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<相模の蝮>ふぃくさーどのさくりゃく

●おそるべきさくせん
 あっという間に六月。梅雨も明け始め雲の無くなった空からは初夏の日差しは眩しく降り注ぐ。
 まだ夏真っ盛りではないものの春の頃とは違う太陽の暑さに人々は涼しさを求めて試行錯誤。
 そんな状況に目をつけた悪い奴らが居た。
「ふっふっふ、なんて恐ろしい策略なの。やっぱり悪の結社はこうでなくっちゃ」
 とあるお店の中でテーブルの上に立って腕を組み、仁王立ちする少女が一人。両サイドで結んでいる栗色髪の髪が頷く度にぴょこぴょこ揺れる。
「隊長。この店の回収も順調です」
 そこに何やら報告に現れる一人の男。銀髪を後ろで結んだ優男風の青年だ。
 その青年の後ろでは数名の男が表の車へと荷物を運んでいる。
「で、今回の作戦はなしてアイスクリームの強奪なわけ?」
「冷たいものが食べられなくなったらバテて実力を出し切れないってことだそうだ」
 ひんやりしたダンボールを運ぶせっせと運ぶ赤髪のチンピラ風の青年と、黒髪の凛とした顔立ちの青年。
 そう、今回の作戦はアイスクリームの確保。暑くなるこの季節に皆が大好きなアイスを無くなしてしまえば必然的に参ってしまうという寸法だ。
 何だか色々と突っ込みどころがあるが少女の方は自信満々である。青年達のほうも特に文句は言わずにせっせと仕事をこなす。
 少女はテーブルに乗ったまま振り返り、外に止められているトラックに積み込まれていくアイスクリーム達を見て満足げだ。
「ふふん、前は惜しいところで帰ることになっちゃったけど今回はそうはいかないわ。今度こそ全力で行くわよ」
 因みに前回の失敗は彼女の中では戦略的撤退という位置づけで負けたわけではないらしい。
 そうこうしてる内に店からの搬送も終わって一段落。それじゃあ撤退の指揮をしようと少女は胸を張ったところで……。
「あっ、隊長。一つだけカップアイス余ってるんで食べますか?」
「食べるー♪」
 銀髪の青年から差し出されたアイスに飛びつく少女。店を後にするのはカップアイスが食べ終わってからになりそうだった。

●それでいいのか
 ある日のアーク本部にて早朝から呼び出されたリベリスタ達。まだ日も昇りきっていないのにと何名かは欠伸を噛み殺す。
「緊急事態。フィクサード達がまた暴れだした」
 覚えがあるものもいるだろうか。先日に同時に暴れだしたフィクサード事件の多発。それが今回もまた起きているらしい。
 リベリスタ達から集まる視線に『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)も真面目な顔で頷き返した。
 イヴがコンソールを操ると大型モニターに映像が表示される。モニターはいくつもの枠に分割されその一つ一つが今回起きる事件の予知の映像。中には前回の事件にも現れたフィクサード達の姿があった。
「皆に今回当たってもらう事件はコレ」
 そして一つだけアップされ大型モニター全体に表示されたのは……。
「……雪だるま?」
 何故か雪だるまの顔のドアップ映像だった。カメラが引くとそこはどうやらどこかの倉庫か何からしい。
 そして良く見ると周りに大量に積み込まれたダンボールは霜が張っていて、おまけに何やら天井から白い空気が降りてきている。
「このフィクサード達はアイスクリームを強奪したの」
「……は?」
 イヴの言葉にさらに良く見ると積まれているダンボールには美味しそうなアイスのパッケージがちらほらと。
 リベリスタ達が再度イヴに視線を戻すと憤っているのかイヴは腰に手を当ててさらに続ける。
「このままじゃあ夏にアイスクリームが食べられない。すごい一大事」
 別に三高平市の分は大丈夫じゃないかとか、そもそもアイスクリーム強奪するくらいなら作ってる工場襲えよとか色々と突っ込みたいがリベリスタ達は我慢する。
 イヴがまたコンソールを操作すると今度は今回の事件の犯人であろうフィクサード達の情報が出る。
 隊長格である少女が一人と青年が三人、そして雪だるま。
「えっ、この雪だるまも?」
「そう。それはきぐるみ型アーティファクト。ちょっと可愛い」
 衝撃の事実とおまけに場違いなコメントを貰いリベリスタ達も流石に苦笑いを隠せない。
 事件についての情報も粗方手に入れリベリスタ達はいざと現場へと向かう。と、その前に一つだけ確認することがあった。
「そういや、奪われたアイスクリームってどうする?」
「大丈夫。あとでアークが責任を持って回収する」
 リベリスタの問いにイヴはありきたりな返事を返す。
「ああ、その後店に返すのか?」
「アークは秘密の機関。それは無理」
「えっ、それじゃあ……」
 リベリスタ達の視線にイヴは少し考える仕草をしてから一度こくんと頷いて一言。
「少しなら食べちゃってもいい」





