● 世界は閑散としている。 街中で在りながら人や物の気配は無く、残っているのは建物と、頼りなく佇む街灯だけ。 「……ああ、もう」 それを見ている少女が居た。 恐らくは十五にも満たぬであろう彼女は、ラフな服装に長い髪を結った姿で、静寂の世界を見つめている。 そう、世界はあくまでも静かだ。 ――自分の背後に居る、無辜なる子供たちの泣き声を除けば。 「やっぱり苦手ですか? こういうのは」 「任務だもん。従わなきゃならないのは確かだけど……ま、慣れないわね。やっぱ」 「こうでもしなきゃ奴さんらは引っかからないとはいえ……苦しいところですね」 子供たちを監視する役の部下は、ぶっきらぼうに声を返す少女に対して、少しばかり苦い笑みを浮かべる。 眼前の彼女を慮ってのことだった。 「蝮原のオジサンや、九条に千堂さん。『砂潜りの蛇』まで動いていれば、私たち下っ端に指令の拒否権は無いしね。……ちょっとばかし、残念だけど」 此処で彼女が言う『残念』の原因は、正確には子供達を捕らえるという行為に対してではない。 裏組織の中でも名のある人間達。彼らの戦いぶりを実際に見れば、尚且つ、此方の戦いぶりを見せることが出来れば、自身の実力に磨きをかけるだけではない。彼らの直属としてより出世できる可能性もあったかもしれないのに――と言う意味を込めての台詞だった。 そこまで考えていたところで、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。 「『迎え』ですかね」 「でしょうね。んじゃ、行きましょうか」 部下に、子供たちを移動させるように指示したのち、彼女は最後に、ぽつりと独り言を漏らす。 「――経過は良好。後はこっちの餌に引っかかってくれれば、って所だけどね」 精々派手に呼び込みましょうか。そう言って、少女は軽く腕を伸ばした。 ● 「大まかな状況は解ってる?」 前置きもなく問うた『リンク・カレイド』真白イヴの言葉に、リベリスタ達は頷いた。 『相模の蝮』――蝮原咬兵率いるフィクサード勢の二度目の蜂起。 既にアーク内部はこれに対する動きに追われており、特にアーク内での予知、依頼説明の殆どを担当するイヴと、もう一人のフォーチュナの苛烈さたるや、こうして眼前にするだけでも想像を絶する。 隠しきれぬ若干の疲労を無理に抑えながら、彼女は早速の説明に入った。 「内容は前と同じ、フィクサード勢の討伐、ないし拘束。だけど今回は今までのような生半可な攻勢ではなく、確実に此方を倒しに向かってきている。注意が必要」 「数は?」 「五人。彼らは何処からか捕まえてきた子供たちを何台かの車に分けて乗せ、市街地での逃走を続けている。……ただ、彼らは貴方たちが現れたとしても、車を止めるつもりは無い」 「何?」 「つまり、今回の戦闘はカーチェイス……みたいなものになると思う。車を走らせながらの戦闘になる、と言うわけ」 その言葉に、露骨に顔をしかめるリベリスタ達である。 何がと聞くまでもない。仮にも可能性の話にはなるが、彼らが不利な戦いを強いられることは殆どコレでほぼ決定的と言えるからだ。 「当然、向こうは車の上に乗った状態でも、姿勢制御を完璧に行える訓練をしてある。装備も遠近両方を所持しているしね。対して貴方達は、それなりに厳しい戦闘を強いられるはず」 「……だろうな」 不利な戦闘、確定である。 動く車体の上に立って戦闘を行えば、前方からの風に身体を崩しかねないし、かと言って車内から攻撃を行おうものなら、狭いスペースで動くことは殆ど適わない上、仮に避けたところで流れ弾が車内を貫くことは目に見えている。当たり所が悪ければそのまま爆発炎上だ。 「……車のタイヤをパンクさせたり、運転手を倒すことは?」 「どちらも、結果的に事故の可能性がかなり高いし……彼らは其処まで甘くない。 此方の足が止められるようなことがあれば、容赦なく車内の子供達を殺しにかかると思う」 可能な限り減らすようにはしていても、必要な犠牲に対しては一切の躊躇はしない。 