● 冬の寒さが膚を裂く。雪が積もる周辺を見回しながら『マジックコラージュ』秘村直は身体を震わせていた。 「にゃふうう。寒い寒い! 寒すぎますよ、コレェ! アザミンも無茶ぶり過ぎるよ。日本全国津々浦々。売れない新人アイドルかって話しでしてね!」 明るい少女の声音。だがそれは明らかにナマハゲから聞こえているのだ。 どうせなら竿燈の季節に、なんて言葉を漏らす少女は何故か目立つよね、という理由で風習のない秋田県秋田市にまで足を運んでいる。 ――因みにナマハゲの衣装は男鹿市で盗んできたものだ。 「ハッピードールちゃんと一緒に戦えったって、ねぇー」 喋れないなら意味が無い、とつんつん。どう見ても少女はやる気がない。驚くべきやる気の無さだ。 「アザミンとかヨリちゃんとか、どうせ楽しく温かい場所で遊んでるんでしょ。 やだなあ、聞いた話じゃ皆、あっちらこっちら言ってるそうだけど、この仕打ち何ッ! 直ちゃんは売れない芸人かアイドルですか!」 ぶすったれた彼女の手にはカオマニー。コスプレには邪魔になるからと『樂落奏者』と『血濡れの薊』に頼んでネックレスにしてもらったものだ。 「知らないけど、これ終わらせたらきりたんぽ食べれるんでしょ? にゃっふ~。さて、ほら、頑張りますか」 振り仰ぐ、彼女の連れてきたハッピードールと、彼女の友人、黄泉ヶ辻のフィクサード、山寺苑は呆れた顔をして『コスプレイヤー』を見つめていた。 ● 「きりたんぽ。材料は比内地鶏とかゴボウとかマイタケ、何かそういうのよね」 突拍子もなく告げる『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)にブリーフィングルームに集まったリベリスタ達が首を傾げる。 「あ、別にきりたんぽを食べに言ってねとか言う甘ったるお誘いじゃないわ。ごめんなさいね。 ……黄泉ヶ辻糾未。黄泉ヶ辻京介の妹である彼女関連の事件なの。今すぐ秋田県に向かって欲しい」 あまりに軽く言うものだから、つい、聞き流してしまいそうになった物を慌てて問いかける。 ――『血濡れの糾未』黄泉ヶ辻・糾未の名前が今、出たのではないか。 「現在、何故か黄泉ヶ辻糾未の関係者がアーティファクトを手に一般人をノーフェイス化させるという『儀式』事件が多発しているわ。これを止めてきて頂きたいの」 アーティファクト『カオマニー』という名のついた黄泉ヶ辻の玩具か何かだろう。其れの効果を使用し一般人をノーフェイス化させるという厄介な事件が周辺で多発しているのだ。 「儀式にしては大体陳腐なものなのだけど……カオマニーを首から下げたナマハゲが暴れているのよ」 「な、ナマハゲ……?」 首を傾げるリベリスタに世恋は頷いた。ナマハゲ。確かに想像しやすいが『彼』が何故暴れまわりながら首にカオマニーを下げているの言うのか。それを儀式だと言ってしまうと確かにシュールでしかない。 「フィクサードはコスプレイヤー。『マジックコラージュ』秘村直よ。本日のコスプレがナ、ナマハゲ……」 どうしてそのチョイスになった。困った様に紡ぐ予見者は変わり者が多い世の中なのねと溜め息を吐く。 「そのナマハゲが市街地で暴れているわ。……さて、此処でお願い事よ。二分間、二分間で撃退して?」 真っ直ぐに予見者はリベリスタを見回して云う。2分間。長い様で短い時間の提示だ。 「今回のケース、直の発動の仕方もあるのでしょうけれど……。 一般人のノーフェイス化を行うソレはね、2分間かけて一般人をノーフェイスにするようなの」 「つまりは、一般人をノーフェイスにするな、と?」 「ええ。ナマハゲが気軽に遊んでる最中よ。遊んでるつもりらしいけど明らかに一般人をぐしゃぐしゃにしてるわ。一般人も大騒ぎで泣き叫んでいる……と、まあ、被害はもう出ているの。 