●メタルヒロイン!! 私? 三好沙耶子、三十八歳。彼氏いない暦は十五年。モテるための努力は、そんじょそこらの女に負けない自信がある。 自分磨きを怠らず、ホットヨガや英会話、フラダンスと様々な習い事に通い、パワースポットを巡り、写経や座禅まで体験した。 資格だって、ご当地検定からアロマテラピー、野菜ソムリエまで取得したというのに、合コンでの成功率ゼロ。 顔はそれなりに美人だと自他共に認められているし、スタイルだって頻繁にジムとエステに通っているから十分綺麗なはずだ。 服は下着までブランドで固め、ネイルだってサロンで完璧にデコっているから、オシャレにも人一倍気を使っているという自負もある。 仕事だって今や管理職についていて、部下もたくさんいるから、デキる女のはずだ。 だというのに何故、年収800万以上の家事が出来る長男以外の男にめぐり合えないのだろうか。多くは望んでいないはずなのに。 「……これで私が最後に残ったお一人様ってぇ訳ね」 沙耶子は今、披露宴会場であるホテルの前にいる。 花嫁は、友達の石突仁美である。 大学時代の友人十数人の中で、つい先日まで、沙耶子と仁美だけが独身だった。 お人よしだがダサくてデブでブスでバカでドジな仁美よりは、早く結婚できると沙耶子は妄信していた。 なのに、だ。 先日のランチのときに仁美から、結婚を恥ずかしげに告げられたときは、『地獄に落ちろ』と叫ぶのを我慢するのに必死だった。 自分より格下だから優しくしていたが、こうなればいっそ絶交しようと思ったくらいだ。 しかし、披露宴で新郎の友人をゲットできる僅かな可能性にかけて、気を取り直して来場した次第である。 「ド畜生めが」 愛らしいご祝儀袋(中身は三万円)をぎりりと握り締め、沙耶子は呟いた。 と……。 「あなた、暇ですか?」 不意に背後から聞こえた声に、沙耶子は怒り心頭で振り返った。 「暇に見える!?」 視界に映ったのは、スーツ姿の男だった。 ホテル特有の間接照明のせいか、彼の表情はよく分からなかった。 「少し、お話をお伺いになってくださったら嬉しいと思うのですが」 日本語がおかしい。日本人ではないのだろうか。雑踏にまぎれたら一瞬で分からなくなるような特徴のないアジア人顔だが。 「ナンパにしては下手ね。皆、聞きたくもない家族の話しかしないから、急ぐ必要ないし、いいわよ。聞いてやるわよ。さっさと話しなさいよ」 「私と盟約を交わし、メタルヒロインになってくださいませんか」 「……はァ?」 男は、コイツ頭おかしいんじゃない? というように顔をゆがめる沙耶子に頓着せず、まくしたてる。 「簡単です。この素晴らしいアーティファクト、トラジェディヴィクティム改を手に、世界の悪と戦ってくださるだけで、問題ないです」 と、差し出すのは、昭和の夕方に少年達が胸を高鳴らせながら視聴していた特撮番組に出てきそうな、メタリックで未来的なデザインのペンライトめいた物体であった。 「……なにこれ、玩具?」 「ご協力いただく、問題ないでございますか」 「あんたねぇ、いくつかしらないけど、大人の癖にさぁ、こんなチャチな玩具で何がしたいの? ばか?」 などといいつつ、沙耶子は男からトラジェディヴィクティム改をつまみ上げた。 その瞬間! 「超絶装身っ!! シャンデリアンッ!」 ビシィッ、ズバッ、ジャキーンッ!! と効果音がつきそうな勢いで、沙耶子はキレのあるポーズを次々決めた。 すると瞬時にメタリックなコンバットスーツに全身を覆われたではないか。 「説明しよう。超絶装身シャンデリアンは、トラジェディヴィクティム改から投射されるエネルギーを浴びて、装身を完了する。その時間、僅か2ミリ秒!」 という機械音声が、トラジェディヴィクティム改から流れた。 そして、沙耶子の脳内には、幸せな人々である仁美一行をぶっ殺して、幸せをトラジェディヴィクティム改に蓄積せよという命令文が充満する。 「ミッション、了解。