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丑三つ時に釘打つ姫


 神社。じんじゃ、或いはかむやしろとは、神道の神々を祭る社である。
 神の住む家でもあり、玄関である鳥居を潜る際には一礼するのが礼儀だそうな。
 其れはさて置き、
「御機嫌よう、諸君。初詣は済んだかね? さてこのクソ寒い中、ここに集まって貰ったのは他でもない」
 神社の境内にリベリスタ達を呼び出し、出迎えたのは『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)。
 他のフォーチュナの呼び出しであれば、一緒に参拝とかになるのかも知れないが、この男がそんな気の効いた用件で呼び出そう筈がない。
「この神社で、今晩一人の人間がご神木……、そう、それ、その木だ。うむ、それに磔にされて殺される」
 やっぱりそんな話か。
「犯人は犠牲者の元恋人にして、ノーフェイスだ」
 車椅子を漕ぎ、ご神木へと近付く逆貫。
 小さな神社にしては、大きめの、古い木。囲いがされ、周囲は綺麗に掃除されており、大事に扱われている事が窺い知れた。
「丑の刻参り、君等も恐らく知っているだろう日本に昔から伝わるベーシックな呪いの儀式だが、此れで100%の効果を上げる方法が一つある」
 丑の刻参りとは、昔の時間を指し示す言葉である丑の刻(午前1時~3時位)に神社のご神木に、呪いたい相手に見立てた藁人形に五寸釘を打ち込むと言う呪法だ。
 ちなみに逆貫の膝にも人形と五寸釘が置いてある。
「それは実に簡単な方法で、藁人形でなく憎む本人を直接ご神木に釘打てば良い」
 実に単純明快だが、其れは最早呪法とは言わない気がする。
 ご神木の周りには囲いがあるとは言え、四方に杭を打ち、ロープを張っただけの簡単な囲い。
 車椅子の逆貫は兎も角、通常であれば大した妨げとはならないだろう。
「ノーフェイスの女性は、別れ話を切り出された帰り道に交通事故に合い、ノーフェイスへと革醒した」
 囲いのロープに手を触れ、逆貫は深い溜息を吐く。
「特に男性が悪辣な振り方をした訳でもなければ、女性の性根が歪んでいた訳でもない。其の事故さえ無ければ、女性も哀しみを乗り越え、来年の冬には新しい恋人と冬を過ごしていた筈だ」
 冬の寒さは溜息すら、白く染める。冬の寒さは人を寄り添わせる。
 けれどだからこそ、冬に寄り添う相手を失えば悲しみは深い。
「ノーフェイスと化し、歪んだ思考は自分が事故にあったのは男性の陰謀だと思い込むにまで至っている。出来れば事前に男性の護衛を出来ればベストだろうが、私の実力が足りないのか、其れとも彼に運が無いのか、揺らぎに個人の特定までは出来なかった」
 この神社のご神木に打ち付けられるまでは、男性は生きているのだ。
 確実に今晩やって来るノーフェイスと男性を、待ち受けて迎え撃つのがベストだろう。
「此れが敵の資料だ。諸君等の健闘を祈るよ」
 資料を手渡した逆貫は、車椅子を漕ぎ神社から去って行く。此処は余りに寒すぎる。



 資料
 ノーフェイス:釘姫
 白装束を身に纏い、藁人形を懐に忍ばせたノーフェイス。だが其の両手には大型の改造高圧釘打ち機。通常攻撃も遠2距離まで届き、出血と連。
 能力1:自身に蓄積したダメージを、藁人形に移し変えて敵一人に肩代わりさせる。(この能力を使うと藁人形を一つ消費する。藁人形の所持は3つ)
 能力2:両手の釘打ち機から無数の釘を打ち出し相手を蜂の巣にする。全体遠距離物理攻撃。呪い、呪縛、呪殺、出血、流血、失血、連、高クリティカル。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月31日(木)23:14
 病んだノーフェイスです。能力が凶悪です。
 割と良い所のお嬢さんで、何不自由なく育ち、おっとりとした性格だったそうです。ノーフェイスになる前までは、ですけど。
 丑の刻参りは目撃者を消さないと呪いが術者に跳ね返るらしいので皆さんの事も確実に消そうとします。
 藁人形を攻撃で破壊した場合、藁人形は一つ減りますが其の攻撃ダメージが直接攻撃手に跳ね返ります。
 ノーフェイスは丑三つ時辺りにぐったりした男性を引き摺って現れるでしょう。
 なすべき事は明確です。
 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
ホーリーメイガス
神谷 小夜(BNE001462)
デュランダル
館霧 罪姫(BNE003007)
ソードミラージュ
ヘキサ・ティリテス(BNE003891)


