●皮膜とか伸ばす 野衾は飛ぶことを好む。個体の習性だから仕方がない。 なので、縄張り意識の強い彼らは数がどうとかより二ヘクタールの縄張りが全てなのである。 つまり、まあ、彼らが類似する皮膜系ぐわーとかあの辺と違うとして、それらを否定する気がないのもまた確か。 確かに彼らはなんつーかサイズでかいし凶暴っぽいけどそんなことはない。彼らをモデルにするキャラクターとか霞が好物らしい。どこの仙人だ。 まあ結局のところ「もま」とも呼ばれる彼らは禁猟対象の生物であり、割と人の世に定着した存在であり、ぶっちゃけるところが……。 「ぐわーっ!」 モモンガ亜科ムササビ属ムササビ。日本在来種ネズミ目最大級の生物である。 ●マジでセルフパロなんで許されると考えているアトモスフィア 「『むささび・もま事件』というものがあります。これはよく『たぬき・むじな事件』と混同して扱われ、『事実の錯誤』と『法律の不知』についての教材として――」 「つまり今回はムササビなのな、前置きはいいから」 どんだけマイナーな事件を調べてきたのかは解らないが、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の表情は包帯越しでも心なしかいきいきしていた。こいつもう保健体育じゃなくて公民とか教えりゃいいのに。 「ま、まあさて置き……ムササビです。飛びます。ぐわーって鳴きます。まあ、ここまでは以前出現した『ももんが』と同一なのですが、サイズが大幅に違います。あの、某7.9インチと9.7インチ程度には」 「やめろよそのドブラックなたとえは」 「まあ重量でいうと四倍はあるんですがね」 倍どころではなかった。なんかつよそう(確信)。 「で、それが何で革醒してんだよ。あまつさえ人里に出てくる理由は」 「発情期だからです」 「は?」 「ですから、発情期。ムササビって冬と初夏が発情期なんですけど、オス同士の争いに負けた個体がなんか革醒したらしいです。幸いにして数は少ないのですが」 「……やめろよ、悲しくなるだろ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●あいたたたたたたたまれない 「初仕事は発情したムササビが相手か……言葉にすると凄く居た堪れない気持ちになるな」 『ぐわー!(訳:うっせーよ!)』 初っ端からメンタルブレイクかまされるむささびの気持ちは如何ばかりか。これは酷い虐め(確信)。それを言い放った『TwoHand』黒朱鷺 輪廻(BNE004262)にこんな教育を施した親の顔が……いや居るな父親。リベリスタだし。 あとこの子言ったこと事実認識なんだよ。受け入れろよムサ公。 「恋破れてエリューション化でございますか……お労しゅうございます!」 あとこの『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の認識も結構エグいぞ。気遣いが感じられるけどなんて言うか真綿で締め付ける優しが畜生こいつの主人呼んでこいよ! あの指揮者! 「ももんが……ではなく、むささび様でございましたね!」 『ぐわぐわぐわー!(訳:テメッコラー! あのちいせえのと混同すんなッコラー! ナメッコラー!)』 でもこいつらモモンガ属だからなあ。翼膜の位置違うくらいだしなあ。そりゃ混同もされるよ。 「でも、どっちももふもふで可愛い所はお揃いね」 もふもふは大好きだから連れて帰りたい、と口にする『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)がややまともに見えるがちょっと待ってほしい。むささびは禁猟対象なのだ。『もまだから』は通用しないって高等裁判所が言ってた。 だから革醒してなくても連れ帰るなよ! 絶対だからな! 「こういうのは、性淘汰って言うのかな?」 難しい言葉使うなあ……と思ったけど、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)の年齢をやや誤って理解していたフシが俺(地の文)にもある。 そう考えると年齢相応なんだけど、何でかやたら大人びた彼女の前で下手なこと口にできない気がしないでもない。 具体的に言うと狩られそうっていうか。そういう感じの。 