因みにナマハゲ的には楽しそうに一般人と戯れてる……。ぶっちゃけ怖いけど。めっちゃくちゃ怖いけど」 後半は余計な一言であった。 救えるものは救いたい、けれどイマイチ『黄泉ヶ辻』的でない様にも思える。何処かに潜む深淵があるのだろうか。普通のフィクサードに思える彼女は『黄泉ヶ辻的な殺し』を行っていない。 それが黄泉ヶ辻糾未の『お願い』――カオマニーを使用した儀式を完遂することであるなれば、彼女らは只の使いっぱしりなのであろうか。 「マジックコラージュ。彼女は、自身の顔を返るわ。辺りの一般人の皮を剥ぎ己に張りつけて完璧なるコスプレを完成させる。剥がされない様に気をつけてね? ――さて、『本質は黄泉ヶ辻』。その言葉をゆめゆめお忘れなきよう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月25日(金)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――ナマハゲが市街地で一般人を襲う事件が勃発。 字面にして何と情けないものであろうか。『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は首を傾げる。 「え、えーと……ナマハゲ? 確か、秋田のお祭りのやつだよね?」 彼女の視線がそっと標識に向かう。秋田県秋田市。――秋田だった。 ナマハゲと言えば男鹿市に存在している筈なのであるが、目立つし良いよねという黄泉ヶ辻のフィクサード『マジックコラージュ』秘村・直の謎の意向の下、此処、秋田県秋田市にナマハゲが登場したのだと言う。 「う、うーん……災いを祓い祝福を齎す筈のなまはげが災いその物だなんて、笑えないジョークね」 瞬き一つ。『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は苦笑を禁じ得なかった。コスプレイヤーが創り上げたナマハゲは勿論禍でしかない。落ちついた桃色の瞳は何処か呆れの色を含んでいる。 「いや、うん、格好はアホなんだが、やってる事と実力は相当か」 魔力銃を握りしめて『TwoHand』黒朱鷺 輪廻(BNE004262)は一度、仲間を振り仰ぐ。未だ年若い『邪悪ロリ』は笑みを浮かべて、やれるだけをやろうと決意を固めたのだろう。 雪がチラつく市街地は寒さが身を凍らせるようであった。瞬間、ずるりと滑った『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)はいてて、とゆうしゃのつるぎを頼りに身を起こす。 凍結した路面では上手く歩く事が叶わない個所があるのだ。 ――ずるん。 あ、と『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)が声を上げる。 目の前のなまはげがすってんころりん。 「敵は、実力者の様だけど、相当アホの様だわ」 「うん、同感だ。あいつはアホだ」 真顔であった。普段は幼くふわふわした羽衣がその時だけ大人の女に思えたのは口にしないでおこう。 輪廻の頷きに苦笑しながら羽衣はふわりと浮きあがる。彼女が得た因子は翼だ。 もう一人のフライエンジェ、フランシスカの足場は何処かおぼつかない。浮き上がる事をせずに居る事で、彼女の足場は光と同じく不安定なのだろう。時折滑りそうにもなっている。 「アレが黄泉ヶ辻か……最近、特に動きが激しく見えるな」 黄泉ヶ辻糾未という女かな、と『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)がアークで良く目にした報告書。黄泉ヶ辻関連の動きが活発化されたファイリング。