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<裏野部>鏡面世界<雲外鏡>


 ザ、ザー…………。
『うらのべ? う・ら・の・べ☆ いっちにっのさーん!!! いぇーいどんどんぱふぱふ。さて今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』
 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。
『DJはいつものこのわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけしま~す。皆愛してるよっ』
 周波数は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとって然程重要な訳ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。
 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。
 それにしても今日の死葉は何時になく上機嫌だ。コアなファンで無ければ気づかない程度の声の弾みだが、何か良い事でもあったのだろうか?
『今日はねー、雪が降ったよ。とても綺麗だったんだけど、一面の白ってちょっと駄目かな。私はねー、やっぱり赤が好き!』
 全てを壊す炎の様に、惨劇の象徴である血の様に、鮮やかな赤が。
 ラジオでは他愛の無い話題が続く。けれど時計は深夜1時23分。そろそろ本題の時間である。
『さて、じゃあ今日はお手紙の紹介です。差し出し主は、えーと……、梅芳先生』
 何時もと違う展開に耳を欹てて見れば、出てきた名前は破界器製作者の梅芳・愚老。
 決して自らは表に立たず、己の作品が惨劇を撒く事を喜びとする裏野部らしい芸術家。
『んー、拝啓、死葉様。何時も楽しく聴かせて頂いています。……え、梅芳先生聴いてるの? うわー。えーと、ところで最近私の作成した破界器の使い手を募集しています』
 !!!
『先ずは其々違う形で力を発現した試作型の三つを用意しました。此れを最も効果的に使いこなした方に全てを兼ね備えた完成品をお譲りしたいのですが、是非其方で募集をお願いできないでしょうか? ……だって』
 ラジオの向こうでクスリと冷たい笑いが漏れた。
 鋭利な刃の様な其の笑いに、色めき立った心が抉られ静まる。
『んー、梅芳先生の作品ならきっと面白そうだねー。よし、じゃあ応募は今から10分間だけ受け付けようかな』
 通信機に手を伸ばす。どうやら少し忙しくなりそうだ。
『うわー、もうメールが来てるよ。梅芳先生人気だなぁ。じゃ、忙しくなりそうだから今日は此処まで~。明日もまたこの時間にね。DJは死葉ちゃんでしたー。またねー』
 ザ、ザ、ザー…………。


 氷の銀盤、スケートリンクの上を人々が逃げ惑う。
 鏡面魔像の吐く凍れる吐息に、リンクの上で人々が氷像と化していく。
 其れを眺めて男は、『アイスデーモン』二王・達也は柔らかく微笑む。
 悲鳴と絶望と死。舞台は出来た。ゆっくりと滑り出す。
 逃げる最中に転んだ子供が、吐息に氷と化す横を、優雅にすり抜け達也は飛ぶ。トリプル・ルッツ、ダブル・トゥループ。
 コンディションは良好だ。嗚呼、楽しくなって来た。
 更に速度を増し、狙うは氷像となったばかりの、氷の中で動く事もかなわず生きたまま苦しみ悶える親子連れ。
 トリプル・アクセル。前向きに踏み切り、空中で回転して威力を増した達也の蹴りが、親子の像を真っ二つに切り裂いた。


「さて諸君、今日の任務を伝えよう」
 一つ息を吐き、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はリベリスタ達を出迎えた。
 とは言え、言うべき事は然程多くない。奴等を、今回の敵を語るには、ただ一言で事足りる。
「諸君、裏野部だ」
 主流七派が一つ『過激派』裏野部。
 恐らくはもう語るまでも無い、この国に巣食う害悪であり災厄。
「敵はとある屋内スケート場を占拠し、逃げ遅れ、尚且つ生き延びた少数の一般人を人質にとっている」
 無論逃げ遅れた大多数は占拠の際に殺されたのだけれど。
「敵の目的は恐らく一般人を助けに来るリベリスタで、己のアーティファクトの使用実験を行なう事だろう。……だが敵の目的通りであっても、人質を取られたまま看過は出来ない」
 机に、資料が放られた。



