● 「おがあぁさん、いだい、いだいよぉおおおお!!」 「祐太、祐太何処、どこなの、どこ、どこ……!!」 「ごろじでぐれええええ!!」 茎に肉を貫かれ、骨に根が絡み、全身の穴という穴から花が咲く人々。 今や植物と一体化し、皮膚の肌色は草花に埋もれて何も見えない。ただ其処には、人間の形をした草花の塊が、奇抜なポーズを取りながら立っているだけ。 茎を辿って行けば、大きな大きな真っ赤な花が咲いていた。すぐ下には真っ赤な果実が生っている。 「私、鳥兜(人嫌い)なの」 ガーデンの中、まるで絨毯の様に敷き詰められ、植えられた赤い花の咲く植物。 その中心で、少女は笑いながら白い椅子に座り、白いテーブルに向かって優雅なティータイムに浸っていた。 「それは知ってるけど……これはやり過ぎじゃないの?」 気持ち悪いと、そんな顔をした金髪赤目の少女――朱里が、紅茶を啜る少女に言う。 だって人間の形をした草の塊が断末魔をあげているんだもの。見ていて不快なのは通常の反応だ。 「でもサイプレス(絶望)は好きなの。特に、悲鳴を上げるサイプレスは見ものよ」 少女の声はとても楽しそうに話す。まるで朱里の問いかけは聞こえていないものという様に。 (相変わらず……何考えているのか解らないや……これが元黄泉ヶ辻?) 朱里の目線の先の彼女は根からおかしいのだ。主に精神が。 大金で買われ、黄泉ヶ辻から三尋木にあっさりと浮気した女――黒葉 枯華。 その目は金に溺れているのでは無く、彼女が好きな異界の植物を買うために必要な金に、飢えている。 金が奇妙な種子に変わり、種子は実となり金を生む連鎖だ。 「生きているモノを肥料とした、異界の植物ね……熟れた果実は麻薬の如く美味しいって親父が言ってた。 それに、加工すれば美肌効果もあるから首領っが喜ぶって……だから、果実を回収しに来たの」 まるでそれはエデンの禁断の果実。 一度、口にしたが最後。消せない罪に彩られ、二度と楽園には戻ってこれない。 「ふふ、ふふふ、良いよ、好きなだけ持って行って。お金は後日いつもの……に。 金は素敵な商売道具。もう、恋人同士の様なアイビー(死んでも離れられない)なの」 意味不明。正直朱里はそう思った。 鋏の刃を開き、果実に手に取る。「収穫しちゃやだ」とでも言うのか、冷たい目線を『果実が』向けてきた。 「実が在るっていうのに……鳥も、虫も寄ってこない。これが毒だって言う証拠なのね」 朱里はため息を吐いた。吐きながらも、果実を一つ切り落とした。 「食べても、良いんですよ?」 ちらりと、枯華は無数の錠剤が詰まった小瓶を取り出した。 「……その薬、なんの薬?」 「チューベローズ(危険な快楽)を枯らす薬……なんて、ね。クスクス」 ● 「皆さん、こんにちは。今回は異界の植物を根こそぎ破壊してください」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を見渡してから言った。 三尋木のフィクサードが育てている花が、とても危険なものだと言う。 名は『エデンの巨花』。その名の通りに大きすぎる花である。 「この花を育てるのに水も、太陽光も不必要。 要るのは生き血と、健康的な肉体です。あと……土さえあれば申し分ないです」 残念だが、その植物には既に八人の一般人が肥料という名の贄にされている。贄にされた一般人は花と一体化し、栄養を最後の一滴まで吸い付くされる激痛に苛まれながら骨に成る時を待つのみ。 更にその花が生み出す実は、口に含めばどんな麻薬よりも快感が得られるのだと言う。 「異界の植物は所詮、私たちの世界では毒ということなのですね。 あの……解っていると思いますが、食べたら駄目ですよ。廃人に成りますからね? それで、この実を中毒者とか……そういう売買を行うフィクサードによって大金で取引されている情報もあります。 世に危害が出る神秘は駆逐するのみです。お願い、できますか……?」 