全てに付けられた名は『晦冥の道』と皮肉を込められていた。 報告書に上げられる名前は『黄泉ヶ辻糾未』という名前、其れと共にもう一人、道化の様な少女の名を想いだして『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)はナマハゲに歩み寄る。 「秘村ちゃん、だっけ? ヨリハちゃんってあの可愛いお嬢ちゃんね。ヨリハちゃんのお友達な訳?」 「誰……」 くるりと振り返るナマハゲ。そして彼女の保護者役であろう山寺苑という少年。上げられるであろう『血濡れの薊』でなく『樂落奏者』の名前に苑が表したのは何処か不安定な『不快感』だ。 「ならこの前はごめんねって伝えといて」 「ヨリちゃんが、何か?」 「さあ、云えば分かるんじゃねーかな。まあ、ここから無事に帰れれば、だけどさ!」 ● 日本に存在する主流七派。一つ一つの名をあげていく中で、その中でも閉鎖的で理解しあえない――『分かり合えない』部類に属する黄泉ヶ辻。 「なら、力で抑えるしかないよね? 強者発見。ボクの血が騒ぐよ」 「ショタッ子登場ですよ。ソノちゃん。どうしましょーね!」 安全靴を履いて、フィクサードの前に躍り出た『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)を見つけた直はナマハゲを纏ったまま手をばたばたと振り回す。 羽衣はそれを見ながら直感した。敵は阿呆だ。それもとびっきりの阿呆だ。其れに限る。 「……負けてなるものか」 沙羅がむす、っとした表情を浮かべた。14歳。微妙なお年頃である彼はショタだとか言われてしまうとつい頭にくるのだろう。拗ねた様に大鎌を握りしめた沙羅の前方で前衛へと飛び出したフランシスカがこけた。 無論、足場の安定性が無い部分に飛び出してしまったという事もあるのだろうが、足場対策を行っていた事は大きな失点になる。尻もちをついた彼女の目の前でナマハゲがにへっと笑う。 「き、きりたんぽはお預けにしてやるッ!」 「な、なんですと!?」 羽衣は実感した。やっぱり敵は阿呆だ。それももう、言葉にできない位の阿呆だ。 「また随分と派手に暴れてくれたものだな。フィクサードよ。此処からは、俺達が相手になる」 「その言い方――リベリスタ?」 ナマハゲがこてんと首を傾げた――気がした。可愛くない。正直言ってしまえば可愛くないのだ。 警官の紛争を身に纏った葛葉が繰り出す黒き瘴気は敵全体を包み込むには少し足りない。だが、気を抜いていたナマハゲを包み込んだ。 逃げ遅れた一般人に輪廻は救いの手を差し伸べる事が出来ない。だからこそ、彼女は幼いながらにハッキリとその言葉を送るのだろう。手にした魔力銃に聖なる弾丸を詰める様に準備を施しながら彼女は真っ直ぐに一般人を見据える。 「泣き叫んでいても救いの手を差し伸べられない。生きたいか? ならば行動しろ! この場で価値のある者は自ら行動出来るものだ!」 大人を一喝する齢10の少女。情けないものだ、と彼女は視線を逸らす。しっかりとした幼い娘にぽかんと口を開けた一般人。少しずつ、ふら付く足で戦場から離れようとするソレを淑子が補佐する。 後衛位置で英霊聖遺物を手にした羽衣は瞬く。――アホを見つめている場合じゃないのだ。浮かびあがったままに直に「ねえ」と静かに問いかける。 「お人形さんみたいね。可愛いお洋服の代わりに着せ替えするのはヒトの外側なんて」 「可愛いでしょ?」 「それで貴女がしあわせならいいけど……誰かを不幸にするなら、羽衣は見逃せないのよ」 静かに紡ぎ、彼女は一般人をその背に隠す。逃げ遅れた住民全てを助けられるとは思っていない。 だから、逃げられるなら逃げて欲しい。無理なら、其れでも自分の身を張って助けたいから。