 「なあ、よかったらわいと友達になってくれへんかな? もしここへ自由に来れるんやったら、いつでもおいで。わい、人の顔はよう分からへんけれど、よく聞こえる耳はあるから……ディヴァインさんが苦しい時、どんな小さな声で言うても聞き取れるよ」 (この人が原因で崩界が進行することはないようやし、可能なら寂しさを軽減する助けになりたいな……) 日鍼は、結局お人よしなのだ。 「この世界に来てくれれば話を聞くことは出来る。その寂しさや悲しみを癒すことは、俺達には出来ないかもしれないけれど、それを共有することくらいは、俺達にも出来ると思うから……」 気が向いたらで構わんから――と、レオンは言った。 「おにーさん達の無事な航海を、最下世界の星空の下で祈ってる☆」 終は笑う。 意味もなく死にたい終は、そろそろそんなことを祈って生きてるだけで価値があることを気づいてもいい。 「これからもきっと辛いことはあるでしょう。でも忘れないでほしい。今この瞬間も、あなたのことを信じている人達のことを」 自分を選んだあなたを信じて空の彼方を目指している、あなたの仲間のことを。 「ここにいるよ」 底辺世界の自称・妖精が、未来に幸あれと祈りを込めて。 言葉だけではなく、形にして、渡したいと、サビシイトシヌに巻いてあげたリボンを、憂鬱デヴァインに渡した。 開いた次元の門よりも、きっとあなたの目指す先は遠いのだろうけど。 今感じているものより強いものがあなたをさいなむかもしれないけれど。 「いってらっしゃい!」 はるか次元を超えた所からでも、誰かが誰かを思っている。 できるなら、次元の彼方、星の彼方、あなたがたどり着いた星の上で、僕らのことを思い出して。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|