 資料

 フィクサード:『アイスデーモン』二王・達也
 裏野部に所属するフィクサードの青年。ジーニアスの覇界闘士。
 元はフィギュアスケートの選手で、非常に恵まれた身体能力の持ち主。ハイバランスや面接着も所持。
 所持EXは『アクセル』、所持アーティファクトは『氷を征く者』『試作型雲外鏡C・鏡面世界』。
『アクセル』
 同名のフィギュアのジャンプから繰り出される蹴撃。回転数を上げる程に威力が大きく上がり命中が少し下がる。達也はクワドラプル(4回転)まで可能。物近範、失血。
『氷を征く者』
 スケート靴のアーティファクト。氷の力を発し、例えスケートリンク以外の場所でも触れた付近を瞬時に凍らせる事で走行を可能とする。
 1ターンの移動可能距離に+10m。更にこのスケート靴での攻撃を受けると凍結と氷結を付与を受ける。
 ただしアーティファクトが認めた者以外が装着すると、足が凍り腐れ落ちる。
『雲外鏡C・鏡面世界』
 強力な力を秘めた鏡のアーティファクトの試作型。製作者は梅芳・愚老。
 範囲50m以内のガラスや氷、水鏡等の光の反射効率の良い物にぶつかった攻撃を反射させる事が可能となる。(自身だけでなく他者の攻撃でも)
 反射角度は鏡の持ち主の意のままであり、射程距離は鏡からの距離となる。(遠の攻撃を10m先の鏡で反射させた場合、鏡から20mの距離までが効果範囲)
 敵の攻撃を鏡で受け止めた場合や、回避した攻撃が背後の鏡に命中した場合等も、其の攻撃を反射可能である。
 ただし試作型の為、其の効果には不安定さが残る。

 E・ゴーレム:鏡面魔像
 梅芳・愚老から雲外鏡C・鏡面世界とセットで二王・達也に譲られたE・ゴーレム。
 全身が鏡面処理された魔像で、力が強く、更には雲外鏡C・鏡面世界の効果を使用すれば敵の攻撃を反射する事が可能。
 身長は3m。例え汚されても時間と共に輝きを取り戻す。
 その他の能力として、遠2域まで届く氷の吐息(高命中の氷像付与攻撃、ダメージ0)が判明している。



「敵は随分と厄介で危険な玩具を手に入れている様だが、……諸君、やってくれるな?」
 目的は人質の救出と敵の撃退。
 決して難易度の低い任務では無いが、それでも成し遂げなければならない。
「よし、では諸君等の健闘を祈る。……朗報を待っているぞ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月14日(木)23:18
 二王・達也にある程度以上のダメージが蓄積された場合、鏡面魔像は攻撃よりも達也を庇う事を優先します。
 当然ですがスケートリンクを使用しての反射が可能となっております。反射を経由した攻撃は判っていても避けにくいでしょう。攻撃を避けた後も割りと危険かも知れません。

 それはさておき死葉です。可愛いです。イラストを描いて下さったキヨイチVCには心から感謝です。愛してます。
 砂蛇の時もそうでしたが、VCさんのお仕事には心が揺さぶられますね。

 成功条件は敵の撃退と人質の救出。
 生き残った人質は3人。スケートリンクの中央に集められ、身動きの取れない状態にされています。
 
 非常に面倒臭く厄介な能力の相手ですが、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
ナイトクリーク
椎名 影時(BNE003088)
レイザータクト
★MVP
ミリィ・トムソン(BNE003772)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
レイザータクト
神葬 陸駆(BNE004022)