『相模の蝮』の行動理念は、このフィクサード達にも共通しているようだった。 「話を戻すよ。彼らは全員、此方の知らないスキルを使ってくる相手。 人数は、片方の車に三人、片方の車にリーダー格の女の子を含めた二人。実力については、言うまでもないよね?」 頷くリベリスタ達。 特に今回は、以前のように簡単に倒すことは出来ないとも言われたのだ。準備や作戦は入念に練らなければならない。 「……しかし、これって」 言いかけたリベリスタの一人の言葉を、イヴが頷いた後に引き継いだ。 「言いたいことは解る。確かに戦術的に厄介に思える作戦だけど、この作戦の本質は恐らく、時間稼ぎ。私たちアークの人間を可能な限り此方に惹きつけておくような意図が伺える」 それは一体――と聞くのは、予知能力者の彼女が答えを用意していない以上、必要ないことだ。 せめて、今は自分たちに出来る限りのことを。 そう決めて、リベリスタ達はそれぞれブリーフィングルームを退室していった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ももんが、ももんが、もっもんが、もも、もも、もも、もも、もっもんが♪」 これより戦闘を行うとは思えぬ陽気な歌を歌う『ライアーディーヴァ』襲・ティト(BNE001913)に、リベリスタ達は思わず苦笑する。 彼らが乗るのは、アークが支給したトラック。ティトを運転席に置いて、残る者達は既に展開された荷台の上に位置し、敵方の車が見えるまで待機している。 「まるで映画にでも出てくる派手な事件のようじゃのう」 「まあ、釣り餌以外は趣向を凝らした見事な陽動だな」 『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)と『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は、互いに敵が用意した戦場に対して疲れたような意見を述べつつも、瞳に宿る光を衰えさせることはない。 或いは敵にも情を持ちて。或いは唯与えられた任務をこなすのみ。有情と無情、しかしその方向性が勝利へと一致している以上、何ら語る必要はない。 ――対し、 「たとえ誘き出されてるってわかっていても、やらなければならないことがあるわよね」 攫われた子供達の救済。それを決意に変えて武器を握る者もいる。 『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)を始めとした、およそ半数に至るリベリスタ達がそうである。中でも『灼焉の紅嵐』神狩 煌(BNE001300)は年相応に精神が純粋であるためか、『人質を取って戦う卑怯者』に対する義憤は他の想像を遙かに超える。 「いくら任務といっても無関係な、しかも小さな子供を巻き込むのは許せねえ!」 感情は力になる。陳腐な格言ではあるが、しかしそれを体現するかのように、彼女の武器は彼女の意志に応じ、紅く、朱く燃える。 「前途有る子供達を危険な目に合わせてしまっているのが私達ならば、君達を救う事が私達の使命だ」 煌の言葉に応じる『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)もまた武器を構え、敵との交戦を予期して準備する。 彼我の距離は、もはやあと僅かで武器の射程に至ろうという者まで居るほど。 リベリスタと同様に、敵も既に準備は整えている。彼らは武器を手にしてリベリスタ達に狙いを付け、何時でも発砲できるように構えている。 ――膠着。 ――膠着。 ――膠着。 ――動いた。 「それじゃ、始めましょうか……!」 ● フィクサードの少女が叫ぶと共に、銃弾の雨が彼らを襲う。 弾をかすめた何人かの身体に、薄い赤の線が走るが、それを気にする余裕など当然ない。 同時に、卯月も聖遺物を媒体に光を宿し、それを翳すと共に仲間全員に拡散される。 <翼の加護>と呼ばれるそれは、今先ほどまで風に足を取られていたリベリスタに、不可視の羽を与え、その姿勢を安定させた。 