「しかし哀れ……一組ホモカップルになっても1匹余るじゃんね☆」 『ぐわ……(やだこの子恐い)』 そうな(適当 「永遠のトワ、参ります。モモ……むささび様!」 『…………』 あ、むささびがいよいよ拗ねた。目が据わっている。 そんな変化があるとは露とも知らず、『ファッジコラージュ』館伝・永遠(BNE003920)は愛を掲げ立ちはだかった。 否、愛とはまた違うのだろう。愛を掲げるからこその憎しみもある。彼女の感情はそういったたぐいの、ある意味ではとても人間らしい経緯で醸成された最も人間らしからぬ感情なのだろう。 「どう見ても死にクリの撃っちゃいけねぇアレに見えやがる……」 因みに、『眼鏡置き』小崎・史(BNE004227)の言葉に代表される連想ゲームは主に妹さんと自身のサブカル嗜好がその根柢にあると思われる。 彼は彼なりに真面目なのだ。一応。これでも。 『ぐわーっ!(ナンオラー! ザッケンナコラー!)』 「なんだ、このオタッシャデーと叫びながら爆発四散しそうな叫び声は」 うん、たぶんオタッシャデーだと生き延びるだろうからサヨナラじゃねえかな。実際こいつらそんな反応してるよ。 奇書と名の付くそれを手にし、眼前のエリューションを眺める彼の様は、どうやら相応に戦いを理解し、楽しもうとしている風でもあるようだ。 「とはいえむささび、ちょっと可愛いわね……鳴き声は残念だけれど」 求めるは救済の祈り。静かに戦いへの準備を完遂させた『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は、しかし対峙したその外見に密かな感動を覚えざるを得なかった。 可愛い手合いが敵であるのは確かに、少女らしい少女であれば悩みどころでは在るのかもしれない。尤も、可愛いから倒せない、などといった殊勝な構えを見せる人間がどれ程リベリスタに居るかといえばごくごく少数であるのは否めないわけだが。 「ところで発情期だから人里に出て来る……って……え、人でも良いの?」 『ぐわ』 違うらしかった。 「むささびさんも、冬籠もりして気分一新とかできればよかったのに……」 その姿に目を輝かせているのが、なにも少女ばかりとは限らない。雪待 辜月(BNE003382)はこれでもかなり純粋な部類のりベリスタである。 攻め手などとでもないとする一方、戦う事全てを否定するわけではない彼にとって、和む姿をした相手というのはつくづく倒しにくかろう。 しかしまあなんだね。童顔な少年が厚着して目の前の敵が可愛くて辛いって言ってる構図とか俺得だよ畜生もっとやれ。 「……去勢が必要か?」 ぎろりと視線を巡らせた輪廻の姿にびくりと竦むむささび達。言葉は分からずともその威圧が示す意思を汲み取ったのだろう。敏い連中である。 だが、口にしてしまったという風の表情をしたのは輪廻の方で。己の言葉遣いに気付いたか、取ってつけたような咳払いをひとつ。 「確かにムササビは可愛いが革醒してしまったのなら話は別だ。全て主の御許に送り届けてやろう」 うん完璧。最後の『良し』が聞こえなければもっと良かったんじゃないかと思う次第。 「それでは、不束者でございますが一戦よろしくお願い致します!」 そんなリコルの一礼に触発されたのか。三体のむささびは散開して翼膜を広げ、力強く飛翔する。 ……いやしかし、この状況は本当にね。 ●だいたいあってる(状況判断が) 史が印を切り、魔力の加速をその身に促す。 儀式と見立てが精神を制御するならば、それが神秘の領域を支配するのは当然であるとは彼の推論。果たして、「思い込み」が最大効率を叩きだすのが革醒者の常だったりするので、その行為は間違っちゃ居ないわけだが。 そんな彼の心中を知ってか知らずか、むささび達は幹を蹴って飛翔する。構えるのは鋭く伸び上がった爪。撫で斬りにすべく彼の首筋に狙いを定め……視界いっぱいに広がった白翼に意表を突かれた。 「そこは流し斬りだろJK!」 痛いところをつくとらが、杖を真っ直ぐに向けて不運の月を呼び込み叩きつける。杖先に集中した魔力が極小の悪夢を生み出して炸裂し、むささびの一体を強かに弾いた。そのまま追随しブロックに入る姿は、僅かな喜色が混じって見えた。 「お空が飛べるのは、貴方だけじゃないのよ」 翻って、もう一体の進路を阻んだのは日記を片手に立ちはだかった羽衣だ。彼女の位置は、まるきり彼らの間合いだ。だが、だからといって彼女にとって圧倒的不利かと言えばそんなことはない。 