 ――御機嫌よう、フィクサード。
 冷えた空気を震わせて、銀盤に少女の声が響く。
「実験の為の便利屋扱い、思惑に乗るのは些か不本意ですが、私が貴方の相手になりましょう」
 凛と、良く通る『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の宣戦布告に、けれどもリンク中央の『アイスデーモン』二王・達也は肩を竦めた。
「いや、まあ、別に君等じゃなくても良かったんだけどさ。こう言う時に一番に駆け付けるのが君等ってだけだったんだけど、まあ確かに便利だよね」
 如何にもスケート選手といった端正な顔立ちに達也は微笑みすら浮かべて。だが彼の衣装は、スケート靴は、犠牲者達の返り血に染まっている。
 友好的な笑みの奥に潜む肉食獣の息遣い。
「僕らが誘いにのってやったのだ。ありがたく思え、玩具遊びに付き合ってやる」
 ミリィに次いで達也に声をかけたのは、ミリィと同じく司令塔、レイザータクトである『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)。
 ジーニアス、天才を名乗る彼の言葉には、其れを裏付ける知性と自信に満ち溢れている。
 しかし世に天才と呼ばれる人物に奇人変人が多い様に、恐らくは陸駆も多少感性がずれていたのだろう。
「人質なんぞどうなっても構わんが実験の邪魔だろう。玩具を楽しむなら、邪魔者は排除しろ」
 気付かぬままに陸駆が口にしたのは、引いてはいけないトリガーだ。
「え……、あ、そう? 君等にやる気出して貰おうと思って置いてたんだけど……、そっか、判った。OK、じゃあお坊ちゃんの言う通り『排除』するよ」
 言葉と共に振り抜かれた達也のスケート靴が、人質の一人、子連れの母の首を刎ねる。
 余りに自然な其の行動に、割り込む暇等は欠片も無い。呆然とするリベリスタ達の前で、血の噴水が氷上を赤く染め、残る人質……、死した彼女の二人の子供達が悲鳴と泣き声を上げた。
「煩いなあ。仕方ないだろう。邪魔って言われたんだからさ。こんな事なら態々残すんじゃ無かったよ。まあ直ぐに同じ所に送るから一寸黙りなって」
 無論陸駆はその心算で言った訳では無いのだろうが、けれども裏野部である達也からすればそう言う風にしか受け止めようの無い其の言葉。
 だが其の言葉によって引き起こされた行動は、一人のリベリスタの導火線に火をつけた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 リンクに向かって段差を駆け下り、銀盤を覆う囲いを踏み台に宙を舞う『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 L☆S 風斗(BNE001434)。
 振り下ろすは全身の力を刃の切っ先に篭めた一撃、メガクラッシュだ。無論翼を持たぬ風斗が多少飛んだり跳ねたりした所で、リンクの中央に居る達也に届く筈が無い。
 故に彼が狙うは己が着地点であるリンクの氷を、渾身の力で叩き割る。その目的は派手な行動を取る事で達也の注意を自分に引き付けんが為。
「二王達也! しばらくの間、オレたちと一緒に氷上ダンスを踊ってもらおうか!」
 衝撃に氷塵舞う中、刃の切っ先を向けた風斗が戦意を撒き散らす。並の人間ならば普通の靴で氷の上に仁王立ちは難しかろうが、ハイバランサーの力が其れを可能にしたのだ。
 だが其の戦意に呼応したのは、達也では無くE・ゴーレム鏡面魔像。風斗の威圧から達也を護らんとするが如く一歩前に進み出る。
「いや言われた通りにしただけなんだけど……。まあ何だか判らないけど、じゃあ殺る気が出たなら殺ろうか。良いよね、其処のお嬢ちゃん?」
 達也が向ける視線の先は、年は若けれど将の風格を感じさせるミリィ。
 少女の口から小さな溜息が漏れる。当初の予定とは行き成り大きなズレが出たが、それでも戦わぬ訳にはいくまい。
 凶悪なフィクサードである達也や世界を蝕むエリューションである鏡面魔像を放置は出来ぬし、其れに何より、母の骸に縋り付いて泣く二人の子供を救わねばならぬ。二人の母を失ったのがリベリスタの手落ちであるのなら余計に。
「さぁ、戦場を奏でましょう」
 ミリィは達也に対して一つ頷き、開戦の言葉を口にする。