 草木も眠る丑三つ時。
 耳に痛いほどの静寂に、月も雲に姿を隠す。
 虫も鳴かず、風すら吹かぬ。異常な程に空気が張り詰めている。
 大気すらをも怯えさせ、この夜を支配するは一人の女が発する鬼気。
「ねたましや、あな、ねたましや」
 ずるっ、ずるっ、と男を引き摺り、女は境内を目指して歩を進める。
 其の姿は最早人に在らず、魔性に堕ちたる悪鬼なり。人であった頃の名は佐和子、ノーフェイスと化しては釘姫と呼ばれる。
 佐和子を人在らざる者に貶めたのは、あまりに悪意に満ちた運命の悪戯。
 彼女がこうならねばならなかった理由等何処にもありはしない。
 哀しみが瞳を曇らせ、己が身に迫る危険に気付けなかったとて……、どうして其れを咎と責めれようか。
 けれど其れでも佐和子を見逃す訳には、もういかない。彼女は世界を蝕む悪性の存在へと転じてしまった。
 釘姫となった彼女は、其の存在こそが罪なのだから。
 ……神社の入り口である鳥居を釘姫が潜る。祭られた神への礼儀も無く、無造作に。
 何せ此れより行なわんとするは呪詛の儀式。道外れた外道が今更何に遠慮しようか。
 しかし、だ。
「キャーッ!!!」
 夜の静寂を切り裂き、悲鳴が響く。懐中電灯の光で釘姫を照らしながら、怯えた悲鳴を上げる一人の少女。
 だが其の様は、注意深く観察すれば、或いは冷静に状況を分析すれば些か不自然ではある。
 勿論怖がる事に不思議は無い。今の釘姫の姿は、嘗ての穏やかだった佐和子の頃とは真逆の般若の相であり、尚且つ両手に大型の釘打ち機を携えて男性も引き摺る。……深夜に出会えば悲鳴の一つも上げたくなるだろう。
 けれど本当に並の人間ならば、この鬼気を放つ釘姫と出会って、声を発する事等不可能だ。
 それに一体今までこの少女は何処に隠れていたのだろう。こんな深夜の闇の中、まるで待ち伏せでもしていたかの様に。
 だが其れに違和感を感じ取れるほどに釘姫が冷静であろう筈も無く、踵を返して逃げる少女を彼女は迷う事無く追い始める。
 目撃者は確実に消さなければ、呪いの儀式は完成しない。
 されど2人は互いに相手の事を甘く見ていた。少女も、釘姫も。
 引き摺っていた男の襟首を口で咥え、人に在らざる速度で駆け出す釘姫。並の人間が釘姫から逃れよう等、彼女を甘く見積もるにも程がある。
 しかし距離を詰めながら放たれ、宙を裂いて迫る釘の群れを、少女は振り向き様に虚空から引き抜いた二本の電気ノコギリで振り払う。
 無論そんな事が並の人間に可能であろう筈が無い。例えもし仮に少女が学校で剣道部に所属しており、全国大会で優勝するほどの腕を持っていたとしても先の釘は少女を貫き、無残な死体に変える威力を秘めていた。
 逃げる足を止めた少女の雰囲気は、先程までとはまるで別人だ。
「はじめまして、釘姫さん」
 甘く見ていた少女の突然の変化に警戒し、足を止めた釘姫に、
「私罪姫さん。今宵貴女を殺しに来たの」
 少女が、『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)が名乗りを上げた。


