●コレクターは網を張る とあるギャラリー。 コンクリート打ちっぱなしの天井、無機質な白い壁に飾られた写真群。 手首からひじに向かって皮膚がはがされた写真。 手首に蜂の刺青がしてあり、ひじまでたわめられている。 露出した肉の部分が蜂の巣になっていて、肌色の空を飛んできた蜂が巣に止まろうとしているように見える。 悪魔が刺青された腹の皮がはがされた下は、尼僧が行きかう修道院。 花の背中の皮をはがれた下は、絡み合う根。 シュールレアリズムの技法。 よく出来たコンピューターグラフィック。 「この皮膚の断面とかリアルだよね」 囁きあう観覧者は知らない。 人体部分は掛け値なく本物の映像であるということを。 麻酔で痛覚を飛ばしつつ、実際に皮をそいで、神秘の力で急速に回復させながら、撮影した写真。 アーティストの名前は、曽田七緒と言った。 最後の展示物は、写真ではなく、告知。 『参加型アートゲリラライブ・タトゥー・サンタン・クロッシング』 内容と日時と場所が告知され、「拡散よろしくぅ」と手書きのPOPが入っていた。 「……はぁい、曽田でぇす。……あぁ、ツイッター見たのぉ? どういうつもりって、ちょっと新境地を開拓ぅ?大体そんな感じぃ。派手な方がいいんでしょ、今回はぁ? 注文聞いてあげてるんだからぁ、余計な文句言わないで欲しいなぁ。こっちも色々動いてあげてるんだしぃ」 スタッフルームの壁に寄りかかって、七緒はうふふぅと笑う。 「この間は不完全燃焼だったからぁ、鬱憤たまってるのぉ。パーッとやろうと思ってぇ。だったら、人を集めて、こうダーッとねぇ?」 携帯電話のストラップは、カメラとピーラーのミニチュアがぶら下がっている。 七緒がくすくすと笑うたび、耳元でちゃかちゃかと音を立てる。 「だからぁ、ちゃぁんとわかってるってばぁ。人死には面倒だし、治しちゃえば問題ない訳でしょぉ。こっちにはぁ優秀な回復役がいるしぃ。死ぬ前に治すから。死なさないから。そんなに念押さないでぇ。いらいらするでしょぉ? こういうのは、楽しくやりましょぉ? お互いの為にぃ」 ね~? と、回りを見回せば、お友達もうんうんと頷いている。 「痛いは、一瞬。きれいは、永遠。いい素材が取れるといいなぁ。そっちもお楽しみなんでしょぉ? 精々うまくやってよねぇ。何度も当てにされるの面倒だからぁ」 トントンと携帯のマイク部分を指で叩く。 「アークの子、いっぱい来てくれると嬉しいなぁ。あの子達、結構面白いよねぇ。今度はどんな子が来るかなぁ。期待しちゃぁう」 一仕切り笑うと、それ以上話す事はない。 七緒は、そっけなく通話ボタンをオフにする。 「まったくぅ。それくらいの楽しみがなきゃぁ、やってられないよねぇ?」 ●コレクターは手繰り寄せる 「また、動き出した」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、疲れが隠せない。 「『スキン・コレクター』曽田七緒。このフィクサードが大掛かりな傷害事件を起こそうとしている」 モニターにとある横断歩道が映し出される。 「この横断歩道、繁華街にあるんだけど、近くにとある高層ビルが出来たせいで流れが変わっちゃって、今はエアポケットみたいに、ここだけ人も車も通らないの」 更に追加映像。ツイッター画面。 「【拡散希望】アートゲリラライヴ・太陽にタトゥーをさらそぉ! 詳細は……」 イヴは文面を読み上げる。更に現れる詳細のHP。 「この日時に、横断歩道の両側にタトゥーを入れてる人間がサングラスに白黒ボーダーの服装をして集まり、青信号になったとたん、タトゥーを露出して横断歩道を渡る。そこを、曽田が写真を撮るって趣向。これが表向きの内容」 イメージボードのイラスト。当日してくる服装のイラスト。最寄り駅までの地図。 「七緒とそのお友達は、集まった人にまぎれてる。横断歩道で露出されるタトゥーが入った皮膚やそれぞれ気に入ったパーツを、かたっぱしから剥いだり、えぐったり、ちょん切ったりして歩くつもりでいる。今度は、本気」 「今度は?」 