シャンデリアン、GO!」 沙耶子は駆け出し、ホテルに突入。 彼女を制止しようとしたロビーの面々をシャンデリアンキックやシャンデリアンパンチ、シャンデリアンショットで皆殺し、一路、披露宴会場へと向かうのであった。 「頑張ってください、私のために……」 スーツの男は、晴れやかに微笑み、雑踏の中へとまぎれていくのであった。 ●負け犬キラキラ 「……先日、アーティファクトで冴えないおっさんを魔法おっさんに変えて、人を襲撃させるアザーバイドの一件があったのを、知っているか」 『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)のぶっきらぼうな問いに、リベリスタは肯定を返した。 「今回、僕がその案件を引き継いだわけだ。つまり、あのアザーバイドは新しく悪事を起こそうとしている。前回同様、アーティファクトで一般人を強化して、人を殺させる訳だが、今度はメタルヒロインだ。超絶装身シャンデリアン……そんなふざけた名前までついている」 闇璃は前述の通り、三好沙耶子というアラフォー独身女性がシャンデリアンに変身し、披露宴会場のホテル全体を惨劇の場に変えるという事件の概要を説明した。 「ホテル全体が危ないが、どうも彼女をとめようとしなければ殺されることもないようだ。つまり、一般人たちに無抵抗主義を徹底させれば、被害は三階の披露宴会場、『鳳』だけで済むわけだな。勿論、シャンデリアンが『鳳』まで到達する前に、止める必要がある。幸い、二階の宴会場『オーロラ』は空いていたから、アークで貸し切った。そこへ押し込んでしまえ」 ホテルに入れる前になんとかすれば、という案に、闇璃は難色を示す。 「彼女はホテルの真ん前で変身するんだぞ。外は往来する沢山の人でいっぱいだ。ホテルの中に入れてしまったほうが、被害は少ないんじゃないか? シャンデリアンは、披露宴の来場者を殺すという強迫観念に凝り固まっているからな。別の場所に誘導するのは難しいと思うぞ」 それでは、アザーバイドと沙耶子が接触するのを食い止めれば、と提案する者が出た。 「とはいえ、沙耶子が触ってしまえば2ミリ秒で変身だ。アザーバイドがアーティファクトを沙耶子に投げつけるなりして、無理やり変身させる可能性がある。もしくは逃げて、予想もつかない人物がシャンデリアンにされ、想定外の場所で被害が出るか。それに、あいつは特徴の無い顔をしている。雑踏にまぎれてしまえば判別つかないだろうな」 予測が出来ている状況で、沙耶子を止める方が安全だ、と闇璃は主張した。 「……ま、どれも僕の取り越し苦労かもしれない。方法は任せる。お前たちがどうやるかは自由だ。とはいえ、アザーバイドを何とかしない限り、アーティファクトを破壊しても、また新たなアーティファクトで惨劇が起こされることは、確定してしまったな」 ぱさりと鈍色の羽を動かし、闇璃は説明を終えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月03日(日)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●お客様、ロビーで特撮は困ります ホテルロビーにある、宴会場の予約表には、三階『凰』の欄には『上條家・石突家、結婚披露宴』、二階『オーロラ』の欄には『アークご一行様』と書かれている。 「お客様、こんな直前におっしゃられましても困ります」 フロントの支配人が、困惑というよりも怒りの滲んだ声で『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)と、『』風見 七花(BNE003013)に告げた。 「直前って、半時間後なのにネ」 颯は、むぅとむくれる。 「たった数分でいいのですが」 七花は粘ってみるものの、 「ロビーには無関係な一般のお客様もいらっしゃいます。