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:たくと  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月30日(木)02:14
【任務内容】
 フィクサード達の撃退

【敵勢情報】
 フィクサードが五人。前回のフィクサード事件が多発した際に現れた人物の可能性が高い。
 今回は少しばかり情報を得ることができた。

・シュガー
 栗色髪の10歳くらいの少女。このフィクサード達の隊長であるらしい。
 性格は見た目通りの精神年齢で甘いものや可愛いものには目がない。ちょっとお惚け。
 ジョブはマグメイガス。隊長格となるだけあって威力は随一。

・レイト
 銀髪の優男風の青年。このフィクサード達の副隊長を担っている。
 性格は至って真面目。仕事もそつなくこなすエリート。ただ小さめの少女が大好きという困った嗜好持ち。勿論紳士的な意味なのでそこまで害は無い。
 ジョブはクロスイージス。やたらとタフ。

・キャン
 赤髪のチンピラな青年。下っ端一号。
 性格は見た目通りで且つ面倒くさがり。マンジと仲がよく良く漫才みたいな掛け合いをしている。
 ジョブはソードミラージュ。常にマンジと連携して戦闘を行う。

・マンジ
 黒髪の凛とした侍風の青年。下っ端二号
 性格は冷静で殆ど表情を変えない。キャンと仲が良いというか彼くらいしか友達がいない。
 ジョブはスターサジタリー。常にキャンと連携して戦闘を行う。

・雪だるま
 その名の通り雪だるま。体長は2mくらい。
 色々と不明な点が多いがやることはちゃんとやる。そして怒ると暴れる。そんな人物が入ってるらしい。
 ジョブはデュランダル。雪球剛速球や冷凍ビーム、そして体当たりが主な攻撃。

【戦域情報】
 町外れの倉庫外。フィクサード達はそこの冷凍用の倉庫を一つ占領しているらしい。倉庫の外は軽い広場になっている。
 冷凍倉庫の中の気温はマイナス20~30度と極寒。あんまり長時間入ってると危ない。
 冷凍倉庫の中はあちこちにダンボールが積んであり軽く見通しは悪い。
 リベリスタ達が到着した際はフィクサード達は冷凍倉庫の中に居る。



 アイスが美味しい季節になってきましたね。たくとです。
 お待たせいたしました、今回は<相模の蝮>の第二回戦です。
 そしてまた現れた悪の結社を名乗るフィクサード達。前回は様子見でしたが今回は本気で掛かってきます。油断しないように。
 では、皆様のご参加を心からお待ちしております。



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
舞 冥華(BNE000456)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
覇界闘士
花屋敷 留吉(BNE001325)
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
ホーリーメイガス
クロリス・フーベルタ(BNE002092)
プロアデプト
讀鳴・凛麗(BNE002155)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)