「報告された言動、他の事件や先日の尋問の結果から鑑みて、曽田七緒の件も<相模の蝮>の影響下にあったものと判断した。つまり、この間のは様子見だったということ。今度は動きが派手。わざとそうしているようにも見える」 イヴは、曇りがちになりそうな表情を引き締めた。 「この集まり、特に受付とかない。規定の格好で、横断歩道を渡るだけ。だから、参加者を事前にどこかに誘導するのは難しい。曽田七緒は、面倒は嫌い。近辺に強結界を張り、いろいろ剥いだ後は、みんな回復させる気でいる。でも、欠損した部分を再生させるほどの能力はない」 はがれた皮くらいならまだしも、えぐられた目玉がまた生えてくる訳ではないのだ。 イヴは、きっと眦をあげた。 「こんなことを許すわけには行かない。たとえ命まではとらなくても酷いことだし、神秘は秘匿されるべきものだから」 イヴは、改めてモニターに写真を出す。 曽田七緒と、その友達、A、B、C、D。 「この五人が参加者の中にまぎれている。できるだけ犠牲者が出ないように。曽田七緒を止めて。できれば、殺さないで。死人はしゃべらないから」 そう言いながら、イヴはダンボールを机の上に並べ始めた。 「これ、よかったら、使って。HPで指定されてた格好。返さなくていいから」 サイズさまざまの白黒ボーダーの服。黒いインナー。黒いサングラス。黒髪仕様のウィッグ。 着たら、横断歩道に同化しそうだ。 「それから、タトゥーシール。一瞬ごまかすくらいはできると思う」 そう言って、色々なデザインのシールを置いた。 「提供は、三高平市商工会議所」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『警察に届け出とかいるんじゃないか?』 来栖・小夜香(BNE000038)の書き込みに、 『通り魔が出る。犯行予告あったらしい』 『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクス(BNE000031) が応じ、 『警察が張ってるって本当?』 『肉恋い蝙蝠』李・灰蝠(BNE001880)と続き、 『一応、見にくるっぽい』 小夜香の別アカウントがネガティブ発言。 『あのビルの奴ら、前に騒いだら、呼びやがった』 ナハトの別アカウントが、それに乗っかる。 カタカタカタカタ……。 アーク本部・ミーティングルーム。 足がつかないようにオペレーター達が趣味全開でセッティングしたパソコンの前で、リベリスタ達は複数アカウントを駆使して、ツイッター上で、偽情報やネガティブ発言を繰り返す。 強結界は、使命感を持った人間以外は越えられない。 ならば、参加予定者の意志を揺らがせるに限る。 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は、 相手が作ったHPに似せた偽HPを作っている。 他の皆のツイッター情報に合わせて、偽HPを更新し、信ぴょう性を出す。 「最近の高校生をなめるなよ! いつも、ZIPで、とか言ってるわけじゃないんだ!」 (前回の借りをキッチリと返させてもらうぜ。俺は、やる時は真面目に空気読んでやるってところをみせつけてやるぜ) 前回、七緒にホテル従業員を盾にされて矛を収めざるを得なかった竜一は、ギリギリと歯軋りしながら、偽HPを『おまわりさんが怖いから、場所の変更。間違えないでねぇ』と書き換えた。 ● HPに掲載された集合時間まで、後15分。 慌しくケーキを手づかみで食べたり、化粧のチェックをしながら、曽田七緒とそのお友達は最終打ち合わせという名のおしゃべりに興じていた。 「いろいろやられてるみたいじゃなぁい?」 「ちょっと面白いよ? 書き込みが七緒くさい。通報されたから、今日中止だって」 「まあ、別に誰も来なくてもいい訳よぉ。もう連中動いてるし」 「それは、ちょっとさびしいって言うか、がんばって広報したあたしら乙?」 「のんきだねぇ。殺されちゃうかもしれないんだよぉ?」 「七緒ちゃんと一緒なら、いいよ」 「うわ、今、しゃらっと言った」 「七緒ちゃん、あたし達がいないとお化粧もポニテも出来ないでしょ。