彼女は真っ直ぐ前を見据える。放つ雷光はナマハゲ達全てを巻き込んで荒れ狂った。 「おーおー。秘村ちゃん達、厳しいこと求めるねえ」 二分間――120秒は長くも短いのだ。滑り止めをつけたブーツを履いた和人はラージシールドを手にへらりと笑う。 「皆、ハッピードールからケリをつけるぜ」 「ええ、了解よ。一般人は……護ってあげられない。だから、動ける人は今すぐ此処からお逃げなさい!」 大戦斧を手に中衛位置から仲間達を補佐する淑子の目の前で沙羅が彼女を庇おうと動く。 仲間達を苛む全てを打ち払う。いざという時は己も武器を手に前へと飛び出す事ができる。けれど、こうして癒す事に専念できるのは仲間達のお陰だろう。 (お父様、お母様。どうか、わたし達を守って……!) 喪った優しい両親の事を想う。嗚呼、思うだけで終わらないのが淑子だ。お馬鹿ね、と誰にも聞こえないように口にした。 「……女の子は優雅に。あなたを殺すわ」 目標は『ハッピードール』。幸せの人形だなんて、しあわせを求める羽衣からすれば理解すらできない名前だ。 中衛位置、一歩、滑る地面を蹴り、高く跳躍する様に体を反転させ銃弾を撃ち込んだ。幼く、小さな輪廻ができる最大限。死者を悼む事だ。生者を愛し、死者を悼む。そして全てへ、神のご加護を―― 「なんて……寒い中御苦労さまだな、フィクサード。コッチも出動させられてイイ迷惑だ。 面倒だ。さっさと骸を晒すか大人しく私の目の前から消えるかしてくれないか?」 不良シスターは未だ見習いだ。バトルマニアの血が騒ぐ。打ちだすバンティショットが真っ直ぐにハッピードールの頭を撃ち抜いた。 「――なあ、お前、強敵なんだろ。強敵か、面白い。面白いが遊んでる時間もなさそうだ」 「強敵。強敵か!! 強者!! お前の存在が目障りだ!!」 だから倒してやりたい。沙羅の嫉妬の炎が揺れる。彼の大鎌はハッピードールの放つ衝撃波から淑子を庇う。薄く化粧を施した赤い瞳をゆっくりと細めて、喧嘩っ早い気持ちも抑えて、後ろで仲間達の癒しを行う淑子へと小さく笑いかける。 「ボクの後ろに居てね。ボクの役目はひたすら浅雛ちゃんを庇い続けること。 ボクに混乱は効かないから、その間にずっと護る。攻撃したいって疼くケド……仕方ないね」 沙羅は輪廻と同じく戦いに己の心を震わせる性質だ。戦いたい、戦いたいとそう己の心が告げているけれど。嗚呼、けれど、斧を手に懸命に仲間を苛むものを、災いから護ろうとする優しい仲間がいるから。 ――戦って何かを殺す事は今までだってあった。 「なにかを護るのってこれが初めてかもしれない」 お母様やお父様じゃないけれど、護るから、攻撃が複数に及び仲間達の混乱が目につき始める。 大丈夫。諦めない。もう一歩力があればとそう願っても、今はこれが淑子の精一杯であるのだから。 震える声をはっきりとさせる。秘村直の意識を少しでも逃げ遅れた一般人から逸らせばいい。 「ねえ、きりたんぽってお鍋が有名だけど、柚子味噌や胡桃味噌をつけても美味しいそうよ?」 「知ってましたかー? それってたんぽっていうそうですよ! じゃあ、お嬢サマ、直ちゃんと食べにいく?」 へらりと笑って彼女が繰り出すのは極細の気糸だ。淑子へと逸らされた意識は確かに彼女を貫こうとしたのだろう。ぎん、と大鎌でそれを受け止める。流れる血だって気に止めなかった。 回復役が少ないこのパーティでは直の相手をするのは少々難しい部位もあったのだろう。羽衣が謳い続ける事になってしまうのも致し方あるまい。 ハッピードール全てを暗闇に巻き込みながらも、その攻撃を一心に受け続けるフランシスカや、前衛に飛び込んでいく光とて体力の消耗も激しい。 「大丈夫、ボク達なら絶対にできるとしんじてるです……!」 