「これで条件は五分……いや、空を飛べる分こちらが有利かな」 「厄介なの持ってるなあ、ヘルメット君」 口にする間も、状況は動く。 接近までの少ない時間で、卯月同様強化能力をかけ終えたリベリスタ達は、双方の車が接近すると共に、その殆どが即座に飛び移った。 移らぬのは、後衛役である沙由理と煌、『のらりくらりと適当に』三上 伸之(BNE001089)の三人のみ。 「俺の相手、いいっすかね?」 彼らが行ったのは――飛び移った事で隙を生じた仲間達のバックアップ。 動きの無い敵より、飛びかかってきた敵に気を取られた部下の一人が、ものの見事に正義の砲撃の餌食となる。 ダメージも軽くはないくせに、当の部下は自身の事すら忘れて、激昂を抑えきれぬまま彼へと銃を向けた。 「……全く、面倒なことやってくれるわね」 「当然だ。私たちも君たちを見過ごすつもりはない」 返す言葉は『夜波図書館の司書』ハイデ・黒江・ハイト(BNE000471)のもの。 投擲用の武器故の軽量さを使いこなし、怒り狂う部下に白刃の嵐を叩き込む彼女の目には、何時も以上の厳しさが宿っている。 「最近おぬし等とはよく会うのう?」 それとは反し、まるで世間話のように語りかけるのは、双つの戦輪を繰る金髪の少女。 部下は日頃見ない武器に翻弄される部分があるものの、それを上手くかいくぐりつつ、アルカナに攻撃するため、武器を格闘用のそれへと変更する。 「まあ、そうね。お陰で貴方みたいな実力者とカチ合って面倒極まりないのよ。アルカナ・ネーティア」 不意に名を呼ばれたことで動きが止まったアルカナに、少女は容赦なく拳銃の弾丸を叩き込む。 全てを回避――とはいかなかったものの、受けたダメージは予想よりも少ない。 舌打ちする少女ではあるが、その心境は彼女だけではない。 戦力を集中された、フィクサードの少女の前方に在る車。 其方にいる部下達も、予想以上に、リベリスタ達へ攻撃を当てることが出来ないでいる。 「あー……やっぱり難しいわね」 リベリスタ達は知るよしもないが――元より車上の戦闘という不利な条件を彼女が設定した理由は、そうでもしないと数の差を覆せないことが理由である。 それをこうもあっさりと克服されたのでは、フィクサード側の苦戦は目に見えていた。 尚かつ、その数の有利によって空いた隙を縫い、卯月が『子供達の救出』と言う行動に費やすことで、フィクサードの車内の子供達は少しずつ失われている。 かと言って、それを今更悔いても何が変わるわけでも無し。 「……スマンが早々に落ちてくれ、時間の無駄だ」 交わった武器は幾度目か。美散が膂力を込めて叩きつけた剣により、最も傷が深かったフィクサードが一人倒れた。 「っと。向こうがやられちゃったか」 しかし、少女はそんな軽さで一言を呟くのみ。 「いい加減にあきらめたらいかが? 白旗あげれば命まで取らないわよ」 無駄とは知りつつも、問わずにはいられない沙由理は、一応の問いをかける。 「余裕だなあ、美少女さん」 対する少女はそう言い、沙由理達の『宙に浮いた』足元を見て――クスリと笑う。 「フィクサード勢だって、一枚岩じゃないにしろ最低限の情報共有はする。 君たちの能力も、ある程度は解ってるつもりだよ?」 「……?」 意図が見えぬ問いに、彼女以外のリベリスタ達も疑問を抱く。 が、その答えは、次の叫びで瞬時に氷解した。 「全員、前に出てきてるヘルメット君に集中攻撃! 後のことは忘れて全力でぶっ放しなさい! その後、敵さん達の空中浮遊が解けるまで防御体勢!」 「「「!?」」」 予想だにせぬ戦法にリベリスタ達が驚愕する。 トラックが近づくと同時に、卯月がリベリスタ達に<翼の加護>を与えたことを、少女は確かに見ていたのだ。 「しかし嬢さん、それは……」 「他の敵さんに同様の能力持ちが居ないとは限らないけど……仕方ないでしょ? この人達、私たちが思っていた以上に強いし。