花は広範囲に根を張っている。それを破壊する――否、枯らすには。 「核である一番多きな花を燃やす事ですね。そうすればすぐにでも……昔から言いますよね、草タイプは火タイプに弱いって!」 「植物を育てているのは三尋木のフィクサードは『黒葉 枯華』と言います。 元は黄泉ヶ辻だったみたいです。異界の植物を育て上げる腕を買われて、今は三尋木の金の成る木状態ですね」 種族特融の速度を生かしたソードミラージュであり、異界の植物と心を交わす事を生き甲斐としているという。故に、彼女の許可無く植物に害するのであれば、怒り狂うに違い無い。 「敵は他にも居ます。 そのフィールドに植えられた植物全てが、彼女の持つ『如雨露型アーティファクト』の支配下に有るので、攻撃して来るかと思われます。つまり……エデンの巨花と一体化した一般人達も、です。早急に眠らせるしか、救う道は無いかと思われます。 実力はどれもフェーズ1程度のエリューションや、ノーフェイスだ。殺そうと思えばすぐにでも可能だろう。 「あと……不運にも、実を回収しに来た朱里が居ます」 朱里――三尋木の紅い男『Crimson magician』の実娘。親の遺伝か、並外れた馬鹿力を持つ少女である。 「彼女は……彼女の親の『おつかい』の最中です……ので、やる事さえ終えれば早々に退散するかと思います。去年、アークのリベリスタさんが朱里さんにトラウマを作ったみたいなので」 最後にと、杏里は一つの説明文を付け加えた。 「枯華は逆鱗に触れるまで仕掛けて来ないです。友達でもある植物の中で、争いはしない……のでしょうね。上手く逆手にとってみると良いかと思いますよ。 では、宜しくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鳥兜:人嫌い、敵意 「ごきげんよう。アークよ、三尋木のフィクサード」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の足は一面の緑の上。白き翼を広げ、太陽の光を背に従わせる。 ティーカップを見つめ、微動だにしない『Black Garden』黒葉枯華はただ、笑っていた。まだ、振れない逆鱗から怒りは溢れない。ただその横で実を狩っていた少女――朱里は「ひっ」と言いながら一歩……二歩三歩と、後ろに引いた。 見逃さない、青眼。びくりと目を逸らした、赤眼。 「貴女、私の玩具を片目にしてくれた男の娘ですってね?」 「あ……あいつの腕、取ったからよ……」 力の無い反抗的態度。朱里は脅えていた。氷璃の前方に立つ男――『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)に。 「また会ったな。その果実を持ってさっさと帰れ」 ゲルトが指を指した、人の頭部の形をした奇抜な果実。地面に転がったそれたちを拾い始める朱里は、まるで札束に群がる亡者を思い浮かべる様だ。 それをどう使うかは、さておき。年増の悪あがきに使うなら、いくらでも持っていきなさいとため息交じりに吐いた氷璃だった。 片腕を天高くあげ、明るく元気。『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は、そのまま朱里に、仲良さげに手を振った。 撤退してくれるのだろうかと、首を傾げたルーメリア。ちゃんと果実というお土産は持たせた。朱里が毎回、任務に失敗して父親の過激な愛を受けさせるのも可哀想だから。 さっと隠した朱里の腕。それをルーメリアは見逃さない。白い肌に点々と残る切り傷の線。 はたして言葉のとおりに撤退をしてくれるのだろうか? 朱里は解っていた。リベリスタの目的を。 『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は呟く。 「撤退するなら撤退しろ、今回の目的はあんたじゃない……残りたいのなら止めはしないがな」 やっぱり。 