もっと事前にご相談もなく、いきなりお客様の演出のために公共の場所をお貸しすることは出来かねます」 支配人は面倒を言う若い女達に対して、非常に高圧的に出るのであった。 『ふーむ、やはり、ロビーをメタルヒロインが走り抜けるというのは、流石にシティホテルとして容認できませんか』 ロビーの隅で、警備員然とすました顔で玄関口を見ているフリをしている『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)はホテル従業員の説得は無理そうなことを悟った。 ちなみに、本業も警備員な守。当然違和感なくホテル警備員を演じているため、いちいち今日のシフトの警備員の顔など気にしている暇のないホテルスタッフに何ら怪しまれることはない。 「しかたないネ」 颯の魔眼が発動する。 「……貸してくれるょネ?」 支配人の顔が一気に無表情になるなり、機械的に頭を上下させた。 「…………ハイ」 支配人は夢うつつな口調で、スタッフ達にアーク一行の要望に答えるように指示を出した。 「さてさて、面倒だケド、周りの面々にも魔眼をつかっていこうかネ」 「魔眼の出番だね。わかったよ」 颯が動き出したのを見て取り、もう一人の魔眼使いである『』四条・理央(BNE000319)も周辺の一般人に暗示をかけるべく行動を開始した。 とはいえ、ロビーの人間はスタッフを除いても、数十名もいる。ただでさえ、人間が多いシティホテルのロビーだが、今はもうすぐ披露宴が始まろうとする時間帯だ。いつも以上に一般人の数は多い。 残り時間は少ない。二人は大急ぎで人々への催眠を進めていった。 『間に合うでしょうか……』 魔眼使いに任せると決めたものの、七花は一抹の不安を感じざるを得なかった。 ●そして時は動き出すッッ そしてフォーチュナが告げた時刻きっかりに、事態は動き出した。 ホテルの前で仁王立ちになり、三階を睨み上げる三好沙耶子に近づく黒スーツの男。 『あれがアザーバイド……』 警備員というポーズをとるべく、玄関口を眺めている守は一部始終を見ることが出来た。 男は、なるほどフォーチュナが説明に苦慮したのも分かるほど特徴がない。 似顔絵を作っても、無関係の人間がごまんと釣れそうだ。 何事か言葉をかわした後、アザーバイドから沙耶子にトラジェディヴィクティム改が渡る。 「超絶装身っ!! シャンデリアンッ!」 ビシィッ、ズバッ、ジャキーンッ!! 「説明しよう。超絶装身シャンデリアンは、トラジェディヴィクティム改から投射されるエネルギーを浴びて、装身を完了する。その時間、僅か2ミリ秒!」 「来ましたねッ。俺も2ミリ秒での装着には自信ありますよ」 などと言いつつも、守は身構えた。 悠々と去っていくアザーバイドは、しっかりと守の視界に入っている。だが、持ち場を離れるわけにはいかない。 「下がってー、下がってくださいー。演出です。大丈夫ですから騒がないでー」 魔眼がおいついておらず、入ってきた輝くコンバットスーツの人物に驚き、騒然としかける一般人へと、守が声をかけ、庇うように前に出る。 「……全員にかけられなかったね。悪いけど、ボクは先にオーロラへ行くよ」 理央は颯にそう言い置いて、階段を駆け上がっていった。 「わー、かっけー、ヒーローだー」 幼い男児がメタルヒロインに喜んで飛び出そうとする。 「ダメッ! あぁ、魔眼をかける優先順位とか、決めておくべきでした……!」 七花が男児の腕を引いて、メタルヒロインにちょっかいをかけないように必死に止める。 「ひろさん、行くわよ!」 清楚な純白のウェディングドレスの裾を引きずり、『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)が、シャンデリアンの前に踊りでた。 「やだーサヤコオバさん! マジヤバいんだけどー」 祥子が完全にバカにしたような口調で、ハイミス沙耶子を挑発した。 