ちょっとは賭けなきゃ勝てるどころか、逃げられる気すらしないのよ」 「……否定はできませんな」 生き残っている中年のフィクサードがやれやれと言った様子で、所持するナイフを卯月に向け、構える。 他のフィクサードも同様にした後――少女自身も、卯月が居る側の車両に銃を向けた。 「じゃ、第二ラウンドと行きましょうか?」 ● 端的に言ってしまえば、卯月が前に出るという行動は裏目に出た、と言うことだ。 本来後衛の人間である上、全員に飛行効果を付与すると言う、この戦場に於いては尤も重要であるキーパーソンがわざわざ敵の前に姿を晒すのは、ハッキリ言って有利である面が殆ど無い。 <翼の加護>の持続時間はおよそ二分。そこまでをフィクサード達が知っているかは解らないが……それでも。 「一人を倒して、待ってれば天秤はこっちに傾く。楽な仕事だと思わない?」 「……逆に、引きこもりの私には、この運動は少々酷だね」 時間は更に流れる。 受けた弾丸と短剣は既に片手の数を超え、肉体は運命の助け無しには立っていられない状態。 重傷。そう言って間違いないだろう。それを卯月自身解っていながらも、しかし今更退いたところで遅いことは解っている。 だから、せめて。せめて、未だ敵の車内で震える子供達に手を差し伸べ、彼らをトラックへ導こうとする。 そして、それが――致命的な隙となるのだ。 元より車上という狭いスペースで、更に五人以上が入り乱れての乱戦中の行動である。具体性を欠いた卯月の『救出策』は時間と共に効率の悪さを露呈、同時にそれは敵へ隙を見せることにつながる。 少女が放った銃弾が脇腹を貫通すると、気力で保っていた肉体は遂にくず折れた。 「卯月さん!」 叫ぶハイデではあるが、その暇も惜しいことは最早誰もが知っている。 敵が卯月に集中攻撃を行う間、当然リベリスタ側も敵に猛攻を仕掛け、その間に部下の一人を倒し、もう一人も体力を限界にまで近づかせている。 ――だが、それは逆を言えば、「まだ」半分を倒したに過ぎないと言うこと。 その上、敵はこれから防御の姿勢に入る。その防御力を貫き、なおかつ<翼の加護>が切れる残り短い時間までに、相手を倒しうるかは、かなり怪しい。 「無理にでも止めてみせるわ。さぁ、覚悟なさい……っ」 こうなれば、最早短期間の総力戦となる。 車上では構える部下に戦輪の舞を魅せ、その鋭さを味わわせつつも、アルカナは苦い顔で言う。 「もう少し、スマートな方法がよかったのじゃがの」 「同感っすね」 ふうと息をつきつつ、伸之も同様に応える。 敵の防御を貫くために最大火力を叩き込みっぱなしと言うのは、確かに優雅さには欠けるが――かと言って流儀を重んじて負けるようでは話にもならない。 気糸の網、幾条もの銀光、乱れ飛ぶ大気の刃、剣は闘気を纏って敵を切り裂き、それと同時に敵の身体からも鮮血が舞う。 だが――倒せない。 一番の原因と言えるものが、今まで全くダメージを受けていなかった少女が部下側の車に乗り移り、一度倒れかけている部下を庇い続けていることだった。 敵は知性のないエリューションと違い、フィクサードだ。リベリスタの狙いが部下への集中攻撃とわかり、なおかつ耐えることを必須とされる現状ならば、彼女がその身を挺してでも部下たちの数を減らさないことを念頭に動くことは当然と言える。 じりじりと続く戦況は、膠着状態を離れることなく。 ――そして、遂に。 「マズい、そろそろ――――っ!?」 言いかけた言葉が、急激に感じ始めた風の抵抗によってかき消される。 卯月にかけて貰っていた<翼の加護>が、その効力を失ったのだ。 強風と、揺れる車。安定性を失った戦場でリベリスタ達の行動は大きく制限され、 ――そして、それをフィクサードたちが見過ごすはずもなかった。 「敵さんで自由に動けるのは三人。うち、一人はトラック側に居る、か。先ずはその人達から叩きましょう」 「そう易々と……!」 ハイデが言い切る前に、彼女の瞳は妖艶な輝きを放ち、まるで蛇髪の怪物のようにその身を凍らせ、地に縫いつけた。 