なんかあったらついてくよ」 「まあ、今回は本気で遊ぶんだけど、あたしが終わったら無理しないでいいからね」 ● 『警察いたので移動中>< まじうざ(怒』 ナハトが何本目かのネガティブツィートを投下している隣で、 『あいあむエセ中国人』ケイマ F レステリオール(BNE001605)は、三回目の場所変更書き込みを済ませた。 『おまわりうろうろ~。ここに集合』 短縮アドレスに、遠すぎない公園の地図を添付して、ハッシュタグも確認する。 「ボーダー服似合う~?」 「ええ、すごく似合うわよ。それはそうと、このダサい服脱いでもいいかな。つら」 顔見知りの二人はタンデム行動。 現場は目と鼻の先だ。 (……これは別の意味でいい趣味だわ。すっごく興奮しちゃう……) ナハトは、ほうとため息をつく。 すぐに横断歩道が目に入った。 「よう」 白黒ボーダー服を着込み時計を気にする竜一に、缶コーヒー片手に声をかける前髪長めに濃い色のサングラスのイケメン。 「……えーと、誰?」 イケメンは、前髪をかき上げて、いつものサングラスにかけかえて見せた。 『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)。いかがわしさ二倍増し(通常比) 「如月!? どこ行ってたんだ」 ぴらっ。フライヤー。『曽田七緒写真展』 「本人と取り巻き連中はいなかったな」 「行ってきたの!?」 「ああ」 (見もせず批評する訳にもいかないだろう) 律儀な職人気質の青年は、囮という気もなく横断歩道に向かって歩き始めた。 ● 歩行者用信号が赤から青に変わった瞬間。 それは、突如横断歩道のど真ん中に現れた。 今アークで仕事を請けているリベリスタなら声をそろえて言うだろう。 「不倶戴天の奴!」 全長五メートル。光る脂ぎった羽。わななく触覚。かさかさ動く足。 小夜香は少し離れた植え込みに身を潜ませながら、一生懸命幻のゴキブリを動かしている。 事前に知らせていたリベリスタも顔が引きつる代物。 ましてや何も知らない一般人は。 十人に満たなかった参加者の足は、横断歩道に踏み出す前に凍る。 「あっちに逃げろ!」 誰かが叫んだ声に、弾かれたように走り出した。 できるだけ遠くへ逃げてくれ。 竜一は、祈りを込めて囮の役目を全うする。 かぶっていたフードをはずすと、やおら、ボーダー柄のパーカーを脱ぎ捨てる。 キャアッと聞こえたのは、一般人の悲鳴か、お友達の歓声か。 颯爽と背中にでっかい昇り竜のタトゥーシールを見せつける。 そして、腕の筋肉を見せ付けるマッスルポーズ。 ついでに、見知った盛り髪Aの顔を指差した辺り、芸が細かい。 「変態だ! また来てるー!」 「あいつ、アークでも有名な変態なんだって! 信じられない、チョーきもーい!」 Cのおしゃべりの影で詠唱を終わらせたDの体が発光する。 「いと高き所にまします尊き方は、かく仰せになりました。『遍く広がる私の威光に傷つく者は咎人である』」 皮膚を透過していく光は、体の髄を焼く痛みだ。奥歯で苦鳴を噛み潰す。 リベリスタは、横断歩道の向こう側にいる、けらけら笑いながら手を叩いている曽田七緒のお友達に向かって走った。 ● 「やぁっほぉー。おじちゃん、このあいだはごめんねぇ?」 耳元でささやく少し低い声、間延びした語尾。 体内の魔力を調整していた灰蝠の背中に、七緒が忍び寄る。 「あたし、今日はおじちゃんのおててがお目当てで来たんだぁ」 ちゃきちゃきと特徴的なピーラーの音がする。 (たのもしー後衛のコの援護と回復もあるから、味方を巻き込まない位置取りで) 小夜香が植え込みからこちらに走ってくる。ケイマは一般人を誘導していた。 散開した状態だった。灰蝠の周りには誰もいない。 七緒はお友達と別れて、一般人の中にまぎれ、逃げると見せかけ回りこんできたのだ。 「こりゃアタシがお灸をすえてやらないといけなそうだねっ」 魔力の本流が四種の音を響かせながら、七緒にぶつけられる。 