●境界 日本書紀や古事記の記した『黄泉比良坂』の伝説は生者の領域と死者の領域を重く分かつ『封印』を生み出す事で話を結んだ。『本当にあったのかも知れない』古代の物語の中の『些か男を下げた夫』と『少し気の毒な妻』の存在は、つくづく古今東西この世界の何事も男女のドラマと切り離せないのだと教えてくれているようではあるがそれは兎も角として。現在のこの世界に重要なのは生と死は隣り合わせに居ながら――あくまで隔てられた存在同士という方である。 生者は死者の眠りを妨げる事勿れ。 死者も又、生者の領域を侵す事勿れ。 当然と思われた定義は『神話のルーツ』の告げる教訓の一つに違いない。 ――それなのに。まるで聞き分け無く、黄泉比良坂が開いたようだ。 ●『黄泉ヶ辻』 千葉県、千葉市。 「うーん、こりゃ凄い。所謂阿鼻叫喚ってヤツだねぇ」 男が――黄泉ヶ辻京介が見知る日本の様子は早々見ない程に変わり果てようとしていた。彼は日本国内で最も強力と言われる七つのフィクサード組織の一『黄泉ヶ辻』の言わずと知れた首領である。七派の内で『最も陰惨で理解不能である』とされる彼以下一派のフィクサード達は日々神秘界隈に目を覆いたくなる程の事件を引き起こす事に余念は無いのであるが―― 「俺様ちゃん、基本的に日本好きだしなー」 ――独白めいて呟いた京介は現在進行形で日本各地を襲っている『混沌組曲』――つまりはバロックナイツ第十位ケイオス・“コンダクター”・カントーリオによる都市攻撃計画――に心を痛める事は無く、唯素直な賞賛を口にしているかのようであった。 路地裏には京介の影法師が伸びている。 ケイオスと『楽団』がリズムを変えたならその存在は遂には知れる所となる。万華鏡程では無くともフォーチュナを備え、『狂気劇場』を有する京介は自身に訪れた機会とその状況を必要な程度には把握していた。自分に用がある、そんな男が居たならば彼は狂喜せざるを得なかった。 「あっちからラブレターとか超クール」 京介からすれば自身の対戦相手がケイオス・“コンダクター”・カントーリオで無かったのは残念無念の極みとも言えるが、『第一バイオリン』と言えばオーケストラでも花形である。バレット・“パフォーマー”・バレンティーノと聞けばそれは悪名高い死霊術士の一人なのだから贅沢を言っては撥が当たるというものであろう。そう気を取り直した彼はその指に嵌めた十本のリング――『狂気劇場』に問い掛けた。 「狂ちゃん、狂ちゃん。それに、ソイツ面白いヤツ何でしょ?」 ――京ちゃんは気が合うかも知れないNE! 「人形にしたら盛り上がるよね。皆、大喜び?」 ――向こうも同じ事思ってるYO! 敢えて護衛や仲間等用意しないのは彼一流の流儀である。 「会うの楽しみだなぁ」 まだ見ぬバレットなる男への興味をしみじみと呟いた京介はそこまで言ってから人気の無い路地裏に存在する気配の方に気を向けた。鼻の利く彼にとってそれは嗅ぎ慣れた臭いである。改めて確認するまでも無く、それが何者で何をしに来たかの想像はついていた。 「ねぇ、アークのリベリスタ君。君達も、そう思うよねぇ。 芸術は爆発だ。マイナスにマイナスを掛けたら何になる? Yes。夢のあるロマンとロマンの科学反応ってヤツだね! ウルトラハッピー!」 ――ヒェー! 京ちゃん冴えてるゥ! 「……………」 無言で姿を現したリベリスタ達に油断は無い。 軽い調子とは裏腹にギラギラとした殺気が一帯を包み込んでいた。黄泉ヶ辻京介の本質を示すその圧倒的に危険なオーラは今日の彼が酷い『飢餓状態』にあり『ご馳走を目の前にお預けされた獣である』事を伝えている。彼はお節介な事にリベリスタが動き易いように京介はこのロケーションを選んだのだ。『何故そうしたか』は敢えて語る必要も無いだろう。 「邪魔する心算なんだよねぇ?」 京介は何時もの笑顔を浮かべたまま。 主菜(メイン)の前の前菜(オードブル)を見回して――その魔性を解放した。肌を突き刺さんばかりのその刺々しい存在感はリベリスタ達が初めて目にする京介の『本気』である。状況が伝える意味は唯一つ。『今日のシーンはゲイムではない』というそればかりで十分だった。 リベリスタの目的は別チームがバレットを食い止めている間に京介をこの一帯から引き離す事。約束された最悪の出会いを回避する事。目的は一つ、方法は委ねられている。但し、バレットは言うに及ばず、迎撃する気たっぷりの京介も交渉だけでどうにかなる相手でない事は火を見るよりも明らかだ。 「『辻』ってさぁ。道みたいな意味合いもある訳ね。 『狂介』に出会う『道』。つまり、この路地裏はリベリスタ君達の黄泉ヶ辻って訳? さあ、黄泉比良坂を振り向かないで駆け上がれ。一等賞なら生きて帰れるかも知れないよん!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月12日(火)00:20 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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