朱里の予想は確信に変わった。リベリスタの目的は、この実の大元の植物だ。 ならば『撤退』。それはできないと朱里は顔を振る。 「なら……飛び火してもしらないぞ」 「そっちこそ。私を子供だと……思わないでよね!」 構えた黄泉路に、朱里は腕の中の実を全て地に落とした。そして枯華の真ん前にあった白い椅子を掴み、持ち上げる。その手は震えていたように黄泉路には見えたけど。 「小生、君の事が好きになりそうだよ。今度ゆっくり遊ぼうね」 『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)はくすくす笑う――朱里を見て笑う。 なんてちっぽけな存在か、朱里お嬢ちゃん。 けれど、心奥にはとても強いものを飼っている――見抜いた、いりすは舌なめずりしながらリッパーズエッジを取り出した。 「おっといけない」 だが、今回喰うのは彼女じゃない。もう一人の、すかした態度の彼女。 「……私、サオトメバナ(人嫌い)なの」 そう言って此方さえ見ない、彼女。 ●彼岸の花 足を止め、状況を窺ういりすを置いて『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は魔力銃を肥料へと向けた。 「ハローハロー。ちょいと華の鑑賞にやってきたわよ」 ガァン!と鳴り響いた銃声。同時に「いだあああ」と叫んだ肥料だが、気にしていられない。あえて聞こえないフリをしながら雅はまたトリガーを引く。 それでも枯華は紅茶をすする。膝に置いた如雨露を一撫でしながら。 それに釣られて動く、肥料達。正確には動かされているのであるのだが。 ブロックから漏れた肥料が、雅に纏わりついた。肥料の一部にされるのかと、絡んだ枝茎が彼女を縛った。 「……っ!! 邪魔!!」 「そういうプレイみたいに見えるよ、いいね」 「良くない!!」 くすくす笑ういりす。もう少し雅が呪縛されている姿を眺めていたいけれど……。 「それは駄目だよね、ちゃんとやること、やらないとだよね」 漏れだす、暗黒の瘴気。己の内で飼いならした闇――!! それは肥料を包み、抱く。聖母には遠い抱擁だが。 「ちょっと?! こっちは!?」 暗黒は朱里を大きく避けた。どうして狙われないのだ。朱里は椅子を持ち上げたまま思う。 舐められているのか、生かされているのか、壊す者(フィクサード)が、護る者(リベリスタ)に!! はたして、その心は。 「今は、まだその時じゃないからね」 いりすの返事に朱里の顔は怒りに膨れる。だって、だって、私だって『敵』なのだから。 「攻撃してきなさいよ!? Crimson Magicianの娘だよ!?」 とんっ。 静かに、光に輝く矢が朱里の右肩を射抜いた。そう、これだ、この痛さ――戦闘!! 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の矢だった。そして彼は唇を噛みしめた。こうなると解ってきたつもりだが――今こそ彼等(肥料)を線引いた此岸の先に送り込む時。 踏んだ花が、抵抗するのだと蔦を足に刺してきた。今はその痛みさえ、感じない程に集中している。 「死体の血を吸った桜は真っ赤は花が咲くといいますが」 肥料の命を吸ったエデンは一体どれほど赤く染まるのか。 白き弾丸ならぬ、白き光を纏った矢を放つ――それが肥料を捉え、走ってきた朱里の、今度は胸を射抜き、枯華の頬を掠っていった。 雅は枯華の行動を観察する。例え七海の矢が掠っても怒る事は無い彼女の姿。まるで人形の様だとも思えた。 「なにこれ、綺麗な花と思ったら逆だった」 お花畑。 綺麗なものだって概念があるからその通りと思えば、汚い汚い。 面倒だと、さっさと帰ってカレーを食べながら寝たいくらい。『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)は淀んだ目で歩く。 