ギンと効果音がなりそうな勢いで、銀色のマスクが祥子を捉える。 「きゃあ、こわい! ひろさん、助けてぇ~」 そそくさと、祥子が恋人の『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の後ろに隠れて笑う。 『前回も、囮の女性を守る役回りだったが……、今回の囮は祥子だ、なんとしても守るぞ』 義弘は強い意志を持って、シャンデリアンに対峙した。 シャンデリアンは、ぐっとクラウチングスタートの姿勢から、どういう体のバネの使い方か、前宙返り、そして義弘の広いたくましい胸へと両足を突き立てる。 「シャンデリアン――キーック!!」 「ごはぁっ」 フェーズ2のエリューション並の一撃が、見事に決まる。 「ひろさん!」 「だ、いじょうぶだ。絶対に祥子は守る。俺は、侠気の盾だから、な」 「ひろさん……」 見つめ合う二人。甘い空気が漂うが。 「シャンデリアンパンチ!」 そんな雰囲気、モテたいのにモテないアラサー沙耶子が許すわけがない。 おおきく振りかぶって右拳を義弘にめり込ます。 「ぶべっ」 「ひろさーん!」 「やってる場合か! 行くぞ!」 ぐいっと祥子を姫抱きに抱き上げ、義弘は一路、二階へと走りだす。 シャンデリアンはトラジェディヴィクティム改をスチャッと抜くと、半分に折って、光線銃型に変形させた。 「シャンデリアンショット!」 キューン、キューンと微かな音と共に、光線が放たれ、義弘の背中を撃ち抜く。 「ぐ、ぅ」 痛みに呻きつつも、義弘の足は止まらなかった。 「愛だネー」 後ろからついていく颯と守。 「祭さんの体力が心配ですね……」 七花は天使の息を使うか悩んだが、オーロラでの戦闘時まで温存することを選び、シャンデリアン追跡に専念することにした。 なにより、七花が余計な助太刀をして、シャンデリアンに仲間認定され、標的になっては、ロビーが戦場になってしまう恐れも多分にある。 「途中で倒れないでくださいね……!」 と祈るくらいしか、今の七花に出来る事はないのだ。 ●痛いイタイいたい さて、ときは多少前後して、こちらは宴会場『オーロラ』。宴会場だが、テーブルなどの什器は設置されておらず、一段高い舞台がある以外は、がらんと広いだけの空間だ。 「うまくいってるのかなー?」 舞台の縁に腰掛け、ぷらぷら足を揺らしながら、ちびっこ『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は扉の方を眺めている。 彼女の視界には、全身甲冑に身を固めた、メタルヒーローと呼んでも相違ない『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)がウロウロしている姿が入っている。 「パンピーを殺しまくるのを除けば、メタルヒロイン。嫌いじゃないぞ!」 剛毅は、己も『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』という称号を手にしているため、『超絶装身シャンデリアン』にどこか親近感を抱いているらしい。 「黒服追跡とか、してる人いるのかなー。あいつ、幸せを集めてるのは間違いないと思うんだけど……」 前回もトラジェディヴィクティム事件を追ったメイは、持論を披露する。 「なんて言うか、他人の幸せを奪ってるより、幸せになるのを阻止してるよーな気がするんだよね。結婚式を襲撃したら幸せな気分とかになる前に殺しちゃって、幸せ回収ってできないもん」 メイの考えを聞き、剛毅は顎を撫でた。 「ふーむ。アザーバイドに関しては、いつまでも放置しておくわけにはいかんが、相手の能力がわからんことには迂闊に手を出せんからな。今回、俺はシャンデリアンを迎撃する事に専念しようと思う」 「ボクも、回復担当だから、そーゆーのは人に任せるよ。何か分かってるといいけどね」 この会話から数分後、理央が 「三好沙耶子が来たよ! 