●寒いのお断り
 フィクサードがアイスクリームを盗むという前代未聞の事件。この暴挙を許せば夏場に美味しいアイスが食べられなくなってしまう。
 だからこそその悪事を許すまじと立ち上がった者達が居た。
「悪がいるなら、正義の味方が必ず現れるのですから」
 小さな置き電話の受話器を耳に当て『A-coupler』讀鳴・凛麗(ID:BNE002155)はそう言葉を漏らす。
 正義の味方――リベリスタ達はそれぞれの想いを胸に今ここにいる。
「そう、小さなことでも悪事は悪事! 僕だってねぇ……出来るならアイス独り占めにしたい、よぅ」
「そうだよね。アイスを独占するなんて許せないね!」
 仁義の心を胸に秘めたる『千歳のギヤマン』花屋敷 留吉(ID:BNE001325)。ただポロッと本音も一緒に零れてしまっている。
 その零れた言葉に呼応するのは『ごくふつうのオトコノコ』クロリス・フーベルタ(ID:BNE002092)だ。腰に手を当てて怒ってますといった態度だが元が可愛いので迫力は皆無だ。
「ふぃくさーどこらしめて冥華があいすもらう」
 そしてそのアイスの奪取を狙う『うさぎ型ちっちゃな狙撃主』舞 冥華(ID:BNE000456)は表情には全く出ていないが気合を入れた。
 フィクサード達が潜伏している倉庫の前に集ったリベリスタ達。彼らがまず始めたことは逃走手段を封じることだった。
 各々が取り出すのは釘やらドリルやらとぶっそうな物ばかり。そしてタイヤはズタズタというか半ば原型が分からない有様に。
「ふう、これで逃走の足は潰せたわね」
 十徳ナイフで懇親の一撃を見舞った『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(ID:BNE002166)は腕で額を拭い自分の仕事に満足気だ。
 これで下準備は整った。リベリスタ達は倉庫の扉の前へと赴き倉庫の内部を伺う。
「レイトー。もう一つ食べていい?」
「駄目ですよ隊長。そんなにアイスばっかり食べてるとお腹壊しますよ」
 倉庫の中は積まれたダンボールでよく見えないが確かに誰かの声がする。
「君達は包囲っぽくされている。おとなしくお外に出てきなさーい」
「あっ、やっと現れたわね。正義の味方!」
 何だか気の抜けるような口調で説得を開始したクロリス。
 その声にシュガーは待っていましたとばかりに嬉しそうな声。こちらから姿は見えないが多分良い笑顔をしてそうだ。
「そこで戦闘したらアイスに被害が及んでまう……食べ物は大事せんとあかんよ」
 さらに説得は続く……が、声を出した本人――『イエローシグナル』依代 椿(ID:BNE000728)は扇子をパタパタと仰ぎのほほんとした様子だ。
 だが、それでも十分に効果はあったのか倉庫内部では何やら揉める声が……。
「うーん、アイスが駄目になるのは確かに嫌かも」
「隊長! 作戦通りにって約束でしょ!?」
 そこに追い討ちを掛けるように説得は続く。
「シュガー。私達を倒せばお菓子が手に入るかもよ?」
「お菓子っ!」
「た、隊長。だから駄目ですってば」
 のんびりお菓子を食べて出てくるのを待っていた『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(ID:BNE001996)が口に咥えたチョコを齧ってその一言。
 中の喧騒は大分大きくなってきているが、レイトの尽力で何とか押さえ込まれて……。
「ん、おにーさん。冥華とおそとであそびましょ」
「さあ、隊長。討って出ましょう!」
 冥華の挑発(?)にレイトはあっさりと手のひらを返した。そう、彼は少女を愛する紳士。そのお誘いを断れるはずがなかったのだ。
 こうしてリベリスタ達の誘き出し作戦は成功。フィクサード達を外に引きずり出すことが出来そうだ。
 ……だが。
「っ! 皆様、離れて下さい」
 凛麗が突然声を上げる。彼女の透視能力である光景が目に入ったのだ。それは――。
「遅いな」
 倉庫の二階部分に位置するであろう窓から無数の光弾が地面へと降り注ぐ。範囲内に居たリベリスタ達は辛うじて直撃を避ける。
 だが、追撃の手は止まらない。
「我、求めるは鉄鎖の雷!」
 倉庫の中から聞こえる詠唱。それと同時に倉庫の荷物搬入口が大音響と共に大穴が開き、現れる雪だるま。その雪だるまが体が横にスライドすると、両手を掲げ魔方陣を構築した栗色髪の少女――シュガーの姿が現れる。
「皆しびれちゃえ!」 
 シュガーが手を振るう同時に鉄色の雷がリベリスタ達に襲い掛かった。