「帰る」 やっぱり帰ろう。痛いのも嫌だし。なんか草が足を切りつけてくるし、まあ回復するから痛くも無いけど。 くるり。 「ちょっとまってー!? 後でルメがカレー奢るよ! いつものね!?」 小梢がエスケープを決めかけていた所でルーメリアのブロックに阻まれた。 だがルーメリアの口から出た『カレー』の言葉に釣られて小梢の眼が光り出す。 「しょ、しょーがいないなー、いい? カレーのためだからね? 言っとくけど」 そういえば前、重傷を負ったルーメリアが相手にしていたのも三尋木だった。今も三尋木。 これは、彼女を護らない訳にはいかない。99%のカレーと、0.8%くらいのルーメリアを傷つけさせない気合と、0.2%くらいの気まぐれで小梢は戦場に返り咲く。 「親父のお気に入り!!」 『父』がいなくて良かった。 彼女がCrimsom Magicianの目の前で死にかけていたら、彼はきっと守るのだろう。気まぐれのフィクサードだ。 乾いた笑いが朱里から零れた。嫉妬か? これでも自分の親だから。愛されていたいから。 振り上げられた金属製の白い椅子。それが狙うのはルーメリアだ。 「カレーのために、あ、邪魔なのはそっち」 振り落とされた椅子、小梢はそれを頭で受けた。硬いのは椅子か、小梢か。 額からたらりと流れた血はほんの少し。朱里はぎょっとして一歩引いた。 小梢の防御力。対して朱里の攻撃力。上まったのは朱里の威力だが、小梢の体力的にはさほど痛くない程度しか通らない。 「嘘でしょ……」 ルーメリアは狙えない。そう確信した。 氷璃の詠唱は早い――毎秒、止まらない葬送の鎖。肥料達を貫き、穿ち、悲鳴が鼓膜を刺激する。更には重なる、七海の迷いのない矢。その二つが効率よく肥料の体力を削る。 ある意味そのエデンは地獄であった。生きながら苦痛に溺れ、死ぬその瞬間まで激痛に支配される。 動いている肥料の中で、一体が断末魔の叫びをあげた。心臓の丁度前辺りに咲いた薔薇の様な花が燃えるように赤く染まり始める。 終わりの絶望を力と変え。 七海は横を見る。 氷璃とゲルトが同時に頷いた。 「アレですね」 「そうね、最期の一輪ね。ゲルト、任せたわ」 「ああ」 宙を舞う彼女の前にゲルトが立った。今はまだ過激な砲台を護るために、その方が早く肥料が駆逐されるはずだから。 ゲルトは衝撃に備えた。 見れば、肥料の……おそらく口から。図太い触手の様な枝が高速で伸び、ゲルト、七海の身体に大穴を開ける。ただ、穴は一つでは無い。 「予想はしてましたが」 七海はため息を吐いた。それより体が軋む。 ほぼ平等に葬送曲と矢で敵の体力を削ったため、最期の一輪の発動が偶然にも重なったのだ。 「命を吸った花は……まあまあね」 ゲルトの背後から、血鎖が「反撃よ」と飛び出し――そして再び肥料を貫く。 「スパルタですねぇ」 再び溜息をした七海は、身体に刺さる枝を抜きながら攻撃せんと構える。 見たくない、苦しみ喘ぐ姿なんて。ずきんと、七海の心が軋んだ。 結果的に肥料はほぼ、氷璃と七海が倒してしまっていた。 鎖に倒れた小さい身体の肥料が居た。纏わりついた草の奥から少年の瞳が、氷璃には見える。 「天使……さ、ま……?」 そう少年が言ったように聞こえた。そしてその眼は永久の眠りに瞑る――。 「……ほど遠いわ」 それでも、今は。眠るときくらいは静かに。 そして残るは、今消えた少年の母たる肥料。 「死が救いとなるのなら、死神らしく、その望みを叶えよう」 伊達に神探の死神をやっていない。 いりすと同じく、暗黒の瘴気を肥料へ投げた。鎖に絡んだ肥料へ、エデンからの解放を願って――。 ●そして花は散る 雅を始めとしたリベリスタの逆鱗の予想は当たっていた。だからこそ、例え矢が胸を射抜こうが、頬を掠ろうが、彼女のお茶会は止まらない。 「さて、本題に入りましょうか。黒葉枯華」 次はおまえだと氷璃は言う。 