「……<テラーテロール>」 動きの鈍った彼女に対し、立て続けに部下のナイフがその首筋を狙う。 致命打こそ避けたものの、かわしきれなかった斬撃は、彼女の鎖骨から下を深々とえぐっている。 「ハイデ君!」 運転席のティトが叫び、運転席からクロスを向けて癒しの涼風を起こすが、それも運転中では狙いを付けるのに時間がかかる上、敵方の集中攻撃には、彼女とアルカナの援護だけではどうしても抗しきることは出来ない。 戦略の要である卯月を堂々と敵に晒した挙げ句、次善の策も用意してなかったリベリスタにとって、これはどうあがいても覆しようのない『王手』であった。 そうしている内にも、やがてハイデは敵の集中攻撃により、徐々に体力を削り取られ――フェイトの加護も虚しく、その身を車上に横たえる。 「くそぉぉぉぉぉっ!」 煌が叫び、風の刃を今一度放つことで、瀕死の部下も漸く倒れたが……未だ敵方は二人を残しており、リベリスタ側も動けるのは二名。 そして、その練度が低いとは言っても……彼らが個々の実力においてリベリスタ達を上回っているのは、既にフォーチュナから伝えられていた事実。 「後は、二人」 倒れた仲間の事など忘れたかのように、少女と残る一人の部下は――その武器を、アルカナへと向ける。 ――ハイデと同様に彼女が倒れたのは、それからおよそ数十秒後のことだった。 ● 戦場は、未だ走る車上に在る。 敵の数は残り二名。対し、リベリスタ側は未だ半数を残しつつも――彼らが戦闘行動を行おうと、敵にどれほどの損害を与えられるかは目に見えている。 「……駄目ね。コレ」 しかし、フィクサードの少女はそう言った。 「動きじゃこっちが上でも、数の差が有りすぎる。私ももう一人も、其処の実力者さんを倒すまでに随分消耗しちゃったし。 ま、引き分けが精々と考えてたし、頃合いか。逃げさせて貰うわ」 「それを易々と許すと思うか?」 言葉を返したのは、片膝を着きながらも、どうにか剣を構える美散の姿。 他の仲間達も、行動が大きく制限されながら、その闘志が萎えることはまるで無い。 敵に組み付いてでも、止める。炯々とした瞳の中に潜む意志は、最早殺気という域すら超えていた。 そしてそれを直視する少女も、それを理解している。 最早戦場に於ける利はなく、敗北の気配も濃厚でありながら、命を賭けてまで他者を救おうとする『正義の味方』達の信念の深さを、この戦いで以て完全に把握した。 だからこそ。 「出来るわよ?」 「……」 「『正義の味方』さん達は、唯一人の犠牲すら許さない。ご立派な思想を逆手に取らせて貰えば、簡単にね。……『捨てなさい』!」 言って、少女は自身の真下……車内に向かって、大きな声をかける。 それと同時――運転席から、何やら小さな固まりが放られた。 「ッ!?」 一瞬の視認が、同時に網膜へと焼き付く。 捨てられたのは、人質である子供であった。 猛スピードで走る車から捨てられた子供は、何度か道路をバウンドした後――そのまま、ピクリとも動かなくなる。 「こっちを見逃せば、まあ流石に全員とは行かないけど、今この場にいる子供達の殆どは返してあげる。 見逃さないなら、こっちも死ぬまで戦闘を行うまでよ。その間に運転手が何をするかは、分かり切ってると思うけど」 「……!!」 憎悪で拳が震えながらも、リベリスタ達は理解していた。 本来子供達を助けるためのハイデ達が倒された現在、最早、残された選択肢の中で最善と呼べるものは――彼女の提案しか無いのだと。 ――その後。 敵の逃亡を許したリベリスタ達に残されていたのは、フィクサードが乗っていた車の片方だった。 車内には、残った人質の子供達が、二、三人を除いて乗せられていた。 ……救えた者に対する安堵と、救えなかった者に対する悔恨。 リベリスタ達が戦いの果てに得たものは、ただ、それだけしか無かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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