●悪の結社の本気
「させへんよっ」
 迫る雷に椿は素早く対応する。両手で印を組み、力を流してその意味を引き出す。
 自分と周囲の仲間に半透明で薄紫の煙を纏わせると、雷と煙が衝突した瞬間に僅かな拮抗を持ってその威力を削る。
「し、痺れ……たぁ」
 クロリスは一瞬ホワイトアウトした頭を振って意識をしっかりさせる。元に戻った視界の先ではえっへんと言わんばかりに胸を張ったシュガーが居た。
 そこで一瞬リベリスタ達の周りで光が走る。それが過ぎ去ったと思えばその体からは先ほどまであった痺れは消えていた。
『前に言ったけれど。お尻ぺんぺん……されたいの?』
「あ、あなたはこの前のっ……ふ、ふん。今回は全力なんだから負けないわよ」
 光の欠片を手を振って消したエリスはシュガーに向けて念話を飛ばす。シュガーも見覚えのあるエリスの顔に一瞬ビクつくがすぐに強気な態度へ戻す。
 一方でその隣に立つレイトはリベリスタ達の全員に目を走らせる。戦力分析……その立ち振る舞いや陣形。手にする武器からでも色々な情報が手に入る。
 流石は副隊長と言うだけあって真面目な――。
「少女がよりどりみどりでしかも猫のオマケ付。ここは理想郷ですかっ!」
 ――訂正。彼は深刻な病気を発症していた。
 また別の意味で戦慄を味わうリベリスタ達。特に前回も同じ目にあったエリスはシュガーとの会話も止めて警戒心を顕わにする。
「ゆっきーん!」
 と、そこでレイトの頬に突き刺さる拳。雪だるまの右ストレートだった。二回転半の後に地面に落ちたレイト、正気に戻す為の処置なのだろうが実に過激だ。
「ゆきんこー!」
 そしてそのまま攻撃命令(?)をだす雪だるま。自身もその体に冷気を纏わせて攻撃態勢へと入る。
「君の相手は僕だよ」
 留吉が雪だるまが何かをする前にそれを妨害に動く。低姿勢からもぐりこみ両腕の爪をその白い体に向けて降り抜く。だが、ガリッと氷を削るような手ごたえ。見れば爪痕は浅く残っているが、それも徐々に修復されていく。
 雪だるまは反撃とばかりに口であろう場所から白い息を吐き出す。留吉が横に飛び避けると地面に当たった白い息はその部分を氷漬けにした。
「って、何で私ばっかり!?」
 その一方で複数から狙い撃ちにされているシュガー。最大火力だけあって真っ先に潰そうということなのか。
「私は妹ほど甘くないのよ――我、紡ぐは四条の魔奏」
 撃ち出された四色の魔光をシュガーは魔力のシールドで防ぐがその顔にはかなりの焦りが見られる。さらに冥華の正確な射撃が執拗にその頭めがけて飛び、シュガーは慌てて倉庫の扉に隠れる。
「そんじゃあそろそろ行くぜっ」
 と、その時に突然頭上から落ちてくる声。そしてそれと同時に一つの影も落ちてくる。赤い髪の双剣を手にした男、キャンである。
 キャンの着地したのはシュガーを狙っていたリベリスタ達の丁度真ん中。後衛のシュガーを狙うために前に出ていたので倉庫の二階から飛び出てすぐに届く距離だったのだ。
 そして残影を残しキャンはその場にいたリベリスタ達に次々と斬りかかる。純前衛であるソードミラージュの剣劇に後衛である三人は懐に入られた時点で攻撃を許されず防戦一方になる。
「前に出すぎだぜ、お嬢ちゃん?」
「くぅ、これくらいで!」
 イーゼリットに狙いをつけたキャンは腕をクロスさせ、飛び込むと同時に双剣をその体に突き出す。
 防ぎきれない。イーゼリットは痛みに耐える為に気を張るが、そこで視界に割り込む金色の髪。
 キャンと対峙した凛麗はナイフで迫る双剣の一本を外から内にへと弾き、受け流すようにして立ち位置を入れ替えてその攻撃をいなした。
「あなたの相手はわたくしですわ、キャン様」
 凛とした顔でナイフを向け宣言する凛麗。キャンはそれに口元を喜悦に歪ませた。
「マンジっ!」
 キャンの言葉に倉庫の二階にいたマンジの銃に魔力が収束する。
 しかし、それを放つ前にマンジは壁に身を隠す。次の瞬間にはマンジの居た窓際に無数に魔法矢が突き刺さり周囲の壁ごと穴あきにする。
 マンジはその空いた穴から地面へと降りてある一点へ視線を向ける。
「そちらも一人ではないということか」
「皆を傷つけたこと、後悔させてあげるわ」
 傷ついた仲間に治癒を施し、そして片手をマンジに向けたあひるは魔力を更に高め始めた。
 そして別の場面で椿はレイトと対峙している。レイトはシュガーの居る倉庫の扉の前へと陣取り全ての攻撃を弾き、いなしていた。
「お前さん、驚くくらいに硬いなぁ」
「これくらい出来ないで副隊長は務まらないので」
 椿の放った呪印も物ともせず、放たれる魔弾も氷結の雨もレイトは槍を振るいそれを凌ぎ。神聖な加護によりすぐさまその傷をも癒す。
 そしてその後方から放たれるシュガーの魔法がこちら側の体力をじりじりと奪っていく。
「自分らは何でこんな事やっとるん。善悪の区別もつかない子供まで引っ張りだしおって」
 ふとした疑問。そしてそれは糾弾の為であり強い口調で咎める様な声。それにレイトは静かに応える。
「望まぬ事でも私達はやらなければならないのです。全ては隊長の為に!」
「えっ、それって?」
 クロリスがその言葉の意味を解する前にレイトは力を宿した槍を天に掲げる。収束する魔力はこれまでとは桁違いに高まり、金色に輝く光球を大上段より振り下ろす。
 その一撃はアスファルトの地面を砕き、抉り、レイトの正面に大穴を作り出す。
「さあ、悪の結社の為にもっと戦ってください。正義の味方(リベリスタ)」