 物陰から、一斉にリベリスタ達が飛び出し迫る。
 罪姫の囮が破綻した以上、最早強襲は不可能だ。寧ろ距離を詰める必要すらあるのだが、リベリスタ達が移動に費やす一手分、機先を制したは釘姫。
 無数の釘が宙を切り裂く。空間を埋め尽くす圧倒的な釘の数。
 無論普通の釘撃ち機からはこんな膨大な量の釘を内包していたりはしない。ノーフェイスとしての釘姫自身の能力がこの無数の釘を生み出しているのだ。
 すり抜ける隙間も無い其の攻撃に、しかし『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は敢えて己が身を晒して突っ込んで行く。トップスピードで速度を増し、強引に、強引に。
 目や喉を庇った掌を、釘が貫き手背に抜ける。肩に、腕に、大腿に、幾本もの釘が突き刺さる。
 けれども彼は止まらない。低くした姿勢に、……彼自身はコンプレックスに感じている小さな体が幸いし、比較的損害を低く抑えてくれたのだ。
 道を切り開いた小さくとも頼もしい其の背より、罪姫が飛び出し釘姫に向かって高速回転する刃を振るう。
 全身の力を武器の切っ先に籠めるメガクラッシュ。大型釘打ち機と電動鋸、2つの工具が噛み合い火花を散らす。
 ヘキサと罪姫、二人の狙いは釘姫の恋人であった男性の確保。けれど、彼等の連携を持ってしても、狂った女の執念には届かない。
 メガクラッシュの威力に身体を揺るがせつつも、釘姫は尚も男性の襟首を咥えた顎に力を込める。

 闇夜に赤い火が灯る。『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は咥えたタバコを火に近づけ、一口吸う。
 ふざけている訳では無い。余裕を見せる訳でもない。此れは彼女が戦闘や考察等の集中力を必要とする行為を行なう際の、癖、或いは儀式の様なものだ。
 溜息の様に大きく煙を吐いた椿が懐から取り出したは符。吐いた白煙が闇に紛れて消えて行く。
 式符・鬼人、高度な符術により生み出された小鬼が、術者である椿を守らんと傍らに浮かぶ。
 椿は釘姫に対し、言いたい事は山ほどあった。
 例えば、
『うん、確かに、ご神木へヒトガタを釘使って打ち込む言うんは間違いあらへん。見られたらあかん言うんもあっとる。……けど、呪う対象自体を釘打ち機でご神木に打ち付けたら、それはただの猟奇殺人や!! 殺人現場とか、そら見られたらあかんやろなぁ!? そもそも呪う以前に直接殺しとるやないか!! 丑の刻参りする意味あるんかそれっ!?』
 みたいな。例えばって言うか此れが全てだけど、キレッキレである。
 だが椿は敢えて其れ等の言葉を飲み込んだ。男性に執着する釘姫の姿を、一目見れば判ったから。
 悲しみを癒す間も無く襲ってきた不幸に、彼女が狂うしかなかった事を。持って行き場の無かった想いは、無念は、僅かに残った人だった頃の知識と相俟っておかしな形に歪んだのだろう。
 ラヴ&ピースメーカー、椿が愛銃の弾倉に篭める想いは、憐憫。

「神社で働く者として、御神木に傷をつけるとか見過ごせません! もちろん人を殺めるのも大問題ですけど!」
「ひゃっはー! 人を呪わば穴2つー!! とりあえず通報しましたーっ」
 言葉と共に一歩踏み出し、『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)と『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)、二人のホーリーメイガスが各々術式を発動させた。
 リベリスタ達の背に、神秘の力で付与された小さな翼。小夜の翼の加護により、仲間達は限定的な飛行能力を獲得する。
 そしてメアリが使用するはタクティクスアイ。その認識を戦場全体に拡大し、仲間達の負う傷の一つも見逃すまいと、驚異的な視野の広さを手に入れる。
 支援行為により戦いの準備は整った。彼女達が己に課す役目は癒し手、戦線を支える要。けれど彼女達が其の本領を発揮するには、仲間が傷を負う事を待たねばならぬ、皮肉な役割だ。
 しかし当然彼女達が支援を行なった事は釘姫からも見て取れた。前に出る訳でもなく、不可思議な能力で仲間達をサポートした小夜に対し、釘姫は釘打ち機を向ける。
 けれども、放たれた釘を銃弾が砕く。無論放たれた全てを、……と言う訳にはいかないが其れでも、数を減らした釘も小夜には届かず、射線を防ぐ様に割って入って銃弾を放った『玄兎』不動峰 杏樹(BNE000062)の身体に突き刺さった。
 釘で貫かれた僧服の内側から血が滲む。 