準備して」 と言いながら、ドアを開けた。 即座に、階下で何やら騒ぎが起こっているのがかすかに聞こえてくる。 「信じてるけど、人的被害なんて出ないよね?」 階下の騒ぎを聞いて理央は、もう少し階下で様子を見るべきだったかと、うっすら後悔しつつも、いつでも陣地作成が出来るように身構える。 まもなく、荒々しい足音とともに、オーロラの扉が蹴り開かれた。 「わぁ」 メイが驚くのも無理は無い。 満身創痍の義弘が、祥子をお姫様抱っこで、飛び込んできたからだ。 「じょーねつてきっていうのかな、これ。とりあえずお疲れ様」 と義弘に天使の息をかけてあげるメイ。 「すまん。だが、言ってる場合じゃないぞ、すぐに来る!」 祥子を下ろしながら、義弘は叫ぶ。 即座に飛び込むシャンデリアン。に、特攻する祥子。 「よくもまぁ、ひろさんに好き勝手してくれたわね!!」 ひろさんのスーツ姿かっこよかったし、お姫様抱っこも嬉しかったけど! と内心で叫びつつ、祥子は思い切り月読乃盾ごと、メタルヒロインにぶち当たった。 次々と飛び込んでくる仲間を数え、メイは結局誰も黒服を追いかけるものは居なかったと悟ったのだった。 祥子が張った強結界の上に、アシュレイの秘儀による陣地が理央の手で形成され、オーロラは完全に一般人の認識の外に置かれる。 七花は、メイだけでは足りぬ義弘の疲弊ぶりに、慌てて天使の息を重ねた。 「トラジェディヴィクティム改、破壊させてもらうぞ」 剛毅はそう言うと、全身から漆黒の靄を沸き立たせ、甲冑を強める。 「疾風怒濤フルメタルセイヴァー、発進! 正々堂々真っ向勝負といかせてもらう!」 剛毅はきっちりと名乗りを上げ、ポーズを決めた。 「さーて、レディをいてこますカー」 よいしょっと颯がナイフを構える。 「そんじゃマ、ぶちかますょ。心配するなぃ、終わったらレディの婚活、応援しょう」 瞬間颯は消える。そして天井を蹴る音と共に、シャンデリアンの死角から切り込んだ後、颯は呟く。 「色恋沙汰はよくワカランケドも」 シャンデリアンが、シャンデリアンショットを撃つべく光線銃型トラジェディヴィクティム改を構え用とした瞬間、声が突き刺さった。 「沙耶子さん、なぜ貴方がモテないかお教えしましょうか!」 守だった。 シャンデリアンは光線銃の銃口を少し下げ、守を注視する。 「モテるためには、技能や外見も大事ですけど、やっぱり心がね……!」 「なんですって?」 「上だの下だの、他人を手前勝手に格付けする様なその狭量さ。そういうのが表に現れてくるのですよ、そんな狭量な方に近寄る男性など……」 「だだだ黙りなさいっ」 前回転からの飛び膝蹴り、シャンデリアン膝キックが唸る。 「うぐっ」 見事にみぞおちに埋まった膝に、思わずくの字に体を折る守。 そこに追い打ちのシャンデリアン回転キック。 「ごふっ……い、いやいや……苦しい時こそニヤリと笑え……父の教えです…………」 と守はカッコイイことを言うものの、鼻血を流しながらニヤリと笑われると不気味だ。 慌てて、理央が癒しの符を守に貼り付け、鼻血を止める程度には傷を癒した。 「フルメタルセイヴァーショット!!」 魔剣の切っ先からほとばしる黒の衝撃がシャンデリアンを貫いた。 なお、フルメタルセイヴァーショットとは、剛毅の魔閃光である。 「人生には妥協というものも、必要だぞ」 「ここまできて妥協とか出来るもんですかっ!」 峻烈な輝きがメタルヒロインの艶やかな銀のボディに反射し、宴会場がディスコのように光る。 「だあっ!」 義弘のメイスが破邪の力とともに、シャンデリアンの装甲にめり込んだ。 「ぐふっ」 苦鳴を漏らし、悶えるメタルヒロインに、隙ありとばかりに颯の刃が閃く。 「ところで、いまさらだが、メタルヒロインってなにカナ、メタルフレームの亜種?」 斬撃を終えた颯がぽつんと呟くと、七花が答えてくれる。 「特撮の一種と考えてください。