その横で、ルーメリアは拳を固く握った。 肥料は駆逐した、その数八体。いや、八人だ。八人の命を消去した。 それを無駄にしないためにもできることは無いのかと、ルーメリアの瞳が光る。 瞬時――叫び声と真っ赤な炎。 「あっ!?」 ひしゃげた椅子を抱えた朱里は振り返った。実を燃やされてたまるかと走ったが止まる。だって――。 「きゃぁあああああああ!!!」 思わず朱里は耳を塞いだ。枯華が怒った所を見た事が無かったが、こうなったら手が着けられない。 朱里の横、七海の矢が数本駆け抜けていく。 それは実と茎とを分かち、朱里の足下に実は転がる。 「持って行け」とでも言うのか。七海は即座に炎の矢を作り出す――つまり、燃やし尽くす時間が迫っていると言う事。 椅子を投げ飛ばし、朱里は落ちた実を拾った。スカートいっぱいに実を詰めた所で、ゲルトの声がした。 「行くのか?」 「……帰るよ!! 笑いなさいよ、こ、怖いし、ね」 そうか、と。発狂を始めた三尋木――否、今は黄泉ヶ辻成分多めであろう彼女を目の端に置き。 「そういえば一つ聞いておきたい。お前はクリムに望んで従ってるのか?」 「主従? 違う、私はあいつの娘だもん!!」 親の背を見て育ったから、親の生き方しか知らないから――主従なんて陳腐なものでは無い。 愛されたいが故の犯行。彼が首領しか見てなくても、ルーメリアを慕っていても。何処かで彼の愛を感じるから。それを裏切らないために彼女は手を染める、彼の好きな紅に。永遠に彼と過ごすために。 朱里の背中に、いりすの手が当てられた。いつの間にそんな近くに寄られたのだろう。見えたのは『彼岸花』。 「彼岸花の花言葉は『再会』。またね」 「そう、今此処ではピッタリだね。彼岸桜の花言葉を教えてあげる。『私を忘れないで』だよ」 約束を交わした。いつ、会えるかは運命のみぞ知るが。そしていりすは、朱里の背中を押した。おいき、と言葉と共に。 そこで、七海は矢を解放する。真っ赤な軌跡は巨花を射止めた。 燃え上がる花、にやりと笑う七海の口。 そして泣きながら炎の奥に消えていく少女――リベリスタは誰一人追わなかった。 それよりも、だ。 「耳が痛い耳が痛い耳が痛い!! 痛いってええええ熱いって助けてって私に言うのおおおおおお!!」 こいつをどうにかしなければ。 「おーおー、本性見たりって所か?」 黄泉路はさっきまで優雅だった姿を思い出して苦笑する。しかし、瞬時。彼女が椅子から姿を消した。 「おお」 あまりの速さにいりすが声を出した。遥か、いりすを上回る速度で――。 「おいおい、早す……ッ!!?」 ――言葉半ばで、首が半分程切れた。 弾丸の様に飛んできた枯華は、炎を放った氷璃に飛び込んできた。だが、その手前で、ギリギリで、ゲルトが氷璃を押して攻撃を代わりに受け止めたのだ。 「だらぁ!! てめぇざっけんなよコラァ!! 草木のちっぽけな命くれぇ大事にしろァゴラァ!!!」 「人格変わりすぎ!? その言葉、そっくりそのまま返すわよ!!」 雅が銃を向け、放つ。だが再びその姿が残像を置いて消えた。 人ってここまで裏表はっきりしていると楽そうだ。 うんうんと首を動かしている七海は狙いを再び花に定めた。 怒るというのは、周りが見えなくなる事もあるという。だからこそ枯華は気づかない。 目標『前方』火刑執行。 力を入れるその矢。燃える先端はエデンの全てを終わらせる灯。 ●摘み取られたのはどちらか 「ンダラァ!! この三下共がァ!!」 「その三下にしてやられる気分はどうだ」 積極的に花を燃やしにかかる氷璃に向かいたい枯華。だがその目の前にはゲルトが邪魔をする。 「きさん! 舐めくさんじゃねっぞ!」 振り上げた、先の鋭い如雨露を掲げ。ゲルトの眼に見えたのは枯華の群れ。 複数の枯華が如雨露を剣の様に振り回し、その身体を切り刻む。それを魔力盾である程度抑えながら、指で陣を刻んだ十字。 ――普通なら、混乱していたはずだった。