「さあ……踊って、くれる?」
 達也を挟み込むように『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と風斗が駆ける。
 氷上と言う足場の不利を全く苦にせぬ二人の刺客。 
 風斗が繰り出すオーラを纏った武器の連撃を、スピンで弾いて回避した達也だったが、けれども回転が緩まった隙を突く天乃のデッドリー・ギャロップ、全身から放たれた幾重の気糸が、直撃だけは何とか避けた彼の右腕を捉えて締め付ける。
 しかし達也の氷上から笑みは、余裕は消えない。反撃にと空中に飛び上がった彼が放つは空裂き貫く蹴撃、虚空。
 気糸を解き、一度はその一撃から逃れた天乃だったが、達也の本当の狙いは彼女が回避した先にあるリンクの氷。鏡面世界の力で反射した虚空は回避に体崩した天乃の腹を貫通し、更には一直線に風斗に突き刺さる。
 衝撃に、其れでも転ぶ事なく踏み止まった天乃の口から血が零れた。
「ん~、やるね。怖い怖い」
 糸から解放された右腕を振り、達也が嘲る。だが其の口調ほどに先の攻防に余裕があった訳では決して無い。
 もし仮に後数秒締め付けが続いていれば、骨の一本くらいは持って行かれていたであろう。
「スケートに関してはオレたちは素人だが……何、三流スケーターのお前とならちょうどいいバランスだろう!」
 氷に刃を突き刺し、虚空の衝撃にも倒れる事を拒否した風斗の眼光が達也を貫く。
「さっきから思ってたんだけどさ。あまりキャンキャン吼えるとさ、弱く見えるぜ子犬君」
 三流スケーター、其の言葉は恐らく僅かであれど達也の癇に障ったのだろう。
 挑発に挑発を返し、3人の戦いは加速する。
「……いく、よ」
 天乃が放つ気糸を達也が掻い潜り……、けれども天乃、風斗の2人は、実は囮であった。本命から意識を逸らし、本命の一撃を確固たるものにする為に其の注意を自分に向ける。
 彼等の本命、ミリィの口から魔力を秘めた言葉が放たれた。

 己が眼前に立ちはだかる『骸』黄桜 魅零(BNE003845)に、鏡面魔像は無感情に腕を振るう。
 ハイバランサーを持つとは言え、サイズの分だけ腕も大きく、更には意外に動きも鋭い鏡面魔像の一撃を避ける事は容易では無い。だが其の分を差し引いてもまるでワザとでもあるかの様に魅零はまともに拳の直撃を喰らい、氷の上に転がった。
 無論其れは彼女がMであったからとかそんな下らぬ理由では無い。魅零の性癖はSかMかはさて置き、彼女を打ち据えた鏡面魔像の拳はべったりとクランベリー色に染まっている。
 魅零が鏡面魔像の拳を敢えて其の身で受けたのは、用意してきたカラースプレー、……敵が動きを止めねば活用し難い其れで魔像を確実に汚す為であったのだ。
「神葬くん!」
「黄桜 魅零良くやった。後はこの天才に任せろ」
 魅零からの呼び掛けに、飛び出したのは陸駆。密林靴で足元を固めているとは言え、氷の上はとても踏ん張りが効く状態とは言いがたい。
 けれど其れでもやらねばならぬ。魅零が身を挺して作った好機を無駄に出来よう筈が無い。
 狙うは鏡面魔像のクランベリーに染まった右拳。放たれるは物理的な圧力を持つまでに至った密度の高い思考の奔流、J・エクスプロージョン。
 思いも寄らぬ衝撃に、宙を舞った魔像の身体が氷の上を転がった。


「助けに来た。お願い、暴れないで、大人しく……守られていて」
 拘束が解かれるや否や、母の骸に縋って泣く子供達に、『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)は目を伏せる。
 母と離れれぬ子供たちの気持ちは影時とて判る。だが何時までも泣いていられる訳にも行かない。
 今は風斗や天乃、そしてミリィに気を取られてるとは言え、達也が、あの余りにあっさり命を刈り取った殺戮者が何時此方に気持ちを向けるか判ったものではないからだ。
 影時が子供の一人を抱え上げようとしたとの時、しかし其れを制したのは『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)。
「子供なら私でも二人は抱えれるから」
 影時は母を。其れは如何にもシスターらしい、杏樹らしい心遣い。子等の母は確かに命を失えど、この骸は単なる肉の塊には非ず。
 供養すべき魂はきっと未だ其処にある。家族達の手で供養せねば、其の魂も家族達も救われない。
 杏樹は子供を左右の脇に一人ずつ抱え、影時は骸と……そして転がる生首を拾って、三人の人質を助け出して退避を始めた。