 とは言え、釘姫に対して攻めあぐねるリベリスタ達。
 その理由は唯一つ。彼女が襟首を口に咥える男性の存在だ。
 釘姫に彼を盾にする心算は無いのだろう。ただ落とさぬ様、失くさぬ様、そうしているだけに、執着心を露わにしているだけに、過ぎない。
 けれども一般人を巻き込んで殺す心算のない、寧ろ救わんとするリベリスタ達にとって、其の存在は大きな枷となっていた。
 素早い動きで釘姫を撹乱し、懐の藁人形の奪取を狙うヘキサだが、其の目論見も上手くは行かない。伸ばした指先が藁人形に触れた瞬間、指先に走った衝撃に思わず動きの止まったヘキサ。
 釘姫が用いれば彼女のダメージを被害者に移し、使われる前に破壊しようとすればその破壊ダメージを攻撃者に返す藁人形が、容易く奪える類の物である筈が無かったのだ。
 無論破壊ではなく奪取を狙った為、ダメージがあった訳では無い。ただ、想定外の事に少し驚いただけ。
 だが其の驚きは彼に僅かな隙を生み、そして間近の釘姫が其れを見逃そう筈が無い。至近距離から向けられ、釘を放つ釘打ち機に、ヘキサの身体に無数の穴が穿たれた。
 小夜にメアリ、二人のホーリーメイガスの癒しがすかさずヘキサの傷を塞ぐが、どうにも状況はよろしくない。
 二人の回復が手厚い為、行き成り戦線が崩壊するような事態に陥らないのは幸いだが、攻め手に欠けるこの状況はリベリスタ達にとって如何にもやりづらいものである。
 罪姫が釘姫と打ち合う隙に、椿が側面に回りこむ事で青年を巻き込まない射線を確保しようとしてはいるが、しかし完全に回り込んでしまえば今度はホーリーメイガス達の回復範囲から出てしまう。釘姫が全方位に釘をばら撒くこの状況で、其れは冒せぬ危険である。
 けれど唯一人、このリベリスタが不利な状況下でも何ら動じず動く者がいた。
 不動峰杏樹。彼女が放つは神速の抜き撃ち、バウンティショットスペシャル。その素早く、そして精密な射撃は、戦いに振り回される男性の体の隙間から、釘姫を狙い打つ。
 ゴボリ、と杏樹の口から吐血が零れる。彼女が撃ち抜いたは藁人形。場所はヘキサの動きにより既に割れている。杏樹の銃撃は、釘姫の懐に納められた3体の内2つを貫き破壊した。
 しかし藁人形を破壊したダメージは彼女自身へと跳ね返る。己が銃撃の威力を、杏樹は2発分纏めて其の身で味わう。
 だが其れでも、響く歌声、小夜の大天使の伊吹と、メアリの天使の歌が杏樹の傷を塞いで彼女を支えた。

 戦いは、加速する。
 
 頬を掠める銃撃に釘姫が首を振った其の時、襟首を千切られた男性の体が宙に放り出され、地面に落ちた。
 地を転がり、衝撃に呻きをあげる彼。
 だが此処で、彼について、敢えて少し語ろう。
 彼は真面目で優しい男だった。目立った欠点と言えば、少しばかり気が弱いとこだろうか?
 彼は深く彼女を愛した。彼女を想い、彼女を支えれる男にならんと努力した。
 しかし、愛を深め、彼女を知れば知るほどに、努力を重ねれば重ねるほどに、彼は彼女と自分の間に広がる溝に気付いてしまう。
 彼の育った家庭は、お世辞にもあまり裕福といえた所ではない。引き換え、彼女は謂わばお嬢様である。
 ふとした仕草に育ちの違いを、ふとした発言に育ちの違いを、彼は感じずに居られなかった。
 狂おしい程に、彼女と生涯を添い遂げる事を欲した。けれどどうしても、裕福に慣れた彼女を自らの手で幸せにする自信を、彼は持つ事が出来なかった。
 自信が無く、コンプレックスを抱え、それを彼女に隠し切れなくなった時、男は別れを決めた。
 勝手に自分一人で抱えて、彼女には何も言わずに、一人で潰れて、決意した。