そのナイフは大きな確率で仲間に当たるはず、だった。 「そこに居るんだろ?」 「あぁ!?」 光の十字は枯華の片口に切り刻まれる。そう、彼に精神攻撃なんぞ無駄だ。だが多重幻影の光に対策があるのは彼だけだ。雅、黄泉路はその刃と弾丸を仲間に向けてしまっている。 その仲間の攻撃を受けた小梢の後ろで、ルーメリアは回復に専念した。 「ルメも、花は好き」 ピクリ、ルーメリアの言葉に枯華は動く。 「だぁらなんだってんだよ!!」 「でも、同じくらい人も好き!! だってどちらも綺麗だもん!!」 簡単に手折っては駄目だと、上位の神を従わせて仲間を護る彼女こそ、このチームの要。 削れる精神をクロスに託し――。 「他の花を枯らす悪い花はルメが引っこ抜いてやるの、覚悟してね!」 溢れる光が黄泉路と雅の心に届く。目の前の傷ついた小梢が敵はあっちねと指を指し。 「友達想いなのは結構だがよ、テメエ人間の友達はいねぇのか?」 「ぁあ!? いらねえよ!!」 「トリカブトだか何だか知らねえが! テメエは人間なんだから、人間嫌ってたら生きていけねぇぜ」 どうしてそうなったのだと、雅は銃を連射しながら枯華に問う。その弾丸、綺麗に避けていく枯華。 届かないのか――と思われたものの。 「う、うる、さい……!!!」 回答1:枯華はぼっち。 「その反応が全て語ってんじゃねぇかよ!!」 「うるさいうるさい、心に入ってくるんじゃねぇ!!」 枯華は雅の懐に飛び込む。ナイフの代わりに刺されたのはスノードロップ(貴女の死が見てみたい)だ。 「そんな……口喧嘩してる暇、あんのか?」 暗黒の瘴気が迸る、花に枯華に。だがそれで黄泉路は止まらなかった。 輪廻を持ち替え、刀とし、そのまま痛みを力と変えて。 「気づけ、大切なものが壊れている事を」 黄泉路がぼそりと言う。 死神らしく、引導か。刀は枯華の右肩を叩き、半回転させ。はっと、気づかされた――。 「あ、あああ」 背後のアレが熱く――。 「ああああ、あああ!」 「あーはっはっはっは!!! 燃えろ燃えろ!!!」 叫ぶ枯華。その前方、笑う七海の悪人顔。 「誰かのせいで身体が痛いわ」 煌々、燃える火の海。その深海の中心こそ、エデンの巨花!! 勿論リベリスタ八人相手に枯華一人では、戦闘がワンサイドゲームになるのは決まりきっていて。 ぼっちの一人遊びもそろそろ終わりねと、氷璃は冷え切った瞳で枯華を見た。 「お嬢さんに興味が無いわけではないのだけど。浮気はよくない」 一つの、好みの原石を見つけたいりすは上機嫌に言う。炎の海の中に向かって跳躍せし脚――そして伸ばし、煌めいたのは禍々しき刃。 「彼岸花の花言葉には、思うはあなた一人ってのもあるからね」 黒髪に栄える彼岸花は、エデンの花を刈り取る力。 「い、いああ、いやあ!!!」 枯華の叫びはまるで、巨花の叫びの様にも聞こえた。 「はい、隙あり」 冷たい目線で枯華を見ていた氷璃は、高速で黒き陣を紡ぐ。金髪の生意気な少女が生きるために編み出した技――堕天落しを。 その閃光を、枯華に不意打ちが如く貫いたのは言うまでもない。 逃がさないと、残るはお前一人だと、ゲルトは枯華に寄った。石化している足、やるなら今がチャンスだろう。 「いやぁぁ、私、あ、あの花が無いとぉぉ」 腰を抜かし、地面を這うそれを見下しながら、ゲルトは彼女のスカートを踏んだ。そして。 「逃げ道、無いわよ」 ぶち倒すという意思は変わらない。雅の銃口が枯華の額にあてられる。 「は、はは……」 「スノードロップ、返すわ」 「そ、そう……なら貴女は私の毒人参(命取り)」 1………2、3……4、567891011121314……とエデンに鳴り響いたのは、強気な銃声だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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