その間合いに踏み込んだ時点で、既に彼女がやろうとしていることはひとつかふたつだったし、そも彼女が彼らに対して抱いている感情は、ひと目見た時からそう変わっちゃいないのだ。 「数は少ないですけど飛ぶのが厄介ですし、動きが予測しづらいので気をつけて下さい。僕も観察しますが十分じゃない気がしますので……」 おどおどと、辜月が翼の加護を付与しつつ声を上げる。空中戦の体を成しつつある状況で、フライエンジェ以外がある程度の高度を確保できるのは大きい。地上からブロックすることが可能でも、宙を舞う相手を軽々しく狙えるかと言えばそういうわけでもないのが辛い所。 ならばどうするか、と問われれば選択肢はふたつ。相手の土俵に上がるか、自分の土俵に引きずり下ろすか、そのふたつに一つである。 彼らは随分と優しいから、相手の自由を無碍にすることはしなかった。自らの自由を拡げるのなら、相手の自由を奪ってはいけないと。 「暗闇は永遠の愛情でございます。痛みさえも、愛です」 『ぐわぁ(訳:なんだろう恐い)』 「怖がらなくてもいいのです。全て感じ取って下さいまし」 永遠が翼膜アピールを仕掛けたむささびに闇を叩きつける。闇に於いて尚暗いそれは、彼女の心中に蟠る複雑な感情を示しているようにも見え、むささびに静かな恐怖を植え付けるに足るものだった。 言葉は通じる。けど、こいつは怖くてかなわないやとむささびは思う。難しい言葉など分かるような脳を持っていないけれど、痛みも怒りも恨みも全て愛で一括りにしてしまうその底知れぬ情愛は確かに、恐い。 「求愛したいのなら、わたしを倒してから挑む事ね!」 「…………」 「ふふ、分かっては居るけどつい。気に障ったら御免なさいね」 「いえ、大丈夫です」 辜月にも、淑子なりのジョークであることはわかっている。素直な感情から漏れたそれをああだこうだと指摘する気も彼にはない。だが、やはり少し思うところは無いわけではない彼なのであった。頑張れ。なんて言うか超頑張れ。 「神秘混じりの戦いだろうとランチェスターの第二則は有効だ。つまり数を減らせってこった」 ランチェスターの第二法則。ほぼ同程度の練度を持つ存在同士の戦闘は、武器効率と兵力数の自乗の積によって割り出されるとされる、一騎打ちの第一法則を踏まえた戦場法則である。 つまるところは、兵力数はそれだけで強力になるし、武器……彼らの持つ神秘行動一つ一つが駆け出しのリベリスタ以上であれば、数敵優位をより確固たる状態に持って行こうとする史の思考は優秀であるといえるだろう。 練り上げた魔力から爪弾かれる魔術の旋律は、密やかにむささびの間合いに忍び寄り、駆け上がり、縛り付ける。 自由に滑空する彼らの足を止めるだけでも、その戦力を大いに崩すことに役立つし、仮に外したとしても相応の警戒を持たせ、容易に立ち回れないようには出来る。 つまるところは、嫌がらせだ。巧妙に丁重に淡々と相手の動きに釘を刺す。相手の思考を縛り上げる。足らぬ思考に更なる縛りを加えれば、それが総じて戦いの流れを生み出す渦となろう。 「むささび様方の皮膜アピールもスカートの裾を広げてる様だと思いますとより一層微笑ましゅうございますね!」 破邪の光を纏って穢れた運を修正するリコルの言葉は、どこまでもプラス思考だった。というか、その解釈はどうなのだろうか。っていうかどこまで優雅な脳内構築なんだこの子。 手に持つライトすらもしっかり赤セロハンが貼ってあるあたりの気遣いといい、この正統派メイドを見てるとその他のメイド系リベリスタが陳腐化するようである。鞘走りとかリロード音なんて聞こえないからな。 戦闘も徐々に佳境に入りつつある中、不意にブロック回避を果たしたももんがの視界に輪廻が回り込んだ。マントを翻して撫で斬りをさらりとかわし、移動を阻害……するかと思ったら、彼女の行動はその斜め上をかっ飛ばしていた。 先ず、その尻尾を掴む。大きく回りこむ様に背後を取った輪廻は、そのままその背中によじ登り…… 「……おぉー、飛んでる。お前達、中々凄いじゃないか」 『ぐわっ……!?(アッコラー!?)』 まさかの滑空プレイ。っていうかよくずり落ちないなこれ。何か趣味のいいアトラクションを見ているようでもあるのだが、これはアリなのだろうか。アリということでよろしいか。 素晴らしき暴走である。