『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)は、ふんっと気合を入れてフードを外す。 「こう見えても、昔、不良更生の鬼と呼ばれていたんだよ」 確かに、地域を巡回しているおっかないおかあちゃんっぽい。 「場違いだからそうかと思ったけど、やっぱりかぁ。でも、残念。おばちゃんの腕じゃぁ、もっと気張らないとぉ、あたしにはかかんないなぁ」 七緒は、下ろした髪をかき上げる。 「おじちゃんはぁ、囮なのかなぁ? それでもいいよぉ。あたしと楽しく遊ぶことだけ考えてねぇ?」 ● 「はいはい、変態変態」 変態に興味ありませんと、盛り髪Aは竜一に切りかかる。 「ガード固めちゃうか。かたぎの人が逃げ終わるまでは~って? 心配しなくてもみんなおうちに帰してあげるよ? ちょっと素敵パーツはもらおうかなって思ってるけど」 しゃきしゃきと音を立てて、Aの刃が竜一の腕を刻む。 「よかったね、お仲間戻ってきたじゃない。あの子、おめめの色、かわいいね。あたし、あっちの子の方がいいな」 すっとAがひいていく。 「じゃ、後はあたしと遊ぼうか。キミ、タバコ吸わないよね、竜一クン。売り出し中の君を倒せば、あたしの名前もあがるかな?」 巻き髪Bがその穴をすかさず埋め、口を真横に裂くように刃をひらめかせる。 薄皮一枚残して、ギリギリ避ける。竜一の裸の背に冷や汗が流れた。 一般人を「ここまで逃げれば大丈夫」と先導し、戦場に戻ってきたケイマの視界が、ダガー使用に切り替わる。 ふっと、盛り髪Aがその間合いに入った。 「おめめ、かわいい色だね。お姉さん、もらってあげる」 「なぁなぁ、あんた金色の眼って普通の人間には存在しないって知ってた?」 ケイマに向かって、とろけるような笑みを浮かべるA。 「分かってるよ。ぼこってからえぐって、死なないように治療してあげるから安心だよ」 「そんなにパーツ欲しいなら俺があんたらの皮剥いであげるんよ」 あははっとAが声を出して笑った。 「できるもんなら、やってみな!」 ● 「かくて狩場に獲物は放たれり…でござるね。いずれが獲物かは、はてさて」 『ニンジャブレイカー』十七代目・サシミ(BNE001469)が、わざと犬耳をさらす。 「んー。今日はワンコで我慢しよーかなー」 ベリーショートDは、自分を納得させるように頷いた。 「拙者のパーツが欲しければ、来るがいいでござるよ~」 「やっちゃえ、ゆんちゃん!」 ゆるふわCは、しかたないなー。と、サシミに向かって魔法の弾丸を飛ばした。 ごくわずかに体を開き、サシミは簡単に避けて見せる。 「この程度では、忍者には通用しないでござるよ」 あちゃーと呟くC。 「次はこちらの番でござる」 サシミは小さく呟いた。 ふいっと間合いに入り、小刻みな歩法とともに振り回される鋭利な糸が、CとDの白黒ボーダーに赤いチェックを加えて行く。 「やだ、この血止まんないんですけどっ!」 「ちょっと、次治してよね!」 CとDが声高に文句を言い出す。 「痛いかもしれないけど私からの愛です。受け取ってね☆」 女口調の男の声。 体の芯をしびれさせる痛みは、先ほど自分が放ったスキルと同等のもの。 振り返ると、つら。と言いつつ帽子を放り捨てているナハトが立っていた。 「七緒ちゃん、しびしびするよっ!」 ● 「あれぇ、おんなじことやり返されちゃったのかなぁ?」 のん気な声をだしながら、七緒は灰蝠につかみかかった。 ゆるい袖を巻くり上げ、肩口から手首に向かって、ピーラーを走らせる。 そのために造られた鋭利な刃物が、肌色から暗褐色に自然に変色している灰蝠の皮膚をごっそり剥ぎ取っていった。 「このグラデーションはCGなんかじゃ出せないもんね。おじちゃん、ありがとぉ、大事にするねぇ。あ、写真も撮らせてぇ」 目にも留まらぬ速さでカメラを取り出し、シャッターを切る。 子供のように嬉しそうに微笑む七緒。 吹き出す血を押さえることもせず、意地と根性で立ち続ける灰蝠は自分の背中を指差した。 「ねぇ七緒ちゃん。この間見せなかたアタシのとっておき、どんなのか興味なーい?」 