「佐和……子?」
 衝撃に、意識を取り戻した男性が呻く様に呟く。
 己を呼ぶ声に、釘姫の僅かに残った理性が彼の名前を搾り出す。
「敬太郎さんっ」
 溢れ出す想いに、動きを止めて叫ぶ彼女。
 ……けれど、戦いの場に置いて其れは格好の隙である。
 意識を取り戻した敬太郎の眼前で、釘姫の、佐和子の胸が銃弾で穴を穿たれ、電動鋸の刃が彼女の腹を掻っ捌く。


 釘姫の体が揺らぐ。倒れはしない。この程度で倒れるものか。
 されど、彼女を縛るは幾重にも展開された呪印。釘姫の適当な其れとは及びも付かぬ、正しい知識から編み出された椿の呪印封縛の技。
「ね、釘姫さん。寂しいのよ」
 電動鋸を振り被り、罪姫が囁く。
 そう、戦いの終わりは近い。愛を、殺意を交わす時間が終る。
 其れはとても寂しい事だ。
「私達、出会い方が違えばお友達になれたかしら」
 振り下ろされた電動鋸は、釘姫の肩口から胸までを、ゴリゴリと抉り取った。
「ウサギの牙に、喰い千切られろォッ!!」
 澱みなく、終わりを知らぬかの如き蹴りの連打がヘキサから放たれる。
 早すぎる其の蹴りは時に切れ味すら伴って、底の見え始めた釘姫の体力を更に削り取っていく。
 残る藁人形は一つ。……けれど其れが使われる事は無い。椿の呪縛が、そして更に追加されたヘキサの麻痺が、釘姫の身体を縛るから。
 小夜とメアリ、二人の手厚い支援に、リベリスタ側は一人の犠牲者も出ていない。
 もう、釘姫に出来る事は何も無い。

 佐和子から逃げたのは敬太郎の弱さが故に。
 其れは佐和子にも伝わっていたのだろう。不幸な事故に合い、歪んだ想いは呪いと化した。
 本当はただ、一緒に居たかっただけなのに。
「敬……太……ろ…………」
 口から零れ落ちる血が、言葉を遮る。其の色は、人外を示す、もう後戻りの出来ない存在である事を示す、異質の色。
 故に、どれ程に哀れもうと、もう意味が無い。
「せめて、安らかに眠れ」
 杏樹は引き金を引く事を躊躇わない。
 放たれた殺意の弾丸、ヘッドショットキルは其の名の通りに狙い違わず、釘姫の頭部を粉砕した。

 椿の言う通りだ。
 呪う対象自体を釘打ち機でご神木に打ち付けたら、それはただの猟奇殺人だ。
 確実に死にはするだろうが、そんなやり方では呪術とは言えない。
 人を呪わば穴二つ。自らも破滅の道を辿るだろう。
 …………けれど、けれどけれどけれど、敬太郎は忘れない。
 変わり果てた恋人を切り刻んだ電動鋸の音を。彼女の身体を穿った銃弾の、硝煙の匂いを。
 そして彼女の頭が砕けたこの光景を、彼は生涯忘れる事等できやしない。
 あな、うらめしや。あな、ねたましや。
 呪いとは想いである。
 釘姫の、命を賭けた呪いは、確かに敬太郎に届いたのだ。

 最初からこの話には、救いなんて欠片もありやしない。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 少し詰めれて無い部分もありましたが、皆さん丁寧だったと思います。

 結果はこんな感じですが如何でしょうか?
 御気に召したら幸いです。