……いやぁ、これは実力差とか数差とかなかったら中々出来ないしな。やっとけやっとけ。 「やだそんな、羽衣もやってみたいわ……!」 「こんな時でございますが、あの皮膜をなでなでさせて頂きたいものでございますね……」 『ぐわ……(訳:え、マジで?)』 既に丁々発止の戦闘を繰り広げ、十分触れ合っているだろうにこのリアクションである。女の子は可愛いものが好きなのである。これは酷い。 特にこの二人は可愛いもの好きなので仕方ないっていうかそういう。 「ぁ……聞いてるだけで和む……はっ、気が抜けちゃいそうですけど、気合い入れてふぁいとです」 鳴き声を聞いて戯れを眺めて、まあ彼が少し気が緩んでしまうのは仕方ない気はするのでスルーで。他の行動のが余程ゆるゆるなので、彼の戯れぐらいは許してあげてほしい。マジで。 しっかり回復とか抑えることろは抑えてるのだから、少しくらい緩める気があってもいいような。いや、いいのかそれって。 暫しの滑空を経て、輪廻の指から開放されたむささびは再びの驚愕に見舞われた。 「負けた以上みっともなく足掻くのはお止しなさいな。敗者の振る舞いをご存知無いの?」 スタンスを広めにとった大振りな構えをとり、大斧を振り上げた淑子の姿があった。振り下ろされる軸線は、明らかにその正中線に捉えてある。 真っ直ぐに振り下ろすその先に居たむささびは、彼女の一閃の前に両断され、その生命を失うこととなった。 「……ごきげんよう、むささびさん」 交差するように吹き飛んだ亡骸に視線を向けることなく、斧を軽く振るい相手の来世へ思いを馳せる姿は、淑女らしさを感じらもした。 「愛しておりますよ、はじめましてのムササビ様」 永遠の言葉はむささびに通じる。つまりは、この愛は通じているということ。 永遠を、永遠に愛せというのだ。愛を抱えて死ねと言う。嗚呼、なんて残酷を強いるのだろうか。 身体から静かに血を散らし、自身すらも巻き込んで闇が這う。 さながら抱きしめる様に、闇から吐き出されたむささびは呼吸を辞め、生存を終えた。 「嗚呼残念」 歌うように、羽衣が日記を軽く捲る。今まで綴ってきた『しあわせ』を指先で弾き、魔力の弾丸を生成する。その表情に悲しみや哀れみはない。ただ事実を語ろうとしている姿だ。 どれだけ綴られたしあわせでも、どうしてもしあわせにはできない事実がある。斯くも可愛い相手でも、世界にとって害なら羽衣(リベリスタ)は幸せにはできないのだ。 「世界は何処までも理不尽に満ちているのね……ごめんなさいね」 魔力が指先から弾かれる。螺旋を巻いて渦を作り、理不尽がむささびを貫いて吹き飛ばす。伏せられた顔は、僅かに白く。 「駄ムササビは滅ぼさないといけない」 冷徹に言い放ちつつ、輪廻の頬はひきつっていた。やはり、口でどうと言っても内心では殺すのに僅かながらの躊躇いはあるのだろう。事実として、仕方ないのだろうか。 引きぬかれた銃が咆哮を上げて飛び跳ねる。羽衣のそれとは異なる場所を貫いて、弾殻は幹に突き刺さる。 「来世では素敵な方との恋が成就致しますよう心よりお祈りしております!」 鉄扇を収め、リコルはしずしずと一礼を向ける。 結果がどうあれ、状況がどうあれ、世界の理から外れたむささび達はその命を失った。もう、世界は彼らを嫌うことはないだろう。 「……そろそろ降りていいか? 飛んだなんつーのは今回何度目かの初めての事だがあれだ、寒ぃ」 ゆるやかに降り立とうと姿勢を整えた史は、僅かに肩を抱いてつぶやいた。 「生きるって戦いだぁね」 やれやれ、と肩を竦めたとらは、遠巻きに墓標を作ろうとするリベリスタ達を眺めていた。 或いは祈りを、或いは望みを口にする姿は確かに美しいものだ。だが、死するということは確かな敗北なのだ。こと、動物にとってしてみれば。 だから同情は甘いか? 否、他人のそれを否定する気は彼女にはない。ただ、今の彼女はそんな気はないというだけのことなのだろう。 「温かいココアを持って来ましたので一時でも温まり下さいませ!」 そう言ってリコルが取り出したココアの甘い香りが、一瞬でも世界の血腥さを払ってくれるなら、それもよかったのかもしれないと思う程度には。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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