前回は魔法しょ……おっさんでした」 「ナニソレ」 「さぁ? アザーバイトの趣味なのでしょうか?」 七花が首を傾げた。傾げつつ、ブレイクフィアーで守の当座の危機を救った。 「結構、攻撃力高いなぁ……」 メイが守を癒すべく、天使の息たる清冽な風をそよがせた。 ●とりあえずは解決 「資格とか取りまくって完璧な女はモテないって、この前テレビでやってたわ」 「私がやってきたことがムダだと言いたいわけぇええっ!?」 アッパーユアハートが使えるのは守だけのはずなのだが、祥子の一言は、かなりシャンデリアンもとい三好沙耶子に突き刺さったらしい。銀のマスクに真一文字についた紫紺のバイザーの奥が滂沱の涙だ。 シャンデリアン正拳突きを、全力で防御し、祥子はなおも言う。 「サヤコさんは条件が良ければ、全然好きじゃない人と結婚しても平気なの?」 「どれだけ好きでも、これから一緒に過ごしていくにはお金も必要だし、姑の問題とかもあるのよ!! 色恋だけでやってけないのよぉおっ。大体、旦那はステータスだから、ステータス!」 キエエとヒステリックに喚くシャンデリアンのスキだらけの背中に、理央が作った不吉の影が覆いかぶさる。 「色恋沙汰じゃなかったのカ……」 颯、婚活の複雑さを知る。 「完全に、独身をこじらせていますね……」 守がぼそりと言う。こちらは本当の、アッパーユアハートによる攻撃だ。 小さい声ではあった。だが、そういう悲しい言葉ほど、どんなに小さい声でも当人は聞き取れてしまうもの。 「うわああん!! こじらせたくてこじらせたんじゃないわああああ」 シャンデリアンは、心の痛みで無防備を晒してしまう。 「う、うむ、今だ! と気持よく言える感じではない気もするが、メタルヒーローの戦いは真っ向勝負だ!」 疾風怒濤フルメタルセイヴァーは、魔剣を抜いた。 魔剣が輝き出す。ような気がする。 背景にオーロラが輝く。ような気がする。 バックグラウンドミュージックに、カッコイイ処刑ソングが流れだす。ような気がする。 「はぁああっ、セイヴァーダイナミック!!!」 ズバアアッ!! 剛毅は魔剣を斜め上から斜め下へと思い切り切り下ろした。 「ギャアーーッ!」 暗黒の魔力が全てを切り裂く。 どうっと倒れたメタルヒロインは、あっという間に装甲が消え、とうの立った十人並みの女性に戻った。 「彼女に対して同情はするが、妻も子もいる身としては何も言ってやれんな」 剛毅はぽつんと呟き、魔剣を鞘へと戻した。 理央は急いで窓へと駆け寄り、路上を見下ろす。 何も知らぬ人々の雑踏が見えた。 「だめだ……いないや……」 もうこの場には留まっていなかったのかもしれない。 とはいえ、理央はアザーバイドがどちらの方角へ立ち去ったかも知らずに下を見下ろしたので、見当違いの場所を見ていた可能性もあるが。 ともかくアザーバイドが、この様子を見ていたかどうかの確認は、全く出来なかった。 「これは回収します」 七花は、沙耶子の手から転がったアーティファクトを慎重に拾い上げた。 どう見てもただの男児用玩具にしか思えない、樹脂っぽい軽さとチャチな作りだ。 義弘と七花は周囲を警戒するも、 「……これを取り戻しには、来ないようですね」 「今回も近くには来なかったか」 七花は少し落胆を見せて、アーティファクトをしまいこんだ。そして、沙耶子に近づく。 「さ、色々とひどいことを聞かせてしまいましたし、記憶は消させてもらいますね」 何が何だか分からないとぼうっとしている沙耶子に、七花はさっさと記憶操作を始めた。 守がその様子を見守りつつ、優しく言う。 「終わったら、本当の目的地にご案内しますよ。今の貴女なら、きっとご友人の幸せを心から祝福できます」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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