●わるいこたち
「君、本当に強いんだね」
 留吉は雪だるまへ視線を向けた。その体には無数の爪傷があるが、どれも内部まで届いているようには見えない。
 一方で留吉は唯では済んでいなかった。凍りついた左腕は半ば感覚がなく、冷気を浴び続けた所為か体の動きも鈍い。
「次の一発で最後かな。それじゃ、行くよ!」
 留吉は地面を蹴った。低姿勢になっての一直線での突撃。凍りついていた左腕も燃え上がる炎で蒸発させて元に戻し、両腕を持って雪だるまの腹にその白熱した鉄爪を突き刺す。
 白い蒸気が舞い上がり雪だるまの氷の装甲を削っていく。そして半ばまで氷を溶かしたところで、留吉の炎は立ち消えた。体に宿るエリューションの力が枯渇したのだ。
「ゆっき……よく頑張ったと思うよ。でも、ボクも譲れないんだ」
 雪だるまの中から聞こえてきたのは少年の声。雪だるまは両手をあわせ、留吉の背中に思い切り叩きつけた。
 また別の場面。キャンの連撃を凛麗は辛うじて防ぐ。致命傷は一つもない、だがこのままではジリ貧だということは分かっていた。
「これくらいで沈む程、柔ではありませんよ」
「その強がりが何時まで続くかなっ」
 横薙ぎの一閃。凛麗はナイフでソレを受け止めるが力の差から体を浮かされ、そのまま力任せに地面へと叩きつけられた。
 凛麗は背中を打ち空気が肺から逃げ意識が飛びそうになる。そこにさらに突き出される剣先、それは見えているのに体は動かない。
「しっかりして、凛麗!」
 あひるの魔法矢がキャンへ向かい、キャンは双剣でそれを切り払って後ろに下がる。そしてお返しとばかりにマンジの銃弾が辺りの地面諸共に蜂の巣を作り出す。
「癒しの、歌声を……」
 周囲に神秘の力が満ちてあひると凛麗の傷を癒す。だが満身創痍に変わりなく立とうとするその足も疲労で膝が笑い出しそうだ。
「立つな。痛い思いをするだけだ」
 銃の弾装を換えるマンジがそう言う。しかし立ち上がらない訳にはいかない。
 凛麗とあひるは互いを支えるようにして確かに立ち上がった。それを見たキャンはとても楽しげに笑う。
「くっくっく、そうか。ならしょうがないよなぁ!」
 キャンの姿が霞むようにして消える。高速で移動により残した影しか二人には見えない。
 だが、こちらに来ると分かっていれば対処のしようはあった。二人の背後に回り双剣を振るおうとしたキャンの動きが止まる。
「糸、だとぉ」
 キャンの腕に巻きつき気糸がその攻撃を鈍らせた。そしてその腹にあひるが至近距離で魔法矢を放つ。
 衝撃――キャンは水平に吹き飛び地面に投げ出され。至近で会ったために反動を受けたあひるも体制を崩して地面に尻餅をつく。
 しかしこれで一人倒した。あとはもう一人……。
「悪いな」
 突如視界の外から掛けられる言葉。そして首筋に鈍い感覚を感じると凛麗とあひるの意識は闇に落ちた。
 戦況が目まぐるしく変わる中で一番苛烈であるのがこの場所だった。