 無論人質の非難に割いた戦力の分だけ、残された者達の戦いは厳しい。
 鏡面魔像の氷の吐息に、魅零と陸駆が氷像と化す。
 邪魔者を排除した魔像が目指すは人質を連れて逃げる杏樹と影時。けれども其の時、光が邪を退けた。
 このままでは人質達が危険と判断し、敢えて鏡面魔像の吐息の範囲に近付いてブレイクフィアーを放った風見 七花(BNE003013)。
 当然魔像の注意は彼女へと向くが、
「させないわよ」
「やらせるはずが無いだろう!」
 魅零が、陸駆が、動き出す。

 一人の欠けは出たけれど、人質を逃がす事に関してはリベリスタ達は概ね成功しつつある。
 だが其の一方で、アイスデーモンの異名を持つ達也を氷上で、しかも僅かな人数で相手取らねばならなかった天乃、風斗、そしてミリィが被った被害は甚大であった。
 ミリィの放ったアッパーユアハートに敵意を高め、達也は彼女との距離を潰す。達也を敵と定める天乃に風斗も其れに倣うが、其処で放たれたのが達也が持つ最大威力の技であるクワドラプルアクセル。
 人類が未だ成し遂げた事の無いと言われる其れではあるが……、フィクサードである達也はもう既に純粋な人間であるとは言いがたい。
 スケートリンクを鏡面に、乱反射された技に巻き込まれたミリィ、風斗、天乃の三人が血塗れになって倒れ伏す。


「4回転は非常に困難な技で、それができるほど才能ある人がなぜこのような事……」
「元フィギュアスケートの選手のクセして堕ちたものね。挫折でもしたの?」
 七花と魅零の言葉に、顔まで返り血に染めた達也の笑みが一層深くなる。
 ……挫折、嗚呼、挫折感と言うのが正しいのかも知れない。あの時から、今も、ずっと抱くこの想いは。
 嘗ての、少しでも上の難易度のジャンプを飛べた時の喜びと達成感……。全てを犠牲に練習に打ち込むほどに、フィギュアスケートに魅了されていたあの時。
 其れは恋と呼んでもおかしくは無い感情だったのに。
「ねぇ、其処のお姉ちゃん。俺に才能があるって? 君が言うの? 俺と同じ革醒者(ばけもの)の君が」
 此れは才能なんかじゃない。呪いでしかない。
 全くのある日唐突に、達也は其れまで全くこなせなかった三回転半を飛べた。それどころか四回転さえも容易に……。
 はじめは才能の開花かと狂喜した。今までの努力が遂に実を結んだのかと。
 だが、違う。其れは努力や才能等と言った言葉とは全く無関係の、単に人をやめてしまった証。
「四回転なんて飛べて当然だろう?」
 達也が恋した高嶺の花は、ある日突然とんでもない尻軽になって彼に媚を売り始めたのだ。
 恋心を失うのが失恋ならば、アレは確かに失恋で、道を外れる事を挫折と言うなら間違いなく達也は挫折した。
 試す気にもならないが、今の達也はまかり間違えば5回転だって飛べるかも知れない。けれど其れは既に達也の知るフィギュアスケートでは無いけれど。
「つまりは単なる八つ当たりか」
「振り回される此方の身にもなって欲しいですね」
 風斗が、ミリィが、そして無言のままに天乃が、運命を対価に立ち上がる。
「いやいや、違うね。俺は元からこういう奴だったのさ。昔はスケートに夢中で気付かなかっただけで、殺すのは楽しいよ。こうなったのは俺の運命って奴かな」
 達也は恋を失い、本当の自分に気付いただけだ。例えスケートと出会っていなくても、別の道を歩んでいても、結局達也はこうなっただろう。
 其の証拠に、運命は彼を愛しているのだから。
 裏野部との、マンドラゴラとの出会いは、所詮単なる切欠だ。今更言い訳にもならない。今こうして悪人である事が全てなのだ。
「どおりで何の魅力も感じないわけね。あんたの滑りは0点よ! 最っ低!」
 吐き捨てる魅零に、達也は肩を竦めた。
「別に君は審査員じゃないからなあ。さて、ショートは終わり。次はフリーといこうかな」
 人質を逃がし終えた杏樹に影時が合流し、リベリスタの戦力が膨れ上がる。
 戦いは局面を新たに新たな曲を奏ではじめた。戦奏者、ミリィ・トムソンの指揮の下に。