青ざめた顔で、それでもうふふっと楽しそうに笑う灰蝠に、七緒は更に相好を崩した。 「背中にもあるのぉ? それももらっちゃおぉかなぁ?」 「七緒ちゃんとの切り合い剥ぎ合い、おっちゃん楽しいから、だーい歓迎あるよ!」 自分の周りに味方がいないのを確認した灰蝠は、メスで七緒に切りかかる。 「アイヤー!」 灰蝠の興奮した声が辺りに響く。 「七緒ちゃん、素敵なお肉してるアルね! 今、自分でびっくりの切り心地だたね。もっと切らせて欲しいアルぅ!」 七緒の腕からあふれ落ちる血は止まりそうもない。 七緒は、自分の腕の傷にカメラを向けてシャッターを切る。 その腹に、今度こそ魔力の四重奏が直撃した。 「避け損なっちゃったかぁ。でも、今のシャッターチャンスを逃すわけに行かなかったしなぁ……」 「どうだい。あたしの腕じゃまだまだかい」 厳しい表情のまま、富子は七緒に話しかける。 「今のは、よかったと思うよ。おばちゃん」 毒の回りと痺れ始めた感覚に大きく息をつきながら、それでも七緒はにぃっと笑って見せた。 ● 「攻めるぜ、俺は!」 竜一はすかさずBの隙をつき、刀に闘気を纏わせたまま二度の打ち込みを果たした。 先ほどナハトの光で体中が痺れた巻き髪Bには、その強烈な斬撃から急所を守りきることが出来なかった。 「もういいよ。にげな、七緒……」 どさりと焼けたアスファルトに崩れ落ちた。 「魔力の矢よ、射抜けッ!」 裂帛と共に、小夜香の手から矢が放たれる。 ゆるふわCは、とっさにベリーショートDをかばった。 「今のうちに、はやくみんな治してっ!」 Dは、全体回復の呪文の詠唱を始めようとした。 「確実に行くでござるよ」 サシミが、自分の体力をいけにえにして、Cに死の気配に満ちた付加職の爆弾を進呈した。 「なによ、これ!?」 「なんでござろうな」 答えを聞く前に炸裂する。吹き飛ばされたCは、そのまま動くのをやめた。 「あなたにもあげるわね」 Dにもナハトから魔法の矢が飛ぶ。 げほげほと血を吐きながら、それでもDはもつれる舌で天使に癒しの奇跡を誓願する。 しかし、不完全な詠唱ではごくわずかの奇跡しか呼べない。 「七緒たん、助けて、七緒たん……」 Dは、しくしくと泣き出した。 流れ滴る血が止まらない。Dは意識が混濁していくのを感じた。 ● 「今回は作品を鑑賞した上で感想を述べたいと思う」 達也は、四種の呪いと、出血に青ざめる七緒の背に声をかける。 「カンナくずに代表されるような木目が織りなす不思議な模様に魅せられた……瞬時の享楽にふける作者の退廃的思想が興味深い」 より詳しい批評は、会場でアンケート用紙にびっしりと記入してきていた。 「が、被写体のQOLを落としてまで作品を作るのは感心できない。製作者、被写体、鑑賞者全てが幸せになれるような作品を期待したい」 七緒はくるりと振り返った。 「見てくれたんだ、ありがとぉ。あたしも食べに行ったのぉ。クレープ美味しかったわぁ。三高平って結構遠いよねぇ」 達哉の放った糸が、もはやまともに動けない七緒の胸に突き刺さった。 達哉本人が驚くほど改心の一撃だった。 「まいったな……これじゃ、今撮った写真、現像できないや……これは、製作者も被写体も幸せなんだけどな……」 そう呟いて、七緒は倒れた。 ● 「あっち、片ついたみたいやで。まだやるんかいな」 ナイフで刻まれて血まみれのケイマの全身から放たれた糸が、十重二十重にAを縛り上げていた。 「諦める気はないよ。あの四人かついで逃げればいいだけだから」 「ほなしゃあないなぁ。ちょっと寝てもらうで」 メス型のダガーから、黒い光が飛び、盛り髪Aの頭部をしたたか打ち付ける。 ばたんと後ろにぜんまい人形のように倒れるA。 それは、ほんのわずかな時間の出来事。 五人を収容したアークの車両が出て行くまで、信号が二回変わる間の出来事だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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