光は勇者であるから、ゆうしゃのつるぎの切っ先を真っ直ぐに向けて走り寄る。踏み込んで、そのまま振りかざすはハイメガクラッシュ。荒れ狂う闘気はハッピードールの懐へと飛び込んだ。 「ほら、邪魔者にはどいて貰います!!」 ● 「言ったでしょ、きりたんぽはお預けだって」 「黒いお嬢さんはそんなにきりたんぽを独り占めにしたい?」 くすくすと笑うナマハゲ――否、何かがおかしい。彼女の姿は直ぐ様に隣にいた苑と同じに変化したのだ。良く知る相手に化ける事は容易い『怪盗』により、山寺苑が二人存在していたのだ。 「別に、きりたんぽはどうでも……何か良く分かんないけど、下らない儀式を終わらせたいだけだよ」 困った様に紡ぎ、紫の瞳を瞬かせる。フランシスカの暗闇はハッピードールを逃さない。 『苑』が動く。どちらだと目を凝らしていた葛葉がゆっくりと笑う。――フェイスノックは攻撃を受けた相手の物しかコピーできない。プロアデプトである『直』とソードミラージュである『苑』では攻撃の方法が違うのだ。 「ここは制するのみ。お前たちが何を考えてるかなんて分からないがな!」 魔力鉄甲に包まれた拳に力を込める。後衛へ敵が行かぬ様に気を配り、繰り出す暗闇はフランシスカのものと混ざり合う。黒き瘴気に混じり、一つ、リベリスタ側へと飛び出す黒き瘴気。 其れは出会い頭に葛葉が彼女にはなった『暗黒』だ。光を隠す様に闇が覆う。勇者の運命を削り取る。それでも彼女は諦めずに真っ直ぐにつるぎを振るった。 「諦めない。負けない、挫けない――それが、勇者です!」 「ああ。我が覚悟より作られし、闇の力……受けるが良い!」 ぐ、と握りこんだ拳。暗黒の瘴気がハッピードールの体力を削り取る。片方の苑の表情が歪む。其れを和人は見逃さない。 「秘村ちゃんたちさ、あの人形がねーと儀式出来ねーんだろ? ほら、もう随分弱っちまってるぜ」 「ほら、直ちゃんって売れないアイドルなんで!」 「アイドル……? どちらかと云えば売れない芸人の間違いじゃないのか、お前」 輪廻の銃弾が真っ直ぐにハッピードールを撃ち抜いていく。往く手を阻まれたソレらが繰り出す攻撃は前衛陣の体力を削るのみだ。上乗せする様に直が楽しげに放ち続ける黒き瘴気。加えて、前衛に繰り出した苑が『時』を刻む。霧は全てを呑みこまんとする――が其れを赦さないのがリベリスタだ。 「霧で隠しちゃって辺りが見えないわ。ねえねえ、ご主人様は大丈夫?」 明りを持たずに進むが暗き道。暗き、行方すら分からない晦冥の道に羽衣はくすりと笑う。 「そんなんじゃ、きっといつか転んでしまうわ」 転んでしまったら一人では立ち上がれないかもしれない、アレはそれほど強い女では無いのかもしれない。 一度戦った『樂落奏者』の口ぶりを想いだし和人は鮮烈な光を纏った武器を振りかざす。 淑子を庇っていた沙羅がくすくすと笑顔を浮かべた。ナマハゲを剥いて、素の『直』を見てやりたいと思った。怪盗で隠した顔。果たして本物はどんなものなのか。 「ボクね、君達が撤退しないなら、ボクの『任務』外だから一般人だって殺すよ。 ノーフェイス? そんな物よりヒトとして死んだ方がいいでしょ。今後の為だよ」 それが己の心の盾だ。命を潰す。それがどうしてか楽しいのだ。なまはげさん、悪い子は此処だよ、と大鎌を抱えたままで彼は告げる。 『苑』の顔をした直がゆっくりと唇を歪める。 「ところで、今年で三十路って本当?」 和人に目配せしながら、告げる言葉に直が唇を噛む。実年齢など秘密なのだ。なんたって彼女は自称アイドルであるのだから。 目配せの先、フェイスノックを狙って欲しいと願いを込められた視線を受けた和人の目はやはりカオマニーに向いている。どんな手であれど、最善を尽くす事を願っている。だからこそ、打ち抜けるならば――! 