 戦いは加速する。
 陸駆の小さな身体を魔像の拳が捉え、彼を血の海に沈めた。
 魅零を、天乃を達也のスケート靴が切り裂く。
 反射を用いての攻撃は厄介で、リベリスタ達の戦列を乱す。
 けれど、けれど、けれどもだ。
「悔い改めろ。Amen」
 杏樹の魔銃バーニーから放たれた断罪の弾丸は、達也を庇った鏡面魔像の、黒く染められた胸に突き刺さる。
 そう相手の攻撃の反射を防ぐ術は無いが、其れでもリベリスタ達は魔像の、相手の防御反射を防ぐ手段は豊富に用意して来ていたのだ。
 最も厄介な鏡面魔像の攻撃反射さえ塞いで仕舞えば、敵の数は僅か二つなのだ。
 そして其れは楔となった。
「この木偶の坊。君の相手なんかしている場合じゃないよ」
 弾丸を撃ち込まれども、リベリスタ達の前に立ちはだかる魔像に、影時の気糸が絡みつく。
 デッドリーギャロップが、鏡面魔像を締め付けて其の動きを封じる。
「彼の者を癒せ」
 展開されるは癒しの術式。マグメイガスである七花の、けれどもたゆまぬ研鑽はホーリーメイガスの術にも及んでいるのだ。
 癒しが力尽きかけていた風斗に、再び一撃を放つ力を与えた。
 ミリィの指揮棒、アンサングが示す先には、魔像の胸に突き刺さった楔。
「砕けろぉ!」
 風斗の全身の力を切っ先に篭めて放たれるメガクラッシュは、鏡面魔像の胸に刺さった杏樹の弾丸に打ち込まれ……、無敵の反射を誇った魔像の全身に皹が入る。
 アーティファクトの組み合わせにより無敵の反射を持つが故に、魔像はさしてタフでは無い。
 そして如何に攻撃力を誇れど無敵の盾を失った達也に勝ち目があろう筈も無い。

「一つ問いましょう。何故、逃げなかったのですか?」
 倒れ伏した達也に、見下ろすミリィが問い掛ける。
 卓越した戦闘指揮者であるが故に、どうしても気になった其の疑問。
 達也の動きを見る限り、撤退のチャンスは幾度かあったのだ。一度撤退を始めれば、アーティファクトにより移動速度に勝る彼を逃がさぬ事は非常に困難だっただろう。
「……逃げる? 何を言ってるのか判らないね。……まだ曲は終わってないよ。ほら、君にも聞こえるだろう?」
 そんな力は何処にも残らぬ筈なのに、達也は全身の力を振り絞って起き上がる。
 其れは最早本能だ。フリープログラム、まだ演技は終っていない。
 例え何度転ぼうと、どんな絶望の最中にあろうと、彼等は氷の上では演技を投げ出さない。
 ミリィの指揮に音楽を感じたその瞬間から、達也に逃げる選択肢は存在しなかった。
「そうですか……、わかりました。 ――では、御機嫌よう」
 結局ミリィが曲を終わらせねば、達也が止まる事は無い。故に最期を飾るのは彼女以外にありえなかった。
 アサシンズインサイト、冷徹極まる透明な殺意の視線が達也の心臓を貫き、その鼓動を停止させた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 行動の齟齬などもあり、若干詰め切れてない部分は感じましたが、ポイントはしっかりとおさえて居たとも思いましたのでこの結果に。
 敵の殲滅され、人質は3人中2人が無事でした。
 お気に召したら幸いです。
 参加有難う御座いました。




 MVPは丁寧なプレイングで曲を奏でた方に。