「あなた本当に人間?」
 その言葉をイーゼリットから送られたレイトは口元に笑みを浮かべる。
 今しがた放たれた天を突く魔炎は確かに直撃したはずだ。しかしレイトは確かにそこに立っている。
 上着は穴だらけで血が染みてどうみても既に倒れていても可笑しくないはずだった。それでもレイトは涼しい顔で全ての攻撃を受け止める。
「れ、レイト。もういいよ。十分だから早く帰ろっ」
「隊長、先に帰っていてくれませんか? 私はもう少しお仕事をこなさないといけないので」
 振り返り笑顔を見せるレイト。そこに雪だるまとキャンを背負ったマンジが集う。
「このまま逃がすなんてさせないよ」
 クロリスは魔方陣を用意して牽制する。冥華も銃の照準を合わせて何時でも撃ち抜く構えを見せた。
「ケット、あれを」
 その一言で雪だるまが突然に震えだす。そして次の瞬間雪だるまの正面。つまりリベリスタとフィクサードの間に白い氷片を撒き白い霧を作り出した。
 虚を突かれ視界も塞がれた為狙いも定まらずにリベリスタ達は白い霧に飛び込みフィクサード達を追う。
「……逃がさない」
「いや、行かせない」
 自身も霧の中に入ろうとした瞬間にその霧の中から現れるレイト。エリスは驚きに身を硬くした瞬間に、レイトの口元に見える牙に気づく。
 そして首筋に走る痛み。吸い出される自身の中の神秘。体から力が抜けてガクリと膝を落とす。レイトはエリスの体を支えそっと地面に降ろすと振り返る。
 白い霧はすぐに晴れ、そこには悪の結社であるシュガー達の姿はない。そして空を見れば鳥にしては大きな影が遠くへと去っていく。
「生贄の羊のつもりやろか?」
 術式を展開してレイトの周囲に呪印を浮かべる椿。クロリスとイーゼリットの魔方陣、冥華の銃口もその体を狙う。
「いえ、ただこれが副隊長の仕事なだけです」
 それだけ言うと槍を掲げてレイトは疾走する。倉庫街で激しい戦闘音が続き、数分後には静けさを取り戻した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。今回の結果は成功となります。
ただ、依頼としては成功と言ったところでしょう。フィクサードはレイト以外には逃走を許してしまいました。
フィクサード達は動物や無機物のエリューション達と違い皆様と同じくらいの知恵を有しています。
特に今回の悪の結社のような長く付き合っているグループでは奇襲、待ち伏せ、罠と色々な行動で密に連携してくるものです。
フィクサードや高い知能を持つ相手には相手の動きを読む。行動を推測する。その上で裏を掻くかを考えてみるといいかもしれません。

さて、これにて<相模の蝮>の二回目を終わりとなります。
如何なる結果が待ち受けるのか。皆様の行動がどう反映されるのか。
次の舞台へと移りましょう。その場所でまた皆さんに会える事を願います。