射線には苑が居る。嗚呼、まだ狙えないのだ。ハッピードールの数を減らすしかないとその切っ先は対象を変えることなく振るわれた。 リベリスタ達の集中攻撃により、ハッピードールの数は一体に減っていた。ハッピードールがふらつく。時間の経過を感じながら癒し続けていた羽衣。だが、それも間に合わず、前衛で戦っていたフランシスカや葛葉の運命が削られる。 大丈夫だとアヴァラブレイカーを握りしめる。多くの血を吸っても未だ飽き足らぬ其れに血を吸わせるべく彼女は剣を振るう。黒き瘴気が真っ直ぐに全てを呑みこんだ。 己の傷さえも顧みず戦う黒き騎士。フランシスカは息を吸う。 「わたしは誇りを込めて――共に駆けるんだ、この戦場を!」 覚束ない足場、滑りそうになる其れに気をつけて、黒い髪を揺らして彼女は剣を振るう。 己の覚悟を瘴気に変えた葛葉とて同じだ。彼を支援する様に打ち込まれる羽衣の雷は『全体』攻撃である以上直にも届いていた。真似をする様に、打ち込まれる雷。その雷に打たれようと彼女は負ける事はしない。 「羽衣に出来る事は多くないわ。ならその中で選び取れる最善を掴むだけ。 ねえ、羽衣の魔法は何時だって多くのしあわせの為に。……けどね、残念ね。フィクサード」 彼女が放った聖なる魔力弾は真っ直ぐに直の胸元を狙う。だが、其れを阻止する様に立つのは苑だ。 的当ては得意じゃないと狙う和人も庇い手が居る以上、カオマニーを傷つける事は難しいだろう。 「羽衣は多くを傷つける貴方達の事は幸せに出来ないみたい」 ハッピードールが、三体倒れた音がする。其れに気付き、直の攻撃が一度止む。 合間を縫う様に輪廻が飛び出した。はじき出される弾丸は無様を晒す一般人全てを守る様に繰り出される。 「主よ、我等を悪より救い給え。残酷なる我等の敵どもを滅する力を貸し与えたまえ。――Amen!」 打ち込まれる其れに、苑が後ずさる。これ以上の戦闘は『ハッピードール』が居ない以上儀式も成り立たない。無駄な行為になる事を苑は気付いているのだ。 「やる気が無いならさっさと帰るかきりたんぽでも勝手に食べに言ってろ。其処からは私は知らんからな」 「そうそう、さっさと退きな、今回はさ」 「むきー。何ですかなんですか、此れがアイドル登竜門ってやつですか」 拗ねたように云う直を引き摺り苑はその場を後にしようとする。その背を見つめながら、葛葉は声を掛ける。冷静な判断を行う山寺苑。どう見たって直が冷静な判断を出来る様には思えないのだ。 「山寺苑、だったか。お前があちらのお目付け役と言ったところか?」 細められる葛葉の瞳にさあ?と首を傾げて見せた。どちらだって良いのだ、そんなこと『今』は。 ただ、望むのは撤退のみ。 「退け、と言えば退くか? 死ぬまで付き合え、というなら俺は構わんがな」 その言葉にくすくすと直は笑う。彼女は別に死んだって良いのだ。他人の皮を得て、作り当てるコスプレイヤー。自分が死んで自分を誰かが被ってくれれば其れはそれで幸せなのだから。 だが、これ以上の儀式は不可能だろう。視線を送り、直の胸元で光るペンダントを見据える。 「――また、お会いしましょう?」 『マジックコラージュ』はその名の通り、自身を隠して、惑わしたまま姿を消した。残ったのは男鹿市から盗まれたというナマハゲの衣装のみだった。 黄泉ヶ辻のフィクサード達が頻繁に起こす事件。 それは一人の女が暗き道を進む為のもなのだろうか。 周囲を照らすものはなく、ただ、女が一人進む其れこそが晦冥の道なのだ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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